弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について。
 論旨(1)は、本件B健康保険条例の無効を主張する。しかし、原判決は、挙示
の証拠により被控訴人(被上告人)が昭和二三年法律七〇号による国民健康保険法
の大改正に伴い、昭和二三年一〇月三〇日B議会に同町国民健康保険条例案を提出
し、B会議員二六名中出席議員二〇名の全員一致を以て右条例案が可決せられ、次
で県知事の認可を受け、国民健康保険事業を実施するに至つた事実を認定し、所論
B会議員D及びEが右議会の議決に欠席して加わらなかつたとの主張事実を認める
に足りる証拠がない旨説示している。そして、右証拠によれば、右の認定、説示を
首肯することができる。されば、本件条例は、町議会の議決により制定せられた適
法のものであつて、公聴会が開かれなかつたとか、町民の大多数の反対を無視して
なされたとかいうだけの理由でこれを無効とすべき何等の根拠もないとの原判決の
判断は正当であつて、所論は、その理由がない。
 論旨(2)は、本件県知事の認可は、未だ議決もない事項についてなされた無効
のものである旨主張する。しかし、原判決は、原審証人Fの証言によつて、昭和二
三年一〇月三〇日B議会において、本件条例が可決され、その後同年一一月二日頃
県知事が認可し、たゞ認可の日を遡らしめたに過ぎないものである旨認定し、その
認定は、右証言に照しこれを肯認することができるから、所論無効の主張は、その
前提を欠き採るを得ない。
 論旨(3)は、元来国民健康保険制度は、幾多の不備、欠陥を包蔵し住民を強制
してその加入を求むべき性質のものではないのにB条例は、その加入を強制し、更
に保険料と称して国民の財産権を侵害しているから、該条例は、憲法一九条、二九
条一項、九八条に違反する旨主張する。しかし、国民健康保険は、相扶共済の精神
に則り、国民の疾病、負傷、分娩又は死亡に関し保険給付をすることを目的とする
ものであつて、その目的とするところは、国民の健康を保持、増進しその生活を安
定せしめ以て公共の福祉に資せんとするものであること明白であるから、その保険
給付を受ける被保険者は、なるべく保険事故を生ずべき者の全部とすべきことむし
ろ当然であり、また、相扶共済の保険の性質上保険事故により生ずる個人の経済的
損害を加入者相互において分担すべきものであることも論を待たない。されば、本
件のごとく、町民の代表者たる町議会が絶対過半数を以て決議し、県知事の認可を
受けて適法に制定されたB国民健康保険条例五条が、この町は、この町内の世帯主
及びその世帯に属する者を以て被保険者とする(但し左に掲げる者を除く。一、健
康保険の被保険者及び船員保険の被保険者但し船員保険法二〇条一項の規定による
被保険者はこの限りでない。二、法律の規定に基いて組織する共済組合であつて私
傷病につき療養に関する給付をするものの組合員。三、貧困のため地方税の免除を
受ける者並にこの世帯に属する者。)と規定し原則として住民全部を被保険者とし
て国民健康保険にいわゆる強制加入せしめることとし、また、同条例三一条が、世
帯主である被保険者は、町民税の賦課等級により保険料を納付しなければならない
と規定して、被保険者中保険料支払の能力ありと認められる世帯主だけを町民税の
賦課等級により保険料支払義務ある旨規定したからといつて、憲法一九条に何等か
かわりないのは勿論、その他の憲法上の自由権および同法二九条一項所定の財産権
を故なく侵害するものということはできない。それ故、所論違憲の主張は、採るを
得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致の意見で主文のと
おり判決する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一

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