弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人D弁護人船内正一の上告趣意について。
 所論の憲法三六条にいわゆる「残虐な刑罰」とは不必要な精神的肉体的苦痛を内
容とする人道上残酷と認められる刑罰を意味するのであつて、事実審の裁判官が普
通の刑を法律において許された範囲内で量定した刑が被告人側から見て過重の刑で
あるとしてもこれを所論憲法の規定にいわゆる「残虐な刑罰」といえないことは当
裁判所の判例とするところである。されば論旨は結局事実審たる原裁判所の裁量に
委されている刑の量定を非難するに帰し、上告適法の理由とならぬ。
 被告人A弁護人山本良一の上告趣意について。
 論旨は結局被告人Aと相被告人D等とは判示阿片末所持の立場、目的を異にして
いるのであるから、その責任の本質もその間同一でないにもかかわらず、この点を
看過して、被告人Aに対しても相被告人等に対すると同様に実刑を科した原判決の
量刑は著しく不当であるというのであつて、原審の裁量内で適法にした刑の量定を
非難するに帰するから上告適法の理由とならぬ。
 被告人B弁護人奥田忠策の上告趣意第一点について。
 しかし、原判決挙示の各証拠を綜合するときは所論の原判示第三の事実の認定は
たやすくこれを肯認するに足り、その間反経験則の違法はない。所論麻薬取締規則
四二条にいわゆる「所持」の意義は麻薬を自己の実力支配内に置くことを意味する
ものと解するを相当とし、論旨に主張する解釈は独自の見解であつてとるをえない。
されば論旨は結局独自の見解に立つて原審の裁量に属する事実認定を非難するに帰
し、上告適法の理由とならぬ。
 同第二点について。
 原判決が所論の刑法六〇条を明示していないことは所論のとおりであるが、その
判示第三として「被告人Aは阿片末の売却斡旋方依頼を受け更に被告人Bに依頼し
てここに右両被告人は共同して他に売却する為にC方に同行持参する迄共同所持し」
と判示しているから、原判決は被告人B相被告人Aの両名の判示阿片末所持の犯行
について刑法六〇条を適用して右両名は共同正犯であると認定しているものである
こと明白である。そして刑法総則の規定は本件のようにこれを適用した場合にこれ
を適用した旨を条文を摘示して明示しないからといつて違法であるとはいえない。
されば原判決には所論の擬律錯誤の違法はなく論旨は理由がない。同第三点につい
て。
 刑の執行を猶予するか否かは事実審たる原裁判所の裁量に委されているところで
あるから、たとい、所論に縷述するような事情があるとしても、それにもかかわら
ず原審が被告人に刑の執行猶予を言渡さなかつたからといつて、原判決を違法とい
うことはできない。されば論旨は上告適法の理由とならぬ。
 よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二六年二月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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