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平成30年2月20日判決言渡
平成29年(ネ)第10035号特許権侵害損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成26年(ワ)第8133号)
口頭弁論終結日平成29年12月11日
判決
控訴人(1審原告)株式会社ニコン・エシロール
訴訟代理人弁護士大野聖二
小林英了
訴訟代理人弁理士鈴木守
補佐人弁理士大谷寛
被控訴人(1審被告)HOYA株式会社
訴訟代理人弁護士永島孝明
安國忠彦
長谷川靖
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成26年4月9日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「累進屈折力レンズ」とする特許(特許第5000505
号。以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。また,
本件特許の願書に添付した明細書を図面と併せて「本件明細書」という。)を有す
る控訴人が,被控訴人が製造,販売する別紙被控訴人製品目録記載の各製品(以下,
目録記載の番号に従い「被控訴人製品1」などといい,これらを併せて「被控訴人
各製品」と総称する。)は,本件特許の請求項5及び8に係る各発明(以下,それ
ぞれ「本件発明5」,「本件発明8」といい,これらを併せて「本件各発明」とい
う。なお,本件特許のうち本件各発明に係るものを個別には「本件発明5について
の特許」などといい,これらを併せて「本件各発明についての特許」という。)の
技術的範囲に属し,被控訴人が平成24年5月25日から平成26年4月2日〔訴
え提起日〕まで被控訴人製品1を,平成24年11月1日から平成26年4月2日
まで被控訴人製品2ないし4を,それぞれ販売したことにより,控訴人は,本件特
許権を侵害され,少なくとも合計7億9800万円の損害を被った旨主張して,民
法709条,特許法102条2項に基づく損害賠償金1億円(一部請求。被控訴人
製品1ないし4それぞれにつき2500万円ずつ)及びこれに対する不法行為の後
の日(訴状送達の日)である平成26年4月9日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,被控訴人各製品が本件特許に係る本件各発明の技術的範囲に属しないと
判断して,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。
2前提事実等
原判決を次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の
概要」の2「前提事実等」(原判決2頁6行目から同6頁26行目まで)記載のと
おりであるから,これを引用する(以下,原判決の引用中「原告」とあるのは「控
訴人」と,「被告」とあるのは「被控訴人」と,「別紙」を「原判決別紙」と,そ
れぞれ読み替え,原判決で用いられた略語はそのまま使用する。)。
(1)原判決2頁12行目の「特許第500050号」を「特許第50005
05号」と改める。
(2)原判決4頁18行目冒頭から同頁25行目末尾までを,次のとおり,改
める。
「特許庁は,平成28年6月21日,本件訂正請求を構成する各訂正をいずれも
拒絶すべきものとした上で,「特許第5000505号の請求項1,2,3,4,
5,6,9,10に係る発明についての特許を無効とする。特許第5000505
号の請求項7,8,11,12に係る発明についての審判請求は,成り立たな
い。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。そこで,控訴人は,本件審
決のうち,「特許第5000505号の請求項1,2,3,4,5,6,9,10
に係る発明についての特許を無効とする。」との部分について,審決取消訴訟を提
起した〔知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10170号〕。知的財産高等
裁判所は,平成29年8月30日,特許法126条5項及び同条6項に関する審決
の判断に誤りがあることを理由に,本件審決のうち,上記部分を取り消す旨の判決
をした。」
3争点及び争点に対する当事者の主張
原判決を次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の
概要」の3「争点」及び「第3争点に対する当事者の主張」(原判決7頁1行目
から24頁9行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決9頁5行目冒頭から同頁25行目末尾までを,次のとおり改める。
「【控訴人の主張】
ア(ア)特許請求の範囲の記載には,「所定領域」以外の領域における面非
点隔差成分に制限はなく,本件明細書にも,処方面により発生する面非点隔差成分
と処方度数の矯正に必要な球面又はトーリック面により発生する面非点隔差成分と
の差の絶対値の平均値(以下「面非点隔差成分の平均値」という。)を所定の値以
下に抑えるべき所定領域についてしか記載されていないから,本件各発明において
は,「所定領域」以外の領域では処方面を適切な非球面形状に自由に構成できる。
(イ)「所定領域」が「それ以外の領域とは区別された領域」であること
を前提とすると,「所定領域」と「それ以外の領域」とは,面非点隔差成分の平均
値の大きさに基づいて区別されるものであると解される。すなわち,「所定領域」
は,面非点隔差成分の平均値が所定の値以下の領域であって,面非点隔差成分の平
均値が所定の値を上回る所定領域以外の領域とは区別されることになる。しかしな
がら,特許請求の範囲の文言上,所定領域は,面非点隔差成分の平均値を求める基
準となる領域であって,その領域内における面非点隔差成分の大きさによって変化
するものではないから,面非点隔差成分の平均値によって「所定領域」を解釈する
ことはできない。
(ウ)「所定領域」が「それ以外の領域とは区別された領域」であること
を前提とすると,円領域の半径を変化させて計算して求めた面非点隔差成分の平均
値が,ある半径を境界として,所定の値の上下に分かれるように局部的な補正がさ
れていると解釈することになる。このような面非点隔差成分の平均値について,所
定の値の上下に区別する境界を有するべきであるとの解釈に基づくと,必然的に,
その境界において面非点隔差成分の急激な変化を伴うことになる(例えば,半径2.
5mmの円領域を所定領域とし,その面非点隔差成分の平均値を0.08ディオプ
ターとすると,半径3.0mmの円領域における面非点隔差成分の平均値が0.1
5ディオプターより大きくなるためには,半径3.0mmの円領域から半径2.5
mmの円領域を除いたドーナツ型の領域の面非点隔差成分の平均値は,約0.31
ディオプター以上であることが必要であり,境界における面非点隔差成分の変化は,
0.08ディオプターから0.31ディオプターになる。)。眼鏡用の累進屈折力
レンズにおいて面非点隔差成分が急激に変化するような構成は考えられず,そのよ
うな眼鏡レンズの技術常識に照らして,「所定領域」について,面非点隔差成分の
平均値が所定の値以下の領域であって,面非点隔差成分の平均値が所定の値を上回
る所定領域以外の領域とは区別されるという解釈はできないことは明らかである。
(エ)そもそも「所定領域」は,文字どおり「所定」の領域であって可変
のものではないので,本件発明8の構成要件Eは,所定領域の大きさを制限するこ
とにより光学性能の低下を抑制するという技術的意義に基づくものであるとするこ
とはできない。
構成要件Cは,処方度数とほぼ同じ測定度数を得るという意義を有する要件であ
って,構成要件Cの条件式は,光学性能の低下を抑制するための構成ではない。処
方度数とほぼ同じ測定度数を得るためには,所定領域における面非点隔差成分の平
均値を規定すれば十分なのであって,面非点隔差成分の平均値の観点で,所定領域
とそれ以外の領域とを区別することは必要ないものである。
イ被控訴人製品1,2及び4は,遠用測定基準点を中心とする半径2.5
mmの領域において,面非点隔差成分の平均値が,0.00ディオプターより大き
く,0.15ディオプター以下である(被控訴人構成c1,c2,c4)。
したがって,被控訴人製品1,2及び4は,いずれも構成要件CないしEを充足
する。
ウ被控訴人製品3は,近用測定基準点を中心とする半径2.5mmの領域
において,面非点隔差成分の平均値が,0.00ディオプターより大きく,0.1
5ディオプター以下である(被控訴人構成c3)。
したがって,被控訴人製品3は,構成要件CないしEを充足する。
【被控訴人の主張】
ア本件各発明は,レンズの処方面の「測定基準点を含む近傍の所定領域」
について,非球面形状により生ずる面非点隔差成分の値を小さくすることにより,
処方値とほぼ同じ度数を得るようにすることを目的とするものである。
本件各発明の技術的意義に鑑みれば,そもそも,レンズの測定基準点を含む処方
面が,レンズの光学性能を犠牲にする必要のない面非点隔差の値であれば,局部的
な面補正をして「所定の値以下」にされた「所定領域」を設ける必要性はない。所
定領域内外は面非点隔差成分の平均値の大きさに基づいて区別されるべきものであ
り,請求項8の|(x2
+y2
)1/2
|≦2.50という条件式は,所定領域の上限
を示すものである。
イ被控訴人製品1,2及び4は,遠用度数測定点を中心とした遠用部領域
全体,被控訴人製品3は,近用度数測定点を中心とした近用部領域の領域全体にお
いて,面非点隔差成分の平均値が本件発明の構成要件Dにおける所定の値である0.
15ディオプターを大きく下回っているものである。したがって,被控訴人各製品
においては,レンズの測定基準点を含む処方面の非点隔差は,光学設計上,一定の
領域における光学性能を犠牲にしても所定の値以下とするような局部的な面補正,
つまり,「所定の値以下」にされた「所定領域」を設ける必要がない構造であると
いえる。
このように,被控訴人各製品には,「眼鏡フレーム内に設定」するような設計が
なく,「測定基準点を含む近傍の所定領域」という特別の領域は設けられておらず,
その領域が「所定の値以下」に設定されてもいない。
被控訴人各製品においては,およそ「所定領域」の内側が「所定の値」以下であ
り,その外側が「所定の値」以上とするような構成は採用されていないのであって,
被控訴人各製品は,面非点隔差成分の平均値が「所定の値」以下とされた「所定領
域」を備えるものではない。
したがって,被控訴人各製品は,いずれも構成要件CないしEを充足しない。」
(2)原判決19頁25行目の「誤記の訂正の」を「誤記の訂正を」と改める。
(3)原判決23頁7行目の「被告製品3は,被告製品3は,」を削る。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人各製品は本件各発明の技術的範囲に属しないから,控訴人
の請求は理由がないものと判断する。その理由は,原判決を次のとおり訂正するほ
か,原判決の「事実及び理由」の「第4当裁判所の判断」の1「争点1(被告各
製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について」(原判決24頁11行目か
ら同34頁15行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決25頁21行目の「2頁40行」を「3頁40行」と改める。
(2)原判決32頁13行目の「平均値ΔASav」を「平均値ΔASav
(面非点隔差成分の平均値)」と改める。
(3)原判決33頁1行目から2行目までの「面非点隔差成分」を「面非点隔
差成分の平均値」と改める。
(4)原判決33頁5行目冒頭から同頁7行目末尾までを,次のとおり改める。
「エ控訴人の主張について
(ア)控訴人は,「所定領域」が「それ以外の領域とは区別された領域」
であることを前提とすると,「所定領域」と「それ以外の領域」とは,面非点隔差
成分の平均値の大きさに基づいて区別されるものであると解されることになるけれ
ども,特許請求の範囲の文言上,「所定領域」は,面非点隔差成分の平均値を求め
る基準となる領域であって,その領域内における面非点隔差成分の大きさによって
変化するものではないから,面非点隔差成分の平均値によって「所定領域」を解釈
することはできない旨主張する。
しかしながら,本件明細書の記載によれば,「所定領域」は,「面非点隔差成分
の平均値(ΔASav)」を所定の値以下に抑えるべき領域であり,「面非点隔差
成分の平均値(ΔASav)」を決めるための基準となる範囲を示すものであって,
面非点隔差成分の平均値(ΔASav)は,①面非点隔差成分ΔASと,②「所定
領域」によって特定されるものであるから,所定領域が定められた上で,面非点隔
差成分の平均値(ΔASav)が特定されるものであると認められる。
そして,「測定基準点を含む近傍の所定領域」とは,「それ以外の領域とは区別
された領域」であることを当然の前提としていることは前記認定のとおりであり,
「所定領域」について,このように解釈したとしても,「それ以外の領域とは区別
された領域」である「所定領域」が,面非点隔差成分の平均値を求める基準となる
ものであることに変わりはない。「所定領域」が,面非点隔差成分の平均値を所定
の値に抑えるべき領域であるからといって,控訴人が主張するように,領域内にお
ける面非点隔差成分の大きさによって所定領域の大きさが変化するということはな
い。
前記認定のとおり,面非点隔差成分の平均値が「所定の値以下」にされた「所定
領域」を設ける必要がない被控訴人各製品は,面非点隔差成分の平均値が「所定の
値以下である」「所定領域」に相当する構成を有しないから,構成要件Cを充足す
るとはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ)控訴人は,面非点隔差成分の平均値について,所定の値の上下に区
別する境界を有するべきであるとの解釈に基づくと,必然的に,その境界において
面非点隔差成分の急激な変化を伴うことになるところ,眼鏡用の累進屈折力レンズ
において面非点隔差成分が急激に変化するような構成は考えられず,そのような眼
鏡レンズの技術常識に照らすと,「所定領域」について,面非点隔差成分の平均値
が所定の値以下の領域であって,面非点隔差成分の平均値が所定の値を上回る所定
領域以外の領域とは区別されるという解釈はできないことは明らかである旨主張す
る。
しかしながら,本件各発明においては,所定領域内の面非点隔差成分の平均値に
ついて,「0.15ディオプター以下である」(構成要件D)との特定があるのみ
であるから,この範囲で面非点隔差成分の平均値を適宜設定することができるもの
であり,例えば,上記平均値を0.15ディオプターにより近い値に設定すれば,
面非点隔差成分は境界において急激な変化を伴うことにはならないといえる。また,
本件各発明においては,所定領域内における面非点隔差成分の分布についても特段
の限定はなく適宜設定することができるから,控訴人が主張する例においても,測
定基準点の面非点隔差成分を例えば0.00ディオプターにしつつ半径方向外側に
向かって徐々に大きくしていけば,面非点隔差成分は境界において急激な変化を伴
うことにはならない(面非点隔差成分を,測定基準点において最も小さくして半径
方向外側に向かって徐々に大きくすることは,控訴人が主張するような眼鏡レンズ
の技術常識に照らし,自然かつ合理的なことであるといえる。)。このように,
「所定領域」について,面非点隔差成分の平均値が所定の値以下の領域であって,
面非点隔差成分の平均値が所定の値を上回る所定領域以外の領域とは区別されると
いう解釈によっても,必然的に,眼鏡レンズの技術常識に反するような構成となる
わけではないといえる。
そして,面非点隔差成分が急激に変化するような構成を避けるのが眼鏡レンズの
技術常識であることを前提にすると,当業者であれば,本件各発明で規定された条
件の下で上記技術常識に合致するように,面非点隔差成分の大きさや分布を適宜設
定するものと考えられるから,本件各発明が控訴人の主張する技術常識に合致しな
い例を含み得ることをもって,前記認定の「所定領域」の解釈が誤りであるという
ことはできない。なお,仮に,本件各発明の「所定領域」以外の領域では面非点隔
差成分に制限はなく,処方面を適切な非球面形状に自由に構成できるものであると
の控訴人の主張を前提としても,面非点隔差成分が境界において急激な変化を伴う
ことになるような技術常識に合致しない場合を含み得ることになるといえる。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ)控訴人は,そもそも「所定領域」は,文字どおり「所定」の領域で
あって可変のものではないので,本件発明8の構成要件Eは,所定領域の大きさを
制限することにより光学性能の低下を抑制するという技術的意義に基づくものであ
るとすることはできないと主張する。
しかしながら,本件明細書に,「度数測定のみを考慮するのであれば,上記面非
点隔差成分の平均値が所定の値以下の所定領域はできるだけ広い方が効果的である
が,この所定領域を広くするほど装用状態における光学性能は低下する。」ことか
ら,「装用状態における光学性能を重視する場合」には,「所定領域は,」「|
(x2
+y2
)1/2
|≦2.50(mm)の条件を満足する領域であることが望まし
い」こと,すなわち,本件発明8の構成要件Eの条件式「|(x2
+y2
)1/2
|≦
2.50(mm)」によって所定領域が広くなりすぎないようにすることで,光学
性能の低下を抑制することが記載されていることは前記認定のとおりであるから,
本件発明8の構成要件Eが所定領域の大きさを制限するとの技術的意義に基づくも
のではないとする控訴人の上記主張は,本件明細書の記載に基づかないものである。
なお,本件明細書の記載によれば,「所定領域」は,「面非点隔差成分の平均値
(ΔASav)」を決めるための基準となる範囲を示すものであり,本件発明8の
構成要件Eの条件式は,「所定領域」の具体的範囲を数値で特定するものであると
解される。「所定領域」が,面非点隔差成分の平均値を所定の値に抑えるべき領域
であるからといって,「所定領域」が可変のものとなるわけではない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(エ)控訴人は,構成要件Cは,処方度数とほぼ同じ測定度数を得るとい
う意義を有する要件であって,構成要件Cの条件式は,光学性能の低下を抑制する
ための構成ではないから,処方度数とほぼ同じ測定度数を得るためには,所定領域
における面非点隔差成分の平均値を規定すれば十分なのであって,面非点隔差成分
の平均値の観点で,所定領域とそれ以外の領域とを区別することは必要ないもので
あると主張する。
しかしながら,本件明細書の記載によれば,本件各発明の実施に際しては,所定
領域を広くすると,度数測定には有利となるが,その代償として光学性能が低下す
るため,この点を考慮して所定領域を定めなければならず,所定領域は,「装用状
態における光学性能を良好に改善しているにもかかわらず,眼鏡店やユーザーによ
るレンズの度数測定を容易に行うことのできる累進屈折力レンズを提供する」とい
う本件各発明の目的を達成するように定められる必要があるといえる。そうすると,
構成要件Cにおいて,実質的に発生する面非点隔差成分の平均値を所定の値以下と
する範囲を「所定領域」としているのは,処方面が非球面形状を有することによっ
て向上した装用状態の光学性能が,面非点隔差成分の平均値を所定の値以下とする
ことで低下してしまう領域を「それ以外の領域とは区別された領域」とすることで,
無制限に広がらないようにするためであると解するのが相当である。このように,
構成要件Cは,光学性能の低下を抑制するための構成であるといえるから,構成要
件Cが光学性能の低下を抑制するための構成ではないことを前提とする控訴人の主
張は,その前提を欠くものであるといわざるを得ない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ)控訴人は,特許請求の範囲の記載には,「所定領域」以外の領域に
おける面非点隔差成分に制限はなく,本件明細書にも,面非点隔差成分の平均値を
所定の値以下に抑えるべき所定領域についてしか記載されていないから,本件各発
明において,「所定領域」以外の領域では処方面を適切な非球面形状に自由に構成
できるなどと主張する。
所定領域以外の領域では面非点隔差成分に制限はないとする控訴人の上記主張は,
本件各発明が,所定領域以外の領域で面非点隔差成分が所定の値以下である態様も
含むという趣旨であると解される。このような控訴人の主張によれば,本件各発明
には,「所定領域」を設ける前提となる「測定基準点において面非点隔差が発生す
る結果,レンズメーターで測定される測定度数が処方度数と異なってしまうという
課題」自体を生じない構成まで包含することとなるところ,本件明細書にはそのよ
うな主張を根拠付ける記載はない。そして,本件明細書の記載によれば,「測定基
準点を含む近傍の所定領域」とは,それ以外の領域とは区別された領域であること
を当然の前提としているものといえることは前記認定のとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は,本件明細書の記載に基づくものではなく,採
用することができない。」
(5)原判決34頁6行目から7行目までの「の非点隔差」を削る。
第4結論
以上によれば,被控訴人各製品は,本件各発明の技術的範囲に属しないから,本
件特許権に基づく控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由
がない。
よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないか
らこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中島基至
裁判官
岡田慎吾
別紙
被控訴人製品目録
下記製品(ただし,処方の球面度数=0かつ処方の乱視度数=0の累進屈折力レ
ンズを除く。)
1HOYALUXサミットTF
2HOYALUXタクトTF
3ニュールックスレクチュールTF
4リマークTF

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