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裁判例


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       主   文
本件申立を却下する。
       理   由
一 本件申立の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。
二 本件の申立人である中央労働委員会(以下、中労委という。)が、昭和五四年
一二月一九日付でなした、不当労働行為救済申立事件についての再審査申立人オリ
エンタルモーター株式会社(以下、単に会社ということがある。)と、再審査被申
立人総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会(以下、単に分会と
いうことがある。)との間の再審査主文は、当初、茨城県地方労働委員会が発付し
た「被申立人オリエンタルモーター株式会社は申立人総評全国金属労働組合茨城地
方本部オリエンタル土浦分会に対し、同分会組合事務所貸与の件に関して、土浦事
業所長とともに、速やかに誠意のある団体交渉を行わなければならない。その余の
申立ては棄却する。」との命令(昭和五二年一二月二四日発付)に対して
「一 初審命令主文第一項を次のとおり変更する。
 オリエンタルモーター株式会社は、総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエン
タル土浦分会と、同分会組合事務所貸与の件に関して、速やかに誠意ある団体交渉
を行わなければならない。
二 その余の本件再審査申立てを棄却する。」
 旨の言渡しをなし、その認定の理由は、別紙命令書理由記載のとおりである。
三 そこで検討する。
(一) 中労委が本件について認定した事実は、別紙命令書の理由中「当委員会の
認定した事実」の欄記載のとおり(年月に二、三混乱が認められる。)である。
(二) そして、中労委は、右の認定事実を前提として、会社が分会に対して、昭
和五一年二月六日以降、右分会が単独で行つた団体交渉の申入れに応じないことを
もつて、不当労働行為であると判断しており、その判断の根拠は次のように要約す
ることができる。すなわち、
(1) 分会は、昭和五一年二月六日及び同月一二日、会社に対し、単独で、組合
事務所の設置場所に関して、団交申入れをし、その申入れの事情について、何ら説
明をしていないが、総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部(以下、
支部という。)から、既に会社に対し、土浦における組合事務所の設置場所につい
ては、事務所ごとの交渉に委ねたいとして、その理由を説明しており、右事務所の
設置については、会社と支部との間での団体交渉事項として残されたものは、設置
の場所と、その広さの問題だけであるから、これを直接使用することになる分会
が、あらためて団交の申入れをすることは当然であること。
(2) 会社が、分会の団交申入れを支部の申入れと二重の申入れに該当すると考
えたとすれば、会社は、そのことを分会に告げ、直接質して確認することができた
のに、分会とは全く交渉していないこと。
(3) また、組合事務所の貸与については、会社、支部間の交渉により基本的に
了解されており、場所と広さの点だけが未解決なのであるから、この点について、
支部交渉とするか分会交渉とするかの振り分け方については、会社は支部もしくは
分会と交渉を行うべきであるのに、これをせず、分会との団交を拒否しているこ
と。
以上の三点を主要な理由として、会社が分会の昭和五一年二月六日以降、単独で行
つた団交申入れに対して、これを拒否していることをもつて、不当労働行為である
と判断している。
四 提出された疎明によれば、以下の事実が一応認められる。
(一)(1) 昭和五〇年五月一五日に開催された会社、支部間の第一回団体交渉
において、「会社は、現時点で、支部を唯一の労働組合と認め、団体交渉権を認め
る。」旨、双方で相互に確認し、組合事務所を豊四季、土浦の各事業所に一か所ず
つ設置することについても、基本的に了解がなされた。その後の会社、支部間にお
ける組合事務所の設置、貸与をめぐる交渉は、概ね前記命令書の認定事実(当委員
会の認定した事実)記載のような経過により行われたが、分会は、同五〇年一二月
二二日付の文書(疎乙第四号証)により、会社に対し、同五〇年一一月二一日、総
評全国金属労働組合茨城地方本部に加入した旨通知し、同五一年二月六日からは、
分会執行委員長名義で会社及び土浦事業所の事業所長に対し、分会組合事務所の設
置に関して、団交の申入れをなすに至つたこと(なお、同五〇年九月一六日付の会
社に対する「土浦分会組合事務所設置場所について」と題する要求書(疎乙第一号
証)は、「千葉地方本部オリエンタル支部執行委員長」と「同土浦分会代表」の名
義による連名によつて提出されており、さらに分会が正式に労働組合として発足し
た以降の同五〇年一〇月九日付の団交申入書(疎乙第二号証の一)は、支部と分会
の各執行委員長の連名で出されている。それ以前の会社に対する団交申入れ等は、
全て支部執行委員長名義でなされ、分会の代表者等が表示されたことはなかつたこ
とが一応認められる。)。その後も、支部は、分会とは別個に会社に対して、「組
合事務所設置の件」等を議題とする団交を、数回にわたつて申入れていること。
(2) その後、分会は、同五一年一〇月四日付の文書(疎乙第七号証の一)で、
会社に対し、分会名称を総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会
と改称した旨、通知したこと。会社は、これに関して、同五二年七月五日に支部と
の間に開催された団交において、支部に対し、土浦事務所の問題は、従来、支部と
交渉してきたのであり、分会が同支部と別個であれば、その問題は白紙となるの
で、分会の性格、位置づけを明確にして貰いたい旨述べ、同月七日の団交において
も、分会が同支部と別個のものであれば、土浦事務所問題は白紙還元となり、改め
て貸与の許否からの交渉になる旨、支部に述べていること。
(3) 同五〇年一〇月六日付で、支部から会社に対して提出された種々の労働条
件に関する要求書(疎乙第一一号証の一ないし五)においては、土浦分会及び会社
の他の事業所に設けられた同支部の下部組織である高松、豊四季の各分会の要求も
含まれており、支部の組合事務所設置に関して、当初から土浦事業所と共にその設
置が要求されてきた豊四季事業所に関しては、支部が一貫して会社との交渉に当つ
てきており、また、支部が、組合事務所設置に関して、会社に団交応諾等を求め
て、千葉地方労働委員会に申立てた不当労働行為救済申立事件(千葉労委昭和五〇
年(不)第一三号事件)においては、その申立の趣旨(但し、同五一年一〇月二〇
日付の準備書面-疎甲第一四号証-による。)では、単に、「組合事務所設置の件
を交渉事項とする団体交渉」という表現をとつているが、後に、同支部弁護団の弁
護士から分会の弁護団に宛てた報告書(疎甲第一五号証)では、「(イ)会社に対
して、事業所ごとの交渉の件を交渉事項とする団交応諾を求めた申立は取下げた。
(ロ)前記申立の趣旨にいう組合事務所とは、支部組合事務所のみ(豊四季分会事
務所を含む。)で、土浦分会事務所は含まれていない。」旨述べていること。
 以上の事実が一応認められる。
(二) 右事実及び、別紙命令書中、「当委員会の認定した事実」からすると、会
社は、支部の組合事務所の設置に関しては、一貫して、支部との間で交渉を重ねて
きたのであり、支部の側でも、少くとも分会が労働組合として正式に発足し、当事
業所の労働条件等についてではあるが、独立に組合として活動するに至るまでは、
同様の趣旨で会社に団交を申入れ、交渉をしてきたものと一応認められる。そうだ
とすると、同支部の規約(疎甲第一二号証)によつて、土浦、豊四季等の五つの事
業所等に設けられた各分会は、支部の下部組織とされ、さらに、支部の従たる事務
所は各分会におくと規定されており、また、会社の同五一年三月一八日付回答書添
付の組合事務所等使用貸借協定書(疎乙第九号証の二)において、土浦及び豊四季
事業所に設置する組合事務所の使用貸借の借主が支部になつていることから考えて
も、組合事務所の設置に関する会社との間の交渉当事者は、支部であつたことが明
らかであると認められる。
 しかるに、分会は、独立の組合として発足後、支部の上部団体でもある総評全国
金属労働組合千葉地方本部から同茨城地方本部に加入の変更をし、さらに、その名
称も、同五一年九月一九日には右千葉地方本部オリエンタル支部土浦分会から茨城
地方本部オリエンタル土浦分会へと変更したものであり、同五一年二月六日に、突
如として、何らの説明をもせずに、会社に対して、「土浦分会組合事務所につい
て」の団交申入れを行い、その後も何らの説明をすることなく、同様の団交申入れ
を行つているものである。
 さらに、従来は、団交の申入れは、支部執行委員長名義でなし、土浦事務所問題
も含めて、「組合事務所設置の件」等の議題の下にその申入れがなされていたので
あり(但し、同五〇年九月一六日付の要求書が支部執行委員長と分会代表者の、ま
た、同年一〇月九日付の団交申入書が、支部執行委員長と分会執行委員長両名の連
名により出されたことは前認定の通りである。)、分会が単独で団交申入れをする
に至つた同五一年二月六日以後においても、支部は従来と同様の「組合事務所設置
の件」を議題とする団交の申入れを会社に対してなしており、会社は、同五一年三
月一八日には、組合事務所についての最終案を支部に提示し、支部はこれに対し
て、土浦事務所の広さを再考して貰いたいと申入れる等、土浦事務所に関しても実
質的な交渉が行われてきた。そして、右各事情については、支部と分会とは、共に
了解していたであろうことを認めることができる。そして、さらに、中労委のなし
た本件命令書の認定した事実によると、同五一年七月二六日に至つて、支部は従来
のやり方とは表現を変え、「支部組合事務所設置の件」と題する団交申入書を会社
に送付した事実を一応認めることができる。かような経緯に照らすと、少くとも、
分会が正式に組合として発足するまでは、土浦事業所における支部の連絡的機能を
担当するにすぎず、独自の労働組合たる性格は有していなかつたことが窺われ、そ
の発足後も、右会社と支部間の交渉の経過、分会の上部団体の変更等に照らすと、
分会の性格は会社にとつて不明確なものであつたといわざるを得ない。したがつ
て、分会が同五一年二月六日に、会社に対して、分会単独による団交申入れをなし
た趣旨は、分会が支部とは別個の(上下の組織関係にない)労働組合として、従来
までの、支部から会社に対する要求とは無関係に、分会独自の組合事務所設置に関
して申入れたものか、もしくは、同分会が同支部の下部機関であり、従来までの支
部と会社間の交渉を前提として、組合事務所を現実に使用することになるのは分会
であるから、支部との協議により、その交渉権限の配分を受けて、右申入れをした
ものか、あるいは(分会が支部の下部組織の関係にあることは右同様であるが)、
単に、支部の申入れと重複して申入れをなしたにすぎないものかは、右の事情から
すると、会社にとつては、全く不明であると言わねばならない。会社は、支部との
間での組合事務所の設置に関して、その設置と貸与を基本的に了解したうえで、設
置場所と広さに関して支部と交渉を重ねてきたのであり、本件の如き経緯の下で、
支部とは別個に、分会が単独で会社に対して分会事務所の設置に関する団交を申入
れるについては(そのことによつて、当然のことながら、会社にとつては、分会の
申入れが従来の支部との交渉を前提としたものか否かで、極めて重大な差異を生ず
るものである、との会社の主張は、一応肯定することができる。)分会もしくは支
部において、従来までのやり方とは違つた方法等について、本件の分会単独での団
交申入れは、それが如何なる趣旨の申入れであるかを明確にすベき信義則上の義務
があると言わなければならない。
 しかるに、本件においては、右分会の申入れは、その点について何らの説明もな
く、前後の経緯からしても、極めて唐突なものであり(支部のこれに対する態度
も、分会の右申入れ後も土浦事務所について会社と実質的に交渉する等、極めて不
明確なものであつたことは前認定のとおりである。)、会社がその趣旨を推測する
ことも不可能な状態であつたと言わざるを得ないところである。そうすると、分会
からの会社に対する右申入れに対して、会社が直ちに分会との団交に応じなかつた
としても、一応無理からぬものであつたと認めることができる。そして、その後、
会社は、同五二年七月五日、同月七日の支部との団交において、支部に対し、分会
の右申入れの趣旨を質し、仮に、分会の申入れが支部の申入れと別個のものであれ
ば、土浦事務所問題は白紙となる旨述ベていることは、前認定のとおりであり、全
疎明によるも、これに対して、支部もしくは分会が、分会の申入れの趣旨を明示し
たと認めるに足る疎明は存しない。そうだとすると、かような事情の下において、
会社が、分会からの団交申入れに応じていないことをもつて、直ちに不当労働行為
に該当すると判断することは、極めて疑問があるといわねばならない。
(三) そこで、さらに中労委の判断を検討するに、本件分会事務所の設定につい
ては、同五〇年八月一七日に、既に支部から、土浦事務所の設置場所に関する交渉
は、事業所ごとの交渉に委ねたいとの申出がなされていたとする点については、右
の申出は、右に認定の事情からすると、未だ分会が独立して活動していない時点で
なされたものであり、組合事務所の設置場所の当否については、現場の組合員が一
番熟知しているからという理由で、事業所ごとの交渉に委ねたいとしたものにすぎ
ず、これをもつて分会事務所に関する交渉は、今後は分会の独自の交渉に委ねたと
した趣旨であるとは、到底、認めることができない。したがつて、右申入れにより
(その後の支部と分会の活動状況から考えても)、支部が、土浦事務所問題につい
ての交渉権限の配分を会社に対して示していた、と解することはできない。次に、
分会のこの申入れが、支部の申入れと二重の申入れにあたるかどうかにつき、会社
が分会との交渉に応じたうえで、分会にそれを質すベきであつた旨判断している
が、本件の如き事情の下では、会社にそこまでの義務を負わせることは妥当でない
と考えられ、むしろ、分会(もしくは支部)の側において、交渉権限の変更等を説
明する義務があると考えられることは前認定のとおりである。そして、本件では、
同五二年七月五日、同月七日の団交において、会社は支部に対して、分会との関係
を質していることも前記認定のとおりである。さらに、中労委は事務所問題につい
ては、設置場所と広さの点だけが未解決であるから、会社はこの点についての交渉
権限の配分を、支部もしくは分会と協議すベきであつたと認定しているが、かよう
なことは、本件分会の申入れが、支部の下部組織として、従来の支部、会社間の交
渉を前提としたものである場合に考え得ることであり、本件の如く、分会の申入れ
の趣旨が全く不明の場合には妥当しないものと考えるのが相当である。
そうすると、以上のとおり、提出された全疎明を前提とする限り、中労委のなした
本件救済命令は、その主要な論拠部分において極めて大きな疑義があり、現時点に
おいて、それを維持することは疑わしいと言わざるを得ないから、本件について、
緊急命令を発することは、相当でないものと考える。
五 よつて、本件申立を理由なきものとして却下することとし、主文のとおり決定
する。
(裁判官 小野寺規夫 赤西芳文 鈴木浩美)
(別紙)
申立の趣旨
 右当事者間の御庁昭和五五年(行ウ)第二五号行政処分取消請求事件が確定する
まで、申立人が昭和五五年一月二四日被申立人に交付した中労委昭和五三年(不
再)第一号事件命令に従い、「被申立人は、総評全国金属労働組合茨城地方本部オ
リエンタル土浦分会と、同分会組合事務所貸与の件に関して速かに誠意ある団体交
渉を行わなければならない。」との決定を求める。
申立の理由
一 申立外の総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会(以下「分
会」という。)は、昭和五一年二月六日以降被申立人会社に対して、同分会組合事
務所貸与の件に関して再三にわたり団体交渉の申し入れをしたが拒否された。
二 申立外分会は、右団体交渉拒否につき昭和五一年四月一二日、不当労働行為で
あるとして茨城県地方労働委員会に救済の申立てを行つたところ、同委員会は審査
の結果、昭和五二年一二月二四日付をもつて別紙疎甲第一号証の二「主文」記載の
とおりの命令を発し、右命令は同月二八日被申立人に交付された。
三 被申立人は右命令を不服として昭和五三年一月一〇日、申立人に再審査の申立
てを行つたが、申立人は再審査の結果、昭和五四年一二月一九日付で別紙疎甲第一
号証の一「主文」記載のとおり命令を発し、右命令は昭和五五年一月二四日被申立
人および申立外の分会に交付された。
四 被申立人は、昭和五五年二月二二日、右救済命令の取消しを求める旨の行政訴
訟を提起し、御庁昭和五五年(行ウ)第二五号事件として現在審理中である。
五 被申立人は、申立人の命令交付後も、別紙分会からの要請書にあるように、再
三分会からの団体交渉の申し入れに拘らずこれを拒否しており、任意に申立人の命
令を履行する態度を示していない。したがつて、本件訴訟が解決するまで、前記命
令の内容が実現されないならば、既に労使間で基本的には合意している組合事務所
貸与の実現は困難となり、申立外の分会は、組合活動の本拠となるべき場所のない
ままの状態におかれ、分会の団結権の侵害は回復し難いものとなることは明白であ
り、ひいては労働組合法の立法精神も没却されることになるので、申立人は、昭和
五五年三月一九日第八四一回公益委員会議において、労働組合法第二七条第八項の
規定に基づき、本申立てをなすことを決議した。
 よつて、本申立てに及んだ次第である。
命令書(再審)
中労委昭和五三年(不再)第一号
昭和五四年一二月一九日命令
再審査申立人 オリエンタルモーター株式会社
再審査被申立人 総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会
       主   文
一 初審命令主文第一項を次のとおり変更する。
 オリエンタルモーター株式会社は、総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエン
タル土浦分会と、同分会組合事務所貸与の件に関して、速かに誠意ある団体交渉を
行わなければならない。
二 その余の本件再審査申立てを棄却する。
       理   由
第一 当委員会の認定した事実
一 当事者等
(1) 再審査申立人オリエンタルモーター株式会社(以下「会社」という。)
は、肩書地に本社及び豊四季事業所を、茨城県土浦市、香川県高松市及び山形県鶴
岡市に事業所を置き、精密小型モーターの製造販売等を業とする資本金一億円の会
社である。会社の全従業員は約九〇〇名であり、そのうち本社及び豊四季事業所は
約四〇〇名、土浦事業所は約一〇〇名である。
(2) 再審査被申立人総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会
(以下「分会」という。)は、土浦事業所に勤務する会社従業員をもつて結成され
た労働組合であり、昭和四九年一二月二二日、会社に勤務する従業員をもつて結成
された総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部(以下「支部」とい
う。)の下部組織でもある。
 また、当初、総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部土浦分会とい
う名称であつたが、昭和五一年九月一九日分会規約を改正し、現在の名称に変更し
た。なお、支部結成当時の支部組合規約には、分会に関する規定はなかつたが、分
会は支部が公然化した頃より事実上分会として活動していた。
二 組合事務所貸与等についての支部、会社間の交渉経過
(1) 昭和五〇年五月一二日、支部は組合公然化大会を開催し、翌一三日会社に
対して支部結成の通告をするとともに、豊四季事業所内及び土浦事業所内にそれぞ
れ組合事務所を設置、貸与すること等を要求し、団体交渉を申入れた。
(2) 同年五月一五日、支部、会社間で第一回の団体交渉が行われ、会社は豊四
季及び土浦事業所内に各一ケ所の組合事務所を設置貸与することについて基本的に
了解した。なお、組合事務所の具体的設置場所及び貸与条件等について、会社は同
月一九日に予定された団体交渉の際に回答することにした。
(3) 同年五月一九日、支部、会社間で第二回の団体交渉が行われ、さらに同月
二八日、第三回の団体交渉が行われた。その際会社は、「組合事務所等使用貸借協
定書案」及び豊四季事業所内の組合事務所の具体的設置場所について組合に提示し
たが、支部は同案を持ち帰り検討することにした。
(4) 同年六月五日、支部、会社間で第五回の団体交渉が行われ、会社が提示し
た組合事務所等使用貸借協定書案及び豊四季組合事務所の設置場所について話し合
われた。その結果、支部は上記協定書案について若干の留保条項を除き合意した
が、組合事務所の設置場所については狭隘であるとの理由により反対し、合意は成
立しなかつた。なお、このとき会社は土浦事業所の組合事務所について、具体的提
案をしなかつた。
(5) 同年夏頃、支部、会社間で組合事務所貸与に関する協定締結のための事務
折衝が行われたが、支部は、上記組合事務所等使用貸借協定書案に、①組合事務所
の設置場所については豊四季事業所内の中庭に面した林の中に設置し、それまでは
暫定的に第二事務棟の倉庫内に設置貸与する、②土浦事業所に組合事務所を設置貸
与する、などを内容とする覚書を添付して会社に提示した。これに対し、会社は、
覚書中に①の後段部分など合意していないものがあるとして、協定締結を拒否し
た。
(6) 同年八月八日、会社は支部に対し土浦事業所の組合事務所は同事業所の組
合員数を考慮し一〇平方メートルの広さとする、また、設置場所は、正門に向つて
左側敷地内のパーキングスペース付近とする旨図面で示し提案した。
(7) 同年八月一二日支部は会社に対し、先に提案していた事業所交渉の件に関
し、事業所ごとに限られる労働条件及び施設に関しては事業所ごとに協議するこ
と、ただし、協議事項が全社に影響のおよぶ場合は、支部、会社間交渉による旨支
部の方針を記載して書面を提出した。その後の団体交渉において支部は、会社に対
して土浦事業所の組合事務所の設置場所については現場の組合員が一番熟知してい
るので、事業所ごとの交渉に委ねたい旨述べた。これに対し会社は、組合事務所の
件については、土浦事業所長(以下「事業所長」という。)に交渉権限を与えてい
ない、また、この問題は全社的な問題であると理解しているので支部、会社間の交
渉において行いたい旨主張し、双方の見解は一致しなかつた。
(8) 同年九月一六日、支部執行委員長及び分会代表者は連名で、土浦事業所の
組合事務所について、会社提案の場所では工場棟より離れ過ぎており、組合員が充
分活用できないので、コンプレツサー室と塗装工場間の空地に設置してほしい旨の
要求書を会社に提出した。これに対し会社は、設置場所の変更はできない旨口頭で
回答した。
(9) 同年九月三〇日、分会は大会を開催し規約等を定め、正式に労働組合とし
て発足した。なお、同年一一月頃分会は、会社に対し分会を正式に結成した旨通知
した。
(10) 同年一〇月九日、支部執行委員長及び分会執行委員長は連名で、土浦事
業所の従業員の配置転換に関する要求書及び土浦事業所において団体交渉を行うよ
う要求した社長あての申入書を事業所長に提出した。これに対し会社は、一〇月一
六日付内容証明郵便で、労使間の問題は極めて重要であるので、事業所長には交渉
権並びに妥結権等一切の権限を付与していないから、本社において支部との間で統
括処理することにしている。したがつて、新たな要求事項があるならば、支部より
社長あてに提出してもらいたい旨分会あて回答書を送付した。
 なお、同日支部は、千葉県地方労働委員会(以下「千葉地労委」という。)に対
し、就業時間中の組合活動の範囲の件等を交渉事項とする団体交渉応諾等を求めて
救済を申立て(昭和五〇年(不)第三号事件)た。昭和五一年一〇月二〇日支部
は、同申立てに、組合事務所設置の件を交渉事項とする団体交渉応諾等の救済申立
てを追加した。
(11) 同年一一月一一日、上記事件にかかる千葉地労委の勧告により、支部、
会社間で団体交渉が行われたが、その席上組合事務所の件について会社は支部に対
し、相互理解と信頼関係を作るためにも、組合規約、組合員名簿を提出してもらい
たい。話はそれからであり、もしその提出がなければ組合事務所を貸与することは
できない。第一回の団体交渉で、組合事務所を貸与することを合意した際、会社は
組合から組合規約の提出が当然あると思つていた旨述べた。これに対し支部は、組
合規約、組合員名簿の提出を拒否したので、話合いは進展しなかつた。また、事業
所ごとの交渉の件についても交渉が行われたが、会社は①事業所長には交渉権、妥
結権等を付与していないので、労使間の問題は、支部、会社間交渉で行いたい、②
事業所ごとの団体交渉については、組合の組織内容が理解できないので、組合規約
を提出してもらいたい旨主張した。これに対し支部は、①については、事業所長が
当該事業所の総括責任者である以上、事業所限りの問題は事業所ごとに団体交渉を
行うべきだと主張し、見解は一致しなかつた。
 なお、支部、会社間の団体交渉には、分会の役員二名が支部執行委員として出席
していた。
(12) 同年一二月二五日、支部は会社に対し「組合事務所貸与の件」を議題と
する団体交渉を申入れた。これに対し、翌五一年一月二一日、会社は組合事務所の
設置、貸与の条件として、組合規約と組合員名簿の提出を求め、それらの提出後組
合事務所について話し合う用意がある旨の文書回答を行つた。
(13) 支部は会社に対し、昭和五一年二月一九日、二月二四日及び二月二七
日、「組合事務所設置の件」を議題とする団体交渉を申入れた。これに対し会社
は、同年二月二三日、二月二七日及び三月一日、組合事務所については、現在検討
中であり検討終了後回答する旨それぞれ文書回答を行つた。
(14) 同年三月五日、支部は会社に対し、労使間の懸案事項についての団体交
渉を、同月九日に開催したい旨申入れた。
(15) 同年三月九日、支部は、会社に対し、上記懸案事項の具体的議題を①組
合事務所設置の件、②組合備品の返却及び食堂使用の件、③就業時間中の組合活動
の件、④事業所ごとの団体交渉の件とする旨の通知書を提出した。これに対し三月
一一日会社は1について、前記(13)と同趣旨の文書回答をした。
(16) 同年三月一八日、会社は前記(10)認定の別件事件の審査委員長の要
請にもとづいて、組合事務所についての会社最終案として組合事務所等使用貸借協
定書により組合に貸与する旨等の文書による回答を行つたが、同回答書中の添付図
面には、豊四季事業所及び土浦事業所内にそれぞれ組合事務所を設置する場所が示
されており、それによると分会組合事務所の設置場所は、昭和五〇年八月八日付提
案を変更し、正門向つて右側の隅とし、広さは従来どおりとするとの提案であつ
た。
(17) 同年三月二五日支部は会社に対し組合事務所設置の件等について団体交
渉の開催を申入れたが、三月二九日会社は組合事務所設置の件については、上記三
月一八日付回答書で回答済である旨、文書回答をするだけで支部との団体交渉に応
じなかつた。
(18) 同年三月二九日支部は、会社の上記三月一八日付文書に対する回答とし
て、支部組合事務所の設置場所について会社案に反対であるとして、その問題点を
指摘し、理由をのべるとともに、分会組合事務所については、二〇m2以上の広さ
で再考してもらいたい旨文書で申入れた。
(19) 同年四月八日及び四月一三日、支部、会社間で春闘要求をおもな議題と
して団体交渉が行われた。その際、組合事務所設置の件についても若干の話し合い
が行われたが、会社は豊四季組合事務所について「一〇平方m2以上では建築基準
法上問題がある。」「三月一八日の回答が会社の最終案であるからこれ以上は譲れ
ない。組合が折れない限りこれ以上団体交渉をしても無駄である。」と主張し、具
体的な進展はなかつた。
 なお、四月一三日の団体交渉は、四月九日付支部の①組合事務所設置の件、②食
堂使用について、を議題とする申入れと、四月一二日付会社の、①昭和五一年度賃
上げ要求について、②組合事務所設置の件、③食堂使用について、を議題とする双
方の団体交渉申入れにより開催されたものであつた。
(20) その後も支部は、会社に対し組合事務所設置の件について団体交渉を申
入れたが、会社はすでに最終回答を示しているので、組合が折れない限り話し合つ
ても無駄であるとして団体交渉に応じることはなかつた。
(21) 同年七月二六日、支部は従来の交渉議題の表現を替えて、「支部組合事
務所設置の件」と題する団体交渉申入書を会社に送付した。このときまで支部は、
支部が団体交渉を申入れている以上、支部組合事務所についての団体交渉の申入れ
であることは当然のことであるとして、その団体交渉申入書には単に「組合事務所
設置の件」とのみ記載していた。
三 本件団体交渉拒否について
(1) 昭和五一年二月六日及び二月一二日、分会は会社に対し、分会組合事務所
をコンプレツサー室と塗装工場の空地に設置することを要求し、団体交渉の申入れ
を行つた。これに対し、同月一七日会社は分会に対して①要求並びに団体交渉の申
入れは、支部を通じて行われたい。②分会組合事務所の件に関しては、上記二の
(12)認定の一月二一日付文書で支部に回答済みである旨の文書回答を行つた。
また、同月一九日、分会は会社に対し、上記同様の団体交渉を申入れた。
 なお、分会が単独で団体交渉の申入れをしたのは、支部から分会組合事務所の設
置場所等の交渉は、分会交渉により解決を図つてほしいとの要請にもとづいて行わ
れたものであつたが、分会からは会社及び事業所長にその旨を説明したことはなか
つた。
(2) 同年三月一日、分会は事業所長が同事業所の最高責任者であるとの理由か
ら、会社に替えて事業所長に対し前記(1)と同旨の要求書及び団体交渉申入書を
提出した。これに対し同月四日、事業所長は分会に対して①事業所長には交渉権限
がないので団体交渉に応ずることはできない、②団体交渉の申入れはあらためて社
長あてに提出してもらいたい。申入書は社長に回送した旨の文書回答を行い団体交
渉に応じなかつた。また、その後も分会は事業所長に対し、上記同様の団体交渉の
申入れをしたが、同所長は交渉権限がないとの理由を挙げるだけで団体交渉に応じ
なかつた。
(3) なお、事業所長の会社内での職階は、部長相当職にあたり、また、施設に
ついての増改築の権限はなく、保守管理の権限のみ与えられていた。
(4) 昭和五一年四月一二日、分会は会社及び事業所長を被申立人として、茨城
県地方労働委員会に対して、本件不当労働行為の救済申立てを行つた。
(5) 分会は、本件救済申立て後も、事業所長に対し数回分会組合事務所の設置
場所について団体交渉を申入れたが、同所長は前記(2)認定と同様の回答をする
だけで団体交渉に応じなかつた。
 以上の事実が認められる。
第二 当委員会の判断
 会社は、分会組合事務所の設置に関する分会の団体交渉の申入れに対し、会社が
これに応じなかつたことを不当労働行為であると判断した初審命令を不服として争
うので以下判断する。
一 会社の団体交渉拒否理由の当否について
(1) 会社は、分会が今迄会社と支部との間で組合事務所問題全般について団体
交渉を重ねてきた交渉経過を無視し、会社に何等説明もないまま、分会組合事務所
の設置に関する団体交渉の申入れをしたことは信義則に反し許されないばかりでな
く、二重交渉となる、また、会社の最終案に対し、支部からは文書で分会組合事務
所問題を含め、その見解を示してきたが、分会からは何等の意思表示もなく、会社
としては、本件申立て前後の五一年四月八日及び同月一三日の支部との団体交渉に
おいても、組合事務所問題はその議題を、支部組合事務所に限るという認識はなか
つたと主張する。
① たしかに、前記第一の三の(1)認定のとおり、分会はその申入れに際して会
社に説明しておらず、また、分会の申入れと併行してなされている支部の申入れ
も、従来からの交渉議題を変えずなされているのであるから、分会の団体交渉申入
れが適切なものであつたとはいい難く、かつ、この点のみについてみれば、会社が
この分会の団体交渉申入れを、二重交渉になると考えたのも無理からぬものがあ
る。しかしながら、前記第一の二の(7)認定のとおり、既に支部からは、会社と
の団体交渉の席上、事業所交渉についてと題する書面を提出し、土浦事業所の分会
事務所の設置場所等については分会交渉に委ねたいとする理由を会社に説明してい
るのであり、支部が会社に示した事業所ごとの交渉の件についての組合側の方針と
支部、分会の現実の対応との間にそごがあるともみられない。しかも、五〇年一一
月の段階では、会社は既に支部との団体交渉を拒否し、会社、支部間での団体交渉
が行われておらず、分会組合事務所についてはその交渉事項として残されたもの
が、その設置場所と広さの問題だけなのであるから、これを直接使用することにな
る分会があらためて団体交渉を申入れることはまた当然の成りゆきである。
② また、会社が分会の団体交渉の申入れが、支部との二重の申入れであると考え
たのであれば、そのことを分会に告げ、じかに分会の考え方を質して確認する等で
きたと考えられるのに、会社は、前記第一の三の(1)及び(2)認定のとおり、
事業所長には権限がない、要求及び申し入れは支部を通じて行われたい、支部あて
回答済であるなどと、単に文書回答するだけであつて、分会とは全く交渉していな
いのである。
③ そして、会社が支部に対して、分会組合事務所の設置場所及び広さについて初
めて会社案を提示した以後は、五一年三月一八日にその修正案を最終案であると文
書回答したに過ぎない。また、会社最終案に対する組合側の対応に関する会社主張
については、会社の最終案なるものは、前記第一の二の(16)認定のとおり、千
葉地労委の要請にもとづき提示されたものであることからみれば、同地労委への申
立人となつている支部が、会社案に対する見解を示すのは当然であり、同地労委の
要請により提示された会社案に分会から何等の意思表示がなされなかつたとして
も、そのことが分会の団体交渉申入れに影響を及ぼすものでもない。また、五一年
四月八日及び同月一三日に行われた団体交渉は、前記第一の二の(19)認定のと
おり、主として春闘要求に関するものであり、ほかに支部組合事務所の問題が若干
話し合われたことは認められるが、会社はその最終案を固執するのみで、これ以上
交渉しても無駄であると述べ、およそ組合事務所問題に関する誠意ある団体交渉と
いえるものではない。結局のところ、会社は五〇年一一月一一日の支部との団体交
渉以来、それぞれ独自の団体交渉権を有する支部、分会のいずれとも団体交渉を行
つていないのであるから、二重交渉になるとの会社の主張をそのまま認めることは
できない。
(2) 会社は、土浦事業所の労使問題の組合交渉については、事業所長には交渉
権を与えておらず、支部との団体交渉要員を充てることにしており、また、その交
渉要員としている総務部長は、同事業所の建物配置等を知悉しているので、工場施
設の増改築については、その権限を持たない事業所長を団体交渉に出席させても何
等寄与するところはなく、また、団体交渉に参加させなければならない法的根拠も
ないと主張する。
 たしかに、本件の場合、会社の一事業所長にすぎない土浦事業所長が、会社とと
もに団体交渉に必ず参加しなければならないとする理由は認めがたい。
 しかしながら、事業所長は、いうまでもなく事業所に関する限り、会社側の当面
の最高責任者なのであるから、交渉権を与えられていなくとも、分会の意向の聴
取、所長権限の範囲等の説明を行うなど、会社との交渉の窓口的役割はなしえたも
のと考えられる。しかるに会社及び事業所長は、いずれも分会の団体交渉の申入れ
の当初から、事業所長には交渉権限がないと文書回答したのみで、権限ある交渉要
員の派遣等、分会と交渉を行うという姿勢もみせなかつたのであつて、このような
会社の態度は首肯し難く、事業所長に交渉権を与えていないことをもつて、団体交
渉を拒否する正当理由とはなしえない。
(3) 会社は、組合事務所設置の問題は、一事業所に限らず、全社に影響を及ぼ
すものであり、組合が自ら示した基準にしたがつても、分会を団体交渉の当事者と
すべきものではないと主張する。
 しかしながら、分会組合事務所を設置し、貸与するということは既に支部との交
渉で了解に達しており、未解決となつているのは、具体的設置場所と広さの点であ
る。仮に、設置場所と広さの問題が全社的に影響を及ぼす問題であるとしても、支
部交渉とするか分会交渉とするかについて、現に双方に異論がある以上、先ずその
振り分けについて支部なり分会なりと交渉を行うべきであり、このような手続きを
経ず、当初から一方的に全社的問題であるとして、分会との団体交渉を拒否する会
社の態度を是認することはできない。
(4) 会社は、相手方交渉当事者の交替によつて、会社としては、従来積み重ね
られた交渉が変更されるおそれがあり、また、団体交渉ルールから始めなければな
らない等、無駄なエネルギーを浪費させられることになる等の不利益がある反面、
分会にとつては、会社が分会と団体交渉を行わなくとも、会社と支部との団体交渉
に二名の分会役員が支部執行委員として参加しているから、何等不利益はないと主
張する。
① しかしながら、前記第一の二の(6)、(8)、(16)、(18)及び三の
(1)、(2)認定のとおり、分会組合事務所の設置場所及び広さの問題について
は、双方から要求と回答の文書が取り交わされているに過ぎず、支部との交渉でこ
の点につき、やりとりが重ねられたと認められる資料もないから、積み重ねられた
交渉が変更されるおそれがあるという会社の主張は採用することができない。
 また、分会は支部の下部組織であるとはいえ、単位組織として独自の団体交渉権
を有するものであり、分会が団体交渉を申し入れる以上、団体交渉ルール等から交
渉を始めなければならないとしても、このような交渉の手続上の煩瑣は、そのこと
を団体交渉拒否の正当理由とすることはできない。
② また、支部との団体交渉に二名の分会役員が参加しているからといつて、分会
がその独自の団体交渉権にもとづいて、現に団体交渉を申し入れている以上、分会
との団体交渉を拒否する正当理由とならないことも論をまたない。
二 重複申立てについて
 会社は、支部が千葉地労委へ申立てている組合事務所設置に関する団体交渉の問
題は、これまで支部との団体交渉において、分会組合事務所も含んでいるとの共通
の認識のもとに行つていたことから、その申立ては、支部、分会双方の組合事務所
に関する問題であるので、本件救済申立ては、これと重複する申立てであると主張
する。
 しかしながら、本件手続きにおいて提出された甲第六〇号証及び第六一号証によ
れば、支部が千葉地労委に申立てしている組合事務所設置に関する団体交渉応諾の
件の範囲には、土浦分会組合事務所は含まれていない旨明示されており、会社の主
張は採用できない。
三 本件不当労働行為の成否について
 前記第一の三に認定の事実及び前記二の各判断を総合すると、本件は、分会の団
体交渉の申入れ、特に分会が単独で行つた五一年二月六日以降の申入れに対し、会
社がそれらの申入れの当初からこれを拒否していることが認められ、さらに、会社
の挙げる団体交渉拒否理由はいずれも正当理由となりえないと判断されるのであつ
て、会社の行為は労働組合法第七条第二号に該当する行為であつて、これを不当労
働行為であるとした初審判断は相当である。
 なお、上記一の(2)判断のとおり、初審命令主文第一項中の土浦事業所長に関
する部分は適当でないので、主文のとおり変更することとした。
 以上のとおり、初審命令主文第一項中の土浦事業所長に関する部分を除き、本件
再審査申立てには理由がない。
 よつて、労働組合法第二五条、同第二七条および労働委員会規則第五五条を適用
して主文のとおり命令する。
命令書
茨城地労委昭和五一年(不)第四号
昭和五二年一二月二四日命令
申立人 総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会
被申立人 オリエンタルモーター株式会社 外一名
       主   文
一 被申立人オリエンタルモーター株式会社は、申立人総評全国金属労働組合茨城
地方本部オリエンタル土浦分会に対し、同分会組合事務所貸与の件に関して、土浦
事業所長とともに、速やかに誠意のある団体交渉を行わなければならない。
二 その余の申立ては棄却する。
       理   由
第一 認定した事実
一 当事者
(1) 被申立人オリエンタルモーター株式会社(以下「会社」という。)は、肩
書地に本社及び豊四季事業所を、茨城県土浦市、香川県高松市及び山形県鶴岡市に
各事業所を置き、小型モーターの製造販売を業としている資本金一億円の株式会社
である。
 被申立人オリエンタルモーター株式会社土浦事業所(以下「土浦事業所」とい
う。)は、肩書地を所在地とする会社の一事業所である。
(2) 申立人総評全国金属労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会(以下
「分会」という。)は、土浦事業所に勤務する従業員によつて結成された労働組合
である。
 また、分会は、会社従業員をもつて結成されている総評全国金属労働組合千葉地
方本部オリエンタル支部(以下「支部」という。)の下部組織である。
 なお、分会は、申立時においては総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタ
ル支部土浦分会という名称であつたが、昭和五一年九月一九日に現在の名称に変更
した。
二 組合事務所貸与についての労使間の基本的合意
(1) 昭和四九年一二月二二日、会社従業員三六名は支部を結成し、この時分会
も事実上発足した。
(2) 昭和五〇年五月一二日、支部は、公然化大会を開催し翌一三日には、会社
に対し支部結成の通告をするとともに、本社内に支部組合事務所を、土浦事業所内
に分会組合事務所をそれぞれ貸与するよう要求し、団体交渉を申し入れた。
(3) 昭和五〇年五月一五日、支部・会社間で団体交渉が行われ、会社は、各組
合事務所を設置貸与することを了解した。
(4) 昭和五〇年五月一九日、支部・会社間で団体交渉が行われ、組合事務所問
題については、貸与に関する協定内容及び利用方法を支部から会社に文書で提出
し、その上で会社が設置場所を検討することで双方合意した。
(5) 昭和五〇年六月五日、支部・会社間で団体交渉が行われ、会社から支部組
合事務所の設置場所について提案があつたが、支部はこれに反対し、物別れに終つ
た。なお分会組合事務所については具体的提案はなかつた。
(6) 昭和五〇年八月八日、会社は支部に対し、分会組合事務所を一〇平方メー
トルの広さで、正門に向つて左側の隈に設置する旨、図面で提案した。
(7) 昭和五〇年九月一六日、支部執行委員長Aと分会代表者Bは、連名で会社
に対し分会組合事務所の設置場所について、会社提案の場所では工場棟から遠いと
の理由で、コンプレツサー室と塗装工場間の空地に変更するよう要求書を提出し
た。
(8) 分会は、昭和五〇年九月三〇日、大会を開催し規約等を定め、独立した労
働組合となった。
三 支部・会社間の交渉経緯
(1) 昭和五〇年一一月一一日、支部・会社間で団体交渉が行われ、組合事務所
問題について、会社は、「組合規約、組合員名簿を出して欲しい。話はそれからで
ある。」と主張し、進展はなかつた。
(2) 昭和五〇年一二月二五日、支部は、会社に対し「組合事務所貸与の件」を
議題とする団体交渉を申し入れた。
(3) 昭和五一年一月二一日、会社は、支部に対し「会社は今後の労使関係を相
互信頼の上に立つものにするため組合規約・組合員名簿の提出を求めている。した
がつて、会社はそれら提出後組合事務所について話し合う用意がある。」旨の文書
回答を行つた。
(4) 昭和五一年二月一九日、二月二四日、二月二七日、三月五日及び三月九
日、支部は、会社に対し「組合事務所設置の件」を議題とする団体交渉を申し入れ
た。
(5) 昭和五一年二月二三日、二月二七日、三月一日及び三月一一日、会社は、
支部に対し「組合事務所については現在検討中であり、検討終了後回答する。」旨
の文書回答を行つた。
(6) 昭和五一年三月一八日、会社は、支部に対し「先般よりの組合事務所貸与
の件については、別紙の組合事務所使用貸借協定書により貸与する。」旨、文書回
答し、分会組合事務所の設置場所については、昭和五〇年八月八日付提案を正門に
向つて右側の隅に変更、広さについては従来どおりの提案であつた。
(7) 昭和五一年三月二五日、支部は、会社に対し「組合事務所設置の件」等を
議題とする団体交渉を申し入れた。
(8) 昭和五一年三月二九日、会社は、支部に対し「組合事務所設置の件につい
ては、三月一八日付回答書で回答済みである。」旨の文書回答を行つた。
(9) 昭和五一年三月二九日、支部は、会社に対し、支部組合事務所について会
社案に反対する理由を述べるとともに、分会組合事務所については、二〇平方メー
トルの広さで再考されたい旨を文書で申し入れた。
(10) 昭和五一年四月八日、支部・会社間で団体交渉が行われ、議題にはなか
つたが、組合備品の返還問題との関連で組合事務所についても話し合いがあり、会
社は三月一八日の回答どおりであるという主張をした。
(11) 昭和五一年四月一三日、支部・会社間で「春闘要求の件」、「組合事務
所設置の件」及び「食堂使用の件」を議題とする団体交渉が行われたが、交渉は
「春闘要求」を中心に進められ、組合事務所設置については、会社は「一〇平方メ
ートル以上では建築基準法上問題がある。」、「三月一八日の回答どおりであ
る。」という主張をしたにとどまつた。
四 本件団体交渉拒否の経緯
(1) 昭和五一年二月六日及び二月一二日、分会は、会社に対し、分会組合事務
所設置場所としてコンプレッサー室と塗装工場間の空地を要求し、団体交渉の申入
れを行つた。
(2) 昭和五一年二月一七日、会社は、分会に対し1要求及び団体交渉の申入れ
は支部を通じて行われたい。2分会組合事務所の件については支部あてに回答済み
である旨の文書回答を行つた。
(3) 昭和五一年二月一九日、分会は、会社に対し(1)と同様の要求書及び団
体交渉申入書を提出した。
(4) 昭和五一年三月一日及び四月一〇日、分会は、土浦事業所長に対し(1)
と同様の要求書及び団体交渉申入書を提出した。
(5) 昭和五一年三月四日及び四月一五日、土浦事業所長は分会に対し1所長に
は交渉権限がないので団体交渉に応ずることはできない。2申入れについては改め
て社長あてに提出してもらいたい旨の文書回答を行つた。
(6) 昭和五一年四月一二日、分会は、会社及び土浦事業所を被申立人とし、分
会組合事務所貸与の件を議題とする団体交渉の応諾を求めて、当委員会に不当労働
行為救済申立てを行つた。
(7) 分会は、申立て後も、分会組合事務所について土浦事業所長に対して数回
団体交渉を申し入れたが、団体交渉は行われなかつた。
第二 判断
一 団体交渉拒否理由について
 会社が、分会からの分会組合事務所貸与についての団体交渉申入れを文書により
拒否したことは、争いのない事実であり、会社が主張する拒否理由は次のとおりで
ある。
(1) 分会組合事務所の件について、支部との間に数次にわたり団体交渉を実施
しているから、重ねて分会から同一事項について団体交渉申入れをすることは、交
渉経過からみて信義則に反するとともに、二重交渉となり労使間に統一した意思の
形成を欠くことになる。
(2) 土浦事業所長には、団体交渉を行う権限を一切付与していない。
(3) 組合事務所問題については、一事業所の問題ではなく全社的に影響を及ぼ
す問題であるから、統一的処理のため支部・会社間の団体交渉によるベきである。
(4) 分会役員二名が支部執行委員を兼務しており、現に支部・会社間の団体交
渉に出席しているのであるから、分会と団体交渉を行わなくとも、分会としては、
実質的に不利益はない。
二 上記拒否理由についての判断
(1) 一の(1)及び(2)について
ア 分会が自らの組合活動において最も重要な機能を果す組合事務所の設置に関心
を有するのは当然である。しかも、既に支部・会社間の交渉において、分会組合事
務所の設置貸与について基本的合意が成立しているのであるから、分会としては、
その具体的実現に多大の関心を有するのは、なおさら当然と言わなければならな
い。
 ところで、会社は、分会組合事務所問題について、支部に対し、当初のころは設
置貸与を認めるなどして積極的に交渉に応じていたにもかかわらず、昭和五〇年八
月八日に設置場所及び広さについて会社案を提示してからは、急速に誠意を欠き、
昭和五一年三月一八日に修正案(設置場所について、「左側の隅」を「右側の隅」
に変更するのみ。)を提示したにすぎない。しかも、分会結成(昭和五〇年九月三
〇日)後、分会が単独で団体交渉を申し入れた日(昭和五一年二月六日)までに行
われた支部・会社間の団体交渉は、昭和五〇年一一月一一日の団体交渉のみで、そ
の内容についてもさきに認定したとおりである。
 組合活動の拠点ともなるベき組合事務所に関し、その具体化について、このよう
に何らの進展がない以上、分会が、これについて団体交渉を求めるのは当然であ
る。
 特に、会社が本社から離れた土浦事業所内に組合事務所を設置貸与する以上、分
会が、本社のみならず土浦事業所における最高の地位にある同所長をも交渉の相手
方と考えるのはこれまた当然である。
 更に、さきに認定した事実からみて、本件に関しては支部・分会間に意思の統一
を欠いているとは言えず、したがつて、分会との団体交渉に応じたとしても、会社
の不利益が生じるとは認められない。
イ 以上のように、①本社と土浦事業所の所在地がかなり離れていること。②交渉
議題が土浦事業所内における分会組合事務所の設置貸与であること。③分会は独立
した労働組合であることなどからみて、会社及び土浦事業所の双方は、分会に対
し、本件に関し誠意のある団体交渉をなすベき義務があると言わなければならな
い。すなわち、土浦事業所長が会社の窓口的立場にあつたとしても、会社は同所長
をして交渉に応じさせ、同所長は権限の有無についての釈明を行い、あるいは要求
事項の問題点を整理するなど問題解決のための方法を講ずることが可能であつたに
もかかわらず、会社及び土浦事業所長が分会からの団体交渉申入れ当初から、所長
に権限がないとして団体交渉に応じないのは合理的理由があるとは言えない。
ウ 分会が独自に団体交渉を申し入れた後も、支部が昭和五一年三月二九日に分会
組合事務所の広さについて要求していることなどを考慮すれば、昭和五一年四月八
日及び四月一三日の支部・会社間の団体交渉に分会組合事務所問題も含まれていた
と考られなくもなく、支部・会社間の団体交渉において、分会組合事務所の件につ
いても十分に交渉が行われておれば、ことさら当委員会による団体交渉応諾命令の
必要性を認め得ない場合もあろう。しかし本件においては、会社側の疎明をもつて
しては、団体交渉応諾命令の必要がないほどの交渉が行われたとは判断できない。
 よつて、この点に関する拒否理由には正当性を認めることができない。
(2) 一の(3)について
 会社が、組合事務所問題は全社的問題と考えたとしても会社は、分会との団体交
渉に応じ、団体交渉事項の振り分けについて交渉を行うなどして団体交渉ルールの
確立に努めるならまだしも、分会からの団体交渉申入れ当初から、全社的問題であ
るとして団体交渉を拒否することは認められない。
(3) 一の(4)について
 分会役員が支部執行委員として支部・会社間の団体交渉に出席していたとして
も、分会の団体交渉申入れに何ら影響を与えるものではなく、分会との団体交渉を
拒否する理由となるものではない。
 以上のとおり、会社が分会申入れの団体交渉を拒否したことに正当な理由がな
く、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。
三 主文について
 分会は、請求する救済の内容として、会社のほか土浦事業所に対する団体交渉応
諾命令をも求めている。しかし、同事業所は、会社の一下部機関にすぎないから、
当然、会社に対する救済命令に拘束されることになるので、主文のとおり命令す
る。
四 重複申立てについて
 会社は、本件申立ては千葉県地方労働委員会に係属している不当労働行為救済申
立事件(千労委昭和五〇年(不)第三号)と重複しているので、却下すベきである
と主張する。
 しかし、上記事件の申立人は支部であり、その救済内容も支部組合事務所の件に
ついての団体交渉応諾であると認定できるので、この点についての会社主張は容認
できない。
第三 法律上の根拠
 以上のとおりであるので、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則
第四三条の規定により主文のとおり命令する。

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