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平成10年(行ケ)第401号 審決取消請求事件(平成13年3月28日口頭弁
論終結)
          判         決
      原      告  日清製粉株式会社
       訴訟代理人弁護士  丹羽一彦
       同          田中克幸
       同          大野聖二
       同    弁理士  佐藤辰男
訴訟復代理人弁護士  北谷典香
同弁理士新井信輔
       被      告  特許庁長官 及川耕造
       指定代理人  田中久直
       同          徳廣正道
       同          森 田 ひとみ
       同          宮川久成
          主         文
      特許庁が平成10年審判第4292号事件について平成10年11月
17日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、昭和58年5月17日に出願した特願昭58-85072号出願の
一部を新たな特許出願として、平成3年7月25日、名称を「即席冷凍麺類用穀
粉」とする発明につき特許出願をし(特願平3-185094号)、平成6年12
月2日付け手続補正書により明細書の特許請求の範囲の記載を補正した(以下、補
正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明を「本願発明」という。)が、平成1
0年2月9日に拒絶査定を受けたので、同年3月26日、これに対する不服の審判
の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成10年審判第4292号事件として審理した上、同
年11月17日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本
は同月30日、原告に送達された。
 2 本願発明の要旨
   タピオカ澱粉(注、上記手続補正書に「殿粉」とあるのは誤記と認める。)
12~50重量%と穀粉類88~50重量%とからなる即席冷凍麺類用穀粉。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、本件特許出願の日前の
出願であって本件特許出願後に出願公開された特願昭58-32268号出願(以
下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書(以下「先願明細書」とい
う。)に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であると認められ、
本願発明の発明者が先願明細書に記載された発明者と同一であるとも、本件特許出
願時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明
は、特許法29条の2第1項の規定(注、「平成5年法律第26号による改正前の
特許法29条の2第1項の規定」の趣旨と解される。以下、「特許法29条の2第
1項」というときは、同改正前の同法29条の2第1項を指す。)により特許を受
けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、本願発明の要旨の認定及び先願明細書の記載をそのまま摘記
した部分(審決書2頁19行目~6頁9行目)の認定は認める。
   審決は、先願発明が用途発明として未完成であって、本願発明に対する後願
排除効を有していないことを看過した(取消事由1)ことにより、また、先願発明
を誤認し本願発明との一致点の認定を誤って(取消事由2)、本願発明が先願発明
と同一である旨誤って判断した結果、特許法29条の2第1項の規定により特許を
受けることができないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消
されるべきである。
 1 取消事由1(先願発明の未完成)
  (1)先願は、昭和58年2月28日の出願に係り、昭和59年9月5日に出願
公開され、平成3年10月9日に特許第1620460号として設定登録されたも
のである。
    ところで、本願発明が、先願発明と同一であるとして特許法29条の2第
1項によって特許を受けることができないとされるため、すなわち、先願発明が本
願発明に対するいわゆる後願排除効を有するためには、後記のとおり、先願発明が
用途発明として完成していることが必要であると解すべきである。そして、発明と
は、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、一定の技術的課題の設定、その
課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達
成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが、発明が完成
したというためには、その技術手段が当該技術分野における通常の知識を有する者
が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的な
ものとして構成されていることを要し、またこれをもって足りるものと解されてい
る(最高裁昭和61年10月3日判決・民集40巻6号1068頁)。
  (2)しかしながら、以下のとおり、先願発明は用途発明として完成していな
い。
   ア 本願発明の要旨が規定するとおり、本願発明は、穀粉(小麦粉又は小麦
粉と異種穀粉との混合物)にタピオカ澱粉を特定割合で配合した即席冷凍麺類用穀
粉であることを構成要件とするものであり、タピオカ澱粉と穀粉との組成物を即席
冷凍麺類用穀粉に用いると食味、食感の点で優れていること、すなわち、タピオカ
澱粉という既知の物質を特定割合で他の穀粉類と配合して即席冷凍麺類用穀粉とい
う用途に使用することにより優れた効果が得られることを見いだして特許出願され
たものであり、いわゆる用途発明である。
     用途発明は、特定の用途を見いだしたとされる物質が公知であったとい
うだけで新規性が失われるものではなく、出願前、その物質に当該用途が見いださ
れていた場合に初めて新規性が否定されるというべきである。したがって、用途発
明の新規性を判断する上で、対比の対象となる発明は、用途発明でなければならな
い。
   イ 先願明細書には「タピオカ澱粉5~30重量%と穀粉95~70重量%
とを配合した製麺原料粉を真空度約600㎜Hg以下の減圧環境下で加水混練し、常
法どおり製麺することにより生うどんを製造し、次いで生うどんを沸とう水中で茹
でてゆでうどんを製造し、得られたゆでうどんを急速冷凍することにより冷凍うど
んを製造すること」(審決書6頁11行目~17行目)が記載されている。
     この記載を前提とする限り、先願明細書には「タピオカ澱粉5~30重
量%と穀粉95~70重量%とからなる冷凍麺類用穀粉」の発明(先願発明)が記
載されており、先願発明は、「タピオカ澱粉12~30重量%と穀粉類88~70
重量%とからなる」(同7頁末行~8頁1行目)冷凍麺類用穀粉の点で本願発明と
一致することになる。
     しかしながら、先願明細書(甲第2号証)に、唯一冷凍麺の製造方法が
記載されている実施例1の記載(3頁右下欄1行目~4頁左上欄5行目)に従っ
て、原告が、タピオカ澱粉11重量部と中力小麦粉89重量部を配合した穀粉によ
り実際に製造した冷凍うどんにつき実施した、官能評価試験、冷凍うどんの解凍前
後の水分測定及び水分勾配試験の結果は、実験成績証明書(甲第5号証)に記載さ
れているとおりであり、当該官能評価試験(以下「原告官能評価試験」という。)
において、先願明細書の実施例1に従って製造された冷凍うどんは、小麦粉100
%使用の麺を基準としその評価点を「3」として対比した場合に、「滑らかさ1.
1」、「粘性1.7」、「弾力性1.0」及び「煮崩れ状態1.0」とされ、各項
目につき、小麦粉100%使用の麺よりも劣悪な評価しか得られていない。そうす
ると、先願明細書の実施例1ではタピオカ澱粉を特定割合で配合した穀粉が冷凍麺
を製造することに適しているという用途は見いだされているということができな
い。すなわち、先願明細書の実施例1の記載に関し、実験成績証明書(甲第5号
証)記載の結果を踏まえて当業者がこれを理解すれば、同実施例の記載には、タピ
オカ澱粉を配合することにより、小麦粉100%使用の麺よりも、冷凍うどんを製
造した場合に劣悪な効果しか得られないということが開示されていると理解される
のであり、穀粉にタピオカ澱粉を配合することにより、冷凍麺類用穀粉として効果
があることは何ら開示されていないのである。
     したがって、先願明細書の実施例1の記載では、タピオカ澱粉入りの冷
凍麺類用穀粉という用途発明は、当業者が反復継続して所定の効果を挙げることが
できる程度まで具体的・客観的なものとして構成されているとはいえず、発明とし
て未完成であるといわざるを得ない。
     しかも、先願明細書において、冷凍麺の製造方法が記載されている実施
例は実施例1だけであり、それ以外の実施例を含めた先願明細書の記載において、
先願明細書が開示しているタピオカ澱粉を5~30重量%混合した冷凍麺類用穀粉
という用途発明を支持する記載はないから、その実施例1に開示された内容が不十
分であり、発明未完成の瑕疵を帯びる以上、先願明細書が開示する穀粉にタピオカ
澱粉5~30重量%を混合した冷凍麺類用穀粉という先願発明全体が発明未完成の
瑕疵を帯びることになる。
     そうすると、先願発明と本願発明の一致点である「タピオカ澱粉12~
30重量%と穀粉類88~70重量%とからなる冷凍麺類用穀粉」という発明は、
先願に関しては、このような未完成発明の一部である以上、発明未完成の瑕疵を同
じく帯びることになることは明らかである。
  (3)したがって、先願発明が用途発明として完成しているということはできな
いから、先願発明に本願発明に対する後願排除効は生じない。すなわち、本願発明
が、先願発明と同一であるとして特許法29条の2第1項によって特許を受けるこ
とができないとした審決の判断は誤りである。
  (4)ア被告は、用途発明の完成を従来技術より優れた効果を奏する点に求める
ことは誤りであって、先願明細書記載の穀粉によって喫食可能な即席冷凍麺類が製
造できれば、即席冷凍麺類用としての用途があることが確認でき、先願明細書にお
いて、即席冷凍麺類用穀粉という用途発明が完成していると主張する。
     しかしながら、被告も引用する工業所有権用語辞典編集委員会編「工業
所有権用語辞典<新版>」(乙第31号証)に記載されているように、用途発明を
特許法の対象とされる発明と認める根拠は、用途発明が属性の単なる発見ではな
く、属性の発見に基づき、その物を一定の目的に利用するという創作的要素が加え
られたものであるという考え方にある(441頁右欄29行目~33行目)。
     そして、タピオカ澱粉が喫食可能であることは古くから誰でもが知って
いる事柄であり、これを小麦粉等の即席冷凍麺類に使用できる穀粉に混ぜても喫食
可能であることも、誰でもが認識できることである。そうすると、被告主張のよう
に喫食可能な即席冷凍麺類が製造できればよいとするのであれば、創作的要素など
あり得ず、用途発明と呼べるようなものではなくなってしまう。また、それで即席
冷凍麺類用穀粉という用途発明が完成しているとすれば、先願の出願前から、既に
タピオカを添加した穀粉により喫食可能な即席冷凍麺類が製造できるという用途発
明は完成していたことになってしまい、先願発明は新規性が失われることになっ
て、先願が特許として成立していることと相容れない。
     したがって、被告の主張が不合理なことは明らかである。
   イ 被告は、シマダヤ株式会社が実施した官能評価試験(以下「シマダヤ官
能評価試験」という。)の結果(乙第22号証)において、先願明細書(甲第2号
証)の実施例1の記載に従って実際に製造した冷凍うどんが、小麦粉100%使用
の麺に比較して、「粘性」及び「煮崩れ状態」については差は認められないもの
の、「滑らかさ」及び「弾力性」において良好な評価が得られていると主張し、さ
らに、原告官能評価試験(甲第5号証)が、その評価手法を誤ったものであり、そ
の結果を信用することはできないと主張するが、以下のとおり、理由がない。
    a 被告は、原告官能評価試験における沸騰水中で3分間かけて解凍、調
理する方法では、解凍後の水分含量(77.91%(歩留まり385%))が高過
ぎ、ゆで過ぎの状態にあるから、このような試験は、先願明細書の実施例1を正し
く追試したものということはできないと主張する。そして、シマダヤ官能評価試験
においては、約1リットルの沸騰水中で1分間解凍後、冷しうどんを得るという解
凍方法が採用されている。
      しかしながら、先願明細書(甲第2号証)の実施例1には、単に「解
凍・調理」としか記載されていないので、原告官能評価試験においては、一般的に
使用されている解凍方法を用いて試験したものである。
      そして、原告が、改めて先願明細書の実施例1の記載に従って実際に
製造した冷凍うどん(ただし、被告の上記主張を受けて、解凍方法は、約1リット
ルの沸騰水中で1分間解凍後、冷しうどんを得るという方法によった。)につき実
施した官能評価試験(以下「原告追加官能評価試験」という。)の結果は実験成績
証明書(甲第16号証)記載のとおりであり、上記先願明細書の実施例1に従って
製造された冷凍うどんは、小麦粉100%使用の麺を基準としその評価点を「3」
として対比した場合に、「滑らかさ1.8」、「粘性1.9」、「弾力性1.3」
及び「煮崩れ状態1.7」とされ、各項目につき、小麦粉100%使用の麺よりも
劣悪な評価しか得られていない。
      したがって、上記約1リットルの沸騰水中で1分間解凍後、冷しうど
んを得るという解凍、調理方法が先願発明において最適の解凍、調理法であると仮
定しても、小麦粉100%使用の冷凍うどんよりも、品質的に劣っており、先願発
明が発明未完成の暇疵を帯びることに相違はない。
    b 被告は、先願明細書の実施例1記載の製法に従って製造した麺と、比
較の基準とした小麦粉100%使用の麺とでは、原料以外のすべての製造条件や調
理の条件をそろえて比較を行うべきであるのに、原告官能評価試験では、「参考
品」(小麦粉100%使用の麺)の製麺方法、麺帯最終厚、ゆで条件及び解凍方法
が先願明細書の実施例1に記載されたものとは異なっているから、そのような比較
評価の結果から、直ちに先願発明が未完成であるとの結論を導くことはできないの
に対し、シマダヤ官能評価試験においては、比較の基準とした小麦粉100%使用
の麺は、先願明細書の実施例1記載の配合である「タピオカ澱粉11重量部と中力
小麦粉89重量部」に代えて、中力小麦粉100重量部とした以外は先願明細書の
実施例1の記載と同一条件で調製したものを使用しているとも主張する。
      しかしながら、シマダヤ官能評価試験における、上記のような小麦粉
100%使用の麺の製造方法は不適切であり、このような小麦粉100%使用の冷
凍うどんよりも、先願明細書の実施例1記載の製法に従って製造した冷凍うどんが
優れていると主張しても意味はなく、被告の主張は失当である。
      すなわち、冷凍うどんにおいて、解凍前の水分量に比べ解凍後の水分
量が増加することは、当業者の技術常識であり、原告官能評価試験(甲第5号証)
及びシマダヤ官能評価試験(乙第22号証)の双方にも示されている。そのため、
冷凍うどんを製造する場合には、「月刊麺業界」昭和58年4月号(甲第17号
証)に、「ゆであげ」につき「固めにゆでるのがポイント」と記載されているよう
に、解凍後の水分量の増加を見越して、ゆであげ時には低めの水分量とすることが
常法とされており、しかも、被告の主張するとおり、通常のゆで麺の製品水分は7
0%前後であるから、冷凍前のゆであげ時にはこれよりもやや低くし、解凍により
水分量が70%程度にするのが一般的な冷凍うどんの製造方法である。
      そうした場合、先願明細書(甲第2号証)の実施例1の「生うどんを
沸とう水中で18分間ゆでて本発明に係るゆでうどんを得た」(3頁右下欄13行
目~14行目)との記載に係るゆであげ方法は、先願発明の発明者が、特にタピオ
カ澱粉を添加することにより最適であると信じている方法であるとしても、小麦粉
100%使用のうどんにそのまま適用すれば、一般的に適切とされるよりもはるか
に多い水分量となってしまい、品質劣悪な冷凍うどんができ上がってしまうこと
は、当業者において容易に理解できることである。
      これに対し、原告官能評価試験(甲第5号証)及び原告追加官能評価
試験(甲第16号証)における小麦粉100%使用の冷凍うどんは、被告主張のと
おり、冷凍状態での水分含量69.79%前後、解凍後は70.40%前後と考え
られるのであり、小麦粉100%使用の冷凍うどんとして、常法に従って製造され
ているものである。
      この点につき、被告は、農林水産省食品総合研究所発行の「小麦の品
質評価法 -官能検査によるめん適性-」(乙第23号証添付資料1)及び「食品
と科学」28巻3号(乙第23号証添付資料2)の「試料のゆで時間は、生めん投
入後20分間から24分間の範囲とする」(乙第23号証添付資料1の4頁2行
目、同添付資料2の128頁3段目9行目~11行目)との記載を引用して、先願
明細書に記載の「18分」がゆで時間として不適切であるとはいえないと主張す
る。
      しかしながら、この品質評価法は、あくまでうどんの原料である小麦
粉の品質評価のための方法であって、食味、食感の優れたうどんとするための方法
とは直接の関係がない。
 2 取消事由2(一致点の認定の誤り)
   審決は、「先願明細書に記載の『冷凍うどん』は、解凍、味付けしてそのま
ま食されるものであるから、本願発明の『即席冷凍麺』に相当するものである。」
(審決書7頁1行目~4行目)と認定した上、本願発明と先願発明とが「即席冷凍
麺類用穀粉」(同8頁1行目~2行目)の点で一致すると認定した。
   しかしながら、本願発明における即席冷凍麺類とは、解凍しただけで麺自体
としておいしく食べられる状態となる麺類であり、喫食に際して麺自体への調理が
必須の工程とならないものである。また、本願発明は、お湯を用いないで水で解凍
することによってもおいしく食べられる冷凍麺類であり、即席性が極めて高い。こ
れに対し、先願明細書(甲第2号証)の実施例1に「解凍・調理して試食した」
(4頁左上欄4行目)と記載されているように、先願明細書記載の冷凍うどんは、
「解凍」したのみではまだ材料にすぎず、これを可食状態にするには「調理」工程
が必要である。したがって、審決の上記「解凍、味付けしてそのまま食される」と
の認定は誤りであり、この認定に基づいて、本願発明と先願発明とが「即席冷凍麺
類用穀粉」の点で一致するとした認定も誤りである。
第4 被告の反論
   審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(先願発明の未完成)について
  (1)原告の主張のうち、先願の出願日、出願公開の日並びに登録の日及び登録
番号は認める。また、発明の完成の意義に関する主張(最高裁昭和61年10月3
日判決の判旨に基づく主張)、本願発明が用途発明であること、用途発明の新規性
を判断する上で対比の対象となる発明が用途発明でなければならないことも認める
(ただし、用途発明の意義についての原告の主張を認めるものではない。)。
    先願発明が本願発明に対する後願排除効を有するためには、先願発明が完
成した用途発明であることが必要であるということは、後願の発明(本願発明)が
完成した発明であるということを前提とした上で認める。すなわち、本願発明と先
願明細書に記載された先願発明とが「タピオカ澱粉12~30重量%と穀粉類88
~70重量%とからなる」(審決書7頁末行~8頁1行目)冷凍麺類用穀粉の点で
本願発明と一致することは、原告の認めるところである(なお、原告は、本願発明
と先願発明とが「即席冷凍麺類用穀粉」の点で一致するとした審決の認定が誤りで
あると主張するが、後記のとおり、審決のこの点の認定にも誤りはなく、以下の主
張では、本願発明と先願発明とが「即席冷凍麺類用穀粉」の点で一致することを前
提とする。)。そして、通常の技術では、後願の発明と先願の明細書に記載された
発明とが同一の構成であれば、同じ程度に完成しており、同じ効果を奏すると判断
するのが当然であるから、本願発明が完成した発明であるとすれば、とりもなおさ
ず、先願発明も完成した発明であることになる。先願発明が未完成であるというこ
とは、タピオカ澱粉5~30重量%と穀粉類95~70重量%とから成る穀粉を原
料としたのでは、当業者が反復実施して即席冷凍うどんを製造することができない
ということを意味するものであるから、原告が、先願発明が完成した発明でないと
主張しながら、同じ原料組成の本願発明が完成している旨、すなわち、タピオカ澱
粉12~50重量%と穀粉類88~50重量%とから成る穀粉を用いて即席冷凍麺
類を製造できると主張するのは矛盾するものである。
  (2)原告は、先願発明が用途発明として完成していないと主張するが、次のと
おり、誤りである。
   ア 本願発明の要旨は、「タピオカ澱粉12~50重量%と穀粉類88~5
0重量%とからなる即席冷凍麺類用穀粉」であるところ、その「即席冷凍麺類」の
用語には、その麺の食味、食感や冷凍、解凍方法等を限定する意味はなく、単に解
凍してそのまま食することができるという程度の意味しか有していない。したがっ
て、本願発明と対比されるべき先願明細書記載の「即席冷凍麺類用穀粉」は、あく
まで解凍してそのまま食することができる麺類が製造できるという限度で完成した
技術であれば足りるものである。
     そこで、審決は、本願発明と対比するのに必要な事項として、「先願明
細書には、タピオカ澱粉5~30重量%と穀粉95~70重量%とを配合した製麺
原料粉を真空度約600㎜Hg以下の減圧環境下で加水混練し、常法どおり製麺する
ことにより生うどんを製造し、次いで生うどんを沸とう水中で苑でてゆでうどんを
製造し、得られたゆでうどんを急速冷凍することにより冷凍うどんを製造すること
が記載されている」(審決書6頁10行目~18行目)ことを認定し、「先願明細
書に記載の『冷凍うどん』は解凍、味付けしてそのまま食されるものであるから、
本願発明の『即席冷凍麺』に相当する」(同7頁1行目~3行目)と判断し、さら
に、「両者(注、本願発明及び先願発明)は、タピオカ澱粉12~30重量%と穀
粉類88~70重量%とからなる即席冷凍麺類用穀粉の点で一致」(同7頁末行~
8頁2行目)すると判断したものである。
     すなわち、先願明細書(甲第2号証)には、「手延べ風麺類の製造法」
(特許請求の範囲)の発明が記載されているが、審決としては、本願発明の「即席
冷凍麺類」に当たるかどうかの対比が可能な範囲で、先願明細書に記載の技術から
そこに記載された冷凍麺を把握すれば足りるものであるから、先願明細書の開示に
従って得られる冷凍うどんとして、厳密に「手延べ風」であるうどんのみを認定す
る必要はなく、「手延べ風」の域に達しないものや、手延べ風とは異なった特性を
有する麺をも含め、喫食可能な麺という広い意味で「即席冷凍麺」をとらえたもの
であり、それで足りるものである。
   イ 小麦粉を使用して機械的な手段で製麺を行うことは、先願の出願時にお
いて十分に確立された周知の技術であり、また、その時点で麺の冷凍技術も周知で
あった。そして、先願明細書には、機械製麺による麺の製造に当たり、従来の小麦
粉100%使用の麺より品質の良いものを得るために、「原料にタピオカ澱粉を略
5重量%以上配合する点」及び「減圧環境下で原料を混練する点」を改良して製麺
することが記載されている。そうすると、先願発明は、「タピオカ澱粉配合割合が
略5重量%以上である製麺原料」を使用し、特定の混練条件を採用することによ
り、従来の原料で機械製麺した場合に比べて所望の麺類が得られることを主たる技
術的特徴としており、いったん麺としたものを冷凍して製品化する点に関しては、
通常の冷凍ないし解凍手段の適用を意図したものであると解されるものである。
     すなわち、先願明細書に記載された「タピオカ澱粉配合割合が略5重量
%以上である製麺原料」は、上記のような意味での冷凍麺用の原料として把握され
るのであって、冷凍技術そのものや冷凍麺としての利用性が、先願明細書によって
初めて開示されたというものではない。先願明細書に、当該技術分野における通常
の知識を有する者が上記穀粉を使用し、反復実施して目的とする麺類の製造ができ
る程度の記載がされていれば、冷凍麺用穀粉の発明として未完成であるということ
はできない。そして、先願明細書に具体的に記載されている穀粉の原料組成、混練
方法、製麺、ゆで処理、冷凍処理に関し、当業者が通常の技術常識に基づいて、即
席冷凍うどんを反復して製造することを妨げる事由は見当たらない。
     したがって、製麺分野において通常の知識を有するものが先願明細書の
記載に接したとき、そこに記載されている原料から製造される麺は喫食可能なもの
であると十分に理解するのであり、そうであれば、麺としたものの品質を維持する
冷凍技術も周知である以上、先願明細書には、そこに記載された穀粉によって喫食
可能な即席冷凍麺を製造する完成した技術が記載されており、即席冷凍麺用穀粉の
完成した発明が存在するということができる。
   ウ 原告は、先願明細書に記載された先願発明が「タピオカ澱粉12~30
重量%と穀粉類88~70重量%とからなる冷凍麺類用穀粉」の点で本願発明と一
致することを認めながら、先願明細書の実施例1に従って製造された冷凍うどん
は、タピオカ澱粉を加えることにより、小麦粉100%使用の麺よりも劣悪な効果
しか得られていないから、同実施例では、タピオカ澱粉を特定割合で配合した穀粉
が冷凍麺を製造することに適しているという用途が見いだされているということは
できないとして、先願発明が用途発明として完成していないと主張する。しかしな
がら、用途発明の完成の要件として、従来技術より効果が優れていることを必要と
するとの考え方は独自の見解にすぎないものであり、採用されるべきではない。
     すなわち、用途発明とは、昭和50年12月10日初版発行の工業所有
権用語辞典編集委員会編「工業所有権用語辞典<新版>」(乙第31号証)に記載
されているように、物の一属性に基づきそのものをある特定の用途に用いることに
ついての発明をいう(441頁右欄5行目~7行目)ものであるが、その用途(使
い道)が単なる着想や願望の段階にとどまらず、その用途に使用可能であることが
実質的に示されていれば、完成しているということができる。
     原告は、用途発明を特許法の対象とされる発明と認める根拠は、物の属
性の発見に基づき、その物を一定の目的に利用するという創作的要素が加えられた
ものであるという考え方にあるところ、タピオカ澱粉を小麦粉等の即席冷凍麺類に
使用できる穀粉に混ぜても喫食可能であることも、誰でもが認識できることである
から、喫食可能な即席冷凍麺類が製造できれば足りるとするのであれば、創作的要
素などあり得ず、用途発明と呼べるものではないと主張する。しかし、上記主張は
一般的な用途発明と特許性を備えた用途発明とを混同したものである。すなわち、
一般的用途発明においては、発見であると判断し、その物を一定の目的に利用する
ことに創作性があるとの評価をするのは発明者であって、特許出願の対象が用途発
明の形式で記載されているということは、出願人自身がその発明が用途発明として
特許性を備えているとの一応の判断をしているからであるが、現実に特許性を備え
ているかどうかは審査を経なければ評価することはできないのである。
     本願発明は、「タピオカ澱粉3~50重量%と穀粉類97~50重量%
とからなる穀粉」が即席冷凍麺類の原料となり得るという性質の発見に基づき、こ
れを「即席冷凍麺類」用として使用することについての発明であるから用途発明で
ある。しかしながら、「即席冷凍麺類」の概念自体には、うどんの場合、小麦粉1
00%使用の麺に比べて、滑らかさ、粘性、弾力性、煮くずれ状態の程度が優れて
いるかどうかなどの要素は全く含まれていない。そして、本願発明の要旨におい
て、本願発明は「即席冷凍麺類用」と特定されているのであって、これを格別「小
麦粉100%使用の麺に比べて味がよい即席冷凍麺類用」と限定して解釈しなけれ
ばならないとする理由も見当たらない。「即席冷凍麺類」用という用途について完
成しているかどうかは、当該穀粉を原料として所定の製造方法に従って製造した場
合、即席冷凍麺類と認識できる食品が得られ、実際に食することができることが確
認できれば、そのような用途について十分開示されているというべきである。
     そうすると、用途発明の完成を従来技術より優れた効果を奏する点に求
める原告主張は誤りであって、先願明細書記載の穀粉によって喫食可能な即席冷凍
麺類が製造できれば、即席冷凍麺類用としての用途があることを確認することがで
き、したがって、先願明細書において、即席冷凍麺類用穀粉という用途発明自体は
完成しているということができる。
     そして、先願明細書の実施例1に従って製造された冷凍うどんが喫食可
能であることは、後記のとおり適切であるとはいえない原告官能評価試験において
もさえも否定されていないから、先願発明の即席冷凍麺類用穀粉が完成した発明で
あることは明らかである。
  (3)用途発明の完成に関する原告の主張を採用することができず、原告官能評
価試験の結果によっても、先願明細書に記載された先願発明が用途発明として完成
していることは上記のとおりであるが、仮に、用途発明の完成に関する原告の主張
を前提にしたとしても、以下のとおり、先願発明は完成した発明ということができ
る。
   ア 先願の出願人であるシマダヤ株式会社(旧商号・株式会社島田屋本店)
が、先願明細書(甲第2号証)の実施例1の記載(3頁右下欄1行目~4頁左上欄
5行目)に従って、タピオカ澱粉11重量部と中力小麦粉89重量部を配合した穀
粉により実際に製造した冷凍うどんにつき実施した官能評価試験(シマダヤ官能評
価試験)の結果は、実験報告書(乙第22号証)に記載されているとおりであり、
シマダヤ官能評価試験において、先願明細書の実施例1に従い、かつ、「約600
ccの沸騰水中で3分間かけて解凍、調理し、そこにスープを加えた」という条件
(以下「A条件」という。)又は「約1Lの沸騰水中で1分間解凍後、冷しうどん
とした」という条件(以下「B条件」という。)の下で製造された冷凍うどんは、
小麦粉100%使用の麺を基準としその評価点を「3」として対比した場合に、A
条件では「滑らかさ4.3」、「粘性3.1」、「弾力性4.2」及び「煮崩れ状
態3.0」との、B条件では「滑らかさ4.6」、「粘性3.3」、「弾力性4.
7」及び「煮崩れ状態3.0」との評価が得られており、小麦粉100%使用の麺
に比較して、「粘性」及び「煮崩れ状態」については差は認められないものの、
「滑らかさ」及び「弾力性」において良好な評価が得られている。
     すなわち、タピオカ澱粉を特定割合で配合した穀粉を冷凍麺の製造に使
用するという用途が先願明細書の実施例1に開示されているということは、仮に、
用途発明の完成に関する原告の主張を前提にしたとしても、シマダヤ官能評価試験
によって裏付けられるものである。
   イ 原告官能評価試験(甲第5号証)は、以下のとおり、その評価手法を誤
ったものであり、その結果は信用することができない。
    a 先願明細書の実施例1記載の製法に従って、小麦粉にタピオカ澱粉を
配合した穀粉により製造した冷凍うどんの品質につき、タピオカ澱粉を特定割合で
配合したことが冷凍うどんの品質にどのように影響するかを評価するのであれば、
先願明細書の実施例1記載の製法に従って製造した麺と、比較の基準とした小麦粉
100%使用の麺とで、その原料以外のすべての製造条件や調理の条件をそろえて
比較を行うべきことは当然である。
      しかるに、原告従業員の陳述書(甲第14号証)には、原告官能評価
試験における「参考品」(小麦粉100%使用の麺)の製造方法が、本件明細書に
記載された本願発明の製造方法に従ったものであることが記載されており、その製
麺方法、麺帯最終厚、ゆで条件及び解凍方法は、先願明細書の実施例1に記載され
たものとは異なっている。
      したがって、その比較の結果、小麦粉100%使用の麺よりも先願明
細書の実施例1記載の製法に従って製造した麺の方が劣悪であると評価されたとし
ても、それがタピオカ澱粉の添加によってもたらされたのか、その製麺方法、麺帯
最終厚、ゆで条件及び解凍方法の差に由来するのかが判然とせず、そのような比較
評価の結果から、直ちに先願発明が未完成であるとの結論を導くことはできないと
いうべきである。
      シマダヤ官能評価試験においては、比較の基準とした小麦粉100%
使用の麺は、先願明細書の実施例1記載の配合である「タピオカ澱粉11重量部と
中力小麦粉89重量部」に代えて、中力小麦粉100重量部とした以外は先願明細
書の実施例1の記載と同一条件で調製したものを使用している。
      なお、この点につき、原告は、先願明細書(甲第2号証)の実施例1
の「生うどんを沸とう水中で18分間ゆでて本発明に係るゆでうどんを得た」との
記載に係るゆであげ方法が、小麦粉100%使用のうどんに適用すると、一般的に
適切とされるよりもはるかに多い水分量となってしまうと主張する。
      しかしながら、昭和60年11月農林水産省食品総合研究所発行の
「小麦の品質評価法 -官能検査によるめん適性-」(乙第23号証添付資料1)
及び昭和61年3月株式会社食品と科学社発行の「食品と科学」28巻3号(乙第
23号証添付資料2)に「試料のゆで時間は、生めん投入後20分間から24分間
の範囲とする」(乙第23号証添付資料1の4頁2行目、同添付資料2の128頁
3段目9行目~11行目)と記載されており、そうすると、たとい、冷凍麺の製造
において通常の麺のゆであげに比べ固めにゆでるとしても、先願明細書に記載の
「18分」がゆで時間として不適切であるとはいえない。
      また、シマダヤ官能評価試験(乙第22号証)においては、小麦粉1
00%使用のうどんに関し、18分間ゆでて歩留まり309%のゆでうどんを得て
いるところ、本件明細書(甲第3号証)の実施例2(6欄【0025】項)が、歩留ま
り330%になるまでゆでることを当業者が採用する通常の方法であるとしている
ことからみても、小麦粉100%使用のうどんを18分間ゆでることは冷凍麺を製
造する際のごく普通のゆで方法ということができる。
      したがって、原告の上記主張は失当である。
    b ゆで調理時間が違えば麺のコシや煮崩れの状態が異なることは極めて
常識的なことである。このため、上記「小麦の品質評価法 -官能検査によるめん
適性-」(乙第23号証添付資料1)には、官能検査(官能評価試験)につき、
「ゆで時間を調節してゆでめん水分を同一とし、水分含量の違いからくるかたさの
差を無くして評価した方がよい」と記載されている。
      ところが、原告官能評価試験においては、先願明細書の実施例1記載
の製法に従って製造した冷凍うどんの水分含量は75.42%、解凍後は77.9
1%であるのに対し、「参考品」(小麦粉100%使用の麺)は、上記のとおり、
本願発明の製造方法に従ったとされているから、冷凍状態での水分含量69.79
%前後、解凍後は70.40%前後と考えられ、この点をとっても原告官能評価試
験では正しい品質評価が得られていないといえる。
    c 先願明細書(甲第2号証)の実施例1には、冷凍うどんの解凍、調理
に関して具体的な記載はないから、それを追試する場合には、当業者に普通に知ら
れている解凍、調理方法の中から、冷凍うどんをおいしく食べる上で最適の方法を
採用する必要がある。そして、上記のように、冷凍うどんが既に75.42%(歩
留まり344%)という高い水分含量を有する場合には、解凍、調理時にうどんに
吸収される水分量ができる限り少なくなるような手段を選択すべきであり、そのよ
うな手段として、例えば、昭和57年7月株式会社食品と科学社発行の「食品と科
学」24巻7号(乙第25号証)に記載されているような、冷凍うどんを熱湯で1
分程度の短時間で解凍する方法も広く知られている。
      それにもかかわらず、原告官能評価試験においては、沸騰水中で3分
間かけて解凍、調理し、水分含量77.91%(歩留まり385%)のうどんを得
ている。しかし、昭和55年12月25日株式会社食品出版社第3刷発行の月刊食
品にっぽん臨時増刊「80年代のめん類」(乙第26号証)に記載されているよう
に、通常のゆで麺の含水分は70%程度であること、特開平3-210163号公
報(乙第27号証)に記載されているように、市販のゆでうどんは通常約300~
350%の歩留りに調整されていること(2頁左下欄12行目~13行目)、特開
昭58-51859号公報(乙第28号証)及び特開昭60-176554号公報
(乙第29号証)に、含水率約72%のゆで麺を用いて官能試験を行った旨が記載
され(乙第28号証3頁左上欄16行目~20行目、乙第29号証3頁右上欄~左
下欄の注記1、3)、特開昭60-244269号公報(乙第30号証)には、製
品水分75%のゆでうどんを用いて官能試験を行った旨が記載されていること(4
頁右上欄下から12行目~10行目)に照らせば、原告官能評価試験における冷凍
うどんの解凍後の水分含量が高過ぎること、すなわち、ゆで過ぎの状態にあること
は明らかであって、このような試験は、先願明細書の実施例1を正しく追試したも
のということはできない。
 2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について
   本願発明の要旨の「即席冷凍麺」の語が、お湯だけでなく、水を用いて解凍
することによってもおいしく食べられる冷凍麺類という意味を有する技術用語とし
て使用されているという事実はないから、「即席冷凍麺」をそのような解凍法のも
のに限定する理由はなく、原告の取消事由2に係る主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(先願発明の未完成)について
  (1)昭和59年2月1日株式会社学習研究社改訂新版第2刷発行の「グランド
現代百科事典」(甲第18号証の1)、昭和57年3月15日株式会社平凡社増補
改訂版第1刷発行の「小百科事典 増補改訂版」(甲第18号証の2)及び昭和5
7年5月1日同文書院第四版第3刷発行の「総合食品事典(第四版)」(乙第16
号証)には、それぞれ「タピオカ」につき、キャッサバの塊根からとった澱粉であ
って食用に供されること等の解説が掲載されており、これらが事典類であることに
かんがみれば、先願の出願(昭和58年2月28日)及び本件出願(同年5月17
日)の相当程度以前から、タピオカないしタピオカ澱粉及びそれが食用に供される
ことが一般に知られていたものと認められる。
    ところで、本願発明の要旨は「タピオカ澱粉12~50重量%と穀粉類8
8~50重量%とからなる即席冷凍麺類用穀粉」というものであるから、本願発明
は、タピオカ澱粉という既知の物質の特定の属性により、これを特定割合で他の穀
粉類と配合して即席冷凍麺類用穀粉という用途に使用することについての発明であ
るということができ、講学上用途発明と称されるものということができる。
    用途発明は、既知の物質のある未知の属性を発見し、この属性により、当
該物質が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明であると
解すべきである。なぜなら、既知の物質につき未知の属性を発見したとしても、そ
れによって当該物質の適用範囲が従来の用途を超えなければ、技術的思想の創作で
あるということはできず、また、新たな用途への使用に適するといえるものでなけ
れば、適用範囲が従来の用途を超えたとはいい難いからである。
    用途発明に係る特許出願については、出願前に、その物質自体は公知であ
っても、当該新たな用途への使用に適することが見いだされていなければ、発明の
新規性は否定されないというべきである。したがって、用途発明の新規性を判断す
る上で、これと対比して同一であるかどうかを判断する対象となる発明も用途発明
でなければならない。同様に、用途発明に係る特許出願につき、当該特許出願の日
前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開等がされたものの願書に最初
に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるとして、特許法29条の
2第1項により、特許を受けることができないとされるためには、上記「当該特許
出願の日前の他の特許出願に係る発明」も用途発明でなければならない。
    また、用途発明に係る特許出願に限らず、一般に、特許出願に係る発明が
特許法29条の2第1項により、特許を受けることができないとされるためには、
上記「当該特許出願の日前の他の特許出願に係る発明」は、発明として完成してい
ることを必要とするものというべきである。そして、発明が完成したというために
は、その技術手段が当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目
的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成さ
れていることを要し、かつ、これをもって足りるものと解すべきである(最高裁昭
和61年10月3日判決・民集40巻6号1068頁)。
    そうすると、本件において、本願発明が、先願明細書に記載された先願発
明と同一であるとして特許法29条の2第1項によって特許を受けることができな
いとされるためには、すなわち、先願発明が本願発明に対するいわゆる後願排除効
を有するためには、先願明細書に先願発明が完成した用途発明として開示されてい
ること、いい換えれば、先願明細書の記載において、用途発明である先願発明が、
当業者が反復実施して所定の効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的
なものとして構成されていることを必要とすることになる。
    なお、本願発明が用途発明であること、用途発明の新規性を判断する上
で、対比して同一であるかどうかを判断する対象となる発明が用途発明でなければ
ならないことは、当事者間に争いがない。
    また、被告は、先願発明が本願発明に対する後願排除効を有するために
は、先願発明が完成した発明であることが必要であるという点について、後願の発
明(本願発明)が完成した発明であるということを前提とした上で認めるとする
が、審決は、本願発明が完成していないことを本願発明の拒絶の理由としたもので
はないから、本件において、被告が本願発明の未完成を主張することはできず、し
たがって、先願発明が完成した発明であることを要するとの点についても、実質
上、当事者間に争いがないことになる。被告は、この点に関連して、先願発明が完
成した発明でないとしながら、同じ原料組成の本願発明が完成しているとする原告
の主張は矛盾すると主張するところ、この主張については、後に検討する。
  (2)先願明細書に「タピオカ澱粉5~30重量%と穀粉95~70重量%とを
配合した製麺原料粉を真空度約600㎜Hg以下の減圧環境下で加水混練し、常法ど
おり製麺することにより生うどんを製造し、次いで生うどんを沸とう水中で茹でて
ゆでうどんを製造し、得られたゆでうどんを急速冷凍することにより冷凍うどんを
製造すること」(審決書6頁11行目~17行目)が記載されていること、この記
載を前提とすれば、先願明細書には「タピオカ澱粉5~30重量%と穀粉95~7
0重量%とからなる冷凍麺類用穀粉」の発明(先願発明)が記載されており、先願
発明は、「タピオカ澱粉12~30重量%と穀粉類88~70重量%とからなる」
(同7頁末行~8頁1行目)冷凍麺類用穀粉の点で本願発明と一致することは当事
者間に争いがない。なお、原告は、本願発明と先願発明とが「即席冷凍麺類用穀
粉」の点で一致するとした審決の認定が誤りであると主張する(取消事由2)が、
その主張の当否についての判断はしばらくおき、以下、取消事由1についての判断
においては、仮に、先願発明が「即席冷凍麺類用穀粉」である点で本願発明と一致
するものとする。
    被告は、本願発明の「即席冷凍麺類」の語には、麺の食味、食感や冷凍、
解凍方法等を限定する意味はなく、単に解凍してそのまま食することができるとい
う程度の意味しか有していないから、本願発明と対比されるべき先願明細書記載の
「即席冷凍麺類用穀粉」は、解凍してそのまま食することができる麺類が製造でき
るという限度で完成した技術であれば足りるものであるとか、用途発明は、その用
途(使い道)が単なる着想や願望の段階にとどまらず、その用途に使用可能である
ことが実質的に示されていれば、完成しているということができる等の理由を挙
げ、先願明細書記載の穀粉によって喫食可能な即席冷凍麺類が製造できれば、即席
冷凍麺類用としての用途があることを確認することができ、したがって、先願明細
書において、即席冷凍麺類用穀粉という用途発明自体は完成しているということが
できるとし、用途発明の完成を従来技術より優れた効果を奏する点に求めることは
誤りであると主張する。
    しかしながら、小麦粉等の穀粉類のみから成る即席冷凍麺類用穀粉(従来
技術)が存在すること、そのような穀粉類のみから成る従来の即席冷凍麺類用穀粉
によっても十分に喫食可能で、それなりの食味、食感を有する即席冷凍麺類が製造
できることはいずれも周知の事柄であって、先願明細書(甲第2号証)もそのこと
を当然の前提とするものと認められる。そうすると、仮に、先願明細書に、上記
「タピオカ澱粉5~30重量%と穀粉95~70重量%とからなる即席冷凍麺類用
穀粉」(先願発明)につき、その効果として開示されている事項が、単に喫食が可
能である即席冷凍麺類が製造できるということにとどまるものとすれば、先願明細
書には、タピオカ澱粉を特定割合で他の穀粉類と配合して即席冷凍麺類用穀粉とし
て使用した場合に、従来技術以下の効果を奏することしか開示されていないことに
なる。そして、その効果が従来技術以下であるにすぎないものとすれば、先願明細
書の記載において、タピオカ澱粉が、その特定の属性により即席冷凍麺類用穀粉と
いう新たな用途への使用に適することは未だ見いだされていないといわざるを得
ず、先願発明が、用途発明として完成しているということはできない。
    すなわち、前示のとおり、用途発明は、既知の物質のある未知の属性を発
見し、この属性により、当該物質が新たな用途への使用に適することを見いだした
ことに基づく発明をいうものと解すべきであるから、タピオカ澱粉を特定割合で他
の穀粉類と配合した先願発明が用途発明として完成しているというためには、タピ
オカ澱粉の特定の属性により、これを特定割合で他の穀粉類と配合した穀粉が、即
席冷凍麺類用穀粉という新たな用途への使用に適することが見いだされたといい得
ることが必要である。しかしながら、当該タピオカ澱粉配合の穀粉を即席冷凍麺類
用穀粉として使用した場合に奏する効果が、タピオカ澱粉を含まず穀粉類のみから
成る従来の即席冷凍麺類用穀粉(従来技術)が奏する効果以下のものとすれば、当
該タピオカ澱粉配合の穀粉が、即席冷凍麺類の製造に適しているということができ
ず、したがって、タピオカ澱粉がその特定の属性により即席冷凍麺類用穀粉という
新たな用途への使用に適することを見いだしたということ自体がいえないことにな
るから、用途発明である先願発明が完成したといい得るためには、タピオカ澱粉を
特定割合で他の穀粉と配合した先願発明が、穀粉類のみから成る従来の即席冷凍麺
類用穀粉(従来技術)よりも、即席冷凍麺類用穀粉として優れた効果を奏すること
が必要であるというべきである。
    そうとすれば、先願明細書の記載において、タピオカ澱粉を特定割合で他
の穀粉と配合した先願発明につき、その効果として、単に喫食可能な即席冷凍麺類
が製造できるということ、すなわち、穀粉類のみから成る即席冷凍麺類用穀粉とい
う従来技術以下の効果を奏することしか開示されていないとすれば、先願明細書
上、用途発明である先願発明が、当業者が反復実施して所定の効果を挙げることが
できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されているとは到底いうことが
できず、したがって、先願発明が完成した用途発明として開示されているというこ
とはできない。
    なお、先願明細書に記載された先願発明が「タピオカ澱粉12~30重量
%と穀粉類88~70重量%とからなる即席冷凍麺類用穀粉」(審決書7頁末行~
8頁2行目)の構成において本願発明と一致することは上記のとおりであるとこ
ろ、被告は、通常の技術では、後願の発明と先願の明細書に記載された発明とが同
一の構成であれば、同じ程度に完成しており、同じ効果を奏すると判断するのが当
然であるから、本願発明が完成した発明であるとすれば、とりもなおさず、先願発
明も完成した発明であることになるとし、先願発明が完成していないとの原告の主
張は矛盾すると主張する。しかしながら、先願発明の上記構成は、タピオカ澱粉を
特定割合で他の穀粉と配合することと、これを即席冷凍麺類用穀粉という用途に使
用することとから成るものであり、かつ、それが用途発明である以上、当該即席冷
凍麺類用穀粉という用途は、タピオカ澱粉の新たな用途であって、当該用途への使
用に適することが前提とされるものである。そして、当該タピオカ澱粉配合の穀粉
が、穀粉類のみから成る従来の即席冷凍麺類用穀粉(従来技術)よりも即席冷凍麺
類用穀粉として優れた効果を奏するものでなければ、即席冷凍麺類用穀粉という新
たな用途への使用に適することが見いだされたといえないことは上記のとおりであ
るところ、先願明細書に、先願発明の効果として開示されている事項が、単に喫食
が可能である即席冷凍麺類が製造できるということにとどまるとの被告主張の前提
の下においては、結局のところ、先願明細書において、上記構成の用途発明である
先願発明を具体的に支持する記載がなく、先願明細書上、用途発明である先願発明
が、当業者が反復実施して所定の効果を挙げることができる程度にまで具体的・客
観的なものとして構成されていないということに帰着するから、たとい、先願発明
がタピオカ澱粉を特定割合で他の穀粉と配合する構成において本願発明と一致する
としても、先願発明が完成していないとの原告主張が誤りであったり、矛盾したり
するものではない。
    また、先願発明が本願発明に対するいわゆる後願排除効を有するために
は、必ずしも先願発明が客観的に特許性を備えた発明であることを要するものでは
ないが、特許性の具備以前の問題として、先願発明が完成した用途発明として先願
明細書に開示されていることを要することは前示のとおりであり、かつ、上記のと
おり、喫食が可能である即席冷凍麺類が製造できるというだけでは、先願発明が完
成した用途発明として先願明細書に開示されているということはできない。
    したがって、先願明細書記載の穀粉によって喫食可能な即席冷凍麺類が製
造できれば、先願明細書において、即席冷凍麺類用穀粉という用途発明自体は完成
している旨の被告の主張は採用することができない。
  (3)そこで、先願明細書の記載において、先願発明が小麦粉等の穀粉類のみか
ら成る従来の即席冷凍麺類用穀粉(従来技術)よりも優れた効果を奏することが開
示されているかどうかについて検討する。
   ア 先願明細書(甲第2号証)には、実施例1に、タピオカ澱粉と穀粉とを
一定割合で配合した製麺用穀粉を用いた製造方法を含め、冷凍うどんに関する記載
(3頁右下欄1行目~4頁左上欄5行目)があるが、他に上記製麺用穀粉を用いて
製造した冷凍麺についての記載はない。そして、上記実施例1には、当該冷凍うど
んにつき「前記実施例とほぼ同様の評価を得た」(4頁左上欄4行目~5行目)、
すなわち、「のどごしの良い滑らかさ、歯応え、歯切れのいずれも良好で、従来の
手延べうどんと比べ優劣つけがたいものであった」(3頁右下欄18行目~末行)
との評価の記載があるが、先願明細書上、この評価を裏付ける具体的な試験につい
ての記載や、試験データ等の開示はない。
   イ 実験成績証明書(甲第5号証)には、先願明細書の実施例1の記載に従
って製造した冷凍うどんについての官能評価試験(原告官能評価試験)、冷凍うど
んの解凍前後の水分測定及び水分勾配試験の各結果が、本件明細書の実施例1の記
載に従って製造した冷凍うどんについての同様の試験の結果とともに掲記されてお
り、また、各試験に供した先願明細書の実施例1の記載による冷凍うどんの製造方
法につき、「タピオカ澱粉(松谷化学工業㈱製『MKK100』)11重量部と中力小麦
粉(日清製粉㈱製『金すずらん』)89重量部をバキュームミキサーに入れて予備
混合後、約-300㎜Hgの減圧状態として、Be'8の食塩水34重量部を注加しなが
ら混練を開始した。15分間混練を行った後、常圧に復元し、混練生地を製麺ロー
ルにより複合及び圧延し、麺帯最終厚2.0㎜として、丸カッター№10を用いて
切断し、生うどんを得た。次にこの生うどんを沸騰水中で18分間茹でた後、水
洗・冷却後直ちに茹で麺重量250gずつ容器に取り分け、-50℃の急速凍結庫
にて約30分間で急速凍結して、冷凍うどんを得た。ここで得られた冷凍うどんを
約600㏄の沸騰水中で3分間かけて解凍、調理し、そこにスープを加え、試食に
供した」(1枚目9行目~17行目)と記載されている。なお、実験成績証明書
(甲第5号証)には、比較の基準とした小麦粉100%使用の麺の製造方法につい
て記載はないが、原告従業員作成の陳述書(甲第14号証)には、それが「甲第5
号証の本発明法に記載された方法に従い製麺したもの」(2枚目1行目~2行目)
であることが記載されており、他方、実験成績証明書(甲第5号証)には、「本発
明法」として、本件明細書の実施例1の記載による冷凍うどんの製法につき、「タ
ピオカ澱粉(松谷化学工業㈱製『MKK100』)20重量部と中力小麦粉(日清製粉㈱
製『金すずらん』)80重量部をミキサーに入れて予備混合後、2重量部の食塩を
予め溶解した食塩水37重量部を注加しながら混練を開始した。15分間混練を行
った後、混練生地を製麺ロールにより複合及び圧延し、麺帯最終厚2.7㎜とし
て、角カッター№8を用いて切断し、生うどんを得た。次に、この生うどんを茹で
上げ歩留まりが280%になるように、沸騰水中で茹で上げ、直ちに水洗冷却をし
た後、130gずつ計量して型容器に入れ、麺層の厚さが30㎜になるようにし
た。これを茹で上げ後から10分以内に、-50℃の急速凍結庫にて約30分間で
急速凍結して、冷凍うどんを得た。ここで得られた冷凍うどんを、約80℃の湯2
00㏄に注ぎ込み、2分経過後この湯を捨て、スープと再び湯250㏄入れ試食に
供した」(1枚目19行目~28行目)と記載されているから、小麦粉100%使
用の麺の製造方法は、上記記載における「タピオカ澱粉・・・20重量部と中力小
麦粉・・・80重量部」の部分が、「中力小麦粉100重量部」と変わったもので
あると認められる。
     そして、実験成績証明書(甲第5号証)に掲記された原告官能評価試験
は、10人の熟練したパネラーの五段階評価による評点の平均点を官能評価とする
ものであり(1枚目31行目~33行目)、いずれの項目も「3」が基準である小
麦粉100%使用時の評点で、「5」が最高点、「1」が最低点である(2枚目1
行目~24行目)ところ、その結果は、「滑らかさ1.1」、「粘性1.7」、
「弾力性1.0」及び「煮崩れ状態1.0」であり、この結果に従えば、先願明細
書の実施例1の記載による冷凍うどんは、各項目につき、基準である小麦粉100
%使用の麺よりも劣悪な評価しか得られていない。なお、先願明細書の実施例1の
記載による冷凍うどんの解凍前の製品水分は75.42%(歩留まり344%)、
水分勾配は9.46%であり、解凍後の製品水分は77.91%(歩留まり385
%)、水分勾配は7.60%であり、本件明細書の実施例1の記載による冷凍うど
んの解凍前の製品水分は69.79%(歩留まり280%)、水分勾配は11.8
7%であり、解凍後の製品水分は70.40%(歩留まり289%)、水分勾配は
11.80%である。
   ウ 実験成績証明書(甲第16号証)には、先願明細書の実施例1の記載に
よる冷凍うどんについての官能評価試験(原告追加官能評価試験)の結果が掲記さ
れており、また、試験に供した先願明細書の実施例1の記載による冷凍うどんの製
造方法につき、「タピオカ澱粉(松谷化学工業㈱製『MKK100』)11重量部と中力
小麦粉(日清製粉㈱製『金すずらん』)89重量部をバキュームミキサーに入れて
予備混合後、約-300㎜Hgの減圧状態として、Be'8の食塩水34重量部を注加し
ながら混練を開始した。15分間混練を行った後、常圧に復元し、混練生地を製麺
ロールにより複合及び圧延し、麺帯最終厚2.0㎜として、丸カッター№10を用
いて切断し、生うどんを得た。次にこの生うどんを沸騰水中で18分間茹でた後、
水洗・冷却後直ちに茹で麺重量250gずつ容器に取り分け、-50℃の急速凍結
庫にて約30分間で急速凍結して、冷凍うどんを得た。ここで得られた冷凍うどん
を、約1Lの沸騰水中で1分間解凍後、冷やしうどんとし、試食に供した」(1枚
目7行目~16行目)と記載され、さらに、比較の基準とした小麦粉100%使用
の麺の製造方法につき「中力小麦粉(日清製粉㈱製『金すずらん』)100重量部
をミキサーに入れて予備混合後、2重量部の食塩を予め溶解した食塩水37重量部
を注加しながら混練を開始した。15分間混練を行った後、混練生地を製麺ロール
により複合及び圧延し、麺帯最終厚2.7㎜として、角カッター№8を用いて切断
し、生うどんを得た。次に、この生うどんを茹で上げ歩留まりが280%になるよ
うに、沸騰水中で茹で上げ、直ちに水洗冷却をした後、130gずつ計量して型容
器に入れ、麺層の厚さが30㎜になるようにした。これを茹で上げ後から10分以
内に、-50℃の急速凍結庫にて約30分間で急速凍結して、冷凍うどんを得た。
ここで得られた冷凍うどんを、約1Lの沸騰水中で1分間解凍後、冷やしうどんと
し、試食に供した」(1枚目18行目~27行目)と記載されている。官能評価試
験は、10人の熟練したパネラーの五段階評価による評点の平均点を官能評価とす
るものであり、いずれの項目も「3」が基準である小麦粉100%使用時の評点
で、「5」が最高点、「1」が最低点である(2枚目3行目~31行目)。
     すなわち、原告追加官能評価試験は原告官能評価試験と、試験の条件の
うち、先願明細書の実施例1の記載による冷凍うどん及び小麦粉100%使用の麺
の各製造方法における解凍方法が異なるものであり、冷凍までの工程には変わりは
ない。試験の結果は、「滑らかさ1.8」、「粘性1.9」、「弾力性1.3」及
び「煮崩れ状態1.7」である。
   エ 実験報告書(乙第22号証)には、先願明細書の実施例1の記載による
冷凍うどんについての官能評価試験(シマダヤ官能評価試験)、解凍前後の製品水
分の測定等の結果が掲記されており、また、試験に供した先願明細書の実施例1の
記載による冷凍うどんの製造方法につき、「タピオカ澱粉(松谷化学工業㈱
製『MKK100』)11重量部と中力小麦粉(日清製粉㈱製『金すずらん』)89重量
部をバキュームミキサーに入れて予備混合後、約-300㎜Hgの減圧状態とし
て、Be'8の食塩水34重量部を注加しながら混練を開始した。15分間混練を行っ
た後、常圧に復元し、混練生地を製麺ロールにより複合及び圧延し、麺帯最終厚
2.0㎜として、丸カッター№10を用いて切断し、生うどんを得た。次にこの生
うどんを沸とう水中で18分間茹でた後、水洗・冷却後直ちに茹で麺重量250g
ずつ容器に取り分け、(-40℃のエアーブラストで35分間で冷凍)し」(1頁
19行目~27行目)た上、「約600ccの沸騰水中で3分間かけて解凍、調理
し、そこにスープを加えた」(2頁4行目~5行目、A条件)方法と、「約1Lの
沸騰水中で1分間解凍後、冷しうどんとした」(2頁6行目、B条件)方法とが記
載され、比較の基準とした小麦粉100%使用の麺(参考品)の製造方法について
は、「タピオカ澱粉(松谷化学工業㈱製『MKK100』)11重量部と中力小麦粉(日
清製粉㈱製『金すずらん』)89重量部に替えて上記中力小麦粉100重量部とし
た以外は同一条件で調整した」(1頁28行目~30行目)上、上記A条件による
方法とB条件による方法とが記載されている。官能評価試験は、10名の熟練した
専門パネラーの五段階評価による評点の平均点を官能評価とするものであり、いず
れの項目も「3」が基準である小麦粉100%使用時(参考品)の評点で、「5」
が最高点、「1」が最低点である(2頁9行目~末行)。
     すなわち、シマダヤ官能評価試験は、試験の条件のうち、先願明細書の
実施例1の記載による冷凍うどんの製造方法については、冷凍の温度と時間が先願
明細書(甲第2号証)の記載(4頁2行目)のとおりであるほかは、原告官能評価
試験又は原告追加官能評価試験と同様であり、A条件による方法が原告官能評価試
験に、B条件による方法が原告追加官能評価試験にそれぞれ相当する。なお、シマ
ダヤ官能評価試験と原告官能評価試験又は原告追加官能評価試験との間の冷凍の温
度と時間の差はきん少であって、そのことによって試験結果に大きな影響が及ぶも
のとは認められない。比較の基準とした小麦粉100%使用の麺(参考品)の製造
方法については、シマダヤ官能評価試験と原告官能評価試験又は原告追加官能評価
試験との間に相当の差異が認められる。
     官能評価試験の結果は、A条件による方法では「滑らかさ4.3」、
「粘性3.1」、「弾力性4.2」及び「煮崩れ状態3.0」であり、B条件によ
る方法では「滑らかさ4.6」、「粘性3.3」、「弾力性4.7」及び「煮崩れ
状態3.0」であって、これによれば、先願明細書の実施例1の記載による冷凍う
どんは、小麦粉100%使用の麺に比較して、「粘性」及び「煮崩れ状態」につい
ては差は認められないものの、「滑らかさ」及び「弾力性」において良好な結果と
なっている。なお、製品水分は、先願明細書の実施例1の記載による冷凍うどん
が、解凍前72.7%、解凍後はA条件による方法の場合が74.9%、B条件に
よる方法の場合が74.1%であり、小麦粉100%使用の麺(参考品)が、解凍
前72.2%、解凍後はA条件による方法の場合が74.5%、B条件による方法
の場合が73.8%である。
   オ 昭和50年2月10日株式会社日科技連出版社第2刷発行の日科技連官
能検査委員会編「新版 官能検査ハンドブック」(甲第10号証)によれば、官能
評価試験(官能検査)は、パネラーによる評価を内容とするものであるとはいえ、
一定の合理性と信頼性を有するものであることが認められ、また、当事者双方とも
その点を特に争うものではない。
     原告官能評価試験又は原告追加官能評価試験とシマダヤ官能評価試験と
において、試験の条件のうち、先願明細書の実施例1の記載による冷凍うどんの製
造方法はほぼ同一であるのに、小麦粉100%使用の麺の製造方法に相当の差異が
認められることは上記のとおりであり、各官能評価試験が小麦粉100%使用の麺
を基準とした比較試験であることを併せ考えると、原告官能評価試験又は原告追加
官能評価試験とシマダヤ官能評価試験との間の結果の著しい差異は、小麦粉100
%使用の麺の製造方法の差異に由来するものと推認するのが合理的である。
     そして、シマダヤ官能評価試験においては、小麦粉100%使用の麺の
製造においても、先願明細書の実施例1記載の製法に従い、生うどんを沸騰水中で
18分間ゆで上げるのに対し、原告従業員作成の報告書(甲第19号証)に、原告
追加官能評価試験(甲第16号証)における小麦粉100%使用の麺の製造工程
中、「生うどんを茹で上げ歩留まりが280%になるように、沸騰水中で茹で上
げ」る時間が15分30秒であることが記載されているとおり(なお、上記のとお
り、原告官能評価試験と原告追加官能評価試験とにおける小麦粉100%使用の麺
の製造方法は、解凍の方法が相違するだけであるから、生うどんを茹で上げ歩留ま
りが280%になるように沸騰水中でゆで上げる時間が15分30秒である点は、
原告官能評価試験においても変わらないはずである。)、原告官能評価試験又は原
告追加官能評価試験とシマダヤ官能評価試験との間の小麦粉100%使用の麺の製
造方法の相違は、生うどんを沸騰水中でゆで上げる時間において顕著であり、この
相違がゆで上げ後の製品水分(含水分)の量に直接影響することは技術常識であ
る。
     そこで、小麦粉100%使用の麺の製品水分(含水分)をみるに、ま
ず、原告官能評価試験及び原告追加官能評価試験における小麦粉100%使用の麺
の製品水分は明らかにされていないが、上記のとおり、原告官能評価試験における
本件明細書の実施例1の記載による冷凍うどんの解凍前の製品水分が69.79
%、解凍後の製品水分が70.40%であり、小麦粉100%使用の麺の製造は本
件明細書の実施例1の記載による冷凍うどんの製造方法に従ったとされているか
ら、その製品水分も解凍前が69.79%前後、解凍後が70.40%前後である
と推認される(このように推認されることは当事者間に争いがない。)。そうする
と、原告追加官能評価試験における小麦粉100%使用の麺の製品水分も、少なく
とも、製造方法が原告官能評価試験の場合と変わらない解凍前の段階では、同様に
69.79%前後であると推認される。
     他方、上記のとおり、シマダヤ官能評価試験における小麦粉100%使
用の麺の製品水分は、解凍前72.2%、解凍後はA条件による方法の場合が7
4.5%、B条件による方法の場合が73.8%とされている。
     ところで、昭和55年12月25日株式会社食品出版社第3刷発行の月
刊食品にっぽん臨時増刊「80年代のめん類」(乙第26号証)には、通常のゆで
麺の含水分は70%程度であることが記載されている。また、シマダヤ株式会社従
業員作成の意見書(乙第23号証)には「どんな麺も、水分が高くなるとコシが弱
くなり、煮崩れがおきてきます。・・・水分値75.42%のゆで麺とは、ゆで過
ぎによってコシがなく、かなり煮崩れも起しているような品質のものであり、水分
値69.79%前後というのは、かなりコシがあり煮崩れも起していないものにな
ります。・・・コシがなくかなり煮崩れを起しているような品質のものは商品とな
りませんので、当然ながら75%以上のような高水分の商品はありません。」(1
頁17行目~25行目)との記載があり、これを要約すると、麺においては、水分
量がコシ、煮崩れに影響し、70%前後の水分量であると問題は生じないが、75
%以上になると商品とはならないというものであり、70%前後の水分量が適切で
あることが示唆されている。そして、前示各官能評価試験の結果から、一般に冷凍
麺を解凍した後の製品水分が解凍前より高くなることが推認できるから、通常のゆ
で麺の含水分は70%程度であることが適切であるとすれば、解凍前の段階ではさ
らに低い値であること、すなわち、通常よりも固めにゆでる必要があることは明ら
かであり、株式会社食品産業新聞社大阪支局発行の「月刊麺業界」昭和58年4月
号(甲第17号証)にその旨記載されているところである。
     これに対し、被告は、昭和60年11月農林水産省食品総合研究所発行
の「小麦の品質評価法 -官能検査によるめん適性-」(乙第23号証添付資料
1)及び昭和61年3月株式会社食品と科学社発行の「食品と科学」28巻3号
(乙第23号証添付資料2)に「試料のゆで時間は、生めん投入後20分間から2
4分間の範囲とする」(乙第23号証添付資料1の4頁2行目、同添付資料2の1
28頁3段目9行目~11行目)と記載されていることを引用し、冷凍麺の製造に
おいて通常の麺のゆであげに比べ固めにゆでるとしても、先願明細書に記載の「1
8分」がゆで時間として不適切であるとはいえないと主張する。
     しかしながら、上記文献のうち「小麦の品質評価法 -官能検査による
めん適性-」(乙第23号証添付資料1)には、「同一ゆで時間で行う試験は、あ
る一定の製めん条件に合う小麦粉の品質を早くチェックするためには有効である。
しかし原料小麦、市販小麦粉などの品質特性を比較検討するため、あるいは試料間
の品質(蛋白質含量等)の差が大きい場合には、ゆで時間を調節してゆでめん水分
を同一とし、水分含量の違いからくるかたさの差を無くして評価した方がよい」
(4頁注5)とも記載されていることにかんがみると、同文献に記載されているの
は、うどんの原料である小麦粉の一般的な品質評価の方法であって、必ずしも食
味、食感の優れたうどんとすることを目的とした製法ではないことがうかがわれる
から、その記載を引用した被告の上記主張は採用することができない。
     また、弁論の全趣旨によると、シマダヤ官能評価試験(乙第22号証)
において、小麦粉100%使用のうどんを18分間ゆでた後の上記解凍前製品水分
72.2%は、歩留まりに換算すると309%となるものと認められるところ、被
告は、本件明細書(甲第3号証)の実施例2(6欄【0025】項)が、歩留まり33
0%になるまでゆでることを当業者が採用する通常の方法であるとしていることか
らみても、小麦粉100%使用のうどんを18分間ゆでることは冷凍麺を製造する
際のごく普通のゆで方法であると主張する。
     しかしながら、本件明細書(甲第3号証)の実施例2(6欄【0025】
項)に記載されているのは、小麦粉(注、本件明細書6欄【0025】項に「小麦」と
あるのは誤記と認める。)50部、タピオカ澱粉50部の配合割合とした場合、す
なわち、タピオカ澱粉を50重量%としたときのゆで上げ歩留まりを330%とす
ることであって、その記載から、一般のうどんにつき歩留まり330%になるまで
ゆでることが通常の方法であるとの趣旨まで読み取ることは困難である。そして、
当該実施例2の外、本件明細書(甲第3号証)の実施例1(4欄~5欄【0020】項
~【0024】項)、実施例3(6欄~7欄【0026】項)、実施例4(7欄【0027】項
~【0028】項)及び実施例7(8欄【0032】項)の記載によれば、本願発明におい
てはタピオカ澱粉の重量%が増えるに従って、ゆで上げ歩留まりを高くしているこ
とがうかがわれ、また、本願発明の要旨及び本件明細書の「タピオカ殿粉を添加し
た小麦粉等の穀粉類を常法に従って製麺し茹で上げる。この時の茹で上げ歩留り
は・・・例えばうどん等のような太物は260~330%好ましくは270~30
0%」(3欄【0010】項)との記載を併せ考えると、本件明細書の実施例2の記載
において、ゆで上げ歩留まりを330%とするのは、タピオカ澱粉の重量%を最大
値とする同実施例に限ったことであって、この記載から、被告の上記主張のように
小麦粉100%使用のうどんを18分間ゆでた後の歩留まりを309%とすること
がごく通常の方法であるということはできない。
   カ 以上の認定説示を総合すると、原告官能評価試験及び原告追加官能評価
試験における小麦粉100%使用の麺の製品水分が適切であることが認められ、し
たがって、その製造方法もごく通常の方法に従ったものであることが推認されるの
に対し、シマダヤ官能評価試験における小麦粉100%使用の麺の製品水分、特に
解凍後の製品水分が多すぎるものと認められ、したがって、その製造方法において
ゆで上げ時間が不適切であり、製品が通常程度の品質を有していないことが推認さ
れる。
     そして、官能評価試験が小麦粉100%使用の麺を基準とした比較試験
であることを併せ考えると、原告官能評価試験及び原告追加官能評価試験の結果は
採用するに足りるのに対し、シマダヤ官能評価試験の結果は採用し難いものといわ
ざるを得ない。
     そうすると、原告官能評価試験及び原告追加官能評価試験の上記結果に
かんがみ、その各試験結果を踏まえて当業者が先願明細書の記載事項を見れば、先
願明細書には、タピオカ澱粉を特定割合で配合した穀粉である先願発明が、即席冷
凍麺類用穀粉として使用した場合に、穀粉類のみから成る従来の即席冷凍麺類用穀
粉(従来技術)よりも優れた効果を奏することは何ら開示されておらず、かえっ
て、これよりも劣悪な効果しか得られないことが開示されていると理解することは
明らかである。
  (4)したがって、先願明細書の記載によっては、用途発明である先願発明は、
構成上本願発明と一致する「タピオカ澱粉12~30重量%と穀粉類88~70重
量%とからなる即席冷凍麺類用穀粉」という部分を含め、当業者が反復継続して所
定の効果を挙げることができる程度まで具体的・客観的なものとして構成されてい
るとはいえず、発明として未完成であるというべきである。そうすると、先願発明
は本願発明に対するいわゆる後願排除効を有しているとはいえず、本願発明が先願
発明と同一であるとして特許法29条の2第1項により特許を受けることができな
いとした審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。
 2 以上によれば、原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく、
審決にはその結論に影響を及ぼすべき瑕疵があるというべきであり、違法として取
消しを免れない。
   よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官 篠   原   勝   美
    裁判官 石   原   直   樹
    裁判官   宮   坂   昌   利

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