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平成17年(行ケ)第10807号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年9月6日
判決
原告ザプ



ーア

ドギ









訴訟代理人弁護士吉武賢次
同宮嶋学
同高田泰彦
訴訟代理人弁理士永井浩之
同名塚聡
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人平上悦司
同阿部寛
同岡田孝博
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を
30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2003-7416号事件について平成17年7月12日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
アドバンストサージカルインタベンションインコーポレイテッド(以
下「アドバンスト社」という。)は,後記特許につき特許出願をし,同社から
特許を受ける権利の譲渡を受けたウロメッドコーポレーション(以下「ウロ
メッド社」という。)は,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服とし
て審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けた。原告は,その後,ウロメッ
ド社から上記特許を受ける権利の譲渡を受けた者であるが,上記審決に不服が
あるとして,その取消しを求める本件訴訟を提起した。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
アアドバンスト社は,平成4年(1992年)1月6日,名称を「尿失禁
防止パッド」とする発明について,優先権主張日を平成3年(1991
年)1月10日(米国)とする国際特許出願をした(以下「本願」とい
う。特願平4-505297号。公表特許公報は平6-506368号[
甲3の1])。その後,アドバンスト社は,ウロメッド社に対し,本願に
係る権利を譲渡したが,ウロメッド社は平成14年3月18日付けで特許
請求の範囲の変更を内容とする補正(甲3の2)をしたものの,特許庁か
ら平成15年1月17日拒絶査定を受けた。
イそこで,ウロメッド社は,平成15年4月30日付けで不服の審判請求
を行い,特許庁は,この請求を不服2003-7416号事件として審理
したが,平成17年7月12日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨
の審決を行い,その審決謄本は平成17年7月25日ウロメッド社に送達
された。
ウその後,ウロメッド社は,原告に対し,本願に係る権利を譲渡し,平成
17年11月16日付けで特許庁長官に対し,その旨の届出をした。
(2)発明の内容
本願の平成14年3月18日付け補正後の特許請求の範囲は,請求項1
ないし45から成り,そのうちの請求項1(以下これに記載された発明
を「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「前庭床及び一対の小陰唇を有する外陰部を含む外生殖器を有し,且つ小陰
唇間に尿道を有する女性の尿失禁を制御するための尿失禁防止装置であっ
て,
小陰唇と前庭床との間に装着するように構成された生物学的適合性材料か
らなり且つ尿道を閉塞する表面手段を有する本体を有し,
前記表面手段は,前記本体に前庭床接触面を有し,
さらに,前記前庭床接触面に設けられて前記本体と尿道との間の封止係合
をなす接着手段を有することを特徴とする尿失禁防止器具。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,
本願発明は,欧州特許出願公開第0407218号明細書(甲4の1。以
下「引用刊行物」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。これ
に対応する国内特許公開公報は特開平3-118059号公報[甲4の2
])及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたか
ら,特許法29条2項に反し特許を受けることができないというものであ
る。
イなお,審決が認定した本願発明と引用発明との一致点,相違点は,次の
とおりである。
【一致点】
「前庭床及び一対の小陰唇を有する外陰部を含む外生殖器を有し,且つ
小陰唇間に尿道を有する女性の尿失禁を制御するための尿失禁防止装置で
あって,尿道口において尿失禁を制御する本体を有する尿失禁防止器具」
である点
【相違点1】
本体の形状に関し,本願発明は「小陰唇と前庭床との間に装着するよう
に構成された生物学的適合性材料からなり且つ尿道を閉塞する表面手段を
有する」ものであって,「前記表面手段は,前記本体に前庭床接触面を有
し」ているのに対して,引用発明は,「弁手段を有し,尿道22と整列し
かつ末端の尿道口26で尿道22の中にわずかに突出している基端部分9
4を有する導管92と,末端尿道口26の周りに延在しかつ導管に接着さ
れている拡大可撓フランジ98を含み,
フランジ98は大陰唇の内側で,尿道口26の周りに横方向に延在すると
共に小陰唇と大陰唇54とに係合し」ている点。
【相違点2】
本願発明が「前庭床接触面に設けられて前記本体と尿道との間の封止係
合をなす接着手段を有する」のに対して,引用発明はそうでない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決は,相違点に関する容易想到性の判断を誤り,その
結果として進歩性の判断を誤った違法があるから,取り消されるべきであ
る。
ア取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
(ア)本願発明は,軽度のストレス失禁又は焦燥失禁症のような過渡的な
失禁への対処を主目的とし,排尿時には器具を取り外すことを前提とし
て,尿道を外部から閉塞して尿の尿道外への流出を阻止するものである
のに対して,引用発明は,装置を装着したままで排尿することを前提と
して,尿道から一旦外部に放出された尿を弁手段によって制御するもの
であるから,通常時(ストレス時や焦燥時ではなく)においても慢性的
な排尿制御機能の不全により失禁が生じるような重度の失禁症患者を対
象としたものと考えられる。したがって,本願発明と引用発明は,技術
分野の共通性がなく,対象とするユーザーやマーケットも異なる。
(イ)引用発明の装置は,尿を尿道外(導管92の内部)に導くと共に導
管92内の弁手段により尿の放出を制御するもので,尿道が外部より閉
塞されていないから,引用発明において導管92及びその内部の弁手段
は必須の構成要件である。したがって,引用発明から導管92及び弁手
段を除外することについて,動機付けが存在しない。
(ウ)引用発明は,上記のとおり弁構造を必要とするので,装置全体の剛
性が高い。そのため,引用発明の装置は,敏感な肌への刺激が大きく,
衣類(下着)から加えられる力により多大の不快感・苦痛を与えてしま
う。これに対し,本願発明は,弁構造を必要としないから,剛性の低い
材料を採用することが可能であり,不快感・苦痛も小さい。本願発明が
対象とする軽度の尿失禁症患者は,重度の患者に比べて行動が活発であ
るので,衣類(下着)から力が加えられやすく,この点は重要である。
(エ)仮に,引用発明の装置から導管92や弁手段を除外したとしても,
尿道口26に対向する位置に開口を備えたものであって,「尿道を閉塞
する表面」を有するものとはなり得ない。
(オ)審決は,以上のような点を考慮することなく,相違点1について当
業者は容易に発明することができたと判断としている誤りがある。
イ取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
本願発明の「接着手段」は,通常時において閉鎖状態にある尿道口をそ
の状態で封止係合するものであるのに対し,引用発明は,尿を弁手段のと
ころまで導くことにより尿の放出を弁手段で制御するものである。したが
って,引用発明では,本願発明のように本体と尿道との間を封止係合をし
てしまっては,尿を弁手段まで導くことができないのであるから,引用発
明において尿道口26をその閉鎖状態にて封止するための接着手段を採用
することについて阻害要因がある。
審決は,以上のような点を考慮することなく,相違点2について当業者
は容易に発明することができたと判断としている誤りがある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
原告の主張はすべて失当であり,審決を取り消すべき理由はない。
(1)取消事由1に対し
ア引用発明は,従来の女性失禁制御装置が,収集袋や吸収性パッドを用い
ていることにより,制御の欠如,嵩張り,不快さ,困惑,活動の妨げとい
った問題を生じていたことを解決するものであり,導管92及び弁手段を
有していて,その部分には尿が溜まっているものの,全体として,尿の大
部分は膀胱及び尿道内に制御されるものである。引用発明は,比較的障害
なしに正常の活動を行うことができるものであって,尿の放出ができると
きは尿の放出をし,その他のときには,使用者に自制力を保持することを
容易にさせるものである。
一方,本願発明は,尿収集器具や吸収性パッドにおける欠点を解消する
ために,尿道を閉塞する表面手段を有するものである。
そうすると,本願発明と引用発明は,共に,尿収集器具や吸収性パッド
における欠点を解消するためのものであって,引用発明には導管92の部
分に溜まる尿はあるものの,通常時は尿の排出を止め,尿を尿道から出さ
ないことにより,失禁を防止するものであるといえる。
したがって,本願発明と引用発明とは,同様の技術分野のものであり,
対象とするユーザーあるいはマーケットが異なることもない。
イ引用発明は,尿道から漏れる尿を制御して失禁を防止するという本願発
明と同様の目的を有するものであり,さらに,引用発明は尿の放出を容易
にするものともいえるのであって,その尿の放出を容易にするという機能
に対して,より安価で簡単な構造となるように,単に尿の排出を制御(封
止)するのみとすることは,当業者にとって容易であるといえる。
そして,単に尿の排出を封止する機能とするとき,開口のない尿道口を
封止するものとなることは,自明である。そうすると,前庭床接触面を有
する表面が,尿道を閉塞する表面となることは,当然の設計的事項であっ
て,当業者にとって必然的であるといえる。
(2)取消事由2に対し
引用発明の装置は,「装置90はゲルによって尿道口26の所定位置に保
持されその他は尿道に物理的にロックされていないので,その取外しはゼラ
チン質の接着剤を除去する簡単な操作である。」(引用刊行物[甲4の1]
8欄7行~11行,甲4の2第7頁右上欄6行~9行)とされているよう
に,接着剤で取り付けられるものであって,膣前庭で尿が漏れることを防止
するためのシールをするものであるから,この面に,本体と尿道との間の封
止係合をなす,すなわち,シールをなす接着手段を有するよう構成すること
に格別の困難性は認められない。
原告は,本願発明の「接着手段」は,通常時において閉鎖状態にある尿道
口をその状態で封止係合するものであると主張しているが,本願発明の「特
許請求の範囲」には「本体と尿道との間の封止係合をなす接着手段」を有す
るとの記載しかないから,原告が主張する上記記載はなく,原告の主張は失
当である。仮に,本願発明が原告が主張するようなものであるとしても,原
告の主張するように一般に尿道口は通常時閉鎖状態にあるのであれば,尿道
を閉塞する表面を接着する時には尿道口は閉鎖状態であるから,その接着手
段は,本願発明と同様に尿道口を閉鎖状態にするものであるといえる。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)
(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明と引用発明の詳細
(1)本願発明
ア本願明細書及び図面(甲3の1)には,次のような記載がある。
(ア)「女性の尿失禁のための非外科的処置の1つとして,漏出尿を収集
又は捕集する器具を患者の尿道近くに着用させる,非治療的処置法があ
る。そのような器具は,一般に,(1)尿収集器具と,(2)吸収性パッド
の2つの部類に分類される。尿収集器具は,通常,尿道から流出した尿
を捕集するための受け口又は受け器と,受け口又は受け器を尿道の近傍
に保持するための保持手段と,尿を処分するために尿を受け口又は受け
器から貯留器又は容器へと導くための手段から成る。」(3頁左上欄1
9行~右上欄3行)
(イ)「上述した従来の各器具は,ある特定の用途には有用であるが,多
くの欠点を有している。例えば,尿収集器具の場合は,使用者は,溢流
し易い貯留器又は容器を着用しなければならない。…吸収性パッドは,
嵩張り易く,特に濡れたときには使用者によっては不快感を覚える人が
ある。又,尿収集器具は,他人に気づかれるような臭いを発することが
多く,その点でも望ましくない。上述した従来の器具の使用は,尿道か
らの尿の排出は止めることができない,あるいは止めるべきではないと
いう前提に基づいている。しかし,この前提は,本質的に過渡的なもの
であるストレス失禁又は焦燥失禁症の多くの患者にとって正しくない場
合がある。ストレス失禁又は焦燥失禁の場合,尿道を外部から閉鎖すれ
ば,多くの患者にとっては十分な尿制御を達成することができる。…従
って,尿道を外部から閉鎖することによって女性のストレス失禁又は焦
燥失禁を効果的に制御することができ,使用が容易で,着用感が快適で
あり,良好な密封性を有し,確実に保持することができる器具を求める
要望がある。本発明は,このような要望を充足することを課題とす
る。」(3頁左下欄7行~右下欄6行)
(ウ)「本発明は,上記課題を解決するために,基本的にいえば,尿道に
係合して尿道を封止するように付形されており,女性の外性器の解剖学
的構造に係合させることによって所定位置に保持されるようになされた
弾性本体から成る尿道閉鎖器具を提供する。より具体的にいえば,本発
明の好ましい第1の実施例では,上記本体は,女性性器の膣口の前方で
膣の前庭に座着し,それによって尿道を閉鎖するように構成されたほぼ
三角形の,又は矢じり形の輪郭を有するベースを備えたパッドである。
パッドの両側縁部分は,小陰唇の内部に嵌合するように付形されてお
り,パッドは,陰唇に係合することにより,尿道に密封係合した状態で
前庭にしっかりと当接されて保持されるようになされている。」(3頁
右下欄8行~20行)
「本発明は,ストレス失禁又は焦燥失禁制御のための新規な優れた解
決策を提供する。本発明の器具は,コンパクトで,目立たず,使用し易
く,着用感が快適である。この器具によれば,使用者は尿を効果的に抑
えることができるので,尿を放出させて処理する従来技術の器具に随伴
する上述した諸問題を回避する。」(4頁右上欄10行~15行)
(エ)「図5及び6は,失禁防止器具10を女性の外性器に装着したとこ
ろを示す。器具10は,そのベース14が膣口37の前方で膣36の前
庭34に座着させ,それによって尿道38を閉鎖する。パッドの接着剤
表面即ち接着剤層22の表面は,尿の漏出を防止するのに十分に尿道3
8を封止する。パッドの側縁部分18及び前端20は,小陰唇40の下
に押し込まれる。うね26の傾斜表面27が小陰唇に係合することによ
りパッド12を前庭34にしっかりと押しつけて保持する力を高め
る。」(5頁右下欄24行~6頁左上欄7行)
(オ)図(FIG.)5及び6には,器具10のベース14が尿道38を
直接閉塞している状態が図示されている。
イ上記アの本願明細書及び図面の記載によると,①従来,女性の尿失禁の
ための非外科的処置として尿収集器具や吸収性パッドを患者の尿道近くに
着用させる処置法があったが,これらの処置法は,尿収集器具や吸収性パ
ッドが外に放出された尿を捕集するものであることから,貯留器又は容器
を着用する必要があったり,使用者が不快感を覚えるなどといった欠点が
あったこと,②本願発明は,尿道を外部から閉塞することによって女性の
ストレス失禁又は焦燥失禁を効果的に制御することができ,使用が容易
で,着用感が快適であり,良好な密封性を有し,確実に保持することがで
きる尿失禁防止器具を提供する発明であること,③本願発明の実施例は,
尿道を直接閉鎖するように構成されたベースを備えたパッドが尿道に密封
係合した状態で前庭にしっかりと当接されて保持されることにより,尿を
効果的に抑えることができるというものであることが認められる。そし
て,本願明細書に明示の記載はないものの,本願発明においては,器具本
体を取り外すことにより,表面手段による尿道の閉塞が開放され,排尿す
ることが可能となるものと認められる。
本願発明の「特許請求の範囲」には「女性の尿失禁を制御するための尿
失禁防止装置」と記載されているだけで尿失禁の程度は特定されていな
い。しかし,本願明細書には,上記のとおり,本願発明は,女性のストレ
ス失禁又は焦燥失禁を効果的に制御することを目的とするものであるとの
記載がある。また,ストレス失禁又は焦燥失禁のような軽度の失禁者であ
れば,本体を確実に取り外した後に排尿することが可能であるものの,重
度の失禁者の場合には,本体が確実に取り外される前に排尿するおそれが
あるから,本願発明の構成からしても,本願発明は,ストレス失禁又は焦
燥失禁のような軽度の失禁者をその対象とするものであると理解すること
ができる。
(2)引用発明
ア引用刊行物(甲4の1)には,次のような記載がある(以下の訳文は,
甲4の2[公開特許公報平3-118059]による。)。
(ア)従来の技術につき
「女性失禁の問題を処理する公知の装置のあるものは,膀胱が連続的
に尿を収集袋の中に排出させるもので,そのため使用者が尿の放出を適
当に制御することができない。女性失禁の問題のために意図されたその
他の公知の装置はある形式の排出制御を意図し,…カテーテル,排出探
り針及び拡張器を含むものである。一般にこのような装置はまた使用者
の身体の一部分に固定された外部の流体収集装置を含んでいる。不幸に
も,使用者によって担持された収集装置は使用者の活動を妨げまたバク
テリア感染の通路を与えるおそれがある。
カテーテル,収集袋及び吸収性パッドが使用者にとって失禁を処理す
るに当ってやっかいなものであるばかりでなく,これらはしばしば使用
者に対して困惑の潜在的な源となる。制御の欠如,嵩張り,不快さ,困
惑及び活動の妨げのような問題を解決しようとする試みは,外部の収集
装置の必要をなくしまた使用者が尿道からの尿流体の流れを手で制御す
ることのできる,弁を取付けた失禁制御装置の開発に通じるものであっ
た。」(甲4の1第1欄16行~41行,甲4の2第3頁右上欄13行
~左下欄15行)
(イ)装置90につき
「女性失禁制御装置の他の実施態様が第6図にその全体が参照番号9
0で示されている。この装置90は,尿道22と整列しかつ末端の尿道
口26で尿道22の中にわずかに突出している基端部分94を有する導
管92を含んでいる。導管92の反対側の末端部分96は装置10の末
端部分38と同一であり出口開口16と排出制御弁40を含んでいる。
導管92はさらに末端尿道口26の周りに延在しかつ粘性のシリコン
ゲルのような適当な公知の生物適合性ゲルによって導管(図示しない)
に接着されている拡大可撓フランジ98を含んでいる。フランジ98は
尿道口26の周りに横方向に延在し小陰唇(図示しない)と大陰唇54
とに係合している。粘性シリコンゲルはさらにフランジ98の外側部分
を大陰唇54に接着しそのため装置90をフランジ98と導管92とが
尿道口26を閉鎖する位置に保持するのを助ける。
弁38が装置10についてすでに述べられた方法で開放位置に手で作
動されると,尿は末端開口16から排出が可能となる。装置90はゲル
によって尿道口26の所定位置に保持されその他は尿道に物理的にロッ
クされていないので,その取外しはゼラチン質の接着剤を除去する簡単
な操作である。装置90の作用は装置10についてすでに述べられた操
作方法と同様な又はこれから自明の方法で行われる。」(甲4の1第7
欄40行~第8欄14行,甲4の2第7頁左上欄7行~右上欄11行)
(ウ)装置90の上記説明に引用されている装置10の弁の作用につき
「装置10はこうして第1図に略図式に示されるように第4図の弁閉
鎖戻り止め位置にある弁38が取付けられる。したがって膀胱20に集
まる尿が入口開口14を介して導管12に入り,閉鎖された弁40によ
って,出口開口16を通って放出するのが阻止される。この閉鎖された
弁40は尿の流れるのを阻止することにより膀胱20の中に尿が蓄積で
きるようにしそのため使用者にとって自制を保持することができる。
好ましくは,全体装置10は使用者の身体の内部に配置され,それに
より出口開口16が使用者の大陰唇54の内部にこれに近接して又はそ
の末端に位置しまた弁手段40が使用者の大陰唇52にほぼ近接した又
はその末端に位置するようにする。
所望の時,使用者はその親指と人差し指とを大陰唇の間に(弁が大陰
唇の間に位置している場合)挿入して導管12の末端部分38を圧搾し
ボール44を第4図の弁閉鎖戻り止め位置から第2図の弁開放戻り止め
位置へ動かすようにする。したがって,尿は膀胱20から導管入口開口
14の中に流れることができ,そして管腔18を経て弁40を通過し出
口開口16を介して放出することができる。」(甲4の1第5欄28行
~52行,甲4の2第5頁右下欄5行~6頁左上欄6行)
(エ)発明の利点につき
「上記の記載から明らかな本発明の利点は,使用者によって操作する
のに便利でありかつ外部の収集機構を必要としない手で作動可能な女性
失禁制御装置を含んでいる。この新規な排出導管の排出制御弁は陰唇ひ
だと導管との中間に又は陰唇の末端に弁を全部収容して保持することが
できる。したがって使用者は,陰唇から離れて延出する外部の収集装置
又は構成要素の使用を必要とする公知の装置と比べて比較的障害なしに
正常の活動を行うことができる。本発明の他の利点は,尿の放出が便利
の時はいつでも尿の放出をしその他の時には自制力を保持することが使
用者にとって容易であることである。」(甲4の1第10欄36行~5
2行,甲4の2第8頁左下欄15行~右下欄7行)
イ上記アの記載によると,①女性失禁制御装置において,カテーテル,収
集袋及び吸収性パッドは,制御の欠如,嵩張り,不快さ,困惑及び活動の
妨げというような問題を有することから,引用発明は,このような外部の
収集装置の必要をなくした女性失禁制御装置を提供する発明であること,
②引用発明の装置90は,基端部分が尿道の中にわずかに突出し,末端部
分に出口開口と排出制御弁を含む導管と,尿道口の周りに延在し導管に接
着されている拡大可撓フランジとを備えた女性失禁制御装置であること,
③引用発明の装置90は,膀胱に集まる尿が,閉鎖された弁によって,出
口開口を通って放出するのが阻止されることにより,膀胱の中に尿を蓄積
でき,使用者にとって自制を保持できるものであること,④引用発明の装
置90は,導管の末端部分を圧搾して弁を開放することにより,尿が膀胱
から導管を経てその出口開口から放出されるものであることが認められ
る。
(3)以上述べたところによると,引用発明は,導管の末端部分を圧搾して弁
を開放することにより,尿が膀胱から導管を経てその出口開口から放出され
るものであって,導管の基端部分から弁で閉鎖されている部分に至るまでの
導管内に尿が存在することがあり得るのに対し,本願発明は,表面手段が尿
道を閉塞していて,器具本体を取り外すことにより排尿を可能としている点
で相違するということができる。
しかしながら,引用発明は,上記のとおり,膀胱に集まる尿が閉鎖された
弁によって,出口開口を通って放出するのが阻止されることにより,膀胱の
中に尿を蓄積でき,使用者にとって自制を保持できるものであるから,尿の
大部分は,膀胱及び尿道内に溜まっている状態であるものと解される。した
がって,引用発明は,尿が膀胱及び尿道内に溜まっている本願発明とは,尿
を膀胱及び尿道内に溜めて,尿が外に放出されないようにすることによって
女性の失禁を制御する点で共通する。
また,前記(2)イ(エ)の引用刊行物(甲4の1)の記載によると,引用発
明の利点は,①外部の収集装置を必要とする公知の装置と比べて比較的障害
なしに正常の活動を行うことができること,②いつでも尿の放出をしその他
の時には自制力を保持することが容易であることの2点であるところ,以上
述べたところから明らかなように,本願発明と引用発明は,①の利点を共通
にしている。②の点についても,上記のとおり尿の放出の方法は異なるもの
の,本願発明においても,装置を取り外して排尿することができるから,
「いつでも尿の放出をする」ことができるのであり,さらに,以上述べたと
ころから明らかなように,「その他の時には自制力を保持することが容易で
あること」という点は,本願発明と引用発明で共通するものである。
以上の認定に基づき,各取消事由について判断する。
3取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1)原告は,本願発明が軽度のストレス失禁又は焦燥失禁症のような過渡的
な失禁への対処を主目的としたものであるのに対し,引用発明は重度の失禁
症患者を対象としたものであるから,技術分野の共通性がなく,対象とする
ユーザーあるいはマーケットも異なると主張する。
前記2(1)イのとおり,本願発明は,ストレス失禁又は焦燥失禁のような
軽度の失禁者をその対象とするものであると理解することができる。これに
対し,引用刊行物には,引用発明は,重度の失禁者のみをその対象とするも
のであってストレス失禁又は焦燥失禁のような軽度の失禁者を対象とするも
のではない旨の記載は認められないし,その構成からしてもストレス失禁又
は焦燥失禁のような軽度の失禁者を対象とするものではないとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,引用刊行物の記載に基づかない主張であっ
て,採用することができない。
(2)原告は,引用発明の装置は,尿道が外部より閉塞されていないから,引
用発明において導管92及びその内部の弁手段は必須の構成要件であり,し
たがって,引用発明から導管92及び弁手段を除外することについて,動機
付けが存在しないと主張する。
しかし,前記2(3)のとおり,本願発明と引用発明は,共に,尿を膀胱及
び尿道内に溜めて,尿が外に放出されないようにすることによって女性の失
禁を制御するものであって,①外部の収集装置を必要とする公知の装置と比
べて比較的障害なしに正常の活動を行うことができること,②いつでも尿の
放出をしその他の時には自制力を保持することが容易であることという点に
おいて共通している。そして,前記2(2)(イ)のとおり,引用刊行物には,
「装置90はゲルによって尿道口26の所定位置に保持されその他は尿道に
物理的にロックされていないので,その取外しはゼラチン質の接着剤を除去
する簡単な操作である。」との記載があり,取外し操作の容易性に言及して
いる。装置を取り外したときには排尿が可能であるから,取外し操作が簡単
であるとの上記記載に当業者(その発明の属する技術の分野における通常の
知識を有する者)が接するとき,引用発明よりも安価で簡単な構造を有す
る,導管92とその内部の弁手段を除外した,本願発明のような構成(失禁
を防止する際に装置を装着して尿が外に放出されないようにし,取り外した
ときに排尿を可能とするよう,単に尿道を閉塞する構成)とすることは,当
業者であれば容易に想到し得るということができる。
したがって,導管92とその内部の弁手段を除外する動機付けがないとは
いえず,原告の上記主張は採用することができない。
(3)原告は,引用発明においては,弁の存在により装置全体の剛性が高く敏
感な肌への刺激が大きく,多大の不快感・苦痛を与えるのに対し,本願発明
は,弁構造を必要としないから剛性の低い材料を採用することができ,不快
感・苦痛も小さいと主張する。
しかしながら,本願発明は,「特許請求の範囲」において,その材料に関
して,「本体」が「生物学的適合性材料」からなることのみが記載され,剛
性については何らの特定もなされていないし,本願明細書(甲3の1)に
も,剛性について特定する記載があるとは認められないから,本願発明と引
用発明との間に原告が主張するような違いがあるとはいうことはできない。
また,仮に,引用発明において,弁の存在により,装置全体の構成として
剛性が高いものしか採用できず,剛性の低い材料を採用することができる本
願発明と違いがあるとしても,引用発明から導管92や弁手段を除外する際
に,当業者であれば,弁の存在により採用し得なかった剛性の低い材料を選
択することは当然なし得ることであるから,剛性の点が相違点1に関する進
歩性の判断を左右することはない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)原告は,仮に引用発明から導管92や弁手段を除外したとしても,尿道
口26に対向する位置に開口を備えたものであって,「尿道を閉塞する表
面」を有するものとはなり得ないと主張する。
しかしながら,引用発明から導管92や弁手段を除外する際に,当業者
が,ただ単に導管92や弁手段を除外して,拡大可撓フランジに開口が空い
たままにすることはあり得ない。前記(2)で判示したとおり,引用発明から
導管92や弁手段を除外して,当該除外した部分を閉鎖し「尿道を閉塞する
表面」とすることは,当業者が容易に想到することができたものというべき
である。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(5)以上のとおり原告が主張する取消事由1は理由がない。
4取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
原告は,本願発明の「接着手段」は,通常時において閉鎖状態にある尿道口
をその状態で封止係合するものであるのに対し,引用発明は,尿を弁手段のと
ころまで導くことにより尿の放出を弁手段で制御するものであり,引用発明で
は,本願発明のように,本体と尿道との間の封止係合をしてしまっては,尿を
弁手段まで導くことができないのであるから,引用発明において尿道口26を
その閉鎖状態にて封止するための接着手段を採用することについて阻害要因が
あると主張する。
しかしながら,前記3(2)で判示したとおり,引用発明に基づき,導管92
とその内部の弁手段を除外した,本願発明のような構成(失禁を防止する際に
装置を装着して尿が外に放出されないようにし,取り外したときに排尿を可能
とするよう,単に尿道を閉塞する構成)を採用することは,当業者が容易に想
到し得るところ,そのような構成を採用すれば,必然的に,本願発明の「接着
手段」は,通常時において閉鎖状態にある尿道口をその状態で封止係合するも
のとなる。したがって,引用発明において尿道口26をその閉鎖状態にて封止
するための接着手段を採用することについて阻害要因があるということはでき
ないから,原告が主張する取消事由2も理由がない。
5以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願
は,特許法29条2項に反し特許を受けることができないから,その旨の審決
の判断に誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

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