弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用中証人Aに支給した分は被告人Bの負担とし、そ
の余はすべて被告人C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同Kの連帯
負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、記録に編綴してある弁護人山口春一、同上田直吉、同伊藤一
郎、同中平博文作成名義の各控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、何れも
これをここに引用する。
 弁護人山口春一の控訴趣意中、原審の訴訟手続には刑訴規則一二三条二項違反の
証言を罪証に供した違法がある旨の主張について。
 記録を検討するに、論旨に指摘する証人はいずれも尋問を受くべき期日の指定
前、従つて期日の召喚状も受けず、もとより人定尋問も受けていない時期に、他の
証人の供述を傍聴したものであることが明らかであるから、右規則一二三条二項適
用の余地なく、従つてこれが違反を云々されるいわれはない。仮りに然らずとする
も、同条項はいわゆる訓示規定と解すべきであるから、これの違反の故を以て直ち
に証言が証拠能力を失なうものではないのである(大判昭七・八・二五集一一巻一
二六〇頁、仙台高判昭二六・一〇・一五集四巻一一号一三九四頁)。論旨は採用で
きない。
 弁護人中平博文の控訴趣意第一点について。
 論旨は、C、D、E、F、G、以上五名の被告人に対する昭和三四年三月二三日
附の暴力行為等処罰ニ関スル法律(以下略して暴力行為処罰法という)違反の起訴
事実は、同被告人五名に対する昭和三四年一月一一日附暴力行為処罰法違反の起訴
事実と、唯被害者を異にしているに過ぎず、一個同一の事件であるから、原裁判所
はすべからく後の起訴事実につき公訴棄却の判決を為すべきであつたのに、不法に
公訴を受理し(刑訴三七八条二号)有罪の判決を言渡した、というのである。
 <要旨>しかしながら、人の身体の如きは包括してこれを一個の法益と観察すべき
ではなく、暴力行為処罰法一条一項の暴行罪も被害者を異にする毎にその成
立を認めるべきであるから(傷害罪につき大判明四三・五・一九録一六輯八九五
頁、抄録四一巻四一五四頁、最判昭二九・五・六最高裁判所裁判集95八一頁)論
旨指摘の後の起訴につき原審が公訴棄却の判決をしなかつたのは当然である(原審
が判決主文においてLに対する右法条違反の罪につき特に無罪の言渡をしているの
も、これを併合罪中の一罪と認めた為めである)。論旨は採用し難い。
 弁護人中平博文の控訴趣意第二点について。
 論旨は、Mに対する判示第二の一の(一)の暴行罪と(二)の脅迫罪とはこれを
包括的に観察し暴力行為処罰法一条一項の単純一罪として処断すべきであるのに、
原判決は誤つてこれを二個の犯罪と認め刑法五四条一項前段を適用し、又判示第二
の一の(一)及び(二)の暴力行為処罰法違反の罪と判示第二の二の(一)ないし
(十二)の傷害罪とは観念的競合或は法条競合の何れかであるのに、原判決は誤つ
てこれを併合罪の関係に立つものとして該当法条を適用している、というのであ
る。
 しかし、判示(第二の一の(一))のようにM等に暴行を加え、その際同女に対
し、たとえ本心からではないにしても、判示(第二の一の(二))のようにその生
命に危害の至るべきことを告知しこれを脅迫した場合には、告知の内容たる害悪と
現実に加えた害悪とはその法益を異にするから暴行罪とは別に脅迫罪の成立を認め
るのが相当であつて、暴行を為すに当つてその旨を告げるが如き場合(この場合は
脅迫行為は暴行罪に吸収され別に脅迫罪は成立しないと解する)と同一に論ずるこ
とはできない(大判昭六・一二・一〇集一〇巻七四五頁)。
 論旨引用の判例は本件に適切でない。
 又、二人以上共謀して甲に対し暴行を加えこれを傷害するに至つたときは傷害罪
のみ成立し、同人に対する暴行罪はこれに吸収されることはまことに所論のとおり
であるが、別に乙に対する暴行あるときこれが甲に対する傷害罪に吸収され一罪と
なるいわれはない。人の身体は各個独立の法益であつて包括してこれを一個と観察
しえないこと前説示のとおりであるからである。論旨引用の判例は本件に適切でな
い。従つて原判決が判示第二の二の(一)ないし(十二)の各傷害の被害者を判示
第二の一の(一)の暴行の被害者より除きこれに対する傷害罪のみを認定処断し、
判示第二の一の(一)の暴行の被害者については別にそれぞれに対する暴力行為処
罰法違反罪の成立を認めているのはまことに正当であつて論旨は到底採用し難い。
 弁護人山口春一、同上田直吉、同伊藤一郎、同中平博文の各控訴趣意中、本件の
被害者たる教員の証言はすべて打合せの上、事実を歪曲しているものであり、灰か
ぐらの立つ教室内で被告人等が何をしたか逐一目撃していると供述する如きは正に
偽証であるにかかわらず、原審が安易にこれを断罪の資料に供したのは、結局訴訟
手続に条理・経験則その他の採証法則に違反したものである、との各論旨につい
て。
 しかし、記録を精査し、いわゆる教組側の証人の供述を彼此仔細に検討してみて
も、原審の採証から事実認定に至るまでの過程において、条理や経験則に反すると
いう程の欠陥は認められない。原判示第二、の九番教室内における犯行当夜の明暗
度については、当裁判所の事実取調べの結果殊に犯行当時と相似た時刻ならびに月
令を選んで行なつた当裁判所の検証の結果によつても、未だ原審の認定を覆えすに
は足りない。原判示第一、犯行に至るまでの経過の項に説示されている如く、N小
教員始め教組側の言動に強い不信の念を抱いていた被告人等が教組側証人の供述に
対して幾多の疑念を持つであろうことは、一応肯けないことはないけれども、記録
第二冊八〇三丁以下によれは、むしろ教組側の証人の中には被告人側の圧迫を恐れ
て一時出廷を躊躇したような事跡も認められるのであつて、法廷における証言まで
が指令によつて動き打合せどおりに為されているとは到底認めることはできない。
なお、記録を調査しても検察官調書の任意性の問題その他、採証法則の違反を疑わ
しめるような廉はなく、論旨は何れも採用し難い。
 弁護人山口春一、同上田直吉、同伊藤一郎、同中平博文の各控訴趣意中、事実誤
認の各論旨について。
 論旨は縷々述べているけれども、原判決挙示の証拠によつて原判示のように事実
を認定しえないことはない。殊に共謀の点については、所論の如く事前に打合わせ
が為されること等は必ずしも必要でなく、更に暴行による傷害罪の共同正犯におい
ては暴行者間に暴行意思の連絡があれば足るものと解すべきであるから、この点に
関する原審の事実認定に誤りはない。当審における事実調査の結果によるも未だ原
審認定を左右するに足らず、論旨は所詮理由なきに帰する。(因みに、原判決書の
五枚目裏末行に吾川郡とあるのは高岡郡、七枚目裏末行に同郡とあるのは吾川郡、
三二枚目表四行目に三十六年とあるのは三十三年のそれぞれ誤記と認める。)
 よつて、刑訴三九六条に則り、本件控訴は何れもこれを棄却すべきものとし、訴
訟費用の負担につき同法一八一条一項本文一八二条を適用し主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 木原繁季 裁判官 伊藤俊光)

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