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         主    文
     原判決中被告人A、同B、同C、同Dに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役一〇年に、被告人Bを懲役八年に、被告人Cを懲役五年
に被告人Dを懲役三年六月に各処する。
     原審における未決勾留日数中、被告人Aに対し二〇〇日を、被告人Dに
対し六〇日を、それぞれ右の刑に算入する。
     押収してある拳銃(コルト三八口径、証第一号)一丁、及び拳銃(コル
ト四五口径、証第三号)一丁並びにダイナマイト二本(大阪地検庁外検領昭和三九
年第五〇号、E株式会社において保管中)は被告人Aから没収する。
     被告人F、同G、同H、同I、同J、同Kに関する本件各控訴は、いず
れもこれを棄却する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、記録に編綴の大阪地方検察庁検事正代理次席検事斎藤周逸
作成の被告人A、同B、同C、同D、回Fに対する控訴趣意書、被告人A、同B、
同C、同G、同H、同Iの弁護人服部恭敬作成の控訴趣意書、被告人A、同G、同
H、同I、同C、同Bの弁護人森島忠三作成の控訴趣意書、被告人Kの弁護人西畑
肇作成の控訴趣意書及び被告人Jの弁護人井土福男作成の控訴趣意書にそれぞれ記
載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。
 被告人A、同B、同C、同Dに対する検察官の控訴趣意書について。
 論旨は、原判決は、被告人A、同B、同C、同Dに対する公訴事実中、「被告人
らは、Lと共謀の上、爆発物であるダイナマイトを使用して大阪市e区fg丁目五
〇番地のM組事務所を襲撃しようと企て、昭和三八年一〇月一四日午前七時頃、被
告人Cにおいて牛乳壜に詰めたダイナマイトに雷管及び導入線を装置したもの一個
及び拳銃一丁を、被告人Dにおいて、拳銃一丁を携行の与え、右Lの運転する乗用
自動車に乗車し、同市i区j町k番地lアパート前から、右M組事務所附近路上に
至り、同組事務所を破壊し且つ居合せたM組々員数名を殺傷する目的で、同所に投
げ込むため、右Cにおいてダイナマイトの導火線に点火したが、投擲の機を失し、
車内で爆発させ、もつて人の身体財産を害せんとする目的を以て爆発物を使用し
た」との訴因に対し、その外形的事実についてこれを認めながら、爆発物取締罰則
第一条の使用罪に該当せず、同罰則第三条の所持罪に当るに過ぎないとしたのは、
爆発物取締罰則第一条の解釈、適用を誤つた違法があると主張する。
 よつて、本件記録を精査するに、原判決は、「被告人Aは、昭和三八年一〇月六
日のダイナマイトによるM組事務所の襲撃計画が失敗に帰したことから、再び同様
の襲撃を敢行しよらとその機会を窺つていたが、右事務所附近の警戒がさらに厳重
になつたため、容易にその挙に出ることができなかつたところ、早朝頃にはその警
戒も手薄になるに相違ないものと思いいたつたところから、被告人B、同C、同D
および組員Lと共謀のうえ、前同様の目的をもつて、再度M組事務所を襲撃しよう
と企て、同月(一〇月)一四日午前七時前頃、かねて被告人Aおよび同Bが雷管お
よび導火線を装置したダイナマイト二本を牛乳の空びんにつめておいたもの一個を
被告人Cにおいて携え、右Lの運転するG所有の乗用自動車に被告人C、同Dが同
乗してM組事務所附近路上まで赴き、もつて同所において人の身体財産を害せんと
する目的をもつて爆発物を所持した。」との事実を認定し、その理由として、「爆
発物取締罰則一条にいわゆる『人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ爆発物ヲ
使用』すると言いうるためには、加害目標たる人の身体財産を害する虞のある状況
の下において、爆発物を爆発すべき状態に置くことを要すると解するのを相当と
し、したがつて、ダイナマイトを用いてする場合にあつては、導火線に点火したう
え、これを加害目標たる人の身体財産を害する虞のある状況の下に置くか、もしく
は、かような状況の下におかれているダイナマイトの導火線に点火するかの、いず
れかであることを要するものというべきところ、これを本件についてみると、被告
人Cが、M組関係者の身体財産を害せんとする目的をもつて本件ダイナマイトの導
火線に点火したものの、これを加害目標たる同組関係者の身体財産を害する虞のあ
る状況の下に置くことができないまま(即ち目標から約一二四メートルも離れた地
点で)、右加害目的を消失するとともに自己の手中においてこれを爆発するにいた
らせた(M組関係者の身体財産を害する虞ある状況の下におかれているダイナマイ
トの導火線に点火したものではないことも明らかである)のであるから、爆発物取
締罰則第一条の爆発物使用罪でなくして同法第三条の所持罪に過ぎない」としたこ
とは、所論のとおりである。
 原判文は「被告人Aは……被告人B、同C、同Dおよび前記Lと共謀の上」と記
載しているので、被告人Aのみに対する判示のようにみえるけれども、全判決文に
照らし、「被告人Aと同B、同C、同D、およびLとは、共謀のうえ」という趣旨
であることは明らかである。 <要旨>そこで、案ずるに、爆発物取締罰則は、わが
国の社会の安寧秩序を維持して、人の身体、財産を保護することをもつて立
法目的とし、「罪質的には公共危険罪の一種」(昭和三九、一、二三最高裁判所第
二小法廷集一八巻一号参照)であつて、具体的結果の発生を要するものではなく、
法益侵害の可能性ある状態を成立させることによつて充足されるものであり、同罰
則第一条にいわゆる爆発物の使用罪は、治安を妨げ又は人の身体財産を害しょうと
する目的をもつて爆発物を使用する行為自体が、その性質上、一般的、抽象的に公
共の危険を発生するものと認めて処罰するのであるから、同条の使用罪が成立する
ためには、爆発の可能性を有する物体を爆発すべき状態におくだけで足り、現実に
爆発することを要しないと解するのを相当とする(大正七、五、二四大審院判決、
刑録二四輯六一三頁・大正一一、三、三一大審院判決、刑集一巻一八六頁参照)。
したがつて、爆発物がダイナマイトである場合は、ダイナマイト並びにその雷管に
接続した導火線に点火し芯薬の火薬が燃焼を開始するに至れば、導火線の切断等格
別の障害がないかぎり、その火は雷管に到達し自動的にダイナマイトが爆発するの
であるから、導火線に点火しその火が芯薬を伝わつてダイナマイトに到達しうる状
態にした時において、爆発物を爆発すべき状態に置いたことになり、爆発物使用行
為の既遂となるというべきであり、更に、これを目標に向つて投げつけるなどの行
為を必要とせず、かつ、現実に爆発することも必要でない。そして、行為者の加害
目的は、一般的に、治安を妨げ、又は、犯人以外の人の身体もしくは財産を害しよ
うとする目的があれば足り、行為者が具体的に目標とした特定の人もしくは財産に
対する助害のおそれのある状態に置くことを必要としないのである。
 これを本件についてみると、司法警察職員作成の昭和三九年一月二一日附実況見
分調書(一二七丁以下)及び当審における検請調書ならびに証人Nの証人尋問調書
によれば、本件犯行現場は、大阪市e区m町n丁目交差点から東方約一六〇メート
ルにわたる大阪府道O線上であつて、右府道は、中央に市電軌条のあるコンクリー
ト舗装道路であり、その両側は商店がつらなり人家が密集していて前記交差点の東
南角に空地が見られる(現在においては空地の約半分が衣料スーパーマーケットに
なつている)のみであること、被告人Cがライターで本件ダイナマイトの導火線に
点火しはじめたのは、M組事務所の東方約三七メートルにある信号機附近であり、
被告人らの普通乗用自動車が停車して本件ダイナマイトが爆発した地点は、道路南
側にあるP店の左斜前方約一二アートルの地点(当審証人Nは、拳銃遺棄地点とし
て同店の左斜前方約六メートル八〇、停車自動車の後尾として更に西方へ約五メー
トル三〇の個所を指示した)であつて、右M組事務所より約一二四メートル西方の
前記交差点寄りのところであり、その左側には、約一六メートルの地点に市バス停
留所があり、前方約三六メートルの地点に市電停留所の安全地帯があること、被告
人Cの昭和三九年二月一〇日附検察官に対する供述調書(二三九五丁)によれば、
当時右バス停留所及び市電停留所にはいずれも三、四人ずつの乗客がバス及び市電
待ちのため立つていたことが認められる。そして、被告人Cは、検察官に対する昭
和三九年一月三〇日附供述調書(二三七五丁以下)において、「九月下旬Q会のR
がM組のSにQ会の事務所で殺されたので、その仕返えしに、M組事務所にダイナ
マイトを投げこんだりしょうと考えたわけであるが、一〇月六日頃の朝、私、B、
A会長の三人が、奈良の車でM組事務所前に行き、相手が警戒していなかつたの
で、私が、ダイナマイト二本を、M組事務所のカーテンをしたガラス窓を手で破つ
てほりこんだが、不発に終つた」旨及び同被告人の検察官に対する同年二月一〇日
附供述調書(二三八〇丁以下)において「二月一二日KらがM組へ行き拳銃で撃ち
あいをしたときは、私は行かなかつたが、そのあとで、会長Aの命により偵察に行
つた。一三日の晩、Aに呼ばれて、l階下の部屋に、B、K、L、T、Dが集ま
り、Bから私が『お前ら、今日、M組に行つてダイをほりこんでこい』と言われ、
D、Lも一緒に行くよう命ぜられた。Aは、『土方のかつこうをせよ』と言い、
『前に一度失敗しとんぞ、こんどは失敗すんな、火をつけてから落ちついてやれ』
と言い、Dにも『Cがほりこみに行つたら援護してやらにやあかんぞ』と言うと、
Dは、拳銃をちよつと出して、わかつています、と言つた。私は、Bから黒色の拳
銃一丁とライターと牛乳びん入りのダイナマイト一個を受け取つた。これは、誰が
用意したか知らないが、牛乳びんにダイナマイトが押しこまれており、導火線がび
んから外へ六、七センチ出ていた。ダイナマイトは一本か二本か知らない。その晩
は、相手の車につけられたので、結局ほりこむことができず引き揚げ、oに集ま
つ。会長は『今度は落ちついて行け、向うの店は朝六時頃開くやろうし、ちようど
警戒をやめて引き揚げた時分やから、もう一回明け方に行け』と命ぜられ、そし
て、『導火線で一回火をつけてみい』と言われ、Bが、牛乳びんのダイナマイトの
導火線を二センチばかり切り取り、私が、ガスライターでつけると、はじめちよつ
とつきにくかつたが、二、三秒して、しゆしゆという音がして燃えてきた、会長
が、充分間があるからおちついてやれよ、と言つた。Bも横から『近くまで行つて
車を置いてタクシーで偵察してからやれ、相手がおつたら、車の中からスピードを
落して投げてもいいし、降りて中に投げこむか、そこのところはうまくやれ』と注
意きれた。ダイナマイトだけはBに預け、ガスライターと拳銃とを持ち、午前二時
過、私と、B、L、D、Rがlに帰つて寝た。一四日午前六時前頃起きて、Bに、
行つてこい、と言われ。私とDが拳銃を持ち、車に乗る時、Bから新聞紙包みのダ
イナマイト一個を受け取り出発した。―中略―ダイナマイトをほうり込めば、二階
との間の天井、横の壁くらい突き破つて家に損害を与え、また相手の組員も死んだ
りけが人が出るものと思つていたが、M組の個人の誰かをねらつたわけではない。
三人出発し、途中で、私とDとがタクシーに乗つてM組の事務所の前を往復してみ
ると、事務所は、表のガラス戸が二枚程開けてあり、中に体格のよい毛糸のカーデ
ガンを着た男が二人氷を出して仕事をしており、その他に特に警戒している風では
なかつた。そこで、Lの運転する車に乗りかえ、私からLに『今警戒しとらん、車
を事務所の前で一回とめよ』と注意して発車させた。これまでにoで導火線に火を
つけてみたことから、五〇メートルくらい手前で点火したら、ちようど、事務所の
前になると感じていたが、車中でDが、『M組の手前の信号機のあるあたりで火を
つけたらよい』といつていた。時速約四〇キロメートルくらいの普通の速さで事務
所の手前に近づき、自分がうまく点火して事務所の前あたりで停車して下車してほ
うり込んでまた車に乗るという考えで、Dが言つた交差点のあたりに来た時、後席
に自分がただ一人乗つて、やや左寄りの席で、ライターで導火線に火をつけ始め
た。すると車は動いているし、自分の気のあせりもあつて、ちよつとくすぶつても
なかなか早く火がついてくれず、自分は、頭の方をかがめたようにして一生懸命に
やつているうちに、やつと、しゅしゆと音がして燃え出した。そこで前のLに『つ
いた、ついた、M組の前で停めよ』といつて、まだ自分は燃え出したダイナマイト
を持つて、体をかがめており外をずつと見てきていないので、ちようどついた頃相
手の事務所に間に会う、という気持が一杯できたが、火がついた頃には、事務所の
前を通りこしたような関係になつたと思う。
 間もなく車が急に止まつたので、降りてほりこむために首を出すと、車がちよつ
と行き過ぎていたらしく、Lは、『ほれ、ほれ』と言うし、見ると、左側はちよう
どバス停で三、四人立つており、右側は電車の停留所でやはり人がそれくらい居る
ので、堅気の人に迷惑をかけるわけにいかないから、下車して事務所にほりこんで
やろうと思い『バックせい』と叫んだ。Lもうろがきていたと思うが、車は思うよ
うにバックしないので、やむを得ず、バスを待つ人の向う側に広場があるので、そ
こにでもほうつて爆発させようと考え、左手でドアを開けようとした瞬間、右手に
持つていたダイナマイトが爆発し、それからのことはよく覚えない」旨各供述して
おり、被告人Dは、検察官に対する昭和三九年二月一一日附供述調書(三二四九丁
以下)において「同じ幹部のRが殺されたので極道として、自分もM組に対して相
当の仕返しをせねばならんと思つていた。―中略―二月一三日の晩、Qの会員の集
つているoへ行き、会長A、頭B、Kなど二、三名と一緒になり、そこで会長A
が、ダイナマイトをほうり込むことについて、皆の前で、Cに対し『お前はあわて
者やから導火線に火つけてみい』と言つて、頭のBが、ダイナマイトについている
導火線を三センチメートルくらい切り、これをCが、ガスライターで点火して実験
した。会長Aは、『火がぼうとした時にはまだついてへん。しゅうしゅうとゆうて
来た時についてるんや、今度落ちついてやれよ』と念を押していた。ダイナマイト
は牛乳びんに入れて、びんの上の方三センチメートルくらいには紙が詰めてありそ
の間に中のダイナマイトからつながつた導火線がついていて十センチメートルくら
い出ていたが、実験のときその一部を切つたのである。そこで、自分、L、C、B
は一休みするために近くのlにもどつた。そこでBから、M組も朝方は警戒がない
だろうから六時頃行け、行つたら近くで別のタクシーで先方の模様を見てからほう
り込め、ダイナマイトをどんなにして投げ込むかまかせる、という意味の話があつ
た。午前六時頃、皆起きて、自分は、一旦Bに返していた五発装填の拳銃をまたも
らい、Cもダイナマイトと別に拳銃を腹巻に入れ、Lが運転する自動車に乗つて出
発した。自分達はRの仕返しのため車で行つてダイナマイトに火をつけ、Cができ
れば一回降りてM組の事務所にほうり込んで爆発させ、相手の事務所も壊し、人間
も殺したりけがさせたりすることができると考えた。M組事務所の近くで一旦停車
し、自分とCが拳銃だけ持つてタクシーに乗りM組事務所の前を一往復して事務所
の様子を見た。
 行きがけはCの方が事務所側で、通り過ぎてからCが『事務所の表の戸が開いて
いる、人はよくわからん』と言つたように記憶する。帰りがけ私が見ると、表ガラ
ス戸はちよつと閉つた形で中に人間が居るかどうかわからなかつた。そして、Lの
車に又乗りついで、Lは『自分が歩くくらいに車を走らせるから、Cが降りて投げ
込んだらどうや』といつていた。Cは、警戒しとらんから事務所の前で一回停めて
くれ、と言つたようにも思うが、はつきり記憶しない。自分の記憶では、いざやる
時、車は人が歩く程度徐行してCが投げ込むようになつていたと思う。車が発車す
る頃、LがCに二、三〇メートルといつたと思うが、とにかく何メートルか手前で
点火したらどうかというと、Cも承知していた。自分は投げ込むCに色々注意した
り、相手の組員が出てきたような場合拳銃でうち殺して他の者を助けるという役割
であつた。そして、M組事務所の二、三〇メートルくらい手前に来た時、後部座席
のCがガスライターで点火し始めた。振り返つてみるとあわてているのか、なかな
かつかなかつた。Cが『ついた』といつた時には予定が狂つて事務所より一〇メー
トル近く車が行き過ぎていたと思う。自分は、それでも車のスピードは遅いし、後
のしゆしゆいう音を聞きながらCがすぐ降りて投げ込みに行くものと思つて前の座
席で頭を下げていた。その頃、CがLに『バックせい』という声も聞えたが、これ
もうまくいかず車はバックしなかつた。そして車の速さは人間が歩く程度でした
が、とに角ダイナマイトがしゆしゆという音がしだしてから五、六秒くらいの感じ
の時に爆発してしまつた。』旨供述しており、当審証人Lは、公判廷において『一
〇月一四日の朝、私が車を運転しCとDとが乗つてM組事務所をダイナマイトで襲
撃しに行つたが、その途中で、Cが私に『信号の処で火をつけるから事務所の前で
止めてくれと』言つた。信号機の辺で速力を一〇キロくらいに落し、人の小走り程
度で西進したが、私は前方を見ており、南側は、時々ぱつぱつと見るだけであつた
から、M組事務所を間違え、その西方のU屋の前を少し過ぎた所で車を止めた。助
手席にDが乗つているのだから同人が合図してくれると思つた。こんど、城東警察
署へ出て現場や見取図を見てから、事務所を相当離れた所に止つたことがわかつた
のであるが、Cが『ついた、ついた』と言つたのは、事務所を通り過ぎて西へ四軒
目の信用金庫とカメラ屋のあたりである。車を止めた時、Cが『バツクせい』と言
つたが、そのまま車から出てほうれんことはないと思つたので、『ほうれ、ほう
れ』と言つたが、Cはほうらないので、エンヂンをバックに入れようと思つて持つ
た瞬間に爆発した」旨供述している。以上の証拠を総合すると、Q会組員幹部R
が、M組々員に殺害されたので、被告人A、同B、同C、同Dらは、Lと共謀のう
え、その報復手段として、M組事務所の建物を損壊するとともにM組々員を殺傷し
ようとする目的をもつて、牛乳びんに詰めたダイナマイトに点火してこれを同事務
所に投げこもうと企て、Lの運転する乗用車に被告人Cが直接行為者として、被告
人Dが援護者として乗りこみ、時速約一〇キロメートルで徐行運転しながら、同事
務所の東方約三七メートルの地点から導火線に点火しはじめたが、容易に芯薬に着
火するに至らず、ようやく導火線が燃焼を開始した時には、同事務所の前を通り過
ぎ、約一〇メートル西方地点を西進中であつたので、被告人Cは「ついた、つい
た」と叫び、ついで、「バック、バック」と叫んでいるうちに、Lもまごついて同
事務所から西方約一二四メートルの地点に来てしまい、附近にバスや市電の停留所
があり数人の待合客が居るので、被告人Cは、あわててその人々の後方にある空地
に投げこもうとして車外に出ようとした途端に爆発し、右手の前膊部を吹き飛ばさ
れ失神したものであることを認め得られる。そして、大阪府警察本部刑事部科学捜
査研究所長作成名義の「鑑定の回答について」と題する書面によると、本件の導火
線の芯薬着火後他端から火を吹くまでの経過時間は、一〇センチメートル長のもの
で一三・八秒、八センチメートル長のもので一〇・二秒であることが認められる。
以上の事実に徴すると、本件ダイナマイトの導火線に点火完了した地点において
も、被告人らの本来の加害目標であるM組事務所を爆破しうる可能性があつたのみ
ならず、右点火完了地点は、人家が密集し、人車の往来の激しい府道上であるか
ら、附近の住民並びに通行人などの身体財産を害する危険性はすでに発生している
といわなければならない。そのうえに、人家の斜前方約一二メートルで、かつ、バ
ス並びに市電待ちのため人の集つている場所の近くにおいて現実に爆発させている
のである。原判決は「加害目標であるM組関係者の身体財産を害するおそれのある
状況の下に置くことができないまま、右加害目標を消失するとともに自己の手中に
おいて爆発させたものであるから、爆発物を使用したものといえない」と判示して
いるが、同罰則第一条にいわゆる「人の身体財産」というのは、犯人以外の人の身
体もしくは財産という意味であり、その罪質は公共危険罪であるから、原判決のい
う「加害目標」の意味が、被告人らの報復しようとするM組々員又は同事務所建物
に対する危険に限定されるという意味だとすれば、それは誤つているのであつて、
同条にいわゆる「使用」の意味からいえば、犯人の具体的目標とする人又は家を害
するおそれのある状況のもとに置くことができなくなつても、一般的に、治安を妨
げ、他人の身体もしくは財産を害するおそれのある状況のもとに置けば、同条の使
用罪が成立すると解すべきである。また、原判決の趣旨が、ダイナマイトの使用と
いうためには、ダイナマイトの導火線の点火行為のほかに、それを投てきする行為
が必要であるという考え方を前提とし、加害目標たるM組関係者の身体及び財産を
害するおそれのない約一二四メートルも離れた場所で被告人Cの手中で爆発してい
るのであるから、使用罪の成立がなく所持罪であると解したものとすれば、これも
また賛同しがたい。本件において、被告人らは、前記説示のとおり、一般的に、治
安を妨げ、犯人以外の人の身体もしくは財産を害するおそれのある状況下におい
て、爆発物を爆発すべき状態に置いたのであるから、爆発物の所持罪でなくて、そ
の使用罪であるといわなければならない。したがつてこの点において、原判決は、
右罰則第一条の解釈適用を誤つた違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすこと
が明らかであるから、その余の判断をするまでもなく、とうてい破棄を免れない。
論旨は理由がある。
 被告人Fに対する検察官の控訴趣意について。
 論旨は、原判決の量刑は著しく軽きに失し不当であると主張するのであるが、本
件記録を精査すると、本件は被告人Fが昭和三八年一〇月頃暴力団V組の組員とな
り、同年九月初旬頃やくざ同志のもめごとの際使用する目的でアメリカ製〇・四五
インチ口径コルト自動装填式拳銃一丁を買入れ大阪市a区bc丁目d番地の自宅に
隠匿していたところ、同年一〇月二七日V組Q会々長である相被告人Aの要請によ
り右拳銃をアルゼンチン製〇、二二インチ口径デリンジャー回転弾倉式拳銃一丁と
交換し、同年一一月上旬までこれを右自宅に不法に所持していた事案であつて、そ
の犯行の動機、態様、被告人の生活態度その他諸般の事情を考慮すると被告人Fの
本件犯行は軽視できないものであるが、被告人Fは未だかつて刑事処分を受けたこ
とがなく、本件Q会とM組との抗争事件にも直接参画していないことなど諸般の事
情を考慮すると、原審が被告人Fに対し懲役六月、二年間執行猶予に処したのは、
相当であつて、その量刑が著しく軽きに失して不当であるとは考えられない、論旨
は理由がない。
 被告人A、同B、同C、同G、同H、同Iの弁護人服部恭敬、同森島忠三の各控
訴趣意、被告人Kの弁護人西畑肇の控訴趣意、被告人Jの弁護人井土福男の控訴趣
意について。
 論旨は、いずれも原判決の量刑は重きに過ぎ不当であると主張するのであるが、
被告人A、同B、同C、同Dの関係については、前段のとおり原判決中その関係部
分は破棄を免れないから、同被告人らに対する量刑不当の判断を省略し、被告人
G、同H、同I、同J、同Kの関係について、本件記録を精査し、原判決の各量刑
の当否を検討するに、本件犯行の動機、態様、被告人らの果した役割、相被告人と
の刑の均衡及び被告人G、同H、同I、同J、同Kの各前科、同被告人らの生活態
度その他諸般の事情を考慮すると、各所論の諸点を参酌しても原審が被告人Gに対
し懲役一年六月に、被告人Hに対し懲役一年に、被告人Iに対し原判示第五の一の
罪につき懲役四月、同二の罪につき懲役六月、同三の罪につき懲役二月に、被告人
Jにつき懲役六月に、被告人Kに対し懲役七年に各処した量刑は不当に重いとは考
えられない。
 論旨はいずれも理由がない。
 よつて被告人F、同G、同H、同I、同J、同Kに対しては、刑事訴訟法第三九
六条(被告人Jに対しては更に同法第一八一条第一項但書)を適用して本件各控訴
を棄却すべきものとし、被告人A、同B、同C、同Dに対しては同法第三九七条第
一項第三八〇条により原判決中同被告人らに関する部分を破棄し同法第四〇〇条但
書により更に判決する。
 (罪となるべき事実)
 原判決中判示第一の三を次のとおり変更するほか被告人A、同B、同C、同Dに
関する部分は同一であるからこれを引用する。
 「三 被告人A、同B、同C、同鈴本はLと共謀のうえ、爆発物であるダイナマ
イトを使用して大阪市e区fg丁目h番地のM組事務所を襲撃しようと企て、同年
一〇月一四日午前七時頃、被告人Cにおいて牛乳びんに詰めたダイナマイトに雷管
及び導火線を装置したもの一個を携え、右Lの運転するG所有の乗用自動車に、被
告人C、同Dが同乗して同市i区j町k番地lアパート前から人家の密集する右M
組事務所附近路上に至り、同組事務所を破壊し且つ居合せたM組々員を殺傷する目
的で同所に投げ込むため右Cにおいてダイナマイトの導火線に点火完了したが、投
擲の機を失し右M組事務所の前を通り過ぎ、約一二四メートル西進しバス及び市電
停留所附近へさしかかつた時車外に投げ出そうとしたとたんに爆発させ、もつて人
の身体、財産を害しようとする目的をもつて爆発物を使用した。」
 (証拠の標目)
 原判決挙示のとおりであり被告人Bの累犯前科は原判決挙示のとおりであるから
いずれもこれを引用する。但し、原判決、第一の二、四、五において、共謀の判示
を、「被告人Aは……被告人B、同C、同Dおよび前記Lと共謀の上」というふう
に記載しているのは、「被告人Aと……被告人B、同C、同Dおよび前記Lとは共
謀の上」の趣旨であると解し、当審においては、「被告人Aは……被告人A、同
B、同C、同Dおよび前記Lは共謀のうえ」というふうに訂正して引用する。
 (法令の適用)
 被告人Aの判示第一の一の行為は爆発物取締罰則第三条、刑法第六〇条に、判示
第一の二の行為は刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、判示第一の四の行為
は同法第二〇一条本文、第一九九条、第六〇条に、判示第一の三、五の各行為は爆
発物取締罰則第一条、刑法第六〇条に、判示第四の一の(一)ないし(四)の各行
為はいずれも銃砲刀剣類等所持取締法第三一条一号第三条第一項に各該当するとこ
ろ、所定刑中判示第一の一、第四の一の(一)ないし(四)の各罪につき懲役刑
を、判示第一の二、三、五の各罪につき有期懲役刑をそれぞれ選択し、右は刑法第
四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により最も重い判示
第一の五の罪の刑に同法第一四条の制限内で法定の加重をした刑期範囲内で、被告
人Bの判示第一の一の行為は爆発物取締罰則第三条、刑法第六〇条に、判示第一の
二の行為は刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、判示第一の四の行為は同法
第二〇一条本文、第一九九条、第六〇条に、判示第一の三、五の各行為は爆発物取
締罰則第一条、刑法第六〇条に、判示第四の二の行為は、銃砲刀剣類等所持取締法
第三一条一号、第三条一項に各該当するところ、所定刑中、判示第一の一、第四の
二の各罪につき懲役刑を、判示第一の二、三、五の各罪につき有期懲役刑をそれぞ
れ選択し、前示前科があるので、刑法第五六条第一項、第五七条により累犯の加重
をし(ただし、判示第一の二、三、五の各罪の刑については、同法第一四条の制限
内で加重する。)以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、
第一〇条に従い最も重い判示第一の五の罪の刑に同法第一四条の制限内で法定の加
重をした刑期範囲内で、被告人Cの判示一の一の行為は爆発物取締罰則第三条、刑
法第六〇条に、判示一の三の行為は爆発物取締罰則第一条、刑法第六〇条に、判示
第四の四の行為は銃砲刀剣類等所持取締法第三一条一号、第三条第一項に各該当す
るところ、所定刑中、判示第一の一、第四の四の各罪につき懲役刑を判示第一の三
の罪につき有期懲役刑をそれぞれ選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪である
から、同法第四七条本文第一〇条に従い、最も重い判示第一の三の罪の刑に、同法
一四条の制限内で法定の加重をし、同法第六六条、第六八条三号により酌量減軽し
た刑期範囲内で、被告人Dの判示第一の二の行為は刑法第二〇三条、第一九九条、
第六〇条に、判示第一の三の行為は爆発物取締罰則第一条、刑法第六〇条に、判示
第四の五の行為は銃砲刀剣類等所持取締法第三一条第一号、第三条第一項に各該当
するところ、所定刑中、判示第一の二、三の各罪につき有期懲役刑を、判示第四の
五の罪につき懲役刑をそれぞれ選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるか
ら、同法第四七条本文、第一〇条に従い最も重い判示第一の三の罪の刑に、同法第
一四条の制限内で、法定の加重をし、同法第六六条、第六八条三号により酌量減軽
した刑期範囲内で、それぞれ主文第二項掲記の各刑を量定して処断し、刑法第二一
条により原審における未決勾留日数中被告人Aに対し二〇〇日を、被告人Dに対し
六〇日をそれぞれ右の刑に算入し、押収してある拳銃(コルト三八口径証第一号)
一丁及び拳銃(コルト四五口径証第三号)一丁並びにダイナマイト二本(大阪地検
庁外検領昭和三九年第五〇号、E株式会社において保管中)は、判示一の一の罪の
組成物件であつていずれも被告人A以外の者に属しないので刑法第一九条第一項一
号、第二項により同被告人からこれを没収することとし、当審における訴訟費用は
刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人A、同B、同C、同Dに負担さ
せないこととし主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 山崎薫 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 浅野芳朗)

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