弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役壱年に処する。
     門司税関大蔵事務官差押にかかる船舶(A丸)一隻及び押収にかかるフ
イルム四十本(証第十四号)は孰れもこれを没収する。
     原審における訴訟費用は全部被告人及び原審相被告人Bの連帯負担とす
る。
         理    由
 被告人の弁護人本間大吉の控訴の趣意は末尾添附の控訴趣意書記載のとおりであ

 控訴趣意第一点の一について。
 <要旨>原判決が原判示事実を認定するために援用したC、Dの各尋問調書を調べ
て見ると、伝聞に係る部分の記載があるので原審が右調書を証拠に援用する
には伝聞部分を排除すべきであるのに拘らずその処置を採らないでその儘これを証
拠に援用したのは違法であること所論のとおりであるが、右各尋問調書の記載中伝
聞の部分を除くその余の記載と、原判決が援用したその余の証拠とを綜合すれば優
に判示事実を認定することができるので、右違法は判決に影響を及ぼさないので所
論は採用の限でない。
 同上の二について。
 原審公判調書を見ると、原審は昭和二十四年九月二十九日の被告人に対する関税
法違反被告事件の公判期日において右事件を原審相被告人Bに対する関税法違反被
告事件に併合審理をする旨決定したのに拘らず原審相被告人Bが在廷しないのに引
き続き直ちに証拠調に入り検察官の請求に係る書証の取調をし、又検証並に検証現
場における証人尋問を採用する旨の決定をしたのは訴訟手続上違法であることは所
論のとおりであるが、同年同月十四日の原審相被告人Bの公判調書を見ると右書証
は既に同日の原審相被告人Bの公判廷において書証として提出せられ、全部その証
拠調がなされ又同日検証並に現場における証人尋問を採用する旨の決定がなされた
ことが認められ、しかもその後は右両被告人の併合審理が適法になされたことは本
件記録に徴し明らかであるので、前記訴訟手続の違法は判決に影響を及ぼさないの
で、所論は採用の限でない。
 同上第二点について。
 しかしながら、原判決挙示の証拠を綜合すれば、原判示事実を認定することがで
きる
 所論(一)については証人Eの尋問調書の記載によれば、本件A丸はその性能燃
料等において朝鮮に渡航するに堪え得られる能力のあることが認められ、所論
(二)海図を関係者が所持していなかつた事実については確証はなく、たとえ本件
検挙当時海図が見当らなかつたとしても本件犯行を認定する妨げになるものではな
く、所論(四)は原審の採用しない証拠について原審判決の事実認定を非難するも
のであつて採用の限でない。原判決には所論のような事実誤認の違法はない。論旨
は理由がない。
 同上第三点について。
 原審は関税法違反罪の共同正犯にあたる事実を認定し関税法第七十六条第一項を
適用したのみで刑法第六十条の適用を遺脱したことは所論のとおりであるが、その
違法は判決に影響を及ぼさないから所論は採用の限でない。
 同上第四点について。
 よつて記録を査閲し、被告人の年令、件格、境遇、本件犯罪の軽重及び犯罪後の
情況等諸般の事情を綜合して検討すると原審が被告人に対し懲役一年六月を科した
のは刑の量定が重きに失すると認められるので原判決は破棄を免れない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条第四百条但書に従い原判決を
破棄し、被告事件について更に判決をする。原判決認定の事実に法律を適用する
と、被告人の判示所為は関税法第七十六条第一項刑法第六十条に該当するので、そ
の所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役壱年に処し、主文掲
記の物件中船舶は本件犯罪行為の用に供し、フイルム四十本(証第十四号)は本件
犯罪に係る貨物であつて右船舶は被告人の所有に係りフイルムは原審和被告人Bの
占有に係るものであるから、関税法第八十三条第一項に従い、孰れもこれを没収
し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項第百八十二条に従い、
全部被告人及び原審相被告人Bをしてこれを負担させることとし、主文のとおり判
決する。
 (裁判長判事 三瀬忠俊 判事 和田邦康 判事 小竹正)

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