弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
抗告代理人尾﨑達夫の抗告理由について
1債務弁済契約公正証書の債権者である相手方の申立てにより,債務者の承継
人である抗告人らに対し,同公正証書に基づく債権差押命令及び転付命令が発せら
れたところ,抗告人らは,請求債権について強制執行を行う権利の放棄又は不執行
の合意(以下「不執行の合意等」という。)があったことを主張して執行抗告をし
た。
2抗告人らの主張する不執行の合意等は,債権の効力のうち請求権の内容を強
制執行手続で実現できる効力(いわゆる強制執行力)を排除又は制限する法律行為
と解されるので,これが存在すれば,その債権を請求債権とする強制執行は実体法
上不当なものとなるというべきである。しかし,不執行の合意等は,実体法上,債
権者に強制執行の申立てをしないという不作為義務を負わせるにとどまり,執行機
関を直接拘束するものではないから,不執行の合意等のされた債権を請求債権とし
て実施された強制執行が民事執行法規に照らして直ちに違法になるということはで
きない。そして,民事執行法には,実体上の事由に基づいて強制執行を阻止する手
続として,請求異議の訴えの制度が設けられており,不執行の合意等は,上記のと
おり,債権の効力の一部である強制執行力を排除又は制限するものであって,請求
債権の効力を停止又は限定するような請求異議の事由と実質を同じくするものとい
うことができるから,その存否は,執行抗告の手続ではなく,請求異議の訴えの訴
訟手続によって判断されるべきものというべきである。
抗告人らは,執行抗告によって不執行の合意等の存在を主張することができると
いうが,執行抗告は,強制執行手続においては,その執行手続が違法であることを
理由とする民事執行の手続内における不服申立ての制度であるから,実体上の事由
は執行抗告の理由とはならないというべきである。なお,不執行の合意等の存否が
執行異議の手続で判断されるべきでないことは,上記検討によって明らかである。
以上によれば,強制執行を受けた債務者が,その請求債権につき強制執行を行う
権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求
める場合には,執行抗告又は執行異議の方法によることはできず,請求異議の訴え
によるべきものと解するのが相当である。これと見解を異にする大審院の判例(大
審院大正14年(オ)第970号同15年2月24日判決・民集5巻235頁,大
審院大正15年(オ)第1122号昭和2年3月16日判決・民集6巻187頁,
大審院昭和10年(オ)第952号同年7月9日判決・法律新聞3869号12
頁)は,変更すべきである。
3以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用
することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官今井功裁判官
中川了滋裁判官古田佑紀)

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