弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人清水保彦の上告趣意のうち,死刑制度に関して憲法36条違反をいう点
は,死刑制度が同条に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)
第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁)とするところ
であるから,理由がなく,その余は,違憲をいう点を含め,実質は事実誤認,量刑
不当の主張であって,適法な上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは
認められない。
付言すると,本件は,被告人が,離婚を決意して実家に戻っていた妻の浮気を疑
い,執着していた妻に裏切られたことに対する怒りから,妻を実家から無理やり連
れ出してその男性関係を白状させることなどを企て,その実行方法を計画する中
で,実家で同居中であった妻の息子や両親が騒ぐなどして邪魔をする場合には同人
らを殺害するのもやむを得ないと考え,刃体の長さ約16.2㎝のアタックナイフ
及び同約46㎝の刃物であるニンジャソード,手錠,ガラス切り等の道具を購入す
るなどの準備をし,深夜,計画どおり妻の実家のマンションに忍び込み,妻を無理
やり連れ出そうとしたが,その際,上記息子及び両親が異変に気付いて目を覚まし
て起きてきたため,同人らを殺害することを決意し,用意していた上記アタックナ
イフで同人ら3名の胸部,腹部等を多数回突き刺して殺害したという殺人及びその
際の住居侵入,銃砲刀剣類所持等取締法違反のほか,これに引き続いて犯した妻に
対する逮捕監禁致傷及び逃走中の窃盗並びに上記殺人事件以前に妻に対して犯して
いた逮捕監禁,傷害の事案である。
殺人の犯行は,妻を連れ出すことの邪魔になるというだけの理由によって,全く
落ち度のない3名を殺害したという極めて身勝手なものであって,動機や経緯に酌
量の余地はない。かつては自己の養子でもあったいまだ12歳の少年を含む3名の
生命を奪ったという結果は極めて重大であり,背中を向け,あるいは後ずさりして
逃げようとする被害者らを次々に鋭利な刃物で多数回突き刺し,いずれもその場で
失血死させたという犯行態様の残虐性や,計画性などにも照らすと,誠に悪質な犯
行といわざるを得ない。
これらに加え,被告人が,上記殺害行為の後,現場から妻を連れ出して自動車に
監禁し,その後4日間にわたり逃走を続けたこと,事件後に離婚した妻を含む遺族
の被害感情が厳しいこと,社会に与えた影響も看過し難いものがあることにも照ら
すと,被告人が逮捕後は反省の態度を示していること,前科がないことなど,被告
人のために酌むべき情状を十分考慮しても,原判決が維持した第1審判決の死刑の
科刑は,やむを得ないものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官鶴田小夜子公判出席
(裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官
才口千晴裁判官涌井紀夫)

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