弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を水戸地方裁判所下妻支部に差戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人池田操作成名義の控訴趣意書記載の通りであるから、こ
れをここに引用し、これに対し次の通り判断する。
 控訴趣意第一点について。
 <要旨>よつて按ずるに、刑法第一八六条第二項にいわゆる「賭博場を開張して利
を図りたる者」とは、利益を得る目的を以て、賭博を為さしめる場所を開設
した者をいうのであるが、その利益を得る目的とは、その賭場に於て、賭博を為す
者から、寺銭又は手数料名義を以て、賭場を利用させる対価として、不法な財産的
利得をしようとする意思のあることをいうものと解すべきところ、(昭和二十四年
六月十八日言渡最高裁判所第二小法廷判決、最高裁判所判例集第三巻第七号一、〇
九四頁以下参照)本件公訴事実によれば、被告人は寺銭を徴収して利益を得る目的
を以て云々とあるに拘らず、原判決は、犯罪事実として、右「寺銭を徴収して」な
る文言を用いず、被告人は利を得る目的で、第一、原判示日時判示場所にあつた当
時の被告人方遊技場に於て、賭博場を開張して、判示賭客を集め、木製玉(六面の
賽で面毎に異る色が塗つてある)を転がして、面の色によつて勝敗を決する玉転が
し又はだるま転がしと称する賭銭博奕を行わしめ、第二、原判示日時前同被告人方
遊技場に於て、賭博場を開張し、判示賭客を集め、木製球状賽三個を転がし、上部
に出た数によつて勝敗を決する玉転がし又はだるま落しと称する賭銭博奕を行わし
めたものであると認定し、これに対し刑法第百八十六条第二項を適用しているので
あるが、右事実摘示を原判決挙示の証拠と併せ判読してみても、被告人が判示の如
く開張した賭場に於て、如何なる方法により利を図つたかを確認し難いのである。
尤も、当審に於ける事実取調の結果をも参酌して、訴訟記録を精査すると、被告人
は原判示の如く賭場を開張し、賽を用いて、賭客の勝敗のない場合は賭金の全部を
被告人の収得に帰せしむる方法により、賭客同士をして賭銭博奕を為さしめ、或は
賭博の結果を概して親の有利に帰せしむる方法により、自ら親として賭客の相手と
なつて賭銭博奕を為し、以て利を図つたかの如くに推認し得られないわけではない
が、かくの如き利益の収得は、いずれも被告人が賭場を利用させた対価として収得
したものとは認め難いから、いわゆる賭博開張罪の構成要件としての図利行為には
該当しないものと云わなければならない。そこで、なお審理の結果、被告人が右の
如き利益を収得する外、公訴事実に云うが如く、寺銭を徴収した事実が認め得られ
るに於ては、原判決は、賭博開張罪の図利の事実を具体的に示さなかつたために、
判決に理由を附しなかつた違法あるに帰し、又かかる新事実を認定し得られない場
合には、原判決は刑法第百八十六条第二項の解釈を誤つた結果、賭博開張罪に該当
しない事実に対し賭博開張罪に関する刑罰法令を適用した違法あるに帰し、而かも
この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨は結局理由があり、原
判決は破棄を免れない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)

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