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平成18年(行ケ)第10537号審決取消請求事件
平成19年12月18日判決言渡,平成19年11月6日口頭弁論終結
判決
原告コーニンクレッカフィリップスエレクトロニクスエヌヴィ
訴訟代理人弁理士伊東忠彦,湯原忠男,大貫進介,伊東忠重
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人千葉成就,豊原邦雄,山本章裕,森山啓
主文
特許庁が不服2003−24269号事件について平成18年7月31日にした
審決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文と同旨の判決
第2事案の概要
本件は,原告がした後記特許出願(以下「本願」という。)に対し拒絶査定がさ
れたため,これを不服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決が
されたため,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本願
出願人:原告
発明の名称:「衝突防止用配置を有する装置」
出願番号:平成5年特許願第225459号
出願日:平成5年9月10日(パリ条約による優先権主張:1992(平成4)
年9月14日,オランダ国)
拒絶査定日:平成15年9月5日付け
(2)審判請求手続等
審判請求日:平成15年12月15日(不服2003−24269号)
手続補正日:平成15年12月15日(以下「本件補正」という。)
審決日:平成18年7月31日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成18年8月15日
2本件補正後の請求項1の記載
審決が対象とした本件補正後の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)の
記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
【請求項1】
「装置の構成部分を動かす駆動手段と衝突防止用配置とを有し,
前記衝突防止用配置は,前記駆動手段に供給される電力と電流のうちの少なくと
も一方の値を決定する測定手段と,前記駆動手段に供給される電力と電流のうちの
少なくとも一方の決定された該値を,供給される電力と電流のうちの少なくとも一
方の基準値と比較する手段とを有し,
前記比較手段は,該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第1の
駆動解除信号を発生する,装置であって,
前記衝突防止用配置は,
前記基準値を記憶する記憶手段と,
前記装置の構成部品の位置を検出する位置検出手段と,
該構成部品の予測位置を算出する計算手段と,
前記検出された位置と前記予想位置の差を決定し,該当する構成部品の前記駆
動手段からの解除を制御する第2の駆動解除信号を発生する位置比較手段と,を有
し,
前記駆動手段に供給される電力と電流のうちの少なくとも一方を前記記憶手段
に記憶させ,前記構成部品の移動中に必要な電力供給と電流供給のうちの少なくと
も一方と対応した該当する基準値と繰り返し比較する,ことを特徴とする装置。」
3審決の要点
審決は,本願発明は,後記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特
許を受けることができないとした。
(1)特開昭64−33605号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記
載された各発明
ア「産業用ロボット本体を構成する可動部を駆動する駆動源であるモータと,衝突検出部と
を有し,
前記衝突検出部は,
モータに供給される駆動電流を検出するための電流検出器と,
ロボットの動作モードに応じて設定される電流指令基準値と,検出される電流指令値を比較す
る手段を有し,サーボ異常を判断するもの」(以下「刊行物1発明の1」という。)
イ「ロボットサーボ系の位置指令値と,位置検出値とを比較する手段を有し,サーボ異常を
検出し,ロボットの暴走を防止するもの」(以下「刊行物1発明の2」という。)
(2)特開平2−59291号公報(甲2。以下「刊行物2」という。)に記載
された発明
「ロボットアーム2を駆動する交流サーボモータの電流信号を一定時間間隔で検出して,衝
突と判断した場合に停止信号を出力するもの」(以下「刊行物2発明」という。)
(3)本願発明と刊行物1発明の1との対比
ア一致点
「装置の構成部分を動かす駆動手段と衝突防止用配置とを有し,
前記衝突防止用配置は,前記駆動手段に供給される電力と電流のうちの少なくとも一方の値
を決定する測定手段と,前記駆動手段に供給される電力と電流のうちの少なくとも一方の決定
された該値を,供給される電力と電流のうちの少なくとも一方の基準値と比較する手段とを有
し,
前記衝突防止用配置は,
前記基準値を記憶する記憶手段と,
を有する装置。」
イ相違点
「(相違点1)本願発明は,比較手段は,該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制
御する第1の駆動解除信号を発生するが,刊行物1発明の1は,サーボ異常は検出しているが,
駆動解除しているかは不明である。
(相違点2)本願発明は,電流検出による判断に加え,検出された位置と計算された予測位置
との差により第2の駆動解除信号を発生しているが,刊行物1発明の1は,位置検出による制
御は行っていない。
(相違点3)本願発明は,検出される電流を基準値と繰り返し比較しているが,刊行物1発明
の1は,その点が不明である。」
(4)相違点についての判断
「上記相違点1について検討する。
装置の異常を検出した場合には,装置の作動を停止させることが一般的である(例えば,刊
行物1,特開昭61−58002号公報(甲3。以下「周知例1」という。))から,この点
に格別の技術的意義を見いだすことはできず,設計的事項にすぎない。
相違点2について検討する。
刊行物1発明の2は,検出された位置と,指令位置すなわち計算された予測位置との差によ
り,サーボ異常を検出し,ロボットの暴走を防止するものである。
ここで,刊行物1発明の1は,刊行物1発明の2を改善したものであり,刊行物1の記載の
みからは,刊行物1発明の1と刊行物1発明の2を組み合わせることは,想定していない。
しかし,安全の観点においては,一層の安全性向上のため,複数の安全手段を併用すること
は広く行われている(例えば,特開昭57−11127号公報(甲4。以下「周知例2」とい
う。),実開昭62−4464号公報(甲5。以下「周知例3」という。),実開昭60−9
0000号公報(甲6。以下「周知例4」という。))。
両刊行物発明は,いずれも,安全のためのものであることから,刊行物1発明の2(判決注
:「刊行物1発明の1」の誤記であると認められる。)の電流検出による安全手段に加え,刊
行物1発明の1(判決注:「刊行物1発明の2」の誤記であると認められる。)の位置による
安全手段を組み合わせることに困難性は認められない。
相違点3について検討する。
刊行物2発明は,ロボットにおいて,電流信号を一定時間間隔で検出し,安全判断を繰り返
し行うものである。
刊行物1発明の1と刊行物2発明とは,ロボットの安全装置という同一技術分野に属するも
のであり,かつ刊行物発明2(判決注:「刊行物2発明」の誤記であると認められる。)を組
み合わせることで,一層の安全性向上が期待できるものであることから,両者を組み合わせる
ことに困難性は認められない。
また,これらによる効果も,格別のものではない。」
(5)むすび
「以上より,本願発明は,各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができな
い。」
第3審決取消事由の要点
審決は,以下のとおり,相違点1ないし3についての各判断を誤った結果,本願
発明が特許法29条2項により特許を受けることができないと判断したものである
から,取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
審決は,相違点1について,「装置の異常を検出した場合には,装置の作動を停
止させることが一般的である(例えば,刊行物1,周知例1)から,この点に格別
の技術的意義を見いだすことはできず,設計的事項にすぎない。」と判断したが,
以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)ア審決は,単に「この点に格別の技術的意義を見いだすことはできず,設
計的事項にすぎない」と判断するにとどまり,相違点1に係る本願発明の構成が容
易に導かれることの動機付けを示していない。
イ被告は,「審決には,『装置の異常を検出した場合には,装置の作動を停止
させることが一般的である』として,動機付けが示されている。」と主張するが,
相違点1に係る本願発明の構成上の特徴は,「該当する構成部品の前記『駆動手段
からの解除』を制御する第1の駆動解除信号を発生する」ことにあるのであって,
「装置の作動を停止させる」ことにあるのではないから,審決は,相違点1に係る
本願発明の上記構成上の特徴が容易に導かれることの動機付けを示しておらず,ひ
いては,同構成上の特徴が容易に導かれることをも示していない。
(2)アまた,審決が刊行物1自体を引用した意図が不明であるほか,刊行物1
及び周知例1には,相違点1に係る本願発明の特徴である「該当する構成部品の前
記駆動手段からの解除を制御する第1の駆動解除信号を発生する」ことにつき,開
示も示唆もされていない。
イ被告は,株式会社岩波書店平成3年11月15日発行の広辞苑第四版(乙1。
以下,単に「広辞苑」という。)に記載された「解除」の語義を根拠に,「請求項
1にいう『駆動手段からの解除を制御する』ことは『停止のみ』を含むものであり,
『該当する構成部品』が『停止後に容易に動き得る』ことまでを含むものではな
い」旨主張する。
しかしながら,明細書の技術用語の意味内容を解釈するに当たっては,当該明細
書の記載及び図面に基づいて解釈すべきであるところ,本願に係る明細書(本件補
正後のもの。甲7,8。以下「本願明細書」という。)の記載によれば,上記「駆
動手段からの解除」は,構成部品が単に停止することのみならず,駆動手段から解
除され,容易に動くことができる状態になることを意味するものであるといえる。
仮に,被告が主張するとおり,「解除」の語義につき,広辞苑の記載に従うとし
ても,広辞苑によれば,「解除」とは,「ときのぞくこと。」を意味するものであ
るから,「駆動手段からの解除」は,「駆動手段からの駆動をときのぞくこと」で
あり,単なる「停止のみ」にとどまるものでないことは明らかである。
ウ被告は,「停止させるためには,駆動手段に対して,駆動から解除するため
の信号を発生する必要があることは明らかである。」と主張するが,停止させるた
めに駆動から解除するための信号を発生する必要があるとはいえず,被告の上記主
張は失当である。
エ被告は,「安全の観点からは,装置の停止後,そのままの状態で放置してお
くことは,通常あり得ず,復旧作業を行うことが一般的である。」と主張するが,
「復旧作業」は,本願発明の目的及び構成とは何ら関係のない事柄であり,被告の
上記主張は当を得ていない。
オ被告は,「停止後に逆方向に動き得るものが望ましいことは明らかであり,
特開平2−30487号公報(乙2。以下『乙2公報』という。)にも記載された
とおり,ごく自然なことにすぎない。」と主張するが,乙2公報にいう「フリー状
態」は,モータへの電流供給路を遮断することであって,ロボットアームがモータ
の駆動から解除されることを意味するものではないから,被告の上記主張は,乙2
公報の内容を誤解したものである。
(3)周知例1に記載された技術は,異常検出時において,ロボットを駆動する
基本軸モータへの電源供給を遮断するのみのものであって,ロボットと駆動モータ
との接続を解除するものではない。したがって,異常検出時においても,ロボット
は依然として駆動モータに接続されていて自由に動くことはできず,対象物との衝
突による損害又は損傷を有効に回避することはできない。
これに対し,本願発明においては,電流等又は位置のいずれかに異常を検出した
場合に,第1の解除信号又は第2の解除信号を発生させることにより,該当する構
成部品を駆動手段から解除することとなるため,対象物との衝突による損害又は損
傷を有効に回避することができるという重大な効果が得られる。
本願発明のこのような効果は,刊行物1にも審決が引用したどの文献にも開示も
示唆もないところ,審決は,本願発明が奏する上記重大な効果を看過したものであ
る。
(4)以上のとおり,審決は,本願発明の特徴である「該当する構成部品の前記
『駆動手段からの解除』を制御する第1の駆動解除信号を発生する」との要件の解
釈・認定を誤り,かつ,本願発明が奏する重大な効果を看過することにより,相違
点1に係る本願発明の構成は単に設計的事項にすぎないとの誤った判断をしたもの
である。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
審決は,相違点2について,「刊行物1発明の2は,検出された位置と,指令位
置すなわち計算された予測位置との差により,サーボ異常を検出し,ロボットの暴
走を防止するものである。」,「ここで,刊行物1発明の1は,刊行物1発明の2
を改善したものであり,刊行物1の記載のみからは,刊行物1発明の1と刊行物1
発明の2を組み合わせることは,想定していない。」,「しかし,安全の観点にお
いては,一層の安全性向上のため,複数の安全手段を併用することは広く行われて
いる(例えば,周知例2ないし4)。」,「両刊行物発明は,いずれも,安全のた
めのものであることから,刊行物1発明の1の電流検出による安全手段に加え,刊
行物1発明の2の位置による安全手段を組み合わせることに困難性は認められな
い。」旨判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)ア刊行物1発明の1に対する従来技術は,産業用ロボットの可動部サーボ
系の位置指令位置と位置検出値との偏差によってサーボ異常を検出するものである
ところ,そのような従来の位置偏差による方法ではサーボ系の異常に伴うロボット
本体の暴走を応答よく防止できない,という問題点を解決するため,刊行物1発明
の1がされたものであるから,ロボットの動作状態によらずサーボ異常を駆動トル
ク,負荷トルクの異常により速やかに検出すること,すなわち,従来の位置偏差監
視による方法を用いない点に,刊行物1発明の1の目的があるといえる。
イまた,刊行物1発明の1の第1実施例によれば,刊行物1発明の1において
は,位置偏差を監視する方法を用いないことを前提としているといえる。
ウこのように,位置偏差を監視する方法を用いる刊行物1発明の2は,刊行物
1において問題点のある悪い例として挙げられている発明であるにもかかわらず,
審決は,単に「複数の安全手段を併用することは広く行われている」という一般的
な認識を示すにとどまり,そのような刊行物1発明の1の目的に反する悪い発明と
刊行物1発明の1とを組み合わせることの動機付けを何ら示していない。
(2)アさらに,上記(1)において主張した点は,逆にいえば,刊行物1発明の1
に位置偏差を監視する技術を組み合わせることに対する阻害要因である。したがっ
て,「刊行物1発明の1と刊行物1発明の2を組み合わせること」につき,単に
「想定していない」とのみ説示する審決は,刊行物1の記載内容を誤って解釈する
ものである。
イ被告は,「すなわち,刊行物1発明の1は,刊行物1発明の2の検出応答性
に着目して改良されたものであって,応答性以外のすべての面においても刊行物1
発明の1の安全装置が刊行物1発明の2の安全装置より優れているというわけでは
ない。」と主張するが,刊行物1には,そのような記載は全くない。
(3)ア仮に,刊行物1発明の1と刊行物1発明の2とを組み合わせることが容
易であったとしても,刊行物1発明の2に関して,相違点2に係る本願発明の特徴
である「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第2の駆動解除信
号を発生する」こと及びそれによる衝突の有効回避の効果は,刊行物1に開示も示
唆もされていない。
イなお,「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第2の駆動
解除信号を発生する」ことの意義については,前記1(2)における主張を援用する。
(4)以上からすると,当業者が,相違点2に係る本願発明の構成に容易に想到
し得るということはできない。
3取消事由3(相違点3についての判断の誤り)
審決は,相違点3について,「刊行物2発明は,ロボットにおいて,電流信号を
一定時間間隔で検出し,安全判断を繰り返し行うものである。」,「刊行物1発明
の1と刊行物2発明とは,ロボットの安全装置という同一技術分野に属するもので
あり,かつ刊行物2発明を組み合わせることで,一層の安全性向上が期待できるも
のであることから,両者を組み合わせることに困難性は認められない。」,「また,
これらによる効果も,格別のものではない。」と判断したが,以下のとおり,この
判断は誤りである。
(1)ア審決は,単に「ロボットの安全装置という同一技術分野に属するもの」
であるとして極端に広い技術分野で刊行物1発明の1及び刊行物2発明をくくるこ
とにより,非常に安易に刊行物2発明を刊行物1発明の1と組み合わせた結果,
「安全判断を繰り返し行う」ことが容易である旨判断しているが,本願発明の特徴
である「電力供給と電流供給のうちの少なくとも一方と対応した該当する基準値と
繰り返し比較する」という相違点3に係る具体的な技術的事項が,刊行物1発明の
1から容易に導かれることの具体的な動機付けを示していない。
イなお,被告は,「刊行物2発明が『安全判断を繰り返し行う』ものである」
旨主張するが,刊行物2には,「安全判断を繰り返し行う」ことは明記されていな
い。
(2)アまた,刊行物2には,「電力供給と電流供給のうちの少なくとも一方と
対応した該当する基準値と繰り返し比較する」ことは開示も示唆もされていない。
したがって,仮に,刊行物2発明を刊行物1発明の1に組み合わせることが容易で
あったとしても,組合せの結果として,「電力供給と電流供給のうちの少なくとも
一方と対応した該当する基準値と繰り返し比較する」ことに到達することはできな
い。
イなお,被告は,「刊行物1発明の1は,『基準値と比較する』ことにより安
全判断を行うものである」と主張するが,審決においては,そのような認定は全く
されておらず,被告の上記主張は,審決の認定とは異なる論理で本願発明の進歩性
を否定しようとするものである。
ウまた,被告は,「『繰り返し比較する』技術は,特開昭62−50906号
公報(乙4。以下『乙4公報』という。)及び特開昭61−61790号公報(乙
5。以下『乙5公報』という。)にみられるように周知であるから,かかる周知技
術に照らしても,『基準値と繰り返し比較する』ことが格別のものであるとはいえ
ない。」と主張するが,審決においては,「『繰り返し比較する』技術は周知であ
る」旨の認定は全くされておらず,被告の上記主張も,審決の認定とは異なる論理
で本願発明の進歩性を否定しようとするものである。
(3)他方,本願発明は,「電力供給と電流供給のうちの少なくとも一方と対応
した該当する基準値と繰り返し比較する」ことにより,対象物との衝突を更に有効
に回避することができるという効果を奏するところ,そのような効果は,審決が引
用する文献には開示も示唆もされていない。
(4)以上からすると,当業者が,相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到
し得たということはできない。
第4被告の反論の骨子
以下のとおり,相違点1ないし3についての審決の判断に誤りはない。
1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)に対して
(1)原告は,「審決は,・・・相違点1に係る本願発明の構成が容易に導かれ
ることの動機付けを示していない。」と主張するが,装置の人に対する安全の観点
からは,異常判断のみでなく,装置の停止が望ましいことは明らかであるところ,
審決には,「装置の異常を検出した場合には,装置の作動を停止させることが一般
的である」として,動機付けが示されている。
また,審決は,異常検出時に停止させることが一般的技術であることの例として,
周知例1を示した上で,安全性の一層の向上のため,装置を停止させることは設計
的事項であるとしたものである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2)原告は,「刊行物1及び周知例1には,相違点1に係る本願発明の特徴で
ある『該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第1の駆動解除信号
を発生する』ことにつき,開示も示唆もされていない。」と主張するが,以下のと
おり,失当である。
ア審決が引用した周知例1は,異常検出により装置を停止させるもの,すなわ
ち,「駆動」から「解除」されるものである。そして,停止させるためには,駆動
手段に対して,駆動から解除するための信号を発生する必要があることは,明らか
である。
イなお,請求項1にいう「駆動手段からの解除を制御する」の意義に関し,
「解除」とは,「ときのぞくこと。特別の処置をとりやめて,平常の状態にもどす
こと。」の意であるから(広辞苑),上記「駆動手段からの解除を制御する」とは,
「特別の処置」である「駆動」をとりやめて「平常の状態に戻すこと」,すなわち,
「停止のみ」を含むものであることは,文言上明確である。よって,発明の詳細な
説明の記載を参酌して,上記「駆動手段からの解除を制御する」ことが,「該当す
る構成部品」が「停止後に容易に動き得る」ことまでを含むと解釈する余地はない。
仮に,上記「駆動手段からの解除を制御する」ことが,「停止後に容易に動き得
る」ことまでを含むものであるとしても,安全の観点からは,装置の停止後,その
ままの状態で放置しておくことは,通常あり得ず,復旧作業を行うことが一般的で
ある。復旧,すなわち,元に戻すためには,停止後に逆方向に動き得るものが望ま
しいことは明らかであり,乙2公報にも記載されたとおり,ごく自然なことにすぎ
ない。
ウ上記のような一般的技術を踏まえると,相違点1に係る本願発明の構成は,
格別のものとはいえない。
(3)原告は,「審決は,『対象物との衝突による損害又は損傷を有効に回避す
ることができる』という本願発明が奏する重大な効果を看過したものである」旨主
張するが,以下のとおり,失当である。
ア上記(2)イにおいて主張したとおり,請求項1にいう「駆動手段からの解除
を制御する」ことが,発明の詳細な説明の記載を参酌して,「該当する構成部品」
が「停止後に容易に動き得る」ことまでを含むと解釈する余地はないから,原告が
主張する上記効果は,そもそも本願発明が奏するものではない。
イ原告が主張する上記効果は,本願明細書中の,実施例に関する記載を根拠と
するものにすぎない。
ウ本願明細書の記載によれば,原告が主張する上記効果は,あくまで「更に望
ましい一実施例」が奏するものである。
エ本件補正後の請求項2には,「該妨害に関与した構成部品が該妨害の反動に
より該妨害前の移動方向とは逆方向に移動するように前記駆動手段から解除する」
と明記されている一方で,請求項1には,「逆方向に移動する」旨の記載はない。
両請求項の記載の均衡からみて,本願発明は,「該妨害に関与した構成部品」が
「逆方向に移動する」ことまでは含まないと解するのが相当である。
オ仮に,本願発明が,原告が主張する上記効果を奏するものであるとしても,
上記(2)において主張したところによれば,当業者にとって明らかな効果であって,
格別のものとは認められない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対して
(1)原告は,「審決は,刊行物1発明の1と刊行物1発明の2とを組み合わせ
ることの動機付けを何ら示していない」旨主張するが,以下のとおり,失当である。
ア審決には,「安全の観点においては,一層の安全性向上のため,複数の安全
手段を併用することは広く行われている」との動機付けが示されている。
イまた,上記アの「複数の安全手段の併用」という点は,周知例2ないし4に
加え,株式会社技術評論社昭和54年10月20日発行の「トラブルフリーをめざ
す信頼性・保全性の考え方と進め方」と題する文献(乙3。以下「乙3文献」とい
う。)にもみられるように,周知の技術思想である。
ウそして,検出対象の異なる安全手段の併用により,一の安全手段に不具合が
生じた場合でも,他の安全手段により,安全が確保されるものである。
(2)原告は,「刊行物1発明の1に刊行物1発明の2を組み合わせることには
阻害要因が存在する」旨主張するが,以下のとおり,失当である。
ア刊行物1の記載によれば,位置偏差により異常動作を検出する従来の方法
(刊行物1発明の2)では,「サーボ系に異常が発生してから,ロボツト可動部の
位置が指令値どおりに動いていないことを検出するまで時間がかかり,サーボ系の
異常にともなうロボツト本体の暴走を応答よく防止できない」という問題があった
ので,それを解決するために,電流により,異常を速やかに検出する方法とした,
というのが刊行物1発明の1であるといえる。
すなわち,刊行物1発明の1は,刊行物1発明の2の検出応答性に着目して改良
されたものであって,応答性以外のすべての面においても刊行物1発明の1の安全
装置が刊行物1発明の2の安全装置より優れているというわけではない。
そして,刊行物1には,刊行物1発明の2が安全装置として無意味であるとは記
載されておらず,刊行物1発明の1と刊行物1発明の2が同時に成り立たない技術
的な理由もない。
イ原告は,刊行物1発明の1の目的が,位置偏差監視による方法を用いない点
にあるということを理由に,刊行物1発明の1と刊行物1発明の2との組合せに阻
害要因があると主張するものであるが,刊行物1には,刊行物1発明の1の目的が
位置偏差監視による方法を用いない点にあるとの記載は全くない。
また,刊行物1に記載された上記両発明は,検出対象を異にし,安全装置として
個別に成り立つものである。
ウそして,一層の安全性向上のため,複数の安全手段を併用することは,周知
例2ないし4及び乙3文献に記載のとおり,広く行われていることから,電流を検
出する刊行物1発明の1に,位置を検出する刊行物1発明の2を組み合わせること
に,阻害要因はない。
(3)原告は,「刊行物1発明の2に関して,相違点2に係る本願発明の特徴で
ある『該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第2の駆動解除信号
を発生する』こと及びそれによる衝突の有効回避の効果は,刊行物1に開示も示唆
もされていない。」と主張するが,以下のとおり,失当である。
ア「駆動手段からの解除を制御する」の意義については,前記1(2)イにおい
て主張したとおりである。
イそして,一層の安全性向上のため,複数の安全手段を併用するという周知技
術を踏まえ,検出対象を電流と位置の2つとした場合には,電流検出による駆動解
除信号の発生,位置検出による駆動解除信号の発生というように検出から信号発生
までの系統を二重系にすること,すなわち,位置についての安全手段が異常を検出
した場合,装置の作動を停止させるための第2の駆動解除信号を位置についての安
全手段から発生させることがより効果的であることは明らかである。
したがって,第2の駆動解除信号を発生させることは,必要に応じてなし得る設
計的事項にすぎない。
ウ第2の駆動解除信号による効果については,前記1(3)の主張を援用する。
3取消事由3(相違点3についての判断の誤り)に対して
(1)原告は,「審決は,・・・本願発明の特徴である『電力供給と電流供給の
うちの少なくとも一方と対応した該当する基準値と繰り返し比較する』という相違
点3に係る具体的な技術的事項が,刊行物1発明の1から容易に導かれることの具
体的な動機付けを示していない。」と主張するが,以下のとおり,失当である。
ア審決には,「刊行物1発明の1と刊行物2発明とは,ロボットの安全装置と
いう同一技術分野に属するものであり,かつ刊行物2発明を組み合わせることで,
一層の安全性向上が期待できる」として,動機付けが示されている。
イまた,安全監視については,ロボットの作動中,常時行うことが望ましいこ
とは明らかであるから,「安全判断を繰り返し行う」ものである刊行物2発明を刊
行物1発明の1に組み合わせることの動機付けは存在している。
(2)原告は,「刊行物2には,『電力供給と電流供給のうちの少なくとも一方
と対応した該当する基準値と繰り返し比較する』ことは開示も示唆もされていな
い。」と主張するが,以下のとおり,失当である。
ア審決は,刊行物2発明の「安全判断を繰り返し行う」という技術思想を,刊
行物1発明の1に組み合わせているものである。
イ刊行物1発明の1は,「基準値と比較する」ことにより安全判断を行うもの
であるから,刊行物2発明を刊行物1発明の1に組み合わせた結果,刊行物1発明
の1における安全判断において「安全判断を繰り返し行う」こととなり,おのずと
「基準値と繰り返し比較する」こととなる。
ウなお,ロボットの安全装置において,「繰り返し比較する」技術は,乙4公
報及び乙5公報にみられるように周知であるから,かかる周知技術に照らしても,
「基準値と繰り返し比較する」ことが格別のものであるとはいえない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1)請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件の
技術的意義について
ア(ア)請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件
の技術的意義については,原・被告間に前記のような技術的理解の相違があること
からも明らかなように,請求項1の記載自体からは,これが,「構成部品が駆動手
段からの接続を解かれて容易に動くことができる状態にすること」(原告の主張)
を意味するのか,単に「装置を停止させることのみ」(被告の主張)を意味するの
かにつき,これを一義的に明確に理解することはできないというべきである。
(イ)被告は,広辞苑の記載内容を引用し,請求項1中の「該当する構成部品の
前記駆動手段からの解除」との要件が「装置を停止させること」を意味することは
文言上明確である旨主張するが,広辞苑の「解除」についての「ときのぞくこと。
特別の処置をとりやめて,平常の状態に戻すこと。」との語義自体からみても原告
の上記主張のような理解を一義的に排除し得るものと即断することは困難であり,
一般的・汎用的な国語辞典の記載をもって,本願発明が属する技術分野(X線検査
装置,産業用ロボット等)における「構成部品」(例えば,X線検査装置のC型キ
ャリヤ)が「駆動手段」(例えば,モータ)から「解除」されることの技術的意義
を一義的に明確に定義し得るものとは到底認め難いから,被告の上記主張を採用す
ることはできない。
イそこで,以下,本願明細書中の発明の詳細な説明の記載を参酌して,請求項
1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件の技術的意義につ
き検討することとする。
(ア)本願明細書中の発明の詳細な説明のうち,関連する記載は,以下のとおり
である。
a「【従来の技術】
・・・従来のX線検査装置の構成部分間の衝突を回避することを目的とする。従って,従来
のX線装置により検査される患者は,X線装置の構成部分である診察台から十分に大きな安全
距離が設けられている時にだけ,前記X線検査装置の構成部分との衝突を被ることからは保護
される。・・・従って,X線画像増倍装置の入力画面は患者から少なくとも安全距離だけ離さ
れなければならないので,X線画像増倍装置によりつくられるX線画像の空間解像度には妥協
がなされる。」(段落【0002】)
b「【発明が解決しようとする課題】
本発明は,特に,装置の構成部分相互,又は,かかる構成部分と,検査される患者或いは装
置の構成部分の到達範囲内にいる人間との自由な接近を可能とする衝突防止配置から成るX線
検査装置又は産業用ロボットのような装置を提供することを目的とする。」(段落【000
3】)
c「【課題を解決するための手段】
上記目的は,駆動手段に供給される電力及び/又は電流の値を決定する電力及び/又は電流
測定手段と,駆動手段に供給される電力及び/又は電流の決定された値を供給される電力及び
/又は電流の基準値と比較し駆動手段からの当該構成部品の解除を制御する第1の駆動解除信
号を発生する比較手段とから成る衝突防止用配置を特徴とする本発明による装置において達成
される。」(段落【0004】)
d「X線装置のいずれかの構成部分と他の物,例えばX線装置の別の構成部分又は検査され
る患者との衝突が起きたとすると,衝突した構成部分の動きは付加抵抗を受け,従って,駆動
手段に必要な電力供給が基準値を超えて増加する。必要な電力供給を検出し,引き続き当該基
準値と比較して衝突する構成部分の動きを阻止する第1の駆動解除信号を発生し,かくして,
衝突による損害又は損傷を回避する。」(段落【0005】)
e「本発明による装置の望ましい一実施例は,衝突防止配置が駆動手段に供給された電流を
測定する電流測定手段と,駆動手段に供給された電流測定値と供給された電流用の当該基準値
とを比較し駆動手段からの当該構成部分の解除を制御する第1の駆動解除信号を発生する電流
比較手段とから成ることを特徴とする。
・・・。X線装置のいずれかの構成部分と他の物,例えばX線装置の別の構成部分又はX線
検査装置の場合には検査される患者との衝突が起きたとすると,衝突した構成部分の動きは付
加抵抗を受け,従って,駆動手段に必要な電流供給が基準値を超えて増加する。供給された電
流を測定し,引き続き当該基準値と比較して,衝突する構成部分の動きを阻止する第1の駆動
解除信号を発生し,かくして,衝突による損害又は損傷を回避する。」(段落【0006】)
f「本発明による装置の更なる望ましい一実施例は,衝突防止用配置が,装置の構成部分の
位置を検出する位置検出手段と,構成部分の予測位置を算出する計算手段と,検出位置と予測
位置との差を決定し駆動手段からの当該構成部分の解除を制御する第2の駆動解除信号を発生
する位置比較手段とから成ることを特徴とする。」(段落【0008】)
g「装置の構成部分の実際の位置とその構成部分の予測位置との比較により,その構成部分
の動きが妨げられたか否かが厳密に決定される。実際の位置が予測位置から所定閾値を超えて
離れ,その上,駆動手段に供給される電流及び/又は電力が当該基準値を超える場合に,解除
信号が発生させられて衝突防止が実施される。」(段落【0009】)
h「本発明による装置の更なる望ましい一実施例は,衝突防止用配置が,第1及び第2の駆
動解除信号が供給され,駆動手段からの当該構成部分の解除を制御する第3の駆動解除信号を
第1及び第2の駆動解除信号に応じて発生するよう配置された信号処理手段から成ることを特
徴とする。
装置の構成部分のさらに良い妨害検出方法は,駆動手段への電流及び/又は電力供給と基準
値を比較し,それに組み合わせて,この構成部分の検出位置と対応する予測位置を比較するこ
とから成る。第1の駆動解除信号と第2の駆動解除信号とを夫々に生ずる,電流及び/又は電
力比較と,位置比較との両方の利用は,妨害及び衝突の切迫を信頼性よく検出する。もし第1
及び第2の駆動解除信号が共に衝突の切迫を示すならば,駆動手段を解除するよう第3の解除
信号が供給される。」(段落【0010】)
i「本発明による装置の更なる望ましい一実施例は,ブレーキを有し,衝突防止用配置は,
当該駆動解除信号を受けるよう配置され,駆動解除信号を受けた後所定の時間後にブレーキを
作動させるようブレーキ作動信号をブレーキ作動手段に供給する信号処理手段とから成ること
を特徴とする。
バランスのとれた装置の構成部分は,容易に動きうる。本発明により,さらにバランスのと
れた装置の構成部分が,装置の別の構成部分又はX線検査装置の場合には検査される患者によ
り不所望に妨害された場合には,妨害に関与した構成部分は,衝突防止配置により駆動手段か
ら解除され,さらに,衝突に関与した構成部分は,衝突に続く反動により衝突前の移動方向と
は反対の方向に動く。衝突に関与した構成部分を解除する解除信号を発生した後所定の時間後
に,ブレーキを作動するようブレーキ作動信号が発生され,患者と別の構成部分のいずれもが
妨害されない位置に(X線検査)装置の当該構成部分を停止する。」(段落【0011】)
j「例えば,溶接用又は部品置換用産業用ロボット,或いは自動マニピュレータは,駆動手
段により駆動される動きうる構成部分から屢々成る。・・・。本発明による望ましい産業用ロ
ボットは,駆動手段に供給される電流及び/又は電力の値を決定する電流及び/又は電力測定
手段と,駆動手段に供給される電流及び/又は電力の決定された値を基準値と比較し駆動手段
からの当該構成部分の解除を制御する第1の駆動解除信号を発生する比較手段とから成る衝突
防止用配置により構成される。」(段落【0015】)
k「X線検査装置は,駆動手段により駆動される動きうる構成部分から屢々成る。・・・。
患者への安全性を達成し,部品の衝突によるX線装置への損傷を回避するために,本発明によ
るX線検査装置は,駆動手段に供給される少なくとも一の電流及び/又は電力の値を決定する
電流及び/又は電力測定手段と,駆動手段に供給される電流及び/又は電力の決定された値を
少なくとも一の基準値と比較し駆動手段からの当該構成部分の解除を制御する第1の駆動解除
信号を発生する比較手段とから成る衝突防止用配置により構成される。」(段落【001
6】)
l「【実施例】
以下に説明する実施例と添付図面とを参照して,本発明の様々な面が明らかとなる。
図1はX線検査装置を示し,C型キャリヤ1が・・・サポート2に取り付けられ,X線源5
とX線検出器6とを支持する。X線検査装置の構成部分,例えばC型キャリヤ1とX線検出器
6は,X線検査装置に組み入れられた駆動手段9により移動させられ,上記構成部分の位置を
保持するためにブレーキ10が設けられる。・・・。X線検査装置は,・・・カウンタウェイ
ト7が設けられて,バランスがとられている。C型キャリヤ1はスリーブ3の中を動かされ,
スリーブ3は,A軸の周りに回転させられ,その結果,中央放射線路8を傾斜させる。X線検
査装置はバランスが取られているので,駆動手段9として,比較的弱電流を必要とする低電力
電動モータが利用される。」(段落【0018】)
m「本発明によるX線検査装置に設けられた衝突防止用配置50を次に説明する。X線検査
装置に組み入れられた駆動手段9によりX線検査装置の別の構成部分を動かすために必要な電
流供給は,・・・電流測定手段21により測定される。駆動手段9は,通常は一定の電圧か,
又は少なくとも既知の電圧で動作させられるので,電流測定手段21は駆動手段9に供給され
る電力を決定する決定手段としての役割を効果的に果たす。正常動作時,即ち,妨害或いは衝
突がない場合に,駆動手段9に必要な電流供給用基準値は,・・・記憶手段22から得られる。
比較手段23により,X線検査装置の構成部分を動かすときに必要な供給電流が基準値と比較
される。必要な電流供給が対応する基準値を超えるならば,第1の駆動解除信号が論理ユニッ
トの形をとる信号処理手段43に与えられる。」(段落【0019】)
n「X線検査装置の構成部分の実際の位置は,位置検出手段40により検出される。移動制
御部26に接続される計算手段41を利用して,X線検査装置の構成部分の予測位置が算出さ
れる。X線検査装置の構成部分を開始位置から最終位置まで動かすよう移動制御部26から駆
動手段9に命令が与えられた後,繰り返し実際の位置が位置検出手段40により検出され,予
測位置が計算手段41により算出される。実際の位置と対応する予測位置とが位置比較手段4
2により比較される。位置検出手段により検出される実際の位置と対応する予測位置との差が
所定の値を超えると,第2の駆動解除信号が論理ユニット43に供給される。」(段落【00
20】)
o「構成部分の動きが妨害されると,実際の位置と予測位置との差が所定の閾値を超え,実
質上同時に,駆動手段9に対する必要な電流が基準値を超える。このような状況では,実質上
同時に,第1及び第2の駆動解除信号が論理ユニット43に供給される。続いて,論理ユニッ
ト43により移動停止信号が移動制御手段を停止するために移動停止制御手段24に供給され,
第3の駆動解除信号が駆動手段9を解除するために駆動解除/作動手段25に供給され,時間
遅延作動信号がブレーキを作動させるためにブレーキ解除/作動手段44に供給される。今度
は駆動解除/作動手段25により当該構成部分が駆動手段9から解除され,本発明によるX線
検査装置はバランスがとられ,従って容易に動くことができ,妨害発生によって生ずる反動に
より当該構成部分は逆方向に動く。ある所定の短時間・・・後,時間遅延信号とブレーキによ
り作動されるブレーキ解除/作動手段44が作動され,その結果,当該構成部分は他の構成部
分と患者のいずれもが妨害されないような位置に停止させられる。その上,妨害が極端な衝撃
には至らず,検査される患者への損害又は損傷が回避される。前記の移動停止信号は,制御台
27に組み入れられた移動制御部26に供給される。その結果,制御台27に取り付けられた
・・・移動制御手段28が移動制御から解除される。上記移動制御手段28がX線装置を操作
する人間により解除された後,起動信号が起動回路手段29に供給される。続いて,上記起動
回路手段29は起動回路手段29により発生される起動信号を利用して移動制御部26を再起
動する。妨害の原因が取り除かれた後,検査過程の継続が可能となり,X線装置の構成部分の
動きを制御台27により行うことができる。」(段落【0021】)
また,図1には,①必要な電流供給が対応する基準値を超えた場合に,第1の駆
動解除信号が比較手段23から信号処理手段43に供給される様子が,②位置検出
手段40により検出される実際の位置と計算手段41により算出される対応する予
測位置との差が所定の値を超えた場合に,第2の駆動解除信号が位置比較手段42
から信号処理手段43に供給される様子が,③続いて,移動制御手段28を停止す
るための移動停止信号が信号処理手段43から移動停止手段24に供給された上,
移動停止手段24から移動制御部26に供給される様子が,駆動手段9を解除する
ための第3の駆動解除信号が信号処理手段43から駆動解除/作動手段25に供給
される様子が,ブレーキ10を作動させるための時間遅延作動信号が信号処理手段
43からブレーキ解除/作動手段44に供給される様子が,④次いで,構成部分が
容易に動く状態になるように当該構成部分を駆動手段9から解除するための信号が
駆動解除/作動手段25から駆動手段9に供給される様子が,⑤次いで,ブレーキ
10を作動させるための信号がブレーキ解除/作動手段44からブレーキ10に供
給される様子が,それぞれ矢印で示されている。
(イ)上記(ア)(a,b)の各記載によれば,従来のX線検査装置等においては,
検査対象物との衝突防止装置が検査対象物との間に一定の安全距離を置くことを必
要としていたのに対し,本願発明においては,X線検査装置等と検査対象物との自
由な接近を可能とする衝突防止装置の提供を技術的課題としたものである。そして,
同cないしoの各記載及び図1によれば,本願発明の第1の駆動解除信号及び第2
の駆動解除信号は,ともに,(a)移動制御手段28を停止するための移動停止信号
が,信号処理手段43から移動停止手段24を介して移動制御部26に供給される
前提として,(b)構成部分が容易に動く状態になるように当該構成部分を駆動手段
9から解除するための信号が駆動解除/作動手段25から駆動手段9に供給される
前提となる第3の駆動解除信号が,信号処理手段43から駆動解除/作動手段25
に供給される前提として,(c)ブレーキ10を作動させるための信号がブレーキ解
除/作動手段44からブレーキ10に供給される前提となる時間遅延作動信号が,
信号処理手段43からブレーキ解除/作動手段44に供給される前提として,それ
ぞれ,信号処理手段43に供給される信号であるといえる。
そして,請求項1の記載によれば,第1の駆動解除信号は,「該当する構成部品
の前記駆動手段からの解除を制御する」ものであるところ,上記のとおり,第1の
駆動解除信号は,上記(a)ないし(c)の各信号供給の前提としてそれぞれ供給される
ものであるから,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」と
の要件は,上記(a)ないし(c)の内容を意味するものと理解することができる。
そうすると,上記(a)ないし(c)の内容及び本願発明が検査対象物等との自由な接
近を可能とするX線検査装置等における衝突防止装置の構成を技術的課題としてい
ることに照らし,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」と
の要件は,原告が主張するとおり,「構成部品が駆動手段からの接続を解かれて容
易に動くことができる状態にすること」を意味するものと理解するのが相当である。
なお,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件の
文言に照らせば,同要件が,後記(2)イにおいて検討する乙2公報に記載されたよ
うな,単に「モータフリーの状態(モータへの電力供給が遮断されることに伴い,
モータが外力により任意に動き得る状態)にすること」を意味するものと理解する
ことはできないというべきである。
(2)審決の判断について
ア(ア)前記第2の3のとおり,審決は,本願発明と刊行物1発明の1との相違
点1を「本願発明は,比較手段は,該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を
制御する第1の駆動解除信号を発生するが,刊行物1発明の1は,サーボ異常は検
出しているが,駆動解除しているかは不明である。」と認定した上,同相違点につ
いて,「装置の異常を検出した場合には,装置の作動を停止させることが一般的で
ある(例えば,刊行物1,周知例1)から,この点に格別の技術的意義を見いだす
ことはできず,設計的事項にすぎない。」と判断したものである。
(イ)審決の上記認定判断によれば,審決は,その認定した相違点にいう「該当
する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第1の駆動解除信号を発生す
る」こと及び「駆動解除」を「装置の作動を停止させること」と限定的に理解し,
その点(「装置の作動を停止させること」)についてのみ,「格別の技術的意義を
見いだすことはできず,設計的事項にすぎない」と判断したものと解されるところ,
上記(1)において説示したとおり,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手
段からの解除」との要件は,「構成部品が駆動手段からの接続を解かれて容易に動
くことができる状態にすること」を意味するものであるから,審決には,相違点1
について,判断を遺脱した違法があるものといわざるを得ない。
イ(ア)被告は,「仮に,請求項1中の『該当する構成部品の前記駆動手段から
の解除』との要件が,『停止後に容易に動き得る』ことまでを含むものであるとし
ても,安全の観点からは,装置の停止後,そのままの状態で放置しておくことは,
通常あり得ず,復旧作業を行うことが一般的である。復旧,すなわち,元に戻すた
めには,停止後に逆方向に動き得るものが望ましいことは明らかであり,乙2公報
にも記載されたとおり,ごく自然なことにすぎない」旨主張するので,以下,検討
する。
(イ)「産業用ロボットの制御装置」と称する発明に関する乙2公報には,以下
の各記載が存在する。
a「〔従来の技術〕
第5図はロボットアームをサーボ制御するための従来の産業用ロボットの制御装置のブロッ
ク図である。」(1頁右欄9∼12行)
b「・・・サーボアンプ1′は,・・・つぎのような機能を有している。すなわち,電流検
出器6から出力される電流検出値Ia・・・を常時監視していて,予め設定した電流設定値・
・・を超えた場合のみ,遮断器2に対しモータフリー制御信号を送るという異常検出処理を行
う。遮断器2にモータフリー制御信号が与えられると,遮断器2は,サーボアンプ1からサー
ボモータ3への電流供給路を遮断し,サーボモータ3をフリー状態にする。
このようにモータフリー状態になるのは,従来の産業用ロボットの制御装置の場合には,ロ
ボットアーム5に異常な負荷が加わったとき・・・であり,このときに上記したように電流検
出値Iaが電流設定値を超え,モータフリー状態となる。」(2頁左上欄6行∼右上欄5行)
c「・・・この発明の目的は,ロボットアームに過大なトルクが加わる異常の発生時にサー
ボモータを速やかにフリー状態にすることができる産業用ロボットの制御装置を提供すること
である。」(2頁左下欄1∼4行)
d「・・・ロボットアームに異常が生じた場合に直ちに異常が検知されて比較器から遮断器
にモータフリー制御信号が送られ,遮断器が遮断してサーボモータがフリー状態となる。」
(2頁右下欄5∼9行)
e「第1図はこの発明の一実施例の構成を示すブロック図である。
同図において,・・・2は異常時にサーボモータ3への入力電圧を遮断する遮断器・・・で
ある。・・・10は・・・負荷トルク推定値・・・と・・・加速度推定値・・・とを比較する
比較器で,負荷トルク推定値・・・と加速度推定値・・・との差の絶対値・・・が所定値・・
・より大きいときに異常発生とみなして,遮断器2に対してモータフリー制御信号を与え
る。」(2頁右下欄20行∼3頁左上欄17行)
f「・・・比較器10は,・・・負荷トルク推定値・・・と・・・加速度推定値・・・との
差をとり,その絶対値・・・を求め,これが・・・所定値・・・より大きい値になった場合に,
遮断器2に対してモータフリー制御信号を出力するものである。」(4頁左上欄最終行∼右上
欄6行)
g「この実施例の産業用ロボットの制御装置は,・・・比較器10で・・・加速度推定値・
・・と・・・負荷トルク推定値・・・とを常時比較しそれらの差の絶対値・・・が所定値・・
・より大きいときにモータフリー制御信号を発生し,このモータフリー制御信号で遮断器2を
遮断させるようにしているので,つぎのような効果を奏する。
①・・・過大な負荷が加わる前に,速やかに異常検出処理を行い,直ちにサーボモータ3を
フリー状態にすることができ・・・る。」(4頁左下欄5行∼右下欄4行)
h「〔発明の効果〕
この発明の産業用ロボットの制御装置によれば,・・・各々の加速度推定値および負荷トル
ク推定値の比較結果に基づいてモータフリー制御信号を発生して遮断器に与えるようにしたの
で,・・・過大な負荷が加わる前に,異常を検出してサーボモータをフリー状態にすることが
でき,この結果ロボットアームや減速器の破損を未然に防止することができる。」(4頁右下
欄10行∼5頁1行)
また,第1図には,モータフリー制御信号が比較器10から遮断器2に供給され,
遮断器2がサーボモータ3への入力電圧を遮断する様子が,第5図には,モータフ
リー制御信号がサーボアンプ1′から遮断器2に供給され,遮断器2がサーボアン
プ1′からサーボモータ3への電流供給路を遮断する様子が,それぞれ矢印で示さ
れている。
(ウ)上記(イ)の各記載及び図示によれば,乙2公報には,異常が発生したとき
(従来技術においては,電流検出器から出力される電流検出値があらかじめ設定し
た電流設定値を超えたとき,乙2公報にいう「この発明」においては,負荷トルク
推定値と加速度推定値との差の絶対値が所定値を超えたとき)に,モータフリー制
御信号が遮断器に供給され,次いで,遮断器がサーボモータへの電力供給を遮断し,
これにより,サーボモータをいわゆるモータフリーの状態にするとの構成が開示さ
れているといえる。
しかしながら,乙2公報に開示された上記のサーボモータへの電力供給を遮断し,
モータフリー状態にする構成は,前記(1)において説示した本願発明の構成とは技
術的に異なるものであるといわざるを得ないから,乙2公報に上記構成が開示され
ているからといって,当業者が,相違点1に係る本願発明の構成に容易に想到する
ことができたものと認めることはできない。
(エ)また,仮に,被告が主張するように,「安全の観点からは,・・・停止後
に逆方向に動き得るものが望ましいことは明らかであり,・・・ごく自然なことに
すぎない」ということが一般的にいえるとしても,そのためにどのような技術的構
成を具体的に採用するかが問題なのであるから,そのような一般論をもって,当業
者が,相違点1に係る本願発明の構成に容易に想到することができたものと認める
ことはできず,その他,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
ウ以上のとおり,審決には,相違点1の判断に当たり,同相違点に係る本願発
明の構成の技術的内容の把握を誤った結果,必要な判断を遺脱した違法があり,こ
れが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,同相違点についての判断
の誤りをいう取消事由1は,理由があるというべきである。
2結論
よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は違法であり,取
消しを免れないから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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