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平成15年(行ケ)第58号 特許取消決定取消請求事件(平成16年1月28日
口頭弁論終結)
          判    決
       原   告     アビリット株式会社
       (旧商号)高砂電器産業株式会社
訴訟代理人弁理士   鈴 木 由 充
       被   告      特許庁長官 今井康夫
       指定代理人      藤 井 俊 二
       同          藤 井 靖 子
同          大 野 克 人
同          宮 川 久 成
同          伊 藤 三 男
          主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 特許庁が異議2000-74436号事件について平成14年12月26日
にした決定を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,名称を「スロットマシンの抽選当り報知方法」とする特許第305
1091号発明(平成9年10月13日出願,平成12年3月31日設定登録,以
下,この特許を「本件特許」という。)に係る特許権者である。
 その後,本件特許につき特許異議の申立てがされ,同申立ては,異議200
0-74436号事件として特許庁に係属したところ,原告は,平成12年7月1
3日,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特
許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
 特許庁は,上記事件につき審理した結果,平成14年12月26日,「訂正
を認める。特許第3051091号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定
(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,平成15年1月20日,原告に
送達された。
2 本件訂正に係る本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載
 ゲーム開始操作後に機械内部で抽選処理を行い,抽選が当たったとき,特定
の入賞が発生しやすいようにリールの停止制御を行うようにしたスロットマシンに
おいて,各リールの周面へ照明を施すための照明系として,前記抽選処理により抽
選が当たる前は点灯状態に設定される1個以上の照明装置を含んでおり,前記抽選
処理により抽選が当たったとき,少なくとも1個の照明装置を消灯させて照明状態
を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させることにより,抽選が当たったこと
を遊戯者へ報知するようにしたスロットマシンの抽選当り報知方法。
(以下,この発明を「本件発明」という。)
3 本件決定の理由
本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件訂正を認めた上,本件発
明は,特開平8-117390号公報(甲4,以下「引用刊行物1」という。),
特開平6-105943号公報(甲5,以下「引用刊行物2」という。)及び実公
平5-7008号公報(甲6,以下「引用刊行物3」という。)に記載された発明
(以下,引用刊行物1及び2に記載の発明を,それぞれ「引用発明1」,「引用発
明2」という。)並びに平成3年9月1日白夜書房発行「パチスロ必勝ガイド9
(第2巻第5号)」(甲7,以下「引用刊行物4」という。)及び同年6月29日
双葉社発行「パチスロ攻略マガジンNO.3(第3巻9号)」(甲8,以下「引用
刊行物5」という。)に示された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,本件発明に係る本件特許は,特許法29条2項の規定
に違反してされたものであって,同法113条2号に該当し,取り消されるべきも
のであるとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
 本件決定は,本件発明と引用発明1との一致点の認定を誤った(取消事由1)
のみならず,引用発明2の認定を誤り(取消事由2),本件発明と引用発明1との
相違点に関する判断を誤った(取消事由3)結果,本件発明に係る本件特許は,特
許法29条2項の規定に違反してされたものであるとの誤った結論に至ったもので
あるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
(1) 本件決定は,本件発明と引用発明1とは,「ゲーム開始操作後に機械内部で
抽選処理を行い,リールの停止制御を行うようにしたスロットマシンにおいて,各
リールへの照明状態を変化させることにより,抽選が当たったことを遊戯者へ報知
するようにしたスロットマシンの抽選当り報知方法」(決定謄本8頁第3段落)で
ある点において一致すると認定した。
 しかしながら,引用発明1における「バックライト」は,単なる表示器又
は報知器として機能しており,本件発明における「各リールの周面へ照明を施すた
めの照明系として」の「照明装置」に相当するものではない。引用刊行物1(甲
4)には,バックライトによる報知の具体的態様が3種類記載されている(図1
2)が,例えば,そのうちの図(A)に示されるパターンは,すべてのランプを点
灯又は点滅するパターンであるとされている(甲4の段落【0081】)ところ,
報知のためにすべてのランプを点灯するとすれば,内部的当選の前においては,す
べてのランプが消灯状態にあったことを意味するから,このバックライトは,各リ
ールの周面へ照明を施すための照明系としての照明装置に相当することはあり得な
い。
 したがって,本件決定の上記一致点の認定は誤りである。
(2) 被告は,本件決定は,引用発明1の「バックライト」が本件発明における
「各リールの周面へ照明を施すための照明系として,前記抽選処理により抽選が当
たる前は点灯状態に設定される1個以上の照明装置」に相当すると認定したもので
はなく,当該バックライトが,「各リールへの照明状態を変化させる」ものである
との点で一致するとしたものにすぎない旨主張する。しかし,本件決定が,引用発
明1の「バックライト」が本件発明における「各リールの周面へ照明を施すための
照明系として」の「照明装置」に相当するとの前提に立っていることは,その説示
から明らかであるから,被告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(引用発明2の認定の誤り)
(1) 本件決定は,引用発明2に関し,「引用刊行物2(注,甲5)には,リール
1a,1b,1cの周面に照明を施す,白色ランプ20又は紫外線ランプ21を
『点灯・消灯』あるいは『点灯』することによりゲームの状態を示すことが開示さ
れている」(決定謄本8頁末行~9頁第1段落)と認定し,さらに,「引用刊行物
2には,スロットマシンにおいて,各リール(の周面)へ照明を施すためのランプ
等を,『点灯・消灯』あるいは『点灯』する等の照明を変化させることにより,大
当たり等のゲームの状態を遊戯者へ報知するという技術思想が開示されて」(同9
頁第3段落)いると認定した。
 しかしながら,引用発明2は,「リールの外周部に特殊なインキを用いて
シンボルまたはその背景部分を表すことにより,変化に富んだシンボル表示を可能
とし,また遊戯者のゲームに対する気分を大幅に高揚できる遊戯機用リールを提供
することを目的とする」(甲5の段落【0006】)ものであり,リールの外周部
に表されたシンボルを際立たせるために,白色ランプ20,20によって蓄光イン
キによる着色部分を発光させ(同段落【0017】~【0021】),また,紫外
線ランプ21によって蛍光インキによる着色部分を発光させている(同段落【00
22】)。すなわち,引用発明2においては,白色ランプ20,20又は蛍光ラン
プ21を用いてはいるものの,それらのランプの照明状態を変化させることにより
ゲームの状態を示しているわけではなく,蓄光インキや蛍光インキで描かれたシン
ボルや背景部分の発色状態を変化させることによってゲームの状態を示しているの
である。
 同様に,引用刊行物2には,スロットマシンにおいて,シンボルや背景部
分の発色状態を変化させることにより,大当たり等のゲームの状態を遊戯者へ報知
するとの技術が開示されているだけであり,各リール(の周面)へ照明を施すため
の照明を変化させることにより,大当たり等のゲームの状態を遊戯者へ報知すると
いう技術的思想は開示されていない。
 したがって,本件決定の引用発明2に関する上記各認定は,いずれも誤り
である。
(2) 被告は,引用刊行物2には,各リールを照明する白色ランプ20,20又は
紫外線ランプ21を点灯させて入賞状態であることを遊戯者に報知することが記載
されているといえると主張するが,上記(1)のとおり,白色ランプ20,20及び紫
外線ランプ21は,蓄光インキや蛍光インキによる着色部分を発光させるための手
段であり,それのみで入賞状態であることを遊戯者へ報知する手段を構成するもの
ではないから,被告の上記主張は失当である。
 また,被告は,白色ランプ20,20を点灯することにより各リールを照
らして明るくすることがゲームの状態を告知していることになる旨の主張をもする
が,上記(1)のとおり,引用刊行物2には,蛍光インキや蓄光インキで描かれたシン
ボルや背景部分の発色状態をランプにより変化させてゲームの状態を示すという技
術が開示されているだけであり,被告の上記主張は,引用刊行物2の記載に基づか
ないものである。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)
(1) 本件決定は,本件発明と引用発明1との相違点(B)として,「抽選が当た
ったことの遊戯者への報知を,本件発明では,各リールの周面へ照明を施すための
照明系として,抽選処理により抽選が当たる前は点灯状態に設定される1個以上の
照明装置を含んでおり,前記抽選処理により抽選が当たったとき,少なくとも1個
の照明装置を消灯させて照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させる
ことにより行っているのに対し,引用刊行物1(注,甲4)の発明(注,引用発明
1)では,各リール2,3,4の内側に取り付けられているバックライトを点滅又
は点灯させることにより行っている点」(決定謄本8頁第5段落)を認定した上,
上記相違点(B)につき,「引用刊行物1の発明において,抽選処理により抽選が
当たったとき,リール2,3,4の周面へ照明を施すためのランプの少なくとも1
個の照明装置を消灯させて照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させ
ることにより,抽選が当たったことを遊戯者へ報知するようにして,本件発明のよ
うに構成することは当業者が容易に想到できることである」(同9頁第4段落)と
判断した。
(2) しかしながら,引用発明1におけるバックライトを構成するすべてのランプ
は,内部当選前はすべて消灯状態にあり,内部当選を報知するに際して点灯又は点
滅させるものであるから,消灯状態にあるランプをさらに消灯させて,明るい照明
状態から暗い照明状態に変化させることはあり得ない。したがって,そもそも,引
用発明1にどのような発明を組み合わせても,本件発明のように構成することはで
きないというべきである。
 引用発明2は,各リールの照明状態を変化させることにより大当たり等の
ゲームの状態を遊戯者へ報知するという技術的思想を開示するものでないことは上
記2のとおりであるが,仮に,引用発明2に「報知時にランプを消す」との技術的
思想が開示されているとしても,上記のような引用発明1に当該技術的思想を適用
することはできない。また,引用発明2における「入賞状態」とは,有効ライン入
賞に係るシンボルの組合せが成立した状態のことであり,本件発明や引用発明1に
おける「抽選処理により抽選が当たったとき」に相当するものではない。さらに,
本件決定は,「スロットマシンにおいて,リールを照らしている『ランプ』を消す
ことにより,ビッグ,レギュラーのフラグが成立していることを遊技者に報知する
ことは,引用刊行物4(注,甲7)又は5(注,甲8)・・・に示されるように,
周知である」(決定謄本9頁第2段落)と認定するが,仮にそうであるとしても,
「ランプを消す」という技術的思想を引用発明1に適用する余地がないことは上記
と同様である。
 ちなみに,引用刊行物4及び5には,リールを照らしているランプを消し
てフラグの成立を遊戯者に報知することが記載されているが,その意味は,文字ど
おりランプを消して真っ暗にするということであり,本件発明における「明るい照
明状態から暗い照明状態に変化させること」とは異なる。「ランプを消す」方式で
は,リールの図柄が暗くて見えなくなるので,遊戯者はゲームに集中することがで
きない。
(3) 以上によれば,本件決定の上記相違点(B)に関する判断は誤りである。
第4 被告の反論
 本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は,いずれも理由が
ない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 原告は,引用発明1における「バックライト」は,本件発明における「各リ
ールの周面へ照明を施すための照明系として」の「照明装置」に相当するものでは
ないとして,本件決定の一致点の認定は誤りである旨主張する。
 しかしながら,本件決定は,引用発明1の「バックライト」が本件発明に
おける「抽選が当たる前は点灯状態に設定される1個以上の照明装置」に相当して
いるとはしておらず,その点については,相違点(B)として,「抽選が当たった
ことの遊戯者への報知を,本件発明では,各リールの周面へ照明を施すための照明
系として,抽選処理により抽選が当たる前は点灯状態に設定される1個以上の照明
装置を含んでおり,前記抽選処理により抽選が当たったとき,少なくとも1個の照
明装置を消灯させて照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させること
により行っているのに対し,引用刊行物1の発明(注,引用発明1)では,各リー
ル2,3,4の内側に取り付けられているバックライトを点滅又は点灯させること
により行っている点」(決定謄本8頁第5段落)を認定した上,その容易想到性を
判断しているのであるから,原告の上記主張は失当である。
(2) なお,上記のとおり,本件決定は,引用発明1のバックライトが本件発明に
おける「抽選が当たる前は点灯状態に設定される1個以上照明装置」に相当する構
成であると認定するものではないが,引用発明1のバックライトが,本件決定が一
致点として認定した「各リールへの照明状態を変化させるもの」であることは明ら
かである。
 すなわち,引用刊行物1(甲4)には,「具体的には,図10及び図11
に示すように,3つのリール2,3,4の各々について可変表示部の窓に現れるシ
ンボルの裏面側に,3個のランプ(LED,電球などの発光体)41を縦方向に配
列した基板42を設置し・・・図12(A),(B),(C)に示すような種々の
パターンで点滅又は点灯するように制御する」(段落【0081】と記載されてお
り,バックライト(3個のランプ41)は,リール2,3,4の裏面側に設置さ
れ,それが点滅又は点灯する際には,リール2,3,4の可変表示部を明るくする
ものであるから,各リールへの照明状態を変化させているということができる。
2 取消事由2(引用発明2の認定の誤り)について
(1) 原告は,引用発明2においては,白色ランプ20,20又は蛍光ランプ21
を用いてはいるものの,それらのランプの照明状態を変化させることによりゲーム
の状態を示しているわけではなく,蓄光インキや蛍光インキで描かれたシンボルや
背景部分の発色状態を変化させることによってゲームの状態を示しているなどとし
て,引用発明2に関する本件決定の認定は誤りである旨主張する。
 しかしながら,引用刊行物2(甲5)には,「白色ランプ20,20
は・・・各リール1a,1b,1cを照明する」(段落【0021】),「白色ラ
ンプ20,20は常時点灯させる以外に,入賞時に限って点灯動作させるようにし
てもよい」(同),「上記の例では各リール1a,1b,1cの回転時および停止
時に紫外線ランプ21を点灯動作させているが,これに限らず,各リールに入賞に
かかるシンボルの組合せが成立したときに紫外線ランプ21を点灯して蛍光インキ
による着色部分を発光させてもよい」(段落【0039】)と記載されており,各
リールを照明する白色ランプ20,20又は紫外線ランプ21を点灯させて入賞状
態であることを遊戯者へ報知することが記載されているといえる。
 したがって,引用刊行物2には,スロットマシンにおいて,各リール(の
周面)へ照明を施すための白色ランプ20,20又は紫外線ランプ21を点灯させ
ることにより,入賞状態であることを遊戯者へ報知することが記載されているか
ら,引用発明2に関する本件決定の認定に誤りはない。
(2) なお,引用発明2は,帯状シート16のシンボル又は背景部分の少なくとも
一方に,蓄光インキ,蛍光インキを施しているが,これは,白色ランプ20,20
を点灯することにより各リールを照らして明るくすることに加え,シンボルや背景
部分の発色状態を変化させることにより,単に白色ランプ20,20を点灯する場
合よりも一層大当たり等のゲームの状態を分かりやすくするためのものであること
は明らかである。
 したがって,引用発明2は,白色ランプ20,20を点灯し各リールを照
明すると,シンボルや背景部分の発色状態が変化するが,それとともに,各リール
が明るくなり,各リール(の周面)への照明状態が変化することも明らかであるか
ら,原告の上記主張は失当である。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)について
(1) 原告は,引用発明1において,バックライトを構成するすべてのランプは,
内部的当選の前は消灯状態にあるから,引用発明2における「報知時にランプを消
す」との技術的思想を引用発明1に適用することはできないなどとして,本件決定
の相違点(B)に関する判断は誤りである旨主張する。
 しかしながら,本件決定は,引用発明1が内部当選の前には消灯状態にあ
ることを一致点として認定した上で,それを前提に判断を行っているものではな
く,「各リールへの照明状態を変化させることにより,抽選が当たったことを遊技
者に報知するようにしたこと」を一致点として認定した上,各リールへの照明状態
を変化させることについて,「引用刊行物2(注,甲5)には・・・各リール(の
周面)へ照明を施すためのランプ等を,『点灯・消灯』あるいは『点灯』する等の
照明を変化させること・・・が開示されており,また・・・リールを照らしている
『ランプ』を消すこと・・・は,周知である」(決定謄本9頁第3段落)から,
「リール2,3,4の周面へ照明を施すためのランプの少なくとも1個の照明装置
を消灯させて照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させること・・・
は当業者が容易に想到できることである」(同第4段落)と判断しているものであ
って,原告の上記主張は,その前提において誤りというべきである。
(2) 引用発明1は,抽選が当たったことの遊戯者への報知を,各リール2,3,
4の内側に取り付けられているバックライトを点滅又は点灯させることにより行っ
ているところ,仮に,原告が主張するように,内部当選状態の報知前にはバックラ
イトがすべて消灯状態にあるとしても,バックライトを消灯状態から点滅又は点灯
状態にするということは,照明状態を変化させることに該当する。そして,照明状
態を変化させる方法には,消灯状態から点滅又は点灯状態に変化させる方法(引用
刊行物1及び2に記載の方法),点灯状態から消灯状態に変化させる方法(引用刊
行物4及び5に記載の方法),あるいは,照明状態の明るさを変化させる方法等,
種々の方法があることは明らかであって,当業者であれば,これらの従来例を適宜
に採用し得るものというべきである。
 そうすると,引用発明1において,リールの照明状態を変化させる方法と
して,照明状態の明るさを変化させる方法を適用し,「少なくとも1個の照明装置
を消灯させて照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させ」ることは,
当業者なら容易に想到できることであるといえるから,本件決定の相違点(B)に
関する判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 本件決定は,本件発明と引用発明1の一致点として,「ゲーム開始操作後に
機械内部で抽選処理を行い,リールの停止制御を行うようにしたスロットマシンに
おいて,各リールへの照明状態を変化させることにより,抽選が当たったことを遊
戯者へ報知するようにしたスロットマシンの抽選当り報知方法」(決定謄本8頁第
3段落)との点を認定しているところ,原告は,引用発明1における「バックライ
ト」は,本件発明における「各リールの周面へ照明を施すための照明系として」の
「照明装置」に相当するものではないとして,本件決定の上記一致点の認定は誤り
である旨主張する。
(2) そこで検討すると,本件決定においては,上記一致点の認定に続けて,相違
点(B)として,「抽選が当たったことの遊戯者への報知を,本件発明では,各リ
ールの周面へ照明を施すための照明系として,抽選処理により抽選が当たる前は点
灯状態に設定される1個以上の照明装置を含んでおり,前記抽選処理により抽選が
当たったとき,少なくとも1個の照明装置を消灯させて照明状態を明るい照明状態
から暗い照明状態に変化させることにより行っているのに対し,引用刊行物1
(注,甲4)の発明(注,引用発明1)では,各リール2,3,4の内側に取り付
けられているバックライトを点滅又は点灯させることにより行っている点」(決定
謄本8頁第5段落)が認定されている。これと上記一致点の認定内容とを併せ読め
ば,本件決定は,あくまで,本件発明と引用発明1とは,「抽選が当たったことを
遊戯者へ報知する」方法として「照明状態を変化させる」との構成を採用したとの
点において一致すると認定したものであって,当該「照明状態を変化させる」ため
の具体的手段,方法までが一致すると認定したものでないことは,その記載自体か
ら明らかであるから,この点において,原告の上記主張は,そもそも本件決定の趣
旨を正解しないものであるというほかはない。
(3) そして,引用刊行物1(甲4)には,「ゲームスタート後,サンプリングさ
れた乱数値が内部的当選役に該当した場合,その内部的当選を遊技者に知らせる報
知手段を設けてもよい」(段落【0079】),「具体的には,図10及び図11
に示すように,3つのリール2,3,4の各々について可変表示部の窓に現れるシ
ンボルの裏面側に,3個のランプ(LED,電球などの発光体)41を縦方向に配
列した基板42を設置し・・・図12(A),(B),(C)に示すような種々の
パターンで点滅又は点灯するように制御する」(段落【0081】)と記載されて
おり,上記3個のランプが点滅又は点灯すれば,「照明状態が変化する」ことは明
らかであるから,引用発明1は,「抽選が当たったことを遊戯者へ報知する」方法
として「照明状態を変化させる」との構成を採用するものであると認められ,この
点において,本件発明と引用発明1とが一致するとした本件決定の認定に誤りはな
いというべきである。
(4) 以上によれば,原告の取消事由1の主張は採用の限りではない。
2 取消事由2(引用発明2の認定の誤り)について
(1) 本件決定は,引用発明2に関し,「引用刊行物2(注,甲5)には,リール
1a,1b,1cの周面に照明を施す,白色ランプ20又は紫外線ランプ21を
『点灯・消灯』あるいは『点灯』することによりゲームの状態を示すことが開示さ
れている」(決定謄本8頁末行~9頁第1段落),「引用刊行物2には,スロット
マシンにおいて,各リール(の周面)へ照明を施すためのランプ等を,『点灯・消
灯』あるいは『点灯』する等の照明を変化させることにより,大当たり等のゲーム
の状態を遊戯者へ報知するという技術思想が開示されて」(同9頁第3段落)いる
と認定しているところ,原告は,引用発明2においては,白色ランプ20,20又
は蛍光ランプ21を用いてはいるものの,それらのランプの照明状態を変化させる
ことによりゲームの状態を示しているわけではなく,蓄光インキや蛍光インキで描
かれたシンボルや背景部分の発色状態を変化させることによってゲームの状態を示
しているなどとして,引用発明2に関する本件決定の上記認定は誤りである旨主張
する。
(2) そこで検討すると,引用刊行物2(甲5)には,「白色ランプ20,20
は・・・各リール1a,1b,1cを照明する」(段落【0021】),「白色ラ
ンプ20,20は常時点灯させる以外に,入賞時に限って点灯動作させるようにし
てもよい」(同),「蓄光インキおよび蛍光インキの2種類のインキが用いられる
場合は・・・白色ランプ20と紫外線ランプ21とをそれぞれ,リール表示窓3の
上下位置に設置する」(段落【0027】),「これらのランプのうち,白色ラン
プ20は電源がオンの状態で常時点灯させるが,紫外線ランプ21は,後述する制
御部25からの指令に応じて,適時点灯・消灯動作させる。なお白色ランプ20も
紫外線ランプ21と同様,適時点灯させるようにしてもよい」(段落【002
8】),「上記の例では各リール1a,1b,1cの回転時および停止時に紫外線
ランプ21を点灯動作させているが,これに限らず,各リールに入賞にかかるシン
ボルの組合せが成立したときに紫外線ランプ21を点灯して蛍光インキによる着色
部分を発光させてもよい」(段落【0039】)と記載されているところ,上記の
白色ランプ及び紫外線ランプがリールの「周面」を照明するためのものであること
は明らかであるから,引用刊行物2には,入賞時に,各リールの周面へ照明を施す
ための照明系としての照明装置である白色ランプ20,20又は紫外線ランプ21
を点灯させ,その照明状態を変化させることによって,入賞状態であることを遊戯
者に報知するとの技術的思想が開示されていると認めることができる。
 この点について,原告は,上記のとおり,引用発明2は,白色ランプ2
0,20又は蛍光ランプ21を用いてはいるものの,それらのランプの照明状態を
変化させることによりゲームの状態を示しているわけではなく,蓄光インキや蛍光
インキで描かれたシンボルや背景部分の発色状態を変化させることによってゲーム
の状態を示している旨主張するが,仮に,引用発明2においては,蓄光インキや蛍
光インキで描かれたシンボルや背景部分の発色状態を変化させることが,入賞状態
を遊戯者に報知する主な手段であるといえるとしても,上記各ランプが点灯すれ
ば,リールの周面の照明状態が明るく変化することも自明であるから,引用刊行物
2に「照明を変化させることにより,大当たり等のゲームの状態を遊戯者へ報知す
るという技術思想が開示されて」いるとする本件決定の認定を誤りであるとするこ
とはできないし,そもそも,リール周面に描かれたシンボルや背景部分の発色状態
を変化させること自体が,リール周面の照明状態の変化に該当するといえるから,
この点でも,原告の主張は上記の認定を左右するものではない。
(3) 以上によれば,本件決定の上記各認定は,引用発明2について上記認定に係
る技術的思想と同旨を認定したものとして,格別誤りはないというべきであるか
ら,原告の取消事由2の主張は失当である。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)について
(1) 本件決定は,本件発明と引用発明1との相違点(B)として,「抽選が当た
ったことの遊戯者への報知を,本件発明では,各リールの周面へ照明を施すための
照明系として,抽選処理により抽選が当たる前は点灯状態に設定される1個以上の
照明装置を含んでおり,前記抽選処理により抽選が当たったとき,少なくとも1個
の照明装置を消灯させて照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させる
ことにより行っているのに対し,引用刊行物1(注,甲4)の発明(注,引用発明
1)では,各リール2,3,4の内側に取り付けられているバックライトを点滅又
は点灯させることにより行っている点」(決定謄本8頁第5段落)を認定した上,
上記相違点(B)につき,「引用刊行物1の発明において,抽選処理により抽選が
当たったとき,リール2,3,4の周面へ照明を施すためのランプの少なくとも1
個の照明装置を消灯させて照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させ
ることにより,抽選が当たったことを遊戯者へ報知するようして,本件発明のよう
に構成することは当業者が容易に想到できることである」(同9頁第4段落)と判
断しているところ,原告は,引用発明1において,バックライトを構成するすべて
のランプは,内部的当選の前は消灯状態にあるから,引用発明2や引用刊行物4,
5に「報知時にランプを消す」との技術的思想が示されているとしても,これを引
用発明1に適用することはできないなどとして,本件決定の上記判断は誤りである
旨主張する。
(2) そこで検討すると,本件発明と引用発明1とは,上記1のとおり,「ゲーム
開始操作後に機械内部で抽選処理を行い,リールの停止制御を行うようにしたスロ
ットマシンにおいて,各リールへの照明状態を変化させることにより,抽選が当た
ったことを遊戯者へ報知するようにしたスロットマシンの抽選当り報知方法」であ
る点で一致するところ,その「照明状態を変化させる」ための具体的な手段,方法
において,上記相違点(B)のとおりの差異が認められるものである。
 そして,上記相違点(B)に係る本件発明の構成のうち,「各リールの周
面へ照明を施すための照明系として,抽選処理により抽選が当たる前は点灯状態に
設定される1個以上の照明装置」の点灯状態を変化させるとの点については,上記
2(2)で認定したとおり,引用刊行物2において,入賞時に,各リールの周面へ照明
を施すための照明系としての照明装置である白色ランプ20,20又は紫外線ラン
プ21を点灯させ,その照明状態を変化させることによって,入賞状態であること
を遊戯者に報知するとの技術的思想が開示されていると認められるから,これを引
用発明1に係る「ゲーム開始操作後に機械内部で抽選処理を行い,リールの停止制
御を行うようにしたスロットマシンにおいて,各リールへの照明状態を変化させる
ことにより,抽選が当たったことを遊戯者へ報知するようにしたスロットマシンの
抽選当り報知方法」との構成に適用する程度のことは,当業者において容易に想到
することができるものであるというべきである。なお,この点について,原告は,
引用発明2における「入賞状態」とは,有効ライン入賞に係るシンボルの組合せが
成立した状態のことであり,本件発明や引用発明1における「抽選処理により抽選
が当たったとき」に相当するものではないと主張するが,仮にそうであるとして
も,引用発明2における報知方法を,引用発明1における「抽選処理により抽選が
当たったとき」の報知に適用することを妨げる事情は見当たらないというべきであ
るから,原告の上記主張は,上記の判断を左右するものではない。
 さらに,本件発明の「照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化
させる」との構成についても,上記1のとおり,「抽選が当たったことを遊戯者へ
報知する方法」として「照明状態を変化させる」ことが公知である以上,照明の変
化の具体的な方法として,消灯状態から点滅又は点灯状態へ変化させる方法(引用
刊行物1及び2に記載の方法),点灯状態から消灯状態へ変化させる方法(引用刊
行物4及び5に記載の方法),照明の明るさを変化させる方法など,様々な方法が
あることは当業者にとって自明のことであるというほかはなく,そうであるとすれ
ば,当業者が,本件発明の「照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化さ
せる」との構成を想到することに格別の困難性はないというべきである。
(3) これに対し,原告は,上記のとおり,引用発明1において,バックライトを
構成するすべてのランプは,内部的当選の前は消灯状態にあるから,仮に,引用発
明2や引用刊行物4,5に「報知時にランプを消す」との技術的思想が示されてい
るとしても,これを引用発明1に適用することはできない旨主張する。
 しかしながら,本件決定は,照明状態の変化に関する引用刊行物1記載の
具体的な手段,方法を前提として,これに引用発明2の構成や引用刊行物4,5に
示された周知技術を適用するものではなく,引用発明1における「ゲーム開始操作
後に機械内部で抽選処理を行い,リールの停止制御を行うようにしたスロットマシ
ンにおいて,各リールへの照明状態を変化させることにより,抽選が当たったこと
を遊戯者へ報知するようにしたスロットマシンの抽選当り報知方法」との構成を前
提としているにすぎないから,原告の上記主張は,その前提において誤りであると
いうほかはない。
(4) また,原告は,引用刊行物4及び5に記載のランプの消灯とは,本件発明の
上記「照明状態を明るい照明状態から暗い照明状態に変化させる」構成とは異な
り,文字どおりランプを消して真っ暗にするということであり,リールの図柄が暗
くて見えなくなるので,遊戯者はゲームに集中することができない旨主張するとこ
ろ,この主張は,本件発明の上記構成であれば,抽選が当たったことを報知して
も,遊戯者がゲームに集中することができるとの顕著な作用効果を有するとする趣
旨であるとも解される。
 しかしながら,抽選が当たったことを遊戯者へ報知するため,照明状態の
変化という方法を採用するに当たり,より明りょうに照明状態を変化させる構成を
採れば,遊戯者が報知を見落とすおそれが低くなる反面,ゲームへの集中を乱され
るおそれが高くなり,他方,よりあいまいな変化を採用すれば,ゲームへの集中を
乱すおそれが低くなる反面,報知を見落とすおそれが高くなることは,もとより当
然のことというべきであるから,原告主張に係る上記作用効果は,本件発明の構成
自体から当然に予測できる程度のものであって,格別顕著なものであるとはいえな
い。
(5) 以上によれば,本件発明と引用発明1との上記相違点(B)について,当業
者が容易に想到できることであるとした本件決定の判断に誤りはないというべきで
あるから,原告の取消事由3の主張は,採用することができない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件決定を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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