弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A、同B、同C、同D及び同Eに対する原審検察官の各控訴を棄
却する。
     被告人A、同F、同G、同H、同C、同D及び同Iに対する原判決(昭
和二十九年(う)第一八一一号事件)(但し被告人A、同C、同Dについては各有
罪部分のみ、)被告人Bに対する原判決(前同事件)中有罪部分、被告人Jに対す
る原判決(昭和二十九年(う)第一七八九号事件)、被告人Eに対する原判決(昭
和二十九年(う)第一七九一号事件)中有罪部分、被告人Kに対する原判決(昭和
二十九年(う)第一七九〇号事件)はいずれもこれらを破棄する。
     被告人Aを懲役二年に処する。
     被告人Fを懲役一年六月に処する。
     被告人Gを懲役八月に処する。
     被告人Hを懲役八月に処する。
     被告人Cを懲役八月に処する。
     被告人Dを懲役八月に処する。
     被告人Iを懲役六月に処する。
     被告人Bを懲役一年六月に処する。
     被告人Jを懲役六月に処する。
     被告人Eを懲役一年二月に処する。
     被告人Kを懲役一年六月に処する。
     但し、いずれも本裁判確定の日から被告人Aは四年間、被告人F、同
B、同E、同Kはそれぞれ三年間、被告人I、同H、同G、同C、同Dはそれぞれ
二年間右各懲役刑の執行を猶予する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、宇都宮地方検察庁検事升田律芳作成名義の控訴趣意書二通
(被告人A、同B、同C、同Dに対するものと被告人Eに対するもの)、被告人等
十一名のそれぞれ作成名義の控訴趣意書、弁護人松永謙三名義の控訴趣意書二通
(被告人A、同F、同I、同Cに対するものと被告人Eに対するもの)、弁護人竹
沢哲夫、同青柳盛雄、同関原勇、同柴田睦夫共同作成名義の控訴趣意書(被告人
A、同F、同H、同I、同G、同B、同C、同Dに関するもの)、弁護人竹沢哲
夫、同関原勇共同作成名義の控訴趣意書二通(被告人Eに関するものと被告人Kに
関するもの)、弁護人竹沢哲夫名義の控訴趣意書(被告人Jに関するもの)、弁護
人大貫大八作成名義の控訴趣意書(被告人Kに関するもの)にそれぞれ記載のとお
りであるので、ここにこれらを引用し、以下これらに対し当裁判所の判断を示すこ
ととする。
 被告人A、同F、同Bの各論旨中原判示第六事実(前同事件但し、被告人Bにつ
いては分離単独言渡判決の第三事実)の各事実誤認等を主張する部分について、
 被告人Aは、原審公判廷において原判示被告人A等の所持した火薬は、暴力革命
のための闘争に使用する目的ではなく、単に蜜蜂を取るための発煙筒類似の煙火蜂
醉弾作成の目的でa町b地内の松林中の旧陸軍火薬庫跡に終戦後何らの管理設備な
く放置されていたものを採取して来て、これを保存するために原判示のように地中
に埋めておいたものに過ぎないから罪となるべき筈のものでないと主張し、被告人
Fは、所論においてこの火薬は右A同様蜂の巣をとるために使用する目的で前記場
所に立札も柵もなく管理されずに置いてあつたもので、これを採ろうと欲する人は
何人でも容易に取り得る状態にあつて、これを取って来たに過ぎないものであり現
に多くの人々がこれを採取利用して蜂の巣をとつているものである旨強調し、被告
人Bは、自分は被告人A等より依頼されて火薬類であることも、その使用目的も全
然何も知らないで預つたに過ぎないと弁疎するのである。よつて按ずるに、原判決
挙示の証拠(この証拠中各検察官に対する供述調書がいずれも証拠能力を有するこ
とは前同様既に説明したとおり明らかである。)によれば、被告人Bの知情の点を
含めて原判示第六の(一)(二)(被告人Bについては前記第三事実)の各犯罪事
実を肯認するに十分である。
 <要旨第一>そして火薬類取締法第二十一条に違反し同法第五十九条第二号に該当
するものとして処罰を免れない行為は、火薬類を法定の除外理由なく所
持することであり、その所持とは自己の実力支配内に置くことであり、本件証拠上
被告人等は、前記場所より原判示火薬を採つて来て原判示のように自己の畑や甘藷
貯蔵穴にうめて保管したものであるから、正にこの所持に該当する行為をしたもの
である。そしてその所持の目的如何は右法条違反の罪の成立に必要な構成要件では
ない訳であるから、それが原判決理由末尾において説示しているように暴力革命の
ための闘争に使用する目的であつたか、或は被告人等の抗争するように単なる蜂の
巣採取のために使用する目的であつたかは本罪の成否には少しも関係のない事柄で
あり唯々犯情としてその量刑を考える十に参酌さるべき事項であるに過ぎない。こ
の点については原判決挙示の証拠によれば、原判示のような目的が存したこととが
明らかであるが、この目的については原判決は罪となるべき事実として認定判示し
たものでないし、又更に所論のような目的をも有していたと認めても以上に述べた
とおり刑責に影響するところのない事柄である。又これらの火薬の所在場所が被告
人等の弁疎するように、山林中の荒廃した旧陸軍火薬庫跡に何等管理中であること
の標示もなく放置され何人にも容易に採取し得べき状態にあつて現に近隣の住民に
おいてこれを採取し蜂の巣取りの用に供していたことも存する事実は、被告人側の
立証によつてこれを肯認するに十分であり、このような管理を厳重にしなければな
らない物件を、このような状態に置くことは当局者の怠慢であり甚だ遺憾とすると
ころであるけれども、これらの事実から直ちに自己の所有に属しないこれらの物件
を何人も自由に採取し所持することが法律上許容されるものと解し得ないこと勿論
であつて、被告人等も亦法律の定むる手続を経由しないで法律の定むる理由ある場
合でなくこれを所持する以上その刑責を免れないものである。しかしながら、これ
らの事情は、犯情として被告人等の利益に参酌しなければならない情状であること
は言うまでもないところである。そして記録を精査検討し、これに現われた諸般の
証拠に当裁判所において事実の取調としてした証拠調の結果に徴しても原判示犯罪
事実の認定に何らの過誤なく、又所論のような違法の廉あることを発見できないの
であるから、各論旨もこれを採用するに由なく理由のないものである。
 弁護人大貫大八の論旨、弁護人関原勇、同竹沢哲夫の被告人Kに関する論旨第一
点について、
 刑事訴訟法第二百五十六条第三項の要求する訴因の明示方法は、日時場所及び方
法等を必ず明らかにして罪となるべき事実を特定するというのではなく、それらす
べてが明らかになつていることは望ましいことではあるが、止むを得ない場合には
そのうちに欠けるところがあつても、この訴因を他と区別しその同一性を認識し得
る程度に記載してあればそれをもつて足り、これを特定を欠くものということはで
きない。何となれば日時、場所、方法の如きは訴因の特定のために必要な事項では
あるが、訴因そのものを構成する要素には属しないからである。そして訴因とは、
特定の犯罪の構成要件に該当する具体的事実であり、教唆犯や従犯の如きも犯罪構
成要件の修正乃至は拡張の形態として訴因たる事実に含まれるものと解するのが相
当と思料されるのであるが、例えば、破壊活動防止法第三十八条の罪のように教唆
行為自体が特別の独立した犯罪の構成要件に属するものとして規定されている場合
は暫く措き、本件被告人Kに関する場合のように通常の犯罪の教唆犯におい<要旨第
二>ては、正犯の犯罪行為実行を条件として刑責を負うに過ぎないものであり、この
場合には原判決が説明しているようにその時効とか管轄の問題について
はすべて正犯に従うことになつている点からも窺えるように教唆犯についてその教
唆の行われた日時場所の明確なことが必ずしも不可欠の重要な事柄ではないのであ
るから、ただ教唆の日時場所方法等において明確を欠くところがあつてもその犯罪
全体としての訴因が他と区別して同一性を認識し得る程度に明示されておれば、そ
れをもつて刑事訴訟法第二百五十六条第三項の要求するところは充たされているも
のと解しなければならない。被告人Kに対する起訴状(昭和二十九年(う)第一七
九〇号事件)において、(一)のLに対する傷害教唆の点について「……昭和二十
七年四月頃より五月二十二日頃までの間数回に亘り右c付で前記c細胞員A等数名
をして共同して前記Lを殴打せしめる意図の下に右Aに対し……」と掲記し(二)
のMに対する暴力行為等処罰に関する法律違反教唆の点について「……同年五月十
九日頃より七月二十二日頃迄の間数回に亘り前記c村で前記A等数名をして共同し
て前記M方住宅に投石せしめる意図の下に右Aに対し……」と掲記していることは
所論の指摘するとおりであるが、右起訴状において本犯である右A等の二個の犯罪
行為については具体的に日時場所方法等により罪となるべき事実が特定されている
のみならず、本件において右(一)(二)の各犯罪別にそれぞれ数個の教唆犯が成
立するという起訴ではなく数回に亘つてなされた被告人Kの被告人Aに対する言動
がそれぞれ(一)(二)の各一個の教唆の罪の訴因を包括的に構成するとしての起
訴であることが明らかであるから、このような場合その被告人Kの一々の言動につ
いて日時場所方法等をそれぞれ具体的に明示しなければ右法条の要求するところに
違反するものと解することは前に述べたところに照し到底認容することができな
い。すなわち本件起訴にかかる(一)(二)の犯罪の教唆行為の訴因の特定方法と
してはこの程度の記載をもつても妨げなく所論のように刑事訴訟法第二百五十六条
第三項乃至憲法第三十一条に違反するものとは認められない。
 又原判決(昭和二十九年(う)第一七九〇号事件)は、判示第一事実において被
告人Kの被告人Aに対する教唆の判示として「再三再四」と記載しその時期を明確
にしてその一々について具体的に判示していないことは洵に所論のとおりであるけ
れども、これ又前記起訴状記載の訴因に関し述べたところと同一理由によつて被告
人Kの教唆行為について刑事訴訟法第三百三十五条第一項の要求する罪となるべき
事実の判示としてはこれをもつて足り、同法条に違反したり、憲法第三十一条に違
反する違法はないものと認めざるを得ない。それ故各論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)

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