弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1中央労働委員会が,中労委平成15年(不再)第43号事件につき,平成1
7年10月5日付けでした不当労働行為救済命令主文第3項を取り消す。
2甲事件参加人兼乙事件原告の請求を棄却する。
3訴訟費用は,甲事件の参加によって生じた部分及び乙事件によって生じた部
分は甲事件参加人兼乙事件原告の負担とし,その余の費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
主文第1項と同旨
2乙事件
中央労働委員会が,中労委平成15年(不再)第43号事件につき,平成1
7年10月5日付けでした不当労働行為救済命令主文第1項及び第2項を取り
消す。
第2事案の概要
本件事案の概要は,次のとおりである。
甲事件参加人兼乙事件原告(以下「根岸病院労組」という。)は,平成11
年4月21日,東京都地方労働委員会(現・東京都労働委員会,以下「都労
委」という。)に対し,①甲事件原告兼乙事件参加人(以下「根岸病院」とい
う。)が事前に協議することなく新規採用者の初任給を引き下げたこと,②初
任給引下げに関する根岸病院の団体交渉における態度が不誠実であったことが
不当労働行為に当たるとして,不当労働行為救済申立てを行った(都労委平成
11年(不)第35号事件,以下「本件初審申立て」という。)。都労委は,
平成15年7月15日付けで,本件初審申立てについて,根岸病院に対し,別
紙1のとおり,①初任給引下げについての団体交渉に誠実に応じること,②同
11年3月1日以降に新規採用された組合員の初任給額を是正すること,③謝
罪文の掲示をすることを命じた(以下「本件初審命令」という。)。根岸病院
は,平成15年9月10日,中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対
し,本件初審命令の取消しを求めて,再審査を申し立てた(中労委平成15年
(不再)第43号事件,以下「本件再審査申立て」という。)。中労委は,本
件再審査申立てについて,平成17年10月5日付けで,別紙2のとおり,本
件初審命令主文第2項(初任給額の是正)及び第3項の一部(初任給を引き下
げた部分についての謝罪文の掲示)を取り消すなど本件初審命令を一部変更し
たものの,その余の本件再審査申立てを棄却する救済命令を発した(以下「本
件命令」という。)。本件は,根岸病院が本件命令のうち根岸病院に対して誠
実団交応諾及び謝罪文掲示を命じた部分(本件命令主文第3項)の取消しを求
め(甲事件),根岸病院労組が本件命令のうち平成11年3月1日以降に新規
採用された組合員の初任給額の是正を命ずるとの申立てを棄却した部分(本件
命令主文第1項)及び掲示する謝罪文の内容を変更した部分(本件命令主文第
2項)の取消しを求めた(乙事件)事案である。
1争いのない事実
(1)当事者
ア根岸病院は,昭和31年11月28日に法人化され,肩書地において精
神科等を診療科目とする病院を経営する医療法人である。根岸病院には,
平成11年4月当時,医師約20名,職員約230名が在籍し,ベッド数
は432床であった。
イ根岸病院労組は,昭和48年8月17日,根岸病院の職員によって組織
された根岸病院で唯一の労働組合である。
(2)根岸病院における常勤職員の賃金決定方法
ア根岸病院の医師を除く期間の定めのない雇用契約を締結している常勤職
員(以下,単に「常勤職員」という。)の賃金は,基本給と諸手当で構成
されており,上記基本給は本給と第2本給とで構成されている(以下,本
給と第2本給を併せて「基本給」という。)。
イ根岸病院では,職種別に新規採用者の初任給額を定めているところ,新
規採用者の基本給は,これに前歴に応じた経験加算等をして決定されてい
る。また,根岸病院は,常勤職員の新規採用年度以降の基本給について,
初任給額に翌年度以降の春闘で根岸病院労組と妥結した本給の定期昇給分,
ベースアップ分及び第2本給増額分を加算することにより決定している。
ウ根岸病院は,平成7年度までは,原則として,当該年度の初任給額につ
いて,前年度の初任給額に当該年度の春闘で妥結したベースアップ分を加
算した額としていたが,同8年度から同10年度までの間はベースアップ
分の加算をせず,初任給額を変更しなかった。
(3)初任給額の引下げ及びこれに関する団体交渉
ア根岸病院は,平成11年2月26日,根岸病院労組に対し,同年3月1
日以降の新規採用者について,その初任給額を従前の採用者に支給してい
た初任給額に比して引き下げるとの通知をした(以下「本件初任給引下
げ」という。)。
イ根岸病院労組は,平成11年3月12日,根岸病院に対し,同日付け要
求書を交付し,本件初任給引下げについて団体交渉を開催するよう要求し
た(以下「本件団体交渉申入れ」という。)。
ウ根岸病院のA理事,B事務部長(以下「B部長」という。)及びC事務
部長代理(以下「C部長代理」といい,同人とA理事及びB部長を併せて
「A理事ら」という。)は,平成11年3月17日午前11時ころから同
日午後零時20分ころまでの間,本件初任給引下げについて,根岸病院労
組との間で団体交渉を行った(以下「本件第1回団体交渉」という。)。
エA理事らは,平成11年3月30日午後1時30分ころから同日午後3
時30分ころまでの間,同年度の春闘及び本件初任給引下げについて,根
岸病院労組との間で団体交渉を行った(以下「本件第2回団体交渉」とい
う。)。
(4)本訴に至る経緯
ア根岸病院労組は,平成11年4月21日,都労委に対し,根岸病院を被
申立人として,本件初任給引下げ並びに本件第1回団体交渉及び本件第2
回団体交渉における根岸病院の対応が不当労働行為(支配介入及び不誠実
団体交渉)に当たると主張して,①本件団体交渉申入れに誠実に応ずるこ
と,②平成11年度以降の各新規採用者について各年度毎の初任給額を根
岸病院労組と協議の上決定した額若しくは前年度の初任給に当該年度のベ
ースアップ分を上乗せした金額とし,各新規採用者に対し,上記金額と既
払額との差額を支払うこと,③謝罪文の掲示をすることを求める本件初審
申立てをした。
イA理事らは,平成11年4月22日,根岸病院労組との間で同年度の春
闘についての団体交渉を行った(以下「本件第3回団体交渉」といい,こ
れと本件第1回団体交渉及び本件第2回団体交渉と併せて「本件団体交
渉」という。)が,本件初任給引下げについては都労委の判断に委ねると
して何らの交渉もしなかった。
ウ都労委は,平成15年8月28日,別紙1のとおり,本件初審命令を発
したところ,根岸病院は,同年9月10日,中労委に対し,本件初審命令
の取消しを求める再審査申立てをした。
エ中労委は,平成17年10月5日,別紙2のとおり,本件初審命令のう
ち,初任給額の是正を命じた部分を取り消し,謝罪文の一部を変更し,そ
の余の再審査申立てを棄却する本件命令を発した。
オ根岸病院は,平成17年11月30日,本件命令主文第3項の取消しを
求めて甲事件を提起し,根岸病院労組は,同18年2月4日,同主文第1
項及び第2項の取消しを求めて乙事件を提起した。
2争点
(1)根岸病院の本件団体交渉申入れに対する対応は,「団体交渉をすること
を正当な理由がなくて拒むこと」(労働組合法7条2号)に当たるか。
ア本件初任給引下げは,義務的団交事項に当たるか。
イ根岸病院の本件団体交渉における対応は,誠実さを欠いたものであった
か。
(2)本件初任給引下げは,根岸病院労組に対する支配介入(労働組合法7条
3号)に当たるか。
3争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(正当な理由のない団体交渉拒否の成否)について
【被告,根岸病院労組】
ア根岸病院においては,初任給額が新卒者,中途採用者を問わず,すべて
の新規採用者の賃金の基礎となる上,次年度以降,在職者は採用年度の基
本給に定期昇給分,ベースアップ分等が加算されて賃金が決定されるシス
テムとなっている。このため,本件初任給引下げ後に採用された職員が組
合に加入した場合,本件初任給引下げ以前に採用された組合員との間で賃
金格差が生じ,同一職種内で異なる賃金水準の集団が併存する事態となる
上,本件初任給引下げ以前に採用された組合員が退職するに従って組合員
全体の賃金水準が低下していくことになる。また,根岸病院が,職員の賃
金決定の基礎である初任給について,組合との間の団体交渉を拒否するこ
とが続けば,根岸病院労組の賃金の基礎水準に対する発言力や影響力が将
来にわたり減少することになるのは明らかである。さらに,根岸病院にお
いては,新規採用者が根岸病院労組に加入する可能性が高く,不確実な事
項とはいえない。したがって,本件初任給引下げは,組合員である在職者
の賃金に直接かつ決定的な影響を及ぼすので,義務的団交事項に当たる。
イ根岸病院は,根岸病院労組が職員の給与引下げについて話合いを行う用
意がある旨回答していた上,本件初任給引下げについて同組合が反対する
ことが容易に予想された。ところが,根岸病院は,初任給引下げ施行日直
前になって初めて根岸病院労組に対して本件初任給引下げを提示し,本件
第1回団体交渉に先立ち理事会で本件初任給引下げを決定しており,これ
らの事実に照らすと,根岸病院は,本件初任給引下げについて根岸病院労
組との間で誠実な団体交渉をする用意がなかったといえる。また,根岸病
院は,本件初任給引下げについて実質的な交渉を行ったのは第1回団体交
渉のみであり,そこでも本件初任給引下げの必要性,合理性に関し,本件
初任給引下げによる経営改善の効果や他の病院の初任給の状況等について
資料を提示したり,数値を挙げるなどの具体的な説明をしておらず,組合
の理解を得るよう十分な努力をしたとはいえない。このように根岸病院の
本件団体交渉における対応は誠実さを欠くものであった。
ウしたがって,根岸病院の本件初任給引下げに関する本件団体交渉申入れ
に対する対応は,「団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」
(労働組合法7条2号)に当たる。
【根岸病院】
ア根岸病院における初任給額の決定は,使用者である根岸病院の裁量に委
ねられているものであり,その改定により在職者及び新規採用者の労働条
件が不利益に変更されることはない。また,新規採用者が根岸病院労組に
加入するか否かは不確実な事項である上,その後当該新規採用者が組合に
加入したからといって,遡ってその者の初任給額が組合員の労働条件に関
する事項であったとすることはできない。さらに,団体交渉時点において
組合に加入していない新規採用者の初任給額について団体交渉義務を課す
ことは,根岸病院に対し,初任給額の決定について労働協約等の定めなく
根岸病院労組との間の事前協議義務を課すことになる。なお,新規採用者
は,個別に初任給額に同意して根岸病院に入職したのであり,採用ごとに
賃金の差が生じるのは当然であり,これにより根岸病院労組の団結に影響
を及ぼすものではなく,現に同組合の団結に影響は生じていない。したが
って,本件初任給引下げは,義務的団交事項に当たらない。
イ根岸病院労組は,61年合意と労使慣行の存在から初任給額改定には事
前協議を要するとの前提で,本件初任給引下げの白紙撤回を求めていた。
これに対し,根岸病院は,事前協議の必要はないとの認識の下,根岸病院
労組に対し,内容の見直しについてはともかく,本件初任給引下げの白紙
撤回はできないとの回答をした。このため,根岸病院と根岸病院労組は,
本件初任給引下げについては,その内容に関する話合いに入る前に,事前
協議の要否を巡って議論は平行線をたどっていた。したがって,根岸病院
が,本件団体交渉において,本件初任給引下げについて,資料の提示等を
伴う具体的な説明をしなかったからといって,その対応が不誠実であった
ということはできない。また,根岸病院労組は,根岸病院が既に提示して
いた決算書からも人件費縮小の必要性を理解することはできた。このよう
に根岸病院の本件団体交渉における対応は誠実さを欠くものであったとは
いえない。
ウ以上から明らかなとおり,根岸病院の本件初任給引下げに関する本件団
体交渉申入れに対する対応は,「団体交渉をすることを正当な理由がなく
て拒むこと」(労働組合法7条2号)に当たらない。
(2)争点(2)(支配介入の成否)について
【根岸病院労組】
ア根岸病院は,A理事就任以降,根岸病院労組と協議することなく労働条
件に関する事項を一方的に決定したり,団体交渉や協議をできるだけ回避
しようとしたり,団体交渉において誠実さを欠く態度をとるなどしてきた
ところ,組合を嫌悪して,職員賃金の基礎的水準の決定から組合を排除し,
職員賃金に対する組合の影響力を減殺し,もって根岸病院労組の弱体化を
図る意図で本件初任給引下げを行った。
イ根岸病院は,使用者として,新規採用者の初任給を引き下げる前に,圧
倒的多数を占める在職者の賃金是正を検討する方が合理的であり,根岸病
院労組も在職者の諸手当見直しに応ずる意思を伝えていたにもかかわらず,
大幅な初任給引下げを行った。その結果,根岸病院は,人材確保が困難と
なり,新規採用者について,多額の調整給等を支給せざるを得ない事態と
なっている。したがって,本件初任給引下げは,経営上合理的な判断であ
ったとはいえない。
ウ根岸病院における中途採用者の基本給額は,初任給額を前提に経験年数
に応じて一定額の加算をするのであるから,初任給額が極めて重要である
ことは新卒者と異ならない。また,根岸病院職員の賃金は,初任給に定期
昇給,ベースアップ,調整給が加算されていくのだとしても,その基礎と
なるのは初任給額であり,これが賃金の核となるのは当然である。
エしたがって,本件初任給引下げは,根岸病院労組に対する支配介入(労
働組合法7条3号)に当たる。
【被告,根岸病院】
ア根岸病院では,本件初任給引下げ当時,経営状況から人件費の抑制が緊
急の課題であったところ,複数ある経営改善方法の中から合理的な経営判
断として初任給額の引下げを選択した。したがって,根岸病院は,根岸病
院労組の弱体化を図る意図で本件初任給引下げを行ったのではない。
イ根岸病院における初任給額の決定には,根岸病院労組の同意が不要なた
め,在職者の賃金是正より実現が容易であった。また,新規採用者は,個
別に初任給額に同意して根岸病院に入職したのであり,採用毎に賃金の差
が生じるのは当然であり,これにより根岸病院労組の団結に影響を及ぼす
ものではなく,現に同組合の団結に影響は生じていない。
ウ根岸病院では,初任給額が賃金の基礎とはなるが,新規採用年度以降の
賃金は定期昇給,ベースアップに左右されるため,総体的にみて初任給額
が賃金の核となっているとまではいえない。また,根岸病院では,本件初
任給引下げ当時,新規採用者はほとんど中途採用者であり,中途採用者の
初任給額は経験年数に応じた加算調整等がされた上で決定されるため,新
卒者とは異なり,初任給の重要性は小さかった。
エしたがって,本件初任給引下げは,根岸病院労組に対する支配介入(労
働組合法7条3号)には当たらない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(正当な理由のない団体交渉拒否の成否)について
(1)労働組合法7条2号は,使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉を
することを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止している
ところ,その趣旨は,使用者に労働者の団体の代表者との交渉を義務付ける
ことにより,労働条件等に関する問題について,労働者の団結力を背景とし
た交渉力を強化し,労使対等の立場で行う自主的交渉による解決を促進し,
もって労働者の団体交渉権(憲法28条)を実質的に保障しようとしたもの
と解することができる(労働組合法1条1項参照)。このような労働組合法
7条2号の趣旨に照らすと,同条同号は,単に使用者が労働者の代表者との
団体交渉に応じないことのみならず,形式的には団体交渉に応じながら不誠
実な態度をとることをも禁止する趣旨であり,使用者は団体交渉に当たり労
働者の代表者の要求や主張を聞くだけでなく,これに対し必要な回答や主張
を行うとともに,その根拠を具体的に説明したり,資料を提供する義務を負
うものと解するのが相当である。もっとも,労使間に直接的又は間接的に関
連する問題は多岐にわたるところ,使用者がおよそこれらすべての問題につ
いて労働者の代表者と誠実に団体交渉を行うことを義務付けられていると解
することはできない。前述した労働組合法7条2号の趣旨に照らすと,同条
同号により使用者に誠実な団体交渉が義務付けられる対象,すなわち義務的
団交事項とは,団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労
働条件その他の待遇,当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関
する事項であって,使用者に処分可能なものと解するのが相当である。そう
だとすると,非組合員に関する事項については,それが当該労働組合やその
構成員である組合員の労働条件に直接関連するなど特段の事情がない限り,
原則として義務的団交事項には当たらず,使用者がこのような事項について
団体交渉に応じなかったり,任意に応じた団体交渉における態度が誠実さを
欠いていたとしても,労働組合法7条2号が禁止する団体交渉拒否ないし不
誠実団交には当たらないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,前記争いのない事実(3)及び弁論の全趣旨に
よれば,本件初任給引下げは平成11年3月1日以降の新規採用者に対し適
用されるものであり,それ以前に根岸病院との間で雇用契約を締結していた
者,換言すると,本件初任給引下げについての団体交渉申入れの時点で根岸
病院労組に加入していた職員には適用されないことが認められる。そうだと
すると,根岸病院労組は,非組合員の労働条件について,根岸病院に対し,
団体交渉を申し入れていたというべきであり,本件初任給引下げは,特段の
事情が存在しない限り,根岸病院と根岸病院労組との間の義務的団交事項に
は当たらないというべきである。
そこで,以下,本件初任給引下げが,根岸病院労組やこれに加入している
組合員の労働条件に直接関連するなど特段の事情が存在するか否かについて
検討することにする。
(2)認定事実
前記争いのない事実,証拠(文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全
趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,当事者間に争いのない事実
は,文末に証拠等を掲記しない。)。
ア根岸病院における新規採用及び組合加入について
(ア)根岸病院では,新規採用応募者について,履歴書審査,面接等を行
った後,応募者との間で,勤務・給与条件について合意をして雇用契約
を締結し,試用期間3か月経過後に本採用をしていた(乙84,92【
27ないし29頁】)。
(イ)根岸病院における平成5年度から同16年度までの新規採用状況は,
下記のとおりであり(括弧内は新卒者の人数),その大部分は中途採用
者であるが,同12年度以降はそれ以前と比べて新卒者が多くなってい
た。なお,根岸病院では,平成16年5月18日当時,職員のうち65
%が同11年度以降に採用された者で構成されていた(乙85,92【
26,31頁】)
平成5年度32人(0人)
平成6年度30人(0人)
平成7年度36人(0人)
平成8年度15人(1人)
平成9年度22人(2人)
平成10年度27人(1人)
平成11年度24人(4人)
平成12年度40人(10人)
平成13年度49人(14人)
平成14年度51人(12人)
(ウ)根岸病院労組は,根岸病院との間でユニオン・ショップ協定(使用
者が労働協約において,自己の雇用する労働者のうち当該労働組合に加
入しない者及び当該組合の組合員ではなくなった者を解雇する義務を負
う制度)を締結しておらず,また,職員も組合加入の有無を根岸病院に
明らかにしていないため,その正確な組合員数,組織率等は不明である
が,平成元年から同11年2月までの間に根岸病院に採用された者のう
ち,根岸病院労組に加入した者が162名おり,その大多数は採用から
半年以内,遅くとも1年以内に加入していた。また,平成11年3月か
ら同年12月までの間に根岸病院に新規採用された常勤職員17名のう
ち,同年4月1日に採用された4名中1名が同月中に,3名が7月中に,
同年8月2日に採用された1名が同年10月中に,同月1日に採用され
た1名が同年12月中に,同月1日に採用された3名中1名が同月中に,
それぞれ根岸病院労組に加入した。(乙20,47,70【21丁表】,
94【48,49頁】,弁論の全趣旨)
イ根岸病院の賃金体系
(ア)常勤職員の賃金構成
根岸病院には,医師を除く常勤職員として看護師,准看護師,看護補
助者,事務,ケースワーカー,薬剤師,作業療法士,検査技師,栄養士,
調理師,技能・労務員等が勤務しており,そのほかに嘱託職員,パート
職員が勤務している。根岸病院の常勤職員の賃金は,基本給と諸手当で
構成されており,基本給は本給と第2本給とで構成されている。(前記
争いのない事実(2)ア,乙92【21頁】)
(イ)常勤職員の賃金決定方法
根岸病院では,職種別に新規採用者の初任給額を定めており,新規採
用者の基本給はこれに前歴に応じた経験加算等をして決定している。ま
た,根岸病院は,常勤職員の新規採用年度以降の基本給について,初任
給額に翌年度以降の春闘で根岸病院労組と妥結した本給の定期昇給分,
ベースアップ分及び第2本給増額分を加算することにより決定している。
なお,根岸病院と根岸病院労組との間の平成8年度から同14年度まで
の春闘妥結状況は,別紙3のとおりであった。(前記争いのない事実(2
)イ,乙74【63ないし66頁】,92【21,22頁】,94【2
8頁】)
ウ平成10年度までの初任給額改定の推移
(ア)根岸病院は,平成7年度まで,原則として,前年度の初任給額に当
該年度の春闘で妥結したベースアップ分を加算して当該年度の初任給額
とした上,これを当該年度の4月1日に遡及して新規採用者に適用し,
新規採用者に対し,同日から初任給額改定までの間の既払賃金と初任給
額改定による賃金との差額を支給していた。また,根岸病院は,昭和6
0年度から平成7年度までの間,昭和63年度を除き,根岸病院労組に
対し,夏季賞与に関する要求書に対する回答書の付属書類等として,当
該年度の初任給額を整理した表を交付していた。なお,昭和63年度の
初任給額を整理した表についても,根岸病院のD事務部長から根岸病院
労組に対し別途交付された。(前記争いのない事実(2)ウ,乙11ない
し19,21,22,27,30,34,37,41,70【8丁裏,
9丁表】,74【34,35頁】,92【24,25頁】)
(イ)根岸病院は,平成8年度から同10年度までの間,財源不足を理由
として,当該年度の春闘で妥結したベースアップ分を前年度の初任給額
に加算せず,初任給額を凍結した。根岸病院労組は,前記初任給凍結に
ついて抗議したものの,諸般の事情を考慮してやむを得ないものと判断
し,最終的にはこれを受け入れた。なお,根岸病院は,平成8年度及び
同9年度の初任給額について,いずれも翌年度の春闘要求書に対する回
答書において,同7年度と同じ初任給額を整理した表を記載していた。
(前記争いのない事実(2)ウ,乙12ないし19,21,56ないし5
9,70【12丁裏ないし16丁表】,92【24,25,56,57
頁】,94【76頁】)
エ本件初任給引下げに至る経緯
(ア)根岸病院では,人件費が支出の約70%を占めるという経営状況を
改善するため,平成10年秋ころから初任給引下げの検討を開始した。
また,B部長は,平成10年末から同11年初頭の間に開催された根岸
病院労組との間の事務折衝において,根岸病院労組に対し,諸手当や看
護補助者の給料が高いので見直しを考えている旨述べた。これに対し,
根岸病院労組は諸手当の改定等について今後話し合う用意がある旨回答
したところ,B部長は,A理事に対し,根岸病院労組は初任給引下げも
やむを得ないと述べているなどと報告した。(乙72【11丁裏,14
丁表ないし16丁裏】,74【56ないし60頁】,92【33,59,
60頁】)
(イ)根岸病院は,平成11年2月上旬ころ,初任給引下げの検討を概ね
終了した。本件初任給引下げは,全職種において,第2本給を増額して
いるものの本給の減額がそれを上回り,基本給全体としては大幅に減額
されていた。本件初任給引下げにおける基本給の減額率は,最小の看護
師(3卒)でも約10.0%(20万9970円から18万9000
円)であり,准看護師(高卒以上)では約22.2%(19万7980
円から15万4000円への減額),看護補助者(高卒以上)では約3
4.0%(17万1100円から11万3000円への減額)となって
いるなど,看護師,事務,ケースワーカーを除く職種で20%以上の減
額率となっていた。なお,根岸病院は,これまで初任給を引き下げたこ
とはなく,春闘交渉以前に独立して初任給額を改定することもなかった。
また,根岸病院は,就業規則第16条において,「従業員に対する給与
の細目は別に定める。」と規定していたところ,平成11年9月9日に
就業規則変更届として初めて初任給額を整理した表を立川労働基準監督
署に届け出た。(乙1,3,10,64,65,70【18丁表裏】,
72【11丁裏,14丁表ないし18丁裏】,74【56ないし60
頁】,92【4,26,27,33,59,60頁】)
(ウ)B部長は,平成11年2月26日,根岸病院労組から同年度の春闘
要求書の提出を受けた際,同組合に対し,本件初任給引下げについて通
知した上,当該引下げは同年3月1日以降の新規採用者に適用する旨述
べた。これに対し,根岸病院労組は,B部長に対し,本件初任給引下げ
について,直ちに口頭で抗議した。なお,根岸病院は,本件第1回団体
交渉に先立ち,理事会において本件初任給引下げを決定していた。(前
記争いのない事実(3)ア,乙1,2,4,9,61,70【17丁表
裏】,72【19丁表裏】,92【58頁】)
オ本件初任給引下げ後の労使交渉等
(ア)根岸病院労組は,平成11年3月1日,同月2日及び同月6日,B
部長に対し,本件初任給引下げの撤回,団体交渉の開催を求める要請行
動を行った。また,根岸病院労組は,平成11年3月12日,根岸病院
に対し,要求書を交付し,根岸病院が団体交渉を行わずに本件初任給引
下げを行ったことが不当労働行為に当たるとして,本件団体交渉申入れ
をした。(前記争いのない事実(3)イ,乙5,9,70【18丁裏,1
9丁表】)
(イ)A理事らは,平成11年3月17日午前11時ころから同日午後零
時20分ころまでの間,本件初任給引下げについて,根岸病院労組との
間で本件第1回団体交渉を行った。A理事らは,本件第1回団体交渉に
おいて,本件初任給引下げの白紙撤回を求める根岸病院労組に対し,過
去5年間の決算書に基づき,病床数減から医療収入が減少していること,
病院経営を取り巻く環境から判断して人件費比率の圧縮が急務であるこ
とを説明するとともに,同病院の初任給額は他病院と比較して高いこと,
初任給額は新規採用者と病院との間の労働契約で確定するものであって,
このことについて根岸病院労組との間に特別な協約も存在しないこと,
本件初任給引下げは在職者の賃金に影響を与えないことなどを説明した。
なお,B部長は,平成11年3月17日午後5時,根岸病院労組に対し,
同年度の春闘要求書に対する回答書を提示した。(前記争いのない事実
(3)ウ,乙6,9,62,70【19丁裏,20丁表】,72【10丁
裏,11丁表】,79,92【3頁】,ただし,乙79については上記
認定に反する部分を除く。)
(ウ)根岸病院労組は,平成11年3月18日,本件初任給引下げ,同年
度の春闘回答書に抗議して,役員5名による3時間の時限ストライキを
実施した。また,根岸病院労組は,平成11年3月上旬ころから根岸病
院に組合旗を掲げビラを掲示していたところ,根岸病院は,同月26日,
根岸病院労組に対し,病院の管理上相応しくなく,外来者から苦情が出
ており,治療上も迷惑であるとして,組合旗やビラの撤去を求める通知
書(以下「本件通知書」という。)を交付し,同通知書を病院の掲示板
に掲示した(乙7,9,70【20丁表】,72【11丁表裏】)。
(エ)A理事らは,平成11年3月30日午後1時30分ころから同日午
後3時30分ころまでの間,根岸病院労組との間で,同年度の春闘及び
本件初任給引下げについて,本件第2回団体交渉を開催した。根岸病院
労組は,本件第2回団体交渉において,本件初任給引下げの白紙撤回を
求めるとともに,本件通知書に抗議し,その撤回と掲示板からの撤去を
要求したが,A理事らはこれを拒否した。(前記争いのない事実(3)エ,
乙9,70【20丁裏】,79,92【3頁】,ただし,乙79につい
ては上記認定に反する部分を除く。)
(オ)根岸病院労組は,平成11年4月5日,B部長及びC部長代理との
間で事務折衝を行った。この際,根岸病院労組は,根岸病院に対し,本
件初任給引下げの白紙撤回,本件通知書の撤回等について早急に回答す
るよう求めた。しかし,B部長は,本件初任給引下げ及び本件通知書の
撤回については回答する立場にないとして,具体的な回答をしなかった。
そこで,根岸病院労組は,本件初任給引下げ問題について回答権限を有
する理事が出席する団体交渉を平成11年4月9日までに開催するよう
要求し,誠意ある回答が得られない場合,不当労働行為救済申立てをす
る予定である旨述べた。また,根岸病院労組は,平成11年4月14日,
C部長代理に対し,速やかな団体交渉の開催を求めたが,C部長代理は
調整中であると答えた。(乙8,9,79,92【3頁】,ただし,乙
79については上記認定に反する部分を除く。)
(カ)根岸病院労組は,平成11年4月21日,都労委に対し,本件初審
申立てをした。また,A理事らは,平成11年4月22日,根岸病院労
組との間で本件第3回団体交渉を行ったが,本件初任給引下げ問題につ
いては都労委の判断に委ねるとして何ら交渉をしなかった。(前記争い
のない事実(4)ア,イ,乙70【20丁裏,21丁表】,72【12丁
表裏】,79,92【3頁】,ただし,乙79については上記認定に反
する部分を除く。)。
(3)特段の事情の存否についての当裁判所の判断
前記争いのない事実及び前記(2)で認定した事実を踏まえ,本件初任給引
下げが,根岸病院労組やこれに加入している組合員の労働条件に直接関連す
るなど特段の事情が存在するかどうかみてみることにする。
確かに,根岸病院労組は,根岸病院における単一労働組合であり,毎年新
規採用者のうち相当数が組合に加入しており,本件初任給引下げ後である平
成11年3月から同年12月までの間にも新規採用された常勤職員17名中
7名が根岸病院労組に加入したことが認められる(前記争いのない事実(1)
イ,前記1(2)ア(イ),(ウ))。しかし,上記の事実が認められるからとい
って,根岸病院労組及びこれに加入している組合員の労働条件に対し本件初
任給引下げが直接関連するものと認定することは困難である。なぜなら,前
記(1)で判断したとおり,そもそも本件初任給引下げが適用されるのは平成
11年3月1日以降に入職する職員であって,同日現在根岸病院労組に加入
している組合員には適用がないからである。のみならず,根岸病院と根岸病
院労組との間にはユニオン・ショップ協定の締結はなく,新規採用者が必ず
根岸病院労組の組合員となるとはいえないこと(前記1(2)ア(ウ)),新規
採用者は根岸病院から提示された賃金額等の雇用条件に合意して雇用契約を
締結していること(同ア(ア)),根岸病院における賃金体系では,新規採用
者の初任給額を引き下げたからといって,それが直ちに既採用者である組合
員の賃金額に連動して不利益が及ぶような仕組みにはなっておらず,それぞ
れ別個の賃金体系として存在し得るものであること(前記1(2)イ(ア),(イ
),ウ(ア),(イ),エ(ウ)),根岸病院は,昭和60年から平成9年までの
間,根岸病院労組に対し,当該年度の初任給額を整理した表を交付していた
ものの(同ウ(ア),(イ)),初任給額の決定について根岸病院労組との合意
ないし承認を要する旨の協約,労使慣行が存在したと認めるに足りる証拠は
ないこと(乙67,70【31丁裏】,72【8丁表】参照)をも併せ考慮
すると,本件初任給引下げは,本件団体交渉申入れ時点の根岸病院労組及び
その組合員の労働条件に直接関連するなど特段の事情は認めることはできな
い。そして,本件全証拠を検討するも,上記判断を覆すに足りる的確な証拠
は見当たらない。そうだとすると,本件初任給引下げは,義務的団交事項に
当たらないというべきである。
(4)小括
以上検討したところによれば,本件初任給引下げは義務的団交事項に当た
らないから,根岸病院の本件団体交渉等における対応が誠実さを欠いたもの
か否かを検討するまでもなく,根岸病院の本件団体交渉申入れに対する対応
は正当な理由のない団体交渉拒否(労働組合法7条2号)には当たらない。
したがって,本件命令が,根岸病院の本件団体交渉申入れに対する対応が正
当な理由のない団体交渉拒否(労働組合法7条2号)に当たるとして,本件
再審査申立てのうち,根岸病院に対し,誠実団交応諾及び謝罪文の掲示を命
じた部分の取消しを求めた部分を棄却した点は違法であり,取消しを免れな
い。
2争点(2)(支配介入の成否)について
(1)根岸病院労組は,本件初任給引下げには経営上の合理性がなく,根岸病
院が根岸病院労組を嫌悪して,職員賃金の基礎的基準の決定から同組合を排
除し,職員賃金に対する同組合の影響力を減殺し,もって同組合の弱体化を
図る意図で行ったものであり,支配介入(労働組合法7条3号)に当たる旨
主張するので,以下この点について検討することとする。
(2)認定事実
前記争いのない事実,証拠(文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全
趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,当事者間に争いのない事実
は,文末に証拠等を掲記しない。)。
ア根岸病院における労使関係
(ア)根岸病院の根岸病院労組に対する態度等
A理事は,平成7年10月根岸病院の常勤理事に就任し,労務等を担
当するようになり,同8年5月常務理事に就任した。根岸病院は,A理
事就任後,以下のとおり,根岸病院労組と事前に協議することなく各種
施策を実施した。(乙72【1丁裏,12丁裏,13丁表,17丁裏,
18丁表】,79,92【3,19頁】,ただし,乙79については上
記認定に反する部分を除く。)
a根岸病院は,平成8年2月,根岸病院労組と事前に協議することな
く,賃金の支払方法を現金支給から銀行振込に変更した。
b根岸病院は,平成8年4月,根岸病院労組と事前に協議することな
く,タイムレコーダーを導入した勤怠管理を試行した。
c根岸病院は,平成8年5月,根岸病院労組と事前に協議することな
く,職員給食の値上げをしようとした。根岸病院は,根岸病院労組の
抗議を受けて,前記職員給食の値上げ実施を平成8年6月に延期した
が,その延期通知についても職制を通じてしか行わなかった。
(イ)根岸病院と根岸病院労組との間の紛争状況
根岸病院労組は,平成8年9月10日及び同10年6月12日,都労
委に対し,根岸病院を相手方として,職員の定年延長,嘱託職員の雇用
継続,新病院建設に関する検討委員会の設置,就業規則改定,三六協定
締結,介護休暇制度等に関し,不当労働行為救済申立てをした(都労委
平成8年(不)第70号事件,同10年(不)第45号事件)。都労委
は,平成12年2月15日,前記不当労働行為救済申立事件について,
根岸病院に対し,①定年延長問題及びこれに関連する事項についての団
体交渉において,嘱託雇用契約更新の判断基準等を明らかにするなどし
て誠実に対応すること,②就業規則改定,三六協定締結,介護休暇制度
の施行を議題とする団体交渉に誠意をもって応じることなどを命ずる一
部救済命令を発した。なお,この命令については,根岸病院,根岸病院
労組双方が中労委に対して再審査申立てをした。
イ根岸病院の経営状況
根岸病院の平成5年度から同10年度までの間の経営状況は,別紙4の
とおりである。すなわち,収入に占める人件費の割合は約68.1%から
約76.6%の間で推移し,収入及び人件費は平成5年度から同8年度ま
での間増加した後,減少に転じた。この間,収入が約15.4%増加した
のに対し,人件費も約13.3%増加した。利益についてみると,平成6
年度に478万円の黒字を計上した後,同7年度以降は赤字が続いていた。
なお,平成8年度,同9年度は億単位の大幅な赤字を計上しているところ,
その主な原因は,同8年度については,前理事長が死亡してその退職金を
支払ったためであり,同9年度については,借入金の返済のほか,新病院
建設のための不動産売却に伴う関連費用が発生したためであった。(乙5
2ないし54,68,72【3丁表裏,13丁裏,14丁表】)
(3)支配介入の成否についての当裁判所の判断
前記1(2)(3)及び同2(2)の認定事実,判断を踏まえ,根岸病院が根岸病
院労組の影響力を減殺し,同組合の弱体化を図る意図で本件初任給引下げを
行ったということができるか否かについて判断することにする。
なるほど,根岸病院においては,A理事が労務担当をするようになった後,
根岸病院労組との間にそれまで以上に緊張関係が生じ,本件以外にも不当労
働行為救済命令が出されていたこと(前記2(2)ア,イ),本件初任給引下
げの効果については,A理事の供述(乙92【31頁】,94【36頁】)
以外にはこれを裏付ける的確な証拠がないことが認められる。しかし,これ
らの事実が認められるからといって本件初任給引下げが根岸病院労組の弱体
化を意図したものということはできない。
そもそも,根岸病院労組が問題としている本件初任給引下げは義務的団交
事項に当たらないのである(前記2(3))。のみならず,根岸病院は,本件
初任給引下げ当時,赤字続きの経営状況において更なる経費削減の必要があ
ったところ,平成8年度以降初任給額を凍結したものの,なお支出の7割以
上を占める人件費の圧縮を急務としていたこと(前記1(2)ウ(イ),エ(ア),
オ(イ),2(2)イ),根岸病院は,複数考えられる経営改善方法の中で,当
時の経営状況,雇用情勢,他病院との初任給の比較結果,実現可能性,在職
者に対する配慮等から初任給引下げを選択したこと(前記1(2)オ(イ)),
本件初任給引下げは組合員,非組合員の別なく及ぶものであること(前記1
(2)エ(イ))がそれぞれ認められる。そして,更には,根岸病院において初
任給額の決定について根岸病院労組との合意ないし承認を要する旨の協約,
労使慣行が存在したことや本件初任給引下げにより,根岸病院労組において
不調和や団結侵害等の具体的不都合が生じたことを認めるに足りる証拠はな
い(前記1(3),乙94【74,75頁】参照。)。
上記認定の各事実に照らすと,根岸病院の本件初任給引下げは,根岸病院
労組の影響力を減殺し,同組合の弱体化を図る意図で行われたものというよ
り,経営状況改善のため合理的な経営判断の下行われたものと認めるのが相
当であり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。そうだとすると,本
件初任給引下げは,根岸病院労組に対する支配介入(労働組合法7条3号)
には当たらないということになる。
(4)小括
以上検討したところによれば,本件命令が,本件初任給引下げは根岸病院
労組に対する支配介入に当たらないとして,本件初審命令主文第2項を取り
消し,これに係る本件初審申立てを棄却するなど本件初審命令を一部変更し
た点は相当なものとして是認することができる。
第4結論
以上によれば,甲事件の根岸病院の請求は理由があるからこれを認容するこ
ととし,乙事件の根岸病院労組の請求は理由がないからこれを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
難波孝一裁判長裁判官
山口均裁判官
知野明裁判官

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