弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人河野太郎の上告趣意第一点について。
 所論は、原判決が大審院判例に違反すると主張し、その理由として原審が、第一
審判決の判示第三の脅迫罪と、判示第二の(二)の暴行罪との認定を支持し、両者
は別個に行われたものであつて、前者が後者に吸収されると解するのは当らないと
判断したのは違法であると主張する。所論について考えてみるに、所論引用の大審
院判例(大正一五年六月一五日)の判示するように「犯人が他人に対し暴行を加え
んことを告知したる上之を殴打したる場合に於ては単に暴行罪を以て論すべきもの
にして脅迫罪の刑責を負はしむべきものに非ず」と解すべきことは正にそのとおり
であるが、さらに所論引用の他の大審院判例(昭和六年一二月一〇日)の判示する
ように、「告知したる害悪と現実に加えたる害悪と全く相異なる場合に於ては該告
知にして脅迫罪の実質を具備する以上は、之を脅迫罪に問擬すべく、実行に依る犯
罪中に包括せられたるものと為すことを得ざるものとす」とする見解も今なお正当
とすべきであつて、右二つの判例はなんら相矛盾するものではない。本件について
みるに、被告人の脅迫は、第一審判決の判示第二の(二)の暴行の際に告知された
ことは認められるが、判示暴行事実は「同女に出遇うや同人に対しその頭髪を引張
り更にその顔面を数回殴打する等の暴行を加え」というのであり、判示第三の「お
前は警察に訴えるつもりだつたろう、お前みたいなものはこの辺におくわけにはゆ
かぬから川に投げ込む」という告知は、生命にも危害を加えるおそれある言辞であ
つて、正に前記大審院判例(後者)にいう、告知した害悪と現実に加えた害悪と全
く異なる場合に当り、両者は別個独立の行為と解するを相当とする。従つて同趣旨
に出でた原判決の見解は正当であつて、むしろ大審院判例(後者)の趣旨に副うも
のであり、また同判例前者の事案は本件に適切ではない。
 同第二点について。
 所論は、事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして第
一審判決の挙示する証拠によれば、第一点に説示したように、脅迫罪と暴行罪とが
別個に成立することを優に認めることができる。
 その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決す
る。
  昭和三〇年一一月一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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