弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 債権者らの申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者らの負担とする。
       事実及び理由
第1 申立て
1 債権者日本プロ野球選手会(以下「債権者選手会」という。)が,別紙交渉事
項目録記載の事項について,債務者に対して団体交渉を求める地位にあることを仮
に定める。
2 債務者は,野球協約19条に定める特別委員会の議決を経ない限り,その実行
委員会及びオーナー会議において,株式会社大阪バファローズ(以下「バファロー
ズ」という。)とオリックス野球クラブ株式会社(以下「オリックス」という。)
の経営統合に伴う参加資格の統合を承認する議決をしてはならない。
 なお,以下においては,上記1にかかる申立てを本件申立て(1)といい,上記
2にかかる申立てを本件申立て(2)という。
第2 当事者の主張と争点
1 当事者の主張
 当事者が提出した主張書面のとおりであるので,これらを引用する。
 なお,本件申立て(2)にかかる債権者a,債権者b及び債権者c(以下これら
債権者3名をまとめて「債権者ら」という。)の主張の骨子は,別紙「主張の骨
子」記載のとおりである。
2 争点
(1) 本件申立て(1)について
① 債権者選手会と債務者とが,両者間における団体交渉の主体となり得るか。
② 別紙交渉事項目録記載の事項が義務的団体交渉事項(以下「義務的団交事項」
という。)に当たるか。
③ 著しい損害があるか。
(2) 本件申立て(2)について
① バファローズがオリックスに対してその営業を譲渡したことに伴って債務者へ
の参加資格を統合したことの承認を求める旨の両者の承認申請が特別委員会の審
議,議決事項に当たるか。
② 上記営業譲渡契約は有効か。また,これに伴って選手の解雇や転籍が行われた
場合,これらの解雇や転籍は有効か。
③ 著しい損害があるか。
第3 当裁判所の判断
1 本件申立て(1)について
(1) 一件記録によれば,債務者は,セントラル野球連盟及びその構成球団と,
パシフィック野球連盟及びその構成球団が,日本プロフェッショナル野球協約(以
下「野球協約」という。)を締結することにより,これらの団体及び法人を構成員
として組織されたものであること,債権者選手会は,債務者の構成員のいずれかの
球団と選手契約を締結する日本プロ野球選手及び一部の外国人プロ野球選手により
構成される労働組合であること,債権者選手会は,昭和59年7月21日に結成さ
れ,昭和60年9月30日,東京都労働委員会に労働組合資格審査請求を申し立
て,同年11月5日,同委員会より労働組合である旨の認定を受け,同月19日,
労働組合としての法人登記を行ったこと,債権者選手会と債務者は,平成16年3
月3日,両者間の都労委平成14年不第34号事件において,両者間で誠実に団体
交渉を行うためのルールを定めるとともに,外国人選手の出場登録枠の問題や,F
A資格取得要件を緩和する方向で協議することなどについて合意する内容の協定書
を作成し,同日以降は,このルールに従って,債権者選手会と債務者(具体的に
は,実行委員会から協議交渉権限を委任された協議交渉委員会)との間で,選手の
待遇に関すること等についての団体交渉を行ってきたことが認められる。
 そうすると,債権者選手会と債務者とが,両者間における団体交渉の主体となり
得ると認めることができる。
(2) 次に,別紙交渉事項目録記載の事項が義務的団交事項と認められるかどう
かについて検討する。
(ア) 義務的団交事項とは,構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団
体的労使関係の運営に関する事項であって,使用者に処分可能なものと解するのが
相当である。
(イ) ところで,一件記録によれば,パシフィック野球連盟の構成球団であるバ
ファローズがオリックスに対してその営業を譲渡し(以下「本件営業譲渡」とい
う。),これに伴って債務者への参加資格の統合(以下「本件統合」という。)を
する旨の合意をしたことが認められるところ,野球協約79条では,一球団が保有
できる選手の数が70名までと制限されており,合併等の場合にこれを80名に拡
大し,契約解除された選手を可能な限り救済する旨の条項(57条の2)があるこ
とを考慮しても,本件営業譲渡によって一球団が減少することとなれば,少なくと
も上記各球団に所属する選手の労働条件等に影響を及ぼすことは明らかである。
 そうすると,別紙交渉事項目録2記載の事項については,義務的団交事項に当た
ると認めることができる。
(ウ) しかしながら,別紙交渉事項目録1記載の事項は,本件営業譲渡及びこれ
に伴う本件統合の当否それ自体であって,もっぱら企業の経営に関する事項であ
る。
 しかも,債務者は,本件営業譲渡及びこれに伴う本件統合に関する契約の当事者
でもないのであって,債務者がこの契約自体について何らかの権限を有すると認め
ることもできない。
 そうすると,別紙交渉事項目録1記載の事項は,労働条件その他の待遇等に関す
る事項でも,債務者が処分可能なものでもないから,これを義務的団交事項に当た
ると認めることはできない。
(3) そこで,別紙交渉事項目録2記載の事項に関して,本件申立て(1)にか
かる仮処分をしなければ債権者選手会に著しい損害が生じるかどうかについて検討
する。
(ア) 一件記録によれば,平成16年6月21日に行われた実行委員会におい
て,バファローズとオリックスとが合併する方向で交渉することが了承されて以
降,平成16年7月5日,同月9日,同年8月23日の3回にわたって,債権者選
手会と両球団及び債務者との間で労使交渉が行われ,同月26日には,債権者選手
会と債務者との間で事務折衝が行われたこと,上記労使交渉の席では,もっぱら両
球団の合併の是非や合併延期の可否を巡る問題が協議され,主として両球団がこれ
に応対していたこと,3度目の労使交渉の際には,合併後の選手契約がどうなるか
についても協議がされ,上記事務折衝の際に,合併が成立した場合にバファローズ
とオリックスの選手が他球団にどのように配分されるかについての案を,債務者が
債権者選手会に提示したことが認められる。
 そうすると,債務者は,債権者選手会との間の団体交渉に応じており,少なくと
もこれを拒否しているというような状況にはない。
(イ) 債権者選手会は,債務者が誠実に団体交渉に応じているとはいえないと主
張するが,これまでに行われた労使交渉では,債務者が何らの権限をも有しておら
ず,具体的な事情をも把握していない両球団の合併の是非や合併延期の可否を巡る
問題がもっぱら協議され,主として上記両球団がこれに応対してきていたのである
から,これまでの債務者の対応に債権者選手会が不満を抱くような事情があったと
しても,やむを得ない面があったといわざるを得ない。
 しかも,3度目の労使交渉の際には,合併後の選手契約がどうなるかについても
協議がされ,上記事務折衝の際に,合併が成立した場合にバファローズとオリック
スの選手が他球団にどのように配分されるかについての案を,債務者が債権者選手
会に提示していることからすれば,本件営業譲渡に伴う選手の労働条件に関する労
使交渉についても,債務者がこれを拒否しているというような状況にはないのであ
って,これまでの債務者の対応に債権者選手会が不満を抱くような事情があったか
らといって,今後問題とされてくると思われる本件営業譲渡に伴う労働条件に関す
る労使交渉においても同様の対応が採られると見ることもできない。
(ウ) そうすると,現時点においては,別紙交渉事項目録2記載の事項に関し
て,本件申立て(1)にかかる仮処分をしなければ債権者選手会に著しい損害が生
じると認めることはできない。
(4) 以上によれば,債権者選手会の本件申立て(1)は理由がない。
2 本件申立て(2)について
(1) 一件記録によれば,バファローズとオリックスは,平成16年8月30
日,債務者の実行委員会及びオーナー会議に対し,本件統合についての承認を求め
る申請(以下「本件申請」という。)をし,同年9月6日には実行委員会が,同月
8日にはオーナー会議がそれぞれ開催され,本件申請についての審議及び議決がな
される予定であることが認められる。
(2) 債権者らが,いかなる被保全権利に基づいて,実行委員会及びオーナー会
議における本件申請に対する承認決議を差し止めるよう求めているのかについては
判然としない部分もあるが,まず,債権者らの主張に従って,本件申請が特別委員
会の審議,議決事項に当たるかどうかについて検討する。
 一件記録によれば,債務者は,その構成員である12球団の利害を調整しつつ共
存共栄を図るために,各種の公正なルールを定め,野球の試合の適正な運営を確保
し,野球の発展を図るという目的の下に設立されたと認められる。
 そして,野球協約33条は,「球団が他の球団と合併するときは,あらかじめ実
行委員会及びオーナー会議の承認を得なければならない」としており,この規定が
本件のような営業譲渡の場合にも適用があると解されるが,実行委員会の審議事項
について規定した同協約17条からも明らかなとおり,実行委員会及びオーナー会
議の審議は,営業譲渡に伴う参加資格の譲渡,地域権,球団呼称,専用球場の変更
等の事項について行われるものであり,結局のところ,このような変更を認めるこ
とによって,野球の試合及び債務者組織の運営が適正かつ円滑に行われなくなった
り,野球協約の目的を達することができなくなったりしないかといった観点から,
承認するか否かが判断されるすぎないものであって,一件記録によれば,本件にお
いても,このような趣旨で本件申請がされていると認められる。
 しかも,野球協約33条自体は,実行委員会及びオーナー会議の承認を要求する
のみであって,特別委員会の承認を要求してはいないし,営業譲渡等の理由による
参加資格の変更等について規定した同協約31条も特別委員会の承認を要求してい
ない。
 このような事情に加えて,野球協約19条が,特別委員会において議案を可決す
るには出席委員数(定足数は委員総数の4分の3)の4分の3以上の賛成を要件と
し,選手代表委員全員が反対すると議案の可決ができない仕組みとなっていること
をも考慮すれば,同協約19条が定める「選手契約に関係ある事項」とは,同協約
が選手契約に関して基本的かつ一般的に定める条項に直接関係ある事項を指し,営
業譲渡に伴って参加資格の統合を求めるというように,球団と選手との間の個別の
選手契約に間接的に影響があるすぎない事項は含まれないと解するのが相当であ
る。
 したがって,本件申請が,特別委員会の審議,議決事項に当たると認めることは
できない。
(3) そうすると,特別委員会の議決を経ることなく本件営業譲渡契約がなされ
たからといって,このことのみを理由として同契約が無効であると解することはで
きないし,仮に,今後バファローズとオリックスに所属する選手の解雇や転籍が行
われることがあったとしても,特別委員会の決議を経ていないことのみを理由とし
てそれらが無効であると解することもできない。
(4) 以上によれば,実行委員会及びオーナー会議における本件申請に対する承
認決議を差し止めることを肯定し得るような被保全権利についての疎明はないとい
うべきである。
(5) しかも,仮に,本件申請が実行委員会及びオーナー会議において承認され
ることになったとしても,現時点において,バファローズ及びオリックス以外の球
団に所属する債権者aにいかなる損害が生じるかは定かではないし,一件記録によ
れば,上記両球団に所属する選手については,統合後の球団及びその他の10球団
において選手契約を引き継ぎ,同選手らの選手契約が解除されることのないように
することが12球団の申合せとして合意されていると認められることをも考慮すれ
ば,少なくとも,本件申立て(2)にかかる仮処分をしなければ債権者らに著しい
損害が生じると認めることもできない。
(6) 以上によれば,債権者らの本件申立て(2)は理由がない。
3 結論
 以上のとおりであるから,債権者選手会の本件申立て(1)及び債権者らの本件
申立て(2)はいずれも却下する。
平成16年9月3日
東京地方裁判所民事第11部
裁判官 土田昭彦
交渉事項目録
1 債務者に属する株式会社大阪バファローズとオリックス野球クラブ株式会社間
の営業譲渡及び参加資格の統合に関する件(選手の解雇,転籍を不可避的に伴う営
業譲渡及び参加資格の統合を回避すること等を含む)
2 前項の営業譲渡及び参加資格の統合に伴う債権者a,債権者b,債権者cを含
む債権者日本プロ野球選手会組合員の労働条件に関する件
(別紙)
主張の骨子
1 野球協約19条の特別委員会の規定は,実質的に,選手・球団・債務者間の契
約における事前協議・同意条項を定めたものである。
2 バファローズとオリックスとの間の営業譲渡は,必然的に一球団分の選手の解
雇や転籍を伴うものであるから,選手契約に関係ある事項として特別委員会の審議
事項となり,同委員会の議決を経て行われるべきである。
3 仮に,特別委員会の議決を経ることなく営業譲渡が行われ,これに伴って選手
の解雇や転籍が行われるとすれば,事前協議・同意条項に違反した解雇や転籍とし
て無効となる。
4 両球団は,特別委員会の議決を経ることなく,営業譲渡契約を締結したが,こ
の契約は,無効な解雇や転籍を必然的に伴うものであるから,無効である。
5 そうすると,債務者が営業譲渡を承認したとしても無効であるので,債権者ら
と債務者との間には民事保全法23条2項の「争いのある権利関係」が存在する。
6 そして,このまま営業譲渡が強行された場合には,債権者b及び債権者cを含
むバファローズとオリックスの選手の大部分が解雇か他球団への転籍を余儀なくさ
れ,転籍を受け入れる他球団の選手である債権者aにも,転籍を受け入れれば既存
の選手が解雇されやすくなるという意味において著しい損害が生じる。
7 そこで,債権者らは,同債権者らに生じる著しい損害又は急迫の危険を避ける
ため,特別委員会の議決を経ることなく,実行委員会及びオーナー会議において,
本件営業譲渡を承認する議決の差止めを求めることができる。

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