弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が、財団法人日本熱帯医学協会に対し、平成12年12月19日付けでした
解散の認可及び残余財産の処分の許可はそれぞれ無効であることを確認する。
第2 事案の概要
 本件は、財団法人日本熱帯医学協会(以下「本件財団」という。)の常務理事で
ある原告が、平成12年9月11日の理事会で行われた解散決議は、寄附行為に規
定された要件を欠くものであって、民法所定の解散事由に該当しないという重大か
つ明白な瑕疵が存在するから当然に無効であり、当時の厚生大臣が当該解散決議を
前提に平成12年12月19日付けでした解散の認可(以下、この解散の認可を
「本件解散認可」という。)及び残余財産の処分の許可(以下、この残余財産の処
分の許可を「本件財産処分許可」という。)は無効であるとして、その旨の確認を
求めている事案である。
1 争いのない事実
(1) 本件財団は、我が国における熱帯性疾患の調査研究とその成果の普及をは
かるとともに、熱帯地域諸国に対する医学上の協力を行うことを目的として設立さ
れた財団法人である(甲1)。原告は、本件財団の常務理事である(甲1、3及び
乙1)。
(2) 本件財団は、寄附行為第25条及び第26条で解散及び残余財産の処分に
ついて以下のとおりの定めを置いている(甲1)。
ア 寄附行為第25条(解散)
 本会の解散は、理事現在数の4分の3以上の同意を経、かつ、厚生大臣の認可を
受けなければならない。
イ 寄附行為第26条(残余財産の処分)
 本会の解散に伴う残余財産の処分は、理事全員の同意を得、厚生大臣の許可を受
けて定める。
(3) 本件財団は、平成12年9月11日に理事会を開催し、①本件財団を解散
すること、②残余財産の処分方法については、次回理事会までに検討し、全理事の
合意を得られるよう調整を行い、次回理事会で決議することとの決議をした(甲2
及び3)。
(4) 本件財団は、平成12年11月10日に理事会を開催し、残余財産等の処
分に関する件として、「現金・預貯金等の流動資産並びに基本金及び有価証券等の
固定資産から清算人が必要と認めた清算に必要な諸費用及び職員の退職金の支払い
等に必要な金額を除いたもの(以下「残余財産」という。)に関しては、財団法人
結核予防会と残余財産の使用目的等を
協議した上で、同財団の同意を得て、同財団に寄附すること。なお、同財団の同意
が得られない場合、民法第72条第3項の規定に基づき残余財産は国庫に帰属する
こととなる。」との決議をした(乙1)。
(5) 本件財団は、平成12年11月30日、上記(3)及び(4)の各理事会
決議を踏まえて、厚生大臣に対し、本件財団の寄附行為第25条及び第26条に基
づいて厚生大臣が行う解散及び残余財産処分についての認可ないし許可を申請した
(乙2)。
(6) 厚生大臣は、本件財団に対し、平成12年12月19日付けで、本件財団
の解散を認可するとの書面を発し、また、同日付けで、本件財団の残余財産の処分
を民法72条2項の規定により許可するとの書面を発した(甲4及び5)。
(7) 被告は、平成13年1月6日に施行された中央省庁等改革関係法施行法
(平成11年法律第160号)により、厚生大臣の事務を承継した。
2 争点及び争点に関する主張
(1) 厚生大臣がした本件解散認可及び本件財産処分許可が抗告訴訟の対象とな
る行政処分に該当するか否か
ア 被告の主張
 現行法上、本件財団の解散について主務官庁の認可等を要件とする旨の特別の定
めはなく、一般的にみても、公益法人の解散について主務官庁が公権力を行使する
行政庁として介入することを定めた法律の定めもない。そもそも、本件解散認可及
び本件財産処分許可は、本件財団が寄附行為第25条及び第26条の規定に基づい
て本件財団の解散の認可及び残余財産の処分の許可を申請したことに対してされた
ものであるところ、公益法人の寄附行為の中に、解散するためには、法律に定めの
ない主務官庁の認可等を必要とする旨の規定が設けられる趣旨は、当該法人の理事
が恣意的に解散手続を行うことにより事後にその効力をめぐる紛争が生じないよ
う、解散に先立ち、主務官庁の一応の確認又は助言を求めるためであるから、これ
に応じてされる認可等は、何ら公権力性を有しない単なる事実上の行為(いわゆる
行政指導の一つ)というべきである。したがって、本件解散認可及び本件財産処分
許可は、いずれも行政処分には当たらない。なお、本件財産処分許可には、民法7
2条2項の規定により許可するとの記載があるが、民法72条1項、2項は競合し
て適用される余地はないところ、本件財団では寄附行為第26条において残余財産
の帰属権利者の指定方法を定めているのであるから、同条1項
が規定する場合に該当し、その指定方法の定めにおいて、同条2項のように主務官
庁の許可を要する旨の規定が設けられていたとしても、そのことによって当該主務
官庁の許可が同条2項に基づく許可となるものではない。
イ 原告の主張
 主務官庁は、民法67条により、公益法人に対する業務監督権及びそのために必
要な命令を出す権限を付与されている。したがって、特に法人の解散という重要事
項については、主務官庁は当該法人の理事の意思に瑕疵がない等の解散要件を満た
しているか否かについて審査監督すべきである。本件財団の寄附行為に定められた
認可は、同条の規定に基づく監督権行使の一環であり、かつ登記申請上も要件とな
っており、解散決議が寄附行為に規定されている解散要件に該当しない場合には、
主務官庁である被告は解散を認可すべきではない。このように、主務官庁の認可処
分は、民法67条に基づき当該公益法人がその解散要件を具備しているか否かを審
査確認する処分であるから、本件解散認可の処分は抗告訴訟の対象となる処分とい
える。
 本件残余財産の処分の許可は、民法72条2項に基づく処分であるから、抗告訴
訟の対象となる処分である。
(2) 原告適格の有無
ア 被告の主張
 本件解散認可及び本件財産処分許可は、何ら法令上の根拠を有しない事実上の措
置にすぎず、本件財団の解散及び残余財産の処分の効力に影響を及ぼすことはない
から、原告の地位又は権利関係には何ら影響を与えないのであり、原告が本件財団
の解散により有給の理事としての地位を失うこととなっても、それを本件解散認可
及び本件財産処分許可の直接の効果ということはできないから、原告は、本件解散
認可及び本件財産処分許可の無効確認を求める法律上の利益を有せず、当事者適格
を欠く。
イ 原告の主張
 原告は、本件財団の理事手当を支給される有給の理事であり、本件財団が解散す
ることによりその地位を失うことになるから、行政事件訴訟法36条の「法律上の
利益を有する者」に該当し、当事者適格が認められる。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 本件訴えは、抗告訴訟の一類型である無効等確認の訴え(行政事件訴訟法
3条4項)として提起されたものであるが、抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分
その他公権力の行使に当たる行為」(同条2項。なお、同項において、「処分」と
定義され、同条4項の無効等確認の訴えの対象とされ
ている。)とは、公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち、その行為
によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認め
られているものをいう。
(2) これを本件解散認可についてみるに、本件解散認可は、財団法人である本
件財団が、その解散について、前記第2の1(2)アのとおりの規定を置いている
ことから、本件財団から厚生大臣に対して、解散についての認可を申請したことに
対してされたものである(前記第2の1(6))。
 現行法上、本件財団のような公益法人の解散について、主務官庁が公権力を行使
する行政庁として介入することを認めた法律の定めはなく、本件解散認可は、公法
上の根拠がないにもかかわらず本件財団の寄附行為の定めを尊重し、当該寄附行為
に基づく私法上の効力の実現に協力したものにすぎず、その実体は何ら公権力性を
有しないものとみるほかない。このことは、学校法人や社会福祉法人の理事会等の
議決による解散については、法律上、所轄庁の認可を受けなければその効力を生じ
ないとされていること(私立学校法50条2項、社会福祉法46条2項)との比較
からも明らかである。
 これに対し、原告は、民法67条において公益法人が主務官庁の監督に服すると
規定されていることを根拠に、本件解散認可には処分性が認められると主張する。
しかしながら、同条1項は法人の「業務」が主務官庁の監督に服すると規定するに
とどまるから、その文言に着目すると、法人の存続に関する事項が法人の「業務」
の一つとして同項の監督の対象に当然に含まれると解することはできない。むし
ろ、公益法人の設立及び解散に関しては民法34条及び82条が別途設けられてお
り、特に公益法人の設立に関しては、民法34条が明示的に主務官庁の許可を設立
の要件として規定していることからすると、公益法人の設立に関しては専ら民法3
4条の許可の付与の適否が問題となるのであって、民法67条による主務官庁の監
督が行われる余地はないと解される。他方、公益法人の解散に関しては、民法82
条1項として裁判所の監督に服するとの規定が設けられているだけで、主務官庁の
認可を要件とする明文の規定は設けられていない。以上によれば、民法67条に基
づく主務官庁の監督には、法人の設立や解散といったその存続に関する事項は含ま
れないものと解すべきであって、原告の上記主張を採用することはでき
ない。
 また、原告は、解散の認可決定がなければ解散登記をすることができないことか
ら、本件解散認可は行政処分であると主張する。しかし、解散登記に厚生大臣によ
る認可が必要とされているのは、本件解散認可が行政処分であるからではなく、前
記第2の1(2)のとおり、本件財団の寄附行為の中に、本件財団の解散には主務
官庁である厚生大臣の認可を受けると規定されており、その効力によって、厚生大
臣の認可が本件財団の解散の要件とされているからにすぎないというべきである。
すなわち、法人設立許可申請において、将来法人の解散が問題となった際には寄附
行為の内容に沿って認可の求めに応答するよう黙示的かつ包括的に厚生大臣に協力
の要請がされ、大臣は当該申請に基づいて設立許可をすると、そのことによって上
記要請に同意したこととなり、その同意の効果によって認可を行うべき法律関係が
生じているにすぎない。行政庁が国民の権利義務に変動を生ずるような行為を行う
ためには必ず法令上の根拠を必要とするのであって、法律によらないで行政庁が国
民の権利義務に変動を及ぼすような権限を創設するのは許されないことであるか
ら、たとえ上記のような関係に基づき寄附行為において厚生大臣の認可が解散の要
件とされていたとしても、それによって、厚生大臣が公権力の行使として本件解散
認可をし得ることにはならず、同認可に処分性が付与されるということはできな
い。
(3) 次に、本件財産処分許可についてみるに、財団法人の残余財産は、寄附行
為をもってその帰属権利者を指定せず又はこれを指定する方法を定めなかったとき
は、理事が主務官庁の許可を得て当該法人の目的に類似する目的のためにその財産
を処分することができる旨定められているところ(民法72条2項)、前記第2の
1(6)のとおり、厚生大臣は、本件財団の残余財産の処分を民法72条2項の規
定により許可するとしていることから、原告は、本件財産処分許可は民法72条2
項の規定による処分であり、抗告訴訟の対象となると主張する。
 そこで検討するに、一般に、民法72条2項の規定による許可は、寄附行為をも
って残余財産の帰属する権利者を指定せず又は指定する方法を定めていない財団の
残余財産の帰属に直接影響を及ぼすのであるから、抗告訴訟の対象となる「行政庁
の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当することとなる。しかしながら、
寄附行為で残
余財産の帰属者ないし帰属方法を定めている財団においては、その定めに従って残
余財産の帰属が決定されるのであって、これに公権力の介入する余地はないという
ほかない。そして、前記第2の1(2)イのとおり、本件財団の寄附行為第26条
には残余財産の帰属方法に関する定めがあり、その規定に基づいて前記第2の1
(4)のとおりの内容で残余財産を処分する旨の決議がされている。したがって、
本件財産処分許可は寄附行為第26条の規定に基づいてされたものとみるべきであ
って、民法72条2項の処分ではなく、認可の書面に記載された「民法72条2項
の規定により」との文言は単なる誤記にすぎないとみるべきものであるから、本件
財産処分許可も本件解散認可と同様に、何ら公権力性を有しない行為にすぎないも
のとみるほかなく、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 以上からすると、原告が本件訴えにおいて無効確認を求めている本件解散
認可及び本件財産処分許可はいずれも抗告訴訟の対象とならないものであるといわ
ざるを得ない。
2 結論
 以上の次第であるから、本件訴えはその余の点を判断するまでもなくいずれも不
適法なものであるからこれらを却下することとし、訴訟費用の負担について、行政
事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 村田斉志
裁判官 日暮直子

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