弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 被上告人が平成10年11月25日にした上告人の平成9年分の所得税の更正
のうち総所得金額3296万9202円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決
定を取り消す。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人堀口磊藏,同古田茂の上告受理申立て理由(6を除く。)について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人の父は,昭和63年11月18日,D開発株式会社に対し,代金1
200万円を支払って,同社の経営するゴルフクラブの会員権(以下「本件会員権」
という。)を取得し,同ゴルフクラブの正会員となった。
 (2) 上告人は,平成5年7月1日,その父から本件会員権の贈与を受け,同社
に対し,名義書換手数料82万4000円(以下「本件手数料」という。)を支払
って,上記ゴルフクラブの正会員となった。
 (3) 上告人は,平成9年4月3日,株式会社Eに対し,本件会員権を代金10
0万円で譲渡した。
 (4) 上告人は,平成10年3月3日,被上告人に対し,同9年分の所得税につ
いて総所得金額を3296万9202円とする申告をしたが,本件会員権の上記(3
)の譲渡に係る所得金額(以下「本件譲渡所得金額」という。)の計算において,
上記(1)の代金1200万円及び本件手数料82万4000円の合計1282万4
000円を資産の取得費として,上記(3)の代金100万円を総収入金額として,
それぞれ計上し,その差額の1182万4000円を総合課税の対象となる所得税
法(以下「法」という。)33条3項2号所定のいわゆる長期譲渡所得の金額の計
算上生じた損失の金額としていた。
 (5) 被上告人は,平成10年11月25日,本件譲渡所得金額の計算において
本件手数料82万4000円を資産の取得費として認めることはできず,上記損失
の金額は1100万円になるとして,上告人に対し,同9年分の所得税について総
所得金額を3379万3202円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過
少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件更正のうち総所得金額3296万
9202円を超える部分及び本件賦課決定の取消しを求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判示して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 (1) 法60条1項は,贈与等により資産を取得した者が当該資産を譲渡した場
合における譲渡所得の金額の計算において「その者が引き続きこれを所有していた
ものとみなす」という強い表現を使用しており,その規定の趣旨からしても,受贈
者が所有する資産についての譲渡所得課税においては,贈与の前後を通じて受贈者
が引き続き当該資産を所有していたとみなされるのであるから,譲渡所得金額の算
定に当たり,中間の贈与の事実はなかったものと扱うほかなく,受贈者が自己への
所有権移転のために支払った費用があったとしても,無視せざるを得ない。
 本件譲渡所得金額の計算においては,上告人が父から本件会員権の贈与を受けた
事実も,その際に上告人が本件手数料を支払った事実もなかったとみなすことにな
るから,本件手数料は法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たらな
い。
 (2) 本件手数料は,法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たら
ない。
 4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
 (1) 譲渡所得の金額について,法は,総収入金額から資産の取得費及び譲渡に
要した費用を控除するものとし(33条3項),上記の資産の取得費は,別段の定
めがあるものを除き,その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の
合計額としている(38条1項)。この譲渡所得に対する課税は,資産の値上がり
によりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配
を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである(最高
裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26
巻10号2083頁,最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小
法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。そして,上記「資産の取得に要した金
額」には,当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか,当該資産を取
得するための付随費用の額も含まれると解される(最高裁昭和61年(行ツ)第1
15号平成4年7月14日第三小法廷判決・民集46巻5号492頁参照)。
 他方,法60条1項は,居住者が同項1号所定の贈与,相続(限定承認に係るも
のを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得
した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算について,その者が引き続
き当該資産を所有していたものとみなす旨を定めている。上記の譲渡所得課税の趣
旨からすれば,贈与,相続又は遺贈であっても,当該資産についてその時における
価額に相当する金額により譲渡があったものとみなして譲渡所得課税がされるべき
ところ(法59条1項参照),法60条1項1号所定の贈与等にあっては,その時
点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため,その時点における譲渡所得課税
について納税者の納得を得難いことから,これを留保し,その後受贈者等が資産を
譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した時点において,これを清算
して課税することとしたものである。同項の規定により,受贈者の譲渡所得の金額
の計算においては,贈与者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ,課
税を繰り延べられた贈与者の資産の保有期間に係る増加益も含めて受贈者に課税さ
れるとともに,贈与者の資産の取得の時期も引き継がれる結果,資産の保有期間(
法33条3項1号,2号参照)については,贈与者と受贈者の保有期間が通算され
ることとなる。
 このように,法60条1項の規定の本旨は,増加益に対する課税の繰延べにある
から,この規定は,受贈者の譲渡所得の金額の計算において,受贈者の資産の保有
期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて
所得として把握することを予定していないというべきである。そして,受贈者が贈
与者から資産を取得するための付随費用の額は,受贈者の資産の保有期間に係る増
加益の計算において,「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金
額から控除されるべき性質のものである。そうすると,【要旨】上記付随費用の額
は,法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に
要した金額」に当たると解すべきである。
(2) 前記事実関係によれば,本件手数料は,上告人が本件会員権を取得するため
の付随費用に当たるものであり,上告人の本件会員権の保有期間に係る増加益の計
算において「資産の取得に要した金額」として収入金額から控除されるべき性質の
ものということができる。したがって,本件譲渡所得金額は,本件手数料が「資産
の取得に要した金額」に当たるものとして,これを計算すべきである。
 そうすると,上告人の平成9年分の所得税については,総合課税の対象となる長
期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額が1182万4000円となり,総所
得金額が3296万9202円となるから,本件更正のうちこの総所得金額を超え
る部分及び本件賦課決定は違法である。
 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人の請求に
は理由があるから,第1審判決を取り消して,同請求を認容することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田
宙靖)

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