弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人辻富太郎の控訴趣意は別紙趣意書に記載してある通りである。
 論旨第一点に付
 本件起訴状に記載してある訴因が「逮捕を免れる為、Aの気勢を挫く手段として
同人の頬部を手拳を以て数回殴打暴行を加へ」とあるに対し、原判決は「その罪跡
を糊塗湮滅する為右窃盗事実を否認し、却て右Aの気勢を挫く手段として同人の頬
部を手拳を以て数回殴打し」と判示したこと、刑法第二百三十八条に規定する所謂
事後強盗の構成要件として窃盗が(一)財物を得て、其の取還を拒く為暴行脅迫し
た場合、(二)逮捕を免れる為暴行脅迫をした場合、(三)罪跡を湮滅する為暴行
脅迫をした場合の三場合が定められていることは所論の通りで、訴訟手続上審判の
対象が起訴状に訴因として記載してある事実に限定されることも亦所論の通りであ
る。
 併し訴因とは各罰条の構成要件にあてはめて法律的に構成された犯罪事実と解す
るところ、右刑法第二百三十八条の所謂事後強盗とは窃盗犯人が暴行又は脅迫をし
た場合、それが(一)財物を得て其の取還を拒く為、(二)逮捕を免れる為、
(三)罪跡を湮滅する為であつたときは之を強盗罪とするといふにあつて、竊盗犯
人が暴行又は脅迫をした以上それが右(一)(二)(三)の中何れかの目的を以て
為されれば足り、何れの目的を以てなされた<要旨>にしても事後強盗であることに
変りはなく、従つて本件に於て窃盗犯人たる被告人がAに対し暴行を加えた
ことに付之を訴因に於ては逮捕を免れる為であるとしたのに対し、原判決が罪跡を
湮滅する為であると認定しても其の具体的事実に於てさしたる相異はなく其の構成
要件的評価にも何等変動を生じないのみならず被告人の防禦権にも重大な影響を及
ぼすものでもないから、訴因の変更手続は必要でなく、所論の様に審判の請求を受
けた事件に付判決せず審判を受けない事件に付判決をした違法は存しない。論旨は
理由がない。
 論旨第二点に付
 先ず原判決に挙示してある証拠によつては原判示の本件犯行の時刻を認めること
が出来ないことは所論の通りであるが、犯行の日時はもともと罪となるべき事実そ
のものではないから、処罰上特別の必要がない限り、必ずしも常に正確に証拠によ
り之を認めた理由を説明することを要しないもので、原判決が本件犯行の時刻を午
後四時五十分頃と認定したのは証拠に基かないで事実認定をした瑕疵はあるが、こ
の程度の瑕疵は判決に影響を及ぼさないことが明らかで原判決破棄の理由とはなら
ない。
 次に原判決に証拠として挙示してある証人Bの証人尋問調書中同人の供述記載に
よれば、百円札三十五六枚を盗まれた旨供述して居り、之によれば原判示の「約三
千五百円位」の盗難があつたことを認めることが出来る。所論の様に原審が証拠と
して取り調べた押収調書及領置調書によれば、被告人から百円札四十一枚及現金百
八十一円六十銭を押収したことが認められるけれども右押収金員中には被告人がも
ともと所持していた金員も在中して居たものと認められるから、之を以て原審の被
害金額の認定を論難するのは当らない。
 又原判決に証拠として挙示してある証人Aの証人尋問調書中同人の供述記載によ
れば、被告人が自己の罪跡を湮滅する為Aに暴行を加えたものであることを認める
ことが出来、其の後被告人が逃亡し様とした形跡があつたにしても、右認定を左右
するものではない。
 所論は原判決の採用しなかつた証拠に基き、又は原審の自由な心証に属する証拠
の証明力に関し、原審の認定を論難するものであつて、記録を精査するも原審の右
認定に誤りがあるものとは認められない。
 従つて原判決には何等所論の様な違法はなく、論旨は何れも理由がない。
 論旨第三点付
 刑法第二百三十八条に所謂暴行とは被害者の反抗を抑圧すべき、手段として一般
的に可能と認められる程度のものであれば足り必ずしも現実に反抗を抑圧したか否
かは問うところではない。
 而して原判決挙示の証拠によれば原判示の如く、被告人は自己の罪跡を湮滅する
為Aの頬を手拳で数回殴り負傷させたものであることを認め得るから、斯くの如き
行為は一般的観察上同人に対する不法な力の行使であり、之に因り同人の反抗を抑
圧する手段として功を奏する可能性があるものといはなければならぬ。
 従て原審が原判示事実を認定して之に対し刑法第二百三十八条に基く事後強盗と
して同法第二百四十条を適用したのは相当であつて、所論の様な違法はない。論旨
は理由がない。
 論旨第四点に付
 原判決が証拠として挙示している証人Aの供述記載によれば所論の様にC巡査が
来てからも同人が被告人から三回殴られた旨供述していることが認められるが、其
の供述の全趣旨からすれば、同人が負傷したのは被告人が自己の罪跡を湮滅する
為、同人の類を数回手拳で殴打した際に生じたものであることを認められるから原
判決には何等所論の様な違法はない。論旨は理由がない。
 論旨第五点に付
 被告人が当初強盗罪の被疑者として勾留せられ、其の後其の勾留状の侭強盗傷人
罪を犯したものとして起訴せられ勾留を継続されたものであることは所論の通りで
ある。併し被疑者としての勾留理由となつて居る犯罪の被疑事実と、被告人として
公訴を提起せられた公訴事実との間に事実の同一性が存する限り、其の罪名に多少
の相違があつたにしても、被疑者として発せられた勾留状の効力は尚公訴を提起せ
られた後に於ても有効に存続するものと解するところ、被告人が当初強盗罪の被疑
者として勾留せられた勾留状に記載してある被疑事実と本件被告人に対する起訴状
記載の公訴事実とを比照すれば、被告人が昭和二十五年一月十一日山口県美禰郡a
村の食糧配給所に於て、現金三千五百円位を窃取した際、Aに之を発見せられたの
で、逮捕を免れる為手拳で同人の頬部を殴打して暴行を加えた旨の事後強盗の事実
は両者同一であり、只起訴状に於ては其の暴行の結果右Aに傷害を蒙らしめたこと
が附加せられ其の為罪名が強盗傷人罪と変つたものであることが明らかであつて、
其の主要な点に於ては全然事実が同一であり、只公訴事実に於て傷害の事実が附加
せられた為、加重的結果犯である強盗傷人罪となつたものに過ぎないものであるか
ら、被告人に対する強盗被疑事件としての勾留状は被告人が強盗傷人罪の被告人と
して起訴せらた後に於ても尚有効で起訴後の被告人の勾留には何等所論の様な違法
はない。又仮に違法であるとしても、之に対しては別個の方法による救済を求める
は格別其の為に原審の訴訟手続が法令に違反して居るものということは出来ない。
論旨は理由がない。
 以上の理由により刑事訴訟法第三百九十六条により、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 横山正忠 判事 秋元勇一郎 判事 高橋英明)

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