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平成16年12月22日判決言渡同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(行ウ)第36号 通知処分取消等請求事件
口頭弁論終結の日平成16年11月18日
判        決
主        文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
  2 訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 原告の請求
 1 被告千種税務署長が,平成15年4月11日付けでした
(1) 原告の平成10年分の所得税の更正の請求に対し,その更正をすべき理由が
ない旨の通知処分を取り消す。
(2) 原告の平成11年分の所得税の更正の請求に対し,その更正をすべき理由が
ない旨の通知処分を取り消す。
(3) 原告の平成12年分の所得税の更正の請求に対し,その更正をすべき理由が
ない旨の通知処分を取り消す。
 2 被告国は,原告に対し,5392万7200円及びこれに対する平成14年4月1日か
ら支払済みまで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,ストックオプション(株式購入選択権)に係る権利行使利益を給与所得に
区分して納税申告した原告が,同利益は一時所得に区分されるべきであることを理
由に,被告千種税務署長(以下「被告税務署長」という。)に対し,更正の請求をしたと
ころ,更正すべき理由がない旨の通知を受けたことから,その通知処分の取消しを求
めた抗告訴訟と,上記納税申告は,ストックオプションに係る権利行使利益が給与所
得に区分されるべきものとの誤信に基づくものであるから,錯誤により無効であると主
張して,被告国に対し,一時所得に区分されることを前提として計算した税額と実際
に納付した税額との差額及びこれに対する還付加算金の支払を求めた実質的当事
者訴訟とが併合提起されたものである。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実等)
  (1)原告に対するストックオプションの付与
原告は,内国法人であるA株式会社(以下「日本A社」という。)の従業員であ
った者であり,米国企業であるA社(以下「米国A社」という。)は,日本A社の親
会社である。
原告は,従前,米国A社から同社のストックオプション(以下「本件ストックオプ
ション」という。)を付与されていた。
(2) 原告による平成10年分及び平成11年分の確定申告
原告は,平成10年分及び平成11年分の所得税について,それぞれ法定申
告期限までに,別表「課税の経緯」の当該年分における確定申告欄記載のとお
り,確定申告(期限内申告)した。
なお,原告は,平成10年及び平成11年中に,それぞれ本件ストックオプショ
ンを行使し,権利行使利益を得ていたが,それによる所得を申告していなかっ
た。
  (3) 原告による修正申告等
ア 原告は,平成14年3月1日,平成10年分及び平成11年分の所得税につい
て,本件ストックオプションの権利行使利益を給与所得に区分した上で,別表
「課税の経緯」の当該年分における修正申告①欄記載のとおり,修正申告し
た(甲1の2,2)。
イ また,原告は,平成14年3月1日,平成12年中に本件ストックオプションを
行使して得た権利行使利益(以下,平成10年ないし平成12年に原告が本件
ストックオプションを行使したことによる利益を「本件権利行使利益」と総称す
る。)を給与所得に区分した上,平成12年分の所得税について,別表「課税
の経緯」の平成12年分における確定申告欄記載のとおりに確定申告(期限
後申告)をした(甲3)。
これに対し,被告税務署長は,平成14年4月24日,別表「課税の経緯」の
平成12年分における賦課決定欄記載のとおり,無申告加算税の賦課決定処
分をなした。
ウ さらに,原告は,平成14年3月26日,住宅取得等特別控除の計算に誤りが
あったとして,平成10年分及び平成11年分について,別表「課税の経緯」の
当該年分における修正申告②欄記載のとおり,(再)修正申告をした(以下,こ
れにア及びイの申告を併せて「本件修正申告等」といい,その各申告書を「本
件申告書」という。甲1の1)。
  (4) 東京地方裁判所の判決
東京地方裁判所民事第3部は,平成14年11月26日,海外親会社から日本
子会社の従業員等に対して付与されたストックオプションに係る権利行使利益が
一時所得に区分される旨の判決を言い渡し(以下「本件判決」という。),他にも,
下級裁判所のいくつかが同旨の判決を言い渡している。
もっとも,東京高等裁判所第12民事部は,平成16年2月25日,ストックオプ
ションに係る権利行使利益が給与所得に区分されるとして,本件判決のうち控
訴人(課税庁)敗訴部分を取り消し,その部分を棄却するとの判決を言い渡した
(乙1)。
  (5) 原告による更正の請求
ア 原告は,平成15年1月27日,被告税務署長に対し,本件権利行使利益は
一時所得に区分されるべきであるとして,平成10年分ないし平成12年分の
所得税につき,別表「課税の経緯」平成10年分ないし平成12年分の各更正
の請求欄記載のとおり,更正の請求をした(以下「本件更正の請求」という。甲
4ないし6)。
イ 被告税務署長は,平成15年4月11日付けで,原告に対し,本件権利行使
利益は給与所得に該当すること,また,本件更正の請求は,国税通則法23
条1,2項所定の事由に該当する場合に当たらないことを理由に,更正をすべ
き理由がない旨の通知処分をした(以下「本件通知処分」という。甲7ないし
9)。
(6) 原告による不服申立て
ア 原告は,平成15年6月9日,本件通知処分に対して異議申立てをしたとこ
ろ,被告税務署長は,同年9月8日付けで,同申立てを棄却する旨の決定をし
た(甲10ないし12)。
イ 原告は,同月30日,さらに審査請求を申し立てたが,国税不服審判所長
は,平成16年3月11日付けで,同請求を棄却する旨の裁決をした(甲13な
いし15)。
  (7) 本訴の提起
原告は,平成16年6月9日,当庁に本件訴えを提起した。
2 本件の争点
  (1) 本件通知処分は適法か。
具体的には,更正の請求は,法定申告期限から1年内に限りなし得るのが原
則である(国税通則法23条1項)ところ,本件更正の請求は,その例外を定めた
同条2項各号に該当する場合に当たるか。
  (2) 本件修正申告等は錯誤により無効か。
具体的には,本件修正申告等に客観的かつ明白な錯誤があって,税法の定
める方法以外の方法による是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害す
ると認められる特段の事情があるか。
3 当事者の主張の要旨
  (1) 本件通知処分の適否
   (被告税務署長)
ア 国税通則法23条1項は,納税申告をした者は,当該申告書に係る国税の法
定申告期限から1年内に限り,税務署長に対し,その申告に係る課税標準等
又は税額等について更正を請求できる旨定めているが,本件更正の請求は,
いずれも,法定申告期限(その年の翌年3月15日であることにつき所得税法
120条1項)から1年を徒過してなされたことが明らかである。
イ もっとも,国税通則法23条2項は,上記の例外として,①申告,更正又は決
定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えに
ついての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)によ
り,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき(同項
1号),②申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たっ
てその申告をし,又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その
他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又
は決定があったとき(同項2号),及び③その他当該国税の法定申告期限後
に生じた上記①及び②に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき
(同項3号)は,これらの各事由が生じた日の翌日から起算して2月以内に限
り,更正の請求を行うことができる旨規定しているが,同項は,すべての後発
的事由を適用対象とするものではないと解されている。
これを本件についてみると,同項1号の「判決」は,申告等に係る課税標準
等又は税額等の計算の基礎となった事実についての私法行為又は行政行為
上の紛争を解決することを目的とする民事事件の判決を意味すると解される
ところ,本件判決は,単に所得区分を明らかにするものにすぎず,原告の納税
申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実(例えば,原
告のストックオプションの付与契約の存否等)に関するものではないから,同
項1号の事由に当たらない。さらに,仮に本件判決において,課税庁の判断と
異なる所得区分が示されたとしても,これは法令の解釈に係るものであり,文
理上,同条2項の後発的事由のいずれにも該当しない(法の解釈の変更は,
職権での減額更正の対象になり得るにすぎない。)。
ウ よって,本件判決は,同条2項所定の後発的事由に当たる余地がないばか
りか,そもそも,本件更正の請求は,その期限を徒過してなされたものである
から,本件通知処分は適法である。
(原告)
被告の主張は争う。
ア いわゆるストックオプションに関しては,①オプション自体の価値(期待権の
価値,以下「オプション利益」という。)と,②権利行使利益(事後的にたまたま
生じた結果の一つ)という性質の異なる別個の経済的利益を観念できるとこ
ろ,オプション利益は,それ自体独自の価値を有する一つの権利であって,期
待権として,その価値の算定もなし得るものであり,しかも,その将来の貢献
に対する期待度合い等を考慮してその付与の可否・付与数が決定されるもの
であるから,所得税法28条1項所定の給与所得に当たると考えられる。
これに対し,権利行使利益は,既に与えられたオプション利益を元手として
被付与者が自己の投資判断に基づき事後的に得た運用益であるから,就労
の対価ではなく,偶然的・偶発的所得として一時所得に当たる。すなわち,給
与所得とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき,使用者の指揮命令に
服して提供した労務の対価として,使用者から受ける給付をいうところ,労務
の対価というためには,従業員が提供した労務と当該給付との間に経済的合
理性に基づいた対価関係の存在を要するが,そのためには,従業員が提供し
た労務の質及び量と,当該給付との間に何らかの相関関係がなければならな
いはずである。そのような相関関係が認められない偶発的な所得の場合は,
担税力のある継続的・安定的な所得である給与所得と評価できない。
しかるところ,従業員の就労は必ずしも企業の業績に反映されるとは限らな
い上,株価は,企業の業績だけでなく,その時々の経済状況や業界の状況,
株式市場の状況等様々な要素によって定まることは周知の事実であり,しか
も本件で問題となっているのは原告が就労していた日本A社の株価ではなく,
そのグループ企業である米国A社のそれであるから,原告の就労との関係は
より希薄であって,本件権利行使利益については,上記の相関関係を認める
ことはできない。また,権利を行使するかどうか,いつ行使するかは専ら原告
の判断に委ねられており,それによって権利行使利益の額が異なるのである
から,これを就労の対価と見ることもできない。
以上のことは,本件判決が明言しているところである。
イ 本件更正の請求は,確かに,法定申告期限から1年を超えてなされたもので
あるが,本件判決によって,ストックオプションの権利行使利益は給与所得で
はなく一時所得に該当することが明らかになったのであるから,行政の法律適
合性の要請により,被告税務署長は,本件修正申告等によって確定した税額
部分を正しい税額に更正しなければならない義務を負い,更正の期間制限
(申告期限から5年以内)に抵触しない限り,更正の請求がなされたか否かに
関わりなく,違法状態を是正することができ,また是正しなければならないとい
うべきである。
したがって,更正の請求の手続上の要件を欠いていることを理由としてそれ
を却下することは,実体税法上所得税の課税の基礎が失われているにもかか
わらず,その是正がなされない状況を納税者に強いるものであって不当であ
る。
(2) 本件修正申告等は錯誤により無効か
(原告)
ア 我が国の税法は,申告納税制度を採用し,租税債務を可及的速やかに確定
させるべく,申告の過誤の是正は,法律が特に認めた場合に限るとの建前を
採っている。したがって,申告そのものを法律の定める方法で是正することな
く,申告の錯誤を理由に納付した税金の還付を求めるためには,その錯誤が
客観的に明白かつ重大であって,法律で定める方法以外にその是正を許さな
ければ納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がなければ
ならない。
イ 本件権利行使利益は,上記(1)の原告の主張のとおり,本来であれば,一時
所得に区分されるべきであるにもかかわらず,東京国税局や名古屋国税局
は,在日外資系企業数社に対し,米国親会社のストックオプションを行使によ
り得た所得を給与所得として申告していなかったとして,税務調査を行い,日
本A社に対しても,米国A社のストックオプションを行使した者の氏名等のデー
タの提出を求めてきた。日本A社からこのような連絡を受けた原告は,生物科
学分野の研究者にすぎず,税法の知識を全く有していなかった上,税理士か
ら,従前一時所得として課税されてきたこと等の説明を受けなかったこともあ
って,給与所得として申告しなければならないと錯覚して本件修正申告等をし
たものである。
このように,国税当局が違法な修正申告を求め,これに応じなければ追徴
課税を行うなどの強硬措置を取っている状況下において,税法の知識を全く
有していない原告が本件権利行使利益を給与所得として申告しなければなら
ないとの錯誤に陥ったことは無理からぬというべく,法律の定める過誤是正以
外の方法による是正を許さないことは著しく正義に反し,納税義務者の利益を
著しく害すると認められる特段の事情がある場合に該当する。
(被告国)
原告の主張は争う。
ア まず,原告は,権利行使益が一時所得であるのにこれを給与所得であると
誤解したと主張するが,原告の見解の根拠とされている本件判決やそれと同
旨の判決は,いずれも控訴審において取り消されており,そもそも,権利行使
益が一時所得であるとする原告の見解には問題がある。
仮に,事後的に最高裁判所の判決によって課税庁の法律解釈に誤りがあ
ると判断されたとしても,それによって従前の課税処分が法律上当然に無効と
なるわけではないのと同様に,本件修正申告等についても,それによって錯
誤無効とされることはないというべきである。
イ また,原告の主張する錯誤は,いわゆる動機ないし縁由の錯誤であるが,錯
誤が客観的に明白であるとは,申告書の記載などから客観的にみて,かかる
錯誤が容易に判断し得る場合を指すと解するのが相当であるところ,本件申
告書は,国税通則法19条4項所定の適式な申告書の体裁を整えており,申
告書自体からは,原告が主張するような動機・縁由は客観的に明白とはいえ
ず,錯誤が客観的にみて容易に判断し得るような明白性を備えていない。
ウ さらに,原告は,税法の知識を有していないとはいっても,千種税務署係官
から何らの問題点の指摘や指導も受けていない状況の下で,本件権利行使
利益を享受してから3年ないし1年超の長期間を経過した後に,専門家である
税理士の関与の下に,自主的に本件修正申告等をしたものであり,原告にお
いて,十分に説明を受け,検討する機会があったというべきであるから,錯誤
無効を主張することによる是正を許さなければ,その利益を著しく害すると認
められる特段の事情は存在しない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件通知処分の適否)について
(1) 国税通則法23条1項は,納税申告書を提出した者は,当該申告書に記載した
課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかっ
たこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付す
べき税額が過大であるとき等に該当する場合には,当該申告書に係る国税の法
定申告期限から1年以内に限り,税務署長に対し,その申告に係る課税標準等
又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨定めている。これ
は,所得税の課税標準等について,最もその事情に通じていると思われる納税
者自身の自主的申告に基づく方式(国税通則法16条2項1号,所得税法120
条)が,民主主義国家における納税義務確定方式として相応しく,かつ効率的で
あると考えられた反面,その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限ることに
よって,租税債務を早期に確定し,その効力が争われることによる不安定さを避
けようとする要請に応じようとしたものと考えられる。
ところで,本件更正の請求は,前記前提事実(5)記載のとおり,平成15年1月
27日になされているところ,平成10年分ないし平成12年分の各所得税に係る
法定申告期限は,それぞれ平成12年ないし平成14年の各3月15日である(所
得税法120条1項)から,いずれも同条1項所定の法定申告期限から1年の期
限を徒過してなされたものであることが明らかである(そもそも,本件修正申告等
は,平成12年分所得税の確定申告を除き,法定申告期限から1年を経過した
後に行われているから,国税通則法23条1項に基づく更正の請求は,その余地
がなかったことになる。)。
(2) 次に,国税通則法23条2項は,上記の例外として,①申告,更正又は決定に
係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについて
の判決等により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定し
たとき(同項1号),②申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算
に当たってその申告をし,又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得
その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正
又は決定があったとき(同項2号),及び③その他当該国税の法定申告期限後
に生じた上記①及び②に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき(同
項3号)には,これらの各事由が生じた日の翌日から起算して2月以内に限り,
更正の請求を行うことができる旨を定めている。
その趣旨は,申告時には予知し得なかった事態その他やむを得ない事由が
後発的に発生したことにより,本来納付すべき税額が申告に係る税額を下回る
こととなった場合にまで,同条1項による納税義務の早期確定の要請を貫くこと
は不当と考えられたため,同項の期間を経過した後であっても,納税者側から減
額更正を請求し得る途を開くことにあると考えられる。
したがって,上記①の「判決」は,同項1号が「その申告……に係る課税標準
等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(略)に
より,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」と定
めているとおり,申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった当該
事実の存否や効力について判断が示されたものを指し,法令の解釈や課税客
体の性質に関する評価など,同種の争点についての判断が示された判決を含
むものではないと解するのが相当である。そうすると,同種のストックオプション
による権利行使利益の所得区分に関する本件判決が上記①の「判決」に該当し
ないことは明らかである。
また,同項3号は,「その他当該国税の法定申告期限後に生じた前2号に類
する政令で定めるやむを得ない理由があるとき」にも,当該理由が生じた日の翌
日から起算して2月以内に更正の請求を行うことを認めているところ,同号を受
けた同法施行令6条1項は,やむを得ない理由として,ⅰ課税標準等又は税額
等の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の
許可等の処分が取り消されたこと(同項1号),ⅱ課税標準等又は税額等の計算
の基礎となった事実に係る契約が,解除され,又は取り消されたこと(2号),ⅲ
帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により,課税標準等又は税額等の計
算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて税額等を計算することが
できなかったこと(3号),ⅳ租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のた
めの条約に規定する権限のある当局間の協議により,その申告等に係る課税
標準等又は税額等に関し,その内容と異なる内容の合意がなされたこと(4号)
を定めているが,本件判決が上記の各号の事由に当たらないことは,その文言
上明らかである(国税通則法23条1項の前記趣旨に照らせば,その例外となる
同条2項各号掲記の事由を,類推ないし拡張して解釈すべきではない。)。
この点について,原告は,本件更正の請求が法定の期限を経過してなされた
ものであるとしても,行政の法律適合性の要請から,被告税務署長は更正をす
ることができ,またしなければならない旨主張する。なるほど,税務署長が,国税
通則法24条の要件が充足されたと認めた場合,同法70条2項の期間内に減額
更正が行われることがあり得ないわけではないが,それは,租税債務の早期確
定の要請をも視野に入れた行政庁自身の判断にかかるものであって,法律適合
性の要請があることをもって,被告税務署長が減額更正をすべき義務を負うもの
ではない。
(3) そうすると,本件更正の請求は,国税通則法23条1項所定の期限を徒過して
なされたものであり,かつ同条2項の各号に該当しないことが明らかであるから,
同請求は理由がないと判断した本件通知処分は,適法というべきである。
 2 争点(2)(本件修正申告等は錯誤により無効か)について
(1) 一般に,私人による公法上の意思表示については,法律行為に関する民法の
規定がそのまま適用ないし準用されると解するのは相当でなく,法令によって定
められた当該制度の趣旨・目的を総合的に勘案して,その可否,限度及び要件
を決すべきであるところ,所得税については,前記のとおり,申告納税方式が採
用されており,一定の期間に限って,当初の申告書に記載した内容の更正の請
求をすることができるとされているのは,租税債務をできるだけ速やかに確定し
ようとする要請によると考えられる。したがって,確定申告書の記載内容が納税
者の真意と一致しなかったとしても,民法95条によって直ちにその効力が失わ
れると解すべきものではなく,その錯誤が客観的に明白かつ重大であって,法の
定めた方法以外にその是正を許さないならば,納税者の利益を著しく害すると認
められる特段の事情がある場合に限って,無効を主張できるというべきである
(最高裁判所昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁参
照)。
(2) これを本件について検討するに,前提事実(4),(5)に証拠(甲19,20,乙1な
いし5)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア 国税当局は,かねて,ストックオプションによる権利行使利益が一時所得に
当たることを前提として税務行政を行ってきたが,平成12年ころから,東京国
税局や名古屋国税局が,在日外資系企業数社に対し,米国親会社のストック
オプションの行使により得た所得について給与所得に当たるものとして,税務
調査や更正処分を行うようになり,日本A社に対しても,米国A社のストックオ
プションを行使した者の氏名等のデータの提出を求めるに至った。
イ 原告は,平成14年1月末ころ,日本A社から,在日外資系企業数社の社員
及び役員等が米国親会社のストックオプション行使により得た個人所得を給
与所得として税務申告していなかったとして,国税当局から税務調査を受け,
修正申告に応じない者については追徴課税がなされていること,国税当局か
ら,平成10年1月1日から平成12年12月31日までの期間中に米国A社の
ストックオプションを行使した者の氏名・住所,行使内容(株数,行使日,オプ
ション価格,経済的利益等)についての情報の提供を求められたため,日本A
社は,これに応じる予定であること,実際の申告に当たっては税理士等の専
門家に相談するよう勧めることなどの連絡を受けた。
ウ 原告は,生物科学分野の研究者であって,税法の知識に乏しく,従前の課
税状況について知識がなかったため,税理士に日本A社からの連絡事項を伝
え,その処理を依頼したところ,税理士から本件権利行使利益を給与所得とし
て申告する旨の方針を示され,これを了解して本件修正申告等を行った。
なお,千種税務署の職員は,それまで原告の所得状況に何らの問題意識
を抱いておらず,上記税理士から本件修正申告等を行うことの連絡を受けた
後も,事務的な対応をするにとどまった。
エ 原告は,その後,東京地方裁判所で本件判決が言い渡されたことを知り,本
件更正の請求をした。もっとも,本件判決は,控訴審である東京高等裁判所に
おいて取り消されている上,本件判決以外にも,ストックオプションの権利行
使利益を一時所得と認めた東京地方裁判所の判決はいくつか存在するが,
現時点では,控訴審でその判断が肯定されたものはない。
上記認定事実によれば,確かに,ストックオプションの権利行使利益が一時所
得に区分されるべきか給与所得に区分されるべきかについては,本件修正申告
等の当時においても,両方の見解の対立があり,一時所得説に立つ裁判例があ
る一方で,給与所得説に立つ裁判例も有力であるから,本件修正申告等が前提
とした給与所得に区分されるという考え方が明らかに誤りであったとはいえず,
仮に,今後,最高裁判所によって一時所得説が支持されたとしても,少なくとも,
本件修正申告等の時点において,その錯誤が客観的に明白であったとはいえな
い。
また,本件においては,平成12年分所得税の確定申告を除き,原告が本件
修正申告等に対して更正の請求を行う余地がなかったことは前記のとおりであ
るけれども,千種税務署職員は原告の所得状況に何らの問題意識を抱いておら
ず,原告に対して何らの問題点の指摘,指導,しょうよう等を行っていない状況
下において,原告は,税制の専門家である税理士に依頼した上,本件修正申告
等を行ったのであるから,それが国税当局による税務調査等の動向を耳にした
ために行われたものであるとしても,なお申告における自主性・自発性は失われ
ないというべきであるから,その是正を許さないならば納税者の利益を著しく害
すると認められる特段の事情を認めることはできない。
(3) したがって,本件修正申告等の内容に過誤があるかどうかはともかくとして,少
なくとも原告の主張する錯誤は,客観的に明白であるとはいえず,また,原告の
利益を著しく害すると認められる特段の事情も存在しないから,本件修正申告等
が無効であるとは認められない。
3 よって,原告の本訴各請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費
用の負担について,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
    裁判長裁判官    加  藤  幸  雄
    裁判官    舟  橋  恭  子
   裁判官    尾  河  吉  久
(別表添付省略)

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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