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平成23年5月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成21年(ワ)第1643号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成23年1月11日
判決
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,4億7275万円及びこれに対する平成12年5月1
9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が平成9年に発注したごみ焼却施設建設工事の指名競争入札に
おいて,入札参加業者である被告,日立造船株式会社(以下「日立造船」とい
う。),JFEエンジニアリング株式会社(変更前の商号は「日本鋼管株式会
社」。以下,商号変更の前後を通じて「日本鋼管」という。),株式会社タクマ
(以下「タクマ」という。)が談合を行って,受注予定者を被告と決め,談合
に参加していなかった入札参加業者である株式会社A(以下「A」という。),
B株式会社(以下「B」という。)及び株式会社C(以下「C」といい,被告,
日立造船,日本鋼管,タクマ,A,Bと併せて「本件7社」という。)に対し,
被告が受注することについて協力を求め,その了解を得た上,本件7社が競争
入札に参加し,被告が落札した結果,落札価格(請負代金額)が不当に高くな
り,原告に損害が発生したとして,原告が,被告に対し,不法行為に基づき,
上記談合等により不当に高額となった工事代金相当額の損害賠償を求める事案
である。
1前提事実(争いのない事実並びに各項掲記の各書証及び弁論の全趣旨によっ
て認められる事実)
(1)入札及び請負契約
ア原告は,平成8年ころ,甲市ごみ焼却施設の建設工事(以下「本件工
事」という。)の実施を決め,請負契約を締結する業者を指名競争入札の
方法により選定することとし,本件7社を指名し,平成9年5月20日,
本件7社が参加して入札(以下「本件入札」という。)を行った結果,被
告が,入札価格42億5000万円(税別。以下,特に断らない限り,同
じ。)で本件工事を落札した。
本件7社の入札金額は,被告が42億5000万円,Cが42億900
0万円,Aが49億円,タクマが49億5000万円,日本鋼管が51億
円,日立造船が49億8000万円,Bが47億9000万円であった。
イ原告は,本件入札結果に基づき,被告との間で,請負代金を44億62
50万円(消費税及び地方消費税を含む。以下「本件請負代金額」とい
う。)として本件工事の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締
結した。
被告は,平成12年2月25日,本件工事を完成し,これを原告に引き
渡した。これに対し,原告は,被告に対し,同年5月18日までに,本件
請負契約の代金として44億6250万円を支払った。
(2)公正取引委員会の審決及びその後の経緯
ア公正取引委員会は,平成10年9月17日,私的独占の禁止及び公正取
引の確保に関する法律(平成14年法律第47条による改正前のもの。以
下,同改正及び後記の各改正の前後を通じ「独禁法」という。)の規定に
基づく審査を開始し,平成11年8月13日,被告,日立造船,日本鋼管,
タクマ及び川崎重工業株式会社(以下「川崎重工」といい,被告,日立造
船,日本鋼管,タクマと併せて「別件5社」という。)が,遅くとも平成
6年4月以降,普通地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注する
全連続燃焼式及び准連続燃焼式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事につ
いて,共同して,受注予定者を設定し,受注予定者が受注できるようにし,
独禁法2条6項に規定する不当な取引制限をして3条に違反したとして,
別件5社に対し,同法48条2項に基づき,排除勧告をした。
イ別件5社が,上記アの排除勧告の応諾を拒否したため,公正取引委員会
は,同年9月8日,独禁法(平成17年法律第35条による改正前のも
の)49条に基づき,別件5社を被審人とする審判開始決定をした(平成
11年(判)第4号。以下,これにより開始された事件を「別件審判事
件」という。)。
ウ公正取引委員会は,平成18年6月27日,別件審判事件につき,別件
5社が,遅くとも平成6年4月以降平成10年9月17日までの間,「共
同して,地方公共団体発注の全連続燃焼式及び准連続燃焼式ストーカ炉の
新設,更新及び増設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受
注できるようにすることにより,公共の利益に反して,地方公共団体発注
の全連続燃焼式及び准連続燃焼式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事の
取引分野における競争を実質的に制限していたものであって」,独禁法
(平成17年法律第35号による改正前のもの)2条6項に規定する不当
な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ同法5
4条2項に規定する「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するも
のと認められるとして,同条項,7条2項に基づく排除措置を命ずる審決
をした(以下「別件審決」という。)。
なお,別件審決は,別件5社が受注予定者を決定したと推認される工
事として,本件工事を挙げている。
(以上について,甲8,9,弁論の全趣旨)
エ別件5社は,別件審決を不服として,その取消しを求める訴訟を東京高
等裁判所に提起した(同庁平成18年(行ケ)第11号~第13号事件)
が,同裁判所は,平成20年9月26日,別件5社の請求をいずれも棄却
する旨の判決をした(以下「別件審決取消判決」という。甲10)。
オ別件5社は,別件審決取消判決を不服として,最高裁判所に上告提起及
び上告受理申立てを行ったが,同裁判所は,平成21年10月6日,別件
5社の上告及び上告受理申立てをいずれも退ける決定をした(甲11,弁
論の全趣旨)。
2争点及び当事者の主張
(1)本件入札における不法行為の存否
(原告の主張)
被告を含む本件7社は,本件入札において,以下のアないしウの各行為を
行った。
ア被告を含む別件5社は,平成6年4月から平成10年9月16日までの
間,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注する全連続燃焼式及
び准連続燃焼式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事について,受注機会
の均等化を図るため,下記(ア)ないし(ウ)の内容の合意をした(以下「本
件基本合意」という。)。
(ア)地方公共団体が建設していることが判明した工事について,各社が
受注希望の表明を行い,
a受注希望者が1社の工事については,その者を当該工事の受注予定
者とする。
b受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受
注予定者を決定する。
(イ)別件5社の間で受注予定者を決定した工事について,別件5社以外
の者(以下「アウトサイダー」という。)が指名競争入札等に参加する
場合には,受注予定者は自社が受注できるようにアウトサイダーに協力
を求める。
(ウ)受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受
注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する。
イ(ア)被告は,平成7年9月28日ころまでに,別件5社の営業責任者の会
合で,本件工事の受注を希望し,別件5社は,本件基本合意に基づき,
本件工事の受注予定者を被告と決定した(以下,これを「本件個別合
意」という。)。
(イ)また,被告は,本件入札に先立ち,本件基本合意に参加していなか
ったC,A及びB(以下,3社を併せて「本件アウトサイダー」とい
う。)に対し,被告が落札できるよう協力を求め(以下「本件協力要
請」という。),本件アウトサイダーから協力する旨の合意を得た(以
下「本件協力合意」という。)。
ウ別件5社のうち被告,日立造船,日本鋼管及びタクマの4社並びに本件
アウトサイダー3社(本件7社)が,本件入札に参加し,本件個別合意及
び本件協力合意により,被告が本件工事を落札した。具体的には,被告が,
本件入札前に,被告の受注予定価格を42億5000万円と,本件7社の
うち被告以外の6社の入札すべき金額を次の(ア)~(カ)のとおり決定し,
同6社に対し,上記各金額を連絡し,同6社が連絡を受けた価格で入札す
ることにより,被告が本件工事を落札した。
(ア)C42億9000万円
(イ)A49億円
(ウ)タクマ49億5000万円
(エ)日本鋼管51億円
(オ)日立造船49億8000万円
(カ)B47億9000万円
(被告の主張)
否認する。(原告の主張)アないしウのいずれの事実も存在しない。
(2)損害の存否及び金額
(原告の主張)
原告は,上記(1)(原告の主張)の不法行為により,以下のとおり,4億
7275万円の損害を被った。
ア本件工事について,上記(1)(原告の主張)の不法行為がなく公正かつ
自由な競争に基づいた場合の適正な価格と本件請負代金額との間には,以
下の事実から,少なくとも本件請負代金額の10%以上の差が生じている
というべきであり,原告は,上記不法行為により,少なくとも本件請負代
金額44億6250万円の10%に相当する4億4625万円の損害を被
った。
(ア)独占禁止法研究会が,平成15年10月に,直近5年間の主要な
カルテルについて,公正取引委員会の審査開始後の下落率を調査した結
果,別紙1のとおり,その平均下落率は20.97%であった。
(イ)公正取引委員会が,平成8年から平成15年3月までの間に排除勧
告又は課徴金納付命令を行った事件における同委員会の審査開始後の落
札価格の下落率を算出したところ,過去の入札談合・カルテル事件の平
均は16.5%の下落率,入札談合事件に限っては18.6%の下落率
であり,調査対象の約9割の事件で8%以上の下落率であった。
(ウ)原告を始め,全国の地方公共団体において,ほとんどの場合,入札
参加者との間で,談合が行われた場合の損害賠償予定額ないし違約金を,
契約金額の10%以上と合意している。
(エ)公正取引委員会が,平成16年3月,直近5年間の市町村等の地方
公共団体発注のストーカ式燃焼装置を採用する全連続燃焼式及び准連続
燃焼式ゴミ焼却施設の建設工事についての入札談合事件について,同委
員会による審査開始後の下落率を調査した結果,その平均下落率は12.
4%であった。
(オ)独禁法(現行法)の課徴金の額が10%と定められている(同法7
条の2)。
(カ)平成6年度から平成10年度までの地方公共団体発注のごみ焼却炉
の受注について,公正取引委員会が別件5社による談合があったと認定
しなかった物件のうち,落札率が90%以下であった工事は9件,8
0%以下であった工事も6件あった。
イまた,原告は,本件訴訟の提起及び追行を,原告訴訟代理人らに委任し
たから,それに伴う弁護士費用2650万円は,上記(1)(原告の主張)
の不法行為による損害に当たる。
(被告の主張)
以下のとおり,原告の損害に関する主張は主張自体失当であり,原告に
損害の発生は認められない。
ア一般に,落札価格は,当該工事の種類や規模,参加している業者の数や
各業者の事業規模,当該工事に対する受注意欲の多寡,入札当時の社会経
済情勢,入札が行われた地域の特殊性等の様々な要因が複雑に影響し合っ
て形成されるものであり,損害の発生が認められるためには,本件工事に
ついて談合がなかった場合に形成されたであろう本件工事の落札価格(以
下「想定落札価格」という。)が,上記の各種の要因に基づき算出されな
ければならないところ,本件においては,上記の要因に基づいた想定落札
価格が主張されていないから,原告の主張自体失当である。
イ原告は,本件7社の行為がなかった場合の価格(想定落札価格)が,
本件請負代金額を下回ることを所与の前提とするが,本件入札のように,
予定価格非公表の場合,談合がなければ想定落札価格が必ず下がるとはい
えないから,上記の前提自体失当である。
ウ(原告の主張)ア(ア)ないし(カ)の事実は,いずれも想定落札価格と
本件請負代金額との間に,本件請負代金額の10%以上の差が生じている
ことの根拠となるものではないから,それらを根拠とすること自体失当で
ある。
第3当裁判所の判断
1認定事実等
前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実を認
めることができる。
(1)ごみ焼却施設について(甲8)
アごみは,家庭生活の営みに伴って排出される一般廃棄物と,事業者の事
業活動に伴って排出される産業廃棄物とに区分され,廃棄物の処理及び清
掃に関する法律により,一般廃棄物は市町村が処理し,産業廃棄物は排出
した事業者が自らの責任において処理することになっている。このため,
市町村は,その区域内で排出される一般廃棄物を処理するために単独で又
は他の市町村とともに一部事務組合又は広域連合を結成してごみ処理施設
を整備しており,国は,市町村,一部事務組合及び広域連合等の地方公共
団体が一般廃棄物を円滑かつ適正に処理するために行うごみ処理施設の整
備事業について,補助金を交付している。
イ地方公共団体が整備するごみ処理施設は,ごみの処理方法により,①ご
み焼却施設,②ごみ燃料化施設,③粗大ごみ処理施設,④廃棄物再生利用
施設及び⑤高速堆肥化施設に区分される。このうち,ごみ焼却施設は,燃
焼装置である焼却炉を中心に,ごみ供給装置,灰出し装置,排ガス処理装
置等の焼却処理設備を配置し,ごみの焼却処理を行う施設である。
ウごみ焼却施設は,1日当たりの稼働時間により,①24時間連続稼働す
る全連続燃焼式(以下「全連」という。),②16時間稼働する准連続燃
焼式(以下「准連」という。)及び③8時間稼働するバッチ燃焼式に区分
される。また,ごみ焼却施設は,採用される燃焼装置の燃焼方式により,
①ストーカ式燃焼装置(ごみをストーカ上で乾燥して焔燃焼させ,次に,
おき燃焼させて灰にする装置をいう。)を採用する焼却施設(ストーカ
炉),②流動床式燃焼装置,③ガス化溶解式焼却施設があり,①及び②が
主要機種である。
エ地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事には,新設,更新,増設,
改造及び補修工事がある。「新設工事」とは,ごみ焼却施設を新たに建設
することであり,「更新工事」とは,老朽化したごみ焼却施設の建替えや
老朽化した焼却炉などの入替えを行うことであり,「増設工事」とは,既
設のごみ焼却施設の処理能力を増加させるため,当該施設の一部として焼
却炉等を新たに増設することであり,新設,更新及び増設工事のいずれも,
ごみの焼却処理に必要な施設又は設備を新たに建設又は整備することであ
る。
(2)ごみ焼却施設の一般的な発注方法(甲8)
ア発注までの概略
地方公共団体は,ごみ処理施設を建設する実行年度の前々年度以前にご
み処理基本計画を策定する。ごみ処理基本計画において,地方公共団体は,
将来の人口の増減予測に基づいてごみの種別ごとの排出量を推計し,リサ
イクルできるごみの量や地域内で処理が必要なごみの量などを把握した上,
その処理のために設置すべき施設の整備計画の概要を取りまとめている。
地方公共団体は,その後,ごみ処理施設の建設用地の選定,環境アセスメ
ント,都市計画の決定等の手続を経た上で,実行年度の前年度にごみ処理
施設整備計画書を作成し,都道府県を経由して国に同整備計画書を提出す
る。その際,工事費用を把握するため,将来の入札に参加させられる施工
業者を選定し,工事の仕様を提示して「参考見積金額」を徴している。そ
して,国が国庫補助事業として予算計上した地方公共団体のごみ処理施設
整備事業については,予算計上後に内示が行われ,当該地方公共団体は,
この内示を受けた後に一般競争入札,指名競争入札,指名見積り合わせ又
は特命随意契約のいずれかの方法により,発注している。
地方公共団体は,整備すべきごみ処理施設が焼却施設である場合,通常,
ごみ処理施設整備計画書の作成時点までに,あらかじめ当該施設の燃焼方
式をいずれとするか定めているが,燃焼方式を1つに定めずに発注手続を
実施する場合もある。
イ発注方法
(ア)地方公共団体は,全連及び准連ストーカ炉の新設,更新及び増設工
事(以下,併せて「ストーカ炉の建設工事」という。)を「指名競争入
札」,「一般競争入札」,「指名見積り合わせ」又は「特命随意契約」の
方法により発注しているが,ほとんどすべては「指名競争入札」,「一
般競争入札」又は「指名見積り合わせ」(以下,併せて「指名競争入札
等」という。)の方法によっている。また,地方公共団体は,ストーカ
炉の建設工事の発注に当たり,ほとんどの場合,ごみ焼却施設を構成す
る機械,装置の製造及び据付工事並びに土木建築工事を一括して,後記
のプラントメーカー又はプラントメーカーと土木建築業者による共同企
業体に発注しているが,ごみ焼却施設を構成する機械,装置の製造及び
据付工事と土木建築工事とを分離して,前者をプラントメーカーに,後
者を土木建築業者に,それぞれ発注する場合もある。
(イ)地方公共団体は,指名競争入札又は指名見積り合わせの方法で発注
するに当たっては,入札参加資格申請した者のうち,地方公共団体が競
争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から
指名競争入札又は指名見積り合わせの参加者を指名している。また,一
般競争入札に当たっても,資格要件を定め,一般競争入札に参加しよう
とする者の申請を受けて,その者が当該資格要件を満たすかどうかを審
査し,資格を有する者だけを一般競争入札の参加者としている。(甲査
14,17)
ウ発注件数及び金額
平成6年度から平成10年度までの間に,地方公共団体が指名競争入札
等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の契約件数は87件,発注
トン数(1日当たりのごみ処理能力トン数)は2万3529トンであり,
発注金額(受注業者の落札金額による。以下同じ。)は約1兆1031億
円である(甲査29)。
(3)ストーカ炉の建設工事市場における別件5社の地位
ア別件5社について(甲10)
別件5社は,少なくとも別件審決がされた時点まで,全連及び准連スト
ーカ炉を構成する機械及び装置を製造し,これらを有機的に機能させるた
めの据付工事を行うとともに,設備機器を収容する工場棟の建設その他の
土木建築工事をも行って,当該ごみ焼却施設及びその関連施設の建設を行
う者であり,プラントメーカーともいわれていた。
イストーカ炉のプラントメーカー(甲査29,31)
ストーカ炉のプラントメーカーとしては,平成6年度から平成10年度
までの間,別件5社のほかに,株式会社D(以下「D」という。),A,
E株式会社(以下「E」という。),F株式会社(以下「F」という。),
B,C,G株式会社,H株式会社,I株式会社,J株式会社,株式会社K,
L株式会社,M株式会社,N株式会社等が存在していた。
ウストーカ炉の建設工事市場における別件5社の地位
(ア)別件5社の位置付け(甲査20,28,31)
別件5社は,少なくとも平成10年9月17日以前,ストーカ炉の建
設工事の実績の多さ,施工技術の高さ等から,プラントメーカーの中に
あって「大手5社」と呼ばれていた。
(イ)別件5社の事業能力
a別件5社の製造能力(甲査29,34,45)
別件5社は,平成10年9月17日以前,特に1炉につき1日当た
りのごみ処理能力トン数が200トン以上の焼却炉の製造能力におい
て,他社に比べて優位性を有していた。
b別件5社の情報収集力(甲査13,18,24,42,47,50
~53,120,123,156~159)
別件5社は,平成10年9月17日以前,地方公共団体のごみ焼却
施設の建設計画について,建設計画が判明した初期の段階から具体化
される過程において,ごみ焼却施設の機種,処理能力,建設予定時期
等様々な情報を順次収集することにより把握していた。
c別件5社の指名実績
(a)見積設計図書の作成依頼における実績(甲査18,23,24,
34)
地方公共団体は,ごみ焼却施設に係る整備計画書を厚生省(平成
10年9月17日当時の名称)に提出するに当たり,その資料の
1つとして見積設計図書を作成する必要があるところ,プラント
メーカーとしては,その作成依頼を受けることは,施設の規模,
選定機種,稼働時間等が把握でき,発注仕様書に自社が製造する
ストーカ炉の仕様を反映できる可能性があるとともに,加えて当
該ごみ焼却施設に係る指名競争入札等が実施される場合に入札参
加業者として指名を受ける確率が高まることから,非常に重要な
ものと認識し,見積設計図書の作成依頼を受けられるようにする
ことをまず目標として営業活動を行っていた。実際に,別件5社
は,平成10年9月17日以前,ごみ焼却施設の建設を計画する
地方公共団体から見積設計図書の作成依頼を受けることが多かっ
た。
(b)発注手続実施時の指名における実績(甲査29,149)
別件5社は,平成10年9月17日以前,地方公共団体が実施
するストーカ炉の建設工事の指名競争入札等において指名を受け
る機会が多く,指名競争入札等に数多く参加していた。一方,別
件5社以外のプラントメーカーが指名を受ける機会は少なく,別
件5社と別件5社以外のプラントメーカーには格差があった。
d別件5社の受注実績
(a)別件5社は,平成10年9月17日以前,地方公共団体が指名
競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事を数多く
受注してきた。平成6年度から平成10年度までの地方公共団体
のストーカ炉の契約において,別件5社が受注した件数は,87
件中66件であり,その割合は受注金額(落札金額による。)で約
87.0%(約9601億円)であり,別件5社以外のプラント
メーカーが同工事を受注することは少なく,別件5社と別件5社
以外のプラントメーカーには格差があった。(甲査29,160)
(b)ごみ焼却施設の規模(1日当たりのごみ処理能力トン数)は,
当該施設を設置する地方公共団体の区域内の1人当たりのごみ排
出量等に基づいて算出されることから,当該地方公共団体の人口
に比例して大型化するところ,平成6年度から平成10年9月1
7日までの間,東京都や政令指定都市などが発注する規模の大き
なストーカ炉の建設工事を受注したのは別件5社だけであった。
そして,いわゆる地方都市に当たる地方公共団体は,ストーカ炉
の建設工事を発注するに当たって東京都や政令指定都市の同工事
の発注に係る動向を見て発注内容を検討する傾向にあることから,
別件5社だけが東京都や政令指定都市が発注するストーカ炉の建
設工事を受注していたことは,ごみ焼却施設の建設を計画するそ
の他の地方公共団体に対する営業を行う上で別件5社にとって有
利であった。(甲査11,29,34,118)
e別件5社以外のプラントメーカーの地位(甲査39,48,110
~112,114~118)
別件5社以外のプラントメーカーも,別件5社と同様に,地方公共
団体発注のストーカ炉の建設工事の入札に参加すべく営業活動を行っ
ていたが,別件5社の営業活動が強力なために,受注実績に結びつい
ておらず,平成8年から平成10年ころ,別件5社と協調した行動を
とることによりストーカ炉の受注実績を得ることを検討していたプラ
ントメーカーもあった。
(4)別件5社担当者による会合の開催(甲査28,33,46,104,1
05,139)
ア別件5社は,遅くとも平成6年4月以降,各社のごみ焼却施設の営業責
任者クラスの者が出席する会合を,毎月1回程度,開催場所は各社の持回
りで開催していた(以下「本件会合」という。)。
イ本件会合には,被告から機械事業本部環境装置第1部環境装置1課長で
あるa(昭和61年10月から同課配属,平成8年4月から同課課長。以
下「a」という。)が,日立造船から環境・プラント事業本部環境東京営
業部長であるbが,日本鋼管から環境第1営業部第1営業室長であるc
(平成10年1月以前は環境プラント営業部配属)が,タクマから環境プ
ラント統括本部東京環境プラント部第2課長であるdが,川崎重工からは,
平成8年4月以前は機械・エネルギー事業本部営業総括部環境装置第1営
業部長であるe,同月以降は機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営
業本部営業開発第2部長であるf(平成8年4月に機械・エネルギー事業
本部営業総括部環境装置第1営業部主査となり,平成9年6月に機械・環
境・エネルギー事業本部環境装置営業本部環境装置第1営業部長となり,
平成10年1月に同営業本部営業開発第2部長に就任。以下「f」とい
う。)が,それぞれ出席していた。
ウ平成6年4月から平成10年9月まで,本件会合への出席者は,川崎重
工のeからfへの交代以外には変更がなく,これらの者は,別件5社の本
社のごみ焼却施設の営業担当部署の部長若しくは課長又はこれらと同等の
待遇の者であった。
(5)別件5社の従業員の供述等
アaの供述(甲査28,46)
aは,平成10年9月17日,公正取引委員会で行われた審査官からの
事情聴取に対して,自身が平成6年4月以降,本件会合に出席するように
なったこと,本件会合の出席者は,発注が予定されている物件については,
大分前から情報をつかんでおり,どのような物件があるかについては出席
者全員が共通の認識を持っていること,本件会合では,ごみ処理施設の発
注が予定される物件について,各出席者が,それぞれ受注を希望するか否
かを表明し,受注希望者が1社の場合は,当該社が受注予定者つまりチャ
ンピオンとなり,受注希望者が2社以上の場合は,希望者同士が話し合っ
て受注予定者を決めること,受注予定者を決める基本は各社が平等に受注
するということであり,各社が受注するごみ処理施設の処理能力の合計が
平等になるように受注予定者を決めていたこと,自身が本件会合に出席す
るようになってから,受注希望がかち合っても希望者同士の話合いですべ
て受注予定者が決まっていたこと,ごみ処理施設の受注予定者を決めるに
当たっては,ごみ処理施設の処理能力によって1日の処理能力が400ト
ン以上を「大」,200トン以上400トン未満を「中」,200トン未
満を「小」とし,それぞれに分けて受注希望物件を確認し,受注予定者を
決めていること,別件5社以外の者が指名された場合は,受注予定者が相
指名業者に対し個別に自社が受注できるように協力を求め,相指名業者に
物件を受注させる必要が生じたときには,受注予定者が本件会合で了承を
受けた後,相指名業者に受注させていたこと,受注予定者は,当該物件に
ついて積算し,別件5社及びそれ以外の相指名業者に入札すべき金額を連
絡して協力を求め,別件5社は受注予定者が受注できるように協力してい
たこと,自身が本件会合に出席した以降被告が受注予定者となった物件の
ほとんどすべては予定どおり被告が受注していたことを供述した。
イ日本鋼管のg(以下「g」という。)の供述等(甲査35,44)
gは,平成8年7月から,日本鋼管大阪支社の機械プラント部環境プラ
ント営業室長を務めていたが,平成10年9月18日,公正取引委員会で
行われた審査官からの事情聴取に対して,大阪支社では,近畿一円の官公
庁が発注するごみ処理施設の見積価格や入札価格については,すべて本社
の環境プラント第2営業部第1営業室から指示された価格で対応していた
こと,平成8年秋から冬にかけて,本社環境プラント営業部のh(以下
「h」という。)第2営業部長(肩書きは当時のもの),同部のi第1営
業室長及びj第1営業室係長と飲食店で飲食した際,同人らから,ごみ処
理施設の受注調整の内容を聞いたこと,その内容は,①別件5社のみで指
名競争入札が行われる場合には,別件5社のルールによって,あらかじめ,
物件ごとに受注予定者が決められる,別件5社にDとAが加わって指名競
争入札が行われる場合には,日本鋼管が受注予定者となっている物件につ
いても,上記2社と話合いを行うが,必ずしもすべて受注できるか分から
ない,別件5社にD,A,E及びBが加わった9社で指名競争入札が行わ
れる場合には,日本鋼管が受注予定者となっている物件について,E及び
Bとも話合いを行う,②別件5社の担当者が集まる張り付け会議と呼ばれ
る会議を年1回開催して,別件5社が情報を有している物件について,別
件5社が平等に分け与える形で,物件ごとにあらかじめ受注予定者を決め
ている,③張り付け会議では,別件5社の各社から,受注予定者となりた
い受注希望の物件を述べ,希望者が1社だけの場合には当該会社が受注予
定者となり,希望者が複数の場合にはその場で受注予定者を決める,④1
日のごみ処理能力によって受注予定物件を400トン以上の大規模物件,
100トン以上400トン未満の中規模物件,100トン未満の小規模物
件の3つに区分し,それぞれに分けて受注予定者を決める,⑤受注予定者
は当該受注予定物件について受注する権利を持つとともに別件5社以外の
プラントメーカーが入札に参加しないように発注する地方公共団体に働き
かける義務を持つ,⑥指名競争入札が数年後に行われた場合でも,受注予
定者は当該物件を受注する権利を持つ,⑦別件5社以外のプラントメーカ
ーが入札に参加することとなった場合には「たたき合い」が生じることも
あり,受注予定者が必ずしも受注できるとは限らないが,受注できなかっ
た場合でも,別件5社は補填といった面倒はみない,というものであった
ことを供述した。
gが,平成8年秋から冬にかけてごみ処理関係について部下を指導する
ために作成したメモ(甲査35)には,「ストーカ炉は,大手5社(NK,
日立造船,三菱重工,川重,タクマ)が中核メンバーで,DとAが準メン
バー。但し,E,B等は話合いの余地はある。」,「※ストーカー大手5社
のルール①大(400t以上),②その他全連(399t以下),③准連
の3項目に分けて張り付け会議を行う。1年に1回。その時点で明確とな
っている物件を,だいたい各社1個ずつ指定する。その後はその物件は1
00%その会社が守る権利と義務が発生する。その物件が何年先かは関係
ない。同年度に重なったりゼロであったりする。比率は5社イーブン(2
0%)その物件に5社以外のメンバーが入った時は,タタキ合いとなる。
業界は補てん等一切行わない。20%のシェアを維持する方法は受注トン
数/指名件数でありその為に指名は数多く入った方がベター。」等と記載
されている。
ウ被告のk(以下「k」という。)の供述等(甲査40,42,43,4
9,102)
kは,平成8年3月から,被告中国支社の機械1課に配属され,同年4
月から同課課長となり,官公庁相手のごみ処理施設等の営業を担当してい
たが,平成10年9月18日,平成11年7月26日,同月27日,公正
取引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,平成8年4月に前
任のl(以下「l」という。)から引継ぎを受けた際,①ごみ焼却施設の
受注については,別件5社が機会均等に受注するために,受注予定者を決
めて受注予定者が受注できるようにするという慣行がある,②実際の入札
で特定の物件についてどの業者が受注予定者となるかについては,各社の
本社レベルで話合いが行われているなどと聞かされたことを供述した。
kが,平成8年3月,前任者のlから,同社中国支社機械一課の業務内
容の引継ぎを受けた際に聞き取った内容を記載したメモ(甲査40)には,
「仲5社機会均等」,「全連24H/DAY:東京仲」,「准連18H
/DAY:東京仲」,「機バ8H/DAY:」等と記載されている。
エ被告のm(以下「m」という。)の供述等(甲査37,47,108)
mは,昭和62年5月に被告中国支社の化学環境装置課に配属となり,
平成元年4月から,同課において官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担
当するようになったが,平成11年2月4日及び同月5日,公正取引委員
会で行われた審査官からの事情聴取に対して,前任者のnの退職に伴い官
公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当するようになった際,nから,
「業界(機種別)の概況について」と題する文書を引き継ぐとともに,ス
トーカ炉の受注については別件5社の間に受注調整のための協定が存在し,
それによって別件5社が,地方公共団体等が発注するごみ焼却施設を受注
する機会を均等化しているとの説明を受けたこと,ごみ処理施設の営業を
担当するようになってからも受注調整行為は行われていたこと,そのよう
な受注調整行為は,支社レベルではなく本社レベルで行われており,管理
職以上の課長クラスの者が対応していると思うこと,本社からは,地方公
共団体等に対する営業活動に当たっては,「大手5社に絞り込め」と言わ
れ,地方公共団体等が発注するごみ焼却施設の入札の指名を受ける業者を
別件5社のみとさせるような営業活動を行うように指示を受けていたこと,
そのため,発注予定物件の情報を得た場合には,過去の実績表を持参し,
過去の実績のある会社,すなわち別件5社に指名を絞らせるために,地方
公共団体等に対して「大手5社に頼むのがいいですよ」などと売り込んで,
地方公共団体等の行う指名を別件5社に絞らせるような営業活動を行って
いたこと,中国支社では各年度において営業目標として必注案件を設定し,
これを本社に報告していること,別件5社の間には,指名を得た件数又は
処理トン数を分母とした一定の計算式があるのではないかと考えられるこ
とを供述した。
mが,平成元年4月,nから引き継いだとされる「業界(機種別)の概
況について」と題する文書(甲査37)には,「ごみ焼却炉」に関し,
「※全連:大手5社協有.受注機会均等化(山積)…極力5社のメンバー
セットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う)」,「(他者案件でも指名
入りで分母積み上げを図る要あり)」等と記載されている。
オタクマのo(以下「o」という。)の供述(甲査45)
oは,平成10年6月からタクマの環境プラント本部の本部長を務めて
おり,ごみ焼却施設等の営業責任者であったが,同年9月17日,公正取
引委員会で行われた審査官からの事情聴取に対して,同年7月以降,タク
マの環境プラント本部営業部長から,受注を獲得するための営業方針につ
いて,何としてもタクマが受注したいという物件については,タクマが他
社との間で話合いを行い,タクマの入札価格よりも高い価格で他社が入札
することについて応じてもらい,他社の協力を得て受注し,他社がどうし
ても受注したいという物件についてはタクマが協力するとの話を聞いたこ
とを供述した。
(6)別件5社が受注予定者を記載したことがうかがえるリストの存在等
ア川崎重工のp(以下「p」という。)が所持していたリストについて
(ア)川崎重工の機械・環境エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営
業部参事であるpが所持していた「年度別受注予想H07.09.2
8」と題する印刷文字で記載された表とこれを作成するための原稿とみ
られる手書きの表等からなる書面(以下,これらを併せて「pリスト」
という。)には,別紙2のとおり,平成7年9月28日の時点で,平成
8年度以降,地方公共団体からの発注が見込まれるごみ焼却施設建設工
事が,年度別(平成8年度,9年度,10年度,11年度及び12年度
以降の5分類)及び工事内容別(「-S」(ストーカ炉と思われる。)と
「-F」の2分類)に区分されて記載され,「-S」欄の工事は合計7
9件(平成8~10年度分だけで56件)が記載されるとともに,工事
ごとに,受注予定者として,川崎重工の略語と思われる「K」,被告の
略語と思われる「M」,日立造船の略語と思われる「H」,日本鋼管の
略語と思われる「N」,タクマの略語と思われる「T」の文字などが記
載されていた(甲査89,140)。
(イ)地方公共団体が平成8年度から平成10年度までに行ったストーカ
炉の発注状況は,別紙3のとおりであり,①平成8年度に発注された工
事(全15件)のうちpリストには12件が記載され(同リスト中の発
注予想年度は平成8年度,10年度及び11年度に分布する。),Aが
落札した2件(「日南地区衛生センター管理組合」工事及び「久居地区
広域衛生施設組合」工事)を除く10件についてpリストに記載された
別件5社の該当社がそれぞれ落札し,②平成9年度に発注された工事
(全21件)のうちpリストには9件が記載され(同リスト中の発注予
想年度は平成8年度ないし11年度に分布する。),Aが落札した1件
(「函南町」工事)及び日立造船が落札した1件(「東京都(中央地区
清掃工場)」工事)の2件を除く7件についてpリストに記載された別
件5社の該当者がそれぞれ落札し,③平成10年度に発注された工事
(全7件)のうちpリストには1件が記載され(「M」欄にある「名古
屋五条」工事),同工事については,被告がpリストの記載どおり落札
した(甲査29,89)。
(ウ)pリストの「H11」の行の「M-S」の列には,「甲市80」
の記載がある(甲査89)。
イ別件5社に係るその他のリストとその記載内容
(ア)川崎重工の平成9年9月ころのリスト(甲査155。「全連400
T以上」,「全連200-400T未」,「全連60-200T未満」,
「全連60T未満」の4つに分類している。)には「全連60-200
T未満」のリストの左端欄に手書きで,14工事について別件5社の略
称と思われる記載がされているところ,当該リストに記載されたごみ処
理施設は,日本鋼管の同月11日付けのリスト(甲査62,63。「全
連400t以上」,「全連200t以上400t未満」,「全連200
t未満」に分類した上,「60t以下の物件は超小型の為,別枠とす
る。」との記載がされている。)に記載されたごみ処理施設と,200
トン以上400トン未満の工事について川崎重工のリストに「東村山
市」の記載がある点等数点を除き,ほぼ一致している(甲査62,63,
155)。
(イ)日本鋼管従業員のq(以下「q」という。)が所持していた平成9
年12月17日付けのリスト(甲査58,59。「全連400t以上」,
「全連200t以上400t未満」,「全連200t未満」に分類され,
60トン未満の工事については別枠で記載されている。)の記載と日立
造船の環境事業本部から平成10年1月27日付けでファクシミリ送信
されたリスト(甲査55。「大型」,「中型」,「小型」に分類され,それ
ぞれ400トン以上,200トン以上400トン未満,200トン未満
の工事が記載されている。)の記載とは,日立造船のリストに記載のあ
る「宗像古賀」工事が日本鋼管のリストに記載されていない点等数点を
除き,ほぼ一致している(甲査55,58,59)。
(ウ)日立造船の社内で作成された平成10年3月24日付けのリスト
(甲査56。「大型」,「中型」,「小型」に分類され,それぞれ400ト
ン以上,200トン以上400トン未満,200トン未満の工事が記載
されている。)の記載は,5工事について手書きで別件5社の略称が付
されているところ,同略称の記載は,被告従業員のr(以下「r」とい
う。)が所持していたメモ帳(甲査77)の記載と一致している(甲査
56,77)。
(エ)日立造船の平成10年3月24日付けのリスト(甲査54。「大
型」,「中型」,「小型」に分類され,それぞれ400トン以上,200
トン以上400トン未満,200トン未満の工事が記載されている。)
の記載と日本鋼管の同年9月16日付けリスト(甲査61。「400T
以上(大型)」,「200T以上400T未満(中型)」,「200T未満
(小型)/*60T以下」に分類されている。)の記載とは,日立造船
のリストに記載のある「和歌山中部広域」工事が日本鋼管のリストに記
載されていない点等数点を除き,ほぼ一致している(甲査54,61)。
(7)受注希望を表明し,又は受注予定者を決定した会合に関するメモの存在

ア平成8年12月9日の会合に関するメモと思われるメモの存在と推認さ
れる事実
(ア)被告従業員のaが所持していたノート(甲査67)には,400ト
ン未満のごみ処理施設を列挙したとみられるリストのわきに,「1順目
は自由2順目は自由3順目は200T/日未満」,「12/9」,
「バッティングしたら12/18までに結着」との記載がある(上記ノ
ートの前の部分の記載(甲査179添付資料)から,上記「12/9」
は平成8年12月9日を意味するものと認められる。)(甲査67)。
(イ)日本鋼管の環境第二営業部のs(以下「s」という。)が所持して
いた平成8年の手帳(甲査76)には,400トン未満のごみ処理施設
を列挙したとみられるリストの下に,「①200t/日以上②200
t/日未満」,「12/92件①,②双方からさらに1件②から
合計3件」,「最初2件で選択されず残った場合は最後の1件(②区
分)で選択可」との記載がある(甲査76)。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の事実から,平成8年12月9日に本件会合が開
かれ,同会合において,地方公共団体が発注するごみ処理施設について,
順番に受注希望を表明する方法で受注業者を決める話合いが行われたこ
とを推認することができる。
イ平成9年9月29日,同年10月16日及び同月29日の会合に関する
メモと思われるメモの存在と推認される事実
(ア)日本鋼管の環境第二営業部のsが所持していた平成9年9月1日付
けのストーカ炉の手書きのリスト(甲査60)の上部余白には,「全連
小型(200T未満)9/292~3件大型10/161件中
型10/292件?」,「9/11大・中・小対象物件確定」との記
載があり,本文中に「一緒になった場合規模,管理者,建設用地(企
業城下町)これらの指標をみて話し合い」,「救済措置あり同規模追加
できる」,「増えた会社次回調整」との記載がある(甲査60,14
0)。
(イ)日本鋼管のsが所持していた同年9月11日付けのリスト(甲査6
2)及び同社東北支社のt(以下「t」という。)が所持していた同日
付けのリスト(甲査63)の各表紙には,「全連200t未満3件
9/29(月)」,「〃200t以上~400t未満2件10/2
9(水)」,「〃400t以上1件10/16(木)」との記載が
ある(甲査62,63,140)。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の事実に加え,川崎重工の平成9年9月ころのリ
スト(甲査155)に記載されたごみ処理施設は,日本鋼管の同月11
日付けのリスト(甲査62,63)に記載されたごみ処理施設とほぼ一
致していること(上記(6)イ(ア))から,別件5社は,平成9年9月1
1日ころまでに,受注調整を行う予定物件を業者間で確定した上,同月
29日,同年10月16日及び同月29日に,受注調整を行うための本
件会合を行ったことが推認できる。
ウ平成10年1月30日の会合に関するメモと思われるメモの存在と推認
される事実
(ア)日本鋼管環境第一営業部のqが所持していた平成9年12月17日
付けのリスト(甲査58)のうち,「全連200t以上400t未満」
の欄には,「1/20対象物件見直し」,「1/30張付け」との記
載がある(甲査58)。
(イ)日立造船環境事業本部営業本部の東京営業部が平成10年1月27
日大阪営業部にファクシミリ送信したストーカ炉のリストの送信文書
(甲査55)には,「中型の対象物件送付します」,「1/30ハリ
ツケする予定です」との記載がある(甲査55)。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の事実に加え,上記(ア)及び(イ)の各リストの記
載内容がほぼ一致していること(上記(6)イ(イ))から,別件5社を含
むプラントメーカー数社は,平成10年1月30日,受注調整を行うた
めの本件会合を行ったことが推認できる。
エ平成10年3月26日の会合に関するメモと思われるメモの存在と推認
される事実
(ア)日本鋼管環境第一営業部長のu(以下「u」という。)が所持して
いた平成10年の手帳(甲査73)には,同年3月26日の欄に,「業
<中小型物件はりつけ>」との記載がある(甲査73)。
(イ)被告環境装置第一部次長のvが所持していた平成10年の手帳(甲
査79)には,同年3月26日の欄に,「最終決定」との記載がある
(甲査79)。
(ウ)被告中国支社のkが平成10年3月26日に被告のaからの連絡内
容を記載したとされるメモ(甲査96)には,「aK:3/26日秘会
合で中国5県の話は出なかった。」との記載がある(甲査96,10
2)。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)の事実から,別件5社は,平成10年3月26
日,受注調整を行うための本件会合を行ったことが推認できる。
(8)入札実施前に入札価格等の連絡が行われたことをうかがわせるメモの存
在と推認できる事実等
ア(ア)日本鋼管の環境エンジニアリング本部環境第二営業部長であるhが
所持していたメモ(甲査124)には,別紙4の記載があり(甲査12
4,140),同メモ記載の「M」,「K」,「H」,「T」は,それぞれ日
本鋼管を除く別件5社の略称であり,上記メモを日本鋼管のhが所持し
ていたことから,別紙4の略称の記載のない行については,日本鋼管の
金額を示すものと推認できる。
(イ)平成10年8月31日に行われた賀茂広域行政組合発注に係るスト
ーカ炉建設工事の入札手続における第1回の入札金額は日本鋼管が62
億円,被告が65億円,川崎重工が67億円,日立造船が69億円,タ
クマが69億5000万円であり,日本鋼管が第1回の入札で上記金額
で落札した(このような金額及び経過で入札に至った物件はほかに存在
しない。)(甲査29)。
(ウ)上記(ア)及び(イ)のとおり,上記(ア)のメモの①の列の金額とは,
日本鋼管において5000万円差異があることを除いて一致しており,
上記(ア)のメモは,賀茂広域行政組合発注に係るストーカ炉建設工事の
入札手続に関して作成されたことが推認されるところ,同メモに日本鋼
管が第3回の入札に至っても落札できない場合には,第4回の入札にお
いて,日本鋼管以外の入札者がいずれも辞退することによって受注でき
る旨の記載があることなどからすれば,入札手続前に受注予定者である
日本鋼管と同工事の指名業者である別件5社のうち日本鋼管を除く4社
との間で入札金額等について調整を行い,それに沿った金額で同4社が
入札したものと推認される。
イ(ア)川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部東部
営業部参事であるw(以下「w」という。)が所持していた平成7年5
月2日付けのメモ(甲査125,140)には,焼却炉工事の見積原価
が積算過程とともに示され,「出し値」として,第1回から第3回まで
の入札価格が記載されるとともに,「不調の場合の予定価格と最低入札
額の想定」がされ,「入札結果に至る過程」として2つの案が検討され
た上で最終案が示されている。そして,別件5社の略称とともに,別件
5社の第1回から第3回までの入札金額が記載された別紙5の記載のあ
る一覧表が添付されている。(甲査125,140)
(イ)平成7年5月9日に指名競争入札が行われた佐渡広域市町村圏組合
工事において,別件5社は,下記のとおり入札し,川崎重工が,第3回
の入札で,60億5000万円で落札した(甲査29)。
a川崎重工
第1回62億2000万円
第2回61億5000万円
第3回60億5000万円
bタクマ
第1回63億1000万円
第2回61億9500万円
第3回61億0500万円
c日本鋼管
第1回66億9000万円
第2回62億1500万円
第3回61億4000万円
d日立造船
第1回64億6000万円
第2回61億9000万円
第3回61億円
e被告
第1回66億円
第2回62億円
第3回61億2500万円
(ウ)上記(ア)及び(イ)の事実から,上記(イ)の入札における第1回から
第3回の入札金額は,上記(ア)のメモに記載された金額と完全に一致し,
上記(ア)のメモは,上記(イ)の入札に関し作成されたものと推認でき,
入札手続前に受注予定者である川崎重工と同工事の指名業者である別件
5社のうち川崎重工を除く4社との間で入札金額等について調整を行い,
それに沿った金額で同4社が入札したものと推認される。
(9)ストーカ炉の建設工事の受注に関する数値を算出しているメモの存在と
推認できる事実等
ア被告の環境装置一課主務であるrが所持していた「O」という書出しの
ノートには,次の記載があり,各記載から,以下の事実を推認できる(甲
査106)。
(ア)「→12/24」という書出しの頁
同頁には,左側に,別件5社を示す略称とその右側にそれぞれの会社
に対応した分数値が記載され,右側には,左側に記載された分数値より
も分母及び分子ともに増加した分数値が記載され,それぞれの右側に各
社の分数値を小数値にしたものが示されており,その小数値が小さいも
のから順位を示す番号が付されている。そして,同頁の上部及び下部に
は,日付と地方公共団体による発注物件名とみられる記載及び数値の記
載がある。
上記の事実から,同頁は,作成当時の別件5社の受注及び受注予定の
全体的な状況を把握するために作成されたことが推認される。
(イ)「→1/26」という書出しの頁
同頁には,上記(ア)に類似する計算結果が示されており,別件5社の
ほかD及びAを示す略称が加えられ,合計7社について,分数値,小数
値及び順位を示す番号が記載されている。
上記の事実から,同頁は,別件5社に上記2社を加えた7社の入札状
況を数値化して把握するために作成されたことが推認される。
イpが所持していた「状況7H07.11.30現在(H8/2調整
済)」と題する2枚の表には,別件5社,D及びAの7社について,平成
7年8月27日を「前回」,同年11月30日を「現状」として,「現
状」欄の「A」欄及び「B」欄には,「前回」の「A」欄及び「B」欄の
数値に,「変更ポイント」欄の「A」欄及び「B」欄の数値をそれぞれ加
算した数字が記載され,「B」欄の数値を「A」欄の数値で除した小数値
が「Q」欄に記載されており,同欄の小数値が少ない会社から順に順位を
示す番号が記載されている(甲査107,140)。
上記の事実から,同表は,同表に記載された19の工事について,各工
事の処理トン数を基にした数値を加えるなどして,上記7社の受注状況を
把握するために作成されたことが推認される。
(10)アウトサイダーへの協力依頼をうかがわせる資料の存在と推認される
事実等
アBエンジニアリング事業本部営業第一部第二グループリーダーであるx
(以下「x」という。)が所持していた平成9年7月1日付けのメモ(甲
査109)には,別紙6の記載があり,そのうち「河内長野の件」とは,
同年8月8日入札の「南河内清掃施設組合(第2清掃工場)」工事に関す
るメモであることが推認される(甲査29,109,140)。
上記事実から,上記工事について,Bが,同年7月7日の発注者への見
積書の提出に関して他者と協調するかフリーで入札するかを検討して,同
工事について最終的に他社の意向に従ったとしても,次回は日立造船に対
して他物件の要請をしやすくなるとの検討がされたこと,Bが上記工事に
ついて日立造船から受注の協力要請を受けていたことが推認される。
イ(ア)日本鋼管環境第一営業部長のuが所持していた「物件情報」との表
題のノートのうち「東京中央工場」と書出しの部分には,別紙7の記載
が,タクマの環境プラント本部専務取締役統轄本部長yが所持していた
平成10年版の手帳のうち,同年1月12日の該当箇所には「IHI
TEL」との記載が,被告の環境装置一課主務のrが所持していた
「O」と書き出しのメモには,「中央“T”」,「I加わる,Hの上Iを
説」との記載が,Fの環境・プラント事業本部長補佐兼P株式会社取締
役z(以下「z」という。)が所持していた平成10年版の手帳のうち,
同年1月23日の該当箇所には「HII施工①足立or最悪他でも②H
9/下で50億程度…大枠OK」等との記載が,同手帳のうち「1/1
2(月)」と書き出しの頁には「yMDTel」との記載が,同手帳
のうち「タクマ…単独の命題」と書き出しに続く部分には,別紙8の記
載がある(甲査111,112,114~118)。
(イ)Fのzは,平成11年1月25日,公正取引委員会で行われた審査
官からの事情聴取に対して,東京都発注の中央地区清掃工場建設工事に
関し,同工事には,同社,別件5社に加え,D,A及びEが参加したこ
と,Fは同工事の建設予定地が同社の豊洲工場の目と鼻の先であるため
是非受注したい工事であったこと,平成元年1月21日及び同月23日
に同工事に関する他社との打合せを行ったこと,上記(ア)のzが所持し
ていた平成10年版の手帳のうち「タクマ…単独の命題」と書き出しに
続く部分に記載された「Hz」とは日立造船を指すこと等を供述した
(甲査118)。
(ウ)pリスト(平成7年9月28日付け)には,平成9年の「T-S」
欄には「東京-中央」との記載がある(甲査89)。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)の事実から,平成10年1月26日入札の「東
京都(中央地区清掃工場)」工事については,平成7年9月28日時点
ではタクマが受注予定者とされていたが,平成10年1月中旬に至って
もアウトサイダーであるFが,その建設予定地が同社の豊洲工場の目と
鼻の先にあることなどを理由に受注を希望し,同社とタクマとの間で電
話による話合いなどが行われたが決着がつかず,同月21日及び23日
に,F,被告,E,タクマ,川崎重工,A,D,日本鋼管による話合い
が行われ,その結果,Fが,上記工事について,日立造船が受注予定者
とされていた「東京都(足立工場)」工事とのバーターに乗ることで
「東京都(中央地区清掃工場)」工事についての受注希望を取り下げる
こととされ,結局,Fが「東京都(足立工場)」工事の受注予定者とな
り,日立造船が「東京都(中央地区清掃工場)」工事の受注予定者とな
り,他社はこれに協力することになったことが認められる(甲査29,
111,112,114~118)。
(11)落札率等
ア平成6年4月から平成10年9月17日まで
上記期間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストー
カ炉の建設工事は87件であり(別件5社が落札した工事は66件,アウ
トサイダーが落札した工事は21件),そのうち予定価格が判明していた
84件について落札率(予定価格に対する落札価格の比率)をみると,ア
ウトサイダーが受注した工事の平均落札率は89.76%であるのに対し,
別件5社のうちのいずれかが受注した物件(予定価格が不明なものを除
く。)の平均落札率は96.6%であった(甲査29,146)。
イ平成10年9月17日から平成16年7月31日まで
上記期間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストー
カ炉の建設工事は48件であるところ(甲査194の54件から第三セク
ター,廃棄物処理センター及びPFI事業者が発注した6工事を除いたも
の。),その平均落札率は91.9%であり,そのうち別件5社が受注し
た31件の落札率の平均は90.1%,アウトサイダーが受注した17件
の落札率の平均は95.2%であった。また,上記48件の工事のうち,
平成13年度までに発注された40件の落札率の平均は95.4%,平成
14年度以降に発注された8件の落札率の平均は74.4%,そのうち平
成15年度以降に発注された4件の落札率の平均は63.9%であった
(甲査194)。
(12)会合の取りやめ
別件5社は,平成10年9月17日に公正取引委員会が独禁法の規定に基
づき審査を開始したところ,同日以降,本件会合を開催していない(甲査1
04,139,143)。
(13)本件入札に至る経緯
ア原告は,平成8年9月ころ,一般廃棄物処理施設整備計画を作成するた
めの参考資料として,プラントメーカーから,ごみ焼却施設建設の参考見
積りをとることとした。原告は,その当時,ごみ焼却炉の燃焼方式として
は全国的にストーカ炉が主流であり,原告の既存の焼却炉もストーカ炉で
あったことから,新しいごみ焼却施設の焼却炉もストーカ炉とすることに
決定し,見積を依頼する業者として,ストーカ炉において実績のあるプラ
ントメーカーである,被告,日本鋼管,タクマ,日立造船,C,A及びB
(本件7社)を選定した。(弁論の全趣旨)
イ原告は,平成8年11月13日,甲市役所に本件7社の担当者を集め,
ごみ焼却施設建設に伴う現地説明会(以下「本件現地説明会」という。)
を開催し,ごみ焼却施設建設整備計画を策定するための見積りを依頼した
(弁論の全趣旨)。
ウ原告は,本件7社からそれぞれ見積書の提出を受け,見積書の最高価,
最低価を除く5社の見積りを工種ごとに比較し,それぞれの工種ごとに,
最高価,最低価を除いた4社又は3社の金額を平均したものに0.9を乗
じて算出した合計額である45億2224万円(税別)を設計価格として
算定し,設計価格に0.98を乗じた価格である44億3180万円(税
別)を予定価格とした(弁論の全趣旨)。
エ平成9年3月1日付けの両丹日日新聞において,原告の本件工事を含む
ごみ焼却施設の総事業費が48億7000万円であることが報じられた
(乙16)。
オ原告は,平成9年5月20日,上記ウの設計価格,予定価格を知らせる
ことなく,本件7社を指名業者として,本件入札を実施した(弁論の全趣
旨)。
(14)本件入札の結果
ア本件入札における,本件7社の見積金額(既存施設の解体費用を含まな
い。)と入札金額は,以下のとおりであった(弁論の全趣旨)。
(ア)C
見積金額44億3400万円
入札金額42億9000万円
(イ)A
見積金額55億1300万円
入札金額49億円
(ウ)タクマ
見積金額56億2400万円
入札金額49億5000万円
(エ)日本鋼管
見積金額55億0800万円
入札金額51億円
(オ)日立造船
見積金額55億7200万円
入札金額49億8000万円
(カ)被告
見積金額55億3400万円
入札金額42億5000万円
(キ)B
見積金額55億6100万円
入札金額47億9000万円
イ被告の入札金額について,その落札率は95.9%であった。
2本件入札における不法行為の存否
(1)本件基本合意の存否について
ア上記1(4)のとおり,別件5社は,遅くとも平成6年4月以降,各社持
回りで,営業責任者クラスの者が出席の上,ごみ焼却施設の建設工事に関
する会合を毎月1回程度開催していること,上記1(5)のaの供述(同
ア)及びgの供述(同イ)は,地方公共団体発注予定のストーカ炉の建設
工事につき,発注予定物件を処理能力(トン数)ごとに3分類し,同分類
に従い受注予定者を決定していたこと,別件5社における受注希望者が1
社の場合は当該会社が受注予定者となり,競合した場合には競合会社間の
話合いにより受注予定者を決定していたこと等の核心的な部分において符
合し,その他の関係者の各供述(上記1(5)ウ~オ)も,別件5社が,地
方公共団体発注に係るストーカ炉の建設工事につき受注調整行為を行って
いたことについて符合している。
そして,上記各供述に加え,別件5社が受注予定者を決定していたこと
を裏付けるリスト(上記1(6)),受注希望表明や受注予定者決定のため
の別件5社による本件会合が行われたことを裏付けるメモ(上記1(7)),
別件5社間で入札価格等の連絡が行われていたこと等を裏付けるメモ等
(上記1(8)),別件5社の受注割合を計算し数値により把握するための
メモ(上記1(9))が存在すること,別件5社のうちの受注予定者からア
ウトサイダーへの協力依頼をうかがわせる資料が存在すること(上記1
(10)),予定価格が判明していたストーカ炉の建設工事のうち,公正取引
委員会が独禁法の規定に基づく審査を開始した平成10年9月17日まで
に別件5社が落札した工事の落札率が,同一期間にアウトサイダーが落札
した工事の落札率よりも顕著に高率であり,同日以降に別件5社が落札し
た工事の落札率が,同日以前のものと比べて低率になっていること(上記
1(11))等を併せ考えれば,別件5社は,遅くとも平成6年4月までに
は,各営業担当者が出席して行われた会合(本件会合)において,地方公
共団体発注予定のストーカ炉建設工事について,受注機会の均等化を図る
ため,ストーカ炉の処理能力の区分に応じ,当該物件の入札前に,受注予
定者を話合いにより決定し,アウトサイダーが指名競争入札等に参加する
場合には,受注予定者が,自らが当該物件を受注できるように当該アウト
サイダーに協力を求めるなどした上,各社の入札価格を連絡して調整する
などして,当該受注予定者が受注できるように入札していたことが認めら
れ,それら一連の行為は,遅くとも平成6年4月までに形成された本件基
本合意に基づくものと認められる。そして,本件基本合意に基づく上記一
連の行為は,少なくとも,公正取引委員会が独禁法の規定に基づき審査を
開始し,別件5社による本件会合が行われなくなった平成10年9月17
日(上記1(12))まで継続していたものと認められる(同日以前に本件
基本合意が解消された事実を認めるに足りる証拠はない。)。
イ被告の主張について
(ア)関係者の供述について
a日本鋼管のgの供述等について
(a)被告は,gの供述及びメモは伝聞によるものであり,信用性に
欠ける旨主張する。
しかしながら,gが話を聞いたとされるhは日本鋼管の本社環
境プラント営業部の第2営業部長の地位にあったのであり,スト
ーカ炉の受注に関する責任ある立場にあって,受注調整に関わる
種々の情報を入手できる立場にあり,gも,日本鋼管大阪支社の
機械プラント部環境プラント営業室長として,ストーカ炉の営業
を担当する者であって,その職務の性質上,ストーカ炉の受注に
関し相当の関心,知識を有し,そのような関心と知識に基づいて
メモを作成したといえ,伝聞であるとしてもその信用性が否定さ
れるものではない。
(b)被告は,被告のaの供述とgの供述及びメモには重要な点に
齟齬がある旨主張する。
確かに,aの供述とgの供述及びメモを比較すると,対象物件
の分類,受注予定者の決め方,アウトサイダーとの関係などにつ
いて違いが見られるが,両者は,別件5社が会合を開いて張り付
け会議を行い受注予定者を決定し,別件5社で受注機会が均等に
なるようにしていたこと,対象物件についてトン数による区分を
設けて受注調整を行っていたことなどの重要な部分において一致
している。また,aが別件5社の会合の出席者として自ら体験し
た事実に基づいて供述しているのに対し,gのメモ等はgが自ら
体験した事実ではないから,前者と比較してその正確性には自ず
から限界があること,gが別件5社の受注調整のためのルールを
hらから聞き,メモを作成したのは平成8年であり,時期の違い
を考慮する必要があること,アウトサイダーとの関係について,
aの供述はアウトサイダーとの調整が失敗した場合の対応につい
て言及していないのに対し,gのメモ等は,その記載内容からし
て,アウトサイダーとの間で調整のための努力をすることは当然
の前提として,それが失敗した場合について言及したもので,そ
のため表面上の差異が生じたにすぎないと理解できることなどか
らすれば,aの供述とgのメモ及び供述が実質的に矛盾している
ということはできず,gのメモ及び供述に信用性がないとはいえ
ない。
b被告のaの供述について
(a)被告は,別件5社の平成6年から平成10年9月17日までの
受注実績に照らすと,処理能力のトン数の平等は実現されていな
いことが明らかであるから,aの上記1(5)アの供述は信用性がな
い旨主張するが,必ずしも上記期間において発注される工事のみ
で受注調整を行っていたということはできず,上記期間において
受注実績が平等でないとしても,かかる事情がaの上記供述の信
用性を失わせるものではない。
(b)被告は,上記1(5)アの供述後,aが供述を変遷させた点を指
摘する。
確かに,aは,上記供述の後,受注調整のため別件5社の担当
者が集まった会合は存在しないなどと供述を変遷させ,自らがし
た上記1(5)アの供述を否定するに至っているが(甲査176,1
83~189),いずれも供述を変遷させたことについて合理的な
説明がされておらず,審査官に対し,自身が記載したメモ等に関
する質問にも回答しないなどの供述態度にかんがみれば,上記変
遷後のaの供述は到底信用に値するものではなく,上記1(5)アの
供述の信用性を否定するものとはいえない。
(c)被告は,aの供述は,審査官が立入検査当日に混乱に乗じ,真
偽も定かでない事前の談合情報による予断によって誘導を行った結
果作成されたものであり,証拠価値がない旨主張する。
しかしながら,aの供述は検査当日に,検査による証拠等を吟
味する間もない時点での供述であるにもかかわらず,客観的証拠
と符合しているのであるから,審査官の予断により作成されたと
はいえず,当日の事情聴取において,審査官がaに対し不当に意
思を抑圧したという事情も認められない。
c被告のkの供述について
被告は,kの供述内容が伝聞ないし再伝聞にすぎないなどの点で証
拠価値がない旨主張するが,kは,被告の中国支社機械1課課長とし
て,官公庁相手のごみ処理施設等の営業を担当し,その職務の性質上,
ストーカ炉の受注に関し相当の関心と知識を有し,そのような関心と
知識に基づいてlから聞いたことなどを供述したものといえ,その内
容が再伝聞であることをもって信用性が否定されるものではない。
d被告のmの供述について
被告は,mの供述は伝聞ないし再伝聞にすぎず証拠価値がない等と
主張するが,被告の中国支社化学環境装置課において,官公庁向けの
ごみ焼却施設等の営業を担当していたものであり,その職務の性質上,
ストーカ炉の受注に関し相当の関心と知識を有し,そのような関心と
知識に基づいて,nから引き継いだ「業界(機種別)の概況につい
て」と題する文書の中身を理解し,これを業務遂行に当たり参考にし
ていたものと認められる。そして,mが上記文書の内容に沿った供述
をしていることからすれば,その供述が伝聞であることをもって信用
性を否定することはできない。
eタクマのoの供述について
被告は,oの供述が伝聞によるものであり,信用性に乏しい旨主張
するが,oはタクマの環境プラント本部の本部長を務め,ごみ焼却施
設等の営業責任者であったものであり,その職務の性質上,ごみ焼却
施設の受注に関し相当の関心と知識を有し,その関心の下に部下であ
る環境プラント本部営業部長から上記1(5)オの内容の話を聞いたこ
とを述べているのであって,話し手も同じく当該営業に関し責任ある
立場の者であることをも考慮すれば,その内容が伝聞であることをも
って信用できないということはできない。
(イ)別件5社が受注予定者を記載したことがうかがえるリストについて
apリストについて
(a)被告は,pリストのS欄の平成8年から平成10年までの的中
率は32%程度であり,計画を把握できていない工事とリストど
おりに実現しなかった工事の数が多く,受注予定者を記載したも
のと解することはできない旨主張する。
しかしながら,pリストが受注予定者を記載したものであるとい
えるために,同リストが地方自治体のストーカ炉の発注計画のす
べてを把握している必要はなく,同リストに記載された工事につ
いて的中率が高いという事実が認められれば,同リストが別件5
社の受注予定者を記載したものであることが推認できるから,被
告の上記主張は採用できない。
(b)被告は,pリストのタイトルが「年度別受注予想」となって
いるとおり,同リストは受注を予想したものにすぎない旨主張す
る。
しかしながら,上記1(6)ア(イ)のとおり,pリストに記載され
たストーカ炉の建設工事については,作成後約3年間にわたり,
実際に発注された工事と合致するものが22件あり,そのうち1
8件の工事がpリストの分類どおりに別件5社によって受注され
る結果となっており,そうした一致率からすれば,単なる受注予
測を記載したものとは到底考えられない。すなわち,本来であれ
ば,自由競争の下,別件5社やアウトサイダーにより指名・受注
のための熾烈な営業活動及び価格競争が行われ,最終的にどのプ
ラントメーカーが受注するかは多種多様な要因に左右される事柄
であり,別件5社がストーカ炉の建設工事の市場において大手5
社としての地位を占めているとしても,別件5社ごとにどの工事
を受注するかについてまで約3年間にわたって正確に予測するこ
とはおよそ不可能というべきである。
さらに,pリストが作成された平成7年9月28日ころ以降か
ら平成10年9月ころまでにかけて,日本鋼管,川崎重工,被告
が作成したその他の各リスト(日本鋼管につき甲査57,60,
62,69,川崎重工につき甲査64,65,153,被告につ
き甲査66,67)をみると,pリストに記載された79件の工
事が,未発注の工事でありながらほとんど記載されていない。こ
の点,79件の工事の中には,例えば「東京-台船」工事のよう
に,中止を含めて計画の見直しがされたものもあり(甲査81),
発注の見通しは平成7年9月当時と必ずしも同じ状況とはいえな
いにもかかわらず,pリストの作成後に作成された5社のリスト
には一切記載がされていないということは,通常では想定し難い。
これらにかんがみると,pリストには,もはや受注希望表明の対
象でなくなった工事,すなわち既に受注予定者を決定した工事が記
載されたものと推認するのが相当であって,被告の上記主張は採用
できない。
(c)被告は,pリストには,将来にわたって受注調整が不可能な純
粋な技術提案審査方式による発注が見込まれていた大阪市の工事が
3件(「大阪-舞洲」,「大阪-平野」,「大阪-東淀」の各工事)含
まれていることから,pリストは受注予定者を記載したものではな
い旨主張する。
しかしながら,上記の3工事について,いわゆる技術提案審査
方式による発注が見込まれていたとしても,大阪市が技術提案審
査方式を採用することが判明する以前に受注予定者の決定がなさ
れ,それがそのままpリストに記載されたものである可能性があ
ることや,技術提案審査方式が見込まれたとしても,受注予定者
を決定することがあり得ないわけではないこと(技術提案審査方
式が見込まれたとしても,個々の工事について実際に同方式によ
る発注がされることが確定される前の段階にあっては,なお受注
予定者を決めておくことに意味がある。)からすれば,pリストに
これらの工事が記載されていることから同リストに受注予定者を
記載していたと解することの妨げにはならないというべきであり,
被告の上記主張は採用できない。
(d)被告は,pリストには,F(流動床炉)の記載があり,同リ
ストのS欄とF欄(受注予想を記載したものであるとする。)に記
載された工事の趣旨は統一的に理解すべきとの観点から,同リス
トは営業担当者の予想を記載したものとみるべきである旨主張す
る。
しかしながら,同リストのF欄の記載がいかなる趣旨で記載さ
れたものであるかは,本件全証拠によっても明らかにすることが
できず,また,F欄に記載された数も13件であってS欄に比べ
て少なく,流動床炉について別件5社の優位性を示すような証拠
もないことなどの事情を考慮すると,F欄の存在をもってpリス
トのS欄の記載の意味についての推認が覆るものとはいえず,被
告の上記主張は採用できない。
bその他のリストについて
被告は,別件5社が情報を交換して共有していたのであれば,別件
5社のリストが完全に一致するはずであるにもかかわらず,別件5社
に係る各リストの記載内容には,種々の不一致がある上,別件5社の
うち2社のリストに一致がみられること(上記1(6)イ参照)をもっ
て別件5社が本件会合を開いて情報を交換したことを根拠付けること
はできない旨主張する。
確かに,pリスト以外の別件5社に係るリスト(上記1(6)イ参
照)には,被告が指摘する相違点が認められるが,上記1(6)イのと
おり,各リストに記載された工事は,それぞれほぼ一致しているので
あり,上記各リストの記載が完全に一致していなければ上記アの事実
を推認する基礎とすることができないとはいえない。また,別件5社
のうち個別に取り上げた2社のリストに一致がみられることから直ち
に別件5社全体の情報交換の事実を推認することができないとしても,
上記1(6)イのとおり,(ア)川崎重工と日本鋼管のリスト,(イ)日本
鋼管と日立造船のリスト,(ウ)日立造船と被告のリスト,(エ)日立造
船と日本鋼管のリスト,のそれぞれの記載がほぼ一致する事実を全体
としてみれば,上記各リストの記載は,上記アの事実を推認する基礎
とするに十分な事実というべきである。
(ウ)受注希望を表明し,又は受注予定者を決定した会合について
a平成8年12月9日の会合について
被告は,被告のaが所持していたノート(甲査67)と日本鋼管の
sが所持していた手帳(甲査76)には,工事の選択の仕方について
別異に解される記載があり,上記ノート及び手帳から会合の内容を推
認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記の各記載が,会合において被告及び日本鋼管の
出席者が希望する工事の選択方法を記載したものであるのか,上記会
合において確定された工事の選択方法を記載したものであるのかはと
もかく,上記各記載は,いずれも,上記会合(上記各記載に付された
日付から平成8年12月9日に開催されたものであることが明らかで
ある。)において,会合出席者が,順に受注希望を表明する内容の話
合いが行われたことを推認するに十分であり,被告の上記主張は採用
できない。
b平成9年9月29日,同年10月16日及び同月29日の会合につ
いて
被告は,日本鋼管のs及びtが所持していたリスト(甲査60,6
2,63)が,いずれも日本鋼管のものであり,日本鋼管1社のみの
リストから別件5社が受注調整の会合を開催したことを推認すること
はできない旨主張するが,上記1(7)イのとおり,上記リストのうち,
平成9年9月11日付けのリスト(甲査62,63)には,川崎重工
の平成9年9月ころのリストとほぼ一致したごみ処理施設の記載がさ
れているのであり,被告の上記主張は前提において採用できない。
c平成10年1月30日の会合について
被告は,日本鋼管のqが所持していたメモ(甲査58)及び日立造
船のファクシミリ送信文書(甲査55)からは,日本鋼管及び日立造
船を含むプラントメーカー数社による会合が行われたとはいえても,
別件5社による受注調整の会合の開催を推認することはできない旨主
張する。
しかしながら,上記1において認定した各事実から,「日本鋼管及
び日立造船を含むプラントメーカー数社」には,別件5社が含まれて
いたことが推認されるのであり,上記プラントメーカー数社が別件5
社と全く無関係であるかの被告の主張は採用できない。
d平成10年3月26日の会合について
被告は,同日の会合に関するものと思料されるメモ(甲査96)を
所持していた被告のkが,被告のaからごみ処理の営業について信用
されていなかったと供述していること,kが同日の会合について事前
に聞かされていなかったことなどから,上記メモから同日の会合の開
催を推認することはできない旨主張するようである。
しかしながら,仮にk自身がaから信用されていないと認識してい
たとしても,aがそのように考えていたとは限らず,被告のこの点に
関する主張は一方的な仮定の下にされたものである点で採用できず,
また,仮にkが事前に同日の会合の開催を聞いていなかったとしても,
上記メモの記載は,同日後に同日の会合についてaから聞いた内容と
なっているのであって(上記1(7)エ(ウ)),事前に会合の開催を聞
いていなかったことは,上記メモの記載により同日の会合の開催を推
認することを妨げるものとはいえない。
eその余の主張について
被告は,上記aないしdの手帳やメモの所持者が,会合の参加者で
はないことから,それらから各会合の事実を推認することはできない
旨主張するが,上記の手帳やメモは,その記載及びそれを「別件5社
の」従業員が所持していたことにより本件会合の開催の事実を推認さ
せるのであり,別件5社の従業員の誰がそれらを所持していたかによ
り上記の推認が妨げられることにはならないから,被告の上記主張は
失当である。
(エ)入札実施前に入札価格等の連絡が行われたことについて
a日本鋼管のhが所持していたメモ(甲査124)について
(a)被告は,同メモには,日本鋼管が,被告,川崎重工,日立造
船及びタクマに対し,各社の入札価格を連絡した事実をうかがわ
せる記載がなく,同メモから上記4社に対し入札価格を連絡した
ことを推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記1(8)アのとおり,同メモは,賀茂広域行政
組合発注のストーカ炉建設工事の入札手続に関して作成されたも
のであると推認され,同工事を結果として日本鋼管が落札したこ
とが認められるところ,同メモの①の列の金額が,日本鋼管(同
メモでは一番上の行)において5000万円差異があることを除
いて一致しており,上記のとおりほぼ入札金額を一致させること
は,事前に入札価格等を連絡することなしには困難と認められる
から,被告の上記主張は採用できない。
(b)被告は,日本鋼管のhが所持していた上記メモ(甲査12
4)と賀茂広域行政組合発注のストーカ炉建設工事における日本
鋼管の入札価格には5000万円もの差異があり,仮に日本鋼管
が別件5社のうち他の4社に上記メモに記載された金額で入札価
格を連絡し,受注調整が成立していたのであれば,日本鋼管があ
えて5000万円下回る金額で入札するはずはない旨主張する。
しかしながら,日本鋼管において,上記工事について落札する
のに予定価格にあまりにも近い金額で落札することにより受注調
整が発覚するのを防ごうとの考慮が働いたことは十分に考えられ
(なお,日本鋼管の実際の落札率でさえ97.53%と高い率で
ある。甲査29),そのような考慮の下に日本鋼管が5000万円
低い金額で入札したことは事前の入札価格等の連絡が行われたこ
とを推認する妨げになるものではないから,被告の上記主張は採
用できない。
b川崎重工のwが所持していたメモ(甲査125)について
(a)被告は,同メモには,川崎重工が,被告,日本鋼管,日立造船
及びタクマに対し,各社の入札価格を連絡した事実をうかがわせ
る記載がなく,同メモから上記4社に対し入札価格を連絡したこと
を推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記1(8)イのとおり,同メモは,佐渡広域市町
村圏組合工事の入札手続に関して作成されたものであると推認さ
れ,同工事を結果として川崎重工が落札したことが認められると
ころ,同工事における第1回から第3回までの入札金額が同メモ
に記載された金額と完全に一致しており,上記のとおり入札金額
を一致させることは,事前に入札価格等を連絡することなしには
困難と認められるから,被告の上記主張は採用できない。
(b)被告は,甲査125の一覧表以外のメモは川崎重工の社名が印
刷されたメモ用紙であるのに対し,一覧表だけが白紙に記載されて
いることなどから,上記一覧表の記載が実際の入札結果と一致して
いることは,同一覧表が入札後に作成されたことによる旨主張する。
確かに,上記一覧表以外のメモの用紙と一覧表の用紙とは異なる
ことが認められるが,記載された用紙が異なることから直ちに上記
一覧表がそれ以外のメモよりも後に作成されたと推認することはで
きず,メモ及び一覧表が一括して管理されていた事実から,それら
は相互に近接した時点で作成され,保管されていたものと推認する
のが合理的であり,被告の上記主張は採用できない。
(オ)ストーカ炉の建設工事の受注に関する数値の算出について
a被告のrが所持していたノート(甲査106)について
被告は,同ノートに記載された指数(分数及び小数で示された数
値)は,受注トン数を均一化することにより別件5社の受注の均衡を
目指す本件基本合意との関係では,何ら意味を有さず,rが単に統計
目的でデータを採取していたものである旨主張する。
しかしながら,受注機会の均等化が基本的に受注トン数を均一化す
ることを出発点とするとしても,別件5社の各社内で受注トン数を基
礎として分数値又は小数値を算出することを通じて,各社の受注機会
が均衡しているかを点検・確認することも,通常考えられる方法とい
えるから,上記ノートが本件基本合意との間で何ら意味を有しないと
はいえない。
b川崎重工のpが所持していた表(甲査107)について
被告は,上記の表において,D及びAの欄に記載された工事が,別
件5社が上記2社に対し協力への見返りとして受注させたと認めるに
足りず,同表は,別件5社,D及びAの7社について,受注調整の対
象となっていない工事をも含めて数値化して把握するためのものであ
り,そのように受注調整の対象となっていない工事をも受注調整に当
たって考慮するような受注調整は極めて不公平であり,そのような受
注調整を行う旨の基本合意などあり得ない旨主張するようである。
しかしながら,上記表において,D及びAの欄に記載された工事が,
別件5社が見返りとして受注させたものであるか否かにかかわらず,
結果としての上記7社の受注トン数及びこれを指数化した分数を算出
することを通じて各社の受注機会が均衡しているかを点検・確認する
ことも,通常考えられる方法といえるから,被告の上記主張は採用で
きない。
(カ)アウトサイダーへの協力依頼について
aBのxが所持していたメモ(甲査109)について
被告は,同メモの記載からは,Bが見積書の提出に際してとるべき
行動を自発的に社内で検討していた事実はうかがえるものの,それ以
上に,日立造船からBに対して受注調整の協力要請が行われた事実を
推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記メモの「次回,日造に対して…他物件に対して
言いやすい」との記載からは,B社内において,「南河内清掃施設組
合(第2清掃工場)」工事よりも後の工事について,日立造船に見返
りを求めることが容易になるとの認識を有していたことがうかがえる
のであり,日立造船から上記工事につき何らの要請もないのに上記の
ような認識を有することは考え難いから,上記工事について,日立造
船からBに対する協力要請があったと推認するのが合理的であり,被
告の上記主張は採用できない。
b「東京都(中央地区清掃工場)」工事に関する資料について
(a)Fのzが所持していた手帳(甲査115~117)について
被告は,同手帳に記載された内容は,zが直接体験した事実で
はなく,いずれも自ら考え出したか,伝聞又は再伝聞に係る事実
を誇張して記載したものである上,zは「東京都(中央地区清掃
工場)」工事に全く関与していなかったから,同手帳の記載からア
ウトサイダーたるFへの協力依頼があったと認めることはできな
い旨主張する。
しかしながら,証拠(甲査118)によれば,上記手帳は,z
が,社内の会議内容や他社との打合せ内容をメモするために使用
していたというのであり,同手帳の記載が伝聞又は再伝聞に係る
事実を誇張して記載したものであるとする被告の主張は理由がな
い。被告は,上記主張の根拠として,Fの取締役であるαの報告
書(甲審A11)を挙げ,確かに同報告書には,上記被告の主張
に沿う記載があるが,同人は,上記手帳の記載自体はzが自ら記
載したことを認めているところ,同手帳の記載内容は上記1(10)
イ(ア)で認定したとおりであり,かかる内容,とりわけ別紙8の
ような記載は,他社との打合せに実際に出席していなければ記載
することのできない内容といえるから,zが「東京都(中央地区
清掃工場)」工事に全く関与していなかったことや上記手帳の記載
をzが直接体験した事実ではなく,いずれも自ら考え出したか,
伝聞又は再伝聞に係る事実を誇張して記載したものであることな
どを述べる上記報告書におけるαの供述は到底信用できず,これ
に依拠する被告の主張も採用できない。
(b)同工事を日立造船に受注させたことについて
被告は,別件5社の受注機会の均等を図るために,同工事の受
注予定者を一旦タクマに決定したにもかかわらず,アウトサイダ
ーであるFが当該工事の受注を希望した場合に,別件5社のうち
受注予定者ではない1社に受注させたのでは,別件5社の受注機
会の均等などおよそ実現不可能であり,当初の受注予定者の決定
は無意味なものとならざるを得ず,同工事を日立造船が受注した
ことは本件基本合意の枠組みと矛盾する旨主張するようである。
しかしながら,上記1(10)イ(エ)において認定したとおり,同
工事については,当初は受注予定者とされていたタクマとFとの
間で話合いが行われていたことが認められ,かかる事実は本件基
本合意の枠組みの中で行われたものといえるのであり,上記の事
実は本件基本合意の存在を推認する事情といえ,同工事を結果と
して日立造船が受注したことは,上記の推認を妨げる事実とはい
えないから,被告の上記主張は採用できない。
(キ)落札率について
被告は,落札率が高いこと(上記1(11)ア)から本件基本合意の存
在を推認することはできない旨主張する。
しかしながら,上記1(11)アのとおり,予定価格が判明していたス
トーカ炉の建設工事のうち,別件5社が落札した工事の落札率が,同一
期間にアウトサイダーが落札した工事の落札率よりも顕著に高率である
ことに加え,同イのとおり,公正取引委員会が審査を開始した日以降に
別件5社が落札した工事の落札率が,同日以前のものと比べて低率にな
っていることからすると,同日以前に別件5社が落札した工事について,
何らかの人為的な措置が介在したものと推認しても不自然とはいえない
から,上記の落札率が高い事実も,本件基本合意の存在を基礎付ける事
情として考慮することが許されないとまではいえない。
(2)本件個別合意及び本件協力合意の有無
ア(ア)上記1において認定したとおり,ごみ焼却施設の建設工事の入札に
おいては,施設の設置時期,立地条件,規模,燃焼方式(ストーカ炉か
流動床式か等),予定価格,発注方法(一般競争入札,指名競争入札,
指名見積り合わせ又は特命随意契約)などの条件が様々に異なり,個別
性が強く,かつ,上記の各条件が具体化されるのは入札の直前となるこ
ともあり得る。また,プラントメーカーにおいては,別件5社が有力で
あるものの,他にもそれなりの規模の企業が相当数存在し,熾烈な受注
競争が行われており,別件5社以外の業者が入札業者に指名されること
も珍しいことではない(公知の事実)。
上記の点を考慮すると,当該ごみ焼却施設の入札より以前に,数年間
に及ぶごみ焼却施設の予定工事について,本件基本合意がされたと認め
られ,また,その内容をまとめたと推認されるリストなどから当該ごみ
焼却施設が本件基本合意の対象になっていたと推認されたとしても,そ
れだけでは,当該ごみ焼却施設の建設工事の入札について談合が行われ,
それに基づいて受注予定者が受注したと即断することはできず,さらに
当該ごみ焼却施設の入札の具体的状況などについて検討する必要がある
と解される。特に,別件5社以外のアウトサイダーが入札業者に指名さ
れた場合には,アウトサイダーの協力なくして談合に基づく受注をする
ことはできないのであるから,アウトサイダーの協力について具体的な
立証が必要となると解される。
(イ)これに対し,原告は,談合は密室において証拠が残らないようにさ
れるのが通常であり,個別談合の事実について具体的な立証が求められ
ることになると,談合の立証は不可能となるとし,上記のような考え方
は,談合の事実について原告に過度の立証を求めるものであり,妥当で
ない旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張が,個別のストーカ炉の建設工事に,
別件5社以外のアウトサイダーが入札業者として指名されている場合で
あっても,同工事が本件基本合意の対象になっていたと推認されれば,
別件5社間の個別合意の存在を超えて,アウトサイダーに対する協力要
請及び同社との協力合意をも推認すべきであるとの主張であるとするな
ら,かかる主張は採用することができない。なぜなら,別件5社間で本
件基本合意に基づき受注予定者を決定した工事についても,他にいかな
るプラントメーカーがアウトサイダーとして当該工事の指名・入札業者
となるかは上記決定時には全く未定である上,上記1(3)イにおいて認
定したとおり,平成6年度から平成10年度まで,ストーカ炉のプラン
トメーカーとして,多数の業者が存在していたのであって,別件5社間
で受注予定者と決定された者が,当該工事について,他にどのようなプ
ラントメーカーがアウトサイダーとして指名・入札業者となったとして
も必ず当該プラントメーカーに対し協力を要請したり,同社から協力合
意を得ていたと一般的に推認することはできないからである。
イ本件個別合意の有無
(ア)a上記(1)において説示したとおり,別件5社は,遅くとも平成6
年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注する全
連及び准連ストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図る
ため,受注予定者を話合いによりあらかじめ決定し,受注予定者が受
注できるようにする旨の本件基本合意を行ったことが認められ,少な
くとも,平成10年9月17日まで,本件基本合意に基づき,ストー
カ炉の処理能力の区分に応じ,当該物件の入札前に,受注予定者を話
合いにより決定し,アウトサイダーが指名競争入札等に参加する場合
には,受注予定者が,自らが当該物件を受注できるように当該アウト
サイダーに協力を求めるなどした上,各社の入札価格を連絡して調整
するなどして,当該受注予定者が受注できるように入札していたこと
が認められ,本件工事(平成9年5月20日入札)も,本件基本合意
に基づく上記一連の行為が行われていた期間(平成6年4月から平成
10年9月17日まで)に発注,入札されたものであることが認めら
れる。
bpリストには,上記1(6)ア(ア)の事項が記載され,上記1(6)ア
(イ)の事実から,同リストは,平成7年9月当時の別件5社の本件基
本合意の内容をまとめたリストの1つであることが推認される。そし
て,pリストには,別紙2のとおり記載されていたところ,平成11
年度の「M-S」とされる欄に「甲市80」と記載されていたこと
から,上記記載は,被告が原告(甲市)の本件工事の受注予定者であ
ることを示すものと推認される。
c上記第2の1(1)アのとおり,pリストの記載どおり,被告が本件
工事を落札し,原告(甲市)の予定価格が44億3180万円である
ところ,被告の落札価格は42億5000万円であったのに対し,本
件7社のうち,被告以外で別件5社に含まれるタクマ,日本鋼管及び
日立造船の入札価格は,上記1(14)のとおりであり,いずれも原告
の予定価格(44億3180万円)及び平成9年3月1日に報じられ
た(上記1(13)エ)原告のごみ焼却施設の総事業費(48億700
0万円)を上回り,かつ,被告の落札価格よりも7億円以上高額であ
った。
d被告の落札価格は42億5000万円であり,本件での予定価格は
44億3180万円であるところ,被告の落札率は95.9%であっ
た。
e上記aないしdの各事実から,別件5社は,遅くともpリストが作
成された平成7年9月ころまでに,原告(甲市)における既存のごみ
焼却施設(ストーカ炉)の更新工事(本件工事)の見込みを把握した
上,本件基本合意に基づき,同工事の受注予定者を被告と決定する本
件個別合意を行ったことが推認できる(なお,本件工事には,別件5
社のうち川崎重工が指名・入札業者に含まれていないが,同事実は,
上記推認を妨げるものではない。)。
(イ)被告の主張について
a被告は,pリストは受注予定者を記載したものではなく,同リスト
の記載から本件個別合意の存在を推認することはできない旨主張する
が,pリストが受注予定者を記載したものではないとの被告の主張に
理由がないことは,上記(1)イ(イ)aにおいて説示したとおりである。
b被告は,証人β(以下「β」という。)の証言などを根拠として,
βが被告関西支社に異動した平成8年7月当時まで,原告に対して熱
心な営業活動を行っておらず,本件工事は被告において重点的に力を
入れる案件ともなっておらず,被告においては,同年8月26日に,
湖北広域工事(「湖北広域行政事務センター」に係る工事と解される。
甲査29)の受注ができた後,同年9月に,本件工事を重点的に力を
入れる案件とすることを決定した旨主張し,pリストが作成された平
成7年9月ころまでに,別件5社において,原告(甲市)における既
存のごみ焼却施設(ストーカ炉)の更新工事(本件工事)について,
本件基本合意に基づき,同工事の受注予定者を被告と決定した事実を
争うようである。
しかしながら,平成8年8月までは本件工事に重点的に力を入れる
案件となっていなかったことの裏付けとなる的確な証拠はなく,βの
証言はこれを容易に信用することはできず,同証言を根拠とする被告
の上記主張(さらには同主張を前提としてpリストの信用性を争う旨
の主張)は採用できない。
c被告は,pリストが作成された平成7年9月28日の時点で,別件
5社において被告を本件工事の受注予定者と決定していたのであれば,
当然,被告において別件5社のうち他の4社に比べコストの検討も進
めているのが自然であるところ,本件工事においては,原告から見積
依頼がされ,見積提出を行った平成8年11月の段階では,被告より
も日本鋼管の方が安い見積価格を提出していたから,本件工事につい
て被告を受注予定者と決めていた事実は認められない旨主張する。
しかしながら,本件基本合意に基づく受注調整が行われていた別件
5社の会合において,受注予定者の決定を超えて,見積価格も含めて
調整がされていたのであれば各別,そうでない限り,具体的な工事の
入札手続において,別件5社の中に受注予定者とされた者よりも低い
見積金額を提出した者がいたことは,別件5社による受注予定者の決
定の事実を認定する妨げとなる事実とはなり得ないと解される(さら
に言えば,談合行為の発覚を防止するため,敢えて受注予定者よりも
低い見積価格を提出する者を設ける可能性も否定することができな
い。)ところ,本件全証拠によっても,本件基本合意に基づく受注調
整が行われていた別件5社の会合において,見積価格も含めて調整が
されていた事実を認めることはできないから,被告の上記主張は採用
できない。
ウ本件アウトサイダーとりわけCとの関係(本件協力要請及び本件協力合
意の有無)
(ア)aアウトサイダーについては,上記1(5)において認定したとおり,
被告従業員のaが,別件5社以外の会社が一緒に指名を受けた場合に
は,受注予定者が個別に当該会社に協力を求めて,受注予定者が受注
できるようにしている旨述べ,日本鋼管のgは,同社のhらから,別
件5社にD及びAが加わって指名競争入札が行われる場合には,日本
鋼管が受注予定者となっている物件について,上記2社と話合いを行
い,別件5社にD,A,E及びBを加えた9社で指名競争入札が行わ
れる場合には,日本鋼管が受注予定者となっている物件についてE及
びBとも話合いを行うとの話を聞いた旨述べ,gが平成8年秋から冬
にかけて作成したメモ(甲査35)には,「ストーカ炉は,大手5社
(NK,日立造船,三菱重工,川重,タクマ)が中核メンバーで,D
とAが準メンバー。但し,E,B等は話合いの余地はある。」と記載
されており,別件5社の間で,受注予定者がアウトサイダーたるD,
A,E及びBに対し協力を求める旨の働きかけを行う旨の合意があっ
たことが認められる。
bしかしながら,本件入札において,本件個別合意により受注予定者
と決定された被告から,本件アウトサイダーたるCに対し,被告が落
札できるよう協力を求めたり,Cから協力する旨の合意を得たことを
認めるに足りる証拠は存在しないから,本件アウトサイダーのうち,
少なくともCとの間では,本件協力要請及び本件協力合意があったと
は認められない。
(イ)原告の主張について
a原告は,①本件7社のうち,Cを除く6社(被告を含む。)が,い
ずれも原告の予定価格を大きく上回る見積額を提出していたにもかか
わらず,本件入札においては,上記6社のうち被告を除く5社は,入
札に際してもやはり予定価格を大きく上回る金額で入札したのに対し,
被告のみがCの入札額をわずか4000万円下回る金額(被告の当初
見積額よりも12億8400万円も低い金額)で入札できたこと,②
被告が,本件工事にコンサルタントとして関与していたQ株式会社
(以下「Q」という。)に対し,他社の見積金額を尋ねたりするなど,
他社の営業活動状況に関する情報をやり取りする関係にあったことか
ら,被告がCの入札金額を知っていたことを推認できる旨主張する。
しかしながら,上記事実から,仮に,被告が入札前にCの入札金額
を知った事実を推認できたとしても,同事実を超えて,被告から,C
に対し,被告が落札できるよう協力を求めたり,Cから協力する旨の
合意を得たことを推認することはできないから,原告の上記主張は失
当である。
b原告は,被告の担当者が,平成8年11月13日,本件現地説明会
において,Cの担当者と会って面識を得ており,被告がCに対し協力
を要請することは容易であった旨主張するが,被告の担当者とCの担
当者が面識を有していたことから,直ちに被告からCに対する協力要
請の事実を推認することはできないから,原告の上記主張も失当であ
る。
c(a)原告は,本件入札において,被告とCの入札金額が他のプラン
トメーカーの入札額と比べて相当低い金額となっていることから,
被告が,本件入札において,公正な競争がなされたかのような外
形を作り出すために,被告とCが他のプラントメーカーと比べて
低い入札価格となるよう計画し,Cに対し,そのような金額で入
札するよう連絡をしたこと,あるいは,被告が入札までのいずれ
かの時点において,Cに連絡して同社の入札予定価格を知り,そ
の時点で被告及びCの入札価格を決定したこと,が想定されるな
どと主張する。
しかしながら,逆にCの入札金額が他のプラントメーカーの入札
額と同様に高額であれば,そのことをもって,被告が落札できる
よう協力を求めたり,Cから協力する旨の合意を得たことを推認
するということにもなるのであって,Cの入札金額が高低いずれ
であっても同様の結論の間接事実となるというのでは,結論あり
きの非論理的な説明であるということになってしまうから,原告
の上記主張は採用できない。
(b)原告は,本件アウトサイダーであるA及びBが被告の協力要請
に応じ,被告が受注できるよう協力していた旨主張し,かかる状
況において,被告がCに対してのみ協力を要請しないのは不自然
である旨主張する。
しかしながら,A及びBとCとでは,上記(ア)aに説示した点に
おいて大きな違いがあるのであり,本件におけるA及びBとの協
力関係の有無について検討するまでもなく,原告の上記主張は理
由がない。
d原告は,①pリストにおいて本件工事の受注予定者が被告とされて
いること,②被告には,被告の受注実績を確保するため,是非とも本
件工事を受注したいという事情があったこと,③被告従業員のaが,
別件5社の間で被告が受注予定者とされた物件のほとんどすべては予
定どおり被告が受注している旨述べていることなどから,本件工事に
ついても,Cとの間で,本件協力要請及び本件協力合意があったと考
えるべきである旨主張する。
しかしながら,まず,上記①については,pリストにはアウトサイ
ダーに関する記載がないことから,その記載をアウトサイダーに対す
る協力要請及び協力合意の存在を推認する基礎事情とすることはでき
ない。また,上記②については,被告の受注意欲が強いことは,(別
件5社の会合等において)被告が本件工事の受注を希望したことを推
認させる基礎事情となり得ることは格別,それを超えて,直ちにアウ
トサイダーであるCへの本件協力要請や同社との本件協力合意を推認
させる基礎事情となり得るものではない。さらに,上記③については,
確かに,aが上記原告主張に係る内容を供述した事実は認められるが,
上記のような一般的抽象的な供述内容から,本件入札におけるCへの
本件協力要請及び同社との本件協力合意の存在を推認するのは困難で
ある上,aが「ほとんどすべて」と述べていることは,別件5社の会
合において被告が受注予定者と決定された物件であっても,被告が受
注できなかった物件が存在することを推認させるのであり,いずれに
しても上記aの供述から本件入札におけるCへの本件協力要請及び同
社との本件協力合意の存在を推認することはできない。
e(a)原告は,Cは,本件入札における見積金額算定の時点で,44
億3400万円という金額を提出しており,同社が真剣に本件工
事を受注しようと思えば,上記金額よりもかなり低い金額で入札
するのが自然であったにもかかわらず,同社の入札価格の見積価
格に対する比率は約96.7%と高率であり,同社の入札金額で
ある42億9000万円は,同社が自由競争の中で最終的に出し
た金額であるとは考えられない旨主張する。
しかしながら,本件入札における本件7社の見積金額は,上記1
(14)のとおりであり,原告も認めているとおり,Cの見積金額は,
他の6社に比べ,10億円以上も低い金額であった。そして,C
の,ストーカ炉の入札に対する姿勢が,当初の見積金額の段階で,
同社にとって可能な極力低い金額を提出する(その動機としては,
当初から他社よりも低い見積金額を提出して,発注する地方自治
体に同社の存在を印象付けることなどが考えられる。)というもの
であった可能性も否定できず,同社の入札価格の見積価格に対す
る比率が高率であったことから,同社の自由競争が制限されてい
たと推認することはできないというべきであり,原告の上記主張
は採用できない。
(b)これに対し,原告は,本件工事の総事業費には,コンサルタン
ト費用や事務費,既存施設の解体費用等を含むことが入札業者に
明らかになっており,Cは,上記総事業費を参考とし,同社の見
積金額を相当下回る金額で入札しなければ落札することはできな
いことを予想できる状況であったところ,それにもかかわらず,
Cの入札金額が,見積金額をわずか3%ほどしか下回っていない
ことは,Cが被告からの要請を受け,本件工事を被告が落札するこ
とに協力したことを端的に示すものである旨主張する。
しかしながら,上記(a)のとおり,Cの,ストーカ炉の入札に対
する姿勢が,当初の見積金額の段階で,同社にとって可能な極力
低い金額を提出するというものであった可能性は否定できず,同
社にとって,見積金額から約3%を超えて値引きして入札するこ
とが可能であったかも明らかではないから,同社の入札金額が見
積金額を約3%しか下回っていないことから,Cに対する本件協
力要請や同社との本件協力合意の存在を推認することはできない
というべきである。
f原告は,Cは,平成元年以降,39件のストーカ炉の建設工事を地
方自治体等から受注しており,工事の受注について,被告や他のプラ
ントメーカーと競合することが多い立場にあったところ,Cとすれば,
本件工事の入札について,被告に協力することによって,他の工事の
入札に関して被告の協力を取り付けることが考えられ,本件入札に関
して被告に協力する理由は十分にあった旨主張する。
しかしながら,上記原告主張に係る事実は,被告からCに対する協
力要請が認められる場合に,Cからの協力合意を得たことと矛盾しな
い事実にとどまり,それを超えて積極的に,被告とCとの間の本件協
力要請や本件協力合意を推認させる事実とはいえないというべきであ
る。
g原告は,受注予定者がアウトサイダーの協力を取り付けられないこ
とは,談合により受注予定者となったことが意味を有しない結果とな
るから,受注予定者となった者は,アウトサイダーの協力を得るため
に全力を尽くすものと考えられるとし,被告がCに対し協力を要請し,
同社から協力合意を得たと推認できる旨主張するようである。
しかしながら,別件5社間で本件基本合意に基づき受注予定者を決
定した工事についても,他にいかなるプラントメーカーがアウトサイ
ダーとして当該工事の指名・入札業者となるかは上記決定時には全く
未定である上,上記1(3)イにおいて認定したとおり,平成6年度か
ら平成10年度まで,ストーカ炉のプラントメーカーとして,多数の
業者が存在していたのであって,別件5社間で受注予定者と決定され
た者が,当該工事について,他にどのようなプラントメーカーがアウ
トサイダーとして指名・入札業者となったとしても必ず当該プラント
メーカーに対し協力を要請したり,同社から協力合意を得ていたと一
般的に推認することはできないのであり,受注予定者となったことの
みを根拠にアウトサイダーへの協力要請及び同社との協力合意を推認
できるとする原告の主張は理由がない。
h原告は,本件入札が行われた平成9年当時,地元(甲市)において,
技術力を有し,土木工事に関し信頼感を得ていた業者はRであり,本
件7社のうち被告以外のプラントメーカーが,真に本件工事を落札す
る気持ちがあるのであれば,Rを土木工事業者として起用すべく,同
社と交渉を行うはずであるところ,Cは,他のプラントメーカーと同
様,Rと交渉していなかったことから,Cも,被告が落札するとの認
識の下,自社が落札することを想定した活動を行っていなかった旨主
張する。
しかしながら,CがRと交渉を行っていなかった事実から原告主張
に係る事実を推認するためには,Cにおいて,甲市において技術力を
有し,土木工事に関し信頼感を得ていた業者がRであることを認識し
ていたことが前提となるところ,Cにおいて上記の認識を有していた
ことを認めるに足りる証拠は存在しないから,原告の上記主張は,そ
の前提において理由がない。
エ本件個別合意の位置づけ
次に,被告とCとの間の協力関係を認定できなくとも,同社を除く他の
プラントメーカーと被告との間の談合が認められれば,談合により本件入
札に関する自由競争が阻害されたことになるとも考えられる。
たしかに,落札業者と指名業者のうちの一部の業者との間でのみ受注調
整が図られ,それら一部の業者が,落札業者が予定する入札価格で落札で
きるように協力して,落札業者の入札価格を上回る価格で入札するなど,
一部の業者との間における公正な競争が排除されていた場合には,少なく
ともその範囲で受注調整がされていたことに相違はなく,指名業者の全部
と受注調整がされていた場合とは程度の差があるにしても,違法な行為が
あったということ自体は否定できない。
しかし,残りの業者との間では受注調整が図られず,その業者と落札業
者との間で公正な競争が行われたといえるときは,落札価格は,残りの業
者と落札業者との間の自由な競争の下で形成されたものとみることができ
る場合がある。かかる場合には,自由競争が阻害されたと認めることはで
きない。
もとより,入札参加業者間の自由な競争によって落札業者が決定されて
いた場合に形成されていたであろう落札価格を事後的に計算によって算定
することはできず,入札の結果から推認するしかないものであるから,本
件では,Cの入札価格しか推認の資料はない。Cの入札価格42億900
0万円は,被告以外の別件5社,すなわち,タクマ,日本鋼管,日立造船
の各入札価格である49億5000万円,51億円,49億8000万円
とは,それぞれ6億6000万円以上の顕著な差があるし,他のアウトサ
イダーであるA,Bの各入札価格である49億円,47億9000万円と
は,それぞれ5億円以上の大きな差がある。そして,上記ウのとおり,C
との間で本件協力要請及び本件協力合意があったとは認められない以上,
基本的には,Cの入札価格の決定は受注調整に基づかない自由なものであ
るはずである。他方,被告の落札価格は42億5000万円であり,Cの
入札価格42億9000万円を4000万円下回っている。
そうすると,被告の上記落札価格は,Cの入札価格との関係で,自由な
競争の下で形成されたものと評価するほかなく,結局,本件では結果的に
自由競争が阻害されたとは認めることはできず,本件個別合意をはじめと
する被告の行った受注調整の結果損害が発生したとはいえないことになる。
3結論
以上検討したところによれば,原告主張に係る不法行為の成立は認められな
い。
したがって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求は理由が
ないから棄却する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官瀧華聡之
裁判官奥野寿則
裁判官高橋正典

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