弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主      文
被告人を懲役1年8月に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
押収してある偽造1万円札8枚(平成15年押第37号の1,2)をい
ずれも没収する。
理      由
(罪となるべき事実)
 被告人は,勤務先会社のパーソナルコンピューター(以下,「パソコン」という。)を使用し
て出会い系サイトにアクセスして知り合ったAにいわゆる援助交際の対償等として支払う金
銭に困り,同女に上記対償として渡す金銭に使用すべく,金額1万円の日本銀行券を偽造
することを決意し,平成14年6月13日ころ,新潟県a市b所在の勤務先会社のB株式会社
1階事務所において,行使の目的をもって,ほしいままに,あらかじめ同社のスキャナー機
能を搭載したカラーコピー機及びパソコンを使用し,真正な金額1万円の日本銀行券の表
面及び裏面の画像を画像情報として取り込み,その大きさや色調を修正するなどして同パ
ソコンのハードディスク内に保存しておいた真正の1万円の日本銀行券の表裏面の画像情
報を同パソコンで読み込み,同カラーコピー機を用いてA4判コピー用紙に両面印刷し,こ
れをカッターナイフで裁断するなどして通用する金額1万円の日本銀行券18枚(平成15
年押第37号の1,2はその一部)を偽造した上,同月15日午後3時10分ころ,新潟市c所
在のC店前路上に駐車中の普通乗用自動車内において,Aに対し,上記偽造にかかる金
額1万円の日本銀行券3枚(同号の1)を真正なもののように装い,援助交際の対償として
封筒に入れて手渡して行使したものである。
(証拠の標目)
 略
(法令の適用)
 被告人の判示所為のうち,通貨偽造の点は包括して刑法148条1項に,偽造通貨行使
の点は同条2項,1項にそれぞれ該当するが,通貨偽造とその行使との間には手段結果
の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として犯情の重い偽造通貨行使
罪の刑で処断し,所定刑中有期懲役刑を選択し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,6
8条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年8月に処し,同法21
条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し,押収してある偽造1万円札3枚(平
成15年押第37号の1)は,判示の偽造通貨行使の犯罪行為を組成した物であり,また,
押収してある偽造1万円札5枚(同号の2)は,判示の通貨偽造の犯罪行為によって生じた
物で,いずれも何人の所有を許さないものであるから,同法19条1項1号,3号,2項本文
をそれぞれ適用して,いずれもこれを没収することとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,金額1万円の日本銀行券18枚を偽造した上,そのうち3枚をいわゆ
る援助交際の対償等として相手方に手渡して行使した通貨偽造・同行使の事案である。
 被告人は,勤務先会社でパソコンを扱う職務に従事していることを悪用し,そのパソコン
で出会い系サイトにアクセスして見知らぬ女性との間で電子メールのやりとりをするうち,
本件の女子高校生と知り合い,同女に対する援助交際の対償等として支払う金銭に困り,
パソコン等を用いて偽札を偽造したというテレビの報道番組をヒントにして,出会い系サイト
を利用する相手方であれば偽札に気づいても警察に届け出ることはしないだろうなどと狡
猾な考えから本件を敢行したもので,その動機は誠に利欲的かつ卑劣なものであって,酌
量の余地は全くない。
 被告人は,偽札の偽造にあたり,勤務時間終了後の勤務先会社において,他の従業員
の目を盗み,本件が発覚しないように注意しながら,同社のパソコンやスキャナー機能が
搭載されたカラーコピー機を使用し,スキャナーで取り込んだ金額1万円の紙幣の画像情
報の大きさや色調を修正するなどして,約1週間にわたり何度も試行錯誤を重ね,一見し
ただけでは偽札であることを見破るのが困難であるほどの相応に精巧な出来映えの偽札
を作成し,その行使にあたっては,あらかじめ自己の使用する自動車助手席のダッシュボ
ードに偽名の名札を貼り付けるなどの工作までした上,偽札の紙質の違和感等を相手方
にすぐに気づかせないようにするため,封筒に入れて手渡すなど巧妙な工夫をしており,
本件が事前に周到に準備された計画的な犯行である上,その犯行態様は,大胆かつ狡猾
で極めて悪質である。
 被告人は,金額1万円の日本銀行券という高額紙幣を18枚偽造し,そのうち3枚を援助
交際の相手方に手渡して使用しており,本件犯行による被害結果は軽視できない。
 以上の犯情に加え,被告人は,自らの目的を達成するために,本件のごとく大罪を犯す
ことも厭わないもので,他の同種事犯と比べても犯情は芳しくないこと,被告人は,偽札作
成のために用いたデータを本件後すぐに消去しており,罪証隠滅工作を図っていること,本
件の捜査において勤務先会社のパソコン等のOA機器が差し押さえられるなどして,同社
ではその間パソコン等を使用できないなど,その業務に多大な影響を被っていること,被告
人は,本件後,起訴された以外にも,本件で偽造した偽札を援助交際の相手方等に使用し
たことが窺われる上,その後もその偽札1枚がタクシーの利用代金として使用されるなど
実害が発生しており,その犯行後の犯情も芳しくなく,さらに本件の罪質や犯行方法が模
倣性が高く,一般予防の必要性が高いことなどを考慮すると,被告人の刑事責任は重大で
ある。
 しかしながら,本件は,組織性がなく,その犯行が比較的短期間にとどまっていること,本
件偽造に係る偽造1万円札は,真正の1万円札とはその色調や紙質が異なるなど偽造の
精度は高いとまではいえないこと,被告人は,上記タクシー会社に対して金1万円を支払っ
ていること,被告人は,事実を認めて一応の反省の態度を示していること,被告人にはこ
れまで前科前歴はなく,今回4か月間以上身柄を拘束された上,公判請求されて,事案の
重大性を自覚し,今後の更生を誓い,被告人の妻や両親がその更生に協力することを約
束していること,現在の勤務先会社の社長が被告人の雇用の継続を申し出ており,また同
社の従業員も被告人の寛大な処罰を求める嘆願書を提出していて,被告人の更生のため
の環境が整っていることなど被告人のために斟酌すべき事情も認められるが,これらの諸
情状を最大限考慮しても,先に指摘した犯情に照らすと被告人を主文に掲げた刑に処する
のが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
平成15年9月16日
新潟地方裁判所刑事部
  裁判長裁判官     榊  五十雄
裁判官     三村三緒
     裁判官     入江克明

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