弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人谷村唯一郎、同浅原豊充、同塚本重頼、同菅沼隆志の上告理由第一点
について。
 論旨は、原判決は、何ら本件事故の原因につき判示するところがないという。
 しかし、原判示によれば、Dが農協E支所から叺を荷台に積んで自転車に乗つて
国道筋に出て左廻りに大きく道の中央に進出し、未だその進路を左側に復しきらず、
中央やや左寄りを進行していたところに、上告人Aの運転する自動車が、国道中央
やや右寄りを右自転車と殆んど間隔を置かずに通過せんとして、自動車の左前方泥
除けを自転車の叺に接触せしめ、接触後転倒した自転車の上を後車輪で通過したと
いうに在り、そして、Dは自動車がその後方約三、四米の距離に迫つたとき突如右
側に寄つて来たので、ブレーキが完全であつても、両車の衝突は免れなかつたとの
事実は、証拠上、認められないというのであるから、原判決には所論のごとき違法
はなく、所論は採用し難い。
 同第二点について。
 論旨は、「自動車運転者に対して、その前方に同一方向に進行する自転車のある
場合、常に進路の間隔を拡大せしめ、且自動車が突如自動車の進路に近寄つても急
制動により衝突を免れる程に速度を低減しなければならないとする」原判決は、自
動車運転者たる上告人Aに過重な注意義務を課するものであるという。
 しかし、所論原審の判断には所論のごとき法令の解釈を誤つた違法があるとはな
し難く所論は、独自の見解たるにとどまり、採用し得ない。
 同第三点について。
 論旨は、原審は、上告人Aが、被害者Dの自転車を発見した地点及び急制動にか
かつた地点を明らかにせずして、上告人Aに減速義務違背があるとしたのは違法で
あるという。
 しかし、原判決挙示の証拠関係に照らせば、上告人Aは被害者Dの自転車接触し
た当時時速三〇粁以上の速度で進行していたか、或いは右接触の危険を察知したと
きその判断を認り時機を失せず急制動の措置に出なかつた(原判決が、上告人Aは
約五〇米前方に被害者Dを発見したというにあることは、判文上推測に難くない)
旨の原審の認定は、首肯するに足りるから、原判決には所論のごとき違法はなく、
所論は採用し得ない。
 同第四点について。
 論旨は、甲第八、一三、一五、一六、乙第一一、一二の三、一四、一八号証の各
記載、第一審証人Fの証言、第一審及び原審における上告人Aの供述中「被害者D
は上告人Aの自転車がその後方約三、四米の距離に迫つたとき突如右側に寄つて来
たのであるから、ブレーキが完全であつても、本件衝突は免れ得ないかつた」旨の
部分は措信し難いとした原審の認定判断を非難するものである。
 しかし、所論は、結局、原審専権の証拠の取捨判断、事実の認定を争うにとどま
り、採用するに足らない。
 同第五点について。
 論旨は、本件破傷風症をもつて通常人の予見できない特別事情によるものとはい
えないとした原審の認定は、証拠に基かないものであるか、経験則に反するもので
あるという。
 しかし、右原審の認定は、その挙示する証拠により、首肯するに足り、所論証拠
をもつてするも右原審の認定判断を違法とするを得ない。所論は採用し難い。
 同第六点について。
 論旨は、原判決が、上告会社は上告人Aを雇傭するに当り口頭或は技術の試験を
行つてその適格を査定し、また入社後毎月二の日に幹部から事故防止の訓示をし、
毎始業前、終業後には車体の整備点検、故障の修理をなさしめる等配慮していた旨
の事実を認定しながら、未だもつて上告会社が法の要求する相当の注意を尽したも
のとはいえないとしているのは、選任・監督のいずれについて相当の注意を欠くと
するのか不明であるのみならず、法の要求する相当の注意の解釈を誤つたものであ
るという。
 しかし、使用者が、民法七一五条一項但書前段の規定により、その責を免れるた
めには、被用者の選任・監督の双方につき相当の注意をなした場合に限ることは、
同規定上明白であるところ、所論原判示が、要するに、右選任・監督の双方につき
相当の注意を尽したとするものでないことは明らかであり、そして右原審の判断は
正当として是認し得られるから、所論は採用し難い。
 同第七点について。
 論旨は、要するに、原判決が本件損害賠償額を定めるにつき被害者Dの過失を斟
酌せず、また斟酌しないことの理由を示さないのは違法であるという。
 しかし、不法行為による損害賠償額の算定につき被害者の過失を斟酌すると否と
は裁判所の自由裁量に属するところであるのみならず、原判決は、結局、被害者D
の過失を斟酌すべきではないとしているのであつて、原審確定の事実関係の下にお
いては、未だ、所論Dの過失を斟酌しないことをもつて違法であるともなし難い。
従つて、所論は採用するのに足らない。
 同第八点について。
 論旨は、上告人Aの本件事故に関する刑事々件ついては、同上告人に過失がない
として無罪の判決がなされているところ、原審において、右刑事々件に関与した裁
判官一名が構成員となつており、同事件の記録は証拠として提出されているのに、
原判決がこの点につき何ら考慮を払わなかつたのは違法であるという。
 しかし、所論刑事判決において上告人Aの過失が認められなかつたからといつて、
民事判決においてこれと反対の事実を認めることはもとより何らの妨げもないとこ
ろであつて、原判決が、証拠に基き、同上告人の過失を認定した以上、隅々右刑事
判決の構成員たる一名の裁判官が原判決に関与し、刑事々件の一件記録が証拠とし
て提出されているからといつて、特に刑事判決の不当なる所以を一々説明を加えな
ければならないわけのものでないから、所論は採用するに足らない(引用の当裁判
所判決は本件と事案を異にする)。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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