弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪である。
         理    由
 本件控訴の趣意は別紙控訴趣意書と題する書面に記載の通りである、尚当裁判所
は右趣意書に包含された事項の調査の為必要があると認めたので事実の取調べをし
た。
 第一点は要するに被告人の警察及び検察庁における自白は任意になされたもので
ないから、之を採つて以て本件犯罪事実を認定した原判決は証拠とすべからざるも
のを証拠として採用した違法があるというのである。
 被告人が司法警察員竝に検察官に対し本件犯行を自白して居ること及び原審が右
自白の調書を採つて以て原判示事実を認定していることは記録上明らかなところで
ある。
 そこで右自白が任意になされたものであるかどうかを検討して見るに
 一、 被告人を最初坂上巡査駐在所で取り調べ供述調書を作成した巡査Aの原審
公判廷での証言の記載中「被告人が三月二十日自白した時は最初は中々自白しませ
んでしたが色々話をした揚句自白しました。よく覚えませんがその時若い男の人が
来ていてBと話をしていたが、正直に申しては怎うかと云つて居りました。その男
は被告人と同室に居たのであります。七の男が岩国市Cマーケツトに居るDという
靴屋であつたかどうかよく覚えません」との部分
 一、 原審第一回公判調書中被告人の「私が駐在所で嘘の自白をしたのは駐在巡
査が無頼漢を連れて来て私にお前が盗んだのだろう盗んだと言え盗んだと言え始末
書丈でこらえてやると申しましたので嘘の自白をしたのであります。」との供述記

 一、 原審第六回公判調書中被告人の「検察官に対して自白していることは間違
いありませんがそれは不起訴になると思つて左様申上げたのであります。
 然し起訴になつたので当公廷では本当のことを申げました」旨の供述記載
 一、 原審第二回公判調書中、被告人の証人Aに対する「三月二十日私が取調べ
を受ける時来合はせていた人はCマーケツトのDという人ということを知つて居り
ますが其のDが来ると証人と奥さんがまあ上つてお茶ないとお飲みなさいといつて
奥に入り暫くしてDと証人が出て来て初めは物柔かに云つていたが私が自白せぬの
でDが俺は人殺しもしたことがあり手下が何千人も居るので自白せねば叩き殺して
やる。殺しても殺した証拠などは残さぬ。然し此所で自白すれば隠便に済してやる
と申しましたが証人は其所に居て知らぬ顔をして居られましたが其の点どうです
か」証人の答「そういうことは覚えません」問「Dは私の手を握つて無理に拇印さ
しましたが其の点はどうか」答「私は人に手助けさして捺印さしたことはない」問
「其Dは私が拇印すると直ちに帰ると申しましたところ奥さんが仕度が出来て居る
からお上んなさいと申されましたが其の点はどうか」答「覚えぬ」との記載
 一、 当審におけるAに対する証人尋問調書中、私が被告人を調べたとき確かに
誰か来ていたことは相違ありません。私が何かの用事で奥へ入つたとき、その人が
被告人に話したかも知れませんが私が調べる時は何も云わなかつたと思います。然
しその人が被告人に正直に申してはどうかと云つていたと原審で私が証言している
とすれば或はそうであつたかも知れませんが判然とした記憶はありません」旨の供
述記載
 一、 当審における検証調書中、被告人の前出坂上村巡査駐在所におけるA巡査
による取調べの際における同巡査被告人及び居合わせた某の三名の位置が机を囲ん
で略馬蹄型に列んでいた旨の検証結果の記載
 一、 司法巡査Aの被告人に対する供述調書(昭和二十四年三月二十日附)、司
法警察員の被告人に対する供述調書(同月二十二日附)副検事の被告人に対する供
述調書(同年四月一日附)の各記載(いづれも自白)
 一、 被告人提出の上申書(同年三月十五日附、同月二十二日受附)の記載(窃
盗を否認)
 を綜合すれば、被告人が昭和二十四年三月二十日坂上村巡査駐在所においてA巡
査から本件についての最初の取調べを受け、初めは窃盗事実を否認していたが後遂
に自白するに至つたこと、右取調べの際捜査官憲でない一私人某が同巡査及被告人
と共に机を囲んで同席し被告人に対し自白を促す等或る程度発言したことが認めら
れる。論旨に主張のように右同席の某がDという無頼漢であるとか此の場合の右自
白が強制によつて無理<要旨>にさせられたものであるとの事実は必ずしも明らかで
ないけれども、此の様に駐在所の狭い調べ室で被疑者が初めて巡査から取調
べを受ける場合に他の捜査官憲でない一私人が同席して自白を勧める等の言動に出
でた場合における右被疑者の自白は、少くとも任意になされたものでない疑のある
ということは之を認めることが出来る。そして右自白につき調書も作成されたので
被告人は翌々二十二日の司法警察員の取調べの際も、同年四月一日の副検事の取調
べの時も同様自白をしなければ自分の不利益であると思つて自白の供述をしたもの
であることが以上の証拠によつて認められる。任意にされたものでない疑のある自
白は如何なる場合にも之を証拠とすることが出来ないことは刑事訴訟法第三百十九
条の定めるところである。従つて原審が司法警察員竝に検察官の被告人に対する右
各供述調書を採つて以て原判示事実を認定したのは証拠とすることの出来ない供述
調書によつて犯罪事実を認定した違法があるということになる。そして原判決が証
拠として列挙して居るものの中右供述調書の外には直接被告人の犯行を裏書する資
料はないのであるから右の法令違背は判決に影響を及ぼすものであることは明瞭で
ある。
 論旨は理由があり其の余の論旨(第二点)につき判断するまでもなく原判決は刑
事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に従つて破棄を免れない。
 尚本件については訴訟記録並に原裁判所及び当裁判所において取り調べた証拠に
よつて直ちに判決することが出来るものと認めるので本件につき更に判決をするこ
ととし、考えて見るに、前記証拠とすることの出来ない各自白調書を除けば原審に
おける各証拠竝に当審で取り調べた各証拠を綜合しても被告人が本件自転車を所持
していた事実だけは之を認めることが出来るけれども被告人が之を窃取したもので
あるとの事実は之を確認することが出来ないので刑事訴訟法第四百四条第三百三十
六条後段に従つて無罪の云渡をした次第である。
 (裁判長判事 柳田窮則 判事 藤井寛 判事 永見真人)

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