弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成10年(行ケ)第331号 審決取消請求事件
     判    決
  原   告       中部ベアリング株式会社
  代表者代表取締役     【A】
  訴訟代理人弁護士     秋  吉  稔  弘
       弁理士     【B】
               【C】
  被   告      トックベアリング株式会社
  代表者代表取締役     【D】
  訴訟代理人弁理士     【E】
      主    文
  原告の請求を棄却する。
  訴訟費用は原告の負担とする。
      事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成9年審判第10488号事件について平成10年9月9日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 被告は、名称を「一方向ベアリング」とする特許第1942189号発明(昭和
61年11月20日特許出願(特願昭61-277180号)、平成6年8月24
日出願公告(特公平6-65900号)、平成7年6月23日設定登録。本件発
明)の特許権者である。
 原告は、平成9年6月26日、被告を被請求人として、本件発明について無効審
判請求をし、平成9年審判第10488号事件として審理された結果、平成10年
9月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、
同月28日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨(特許請求の範囲の記載)
 中心部に位置する軸通孔2に回動可能に挿通される、軸10に接して回転可能に
転子7を所定位置に保持する保持溝4を有する保持枠部3を軸通孔2の周囲に複数
箇所設けた第1部分1と、軸10の回転方向により前記転子7と係合、解放可能な
傾斜面14を保持溝4の外側に配置するために、前記保持枠部3に嵌合させる第2
部分16と、前記係合方向へ各転子7を押すばね8を備え、前記転子7は軸方向に
配置され、軸10に一定範囲にわたって接触するローラ型を有し、転子7の保持溝
4は、第1部分1の一側に開口し、他側には閉じた端面28を有しており、この保
持溝4の周方向に隣接したばね設置用溝部9に、前記ばね8がその基端で一体に成
形され、該ばね8の彎曲部11より先の部分は転子7と軸方向へ所定範囲で接触
し、転子7を附勢するように軸方向にのびており、第1部分1の他側に、軸方向に
沿ったばね8の成形型が抜ける型抜き孔13を有する、ことを特徴とする一方向ベ
アリング。(別紙本件発明図面参照)
 3 審決の理由の要点
 (1) 本件発明の要旨は前項のとおりである。
 (2) 原告(請求人)の主張の概要
 原告は、本件発明は、審判甲第1号証(実公昭61-11541号公報)及び審
判甲第2号証(特公昭56-7530号公報)記載の各発明に基づいて当業者が容
易に推考することができたものであるから、特許法29条2頃の規定により特許を
受けることができないものであり、したがって、その特許は、特許法123条1項
2号の規定により無効とすべきものである旨主張している。
 (3) 審判甲第1号証に記載された発明
 審判甲第1号証には、次のような事項が記載されている。(別紙審判甲第1号証
図面参照)
 ① 「円筒型外筒体1と、該外筒体1の開放端に嵌まる嵌合部材2と、外筒体1
の内面に数箇所形成された突条3に適合する凹部4を周面に設けた中介環5と、中
介環5の多角形内面6に適合する前記嵌合部材2と一体の多角形枠部7と、該多角
形枠部7に所要の間隔を存して複数箇所形成された間隙8に各1個宛緩挿される複
数個のローラ9と、各多角形枠部7の間隙8に面して設けられた切欠10に嵌まる
ローラ押ばね11とから成り、外筒体1と嵌合部材2とを係合手段12,13によ
り固定した一方向ベアリング。」(実用新案登録請求の範囲)
 ② 「一方向ベアリングのケーシングを形成する円筒型外筒体1と、該外筒体1
の開放端に嵌まる嵌合部材2は雌雄嵌合構造を有するように形成され、各中心に軸
15の通孔la,2aを有し、かつ外端部外周に鍔状のフランジlb,2bを有す
る。外筒体1の内面には、そこに数箇所形成された突条3に適合する凹部4を周面
に設けた中介環5が嵌合し、該中介環5はその内側に形成した多角形内面6と相補
的外形を有するように前記嵌合部材2の内端に一体に突設された多角形枠部7と嵌
合する。該多角形枠部7内には周方向に所要の間隔を存して、複数のローラ9を緩
く挿入する間隙8と、多角形枠部7の間隙8に面した切欠10を設け、ローラ押ば
ね11を嵌める。したがって、嵌合部材2にローラ9等を組込むだけでベアリング
機能を果たす。12は外筒体1の解放端フランジ部lbに突設した係合手段として
の係止爪で、嵌合部材2の係止孔13に入り端面に係止し、嵌合部村2を固定す
る。この作用を円滑に行なうため、係止爪12は外筒体1に切込14,14′を施
して弾力性を保有させてある。以上の構成において、軸15が第4図中時計方向に
回転すると、中介環5に内袋したローラ9は相対的に右方向に移動する。そのた
め、中介環5の内面の傾斜した多角形内面6とローラ9を介して接触する軸15と
の間に間隙が生じ、中介環5は軸15に対してフリー状態となる。なお、これは外
筒体1が第4図実線方向へ回り軸15が停止した場合と同じである。
 又、反対に同図反時計方向に軸15が回転しようとすると、多角形内面6と軸1
5の間に、ばね11により予じめ押圧されたローラ9があり、中介環5と軸15は
ローラ9を介して接触しており、従ってローラ9の自転がなくなり中介環5と軸1
5との相対的な運動はなくなる。すなわち、外筒体1は同図中鎖線矢印の方向へ回
転する。」(1頁2欄11行~2頁3欄19行)
 ③ ローラ押ばね11の嵌合部材2に対する取付け構造及びローラ9を押圧する
構造に関する上記記載事項①、②及び第3図ないし第5図の記載事項を参酌する
と、審判甲第1号証には、“ローラ9が緩挿される間隙8は、嵌合部材2の一側に
開口し、他側には閉じた端面を有しており、この間隙8の周方向に隣接した切欠1
0に、前記ローラ押ばね11がその多くの部分を嵌めて固定され、該口ーラ押ばね
11の彎曲部より先の部分はローラ9と軸方向へ所定範囲で接触し、ローラ9を附
勢するように軸方向にのびていること”が記載されていると認められる。
 これらの記載事項からみて、審判甲第1号証には、「中心部に位置する軸通孔に
回動可能に挿通される、軸15に接して回転可能にローラ9を所定位置に保持する
間隙8を有する多角形枠部7を軸通孔の周囲に複数箇所に設けた嵌合部材2と、軸
15の回転方向により前記ローラ9と係合、解放可能な傾斜面を形成する多角形内
面6を間隙8の外側に配置するために、前記多角形枠部7に嵌合させる中介環5
と、前記係合方向の各ローラ9を押すローラ押ばね11を備え、前記ローラ9は軸
方向に配置され、軸15に一定範囲にわたって接触するローラ型を有し、ローラ9
が緩挿される間隙8は、嵌合部材2の一側に開口し、他側には閉じた端面を有して
おり、この間隙8の周方向に隣接した切欠10に、前記ローラ押ばね11がその多
くの部分を嵌めて固定され、該口ーラ押ばね11の彎曲部より先の部分は口ーラ9
と軸方向へ所定範囲で接触し、ローラ9を附勢するように軸方向にのびている、一
方向ベアリング。」といった発明が記載されていると認められる。
 (4) 本件発明と審判甲第1号証に記載された発明の対比
 本件発明と審判甲第1号証に記載された発明を対比すると、審判甲第1号証に記
載された発明の、「軸15」、「ローラ9」、「間隙8」、「多角形枠部7」、
「嵌合部材2」、「多角形内面6」、「中介環5」及び「ローラ押ばね11」は、
それぞれ、本件発明の、「軸10」、「転子7」、「保持溝4」、「保持枠部
3」、「第一部分1」、「傾斜面14」、「第2部分6」及び「ばね8」に相当す
るから、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
 なお、この点については、原告と被告の間に争いはない。
<一致点> 
 中心部に位置する軸通孔に回動可能に挿通される、軸に接して回転可能に転子を
所定位置に保持する保持溝を有する保持枠部を軸通孔の周囲に複数箇所に設けた第
1部分と、軸の回転方向により前記転子と係合、解放可能な傾斜面を保持溝の外側
に配置するために、前記保持枠部に嵌合させる第2部分と、前記係合方向へ各転子
を押すばねを備え、前記転子は軸方向に配置され、軸に一定範囲にわたって接触す
るローラ型を有し、転子の保持溝は、第1部分の一側に開口し、他側には閉じた端
面を有しており、この保持溝の周方向に隣接したばね設置用溝部に、前記ばねが位
置し、該ばねの彎曲部より先の部分は転子と軸方向へ所定範囲で接触し、転子を附
勢するように軸方向にのびている一方向ベアリング。
<相違点>
 本件発明では、保持溝の周方向に隣接したばね設置用溝部に、ばねがその基端で
一体に成形され、第1部分の他側に、軸方向に沿ったばねの成形型が抜ける型抜き
孔を有しているのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、間隙(保持溝に
相当)の周方向に隣接した切欠(ばね設置用溝部に対応)に、ローラ押ばね(ばね
に相当)がその多くの部分を嵌めて固定されている点。
 (5) 相違点の検討
 次いで、この相違点について検討する。
 原告は、審判甲第2号証に、「一方向にのみ回転力を伝達する回転伝達装置にお
いて、回転自在に支持した内輪と外輪とのいずれか一方に斜辺と弾性ばねとを一体
に金型成形すること」が記載されていて、弾性ばねを他の部材と一体に金型成形す
ることが開示されているから、これを審判甲第1号証に記載された発明のローラ押
ばね(ばねに相当)の取付に採用すれば、この相違点で摘記した本件発明の構成に
なり、このようにすることが当業者にとって容易である旨主張している。
 しかしながら、一体成形には、少なくとも分割スライド型を使う方法と雄雌二つ
の金型を使う方法の二種があり、この相違点で摘記した本件発明の構成であれば、
仕上がり精度の高い雄雌二つの金型を使う方法を採用することができるものと認め
られ、一方、審判甲第2号証には、どのような金型を用いるのか記載されていない
ばかりか、雄雌二つの金型を用いるための「成形型が抜ける型抜き孔」についての
記載も示唆もない。(判断1)
 さらに、審判甲第2号証に記載されたものは、比較的剛性の高い内輪や外輪と弾
性ばね(ばねに相当)を一体成形したものであって、比較的剛性の低い保持枠の保
持溝とばねを一体成形した本件発明のものと異なる。(判断2)
 してみれば、このような審判甲第2号証の記載をもって、当業者にとって審判甲
第1号証に記載された発明の前記相違点で摘記した構成を本件発明の前記相違点で
摘記した構成に容易に想到し得たものとする根拠とすることができない。
 また、他に、当業者にとって審判甲第1号証に記載された発明の前記相違点で摘
記した構成を本件発明の前記相違点で摘記した構成に容易に想到できたものとする
合理的な主張も理由もない。
 そして、本件発明は、前記相違点で摘記した構成により、「ばねを組込む面倒な
工程が不要になると同時に、ベアリング自体が設計通りに仕上がり、組立て精度が
飛躍的に高まるから、信頼性の優れた製品を供給することができる。」(特公平6
-65900号公報3頁5欄13行~同頁6欄3行)といった顕著な効果を奏する
ものである。
 したがって、前記原告の主張を採用することができず、前記相違点は格別なもの
と認められるので、本件発明は、審判甲第1号証及び審判甲第2号証に記載された
発明に基づいて、当業者にとって容易に発明することができたものではないから、
特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。
 (6) 審決のむすび
 以上のとおりであるから、本件特許は、原告が主張する理由及び提出した証拠方
法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は、本件発明と審判甲第2号証に記載の発明との間の相違点についての判断
を誤って、本件発明の進歩性を認めたものであるから、取り消されるべきである。
 1 取消事由1(判断1の誤り)
 審決は、判断1において、「一体成形には、少なくとも分割スライド型を使う方
法と雄雌二つの金型を使う方法の二種があり、この相違点で摘記した本件発明の構
成であれば、仕上がり精度の高い雄雌二つの金型を使う方法を採用することができ
るものと認められ、一方、審判甲第2号証には、どのような金型を用いるのか記載
されていないばかりか、雄雌二つの金型を用いるための「成形型が抜ける型抜き
孔」についての記載も示唆もない。」としているが、誤りである。
 (1) 審判甲第2号証に記載のものが「もの」の発明であって、「方法」の発明で
はないから、どのような金型を用いるかの記載は全く不要なことである。そのこと
は、審判甲第2号証に記載の発明と同じく「もの」の発明である本件発明にあって
もどのような金型を用いるかの記載がないことからも理解し得る。
 審決は、本件発明がいかなる金型を用いるかについて記載がないのに、審決は、
本件発明は「雄雌二つの金型を用いる」ということを恣意的に前提としているの
で、誤りである。
 (2) 審決はまた、本件発明の「成形型が抜ける型抜き孔」につき、審判甲第2号
証には記載も示唆もないと認定している。しかし、アンダーカット(製品を金型か
ら取り出す際、金型の開閉方向に対してひっかかりとなるもの)にならないように
「成形型が抜ける型抜き孔」を設けることは、極めてありふれた慣用技術であるか
ら、記載がないとしても当業者であれば容易に推考することができたところであ
る。
 また、審判甲第2号証には、「尚、弾性ばね5a,5b,5c,5a′,5b
′,5c′は金型加工のしやすい形状で、かつばね効果のある形状であればよく、
又成形材料もばね性のある樹脂材料が望ましい。」(3欄27ないし30行。別紙審判
甲第2号証図面参照)と記載されているように「金型加工しやすい形状」とは、正
にアンダーカットにならない形状を意味するもので、そのためには金型としては型
抜き孔を伴う金型をも含むのは当然である。
 (3) 本件発明において「転子7に接するばね8が保持枠部3と一体に成形する」
ためには、ばね8部分が金型の開閉方向に対して、ひっかかり、すなわち、アンダ
ーカットとなると理解される。このようなアンダーカットたる部分をどのような金
型を用いて離型させたのかは、「成型方法」という方法の発明ではなく、「一方向
ベアリング」という「もの」の発明である本件発明にあっては、もとより何らの記
載もないところから、スライドコアを用いたのか、割り型構造(スプリットモール
ド)を用いたのかは明らかでないが、保持枠部3から突出しているばね8を保持枠
部3と一体に成型するためには、保持枠部3の底部からばね8の形状を構成する金
型と一体となった、又は金型とは別に設けられた「金型部分」(スライドコア)が
なければならず、離型に際しては、金型の開閉と同時に該「金型部分」も製品から
外れる(離型)するようにすることはプラスチック成形加工上当然のことである。
 そして、この「金型部分」が引き下がった跡は、成形品に「金型部分」と同寸同
形の孔が残されることは、プラスチック成形の当然の結果である。これを、本件発
明にあっては、「第1部分1の他側に、軸方向に沿ったばね8の成形型が抜ける型
抜き孔13を有することを特徴とする一方向ベアリング」(特許請求の範囲)と記
載し、あたかも「一方向ベアリング」において「型抜き孔」があることが特徴であ
るかの記載をしているが、上記したように「金型部分」が引き下がった跡にすぎ
ず、換言すれば、アンダーカットがあるプラスチック成形において当然の結果とし
て出来る「孔」であって特徴といえるものではない。
 「型抜き孔」に技術的手段があるならば、型抜き孔の効果についても明らかにす
べきなのに、明細書の効果の項(本件特許公報3頁)には型抜孔の効果の記載がな
いところからしても、「型抜き孔」が「技術的手段」あるいは「特徴」というに値
しないものであることが明らかである。
 (4) 本件発明は転子を押圧するスプリングが保持枠部と一体に構成されているの
に対し、審判甲第1号証記載の考案は、別体に構成したものであることの相違があ
るにしても、転子を押圧するスプリングを保持枠部と一体に成形することは、審判
甲第2号証に開示されている。
 審判甲第2号証には、「軸方向に沿ったばね8の成形型が抜ける型抜き孔13」
についての記載はないが、アンダーカットにならないように「成形型が抜ける型抜
き孔」の技術は、プラスチック成形加工の技術として当業者が知悉している慣用技
術である。そのことは、プラスチック成形加工入門(甲第7号証)、実開昭58-
63782号公報(甲第8号証)、実開昭58-170212号公報(甲第9号証)、実開昭60-
34913号公報(甲第10号証)等によって十分うかがい知れる。
 (5) 本件発明の成形方法が被告主張のように雄雌二つの金型を使う方法であると
しても、彎曲部を有し軸方向に成形されているばね8を雄雌二つの金型から離型さ
せるためには、成形品を金型の軸方向に沿って離型すればよいこととなり、その結
果、特許請求の範囲に記載されている「第1部分1の他側に、軸方向に沿ったばね
8の成形型が抜ける型抜き孔13」ができるのであり、できなければならない。
 したがって、被告主張のように雄雌二つの金型を使う方法にあっても、本件発明
のような成形品に、型抜き孔が出来ることは当然の結果であり、型抜き孔の存在が
何ら特徴といえるものではない。
 (6) 「ばね設置用溝部9に、ばね8がその基端で一体に成形され」ていることに
ついては、審判甲第2号証に記載されており、しかもばねを基端で他の部材と一体
に成形することは、本件発明と技術分野は異にするが、プラスチック成形品であっ
て、弾性を有する部材がその基端において他の部材と一体に成形されているもの
は、実開昭61-71972号公報(甲第12号証)、実公昭59-36855号公報(甲第13号
証)、実開昭61-71972号公報(甲第14号証)、実公昭58-41747号公報(甲第15号
証)、実公昭60-15259号公報(甲第16号証)に記載されているように慣用技術であ
る。
 そして、本件発明の一方向ベアリングのようなプラスチック成形において、「雄
雌二つの金型を採用すること」は、この種の樹脂成形において常套手段(プラスチ
ック成形加工入門(甲第7号証)111頁)である。
 (7) 以上のとおりであり、本件発明において、「ばね設置用溝部9にばね8がそ
の基端で一体に成形され」た構成とするとともに、雄雌二つの金型を採用すべく、
「ばね8の彎曲部11より先の部分は転子7と軸方向へ所定範囲で接触し、転子7を
附勢するように軸方向にのび」た構成とすることは、当業者が容易に想到すること
ができる程度のことである。
 2 取消事由2(判断2の誤り)
 審決は、「審判甲第2号証に記載されたものは、比較的剛性の高い内輪や外輪と
弾性ばね(ばねに相当)を一体成形したものであって、比較的剛性の低い保持枠の
保持溝とばねを一体成形した本件発明のものと異なる。」と認定している。
 しかしながら、審判甲第2号証には、「比較的剛性の高い内輪や外輪と弾性ば
ね」という記載はなく、何故、比較的剛性が高いと認定したのか理解することがで
きない。また、本件特許公報には、「ばね8の形状は図示の形に限らず偏平なS字
形乃至Z字形も可能である。以上の如く構成される第1部分1は硬質合成樹脂を用
いて成形する。」(4欄26ないし28行)という記載があるだけで、何故、比較的剛
性が低いと認定したのか理解できない。
 百科事典「ジャポニカ」(甲第11号証)の剛性の定義に従えば、「剛性」は、本
件発明及び審判甲第2号証に開示されている発明と何らの必然的な関係がない。
 したがって、剛性の高低についてした審決の認定は誤りである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1について
 (1) 本件発明においては、特許請求の範囲に記載されているように、「ばね設置
用溝部9に、ばね8がその基端で一体に成形され」た構成を実現するとともに、雄
雌二つの金型を使う方法を採用すべく、「ばね8の彎曲部11より先の部分は転子
7と軸方向へ所定範囲で接触し、転子7を附勢するように軸方向にのび」た構成と
したのである。
 これから明らかなように、本件発明に係るベアリングの転子保持器においては、
すべての構成部分が金型の軸方向への移動のみで成形が完了するように構成されて
いるため、「製品を金型から取り出す際に、金型の開閉方向に対して、製品のひっ
かかりとなる部分、すなわち、アンダーカット」は存在しない。
 したがって、本件発明に係る製品の成形型は、複雑で不利な点の多い「スライド
コア構造」ではない。本件特許公報の第4図及び第5図を見れば、そこに示された
構造に適した成形方法が雄雌二つの金型を使う方法であるということは、当業者で
あれば容易に理解し得ることである。
 (2) 本件発明においては、雄雌二つの金型を使う方法を採用すべく、「ばね8の
彎曲部11より先の部分は転子7と軸方向へ所定範囲で接触し、転子7を附勢する
ように軸方向にのび」た構成としたのであるが、それとともに、ばね8がその全長
にわたってしなやかな弾性を有するように「第1部分1の他側に、軸方向に沿った
ばね8の成形型が抜ける型抜き孔13を有する」構成としたのであり、この「型抜
き孔」は本件発明における重要な構成要素である。
 (3) 原告は、本件発明と審判甲第1号証記載の考案との相違点について、「転子
を押圧するスプリングを保持枠部と一体に成型することは、…審判甲第2号証に開
示されているところである。」と主張するが、審判甲第1号証には、内外輪のいず
れか一方と一体成形された弾性ばねを開示しているものの、本件発明のように保持
枠ないし保持溝と一体成形されたばねを開示するものではない。
 (4) 原告は「成形品に爪、レバー等の突出部分がある場合にはアンダーカットに
ならないように成形品に型抜き孔を設けることは慣用技術であることは明らかであ
る」と主張するが、そもそも「型抜き孔」はアンダーカット部を成形するために必
要となる。「アンダーカットにならないように「成形型が抜ける型抜き孔」を設け
ることは、極めてありふれた慣用技術であるとする原告の主張は意味不明である。
 本件発明は、単に「成形型が抜ける型抜き孔」を設けることを特徴とするもので
はない。一方向ベアリングにおいて、常時転子7に接触しつつこれを附勢する、軸
方向に延びた極めて弾力性に富んだ幅1ミリほどの極めて細く小さなばねを一体成
形するために「型抜き孔」が設けられているのである。
 甲第7号証ないし甲第10号証には、本件発明のような精密な成形技術を必要と
しない、単純かつ比較的大ざっぱな成形技術ないしそれによる成形品が開示されて
いる。しかも、常時附勢力を作用させる軸方向に延びた極めて弾力性に富んだ細く
小さなばねの成形に関する開示は一つもない。この事実は、本件発明に示された精
密成形技術が出願時の当業界の技術レベルを凌駕していたことの証である。
 (5) 原告は、審判甲第2号証に「弾性ばね5a,…は金型加工のしやすい形状
で、かつばね効果のある形状であればよく…」との記載(3欄27ないし30行)がある
ことを根拠に、同証は型抜き孔を示唆していると主張するが、製品中に型抜き孔を
設けることが合目的的であるとする何らかの記載が審判甲第2号証中に存在する場
合はともかく、審判甲第2号証には、「弾性ばね5a,…は金型加工のしやすい形
状で…」との記載があるのみで、かえって前記のように、金型加工には型抜き孔を
必要としないものがある。
 2 取消事由2について
 一般に、軸受の軌道輪(外輪、内輪)は、接触部分の微小面積を介して外部から
加えられる軸受荷重を支えるので、そこに生ずる高面圧に対して塑性変形を生じな
いだけの硬さが必要とされる。これに対し、保持器の材料には、なじみ作用と加工
の容易さから考えて、硬さが軟らかい材料が用いられる。審決の判断2は、厳密な
意味での「剛性」について述べたものではなく、一般的には「硬さ」として表され
るものを剛性と表現したにすぎないものと理解すれば、何ら誤りではない。
 軸受の軌道輪と保持枠とは、それぞれの機能に基づく異なる材料で構成されるこ
とが求められていることが一般常識であるから、審決の判断2に誤りはなく、審判
甲第2号証が開示する軌道輪(内輪又は外輪)と一体成形された弾性ばねと、本件
発明のように保持枠ないし保持溝と一体成形されたばねとを同一に論じるのは誤り
である。
第5 当裁判所の判断
 1 本件明細書の記載
 甲第1号証(本件特許公報)によれば、本件発明についての明細書の記載は次の
とおりであることが認められる。(別紙本件発明図面参照)
(産業上の利用分野〕
 本発明は軸のある方向への回転では軸承作用をなし、軸の逆方向への回転ではこ
れをロックさせるクラッチ機能を有する一方向ベアリングに関するものである。
(従来の技術)
 この種の物は例えば特開昭52-76546号に示されるように、転子の回転
(軸回りの公転)方向に対し傾斜した面と、承け座を有しており、転子等が傾斜面
へ当る回転方向の時にトルクを伝達し、承け座で支持される時に空転する構造を有
するが、トルク伝達を確実にするため転子等を傾斜面方向へばねで押す方式が一般
化されている(実公昭56-52416号等)。しかし、その結果、部品点数が増
え、複雑化したため、組立ての工数が増加する。しかも大きさが小さく組立てに神
経を使うため生産性を向上し難く、また自動化を行うのも技術面、経済面等からみ
て困難である。さらに多数の転子等とばねを組み合わせた場合、そのばらつきによ
って、一定の精度を維持するのが難しい問題も指摘される。
(技術的課題)
 本件発明は前記の点にかんがみなされたもので、その課題は、組立て工数を大幅
に低減するとともに、自動組立も可能とし、しかもばらつきがほとんどなく確実に
作動するように、精度の揃った製品を量産可能にすることにある。
(技術的手段)
 前記課題を解決するため、本件発明は、中心部に位置する軸通孔2に回転可能に
挿通される、軸10に接して回転可能に転子7を所定位置に保持する保持溝4を有
する保持枠部3を軸通孔2の周囲に複数箇所設けた第1部分1と、軸10の回転方
向により前記転子7と係合、解放可能な傾斜面14を保持溝4の外側に配置するた
めに、前記保持枠部3に嵌合させる第2部分16と、前記係合方向へ各転子7を押
すばね8を備え、前記転子7は軸方向に配置され、軸10に一定範囲にわたって接
触するローラ型を有し、転子7の保持溝4は、第1部分1の一側に開口し、他側に
閉じた端面28を有しており、この保持溝4の周方向に隣接したばね設置用溝部9
に、前記ばね8がその基端で一体に成形され、該ばね8の彎曲部11より先の部分
は転子7と軸方向へ所定範囲で接触し、転子7を附勢するように軸方向に延びてお
り、第1部分1の他側に、軸方向に沿ったばね8の成形型が抜ける型抜き孔13を
設けるという手段を講じたものである。
(作用)
 このような一方向ベアリングは、転子7とその保持溝4、転子7を係合、解放可
能な状態に置く軸10と傾斜面14及び転子7を係合方向へ附勢するばね8を必要
とするが、制御対象である軸10を除いた、転子7以外はすべて第1部分1と一体
又は一体的に形成され、組立てが極めて簡単に行える。
 転子7の保持溝4は一側で開口し、他側の端面28で閉じており、周方向に隣接
したばね設置用溝部9にばね8が設けられているから、転子7は開口側から挿し込
むだけで定位置に収められる。
 ばね8は、転子7の保持溝4とともに第1部分1に一体成形されているから、設
計段階で決定したとおりの位置に正確に転子7が配置される。
 各ばね8は彎曲部11より先が、転子7と軸方向へ所定範囲で接触可能であり、
転子7を附勢するため軸方向へ延びているので、転子7は安定に押さえられる。
 このようなばね一体構造と転子7により、軸通孔2に嵌挿される軸10に対する
クラッチ、ベアリング作用が、より一定化される。
(実施例)
<中略>
 実施例のばね8は、その基部8′でばね設置用溝部9の軸方向の内壁面に一体化
しており、該内壁面から軸方向外方へ延びる直線部と、第1部分1の前記一側にて
内方へ彎曲した彎曲片11を有する略U字形ないし略J字形なので、自由端12が
転子7であるローラ型の転子7に線状に接して弾性変形し、これを軸10及び傾斜
面14方向へ押圧する。このばね8は第1部分1の成形と同時に型成形されるの
で、そのため、軸方向の他端(外側)に成形型が抜ける型抜き孔13が、ばね設置
用溝部9の前記内壁に用意される。なお、ばね8の形状は図示の形に限らず扁平な
S字形ないしZ字形も可能である。以上のように構成される第1部分1は硬質合成
樹脂を用いて成形する。
<中略>
(効果)
 本発明は以上のように構成されかつ作用するので、細かな多数のばね8を組み込
む必要がなく、単に転子7を挿入するだけで済むため、一方向ベアリングの組立て
工数を著しく低減することができ、生産の自動化が可能になる。保持構4と軸10
と傾斜面14とばね8及び奥の端面28で囲まれた空所に転子7を挿し込むだけで
組立てが極めて正確かつ簡単に行えるので、製造工程が著しく短縮され、製品品質
を向上できる効果を奏する。第1部分1と一体化されたばね8の構造により、ばね
を組み込む面倒な工程が不要になると同時に、ベアリング自体が設計どおりに仕上
がり、組立て精度が飛躍的に高まるから、信頼性の優れた製品を供給することがで
きる。
 2 取消事由1についての判断
 原告は、本件発明と審判甲第1号証に記載の発明との間の相違点についてした審
決の判断1は誤りであると主張するので、以下検討する。
 (1) 本件発明について
 本件発明の特許請求の範囲の記載(本件発明の要旨)並びに本件明細書の発明の
詳細な説明中の「技術的課題」、「作用」及び「効果」の記載によれば、本件発明
は一方向ベアリングという物の発明であることが認められるが、特許請求の範囲に
は「ばね設置用溝部9に、前記ばね8がその基端で一体に成形され、」と成形され
る構造であることが特徴として記載されており、「作用」の項にも「ばね8は、転
子の保持溝4とともに第1部分1に一体成形されているから、設計段階で決定した
通りの位置に正確に転子7が配置される」(甲第2号証2頁左欄の(作用)の項第
3段落)と記載されているから、本件発明は、「成形される構造」であることもそ
の構成の一つとしているものというべきである。
 そして、特許請求の範囲の記載中の「・・・転子7の保持溝4は、第1部分1の
一側に開口し、他側には閉じた端面28を有しており、この保持溝4の周方向に隣
接したばね設置用溝部9に、前記ばね8がその基端で一体に成形され、該ばね8の
彎曲部11より先の部分は転子7と軸方向へ所定範囲で接触し、転子7を附勢する
ように軸方向にのびており、第1部分1の他側に、軸方向に沿ったばね8の成形型
が抜ける型抜き孔13を有する」の記載によれば、上記「成形される構造」は、成
形型が抜けることによって成形される構造であって、すべての構成部分が金型の軸
方向への移動のみで成形が完了するように構成されているものと認められる。この
ことは、本件発明の第4図及び第5図(別紙本件発明図面参照)に示されるばね1
1の彎曲部や基端、第1部分1の保持枠部3、保持溝4、ばね設置用溝部9からも
裏付けることができる。
 これらによれば、本件発明の構造は雄雌二つの金型を使う方法を採用できる構造
であることが容易に推認される。
 したがって、審決が相違点の検討の判断1において「一体成形には、少なくとも
分割スライド型を使う方法と雄雌二つの金型を使う方法の二種があり、この相違点
で摘記した本件発明の構成であれば、仕上がり精度の高い雄雌二つの金型を使う方
法を採用することができるものと認められ、」とした認定に誤りはないというべき
である。
 (2) 原告は、本件発明において「転子7に接するばね8が保持枠部3と一体に成
形する」ためには、ばね8部分が金型の開閉方向に対して、ひっかかり、すなわ
ち、アンダーカットとなると理解される旨主張する。
 まず、本件発明では、すべての構成部分が金型の軸方向への移動のみで成形が完
了するように構成されていることが明らかであり、雄雌二つの金型の軸方向開閉移
動に対して、製品のひっかかりとなる部分、すなわち、アンダーカットは存在しな
いものと認めることができる。
 ここで、甲第7号証によれば、【F】ほか「プラスチック成形加工入門」昭和5
4年日刊工業新聞社刊105頁「5・4・2アンダカットを避けた製品設計」の項に、
「製品にアンダカットとなる部分があると、(中略)強制抜きができる場合を除い
ては、アンダカットとなる部分を、別の部品(スライドコア)で構成して型の開閉
のたびに移動させ、製品の取出しをさまたげないようにしなければならない。しか
し、スライドコア構造の金型は、一般に複雑となり、また高価なものとなるだけで
なく、成形中の故障のもとともなるので、できれば、アンダカットのないような製
品設計が望ましい。」と記載されていることが認められ、これによれば、プラスチ
ック成形加工においては、アンダーカットとなる部分をスライドコアで構成しなけ
ればならないが、スライドコア構造の金型を避けたいこと、そのためには、アンダ
ーカットのないような製品設計が望ましいものであることが認められる。
 しかしながら、前判示のとおり、本件発明は、雄雌二つの金型の軸方向開閉移動
に対して、製品のひっかかりとなる部分、すなわち、アンダーカットが存在しない
構造のものと認められるので、アンダーカットを成形するためのスライドコア構造
の金型が採用されるとする根拠はないというべきである。
 (3) なお、甲第7号証によれば、前記「プラスチック成形加工入門」107
頁「5・4・4スライドコア構造」の項に、「多くの場合、スライドコア(サイドコ
ア)は、そのしゅう動面(スライド面)を可動側の型面上に設ける。こうすれば、
スライドコアは型開き行程と同時に作動して、アンダカット部を可動型から逃がす
ことができる。しかし、製品の構造によっては、図(B)のように、固定側にスラ
イドコアを設けなければならないことがある。この場合には、型開きが始まる前
に、まずスライドコアを後退させておかないと、製品が固定側に残り、その突出し
が困難となる。したがって、この場合には、油圧シリンダ装置などを使用してスラ
イドコアの出入のタイミングを、金型の開閉に関係なく、独立して操作できるよう
にすることが必要となる。」と記載されていることが認められるが、この記載と同
書108頁の図5.41(別紙「プラスチック成形加工入門」の図面参照)及びス
ライドコアについてのその他の記載(109ないし110頁)によると、スライド
コアは可動側金型又は固定側金型に設けられる部分構造と認められる。
 しかしまず、本件発明においてスライドコア構造の金型が採用されると解すべき
根拠がないことは前示のとおりであり、本件発明における「成形型が抜ける」の構
成を、部分構造であるスライドコアが抜けることについてのものと認めることはで
きない。
 また、同書の図5.41の(B)図は、製品のアンダーカットである横穴自体を
形成するためにスライドコアを用いるものであり、そこにおける横穴は型抜き孔と
認められるが、形成された横穴が内側の他のアンダーカット部分(例えば、同書1
09頁図5.44(別紙「プラスチック成形加工入門」の図面参照)に示される箱
形製品の内側のボス)をもって、成形した後の型抜き孔と認めることはできず、
(B)図の可動側(内側)の金型が抜けるためには製品の内壁面より内側に突出部
が成形できないことは明らかであるから、(B)図のスライドコアと横穴によって
は、「ばね設置用溝部に、彎曲部を有するばねがその基端で一体に成形される」構
造のための「型抜き孔」がプラスチック成形加工において当然のものであるとする
こともできない。
 (4) 原告は、雄雌二つの金型を使う方法にあっても、本件発明のような成形品
に、型抜き孔が出来ることは当然の結果であり、型抜き孔の存在が何ら特徴といえ
るものではないと主張する。
 しかし、甲第4号証によれば、審判甲第1号証に「外筒体1に嵌合部材2を嵌め
込む云わば雌雄嵌合構造にし、その内部にローラ9やばね11を内蔵させる切欠1
0を備えた多角形枠部7、」(3欄20ないし23行)と記載されていることが認
められ、この記載と審判甲第1号証(甲第4号証)の第3ないし第5図(別紙審判
甲第1号証図面参照)を合わせみると、審判甲第1号証に記載された一方向ベアリ
ングにおいて、細く小さなローラ押さえばね11を他の部材と一体に成形しようと
すれば、ばね11は切欠の内側面または内底面とつながるほかなく、いずれの場合
も細く小さなばね11が切欠の内面から出っぱるもので、成形の困難な構造となる
ものであることが明らかである。
 このような他の公知技術と対比すれば、本件発明が「ばね設置用保持溝9に、ば
ね8がその基端で一体に成形され、・・・軸方向にのびており、」との構成及び
「軸方向に沿ったばね8の成形型が抜ける型抜き孔」との構成を含めて、雄雌二つ
の金型による成形可能な構造としたことをもって、原告主張のように本件発明の特
徴となるものでないとすることはできない。
 (5) 原告は、審判甲第2号証に記載の「金型加工しやすい形状」とは、アンダー
カットにならない形状を意味するもので、そのためには金型としては型抜き孔を伴
う金型をも含むのは当然で、当業者であれば「示唆」するものと受け取めることが
できるとし、「成形型が抜ける型抜き孔」の技術は、プラスチック成形加工の技術
として当業者が知悉している慣用技術である裏付けとして、甲第7ないし第10号
証を提出する。
 この主張中の「アンダーカットにならない形状を成形するための型抜き孔を伴う
金型」とは、スライドコア構造の金型を意味しているものと解されるが、本件発明
において、アンダーカットを成形するためのスライドコア構造の金型が採用される
とする根拠がないことは、前判示のとおりであり、原告の主張は前提を欠き、理由
がない。
 (6) 以上のとおりであり、本件発明と審判甲第1号証に記載の発明との間の相違
点についてした審決の判断1に誤りがあるとする原告の取消事由1は、その余の点
について判断するまでもなく理由がない。
3 取消事由2
 原告は、剛性の高低についてした審決の認定は誤りであるから、本件発明と審判
甲第1号証に記載の発明との間の相違点についてした審決の判断2は誤りであると
主張する。
 そこで検討するに、乙第1号証によれば、「ベアリングのお話し」((財)日本規
格協会発行)に、
 「軸受の軌道輪と転動体とは、それらの接触部分の微小面積を介して外部から加
えられる軸受荷重が支えられるので、そこに生ずる高面圧に対して塑性変形を生じ
ないだけの硬さが必要です。転がり運動によってこの高面圧が繰り返し応力となる
ので、これに耐える疲れ強さが高いことを要し一般には硬さが高いほど疲れ強さも
高く耐摩耗性があるといえます。」(53頁本文1~6行)、
 「保持器のポケットと転動体とは、およそdmn値(中略)に比例する滑り速度の
摩擦が生ずるので、焼付きに至らない耐摩耗性のよい材料であることが必要です。
また、なじみ作用と加工の容易さから考えて、保持器の材料には硬さが軟らかい材
料が用いられます。」(56頁「3.2保持器の材料」の項1~4行)
 と記載されていることが認められる。これによれば、一般に、軸受の軌道輪(外
輪、内輪)と保持器の物性とは異なり、前者には比較的硬い材料が、後者には比較
的軟らかい材料が用いられることが認められる。
 そして、甲第5号証によれば、審判甲第2号証には、
 「尚、弾性ばね5a,5b,5c,5a′,5b′,5c′は金型加工のしやす
い形状で、かつばね効果のある形状であればよく、又成形材料もばね性のある樹脂
材料が望ましい。」(3欄27~30行)、
 「これら内外輪のいずれか一方に所定角度毎に左右対称な弾性ばねとこれら弾性
ばねの所定角度間隔毎に上記内外輪問の隙間が上記それぞれの弾性ばねから遠ざか
るにしたがって順次狭くなるようにするための左右対称な斜辺とを形成し、」(特
許請求の範囲)、
 「上記円筒コロを挿入するための隙間は上記外輪間にあって所定角度間隔毎に左
右対称に構成され、かつ上記円筒コロを押すための弾性ばねは上記内外輪間にあっ
て所定角度毎に左右対称に構成されているため、」(4欄12~14行)
 との記載があることが認められ、これと審判甲第2号証の第1~4図(別紙審判
甲第2号証図面参照)によれば、審判甲第2号証に記載された弾性ばねは、外輪の
内周面から内側に向かって細い部分で立ち上がって外輪と一体化されるとともに左
右に延びる部分を有し、外輪内周面と間に間隙を形成していることが認められ、弾
性ばねであるために(円筒コロが接触している)溝底面とはつながっていないもの
と認めることができる。
 このように、審判甲第2号証に記載の弾性ばねの基端は外輪と一体に成形されて
いると認められるが、これに対し、本件発明の特許請求の範囲によれば、ばねの基
端が保持溝と一体に成形されているものと解されるから、両者のばねの構造は異な
るものである。審決の認定は、「内輪や外輪」と「保持枠の保持溝」との構造の相
違に加えて、一般に、軸受の外輪には比較的硬い材料が、保持器には比較的軟らか
い材料が用いられるということを前提にして、両者のばねの物性の相違についても
「比較的剛性の高い、低い」という相対的高低によって表現しているものと解され
るのであり、「剛性」という用語に正確さに欠ける点があるにしても、「比較的剛
性の高い」ものか「比較的剛性の低い」ものかという相対的な比較をしたものと理
解することができ、そのように両者を対比した点をもって、審決に誤りがあるとす
ることはできない。
 したがって、この誤りがあることを前提とする審決取消事由2も理由がない。
第6 結論
 以上のとおりであり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、主文のとおり
判決する。
(平成11年11月2日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   市   川   正   巳

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛