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裁判例


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主文
1原告が,被告に対し,被告の設置する日本大学国際関係学部教授の地位にあ
ることを確認する。
2被告は,原告に対し,平成16年4月以降毎月23日限り76万0500円
及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
3訴訟費用は,被告の負担とする。
4この判決は,第2項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,被告の国際関係学部の教授であった原告が,同学部の就業規則に基
づく運用取扱いにより平成16年3月31日をもって65歳による定年退職と
なったが,被告における同学部では定年延長の慣行があり,70歳に到達して
退職になるのが通例であるとして,同学部における教授の地位の確認及び平成
16年4月以降の月額給与の支払いを請求している事案である。
1前提事実(当事者間に争いがないか証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定
できる事実ー証拠は末尾に掲記した)。
(1)被告は,明治31年に設置された学校法人であり,教育基本法及び学校
教育法に従い,学校・研究所を設置して教育・研究を行うことを目的とし,
日本大学を設置している。日本大学は,国際関係学部をはじめ14学部及び
18大学院他で構成されている。
(2)原告は,昭和55年4月,日本大学文理学部専任講師として採用され,
その後,昭和56年4月に同学部助教授,昭和61年4月に日本大学国際関
係学部助教授,平成2年4月に同学部教授になった。
原告は,昭和▲年▲月▲日に出生した者である。
(3)原告は,平成16年3月31日まで日本大学国際関係学部教授の地位に
あり,同学部及び大学院において社会学分野の講座を担当していた。
(4)日本大学国際関係学部就業規則には,第2章第4節定年として,以下の
ような定めがある。
(定年)
第26条教職員は,満65歳に達した日をもって定年とする。
(定年の延長)
第27条定年は,教員に限り次の各号に掲げる場合,理事会の議を経て,
これを延長することができる。
①任期のある職務の中途において定年に達したとき,その任期の終了ま
で。
②学年の中途において定年に達したとき,その学年の終了まで。
③その他特別の理由により必要と認めたとき。
2前項による定年の延長は,満70歳を超えてはならない。
(5)被告の国際関係学部には,平成15年1月16日付「就業規則第27条
第1項第3号の取扱い(以下「取扱い」という)が存在する。」。
(6)原告は,平成16年2月15日の経過をもってすなわち同月16日を迎
えることによって満65歳になるところ,被告から平成16年3月31日ま
での学年末までの定年を延長する取扱いを受けている(甲4)。
(7)平成16年3月6日付で被告の国際関係学部長名義で大学総長及び理事
長宛に原告について同年3月31日付で定年による退職の発令を求める内申
がされ,被告大学本部は国際関係学部長宛に同月23日付で原告を同月31
日付で定年による本職を免ずる発令を通達し,国際関係学部庶務課は同月2
3日付でこれを原告に送付して通知し,原告は,平成16年4月1日以降日
本大学国際関係学部教授の地位を失った(乙10の1,2,11)。
(8)原告の被告からの給与は毎月当月分を23日に支給されており,原告の
定年退職取り扱い直前の平成16年1月,2月及び3月の給与支給実績(総
支給額)はいずれも76万0500円である(甲6の1ないし3)。
2争点及びこれに対する当事者の主張
(1)定年延長の慣行の有無
【原告の主張】
(「」。)(,「」日本大学以下被告大学という国際関係学部以下単に学部
という)では,従前より,65歳以降の定年延長を希望する教員に対して。
は,特段問題のない限り,70歳までの定年延長が認められてきた。
すなわち,定年延長を希望する者に対しては,就業規則第27条1項3号
「その他特別の理由により必要と認めたとき」という条項が適用され,通常
の場合,まず定年が2年間延長され,その2年が経過した後,再度2年間の
延長がされ,その後再々度1年間の延長がなされ,その結果,70歳に到達
して退職となるのが通例であった。原告が知る限り,自ら望んで退職した者
を除き,定年延長の申請をしたにも関わらずそれが認められず,満65歳到
達を理由に従前の地位を失った者は,1名を除いてはなかった。ほぼ例外な
く,希望どおり定年延長の措置がなされることによって,満70歳まで引き
続き従前の地位に留まることができたのであり,被告大学学部においては,
定年を満70歳とする労使慣行が事実たる慣習として確立しており,労働契
約の内容ともなっていた。
定年延長を希望する教員は,学部に「教員の個人調書」を作成して提出す
ることをもって延長の申請があったものとされ,慣行により教授会の審議を
経た上で,最終的には理事会の議決がなされることとなっていた。
定年延長の可否については,就業規則27条1項3号によって判断される
建前ではあるものの,実態としては,延長が不相当とされる特段の事情がな
い限りは,定年が延長されてきた。
平成15年1月16日付で,教授会により「就業規則第27条第1項第,
3号の取り扱い」なる定めが設けられた。
そこには延長基準の定めがなされており,教授会により決定されたもので
あるが,その内容は,教授としての教育・研究活動を行っていれば,誰でも
充たすことができるものであり,慣行によっていた従前の延長基準を,文書
によって確認したという性質を持つにすぎないものであった。
ただし,定年延長の手続きとして,新たに教授会の審議に先行して「人,
事委員会」において資格審査を行う旨の規定が設けられた。
【被告の主張】
被告大学学部において定年を満70歳とする労使慣行が事実たる慣習とし
て確立し,労働契約の内容となっていたことを争う。
学部が人事委員会を新設し,就業規則の規律ある適用を実施することとし
た理由は,私立大学をとりまく環境の変化への対応及び日本大学の全学的な
方針に沿うものである。
被告大学学部における定年延長は,例外的事由であり,当該教員において
特に定年延長が必要であると判断された場合に限って人事委員会が教授会に
推薦する。
a学部長は,平成14年11月7日,人事検討委員会に対し,就業規則2
7条1項3号にある「その他特別の事由により必要と認めたとき」の条項に
ついて,具体的施策を答申するよう諮問し「取扱い」は最終的に平成15,
年1月16日の教授会において承認された。
「取扱い」実施後の定年延長の実情は以下のとおりである。
,,定年延長対象者が定年延長に適するか審議するため人事委員会を開催し
同委員会が対象者について定年延長に適すると判断した場合,学部長に推薦
する。学部長は推薦を受け,担当会議に提案し,同会議は協議の上,教授会
の議案とし,教授会で議決する。学部長は教授会にて定年延長すると議決し
た場合,被告大学総長及び理事長に対し答申する。被告大学は常務理事会を
経た上理事会にて審議し,定年延長を決定し発令する。
学部において,過去に定年延長対象者からの申請により定年延長を決定し
た事実など一切ない。
(2)被告による原告への定年延長拒否の有効性
【原告の主張】
原告の被告大学学部教授としての教育・研究活動等の実績は,従前,定年
延長された教員と比較しても何ら遜色なく,原告について,定年延長が拒否
されるべき客観的合理的理由は全くない。定年延長慣行のもとでの被告の定
年延長拒否は解雇と同視されるべきであるから,解雇権濫用法理に基づき定
年延長拒否の効力が判断されなければならず,本件では被告の原告に対する
関係で実質的には解雇権を濫用するものとして無効となるというべきであ
る。
原告は,現学部長の方針に反対の立場にいたものであり,報復の人事を受
けたものである。
【被告の主張】
原告は平成▲年▲月▲日満65歳に達した。したがって就業規則によれば
▲月▲日以降原告は教授の地位を失い退職することとなり,このままでは単
位認定が不可能となり学生が不利益を受けることとなるので,平成16年3
月31日まで定年延長手続きがされた。
原告について同年3月31日以降の再度の定年延長が問題となった。学部
長は同年1月9日,原告の4月1日以降の定年延長について,人事委員会に
諮問した。人事委員会は同年1月13日付けで原告を学部長に推薦しないこ
とを決定し,その旨を答申した。同月15日,学部長は教授会を開催し,原
告について定年延長を提案できないこと,ただし研究機関である総合科学研
,,究所の教授として所属変更し勤務は国際関係学部とするという提案があり
教授会は審議の上承認した。
平成16年2月19日の教授会において,原告の同年3月31日付け定年
退職の件が承認され,同月6日付けで本部内申をし,同月23日付けで退職
発令があった。
「定年延長が教授から申出があったとき定年延長に適さない事由がある場
」。合には定年延長を認めないとする原告の主張は原則と例外が逆転している
被告は本件訴訟において原告に対し定年延長が適さないとの具体的主張を行
う予定はない。
第3当裁判所の判断
1証拠(甲14,乙38,証人a,原告本人の尋問結果のほか下記に掲記した
もの)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。
(1)被告学校法人の寄附行為第13条1項には「理事会は,この法人の業務
を決定し,その運営の責めに任ずる。ただし,通常業務の範囲に限り,別に
定める常務理事会がこれを決定し執行することができる」とあり,学校教。
育法第59条1項は「大学には,重要な事項を審議するため,教授会を置,
かなければならない」と規定している。これを受けて,日本大学学則第9。
条本文は「教授会は,次の事項を審議する」と規定し,6項において「教,
員の進退に関すること」と規定している(甲33,34,乙40の1)。
原告と被告間の雇用関係は日本大学国際関係学部教職員就業規則により規
律されているところ,定年に関しては,前提事実(4)のような定めがある。
定年延長に関する従前の手続は,執行部担当者会議の審議を経て学部教授
会の延長決議と大学理事会の承認を経て当該対象者に大学が発令するもので
あった(証人a【1,2頁,原告本人【9,10頁,弁論の全趣旨)。】】
(2)被告大学学部の教員の定年に関する従前の取り扱いは,就業規則26条
及び同27条1項3号の存在を前提に,65歳以降も勤務を希望する者から
徴求した教員の個人調書を執行部が形式的に審査して,学部長から教授会に
各教員の定年の延長を審議事項として諮り,研究論文を長期間にわたり執筆
しなかったり論文数が非常に少ないなど業績不振等の特段の事情がある場合
を除く他は定年年齢到達後最初に2年間,その後さらに2年間,最後に1年
間という形で定年の延長が認められてきた(原告本人【4,5頁)。】
このような傾向は被告大学の文系学部では一般化しており,事実上70歳
定年制になっているといっても過言ではない状況であった(甲15。この)
ことは国際関係学部においても例外ではなく,同学部の教授らの間において
も原告を含めて,従前,65歳以降も2年,2年,1年という形で定年が延
長されるものとの意識が一般化していた(乙6)。
実際に,被告大学学部ではこれまでに教員として特に問題のない者は上記
のような3回の延長を経て70歳まで勤務する者が多く,そのような取り扱
いを受けない者は,在勤中に死去したり,満65歳時か延長任期中に依願退
職したり,あるいは前記のような研究業績不振等により後記の総合科学研究
所へ転身するなどしている。定年延長につき後記のように明文で「取扱い」
が定められ実施されて以降で原告の定年延長が問題となる直近の状況を見て
も,最初の2年間の延長が認められなかった者はいない(乙25)。
(3)被告においては,大学本部の直轄下に総合科学研究所という別組織が存
在し,実態としては,学部の教員で定年延長にならなかった者の受け皿とし
ての役割を一部果たしているようである。その場合にも学部の教授(教員)
としての雇用関係は一旦終了し,当該研究所の教授になると,教授としての
教育・研究は従前と同様に続行できるようであるものの,教授会への参加資
格がなくなるなど学部運営に携われなくなり,1年毎の契約更新が必要とな
るなど従前の雇用と比べて不安定になることは否めない地位となる(証人。
a【28,29頁,原告本人【13,22,31頁)】】
(4)被告大学学部のa学部長は,被告大学における企画委員会の提言や日本
大学未来創造プロジェクトチームの答申における「人事制度早期見直しと合
理的改善について」等の報告に沿って,平成14年11月7日,就業規則2
7条1項3号にある「その他特別の事由により必要と認めたとき」の条項に
ついて,学部としての具体的施策の答申を人事検討委員会に諮問した(乙。
3,14,32)
その後,訴外bが委員長を務める人事検討委員会から同年12月26日付
,「」の答申がありその中で就業規則第27条第1項第3号の取扱いについて
として,以下のような案が提出された(乙5)。
1就業規則第27条第1項第3号「その他特別の事由により必要と認めた
とき」の扱いについては,以下の基本要件を満たす場合とする。。
(1)教授歴5年以上の教授であること。またはこれと同等以上の経歴を有
する者。
(2)最近5年間に刊行された専攻分野に関する学術論文4編以上(日本学
術会議所属学会またはこれと同等水準の国内外学会発表論文1編を含む)
もしくは最近5年間に出版された単独執筆の研究著書1冊以上を有する
者。または教育等に著しい成果を挙げ,学部の発展に寄与した者。
(3)大学院博士前期課程・博士後期課程の研究指導教員(M合・D合)で
ある者。またはこれと同等以上の学識のある者。
2本取扱いによる定年延長の資格審査を行うため,人事委員会を設ける。
委員会の委員は学部長が指名する若干名をもって構成する。委員長は委員
の互選による。
3人事委員会は1に定める基本要件及び以下の各号について資格審査を行
う。
(1)人格識見
(2)研究業績
(3)教育業績
(4)社会活動
(5)学部貢献
4人事委員会は資格審査の結果,定年延長者として適格と認められた者を
学部長に推薦することとする。
附記1この取扱いは,平成15年2月1日からこれを実施する。
a学部長は,平成15年1月16日,平成14年度第10回教授会に就業
規則第27条第1項第3号の取扱いに関する件を審議事項として諮り,同教
授会の議事録によれば審議の結果上記「取扱い」が原案どおり承認されたと
あり,これに続いて,この件について質問,意見が出された事柄が記されて
いる(乙6)。
(5)被告の本件「取扱い」に基づく平成15年2月1日以降の国際関係学部
の教員に対する定年延長についての運用は,人事委員会で延長を可とする答
申があった場合には,当該教員の定年延長を学部長が教授会に諮り審議し,
承認を得て理事会にかける,人事委員会で延長を不可とする答申があった場
合には,学部長が教授会にその旨の報告をするにとどまり,その者について
の定年延長について審議しないこととしている。
本件「取扱い」による人事委員会は,学部長の諮問機関としての性格を有
,,,し委員は学部長が選任し構成員は公開しない覆面委員会として運用され
議事録も作成せず答申をa学部長は尊重するようにして運用している甲,。(
35,証人a【23ないし26頁)】
(6)原告の定年延長について,a学部長は本件「取扱い」に則り,平成16
年1月9日付で人事委員会へ諮問し,同委員会は同月13日付で就業規則第
27条第1項3号及び本件「取扱い」にしたがって,原告を定年延長者とし
て適格であるとは認めず,したがって同人を定年延長者として学部長に推薦
することはしない旨答申した(乙7,証人a【11頁)。】
a学部長は,人事委員会が原告の定年延長につき不適格であるとした答申
の結論を原告に伝えた。その際に,a学部長は,学部の教授としては定年延
長の推薦ができないが,総合科学研究所の教授として継続勤務することを原
告に提案した(証人a【13,29頁)。】
また,a学部長は,平成16年1月15日の教授会で,原告の定年延長に
関して人事委員会で本件「取扱い」の1及び3にしたがって資格審査を行っ
た結果,定年延長として適格とは認めないので,同取扱い4にしたがって定
年延長者として学部長に推薦しないと結論付けていること,この結果,原告
。()について規程による定年延長の提案はできないことを報告している乙8
原告とa学部長は,何度か面談したが,原告からの延長を不適格とする理
由についての問い合わせには,a学部長は,当初は研究業績,社会活動及び
学部への貢献等を理由として説明していたが,その後は人事委員会の答申に
よる延長拒否の理由は総合判断によるとしている(甲31,原告本人【13。
頁,証人a【11,13,27頁)】】
原告は,人事委員会の定年延長不適格とする答申理由に納得が行かず,総
合科学研究所の教授についての申し出を断り,教授会における再審議を求め
るなどの抗議のための要望書をa学部長に送っている(甲11,12)。
(7)結局,a学部長は,原告について平成16年4月以降の定年延長につい
て教授会に推薦できない理由には,人事委員会の答申を尊重したことを理由
に掲げるほかには,原告に対して公式には延長を不適格とする理由を説明し
ていない(弁論の全趣旨)。
(8)また,被告は,本件訴訟を通じても,被告大学学部には定年延長の慣行
が存在せず,教員は就業規則26条により原則として65歳で定年により退
職することとなり,定年延長は就業規則26条及び27条の趣旨からあくま
で例外的なものであるとして,人事委員会による審議の結果,原告の定年延
長について本件「取扱い」の基準に照らして不適格と判断したことをもって
原告については原則どおり既に65歳に達していて,平成16年3月31日
までとする定年延長期間の満了により被告を退職するものであり,原告につ
いて定年延長が適さないとの具体的主張を行う予定はないとしている(弁。
論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実)
2争点(1)(定年延長の慣行の有無)について
労働契約の当事者間で一定の労働条件について就業規則,労働協約,労働契
約などの成文の規範に基づかない労使慣行が成立しているかどうかについて
は,一定の取扱いないし処理の仕方が長い間反復・継続して行われ,それが使
用者と労働者の双方に対し事実上の行為準則として機能しているかどうかによ
るべきであると一般的には考えられる。
定年制度あるいは定年延長に関する取り扱いについても労使間の契約に基づ
く労働条件の内容を構成するものであり,本件では,就業規則26条により6
5歳定年の定めがあり,同27条1項3号で「特別の事由」により必要と認め
た場合には理事会の議を経て定年を延長することができる旨の規定が存してい
,(,,,,るものの前記認定事実(2)及び証拠甲13ないし152932乙6
16,25,32)によれば,原告について平成16年4月以降の定年延長が
審議検討される平成16年1月ころまでには,特段の事情のある者以外はその
者が65歳に到達して以降,最初の2年,その後さらに2年,そして最後に1
年という形で定年の延長が実施されて70歳で被告を退職する者が大半を占め
てきたこと,そのことは学部の意思決定機関である教授会でそのように対応し
てきたものであり,被告大学学部の教員間では定年延長についてそのような扱
いを受けることが通常であるという意識が存在していたことが認められる。す
なわち,客観的な事実として被告大学学部の教員は65歳以降定年が延長され
て,通常70歳までは勤務する形での慣習が反復継続して行われてきており,
そのような勤務関係が大学側と教員側の双方による事実上の行為準則とされて
きたものと考えられる。
それゆえ,被告大学学部においては,教員の定年制度の運用において,65
歳に達した後にも通常は定年が延長されて当初2年,その後にさらに2年,最
後に1年という形で70歳まで勤務できる事実たる慣習が存在し,それが大学
と教員間の労働条件として契約の内容になっていたものと解するのが相当であ
る。
この点,被告は被告大学学部には定年延長の慣行は存在しないとし,a証人
,,はこれに沿う供述をするものの同証人が他方で被告大学における改革を志し
,,学部において定年制度の運用を考え変えていかなければならない旨述べかつ
それを実行に移そうとしている言動からして,被告大学そして学部には従前安
易に定年を延長することをこれまで繰り返してきたという意識のあることが窺
えるのであり,慣行が存在しないとの供述はその認識に反するものであり,ま
た前記のような客観的なそれまでの運用実態に照らして裏付けのないものとし
て措信できない。
ところで,前記認定事実(4)及び証拠(乙8,9)によれば,被告大学学部
のa学部長の問題意識において,上記のようなこれまでの定年制度の運用とり
わけ就業規則27条1項3号の運用を厳格にして行かなければならないと考え
て,平成14年12月に人事検討委員会を立ち上げて平成15年1月末までの
取扱いの答申を諮問しており,その結果,平成14年12月26日に同委員会
から答申を受けて,本件「取扱い」を平成15年1月16日の教授会に諮り原
案どおり承認を得たことになっている。しかし,これにより被告大学学部にお
ける従来の定年制度あるいは定年延長制度の運用に関する慣行が抜本的に改め
。,「」られたと見ることは相当ではないけだし上記教授会における本件取扱い
についての説明が当日人事検討委員会の委員長である訴外bからなされ「取,
扱い」の内容について質疑応答がなされているものの,そこで従来の慣行に照
らした変革なりこれまでの運用を改めることについての十分な議論がなされて
いるとは当該教授会の議事録や当該教授会に出席参加した原告の供述からは受
け止められないからである。
被告は当該議事録で審議の結果,原案どおり承認とあることから本件「取扱
い」によるということで教授会は承認したものであり,今後は定年制度及び定
年延長についての運用がこれに従ってなされることになるというが,本件「取
扱い」自体がその文言体裁から直ちに従来の慣行を改めたものと読みとれるも
のではなく,かえって議事録からは,当時現在2年,2年,1年という形で定
年が延長される慣例があることを前提に本件「取扱い」の3についての質問や
1の(2)の論文実績の要件さらには1の(3)の要件が厳しいことの指摘があった
のに対して,b人事検討委員長からはできるだけ多くの教員が対象となるよう
「・・・。またはこれと同等以上の・・・」という文言を入れている旨応答し
ていること,c教授から「この「取扱い」によると,人事委員会から学部長に
推薦し,自動的に教授会へ提案されると考えてよいのか」との質問に,b人。
事検討委員長から明確に否定する従来と異なる取り扱いの方向性についての明
言なり示唆がなされておらず,むしろ「この「取扱い」を,今後どのように,
運用していくかその過程でいろいろ問題が出てくることが考えられる。それを
検討し,そこに判断の基準が生まれてくることは十分に考えられる」旨発言。
していること,a学部長が「答申内容については,基本的には全員が資格審査
にかかるよう多方面から検討させていただいた」としてやはり従来の慣行を。
明確に否定する趣旨を説明していないことなどからすると,この「取扱い」は
従来の慣行の延長上にあって原告が主張するように従来の慣行をより明文化し
たものとも受け止められる余地が十分にあるものといわなければならない。
いずれにしても,本件「取扱い」の平成15年1月16日の教授会における
承認をもって定年延長に関する従来の慣行が抜本的に改められたものとは認め
られないことは,その周知徹底の仕方,議論の経過及び審議状況からある程度
明らかというべきである。
3争点(2)(延長拒否の有効性)について
上記のように依然として被告大学学部においては教員が65歳に達した後に
も2年,2年,1年と定年が延長される状況にあったものと認められる中で,
前記認定事実(5)ないし(7)によれば,被告のa学部長は,平成16年1月13
日付の人事委員会の答申に従って原告につき教授会へ定年延長の議を上程せ
ず,人事委員会が本件「取扱い」に基づき原告の定年延長を不適格とした旨を
報告するにとどめている。そして,原告からの人事委員会の答申理由への問い
合わせについても公式な応答をしていない。
被告は本件「取扱い」の教授会における承認により原則として就業規則26
条により教員は65歳で定年退職すること,27条1項3号による定年延長は
余人をもって代え難いような学部における当該教員を必要とする特別な事情が
ある場合に限り人事委員会の延長を可とする答申を経て教授会に延長を諮るこ
とができるもので,当該人事委員会が公平な機関でそこで延長を不可とする答
申がなされれば,学部長はそれを尊重して,当該教員の定年延長を教授会に諮
ることなく原則どおり65歳定年等で終了することとしている。このような取
扱いを前提とする被告の原告への対応について見るに,前記認定事実(5)のと
おり,人事委員会は学部長の諮問機関であり,その人選は学部長がしているこ
と,人事委員会は覆面委員会でそこでの討議審査内容は議事録に残されず,審
議内容や本件「取扱い」に照らした審議結果と理由も一般に開示されないだけ
でなく当人にも公式に開示されないものであることが認められる。そうだとす
ると,人事委員会が公正な機関であることの制度的な保障が確保されていない
し,上記で認定判断したごとく本件「取扱い」の1はある程度客観的な基準と
はなり得ても,3は人物評価,実績評価といった評価者の主観が入る余地のあ
るものであることに照らせば,覆面委員会の人事委員会で審議されたことの公
正さも担保されておらず,本人に公式な検討結果及び理由が示されないことは
評価の公正さを担保する途が閉ざされていて,当事者の弁明機会もなく,結局
のところ委員会の構成,審議方法及び審議手続の各公正さやそれを担保する情
報開示のないままに従来の定年延長の慣行に背馳する一定の結論を導き出して
いるもので,とても教授会の委託を受けてそれに代わる機関として民主主義的
に機能,対応しているものとは認められない。
そもそも,本件「取扱い」そのものが従来の定年制度の運用に関する慣行を
改めたものとは認められないことは前記2で判断したとおりであり,証拠(乙
6)による審議経過及び内容からすると,平成15年1月16日の教授会が正
式に人事委員会に教員の定年延長の審査権限を委譲・委託したとも解されない
のに,人事委員会が従来の慣行を根本から改めて定年延長を不可とする実質的
な権限を有するに至っていること自体に疑問を呈さざるを得ないところであ
る。
いずれにしても,原告について本件「取扱い」の基準に照らして定年延長の
適格がないとした人事委員会の答申には,上記のとおり委員会の構成の在り方
や審議方法に問題があること,評価の過程や結果への当事者のアクセス権の保
障がなく,評価の公正さを担保する裏付けがないことなどに照らして合理性,
客観性が認められない。
それゆえ,原告の定年延長について,人事委員会ひいてはa学部長が取った
対応・措置は,前記のようにこれまでに労使間に存在した定年延長制度の運用
に関する慣行に背馳するもので,不当なものと評価せざるを得ない。そして,
このような被告の対応・措置は,上記慣行に照らすと,原告と被告間の雇用契
約の内容となっている定年延長による労働契約関係継続の利益を不当に断ち切
るもので,権利の濫用に当たるものとして無効となる。換言すれば,被告の原
告に対する平成16年3月31日付の退職の発令は,解雇の意思表示に相当・
匹敵するものであり,しかも,本件訴訟では被告から解雇事由に当たるところ
の原告の定年延長が不適格であるとする具体的な理由が主張・立証されていな
いことからすると,解雇権濫用の法理に照らして,評価障害事実について主張
・立証がなされていないものと同視できる。
4上記のとおり,被告による原告を平成16年3月31日で定年退職とする発
令は,無効というべきであり,依然として原告は被告大学学部の教員としての
地位を有するものであり,前提事実により平成16年4月以降もそれまでの給
与の支給実績に基づき月76万0500円を毎月23日限り支払う義務を被告
は原告に対して負担しているものと解される。
被告は,定年延長については教授会の承認,理事会の決議がない以上原告の
被告における学部教授としての地位が存続していると考える余地がない旨主張
するが,定年延長の慣行がないことを前提とした立論であり,採用の限りでな
い。
以上によれば,本件請求には理由があるのでこれを認容することとして,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
裁判官福島政幸

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