弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告P1、同P2、同P3、同P4、同P5、同P6及び同P7が、それぞ
れ被告東日本電信電話株式会社との間で、原告P1につきコンシューマ事業推
進本部(営業推進部マーケティング部門埼玉センタ第一営業担当)に、同P2
につきコンシューマ事業推進本部(営業推進部マーケティング部門埼玉センタ
第二営業担当)に、原告P3及び同P7につきコンシューマ事業推進本部(営
業推進部マーケティング部門(神奈川センタ)に、原告P4につきビジネス)
ユーザ事業推進本部(ビジネス営業部教育営業担当)に、原告P5につき技術
部(情報システム体系化推進PT光SO・DB監査担当)に、原告P6につき
ビジネスユーザ事業推進本部(ネットワークソリューション部NI推進担当)
に勤務すべき労働契約上の義務がないことをそれぞれ確認する。
2被告東日本電信電話株式会社は、原告P1、同P2、同P8、同P3、同P
4、同P5、同P6及び同P7に対し、各300万円及びこれに対する平成1
4年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告らは、原告P9に対し、連帯して300万円及びこれに対する平成14
年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
、、、、本件は平成14年7月1日付け又は同年8月1日付けで北海道宮城県
山形県、群馬県、新潟県等から首都圏に配置転換(以下「配転」という)さ。
れた原告らが、原告らに対する配転は、①労働契約による勤務場所及び職種の
限定に反する、②配転命令権を濫用して行われたものである、③ILO条約そ
の他の法令や労働契約上の付随義務に反する、④不当労働行為に該当する、な
どにより無効であるとして、口頭弁論終結時における勤務先で勤務する労働契
約上の義務がないことの確認を求めるとともに(口頭弁論終結時に定年退職と
なっている原告P8及び同P9を除く、不法行為に基づく慰謝料の請求を。)
した事案である(以下、平成14年7月1日付け又は同年8月1日付けで原告
らに対して行われた配転を総称して「本件各配転」という。なお、単に「本件
配転」というときは、その記載に対応する原告に対して前記時期にされた配転
を指す。。)
なお、原告らは、いずれも、本件各配転後、首都圏内で再配転されている。
原告P8及び同P9を除く原告らは、いずれも、現在の勤務先で勤務する労働
契約上の義務がないことの確認を求めているが、本件の争点は、本件各配転の
有効性であり、原告らは、その後原告らにされた配転について個別の無効事由
等を主張するものではない。本件事案の性質上、本件各配転が無効であれば、
それを基礎としてされたその後の配転も無効とされるべきものであること、原
告らには本件各配転以後で現在より前の勤務先で勤務する労働契約上の義務が
ないこと、したがって、原告らが現在の勤務先において勤務する義務がないこ
とが確定すれば原告らの勤務先は本件各配転前の勤務先となることは、当事者
双方の共通の認識であり、争いがない。
1前提事実(争いがない事実及び適示した証拠により容易に認定できる事実。
以下では、重複して証拠が提出されている場合は、そのうち1つのみを適示し
ている)。
()当事者1
ア原告らは、昭和30年代後半から昭和40年代にかけて日本電信電話公
社(以下「電電公社」という)に採用され、以後期間の定めのない社員。
(従業員の意味として用いる。以下も同様)として稼働しているものであ
る。
電電公社は、昭和60年4月1日、日本電信電話株式会社等に関する法
律(昭和59年12月25日法律第85号。以下「NTT法」という)。
に基づき設立された日本電信電話株式会社(以下、事業再編の前後を問わ
ず「NTT」という)に対し、一切の権利義務を引き継いで解散し、原。
告らはNTTの社員となった。NTTは、その後、いわゆる純粋持株会社
となり、NTTの事業は、平成11年7月1日付けで事業会社として設立
された、被告東日本電信電話株式会社(以下「被告会社」という)や西。
(「」。)、日本電信電話株式会社以下NTT西日本というに営業譲渡され
これに伴い、原告らの雇用関係は、NTTから被告会社へ引き継がれた。
なお、原告P9は、その後、被告株式会社エヌ・ティ・ティエムイー(以
下、組織変更や名称変更の前後を問わず「被告ME」という)に在籍出。
、、。向し原告P8及び同P9は口頭弁論終結時には定年退職となっている
原告らは、いずれもNTTグループ労働者約1300名で組織する通信
産業労働組合(以下「通信労組」という)の組合員である。なお、NT。
Tグループ各社の社員らで組織する労働組合には、通信労組のほかに、組
織率99パーセント以上のNTT労働組合(組合員数約21万人)等があ
る。
イ被告会社は、東日本地域(北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、
山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神
奈川県、新潟県、山梨県及び長野県)における地域電気通信業務、地域電
気通信業務に付帯する業務、その他会社の目的を達成するために必要な業
務及び東日本地域における地域電気通信業務とこれに付帯する業務を営む
ために保有する設備若しくは技術又はその社員を活用して行う電気通信業
務を行う株式会社である。
被告MEは、平成11年4月1日に、株式会社エヌ・ティ・ティ・テレ
コムエンジニアリング東京、株式会社エヌ・ティ・ティ・テレコムエンジ
ニアリング関東、株式会社エヌ・ティ・ティ・テレコムエンジニアリング
信越が合併して設立された、被告会社の100パーセント出資子会社であ
り、IT(情報技術、電気通信、情報通信に関する事業及び電気通信工)
事など各種工事の請負・施工等を営む株式会社である。
()「構造改革」の発表2
アNTTは平成13年4月16日NTTグループ3ヵ年経営計画2、、「(
001∼2003年度)について(以下「新3か年計画」という)に」。
より「東西地域会社の本体機能を企画・戦略、設備構築・管理、サービ、
ス開発、法人営業等に特化させ、注文受付、設備保守・運営、故障修理等
の業務については、地域単位(県又は複数県を束ねたブロック)の経営資
源活用会社等へアウトソーシングします。また、これに併せて、経営資源
活用会社等は徹底した経営の効率化を図るとともに、地域密着型の事業活
動によりグループ内外に向けた業容の拡大に取り組みます」と発表した。
(以下、NTTグループの一員である被告らが新3か年計画に基づき採っ
た以下の一連の施策を「本件構造改革」という(甲1)。)。
イ被告会社は、同月27日、通信労組に対し「NTT東日本の構造改革、
に向けた業務運営形態等の見直し等について」と題する書面を提示し、新
3か年計画の具体的内容を明らかにした。
その内容は、電気通信事業の基本である「オペレーショナル業務等につ
いては、新たに設置する県別子会社に徹底した業務のアウトソースを行
い「アウトソーシング会社の労働条件については、同一地域同業種の」、
労働条件をも意識して各社毎に設定することとし、給与水準については、
。」現在のNTT東日本より概ね20から30パーセント下回る設定とする
とし、これによる社員に対する処遇の具体策として「選択型の雇用形態、
」、「」、「」、・処遇体系を提供するとして60歳満了型60歳以降充実型
「一時金型」を提示するというものであった(各雇用形態の具体的な内容
は、後記()のとおり(甲2)3)。
ウ被告会社やNTT西日本は、平成13年10月25日「当面の経営課、
題に対するNTTの取り組み」を、同年11月22日「NTT東西の構、
造改革について」を発表した。その内容は「業務の抜本的なアウトソー、
シングと雇用形態の多様化による人的コストの低減」を図るために「N、
TT東西社員の6割程度(約6万人、既存子会社を含めれば約10万人)
をアウトソーシング会社へ移行「51歳以上の移行社員は、NTT東」、
西を退職し、15%∼30%減の賃金水準でアウトソーシング会社で再雇
用する仕組みを導入」するとした(甲3)。
()本件構造改革による雇用形態の見直し3
ア被告会社は、平成13年12月6日「NTT東日本の構造改革に向け、
」、。、た業務運営形態等の見直し等についてを以下のとおり発表したなお
以下における50歳以上とは、平成14年3月31日時点での年齢が50
歳以上の者を指している(甲4)。
「1.雇用形態・処遇体系の多様化の枠組み
()雇用形態・処遇体系1
①繰延型
50歳(年齢については年度末の満年齢をいう。以下同じ)。
時にNTT東日本を退職し、新会社に再雇用され、60歳定年制
により60歳まで勤務した後、61歳以降は、現行のキャリアス
タッフと同様の枠組みで、契約社員として新会社に再雇用され、
最長65歳までの雇用を実現する形態。
また、勤務地が限定的となる一方、新会社においては所定内給
与が低下することとなるが、激変緩和措置に加え、雇用保険など
()、公的給付や企業年金税制適格年金の受給の組み合わせにより
61歳以降の充実した生活設計に資するものとする。
②一時金型
雇用の形態としては前①と同様であるが、激変緩和措置につい
ては、NTT東日本退職時に一時金を受給できる形態とし、生活
設計の多様化に応えるものとする。
③60歳満了型(以下「満了型」という)。
NTT東日本等において、企画・戦略、設備構築、サービス開
発、法人営業等の業務に従事し、現行の人事・給与制度により6
0歳まで勤務する形態。
市場性の高いエリア等を中心として勤務地を問わず、成果・業
績に応じて高い収入を得る機会を追及する意欲を持った社員に応
えるものとする。
()対象者等2
対象者については、従事業務に関わらず、再雇用時の年齢が51
歳となる社員(出向者を含む。ただし、ME各社を除く期間の定め
のない会社への出向者等を除く)とし、50歳時に雇用形態の選。
択を行うこととする。
また、再雇用時の年齢が50歳以下となる社員が特に退職・再雇
。、、用の選択を希望する場合についても対象とするただしこの場合
激変緩和による給与加算及び一時金の措置は実施しないが、新会社
の在籍期間等に応じ、退職手当が支給される」。
イ被告会社は、平成13年12月3日「構造改革の実施に伴う雇用形態、
・処遇体系の多様化の実施について(社長達)により「雇用体系・処」、
遇体系の多様化を実施する」方法を以下のとおりとした(甲5)。
①平成13年度に50歳以上となる社員は、平成14年1月18日まで
の間に「繰延型「一時金型「満了型」の雇用形態等を選択し、任」、」、
命責任者に対し、通知しなければならない。なお、この通知をもって辞
職願に代えることとする。
②平成13年度に50歳以上となる社員が雇用形態等を選択・通知しな
い場合は「満了型」を選択したものとみなす。
③新会社への移行については、平成14年4月30日でNTT東日本を
退職し、平成14年5月1日から新会社において再雇用されるものとす
る。
()被告MEにおける構造改革4
被告会社が実施した本件構造改革は、コスト構造改革を標榜するものであ
り、被告MEを始めとするグループ各社への委託費の削減も内容とするもの
であった。そのため、被告MEは、被告会社の本件構造改革と併せ、グルー
プ各社からの受託収入に軸足をおいた経営からの脱却を目指すこととし、被
告会社等の電気通信設備の施工管理、故障修理・定期点検等、回線開通等、
委託業務のほとんどを被告MEから新会社に移行することや、上記()と同3
様の雇用形態・処遇体系の多様化等を内容とする構造改革を実施することと
した(乙118)。
()本件構造改革による新会社設立と業務の外注委託5
本件構造改革で被告会社が業務を外注委託した先は新たに設立されたサ、「
ービス系会社「設備系会社「共通系会社」であった(以下、これら新」、」、
たに設立された会社を総称して「新会社」という。。)
「サービス系会社」には、①中堅・中小企業や住宅ユーザに被告会社の商
品やサービスを販売したり、注文受付を行う業務(訪問や電話により販売勧
奨を行う営業業務、商品やサービスの注文を電話で受け付ける116業務、
来客する顧客と対応する窓口業務、②顧客からの注文等に応じて、その事)
務処理を行う業務(SO業務」と称している「SO」はサービスオーダ「。
ーの略称である、③被告会社の商品・サービスに対応する料金の請求、。)
審査、回収等の業務(料金業務、④公衆電話の設置、改廃に伴う事務処理)
の業務、⑤電報サービスの販売成果の把握・分析及び広告宣伝等の業務を、
「設備系会社」には、①被告会社の電話交換機等の通信設備の保守、故障対
応の業務、②被告会社の商品である通信機器の故障対応の業務、③通信回線
の敷設、保守、故障修理等の対応業務を「共通系会社」には、①社員証発、
行や不動産管理及びそれに伴う事務処理等の業務(総務関係業務、②給与)
()、等支給に伴う手続・事務処理業務及び研修の運営等の業務人事関係業務
③福利厚生に関する問い合わせ対応及び健康診断の手続等の業務(厚生関係
業務④社内会計における伝票審査及び財務データのチェック等の業務財)、(
務関係業務)を業務委託された。
また、被告MEも、被告会社と同時期に実施した構造改革により、電気通
信設備の施工管理・故障修理等、定期点検等、回線開通等の業務を外注委託
(、「」。)。した以下被告らが新会社に外注委託した業務を移行対象業務という
その結果、原告らが本件各配転直前に従事していた業務は、いずれも、新
会社に外注委託された(原告P6については争いがある(乙118)。)。
()雇用形態選択の実施6
ア被告らは、平成13年10月、毎年行っている全社員を対象とする中間
面談において、各社員から、その意向や個別の事情を聴取し、更に同年1
2月、雇用形態選択の対象となる51歳以上の社員(平成15年3月31
日に51歳以上となる社員。以下も同様である)を対象に個別面談を実。
施して、再度意向や個別の事情を確認するとともに雇用形態選択通知書を
交付した。原告らの中には個別面談に応じない者もいたが、いずれの原告
も雇用形態選択通知書は受領した。
イ原告らは、雇用形態選択通知書の提出期限とされた平成14年1月18
日までにこれを提出しなかったため、いずれも満了型を選択したものとみ
なされた。
原告らは、満了型を選択したとみなされた結果、後記()アないしケの7
各(ウ)、(エ)のとおり首都圏に配転された(ただし、原告P9は東京都内
の配転である。原告らの配転先は、いずれも、大企業等の大口ユーザ。)
等を対象とする事業の関連部門である被告会社の法人営業(AM担当やS
Oアシスト担当(又はSO推進担当、又は専用サービスセンタの部門、))
あるいは被告MEのメンテナンスビジネス部である。原告らはこれらの業
務に従前従事した経験はなかった。
被告会社の法人営業は、主に、ソリューションビジネスと称する業務を
行っている。ソリューションビジネスとは、企業や官公庁を対象に、個々
の顧客が抱える経営課題、業務上の課題を聴取して、これらの課題を解決
する情報通信システムの提案・構築を行うものである。この業務を担当し
ているのが、AM(アカウントマネージャー」の略称)やSE(シス「「
テムエンジニア」の略称)である。AMは、顧客の窓口として、情報通信
を切り口に経営的側面から業務コンサルティングを行い、顧客の潜在ニー
ズを掘り起こし、最新の技術動向を踏まえつつ顧客のニーズを満たす最適
な情報システムの提案・販売を行う。SEは、AMの活動を技術的に支援
し、技術面からのコンサルティングを実施し、情報通信システムの仕様検
討・設計・機器の調達・構築支援等を行う。また、AMは、営業活動の中
で、顧客への営業活動に伴い、顧客の設備に関する検討や調査、商品・サ
ービスを受注した後のSO処置(社内システムに顧客の受注情報を入力す
る(SOを投入する」と称している)ための指示書作成業務や、指示「。
書に基づき社内システムにSOを投入するSOセンタの業務、料金請求を
行う業務等の一連の業務をいう、商品・サービスの工事手配、立会い、。)
進捗管理等を担当することが多いため、被告会社は、AMのSO業務軽減
による生産性向上を図るべく、SOアシスト担当やSO推進担当を設け、
AMの業務を補佐させていた。
ウ本件構造改革当時、被告会社には、満51歳以上の社員が約2万670
0名在籍していたが、繰延型又は一時金型を選択した社員は約2万600
0名であり、満了型を選択し、あるいは希望を述べず満了型を選択したと
みなされた社員は約700名であった。そのうち、新会社への移行対象業
務に従事していたのは、原告らを含め約300名であった。被告会社は、
上記約300名のうち、約130名を首都圏の法人営業等に配転し、その
他の者を地方の法人営業等に配転した(乙118)。
()各原告の経歴、家族等7
ア原告P1
(ア)原告P1は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時52歳)の女
性であり、群馬県立α高等学校を卒業後、電電公社に雇用された(乙。
73)
原告P1は、平成14年当時、群馬県高崎市において、夫(53歳。
なお、本件配転当時の年齢であり、以下の記載も同様である、二女。)
(18歳、二男(12歳)と4人で暮らしていた(長男、長女はすで)
に独立していた。。)
(イ)原告P1は、昭和44年3月28日見習社員として雇用、同年7月
28日社員として採用されて以降、桐生電報電話局(電話運用課、業務
部電話運用課、高崎電報電話局(営業部第三営業課、第一営業部料金)
課、高崎支店(第一営業部料金課、同部料金担当、料金担当、お客様)
サービス部料金担当、群馬支店(お客様サービス部高崎料金担当、同)
部料金センタ第一料金担当)において業務に従事していた。
(ウ)被告会社は、原告P1を、平成14年4月24日付けで群馬支店営
業部システムソリューション部門システムサービス担当、同年5月1日
付けで同支店法人営業部法人総括担当に配転した後、同年7月1日付け
で埼玉支店法人営業部エリアAM部門埼玉中央西営業担当に配転した
(本件配転。その後、原告P1は、平成15年4月1日付けで同部公)
共AM部門自治体担当に、平成17年4月1日付けでコンシューマ事業
推進本部営業推進部マーケティング部門埼玉センタ第一営業担当に配転
されている。
(エ)埼玉支店法人営業部エリアAM部門埼玉中央西営業担当の職場は、
埼玉県川越市内にあったため、原告P1は、群馬県高崎市内から約2時
間かけて職場に通勤していた。
イ原告P2
(ア)原告P2は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時54歳)の女
性であり、群馬県立β高等学校を卒業後、電電公社に雇用された(乙。
76)
原告P2は、平成14年当時、群馬県邑楽郡<以下略>において、夫
(54歳、長女(22歳、長男(20歳、二男(16歳)と5人で)))
暮らしていた。なお、原告P2には、2歳時の事故で瘢痕拘縮、火傷に
よる右手指機能障害(障害等級3級)があった。
(イ)原告P2は、昭和43年10月1日、電電公社に見習社員として雇
用昭和44年2月1日社員として採用されて以降太田電報電話局電、、(
話運用課、業務部電話運用課、営業部番号情報営業課、太田支店(営)
業部番号情報営業課、同営業担当、群馬支社(電報・番号情報営業部)
)、()、太田番号情報営業担当太田支店番号情報営業部番号情報営業担当
群馬支店(番号情報営業部太田番号情報営業担当、太田支店(お客様)
サービス部116センタ担当、群馬支店(太田営業支店お客様サービ)
ス部116センタ担当、お客様サービス部116センタ116担当、太
田営業支店営業部営業担当、営業部販売企画担当、営業部東京パートナ
ー受付センタ(太田センタ)パートナー受付担当)において業務に従事
していた。
(ウ)被告会社は、原告P2を、平成14年4月24日付けで群馬支店営
業部ソリューション部門システムサービス担当、同年5月1日付けで同
支店営業部法人総括担当に配転した後、同年7月1日付けで埼玉支店法
人営業部エリアAM部門埼玉南営業担当に配転した(本件配転。その)
後、原告P2は、平成15年4月1日付けで埼玉支店法人営業部企業A
M部門企業第五担当、平成17年4月1日付けでコンシューマ事業推進
本部営業推進部マーケティング部門埼玉センタ第二営業担当に配転され
ている。
(エ)埼玉支店法人営業部エリアAM埼玉南営業担当の職場は、埼玉県川
口市内にあったため、原告P2は、群馬県邑楽郡<以下略>から約2時
間かけて職場に通勤していた。
ウ原告P8
(ア)原告P8は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時56歳)の男
性であり、新潟県立γ高等学校を卒業後、電電公社に雇用された(乙。
79)
原告P8は、平成14年当時、新潟県三島郡<以下略>において、妻
(51歳)と2人で暮らしていた。
(イ)原告P8は、昭和39年4月1日見習社員として雇用、同年8月1
日社員として採用されて以降、長岡電報電話局(料金課、第2電話営業
課、業務部発行課、同部計算課、同部料金課、長岡支店(営業部料金)
課料金第三係、お客様サービス部門料金担当、長岡営業支店(お客様)
サービス部門料金担当、新潟支店(お客様サービス部料金サービスセ)
ンタ長岡担当、サービス新潟移行本部PT兼務)において業務に従事し
た。
(ウ)被告会社は、原告P8を、平成14年4月24日付けで新潟支店営
業部第一営業部門法人営業担当、同年5月1日付けで同支店営業部法人
営業担当に配転した後、同年7月1日付けで、法人営業本部サービスマ
ネジメント部ネットワークソリューションセンタSO推進担当に配転し
た(本件配転。その後、原告P8は、平成15年4月1日付けで東京)
支店営業企画部光IP販売プロジェクトに、平成17年4月1日付けで
()コンシューマ事業推進本部営業推進部マーケティング部門東京センタ
に配転された後、平成18年3月31日、定年により被告会社を退職し
た。
(エ)法人営業本部サービスマネジメント部ネットワークソリューション
センタは東京都葛飾区内にあったため、原告P8は単身赴任した。
エ原告P3
(ア)原告P3は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時55歳)の男
、、。性であり私立δ高等学校電子工学科を卒業後電電公社に雇用された
(乙81)
、、、()、原告P3は平成14年当時宮城県岩沼市において妻50歳
長女(28歳、長男(24歳)と4人で暮らしていた。)
(イ)原告P3は、昭和40年4月1日見習社員として雇用、同年8月1
日社員として採用されて以降、青森県にある甲地統制無線中継所、石巻
無線中継所(昭和43年4月1日から、石巻統制無線中継所、仙台統)
制無線中継所テレビジョン課(昭和51年11月1日から、仙台統制)
無線中継所第二整備課、仙台ネットワークセンタ無線設備部・無線課、
中央ネットワーク支社東日本総合技術センタ・電力技術課、仙台ネット
ワークセンタ無線設備部無線課、東北ネットワークセンタ設備部(設備
運営・電力担当、設備運営・伝送無線担当、サービス推進部サービス運
営・無線担当)において業務に従事し、平成9年9月1日、株式会社エ
ヌ・ティ・ティテレコムエンジニアリング東北(平成12年3月1日に
株式会社エヌ・ティ・ティエムイー東北(以下、名称変更の前後を問わ
ずME東北というに社名変更に在籍出向し同社仙台支店ノ「」。))、(
ードメンテナンスサービス部ノードメンテナンス担当、ノードサービス
部無線サービス担当)の業務に従事した。
(ウ)ME東北は、原告P3を、平成14年5月1日付けで同社経営企画
部総務担当(勤務地は仙台市)に配転し、被告会社は、同年7月1日付
けで神奈川支店神奈川西法人営業部AM担当に配転した(本件配転。)
その後、原告P3は、平成17年4月1日付けでコンシューマ事業推進
()。本部営業推進部マーケティング部門神奈川センタに配転されている
(エ)神奈川支店神奈川西法人営業部は神奈川県厚木市内にあったため、
原告P3は単身赴任した。
オ原告P4
(ア)原告P4は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時55歳)の男
性であり、北海道深川市立ε高等学校卒業後、電電公社に雇用された。
(乙83)
原告P4は、平成14年当時、妻を亡くしており、旭川市において、
股関節に障害がある長女(24歳)と2人で暮らしていた。
(イ)原告P4は、昭和40年4月1日見習社員として雇用、同年8月1
、()、日に社員として採用されて以降旭川電話局施設部第二線路宅内課
旭川電報電話局(第一施設部第二線路宅内課、第二線路宅内課、旭川)
支店(設備部フィールド設備担当、同部設備担当、営業推進部販売企画
、、)。担当営業推進担当パーソナル営業担当等において業務に従事した
(ウ)被告会社は、原告P4を、平成14年4月24日付けで旭川営業支
店法人営業担当として配転した後、同年7月1日付けで東京支店第一法
()。人営業本部第1営業部門営業担当第2公共担当に配転した本件配転
その後、原告P4は、平成15年4月1日付けで東京支店第一法人営業
本部公共営業部門営業担当第2公共担当、平成16年7月1日付けでビ
ジネスユーザ事業推進本部公共ソリューション営業部第十四営業担当、
同年9月1日付けで同部第十一営業担当、平成18年8月1日付けでビ
ジネスユーザ事業推進本部ビジネス営業部教育営業担当に配転されてい
る。
(エ)東京支店第一法人営業本部第1営業部門営業担当は東京都新宿区内
にあったため、原告P4は長女と共に東京に転居し、その後長女が旭川
に戻ったため単身で生活している。
カ原告P5
(ア)原告P5は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時54歳)の男
性であり、ζ高等学校卒業後、電電公社に雇用された(乙85)。
、、、()、原告P5は平成14年当時北海道北広島市において妻54歳
長男(26歳、実母(78歳)と4人で暮らしていた。)
(イ)原告P5は、昭和41年5月1日見習社員として雇用、同年9月1
日社員として採用されて以降、千歳電報電話局(施設課、線路宅内課)
札幌圏事業推進部(千歳営業所線路宅内担当、設備部フィールド設備セ
ンタ中央・設計施工担当、札幌支店(設備部フィールド設備センタ・)
エンジニアリング担当、同部設備担当アクセス設備担当、同部サービス
推進部門・発注資産管理担当、北海道支店(設備部サービス推進部門)
発注・資産管理担当、同部門サービス設備担当)において業務に従事し
た。
(ウ)被告会社は、原告P5を、平成14年4月24日付けで北海道支店
法人営業部企画部門に配転した後、同年8月1日付けで専用サービスセ
ンタ第一ビジネスサービス部門SO推進担当に配転した(本件配転。)
その後、原告P5は、平成15年4月1日付けで技術部情報システム体
系化推進PT体系化推進担当、平成18年5月1日付けで技術部情報シ
ステム体系化推進PT光SO・DB監査担当に配転されている。
(エ)専用サービスセンタ第一ビジネスサービス部門は東京都港区内にあ
ったため、原告P5は単身赴任した。
キ原告P6
(ア)原告P6は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時53歳)の男
性であり、山形県立η高等学校を卒業後、電電公社に雇用された(乙。
87)
原告P6は、平成14年当時、山形県鶴岡市において、妻(49歳)
及び両親(実父84歳、実母80歳)と4人で暮らしていた。
(イ)原告P6は、昭和42年3月13日見習社員として雇用、同年7月
13日社員として採用されて以降、仙台統制無線中継所(第一整備課、
第二整備課、テレビジョン課、酒田統制無線中継所(昭和52年3月)
28日から(試験課、整備課、山形ネットワークセンタ酒田分室(伝))
送無線課、伝送無線課、営業推進室、山形支店(法人営業部門第二法)
人営業担当、山形支店酒田営業所(第一営業担当、営業部ソリューシ)
ョン営業部門庄内地域担当)において業務に従事した。
(ウ)被告会社は、原告P6を、平成14年4月24日付けで山形支店法
人営業部庄内地域担当に配転した後、同年7月1日付けで神奈川支店神
奈川西法人営業部に配転した(本件配転。その後、原告P6は、平成)
17年7月1日付けでビジネスユーザ事業推進本部製造ソリューション
営業部第三営業担当、平成18年7月1日付けで同部第一営業担当、同
年8月1日付けでビジネスユーザ事業推進本部ネットワークソリューシ
ョン部NI推進担当に配転されている。
(エ)神奈川支店神奈川西法人営業部は神奈川県厚木市内にあったため、
原告P6は単身赴任した。
ク原告P7
(ア)原告P7は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時54歳)の男
性であり、山形県立θ高等学校を卒業後、電電公社に雇用された(乙。
89)
原告P7は、平成14年当時、山形市において、妻(54歳)及び二
男(25歳)と3人で暮らしていた。
(イ)原告P7は、昭和41年10月1日見習社員として雇用、昭和42
年2月1日社員として採用されて以降、天童電報電話局、山形電報電話
局(施設部試験課、回線運営センタ専用線サービス課、山形支店(設)
備部門専用線サービス担当、回線・専用サービス担当、回線・専用サー
ビス部門専用サービス担当、法人営業部門専用ISDNサービス担当、
同部門網高度課担当)において業務に従事した後、平成10年12月1
日、ME東北に在籍出向となり、ME東北山形支店(ノードメンテナン
スサービス部MACS担当、ノードサービス部MACS担当)において
業務に従事した。
(ウ)ME東北は、ME東北山形支店が廃止されたことに伴い、原告P7
を同社経営企画部総務担当(勤務場所は山形市)に配転した後、被告会
社は、平成14年7月1日付けで東京支店第二法人営業本部千代田第2
営業部門システムエンジニアリング担当に配転した(本件配転。その)
後、原告P7は、平成15年4月1日付けで同支店同部門システムソリ
ューション担当、平成17年4月1日付けでコンシューマ事業推進本部
営業推進部マーケティング部門(神奈川センタ)に配転されている。
(エ)東京支店第二法人営業本部千代田第2営業部門は東京都千代田区内
にあったため、原告P7は単身赴任した。
ケ原告P9
(ア)原告P9は、昭和▲年▲月▲日生まれ(本件配転当時57歳)の男
性であり、私立ι高等学校工業科電気通信科卒業後、電電公社に雇用さ
れた(乙91)。
、、、()、原告P9は平成14年当時東京都青梅市において妻53歳
二男(22歳、長女(17歳)と4人で暮らしていた。)
(イ)原告P9は、昭和39年4月1日見習社員として雇用、同年8月1
日社員として採用されて以降、国分寺電報電話局(機械課、立川電報)
電話局(施設部市外機械課、立川ネットワークセンタ(交換課、多))
摩ネットワークセンタ(交換課)において業務に従事し、平成9年10
月1日、被告MEに在籍出向し、被告ME東京ネットワークサービス事
業部(西品質サービスセンタ、第3マーケティング本部ネットワーク)
技術営業部門(西ネットワークサービスセンタ、第2マーケティング)
本部(品質推進部門西ネットワークサービスセンタ、西東京支店(第)
5マーケティング部(以上の勤務場所はいずれも東京都立川市)にお)
いて業務に従事した。
(ウ)被告MEは、原告P9を、平成14年4月24日付けで西東京支店
第3JunKanビジネス部に配転した後、同年8月1日付けで、被告
MEのJunKanビジネス本部21メンテナンスビジネス推進部に配
転した(本件配転。その後、原告P9は、平成15年9月1日付けで)
法人営業本部ビジネス開拓PT営業担当、平成16年7月1日付けでビ
ジネスユーザ事業推進本部ビジネス開拓PT営業担当に配転され、平成
17年3月31日、定年により被告MEを退職した。
(エ)JunKanビジネス本部21メンテナンスビジネス推進部は東京
都千代田区にあったため、原告P9は、職場に通勤するためにそれまで
より時間を要することになった。
2争点
()原告らと被告らとの間で、勤務場所や職種を限定することが労働契約の1
内容となっていたか
()本件各配転は被告らの配転命令権を濫用して命じられたものか2
ア本件各配転の前提である本件構造改革は不当なものか
イ本件各配転に必要性があるか
ウ本件各配転に不当な動機・目的があったか
エ本件各配転は原告らに通常甘受すべき程度を著しく超えた不利益を与え
るものであったか
オ本件各配転の手続は適正であったか
()本件各配転はILO条約その他の法令や労働契約上の付随義務に違反す3
るものか
()本件各配転は通信労組に対する不当労働行為か4
()本件各配転は原告らに対する不法行為か、不法行為であるとすれば慰謝5
料はいくらが相当か
3争点についての当事者の主張
()争点()(勤務場所や職種を限定することが労働契約の内容となっていた11
か)について
(原告らの主張)
ア電電公社や被告らの就業規則には、配転に関する一般条項が定められて
いるが、このような一般条項は、原告らの募集・採用における職種の扱い
に関する実態、各職種の具体的な業務内容、従来の配転の実態等に照らし
て限定的に解釈されるべきものである。
原告らは、いずれも、勤務場所や職種を限定して募集、採用されていた
し、採用後も、概ね採用時の勤務場所において、同一の職種に従事してき
た。原告らの勤務場所や職種を変更する際には、原告らにその都度意思確
認がされ、本人の同意後に勤務場所や職種の変更をするという運用もされ
ていた。
以上の実態に照らせば、原告らの勤務場所や職種を変更する際には、本
人の同意を要することが、明示的あるいは黙示的に原告らと被告らとの間
の労働契約の内容となっていたことは明らかである。
イまた、労働契約の解釈が労使対等決定原則に従って行われるべきことか
らすれば、業務上の必要性を欠く配転、不当な動機・目的に基づく配転、
労働者に配転に伴い重大な職業上・生活上の不利益をもたらす配転はしな
いということが労働契約の内容となっているというべきである。
ウ本件各配転はいずれも原告らの同意なしに行われたものであるし、争点
()についての原告ら主張のとおり、業務上の必要性を欠き、不当な動機2
・目的に基づき、かつ、原告らに重大な職業上・生活上の不利益をもたら
すものであったから、本件各配転は、いずれも労働契約に反するものとし
て無効である。
(被告らの主張)
ア被告会社就業規則60条及び被告ME就業規則58条は「業務上必要、
があるときは、勤務事業所又は担当する職務を変更」すると定めている。
電電公社や被告らが、原告らの勤務場所や担当職務を限定したことはない
し、その同意がなければ配転を行わないという取扱いをしたこともない。
明示的なものであれ、黙示的なものであれ、勤務場所や職務を限定する合
意が成立した事実はない。
イ原告らが主張するイの内容は、配転命令権行使の権利濫用性を論じるに
あたって考慮すれば足りるのであり、原告らの主張するような議論をする
実益はない。この点を別としても、本件各配転に業務上の必要性があり、
かつ、配転が不当な動機・目的に基づいて行われたものではなく、原告ら
に何らの不利益も与えるものではなかったことは争点()に関する被告ら2
主張のとおりである。
ウよって、争点()に関する原告らの主張は理由がない。1
()()争点()本件各配転は被告らの配転命令権を濫用して命じられたものか22
について
(原告らの主張)
ア就業規則に配転に関する一般条項があるとしても、使用者はこれを無制
限に行使し得るものではなく、業務上の必要性がない場合や、これがある
場合でも、他の不当な動機・目的により配転が行われたときや労働者に通
常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、
配転命令権を濫用したものとして配転命令は無効とされる。
本件各配転は、以下のとおり、その前提である本件構造改革が不当きわ
まりないものである上、満了型を選択した者を敵視し、重大な不利益を与
、、えるために行われたものであり業務上の必要性は認められないばかりか
不当な動機・目的を持って行われ、また、原告らに通常甘受すべき程度を
超える著しい生活上の不利益を与えるものであるから、いずれも配転命令
権を濫用したものとして無効である。
イ本件構造改革の不当性
本件各配転のきっかけとなった本件構造改革は、①「構造改革」はコス
ト構造改革とし、人的コストでは350億円削減を目的とする、②被告会
社が100パーセント出資する新会社を設立し、固定電話部門を中心に被
告会社の業務を新会社に外注委託する、③新会社の業務は委託前に担当し
ていた被告会社社員を中心に継続するが、その社員の所属は、被告会社社
員の地位のまま在籍出向する者と、被告会社を退職して地域子会社で再雇
用した者に二分する、④退職・再雇用となる社員の賃金は、被告会社在籍
時より15パーセントから30パーセント引き下げる、⑤被告会社社員の
うち51歳以上の者に対して、退職・再雇用の上、賃金を引き下げること
に同意することを求める、⑥51歳以上の社員のうち、退職・再雇用と賃
下げに同意しない者については、新会社に在籍出向させず、異職種・広域
配転とすることを強調する、⑦51歳以上の社員のうち、退職・再雇用と
賃下げに応じなかった者に対して、それまで従事していた業務から外し、
、、。かつ実際に異職種・広域の配転を実施するという内容のものであった
また、被告MEが行った構造改革も、上記の構造改革と同内容のものであ
った。
以上のとおり、本件構造改革は、被告らの利益最大化を目的とした人的
コスト削減策であり、合理性、必要性が全くない。被告らは、本件訴訟に
おいて本件構造改革の理由を経営危機、財務体質の悪化と主張するけれど
も、NTTグループ及び被告らは、ウで述べるとおり、巨額の利益を上げ
る超優良な経営状況であり、IP電話による固定電話の激減や接続料の値
下げ等による財務状況の悪化もなく、被告らの主張は事実に反する。本件
、「」「」構造改革の手法も雇用形態選択制度によって形式的に本人の意思
に基づいた格好をとりながら、退職・再雇用・賃下げの受け皿以外に実態
「」、、らしいものがないOS会社を設立し在籍出向を拒絶することにより
51歳以上の社員を年齢差別し、退職・賃下げを事実上強制するものであ
り、違法・不当である。
ウ本件各配転に必要性は認められないこと
被告らは、本件各配転は、それぞれの配転先が求めていた人材を本社か
ら各支店等に伝え、各支店等において人選を進めた結果、いずれも原告ら
が適任者として選定されたと主張するが、原告らが職務経験を通じて培っ
、、た技術や経験は本件各配転による配転先の業務内容に全く合致しないか
又は原告らは少なくともあえて遠隔地から配転しなければならないほどの
適性を有していなかった(候補者は首都園に多数存在していた。原告。)
らに対する本件各配転は、オで述べるとおり、いずれも労働力の適正配置
に反し、業務の能率増進・業務運営の円滑化に資するものではなかった。
また、本件各配転は「構造改革」を契機として行われたものである。、
「構造改革」は、人的コスト削減を主目的として純粋持株会社であるNT
Tが企画・立案したものであるが、NTTグループは、平成13年3月期
決算においてグループ全体で8983億円の利益を上げ、被告会社も接続
料金の値下げによるグループ内の利益調整やリストラ費用の計上等により
業績悪化の見せかけを作っているものの平成14年3月期決算において2
兆5736億円もの売上高を計上する巨大安定企業であり、その良好な経
営状態や財務体質に照らして、人的コスト削減を行う必要性はなかった。
本件構造改革は本件各配転を実施する合理的な説明とはなり得ない。
エ本件各配転は不当な動機・目的を持って行われたこと
(ア)NTTの「構造改革」は、イのとおり、被告らのサービスの基幹と
なる業務を、新会社に外注委託し、当該業務に従事していた51歳以上
の社員について、被告会社を退職させた上で、賃金を大幅に切り下げて
再雇用することを目的として行われたものであり、裁判例上で確立され
た就業規則の不利益変更の法理や、整理解雇の制限に関する法理を潜脱
する不当な動機・目的で行われたものである。また、本件構造改革は、
51歳以上の社員全員に退職再雇用を迫り、実質的に50歳定年制を企
図するものであり、不当な動機・目的に基づくものであった。
(イ)本件各配転は、配転の中でも著しい不利益をもたらす広域配転であ
ったが、被告らはその候補者をあえて51歳以上の社員のうちの「満了
型」選択者だけに限定した差別的人選を行った上、強行した。このこと
は、広域配転という不利益措置を51歳以上の者に課そうとする年齢差
別を行うものであり、公序良俗に反する動機・目的で行われたことにほ
かならないものである。
(ウ)本件各配転は、固定電話部門に「滞留」する中高年社員の労務コス
ト削減のために、被告会社が子会社を設立し、固定電話に関する業務を
子会社に委託した上で、固定電話部門の中高年社員を被告らから退職さ
せ、子会社において、従前と比べて15パーセントから30パーセント
「」。賃金を削減して雇用替えすることを目的として行われたものである
被告らは、これに応じた社員には、従来の業務への従事と勤務場所の
限定を保証するのと対照的に、これに応じなかった社員には従来とは異
なる職への配転と勤務場所の変更という不利益を与える必要があったの
であり、平成14年に被告らが実施した雇用形態選択や本件各配転は、
まさに、そのような不当な動機・目的で行われたものであった。
(エ)また、本件各配転は、通信労組における組合活動に従事していた原
告らに対し、通信労組組合員であることを理由に行われたもので、組合
活動上重大な支障を与える不当労働行為であり、不当な動機・目的に基
づくものであった。
(オ)被告らは、このような不当な動機・目的を持っていたため、満了型
選択者(雇用形態選択書を提出しなかったため満了型とみなされた者も
含む。以下も同様である)に対しては、従前担当していた業務が移行。
された新会社への在籍出向を一切認めなかった。事業の継続性や業務の
円滑な遂行という新会社の純粋な業務の必要性からすれば、原告らを在
籍出向させない理由はない。
また、被告会社は、業務上の必要に基づき、地方圏から首都圏の法人
営業等の業務のために人員を配置する際、地方圏の社員の負担を緩和す
るために原則3年間の期限付きの配転とし、期間経過後は配転元に復帰
させるという運用をしていたが(被告会社内で、その運用は「パワーシ
フト」と呼ばれていた、被告会社は、満了型選択者に対する報復を。)
する目的でこれを廃止し、広域配転による不利益に期限を設けないこと
としたのである。
オ原告らの個別事情
上記のような、業務上の必要性の欠如、不当な動機・目的の存在は、原
告らに係る以下の個別の事情をみても明らかであるし、本件各配転が、原
告らに配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えた生活上、職業上の不
利益を与えるものであったことも以下のとおり明らかである。
(ア)原告P1
原告P1は、料金課での長年の経験を生かせない法人営業部に十分な
研修もなく配属されるという職業上の不利益を受けた。同人は、法人営
業の担当はできないため地方自治体を客先とする緊急通報システム福、(
祉電話)の受注・撤去の仕事のみを担当させられ、職場で肩身の狭い思
いをさせられている。また、原告P1の後任者は法人営業の経験・技術
のない者が長野支店から配転となり、原告P1の配転先の埼玉支店から
も1名東京支店に配転となっているが、これらの社員はいずれも満了型
を選択した者で、かつ、通信労組組合員であった。原告P1に対する配
転が、満了型選択者で通信労組組合員である者への不利益付与の目的で
行われたことは明らかである。
原告P1は、本件配転により、自宅のある高崎市から川越市まで(現
在は志木市、通勤時間が約2時間となった。片道2時間の通勤が更年)
期を迎える原告P1に与える肉体的、精神的苦痛は多大なものであるば
かりか、家族や群馬県内で1人暮らしをする実母の介護にも大きな支障
が生じている。
(イ)原告P2
原告P2は、電話交換業務、番号案内業務での長年の経験を生かせな
い法人営業部に十分な研修もなく配属されるという職業上の不利益を受
けたばかりか、配転後の業務指示もなく、2か月間は担当顧客も割り当
てられないという「窓際族」に追いやられ、その後も、必要な研修・指
導もないまま放置されるという重大な不利益を受けている。
原告P2は、本件配転により、自宅のある群馬県邑楽群から川口市ま
で(現在は志木市、通勤時間が約2時間となった。片道2時間の通勤)
がC型肝炎の持病を持つ原告P2に与える肉体的、精神的苦痛は多大な
ものであるばかりか、家族(特に高校を中退した二男)との関係に与え
た影響は多大なものであった。
(ウ)原告P8
原告P8は、料金事務での長年の経験を生かせない法人営業部に十分
な研修もなく配属されるという職業上の不利益を受けた。しかも、配転
先は、まともな仕事もなく、既に新会社への外注委託が決定されていた
ネットワークソリューションセンタであり(同センタは、満了型を選択
した社員の集中、隔離のための部署であった、配転の必要性はおよ。)
そ認められない職場であったため、原告P8は、配転後、清掃等の無為
な日々を過ごすことを余儀なくされた。
原告P8は、本件配転により、勤務場所が新潟県から東京都となり、
単身赴任を強いられた。原告P8の実家は兼業農家であり、原告P8も
両親の残した農地を維持するために、料金業務の傍ら農作業にも従事し
ていた。配転は原告P8の農作業への従事を不可能とするものであり、
原告P8に与えた影響は大きいし、単身赴任生活による支出の増加が2
人の娘が海外留学している原告P8の家計に与えた影響も大きい。
(エ)原告P3
原告P3は、無線通信技師としての長年の経験を生かせない法人営業
部に十分な研修もなく配属されるという職業上の不利益を受けた。原告
P3には吃音障害があり営業には不向きであるばかりか、配転先には無
線に関する知識を活用する場もなく、原告P3を遠隔地から配転する業
務上の必要性はなかった。厚木ロケーションには、原告P3の配転と同
時に5名のAMが配置されたが、当時AMが9名しかいないところに、
更に5名も満了型選択者をAMとして配置するのは異常であり、厚木ロ
ケーションが満了型の受け皿として寄せ集められたことは明らかであ
る。
、、、原告P3は本件配転により勤務場所が宮城県から神奈川県となり
単身赴任を強いられている。原告P3は単身赴任を余儀なくされ、家族
団らんを奪われたばかりか、宮城県内に住む年老いた実母や病気の姉の
介護にも支障が生じるという不利益を受けている。また、本件配転は、
原告P3の通信労組組合員としての活動や、通信労組宮城支部の活動に
重大な支障を与えるものであった。
(オ)原告P4
原告P4は、線路設備関係としての長年の経験や、その後の営業支援
担当の経験を生かせない法人営業部に十分な研修もなく配属されるとい
う職業上の不利益を受けた。配転先での業務は多岐にわたるものである
が、原告P4は、臨時電話や単独電話の新設・撤去等の業務しかできて
おらず、原告P4の従前の経歴は、配転先では役に立たないものであっ
た。また、原告P4の後任には、満了型を選択した者が札幌から配転と
なっているように、原告P4を遠隔地から配転する必要性はなかった。
原告P4は、本件配転により、勤務場所が旭川市から東京都になり、
単身赴任を強いられている。原告P4の単身赴任は、椎間板ヘルニア等
の持病がある原告P4に対する苦痛はもとより、股関節に障害があり除
雪作業のできない長女の生活に重大な支障を与えている。原告P4は、
妻の左乳腺悪性腫瘍治療のため、多額の借金をしており、単身赴任生活
により、単身で生活をしていた長男と併せ、3世帯を維持しなければな
らなくなり、経済的に多大な不利益を受けた。また、本件配転は、原告
P4の通信労組組合員としての活動や、通信労組北海道支部の活動に重
大な支障を与えるものであった。
(カ)原告P5
原告P5は、線路業務での長年の経験を生かせない法人営業部(SO
推進担当)に十分な研修もなく配属されるという職業上の不利益を受け
た。原告P5の配転先では「専用回線設計・開通」が主要スキルとされ
ており、原告P5の線路業務に関する知識は全く役立たず、原告P5を
遠隔地から配転する必要性はなかった。
原告P5は、本件配転により、勤務場所が札幌市から東京都になり、
単身赴任を強いられている。原告P5の単身赴任は、通信労組書記長と
しての任務があり、高血圧症の持病がある原告P5に対する苦痛はもと
より、高齢でうつ病の実母や保育所長として多忙であった妻(本件配転
後、原告P5の実母の介護のため退職に追い込まれた)の生活にも重。
大な支障を与えた。
(キ)原告P6
原告P6は、無線通信業務での長年の経験や、その後の法人営業担当
等の経験を生かせない法人営業部(AM)に十分な研修もなく配属され
るという職業上の不利益を受けた。原告P6の配転先ではAMを削減し
ており、原告P6を遠隔地から配転する必要性はなかった。原告P6が
従事していた法人営業業務(大口ユーザ向け)は新会社に外注委託され
なかったから、この点でも配転の必要はない。
、、、原告P6は本件配転により勤務場所が山形県から神奈川県になり
単身赴任を強いられている。原告P6の単身赴任は、原告P6の生活に
支障を与えたことはもとより、死期を控えた老齢の両親の生活や介護に
も重大な影響を与えるものであった。また、本件配転は、原告P6の通
信労組組合員としての活動や、通信労組山形支部の活動に重大な支障を
与えるものであった。
(ク)原告P7
原告P7は、主に専用線業務での長年の経験を生かすことができない
法人営業部(システムエンジニアリング担当)に十分な研修もなく配属
されるという職業上の不利益を受けた。原告P7の配転先では、原告P
7が有する専用線業務の知識・経験に関連する業務はわずか2件のみで
あり、原告P7を遠隔地から配転する必要性はなかった。
原告P7は、本件配転により、勤務場所が山形県から東京都になり、
単身赴任を強いられている。原告P7の単身赴任は、胃・十二指腸潰瘍
の持病を持つ原告P7に対する苦痛はもとより、法律事務所事務員とし
て多忙な妻の生活にも重大な支障を与えた。
(ケ)原告P9
原告P9が配属されたメンテナンスビジネス推進部は、仕事の手順す
、、ら確立されておらず配属後わずか13か月後に廃止された組織であり
満了型を選択した者を隔離するための職場にすぎなかった。同部におい
て、原告P9の従前の知識や経験が業務に役立ったことはなく、原告P
9を配転する必要性はおよそなかった。
原告P9は、本件配転により、勤務場所が立川市から東京都千代田区
<以下略>となり、自宅のある青梅市から片道約2時間の通勤を強いら
れた。片道約2時間の通勤は、原告P9の通信労組中央本部書記長とし
ての活動や、母の介護に重大な支障を与えるものであった。
カ手続の適正を欠くこと
労働条件は、使用者と労働者が対等の立場において決定すべきものであ
るが、本件各配転は、いずれも通信労組からの団体交渉の申入れや、原告
らからの個別の異議申立てを無視して一方的に強行されたものであり、手
続的にも適正を欠くものであった。
キ以上のとおり、本件各配転には、業務上の必要性が認められないばかり
か、本件各配転は不当な動機・目的に基づき行われたものであり、また、
原告らに、配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与える
ものであったうえ、手続的適正を欠くものであるから、本件各配転は、配
転命令権を濫用して行われたものであり、いずれも無効である。
(被告らの主張)
本件各配転は、以下のとおり、いずれも業務上の必要性に基づくものであ
り、かつ、正当な手続により行われたものである。
ア本件構造改革の合理性・必要性
(ア)被告会社は、事業再編前のNTTの収支構造を引き継いで平成11
年7月に設立された会社であった。すなわち、被告会社は、その収入の
約7割を固定電話の収入に依存し、法律等により新たな収入源の確保も
規制されている一方で、NTT法上、全国各地の電気通信設備を不断に
維持、更新するために毎年4000億円から5000億円の設備投資を
義務づけられるという経営上の制限を負っていた。その人件費総額も営
業費用の約22パーセントを占めており、人件費が被告会社の経営に与
える影響も大きかった。
その後、被告会社の収支は、IT革命の飛躍的な進展、有力な外資系
通信事業者やベンチャー企業等の新規参入による競争激化等により急速
に悪化したため、被告会社が存続し、経営を維持するためには人的・物
的コストを大幅に削減する等、コスト構造を改革することと、これまで
の経営の収益構造についても抜本的に改革することが不可欠であり、そ
の改革をもはや遅延できない状況となった(被告会社は、平成12年度
に170億円、平成13年度に280億円、平成14年度に550億円
の経常赤字が予測される状態となっていた。。)
被告会社は、平成11年11月、平成12年度から平成14年度の3
年間を対象として、人員配置の見直し、グループ会社への出向・転籍、
設備投資の削減等を内容とする「中期経営改善施策」を策定して、平成
12年4月からこれを実施し、更に希望退職者募集の実施(約6500
名が応募し退職、新規採用の凍結(平成13年度から平成15年度ま)
で)も行った。しかし、IP電話等の更なる普及も見込まれ電話事業の
更なる減収が不可避であり、平成14年度の経常利益が大幅赤字となる
ことも想定せざるを得なかったため、被告会社では社員の雇用の確保も
危ぶまれる状態であった。
被告会社が従前、首都圏であると地方圏であるとを問わず、同一の人
事制度、給与制度で社員を処遇してきたのは、市場に競争性がなく、被
告会社が独占できていたから可能であったものであり、競争が激化した
今日においてはこれを維持することは不可能であった。
そのため、被告会社は、平成13年4月16日、新3か年計画を作成
して「業務の抜本的なアウトソーシング(外注委託」と「雇用形態、)
・処遇体系の多様化」を柱とする本件構造改革を実施することとしたも
のであり、本件構造改革は被告会社にとって不可欠なものであった。
「業務の抜本的なアウトソーシング(外注委託」とは、固定電話に)
関する提携業務及び地域密着型の業務を東日本地域の都道県別に新たに
設立する「サービス系会社「設備系会社「共通系会社」の3系列」、」、
の会社に外注委託するというものであり「雇用形態・処遇体系の多様、
化」とは、社員が移行する新会社の労働条件を地場賃金並みのものとす
る(給与は15パーセントから30パーセント低い水準となる)とと。
もに、社員のライフプランの多様化も配慮し、雇用期間や賃金水準、勤
務地域など労働条件の諸要素を多様に組み合わせて社員に選択させるも
のであった。
(イ)また、被告MEは、主に電気通信設備の設備運営等に関する受託業
務等を業務とする企業であり、その収入を被告会社その他のグループ会
社からの業務の受託収入に大きく頼っていたところ、固定電話収入の減
少を受けた被告会社等からの受託収入が大幅に減少したため、その収支
が大幅に悪化していた。そのため、被告MEにとって、被告会社等から
の受託収入に頼る経営から、一般市場向けの事業を拡大し、その収支を
改善することが必須の課題となっていた。
そのため、被告MEは、被告会社等の電気通信設備の施行管理、故障
修理・定期点検等、回線開通等の受託業務の大部分を新会社に移行する
とともに、雇用形態・処遇体系の多様化を実施することとしたものであ
る。
イ本件各配転の必要性
(ア)原告らは、いずれも、本件構造改革において、外注委託の対象とな
った業務に従事していた。
外注委託の対象となった業務に従事していた社員には、50歳以下の
社員も51歳以上の社員もいたが、被告会社は、50歳以下の社員は新
会社に在籍出向させることとし、51歳以上の社員は再配転の対象とす
ることとした。
これは、新会社には、51歳以上の退職再雇用選択者が多数在籍する
見込みであり、年齢のバランスを取る必要があった一方で、51歳以上
の満了型選択者に新会社への在籍出向を命じることは、賃金が減額とな
る繰延型を選択して新会社へ移籍した社員の不公平感を煽るものであっ
たからであった。
原告らは、いずれも本件各配転時に51歳以上であったため、被告会
社は、業務上の必要性のみならず、任用等のキャリアパス形成、スキル
・年齢の一極集中の回避、将来にわたる円滑な業務運営や事業の継続性
の確立という観点、更なる社員の個別の事情等を総合勘案して、原告ら
の再配転先を決定した。
原告らは、種々の配転障害事由を主張するが、原告らは、平成13年
10月に実施された中間面談の際の自己申告や、平成13年12月に行
われた個人面談において、具体的な配転障害事由を主張しなかった。後
に原告らが通知書等で被告らに通知した配転障害理由も漠然としたもの
や事情を誇張したものにすぎなかった。また、これらの主張は、配転の
内示の前後に行われたもので、時期に遅れたものでもあった。
原告らの中には健康上の理由を挙げる者もいたが、原告らの中に被告
会社の健康管理規程上、指導区分に指定されている者もいなかった。
(イ)新会社への業務の外注委託により被告会社に残された業務は「経、
営・設備・開発・サービスに関わる戦略」を担う企画型業務と、法人営
業業務と設備業務に限定された。そもそも原告らが従来稼働していた地
方圏の法人営業業務は、人員が余剰であるばかりか、市場性が低く、収
入増を図ることが困難でもあった。また、企画型業務や設備業務は、原
告らの経歴からみて明らかに異質の業務であった。他方で、首都圏エリ
アではAM担当、SE担当が少なくともそれぞれ約600名、約100
0名と大幅に不足している状態であり、被告会社にとって首都圏の法人
営業強化は必須の課題であった。
また、被告MEに残された業務は、主に一般市場向けの業務であり、
これらの業務を強化することは被告MEにとって必須の課題であった。
その結果、原告らの再配置先は、首都圏の各支店の法人営業や一般市
場向けの業務等となったものであり、本件各配転は業務上の必要性に基
づき行われたものである。
ウ本件各配転に不当な動機・目的がないこと
原告らは、原告らのように高年齢の社員に、知識・経験・能力のない首
都圏の法人営業に配転させるのは不合理であると主張するが、被告会社に
おいては、もともと本来の意味での営業部門はないため、営業の経験がな
い社員を営業に転換することは被告会社において希有なことではなかっ
た。また、原告らには法人営業等しか担当させうる業務はなかったし、5
0歳以下で地方で営業に従事している社員はそれぞれ大口ユーザ等の顧客
を持っており、これらの社員を首都圏に配転させて、原告らを地元の法人
、。営業に従事させることはデメリットが多く現実的な選択肢ではなかった
原告らは、本件各配転は、満了型を選択したことに対する報復目的で行
われたにすぎず、原告らの配転の必要はなかったとも主張するが、本件各
配転は、いずれも配転先からの人員配置要求に基づき、候補者の経歴や配
転障害事由等を個別に考慮して行われたものであり、原告らの主張するよ
うな報復目的で配転が行われたという事実はない。
原告らは、51歳以上の社員を新会社に出向させなかったことをことさ
らに問題視するが、そもそも、いかなる者を新会社に出向させて委託業務
に従事させるかについては使用者の合理的な裁量に属する問題である。被
告会社が、満了型を選択した51歳以上の社員のうち、移行対象業務に従
事していた者を中心として出向とせず、再配置した理由は、イ(ア)のとお
りであり、業務上の必要性に基づくものであった。
エ原告らの個別事情
原告らの事情を個別にみても、原告らに行われた配転が、業務上の必要
性に基づいて行われたものではないなどといえないことは明らかである。
また、原告らには配転に伴い生じた不利益はないか、あったとしても軽微
なものにすぎなかった(本件配転前の個別面談等で具体的な支障を申し出
た原告はいなかった。その詳細は、以下のとおりである。。)
(ア)原告P1
埼玉県は、全自治体が電子自治体構築に向け、様々なシステム導入を
検討していたため、被告会社としても埼玉県内における営業力を一段と
強化する必要があり、埼玉支店全体では20名を超えるAMが不足する
状態であった。このような中、同支店法人営業部エリアAM部門埼玉中
央西営業担当は、担当する自治体数が他のエリアAM部門の営業担当と
比較して多いため、人員を増加する必要があった。原告P1は、料金課
において、長年の経験を持ち、各種商品に対する豊富な知識や接客経験
を持ち、法人営業を行うのに十分な技能を有していたため、法人営業の
AMの適任者と判断され、本件配転の対象となったものである。埼玉支
店が原告P1を公共福祉の一貫として自治体が導入している緊急通報シ
ステムの担当とした理由は、自治体対応に他の社員を集中させる業務上
の必要があったほか、緊急通報システムの担当が法人営業業務を初めて
担当する原告P1にとって最適であるとともに、将来、原告P1がAM
として自治体を担当する場合にも有益であると考えられたからである。
原告P1は、通勤時間の増加により、家族の世話や実母の介護に支障
が生じたとするが、原告P1は遅くとも午後8時には家に帰れるのであ
るし、子の年齢も、本件配転当時、二女18歳、二男12歳であり、原
告P1の夫も家事や介護を手伝える状態にあったのだから、原告P1の
主張する事由は配転の支障となり得るものではない。
(イ)原告P2
被告会社埼玉支店法人営業部エリアAM部門埼玉南営業担当の管轄エ
リアはさいたま市の近隣であるため、IP・ブロードバンド系サービス
の需要増が見込まれ、また、自治体対応の観点からも、AMが不足して
いる状態であった。原告P2は、116センタにおいて、長年の経験を
持ち、各種商品に対する豊富な知識や接客経験を持つほか、AMとして
の活動経験も有しており、法人営業を行うのに十分な技能を有していた
ため、法人営業のAMとして適任であった。
原告P2は、通勤時間の増加による肉体的苦痛や、家族の世話への支
障が生じたとするが、片道2時間の通勤時間は、配転に伴い労働者が通
常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはいえない。原告P2は遅く
とも午後8時前には帰宅しており、家族の世話に支障が生じるとはいえ
ないし、原告P2のC型肝炎の持病も、被告会社の健康管理規程上、指
導区分に指定されていない。原告P2の主張する事由は配転の支障とな
り得るものではない。
(ウ)原告P8
被告会社は、平成14年7月1日、業務の効率化の観点から、SOの
受付・処理等を行う担当やお客様の設備状況の調査・コンサルティング
・回線開通工事調整を一括して行うネットワークソリューションセンタ
法人営業部をサービスマネジメント部内に組織化することとした。原告
P8は、料金業務のうち回収業務に長年の経験を持ち、SO業務の豊富
な経験を有しており、SOアシストから手配された主にアナログ回線や
ISDN回線、低速専用線といった商品・サービスの新設や変更等のS
O処理及び回線調査等の業務を担当するSO推進担当となるのに十分な
技能を有していた。
原告P8は、農作業に対する支障を主張するが、これは所定休日や年
次有給休暇の利用により解決し得る問題であるし、電電公社への採用当
時から生じ得る可能性がある問題であった。また、本件配転が原告P8
に多大な経済的負担を与えたものでもない。原告P8の主張する事由は
配転の支障となり得るものではない。
(エ)原告P3
神奈川支店神奈川西法人営業部は、住宅戸数の増加に伴い、有線又は
無線によるインターネット接続や無線LAN等の設備を新築マンション
に予め設置するマンション営業の市場が拡大傾向にあったことや、ユー
ザカバレッジ向上の観点から、法人営業担当者の人員配置が急務の課題
であった。他方で神奈川西法人営業部における業務内容は、教育系ユー
ザや大口ユーザをターゲットとする場合のような専門的知識やスキルを
必ずしも必要としない営業活動が主たるものであった。原告P3は、I
P・ブロードバンド事業に関する知識等を研修を通じ修得していたこ
と、無線の概要、無線の仕組み、電波伝搬、周波数帯域、電波出力等の
無線に関する豊富な知識等を有しており、営業の幅を広げる可能性もあ
ったことから、ユーザカバレッジという色合いが濃く、定型的な商品を
扱うことが多く、格別の専門的知識を必要としない地域法人営業部であ
る神奈川西法人営業部AM担当として適任であった。
原告P3は、実母や実妹の介護の必要を主張するが、原告P3が介護
休暇や介護休職の制度を利用したことはないし、原告P3はその介護の
必要性についても抽象的な主張しかしていない。原告P3の主張する事
由は配転の支障となり得るものではない。
(オ)原告P4
東京支店第一法人営業本部第1営業部門は、ユーザカバレッジを維持
するため、行政・教育・医療・福祉関連の大規模・大口ユーザに対して
システムやネットワーク構築等の提案・折衝ができるAMを必要として
いた。原告P4は、線路宅内業務における長年の経験により加入者設備
等についての豊富な知識のほか、小規模の法人ユーザ等に対する顧客対
応等の知識・経験も有していた。原告P4は、旭川支店営業推進部にお
いて、SOHO・マスユーザ等を対象とした営業販売の業務に従事した
、、経験等があり前記部門においてAMの担当となるのに適していたため
本社から北海道支店に人選要請があった1名として、配転が命じられた
ものである。
原告P4は、配転による生活上の不利益として娘が股関節の手術をし
ていることや、経済的負担の増加、更に自身の健康状態の不安を挙げて
いるが、原告P4の娘は既に成人して稼働している。原告P4が主張す
る経済的不利益についても、被告会社が支給する諸手当により回復し得
るものであるし、原告P4の健康状態も被告会社の健康管理規程上、指
導区分とされていない。原告P4が主張する事由は配転の支障となり得
るものではない。
(カ)原告P5
専用サービスセンタ第1ビジネスサービス部門は、専用サービスセン
タで、今後収益の基盤となるIP・ブロードバンドビジネスの主力サー
ビスである光サービスの需要が、首都圏エリアを中心に伸張することが
予想され、大口ユーザの囲い込みに万全を期すべく、早急にSO推進担
当(SO支援担当)を増員する必要があった。原告P5は、長年の加入
者伝送設備の工事等の経験から、加入者伝送設備の現場業務や設計の知
識・経験のほか、進捗管理のために関連会社と実際に折衝等を行う知識
・経験を有しており、SO推進担当として適任であった。
原告P5は、配転の障害として、自身や高齢の実母の健康問題を挙げ
るが、本件配転当時、原告P5の実母に健康上の問題は生じていなかっ
たし、原告P5本人についても、高血圧気味ではあるものの、健康管理
規程上、指導区分とされていない。原告P5が主張する事由は配転の支
障となり得るものではない。
(キ)原告P6
神奈川支店神奈川西法人営業部は、(エ)のとおり、法人営業担当者の
人員配置が必要であり、特に神奈川西法人営業部AM担当厚木ロケーシ
ョンでは、マンション営業等の営業戦略に沿うべく営業体制を充実させ
ることや、ユーザカバレッジ向上の観点から、AMを増員することが必
要となっていた。原告P6は、法人営業のAM及び中小企業営業のAM
の業務に従事し、ユーザへ訪問し、SEとも提携をしながら顧客に提案
・折衝をする業務の経験を有していたことなどから、AM担当厚木ロケ
ーションに適任であった。なお、原告P6は、外注委託されなかった大
口ユーザ向け業務はごく一部を担当していたに過ぎないので、新会社へ
の移行対象業務に従事していた者とされ、配転の対象となった。
原告P6は、家族や老齢の両親の生活や介護への支障を配転の障害と
して挙げるが、原告P6自身が両親の介護を行わなければならない事情
。。はない原告P6が主張する事由は配転の支障となり得るものではない
(ク)原告P7
東京支店第二法人営業本部千代田第2営業部門では、ユーザカバレッ
ジを向上させるべく、電話回線を15回線以上保有するユーザに対して
システムやネットワーク構築等の提案・折衝を行うAMを技術的な側面
からサポートするSEを必要としていた。原告P7は、長年専用線の業
務や電報電話局での業務に従事した経験から、PBX、局内交換機はも
とより、ビジネスホンに近いホームテレホンの知識・経験、顧客対応の
知識・経験を有しており、第2営業部門SE担当として適任であった。
原告P7は、自身の健康問題、家族の生活への支障を配転障害事由と
して挙げるが、同人の胃潰瘍は、発病後も飲酒・喫煙を続けていること
からも明らかなように極めて軽微なものであるし、家族との生活の問題
もごく抽象的な事情をいうものにすぎない。原告P7が主張する事由は
配転の支障となり得るものではない。
(ケ)原告P9
被告MEは、平成14年7月1日、既存の定額保守サービスのメンテ
ナンスビジネスの拡大・充実を目的として、メンテナンスビジネス推進
部を新設した。メンテナンスビジネス推進部は、その業務がメンテナン
ス業務を中心に、これを顧客のニーズを基にしてビジネスモデルとして
具体化し、展開するものであったことから、故障修理等のメンテナンス
に関する知識・経験、顧客の注文内容を理解し、工事依頼できる知識・
経験、顧客との折衝ができる知識・経験を有する社員を必要としていた
ところ、原告P9は、電話交換設備に関する保守・設備管理の業務に従
事していたほか、事前に行われた職場研修での評価も不適任ではなかっ
たことから、メンテナンスビジネス推進部に配転された。
原告P9は、通勤時間が長時間となることを配転障害事由として挙げ
るが、原告P9は、勤務日・勤務時間のほとんどを組合休暇等で消費し
ており、配転による不利益はないか、あってもごくわずかにすぎない。
また、同人が主張する、実母の介護の必要も実際にはなかったものであ
る。原告P9が主張する事由は配転の支障となり得るものではない。
オ手続が適正であること
被告会社は、全社員に対して、本件構造改革の実施に伴う雇用形態の多
様化の概要及び選択の方法について、周知、説明し、更に、原告らを含む
51歳以上の社員に対しては上長による個人面談を実施し、十分に周知・
説明を尽くした。また、被告会社は、平成13年4月27日「NTT東、
日本の構造改革に向けた業務形態等の見直し等について」を提示し、その
、、。後通信労組からの要求書に回答し団体交渉において誠実に論議をした
カ以上のとおり、本件各配転は、業務上の必要に基づき行われたものであ
り、また、不当な動機・目的はなく、原告らに通常甘受すべき程度を著し
く超える生活上、職業上の不利益を与えるものではないし、手続も適正で
あるから、被告らが行った本件各配転が、被告らの配転命令権を濫用した
ものということはできない。
()争点()(本件各配転が法令や労働契約上の付随義務に違反するものか)33
(原告らの主張)
ア家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約(以
下「ILO156号条約」という)及び国際労働勧告第165号(以下。
「ILO165号勧告」という)違反。
ILO156号条約及び同165号勧告は、使用者が労働者の家族的責
任を最大限に配慮すべきであり、労働者に仕事と家庭の選択を強いてはな
らないことを求めているところ、本件各配転は、いずれもこれらの定めや
勧告に違反してされたものであり、無効である。
イ育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法
律(以下「育児介護休業法」という)26条違反。
育児介護休業法26条は、使用者に対し、労働者の育児又は介護の状況
に配慮すべきことを義務づけているところ、本件各配転は、老親や家族の
介護等の原告らの実情に全く配慮しないでされたものであるから、いずれ
も、同法26条に反するものであり、無効である。
ウその他の法令違反
本件各配転は、51歳以上の者を狙い打ちして行われ、労働者の人間性
・尊厳や労使対等の原則を踏みにじり、労働組合に対する団体交渉拒否を
行いながら強行されている点で、特に憲法14条、労働基準法3条、労働
組合法1条、民法90条に反するものである。また、高年齢者等の雇用の
安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という)は、60歳。
未満の定年制を禁止するとともに、65歳までの雇用継続努力義務を使用
者に義務づけているところ「構造改革」は実質的に定年50歳制を導入、
するものである。本件各配転は実質的に定年50歳制を定めた本件構造改
、。革に基づいて行われたものであるから高年齢者雇用安定法にも違反する
また、本件各配転は、原告らの健康状態等に配慮しないで行われた点で労
働安全衛生法62条に反するものであるし、本件構造改革は、実質的に会
社を新設分割した上で、労働条件を一方的に不利益変更するものであるか
ら、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「労働契約承継
法」という)にも反するものである。。
エ労働契約上の付随義務違反
使用者には、労働契約上の付随義務として、配転の際に、生活に重大な
不利益が生じることないよう配慮する義務、職務変更の際、労働者の職務
上の能力やキャリアを傷つける配転をしないよう配慮する義務、労働者の
人間性を配慮する義務を負うと解されるが、本件各配転はこれらの配慮を
全く行わないでされたものであるから、本件各配転は、労働契約上の付随
義務にも反するものとして、無効である。
(被告らの主張)
原告らが挙げる法令は、いずれも直接的に使用者の配転命令権を制限し、
又は、何らかの義務を発生させるものではないし、本件各配転が原告らが引
用する各法令の趣旨に反しているともいえない。また、原告らが主張するよ
うな付随義務が労働契約上発生するともいえないから、原告らの主張は理由
がない。
()争点()(本件各配転は通信労組に対する不当労働行為といえるか)44
(原告らの主張)
本件各配転は、原告らが通信労組に加入しているがために行われた不利益
取扱いである。本件各配転により、原告らが所属していた通信労組支部はい
ずれも活動不能の状態に陥っている。本件各配転は、通信労組が本件構造改
革に反対する立場を堅持したことを理由として報復的に行われた配転であ
、、、。り労働組合法7条1号3号に違反するものとしていずれも無効である
(被告らの主張)
本件構造改革は、通信労組加入の組合員のみを対象として行われたもので
はなく、本件各配転は、通信労組に加入していることを理由として行われた
不利益取扱いではない。実際に、満了型を選択し、配転の対象となった社員
の中にはNTT労働組合組合員も存在する。また、原告らの中に、本件各配
転を理由として組合活動に支障を生じた者もいない。
()争点()(不法行為の成立・慰謝料の額)55
(原告らの主張)
本件各配転は、以上のとおり無効であり、これにより原告らに多大な精神
的・肉体的苦痛や経済的負担を与えたものであるから、被告会社は、原告ら
に対して、不法行為に基づく損害賠償義務を負う。原告らが受けた精神的苦
痛を慰謝するには各300万円をもってするのが相当である。
なお、原告P9に対する配転は、被告MEが実施したものであるが、原告
P9に対する配転は、本件構造改革の一環として被告MEが被告会社を代行
して行ったものであり、被告らの共同不法行為によるものである。
(被告らの主張)
原告らの主張は争う。
なお、原告P9に対する配転には、被告会社は関与していない。
第3当裁判所の判断
()1争点()勤務場所や職種を限定することが労働契約の内容となっていたか1
について
()原告らは、採用時の合意又はその後の運用により、原告らの勤務場所や1
職種を限定することが、明示的又は黙示的に労働契約の内容となっていたと
ころ、本件各配転は、いずれも、原告らの同意なしに一方的に行われたもの
であるから無効であると主張する。
()しかし、原告らが、電電公社や被告らとの間で、勤務場所や職種を限定2
する旨の合意をしたことを直接示す証拠はない。
かえって証拠(乙10、68)及び弁論の全趣旨によれば、職員(社員)
の配転について、電電公社就業規則51条は「職員は、業務上必要があると
きは、勤務局所又は担当する職務を変更されることがある」と、被告会社就
業規則60条(被告ME就業規則58条は同内容の規定である)は「社員。
は、業務上必要があるときは、勤務事業所又は担当する職務を変更されるこ
とがある」と規定していると認められるのであって、原告らについてのみ、
これらの就業規則の適用対象外となると解すべき根拠はない。原告らは、採
用時に上記就業規則の説明はなかったと主張するが、仮に採用時に就業規則
の各条項について個別具体的な説明がなかったとしても、そのことから就業
、(、、規則の効力が否定されることとなるものではないうえ証拠乙7477
80、82、84、86、88、90、92)によれば、原告らは、いずれ
も、採用時に「法令その他公社の定める諸規定を守り誠実に職務を遂行す、
ることを固く誓います」とする誓約書に署名、押印していると認められるの
であるから、原告らに対して上記就業規則の適用があることは当然というべ
きである。
原告らは、各地域の電気通信局、電気通信部、電報電話局等で採用手続が
(、採られたことを原告らに電電公社就業規則51条被告会社就業規則60条
被告ME就業規則58条)の効力が及ばないことの根拠として主張するよう
でもあるが、証拠(乙153、155、証人P10)によれば、原告らにつ
いては採用手続が各地域の電気通信局、電気通信部、電報電話局等で採られ
たのは総裁の事務の煩瑣を避けるためにすぎず、原告らを地元限定の職員と
して採用した趣旨のものではなかったことが認められるのであるから、採用
手続が各地域の電気通信局等で採られたことが、原告らに前記就業規則の適
用が排除される根拠となるとは解されない。
()もっとも、証拠(甲48、49、51、52、225、226)によれ3
、、「」、「、、ば原告P1は職種を電話交換勤務場所を原則として桐生太田
渋川の各局に通勤可能の者とします「女子については桐生、太田、渋川」、
の各電報電話局の予定」とする募集案内を見て電電公社に応募し、社員採用
時には「桐生電報電話局電話運用課勤務、電話交換職3級」との辞令の交、
付を受けたこと、原告P2は「勤務局所までの通勤時間が1時間30分以、
内の地域に居住する者」であることを応募資格とする身体障害者の電話交換
手の枠に応募して採用されたこと、原告P4は、見習社員雇用時に「旭川電
話局施設部第二線路宅内課勤務、線路職3級」と、社員採用時に「旭川電話
局施設部第二線路宅内課勤務、線路職3級」とする辞令の交付を受けている
ことが認められる。
しかし、採用募集や辞令は、採用後当面の勤務場所や職種を規律する根拠
となる場合がありうるとしても、その者が長期間雇用された場合に、業務上
の必要性に基づく配転命令権の行使を一切制限する根拠となり得るものとは
解されない。また、その内容をみても、そもそも原告P1や同P2が主張す
る募集案内は、勤務地を「予定」とか「通勤時間が1時間30分以内の地、
域」とするのみで、勤務場所を明確に限定したものではない。原告P4に対
する辞令も、当面の職種や勤務場所を明示する以上に、職種や勤務場所を限
定して採用する意思を示したものとは解されない。
原告らは、その勤務場所や職種が採用時に限定されていたことの根拠とし
て、採用時に特定の職種の指定を受け、当該職種に応じた給与水準で処遇さ
れていたほか、入社直後の研修も当該職種に限定した研修が行われていたこ
と(原告P8、同P3、同P5、卒業した高校の推薦枠に応じて勤務場所)
が定められたこと(原告P4、同P6、同P9、採用募集や採用試験が地)
元地域で行われたこと(原告P6、同P7)を挙げるが、これらの事実が、
電電公社と原告らが勤務場所や職種を限定する合意をしたことの根拠となり
得るものとは解されない。
また、原告らは、原告らの学歴や電電公社による採用の時期に照らせば、
()、原告らのような者特に女性労働者である原告P1及び同P2については
特段の事情がない限り、広域配転を行わないことが黙示的に合意されていた
というべきであるとも主張するが、原告らがいずれも、電電公社に配転命令
権があることを内容とする就業規則を順守する誓約書を提出していることは
前記認定のとおりであるし、証拠(乙75、78)によれば、女性労働者で
ある原告P1及び同P2も、電電公社による採用面接の際、希望勤務場所は
どこでもよいとし、原告P1は「県外でも行きたい」と希望していたと認め
られるのであるから(なお、原告P8、同P3及び同P7も同様の回答をし
ている(乙79、81、89、前記のような見解に立つとしても(その)。)
当否は措く、原告らについて、広域配転をおよそ行わないとの合意が成。)
立していたと認める余地もない。
以上のとおり、原告らと電電公社との間では就業規則に従った労働契約が
締結されたものであり、原告らが職種や勤務場所を限定されて採用されたと
みることはできない。
()原告らは、採用後の勤務場所や職種が長年異動されなかったことからす4
れば、被告ら(電電公社)と原告らとの間には、本人の同意なしに勤務場所
や職種が変更されることはないという合意が成立していた(労働契約の内容
となっていた)というべきであると主張する。
確かに、前提事実()アないしケの各(イ)、(ウ)によれば、原告P1が約7
33年間群馬県内で主に電話交換手や料金担当業務に、原告P2が約34年
間群馬県内で主に電話交換手や番号案内業務に、原告P8が約38年間新潟
県内で料金事務に、原告P3が約37年間東北地方(最初の3年を除いて宮
城県内)で無線通信業務に、原告P4が約37年間北海道内(すべて旭川市
内)で主に線路設備業務に、原告P5が約36年間北海道内(すべて札幌市
内及びその近郊)で主に線路業務に、原告P6が約35年間東北地方(最初
の10年を除いて山形県内)で主に無線通信業務に、原告P7が約36年間
山形県内で主に専用線業務に、原告P9が約38年間東京都内(すべて立川
市内及びその近郊)で機械課業務等に従事していたことが認められ、長期間
職種や勤務場所に変更がなかったことは、いずれも事実である。
、、、、しかし前提事実()アないしケの各(イ)(ウ)によると原告らの中に7
本件各配転前に、勤務場所や従事する業務が全く変更されなかった者は存在
しない。後記のとおり、社員を異動させるに際して同意書を求めていた事実
はなく、現に同意のない配転が行われていた事実もあるのだから、原告らに
対して、従事する業務や勤務場所を変更する配転が行われた際に、原告らの
同意を得ることが条件となっていたとも認められない。そうだとすれば、前
、、記のとおり原告らについては長期間異動がなかった事実があったとしても
結果的に長期間異動がなかったというにすぎず、被告らが労働契約上本人の
同意を得なければ原告らを配転することができないと認識していたとは認め
られず、配転に際し、事前に社員の同意を得ることが、被告らと原告らとの
労働契約の内容となっていたと認めることはできない。
原告らは、原告らと同様、高卒で採用され、原告らと同様の職種に従事し
ている社員が本人の同意なしに広域配転の対象となったことはなく、広域配
転の際に本人の同意を得ることは社内慣行となっていたと主張し、例えば、
原告P3は、昭和51年には、従前の希望通り仙台統制無線中継所への配転
が実現したし、昭和54年には、会津若松統制無線中継所への配転を拒否し
たところ、配転が実施されなかったことがあったと主張、陳述等し(甲14
、)、、(、2原告P3本人他の原告らも同趣旨の主張陳述等をする甲184
185等。)
しかし、仮に、そのような事実が存在したとしても、上記の事実は、配転
に際し、本人の意向を尊重した人事異動計画を被告会社が立案していたこと
を示すものにすぎないのであって、被告会社が本人の同意なしに配転を行わ
ないことが労使の慣行となっていたことを示す事実であるとは解されない。
被告会社が原告らに対して行われた配転に先立ち同意書を求めるなどして同
意の有無を明確に確認する方法を採っていたのであれば格別、本件全証拠に
よってもそのような事実は認められない。このことからすれば、前記のよう
な事実が存在したとしても、それは、被告会社が社員の意思を可能な限り尊
重して配転を行っていたという以上のものであったとは解されない。被告会
社において配転の権限を有する管理者が社員の同意がなければ配転をしない
という慣行があることを承認し、これに従う意思を有していたとは認められ
ない。
被告会社が、配転に際し、対象となる社員の同意を必要とする運用を行っ
ていなかったことは、証拠(乙181、189)によれば、過去にも、新潟
県内や千葉県内において、本人の意に反する配転が行われた事例が複数ある
(千葉県内で配転の対象となった社員は、電話交換手3名である)と認め。
られることからも明らかであるし、証人P11も、被告会社が配転に際し本
人の意思を尊重していたとの趣旨の証言をするものの、本人の同意を条件と
する運用を被告会社が行っていたと証言するものではない。
以上のとおり、原告らが長期間異動をしなかったことから、本人の同意な
しに勤務場所や職種が変更されないことが労働契約の内容となり、又は労使
慣行となっていたと認めることもできない。
()原告らは、電電公社と旧全国電気通信労働組合(NTT労働組合)との5
間で締結されていた労働協約上、異職種の配転の際には本人の同意が要件と
されていたとも主張する。
しかし、証拠(甲27、28)及び弁論の全趣旨によれば、旧全国電気通
信労働組合(NTT労働組合)と電電公社との間の労働協約である「職員の
配置転換に関する協約」には「配置転換は本人の適性、業務上の必要度、、
家庭の事情、経験、本人の希望、健康、通勤時間、住宅を総合的に勘案し、
原則として、職員が現についている職位と同程度または同程度以上の職位で
別表に定める関連ある職種間について行うものとする(2条1項「別。」)、
表に定める関連ある職種以外の職種間における配置転換は、本人の同意を得
。」()、「」「」て行うものとする2条2項と規定され営業職と関連ある職種
としては「事務職「無線通信職「電話交換職」が定められ、本件各配、」、」、
転時に効力を有していた同趣旨の内容の労働協約である「社員の配置転換に
関する協約」にも「事務」と関連する職掌として「通信、オペレータ、機、
械、線路、データ、守衛、用務、海底線、研究開発」が「通信」と関連す、
る職掌として「事務、オペレータ、機械、線路、データ、守衛、用務、研究
」、「」「、、、、開発がオペレータと関連する職掌として事務通信機械線路
データ、特殊技能、研究開発」が「機械」に関連する職掌として「事務、、
通信、オペレータ、線路、データ、研究開発」が「線路」に関連する職掌、
として「事務、通信、オペレータ、機械、データ、守衛、用務、海底線、研
究開発」が規定されていることが認められる。前提事実()によれば、原告7
、、、「」、、「」P1同P2同P8同P6は事務職掌原告P5同P7は線路
、「」、「」、職掌同P3は通信職掌同P9は機械職掌であったのであるから
前記各協約上も、本件各配転につき、本人の同意が必要とされるものではな
い。かえって、前記協約上、上記異職種間の配転以外の配転については本人
の同意を必要としないで配転し得ることが労使間で当然の前提とされていた
ことは明らかであり、原告らについてされた本件各配転につき、前記各協定
によって原告らの同意が必要であるとすべき理由はおよそない。
また、証拠(乙278の1)によれば、旧全国電気通信労働組合(NTT
労働組合)と電電公社との間の労働協約である「山上・へき地に所在する無
線および搬送施設関係局所への配置転換に関する協約」があったと認められ
るけれども、同協定は「へき地局所へ配置転換された者の在勤期間は、原、
則として、2年とする(3条)と規定するのみで、へき地勤務者の在勤。」
期間に係る原則的な運用を定めた以上の内容のものでもないから、労働協約
上も、原告らに対する配転命令権の行使の際、本人の同意が要件となると解
する余地はない。
()原告らは、労働契約上、業務上の必要性が認められない配転、不当な動6
機・目的により行われる配転、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える
不利益を与える配転を行わないことが、当然に契約の内容となっており、こ
の内容に反する配転は、当然に労働契約上無効とされるべきであると主張す
る。配転命令権の行使に対する制限を、権利濫用の問題として考慮するほか
に、上記のような労働契約の問題として考慮することに果たしていかなる実
益があるかは疑問であるが、その点を措くとしても、本件各配転には、業務
上の必要性が認められ、その動機・目的も不当なものではなく、配転に伴い
原告らに生じたという不利益も、通常配転に伴い労働者が甘受すべき程度を
著しく超えるものではなかったことは2に説示のとおりであるから、いずれ
にしても原告らの主張は理由がない。
また、原告らは、民法625条1項は、労働者の同意のない移籍の禁止を
定めていると主張するが、本件各配転は原告らを被告らとは別の会社に移籍
させる効果を持つものではないから、少なくとも原告らとの関係で、本件各
配転が民法625条1項違反となる余地はない。原告らは、雇用形態・処遇
体系の多様化の実施にあたり、繰延型を選択し、被告らを退職することを被
告らが強要したとして、その態様が民法625条1項の趣旨に違反すると主
、、張するようでもあるが実際に原告らは繰延型を選択していないのであるし
雇用形態・処遇体系の多様化の実施にあたり、被告らが繰延型の選択を強要
したといえないことも後述(2())のとおりであるから、原告らの主張は14
理由がない。
()以上によれば、原告らと被告らとの間に、勤務場所や職種を限定する合7
意や慣行が存在したとは認められないから、争点()についての原告らの主1
張は理由がない。
2争点()(本件各配転が被告らの配転命令権を濫用して命ぜられたものか)2
について
()争点()に対する判断で説示のとおり、原告らに対しては、勤務場所又は11
職種が変更される旨を定める被告会社就業規則60条又は被告ME就業規則
58条の適用がある。もっとも、就業規則に配転に関する一般条項が定めら
れているからといって、被告らの配転命令権が無制限に認められるものでは
ない。配転命令権が、業務上の必要性が存しないにもかかわらず行使された
場合や、業務上の必要性が存する場合であっても、他の不当な動機・目的を
もって行われたものであるとき、又は、労働者に対し通常甘受すべき程度を
著しく超える不利益を負わせるものであるときには、配転命令権が権利を濫
用して行使されたものとして、無効となる。
そこで、以下、まず本件各配転の前提である本件構造改革の合理性、必要
性をみたうえで、本件各配転の必要性があるかどうか(()から()まで、313)
不当な動機・目的があるかどうか(()、原告らに通常甘受すべき程度を14)
著しく超える不利益を負わせるかどうか(())を、順次検討する。15
()本件構造改革の合理性・必要性2
ア本件各配転は、前提事実()ないし()のとおり、本件構造改革を前提と27
するものであり、本件構造改革による業務の外注委託と雇用形態の選択が
直接的な契機となっているものである。したがって、本件構造改革に必要
性も合理性もなく、また、その目的や動機あるいは内容や手法が不合理、
不当であると認められる場合には、本件各配転は、そもそも合理的な前提
を欠き、内容的にも不当、不合理なものということになり、配転命令権を
濫用したものとなる可能性が大きくなる。
逆に、本件構造改革が経営上合理的な判断であり、その必要性もあった
といえる場合には、そのことから直ちに、本件各配転に業務上の必要性が
、、あったとか不当な動機・目的がなかったといえるわけではないけれども
本件各配転の合理性、必要性などを裏付ける重要な事情となり得る。
これを本件構造改革の内容に即していえば、本件構造改革による業務の
外注委託は、被告らにおける原告らの担当業務を被告らから失わせるもの
、、であるから業務の外注委託により従前の担当業務がなくなった場合には
その結果として、それまでとは異なる職務に従事せざるを得ないことは当
然であるし、その際に、従前の勤務場所における配転が種々の事情により
困難である場合に、遠隔地への配転が余儀なくされたとしても、そのこと
を直ちに不当といえない場合があることも、やむを得ないところである。
配転における業務上の必要性は、当該配転先への配転が余人をもって替え
、、難いといった高度の必要性に限定されるものではなく労働力の適正配置
業務の能率推進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化
といった点で、使用者の合理的運営に寄与する点があれば認められるもの
であるが、それまでの担当業務が会社になくなった結果、やむを得ず配転
する場合と、従事すべき担当業務が存在しながら、あえて配転する場合と
では、前記必要性の判断にも自ずと差異が生じることは明らかである。
以上のとおり、本件構造改革が、合理性、必要性を有するものであった
か、また、その程度はいかなるものであったかは、本件各配転の業務上の
必要性等を判断するにあたり、重要な意味を持つというべきである。
イそこで、本件構造改革の合理性、必要性を判断するが、まず、その前提
として、本件構造改革の計画、実施等の経過をみることにする。前提事実
に証拠(乙3ないし9、11ないし13、15ないし17、21、39、
118、131の1ないし3、153、323、証人P12、同P10)
及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア)被告会社は、平成11年7月、NTTの再編成により発足した。被
告会社の前身である電電公社は、電信電話設備を国内全体にひとしく整
備・拡充することを使命としていたため、電話交換機、伝送路の設置、
運用・保守等を日本全国で行うべく、昭和36年から昭和51年にかけ
て、年間平均約1万5000名の職員を採用した結果、職員数は、昭和
54年度末時点で約33万人となり、その大半が電話交換機等の電気通
信設備の保全等の業務に従事するという状態となっていた。昭和54年
以降は、電気通信設備の拡充の必要が大幅に減少したことや、既存の電
気通信設備の運用・保守等の保全部門は機械化が進んだため、保全部門
に従事していた社員の適正配置及び活用は、昭和50年代半ばころから
電電公社の重要な課題となっていた。
電電公社は、その後、民営化によるNTTの設立の後、業務拠点の集
約化、需要の見込める新規分野の事業化とその事業の分社化等により、
社員を大幅に減少させるとともに、合理化施策により社員の適正配置に
努め、さらに数次にわたる希望退職募集を行ってきたが、被告会社設立
当時においても、被告会社の社員数は約5万8050名(NTT西日本
等再編成4社合計では約13万4000名)に達し、人件費総額も営業
費用の22パーセントに達していた。
(イ)情報通信産業においては、被告会社設立当時から、いわゆるIT革
命と称される情報通信技術の飛躍的な進展を背景として、情報通信のマ
ルチメディア化と国際化が急速に進展し、国内市場においても、有力な
外資系通信事業者、ベンチャー企業等の新規参入により、地域通信から
、。長距離・国際通信まであらゆる分野で激しい競争が繰り返されていた
また、固定電話から携帯電話等の移動体通信への移行等により、平成
10年度において営業収入の77パーセント、平成12年度において営
業収入の70.5パーセントと、被告会社の収入の大部分を占めていた
固定電話収入は、平成7年から平成11年にかけ毎年減少しており、将
来的にも減少し続けることが見込まれていた。更に、平成12年10月
実施予定の「プライスキャップ制、平成13年5月実施予定の「マイ」
ライン(電話会社選択」制度の導入、事業者間接続料金に関して当局)
の予定していた長期増分費用方式の実施等(いずれもその後予定通り実
施された)により、被告会社の収入は更に減少することが見込まれた。
ため、被告会社が従前の経営体制を維持した場合には、平成12年度に
170億円の、平成13年度に280億円の、平成14年度に550億
円の経常損失を発生させることが予測されるに至った。
(ウ)そのような中、NTT、被告会社、NTT西日本は、平成11年1
1月「中期経営改善施策」を策定し、平成12年から平成14年にか、
けて、被告会社及びNTT西日本において、人員削減(約2万1000
人、設備投資削減(約9000億円、各種経費の削減等を行い、平))
成14年度までに730億円の経常利益の達成を企図することとした。
中期経営改善施策において行われた人員配置の見直しでは、被告会社
は、従来の販売拠点等を見直し、人材を情報流通分野や、首都圏・地方
圏県庁所在地等の市場性のある拠点に再配置することとし、販売業務、
窓口業務、電話受付業務、料金業務、故障受付業務の拠点を大幅に統廃
合するとともに、社員を固定電話から情報流通へ、また、市場性のある
首都圏エリアへと大幅に異動させた。その結果、平成13年度末までに
配転対象となった社員は約1万7200人となった。また、業務集約及
、、、び拠点の統廃合により社員の余剰が明らかとなったため被告会社は
平成13年度末までに約1800人の社員をグループ会社に出向、転籍
とした。
更に、被告会社は、人件費削減のための施策として、平成12年から
平成13年にかけて、4回にわたり、希望退職者を募集したほか(約6
500名の社員が希望退職した、平成13年度から平成15年度に。)
かけては、新規採用を行わなかった。
(エ)中期経営改善施策の実施中も、競争激化により、NTTグループの
、、().市場でのシェアは平成13年度時点で長距離通信県間通信50
2パーセント(平成9年度比12.5パーセント減、地域通信(県内)
通信)65.2パーセント(同23.9パーセント減)と減少し続けて
いたほか、固定電話契約者数も平成14年度末において5116万契約
、、と平成5年度比で767万契約減となったほか料金値下げ競争により
被告会社の収支は悪化した。平成13年11月時点で、被告会社の営業
収入も平成12年度の2兆7900億円から平成13年度の2兆570
0億円と2200億円減少し、経常利益も平成12年度の141億円か
ら平成13年度は約75億円に落ち込むことが判明し、平成14年度に
は更なる経常利益の減少が想定される事態となった。
、、、(オ)NTTは平成13年1月被告会社を始めとするグループ各社に
今後の営業収益の減少に耐え得る抜本的、効率的な事業計画の策定、提
出を要請していた。被告会社の収支は、中期経営改善計画の実施によっ
ても、(ウ)のとおり、大幅には改善しなかったため、NTTは、平成1
3年4月、新3か年計画を公表し、被告会社は、より抜本的、効率的な
事業計画として、本件構造改革を実施することとした。
(カ)本件構造改革では「業務の外注委託」と「雇用形態・処遇体系の、
多様化」が重要な施策として位置づけられた。
「業務の外注委託」とは、固定電話に関する定型業務及び地域密着型
の業務を東日本地域の都道県別に新たに設立する「サービス系会社、」
「設備系会社「共通系会社」の3系列の会社(新会社)に外注委託」、
するというものであった。
また「雇用形態・処遇体系の多様化」とは、51歳以上の社員(平、
成15年3月31日に51歳以上となる者)について、①被告会社を退
職し、新たに各都道県に設立された会社に雇用され、勤務場所は地元に
限定されるが、賃金は地場賃金並みに減額される(具体的には、給与は
従来より15パーセントから30パーセント低い水準となる)という。
繰延型・一時金型か、②被告会社に60歳まで勤務するが、業務はこれ
までの職務にかかわりなく法人営業等に限定される上、勤務場所は市場
性の高いエリア(首都圏エリア等)となることがあるという満了型かの
いずれかを、各社員に選択させるものであった。
被告会社は、本件構造改革の実施に先立ち、全社員(約4万6700
人)のうち雇用形態選択制度の対象者である51歳以上の者約2万67
00人の中で、約2万5000人が繰延型又は一時金型を選択し、新会
社で再雇用されることとなると見込んでいた。
被告会社が、業務の外注委託と雇用形態・処遇体系の多様化を本件構
、、、造改革の重要な施策として位置づけたのはこれによりコストの削減
とくに相対的に高い51歳以上の社員の人件費や、収益力が乏しい地方
圏の人件費を抑えることができ(被告会社は、事業を独占していた時代
に、首都圏エリア、地方圏エリアを問わず、全国一律の賃金を社員に支
給することとしていたが、市場が小さい地方圏エリアでは、その収支が
ほとんど赤字となっていて、地方圏エリアで稼働する被告会社社員の賃
金と地場賃金との格差は拡大していた、併せて、人員が過剰で収益。)
力が乏しい地方圏から、人員が不足し収益力がある首都圏エリアに、労
働力を異動させ、また、人員を、大きく需要が見込まれるIP・ブロー
ドバンドビジネス(その中心を担うのが法人営業等である)の販売強。
化に集中させることができるからであった。
(キ)被告MEは、主に電気通信設備の設備運営等に関する受託業務、通
信機器販売・保守受託業務、各種ネットワークサービスの販売取次業務
等を業務とする企業であり、その収入の大部分は、被告会社その他グル
ープ会社からの業務の受託収入が占めていた。
、、ところが被告会社の収益の基盤であった固定電話収入の減少に伴い
その収益が悪化し、平成11年度に48億円であった経常利益が、平成
12年度には9億円となり、平成13年度には赤字に転落する見込みと
なった。
そのような中、被告会社は、本件構造改革の一環としてコスト構造改
革を実施し、被告MEへの委託費用を更に削減することを決定した。
そのため、被告MEは、収益を被告会社等からの受託収入に頼る経営
から、一般市場への事業転換を図ることとし、被告会社等の電気通信設
備の施工管理、故障修理・定期点検等、回線開通等、受託業務の大部分
を新会社に移行するとともに、被告会社が実施したのと同様の雇用形態
・処遇体系の多様化を実施することとした。
ウ上記のとおり、中期経営改善施策の実施によっても、被告会社の業績が
大きく改善しなかったことや、被告MEの収益が大幅に悪化し続けていた
ことからすれば、収益構造の大幅な転換を目指すことを内容とする本件構
造改革が、被告らにとって経営上極めて重要な施策であったであろうこと
は明らかである。本件構造改革の実施時において、被告らの経営状態が、
本件構造改革を実施しなければ直ちに危機に瀕する状態であったとまでは
考えにくいものの、更なる改革を実施しなければ、被告らの収支は更に悪
化し、経常損失を計上する事態となることも予想されたことからすれば、
被告らがその業務態勢を一新し、収支構造の改善を図る施策を講じようと
したことは理解できることであって、その判断が不当なものであったとは
解されない。
そして、固定電話による収入が減少傾向にあったこと、地方圏エリアに
おける収支状態は良好でなく、地方圏エリアでは社員の賃金も地場賃金よ
り高水準であったことからすれば、被告会社が、収支構造の改善を図る施
策として、固定電話に関する定型業務及び地域密着型の業務を、賃金水準
を地場賃金並みとする新会社に移行させ、被告会社の労働力は今後需要が
見込まれるIP・ブロードバンドビジネスに集中させるべく、業務の外注
委託と雇用形態・処遇体系の多様化を柱とする本件構造改革を実施したこ
とも、十分合理的な判断であるということができる。被告会社から新会社
に外注委託された業務は、前提事実()のとおり、中小規模のユーザ向け5
に対するサービス業務やSO業務、電話交換機や通信設備等の運用・保守
に係る業務等であるが、これらの業務は、今後被告会社の主要な収入源と
なり得るものではないのに対し、これらの職務に従事する地方圏の社員の
給与は高水準であったというのであるから、給与水準が被告会社より引き
下げられる新会社に外注委託する業務として、これらの業務を選択したこ
とにも特段不合理な点はない。また、被告MEについても、従前の収入の
大部分を占めていた被告会社等からの受託収入が減少し続けていたことか
らすれば、被告MEが、一般市場向けの事業以外の事業を新会社に外注委
託したことについても、特段不合理であるとは解されない。
原告らは、被告会社は、巨大安定企業であり、経営状態も財務体質も良
好であり、人的コスト削減を行うことに合理性、必要性はなかったと主張
する。しかし、被告会社が、平成12年度において2兆7945億円の営
()業収入と141億円の経常利益を出していたことは事実である争いない
としても、前記(イ(イ))のとおり、被告会社の収入は、固定電話部門を
中心として減少傾向にあり、その傾向は引き続くと予測されていたのであ
るし(前記のとおり、現実に被告会社の平成13年度の営業収入は前年度
比2200億円減少している、当時、情報通信産業における値下げ競。)
争やシェア獲得競争が容易にやむ状況にもなかったことも広く知られてい
るところであるから、被告会社が、抜本的、効率的に経営体質を改善すべ
く、本件構造改革を実施したことには、合理性、必要性があったと認める
ことができる。
また、原告らは、NTTグループはグループ全体でみて安定した経営状
態にあったのであるから、本件構造改革を行う必要はなかったと主張する
が、被告らは、グループ会社と法的に一体の会社ではないのだから、NT
Tグループが全体でみて安定した状態にあるとしても、本件構造改革を実
施する合理性、必要性がなかったということになるものではない。
エ以上のとおり、本件構造改革は、被告会社及び被告MEが、コスト削減
により経営体質を改善し、併せて、労働力を人員が不足しかつ収益力があ
る首都圏を中心とする都市圏や今後需要が見込まれるIP・ブロードバン
ドビジネスに集中させるものであって、合理性、必要性があったと認める
ことができる。そして、被告らが大幅な経常損失を近いうちに発生させる
ことが予測されていた状況下にあったことからすれば、その必要性は高か
ったと認められる。
オもっとも、本件構造改革は、前記イ(カ)のとおり、社員に対して雇用形
態の選択をさせるものであり、51歳以上の社員は、概括的にいえば、勤
務場所は現在の勤務地に固定されるものの退職・再雇用による賃金の減額
、、を受け入れるという繰延型・一時金型と賃金水準は維持されるけれども
(、職種や勤務場所が変更される可能性のある満了型地方圏に居住する者は
首都圏が勤務場所となると、必然的に住居移転や長距離通勤を迫られるこ
とになる)のどちらかを選択することが求められる。前記のとおり、被。
告らにおいては、労働契約上あるいは労使慣行として、職種や勤務場所は
本人の同意がない限り変更されないことになっていたとは認められないけ
れども、実態としては、勤務場所は長期間にわたって変更されず(自宅か
らの通勤が容易な勤務場所に限られていた、職種も本人が希望しない。)
限り変更されないことが多かったことからすれば、賃金水準に変更がない
としても、職種が変更し、勤務場所も遠隔地になる可能性があるというの
は、それまでの労働条件に比べて事実上の不利益となることは否定しがた
い。かといって、退職・再雇用にすると、賃金が減額されるから、これも
従前の労働条件より不利である。その意味で、特に、地方圏で移行対象業
務に従事する51歳以上の社員にとっては、雇用形態の選択制度は、どち
らを選択しても、従前の労働条件に比べて、事実上、不利益となることは
否定しがたい。
そのうえ、雇用選択制度の対象者は51歳以上の社員であり、年齢が高
く定年(60歳)までの期間が短いこと、これまで大きな職種変更や勤務
場所の異動がなかったことから考えると、多くの社員が職種変更や勤務場
所の変更の可能性がある満了型を選択せず、繰延型や一時金型を選択する
ことは容易に予想される。被告会社は、51歳以上の社員の大多数が退職
・再雇用を選択することを予想していたし、現実にも、大多数の社員は退
職・再雇用を選択している(前記イ(カ)。そもそも本件構造改革の主要)
、。、な目的は人的コストの削減にある大多数の社員が満了型を選択すると
賃金総額の減少は小さくなり、コスト削減の目的は達成されないことにな
る。この意味では、本件構造改革は、その制度自体が、大多数の社員が退
職・再雇用を選択することを前提としているというべきである。
そうだとすると、本件構造改革の中核である雇用形態の選択制度は、そ
の制度の仕組み自体から、51歳以上の社員を退職・再雇用による賃金減
額へ誘導する面を有するといわなければならない。したがって、前記のと
おり、本件構造改革には、コスト削減や人員の配置の見直しなど合理性、
必要性が認められるにしても、さらに、その内容や手法に不合理な点はな
いかを検討する必要がある。この点については、後記()で、検討するこ14
ととする。
()本件各配転の必要性(本件各配転に共通の事情)3
ア以上のとおり、原告らの従事していた業務を被告らから新会社に外注委
託することを内容の1つとする本件構造改革には、経営上の合理性、必要
性が認められる。
そうすると、本件構造改革による新会社への業務の外注委託により、被
告会社には原告らの担当業務がなくなったのであるから、担当業務がなく
なった原告らが配転の対象となることはやむを得ない。そして、被告らが
配転先を検討する際に、本人のそれまでの職務内容等を勘案した上で、可
能な限りその適性が高いといえる職場を検討することが求められることは
当然であるとしても、被告らからは、既に従前原告らが従事していた職務
がなくなっている以上、従前の身分のまま在籍し続けることとなった原告
らにとって、適性が高いといえる職場は自ずと限定されるのであるし、そ
のような職場が存在したとしても、常にその職場に原告らの配置が可能で
あるとも限られないのであるから、原告らの配転の業務上の必要性を検討
する際に、配転が余人をもって替え難いといった高度の必要性が求められ
、、、るべきものではないことはもとより労働力の適正配置業務の能率推進
労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化といった点で求め
られる業務上の必要性についても、従前従事していた職務が会社内に存在
していた場合と比して、より緩やかに判断されることはやむを得ないこと
である。
イそこで、次に、原告らを首都圏エリアに配転したことなどが、上記のよ
うな観点からみて、労働力の適正配置、業務の能率推進、労働者の能力開
、、。発勤務意欲の高揚業務運営の円滑化に資するものであったか検討する
証拠(乙118、証人P12)によれば、本件構造改革による業務の外
注委託により、被告会社に残った業務は、主に経営・設備・開発・サービ
スに関わる戦略を担う企画型業務と、官公庁や主に首都圏エリアに本社を
持つ一部上場会社等の大口顧客に対して会社の商品やサービスを販売した
り、情報通信システムの構築を提案・折衝し、受注を目的とする法人営業
業務となったこと、被告会社は、企画型業務は、収益を生み出す部門では
ないことや、業務の性質上、当該業務に適した特化した知識・経験を有す
る最低限の人員の社員を充てることが望ましく、それ以外の社員は将来の
収益の基盤となるIP・ブロードバンドビジネス推進の中心的な役割を担
う法人営業に集中させることが望ましいと考えていたこと、以上の各事実
が認められる。
そして、証拠(乙118、148の1・2、150ないし152、証人
P12)によれば、今後需要拡大が見込まれるIP・ブロードバンドビジ
ネスの中でも収益効率性が高い顧客である民間事業所数は、地方圏エリア
(北海道・青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島・茨城・栃木・群馬・新
潟・山梨・長野)と首都圏エリア(東京・神奈川・埼玉・千葉)を比較す
ると、民間事業所数約286万のうち5割強を首都圏エリアで占め、従業
者数100人以上の事業所で比較すると全体の約6割強を首都圏エリアで
占めていること、首都圏エリアにおける1月当たり総請求額5万円以上3
0万円未満かつ3回線以上のユーザの市場分布率は58パーセント、総請
求額30万円以上のユーザの市場分布率は64パーセント、大規模ユーザ
(50回線以上)の市場分布率は78.4パーセント(いずれも平成11
年9月末現在)であり、首都圏エリアに集中していること、被告会社の加
入電話数(一般加入回線・ISDN回線)も59.1パーセントが首都圏
エリアで占めていること、社員1人当たりの営業収益も、平成13年度末
時点で、地方圏エリア1に対し、首都圏エリア1.5であり、首都圏エリ
アの収益性が高いこと、以上の各事実が認められるのであって、これらの
事実に照らせば、市場性、収益性が高い首都圏エリアの法人営業に人員を
集中させることが労働力の適正配置、業務の能率推進、業務運営の円滑化
の観点から合理的な判断であったことは明らかである。また、証拠(乙3
23)によれば、被告MEの収入の大部分を占めていた被告会社からの受
託収入が減少傾向にあり、その原因も被告会社の固定電話収入の減少にあ
るため、早期に回復する見込みもなかったと認められることからすれば、
被告MEが一般市場への事業転換を図るべく構造改革を行い、労働力を一
般市場関連の事業に集中しようとしたことに、上記と同様の合理性が認め
られることは明らかである。
なお、原告らは、当初、本件構造改革の目的として、IP・ブロードバ
ンドビジネスの強化を目的とした人員配置を行うことは挙げられていなか
ったと主張するが、証拠(乙16、118、138)によれば、NTTが
平成13年4月に公表した「NTTグループ3ヵ年経営計画(2001∼
2003年度)について(新3か年計画)は、被告らを含むNTTグル」
ープ全体の事業の方向付けを行うものであったところ、その中では「重、
点課題をIT革命に向けた取組み」とした上で「ブロードバンド時代が、
現実のものとなりつつ」あることを踏まえて「インターネット関連事業、
の拡大に積極的に取り組んでいきます「光サービスの低廉化とエリア。」、
拡大に積極的に取り組むとともに、既に世界水準にあるADSL等メタル
系サービスに対する早期需要の開拓に努め」るなどとされていたと認めら
れるほか(本件構造改革は、新3か年計画の一環として実施されたもので
ある、平成13年12月までにかけて行われた社員に対する説明にお。)
いても、本件構造改革が「電話」から「情報流通」への事業構造転換、「
等による経営基盤確立を目的」とした中期事業計画を受けて行われるもの
、「、であり光・ADSL等のネットワークサービス及びプラットフォーム
コンテンツ事業等を中心としたIP事業等への取組み強化」を目的として
行うものであると説明されていたと認められるのであるから、本件構造改
革の目的の1つが、IP・ブロードバンドビジネスの強化にあり、そのた
めにIP・ブロードバンドビジネス関連の事業等に人員配置が強化される
ことは当然のことであるから、原告らの主張は理由がない
ウ原告らは、新会社への業務委託により原告らの従前の担当業務がなくな
ったのであっても、当該業務を行っている新会社が地元にあるのだから、
原告らを在籍出向させることができ、むしろ、原告らについては新会社に
在籍出向させ、従前と同内容の職務に従事させることこそが、業務の能率
、、。推進労働者の能力開発勤労意欲の高揚に資するものであると主張する
現に、50歳未満の社員の中には、新会社に在籍出向して従前と同様の職
務に従事している社員もいる(争いない。)
しかし、新会社に在籍する51歳以上の社員の大部分は、賃金が従前と
比べ15パーセントから30パーセント減額となる繰延型を選択して、新
会社で再雇用されることを選択した社員であること(乙118、証人P1
2)からすれば、原告らのように満了型を選択したとみなされた者を新会
、、社に在籍出向させることは新会社で再雇用された社員の不公平感を煽り
その勤務意欲を削ぐ結果となることは明らかである。そもそも、満了型を
選択した社員を地元の新会社に在籍出向させたのでは、本件構造改革の中
。、、核である雇用形態の選択制度にも沿わない被告会社が原告らについて
地元で設立された新会社への在籍出向を認めなかったことには、合理性が
認められるというべきである。
もっとも、一般論として、首都圏の法人営業等(被告会社)や一般市場
関連の事業(被告ME)を強化することが望ましいことは是認し得るとし
ても、およそ原告らの適性を検討せずに、原告らを首都圏に広域配転する
ようなことが許されるものではない。その配転の際には、本人の適性を検
討することが求められることは当然であり、その事情は、原告ら各人毎に
異なるのであるから、以下では、進んで、原告らの個別事情について検討
する。
()原告P1の配転の必要性4
ア前提事実に証拠(甲189の1・2、乙21、22、432、435な
いし437、439、441、443、451、453ないし455、4
57、459、証人P13、同P14、原告P1本人)及び弁論の全趣旨
を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア)原告P1は、昭和44年3月28日、電電公社に見習社員として雇
用されて以降、約10年間電話交換手として稼働し、以後、約23年に
わたり、群馬県高崎市内所在の群馬支店等において主に料金業務に従事
していた。
原告P1が従事していた料金業務は、顧客から受注したサービス・商
品の代金審査や、リース契約により受注した場合の代金管理、被告会社
が発行する電話帳への広告料の売掛金管理、顧客からの問い合わせ・苦
情対応等であった。
(イ)群馬支店は、首都圏の他支店と比べ、市場性が低いため、社員1人
当たりの生産性も低い状態にあり、平成11年度に約66億円、平成1
2年度には約77億円超の経常損失を計上する状態となっていた。
群馬支店では、平成11年当時、約1490名の社員が在籍していた
が、社員の生産性は低く、人員余剰の状態であると判断されたため、群
馬支店は、将来のAM、SE育成の観点から首都圏へのパワーシフトの
実施、業務確保方策として東京支店からの業務受託、販売拠点の統廃合
等を実施し、経営状態を改善すべき方策を模索していた。
そのような中、本件構造改革が実施されることとなり、業務の外注委
託や雇用形態・処遇体系の多様化等が現実化することとなったため、群
馬支店では、平成13年6月及び同年12月に、社員説明会を開き、ま
た上長等を通じ、全社員に対して、本件構造改革の枠組み、構造改革後
の群馬支店や新会社の業務内容、新会社における労働条件等が説明され
た。
群馬支店は、同年10月、中間面談を実施し、各社員から、雇用形態
・処遇体系の多様化実施の際、満了型、繰延型、一時金型のいずれを選
択するかの意向を確認した。
同年12月21日以降には、51歳以上となる社員について、各上長
が個別面談を実施し、①満了型を選択すると、被告会社に残存する業務
のうち法人営業業務や企画等の業務に従事することや、全国転勤が前提
となり、成果主義が徹底されること、②雇用形態選択通知書を提出しな
いなどいずれの雇用形態も選択する意思を示さない場合には、満了型を
選択したとみなされることを説明し、雇用形態選択通知書が全社員に手
交された。
(ウ)原告P1は、平成13年6月及び同年12月の社員説明会に出席し
たが、団体交渉の場で個別の事情を説明しようと考え、上長が指示した
個別面談には応じなかった。原告P1は、雇用形態選択通知書は受領し
ていたが、これを提出期限とされた平成14年1月18日までに提出せ
ず、独自に作成した「雇用形態選択通知書』についての通知書」と題『
する書面を提出しようとしたが、上長は指示に反する文書であるためこ
れを受領しなかった。その後、上長は、所定様式に沿った雇用形態選択
通知書を提出するよう求めたが、原告P1はこれに応じなかったため、
被告会社は、原告P1が満了型を選択したものとみなした。
群馬支店では、51歳以上の雇用形態選択の対象となる社員は459
名在籍していたが、内454名が繰延型又は一時金型を選択し、残りの
5名中3名が満了型を選択し、2名が雇用形態選択通知書を提出せず、
満了型を選択したとみなされた。
(エ)原告P1は、平成14年2月5日、同月7日、同月19日に、上長
に対し、満了型を認めたわけではないこと、広域配転には応じられない
こと、現在の職場への出向を希望することを述べたほか、同年3月19
日に「遠隔地に行きたくない「早く勤務地が知りたい」旨主張し、。」、。
た。また、原告P1は、同年6月12日、上長あてに「NTT東日本、
の構造改革によるNTT本体と雇用継続中の通信労組群馬支部組合員の
最終配置についての要請書」を提出し、体力面や家事・育児面で負担と
なる遠距離通勤はできないので考慮して欲しい旨申し出、埼玉支店への
配転について説明がされた同月20日にも、遠いので、中1と高3の子
がいる家庭生活が成り立たないから受けられない、腸が弱く下痢をしや
すいので、毎日遠距離通勤をすることはできないなどと申し出たが、被
告会社はこれに応ぜず、同月24日、埼玉支店への配転を発令した。
これに対し、原告P1は「配転命令には異議があります、埼玉支、。」
店への配転命令は「私が「一時金型」ないし「繰延型」を選択しなかっ
たことに対する報復的不利益措置としか考えられません、埼玉支店。」
への配転により「異職種で遠隔地配転のために多大な職業上・生活上の
不利益を被ります」などと記載された異議申立書を群馬支店長あてに。
提出した。
、、(オ)原告P1が担当していた料金業務は新会社に外注委託されたため
原告P1については、新たに従事する職務を探す必要が生じた。被告会
社は、本件構造改革後、労働力をIP・ブロードバンドビジネスに集中
させる方針であったため、原告P1につき、IP・ブロードバンドビジ
ネスに関する業務に従事させることを企図し、同人を、平成14年4月
24日付けで、群馬支店営業部システムソリューション部門システムサ
ービス担当、同年5月1日付けで同支店法人営業部法人総括担当に配転
し、同年6月30日までの間、同人に対する集合研修等を実施した。
被告会社が実施した集合研修の内容は、被告会社の商品・サービスに
関する知識、顧客に対する提案・折衝の方法やインターネットやフレッ
ツサービスを始めとしたIP・ブロードバンドに関する基礎知識等に関
する座学研修や群馬支店法人営業部における実務研修等であった。
(カ)埼玉支店は、人口規模は全国5位を有する埼玉県を管轄し、電話サ
ービス加入者数は被告会社中3位(本件構造改革前)であったほか、経
済面でもさいたま新都心の誕生等により、都市機能が集積する等、市場
性が高く、今後の売上の向上が見込まれる支店であった。
埼玉支店の営業組織(法人営業部だけが担当している)は、平成1。
4年5月1日当時、公共AM部門、企業AM部門、エリアAM部門、営
。、、業企画部門等に分かれていたそのうち公共AM部門企業AM部門は
顧客規模が大きく、SIソリューションでは受託商品を扱う等、システ
ムの構築等の専門的な知識、経験が必要となる部門であり、エリアAM
部門は、各エリアの自治体や企業のうち電話回線を15回線以上保有す
る大口ユーザ等に対する営業活動を行う部門であり、顧客規模、販売額
も大きくなく、AMの役割としては、窓口として顧客の通信に関わる課
題や要望を聞き、顧客に、主に既存商品を利用した提案・販売を行うこ
とが求められる部門であった。
埼玉支店法人営業部では、平成13年度より、自治体対応を強化すべ
く、AM担当者が企業等に対する提案活動に専念できるようAM担当者
が本来担当すべき業務のうち、比較的重要度が低い業務を他の社員に集
約して担当させるなど、AMに対するサポート体制を強化していた。
また、埼玉支店では、退職・再雇用を選択した社員のうち、非移行対
、、象業務である法人営業に従事していた社員も相当数存在したため今後
AMやSEが不足することが予想されていた。
そのため、埼玉支店は、被告会社営業企画部(被告会社における人事
関係業務を実施している部門である。以下「本社」という)に対し、。
法人AMの適任者としてAMの経験がある者、営業窓口・電話等で顧客
、、、対応の経験がある者の人員要請をしたところ本社は群馬支店に対し
埼玉支店におけるAM適任者2名の選定要請をした。
(キ)群馬支店における満了型選択者5名のうち、原告P1、原告P2及
びP15の3名が、新会社への移行対象業務に従事していたため、群馬
支店は、その3名の中から埼玉支店におけるAM適任者2名を選定する
こととした。
原告P1には、リース・割賦契約代金や電話帳広告料の売掛金管理、
電話による問い合わせ・苦情対応の経験が、原告P2には、訪問販売等
による営業経験のほか、販売パートナからの取次情報に基づく受付処理
・工事調整業務等の経験が、P15には、重払い返還処理業務、電話に
よる問い合わせ・苦情対応の経験があったが、P15は既に59歳であ
り、今後の能力・経験の育成等が大きく見込めなかったため、群馬支店
は、原告P1及び同P2を選定した。なお、原告P1及び同P2には法
人AMの経験はなかったが、原告P1及び同P2には電話等による顧客
対応経験があったため、群馬支店は、同人らが本社からの要請基準を満
たすものと判断した。
(ク)原告P1は、同年7月1日付けで埼玉支店法人営業部エリアAM部
門埼玉中央西営業担当に配転された。
埼玉支店法人営業部は、埼玉県内の各自治体が、政府の「e−Jap
an構想」に基づき、ITによる便益を十分に生かせる環境整備を進め
ていたことから、AM担当を各自治体への対応に集中させることが望ま
しいと考えていた。埼玉支店法人営業部は、各AM担当が担当していた
業務のうち、AM業務以外の業務を集約させる体制を採り、AM担当に
対し各自治体への対応に集中し得るようしていたが、原告P1には法人
営業の経験はなく、将来、AMとして活動するとしても、配転当初に従
事する業務としては、AMのサポート業務とすることが適していると判
、、、断したため原告P1には緊急通報システム業務を集約して担当させ
各AM担当による各自治体への対応強化を図ることを企図した。
緊急通報システムとは、①自治体からの依頼に基づき老人宅等に緊急
通報用電話機の設置工事を行う際の事務処理、②工事料金や月額料金の
支払に関わる事務処理、③設置された緊急通報用の電話機の撤去、④緊
急通報システムのセンタ装置への利用者の登録、⑤緊急通報システムの
更改時における提案等の業務を内容とするものであり、商品や技術に関
する専門的知識を要するものではなかった。
イ(ア)アの認定事実中、原告P1の配転が決定された過程((カ)、(キ))
について、原告らは、これに関する被告らの主張(上記認定事実と同様
である)は後に作られた虚偽のものであり、上記認定のような選定過。
程ではなかったと主張する。
しかし、社員の配転に際して、配転元と配転先の各職場及び配転の指
示をする本社との間で、およそ要請や検討等が行われなかったとは考え
られないし、原告P1の選定過程に関する証人P13及び同P14の各
証言及び同人らの陳述書(乙432、441)は、具体的かつ詳細であ
るうえ、人員が不足している埼玉支店が増員の要請をし、人員が余剰で
あった群馬支店から配転されるということは何ら不自然でないことなど
も併せて考慮すると、上記証言及び書証を含む前記各摘示した各証拠等
から、前記のとおりの事実を認めることができ、これを覆すに足りる証
拠はない(後記()から()までの、他の原告らの選定過程の事実につ512
いても同様である。。)
なお、この点に関連して、原告らは、本件構造改革に伴う雇用形態選
択により満了型とみなされ、被告会社の福島支店からサービス開発部フ
レッツネットワークサービスセンタ(FNC、東京都に所在)に配転と
なったP16(本件訴訟の原告であったが、訴えを取り下げた)に関。
して、配転先のFNCが作成した「60歳満了型選択者をFNCに受入
るにあたっての基本的な考え方(案」と題する文書(甲126)が存)
在し、これには「他の社員と同様にIP関連業務に従事してもらい戦力
となるように育成を実施します。しかしながら、当面は開発、企画的要
素が強い担当には配置しない。独立性の高い業務(自己完結型)を中心
に従事させる(出発点として「P16社員については、FNCの文)」、
化を大きく否定する思想の持ち主」などの記載があることから、配転先
が人員の要請をし、これに応じて、配転元が適任者を選定したとする被
告らの主張はすべて虚偽であると主張している。しかし、上記文書は、
配転先の職場が満了型選択者を受け入れるに際して採るべき適切な対応
を検討していたことを示すものであり、その内容は配転先が人員の要請
をしていたことや、人員の要請に応じて配転が行われたことと何ら矛盾
するものではない。上記書面は、FNCにおいて増員が実現されること
になったところ、増員は満了型選択者によって行われることになったこ
、、とからその対応を検討している文書であると理解できるものであって
配転対象者の選定に関する上記認定事実を覆すものではない。
(イ)他方、上記ア(カ)、(キ)の認定事実に関して、被告らは、被告会社
各支店が本社からの選定要請に応えて配転対象者を選定するに当たり、
支店独自の考えによってその対象を移行対象業務に従事していた満了型
選択者としたものであり、本社から支店に対して満了型選択者の中から
選定するように指示がされた事実はないと主張し、被告会社の担当者で
あった各証人もそのように証言している。
しかし、本社から支店に対する選定要請がされたのは本件構造改革が
実行され雇用形態選択が行われた直後であること、各支店とも歩調を合
わせるかのように移行対象業務に従事していた満了型選択者を候補者と
した上で原告らを配転対象者として選定していること(原告P1、同P
2については上記認定のとおり。他の原告らは()ないし()で後述す612
るとおり)に照らせば、本社が各支店に対して明示的に指示したかど。
うかはともかく、本社は各支店に対して、移行対象業務に従事していた
満了型選択者から配転対象者を選定することを前提として選定要請を行
い、各支店は、本社からの要請を移行対象業務に従事していた満了型選
択者の中から選定すべきものという認識のもとで、選定を行ったものと
推認される。
ウアの認定事実を前提に、原告P1の本件配転の必要性を判断する。
アの認定のとおり、群馬支店においては、移行対象業務に従事していた
満了型選択者が3名存在していたのであるから、群馬支店は、これらの者
、。、については新たに従事する職務を探す必要があったものであるそして
群馬支店においては、従前から人員余剰の状態にあったことや、その市場
性も低かった一方で、被告会社は労働力を首都圏の法人営業に集中する必
要があったことからすれば、これらの社員につき、群馬支店以外への配置
を視野に入れて配転先を検討することがおよそ不当といい得るものではな
い。
そして、埼玉支店法人営業部では、AM担当に各自治体への対応に集中
させるべくAM担当の増員を必要としていたというのであるから、人員要
請を受けた本社が、新会社への移行対象業務に従事していた満了型選択者
が3名存在していた群馬支店に対し、埼玉支店におけるAM適任者を選定
するよう指示したこと(本社が明示的にしたかはともかく、配転すべき社
員を移行対象業務に従事していた満了型選択者から選定することを前提に
指示をしたと認められることは前記のとおりである)は、十分合理的な。
判断であり、労働力の適正配置の観点から業務上の必要性が認められるも
のであったと解される。
次に、原告P1の適性についてみると、同人には、約23年にわたる料
金業務従事経験があり、顧客対応については十分な知識・経験があると解
、、、、されるところエリアAM部門のAMは顧客規模販売額も大きくなく
訪問販売等を通じて、主に既存商品を利用した提案・販売を行うことが求
められていたというのであって(ア(ア)、(カ)、特に専門的知識等が求)
められる部署とも解されないことからすれば、原告P1には、従前法人営
業や営業窓口等に従事した経験がなかったとしても、およそ前記のような
。、、AMとしての適性に欠けていたとも解されないまた業務経験を通じて
原告P1がAMとしての能力を向上させることも十分可能であったと解さ
れることからすれば、本件配転は、原告P1の能力開発に資するものであ
るとも認められる。更に、被告会社が、原告P1を含め、新たな業務に従
事することとなった社員に対しては、配転に先立ち、今後、被告会社が労
働力を集中させるIP・ブロードバンドビジネスに関する基礎知識に係る
()、、、研修を行っていることア(オ)も考慮すれば被告会社は配転に際し
相応の配慮を払っていたことも明らかである。原告らは、原告P1に行わ
れた研修は十分でなかったとか、その後の実務に役立つものではなかった
、、、と主張するがその研修内容は被告会社の商品・サービスに関する知識
顧客に対する提案・折衝の方法といったものであり、およそ、原告P1の
その後の法人営業部における業務に関連性がないといえるものではない。
また、埼玉支店法人営業部は、原告P1が、従来、法人営業に従事した
ことがなかったことから、当初の業務として、埼玉支店法人営業部が設置
していたAMのサポート業務に従事させることを企図したというのである
から(ア(ク)、埼玉支店法人営業部埼玉中央西営業支店が担当する自治)
体中、原告P1が担当していた自治体以外の自治体は、緊急通報システム
業務を集約して1人に担当させる体制を採っていなかったとしても、その
判断が、労働者の能力開発の観点からみて不合理なものであり、必要がな
かったとも解されない。
なお、配転候補者となった3名のうち、P15は59歳であり、定年退
職を控えていたことからすれば、同人を配転の対象とせず、太田営業支店
に配置したことには合理的な理由が認められる。
エ(ア)これに対し、原告らは、埼玉支店ではAMは不足していなかったと
して、埼玉支店に勤務していた満了型選択者であるP17他4名の社員
が平成14年7月から8月にかけて東京支店や法人営業部等に配転とな
っていることをその根拠として挙げる。しかし、証拠(乙502)によ
れば、東京支店では、新会社への移行対象業務でなかった法人営業に従
事していた社員約650名(うちAMが約250名、SEが約120名
である)が繰延型を選択し、退職したため、被告会社の枢要な支店で。
ある東京支店の法人営業部門では大幅な人員の欠員が生じていたこと
や、これを受け、平成14年4月から同年7月にかけ、全国の支店から
東京支店にAM約30名、SE約40名の合計約80名の社員が配転と
なっており、P17他4名の配転も本社組織や東京支店を最優先すると
の被告会社の指示に基づくものであり、埼玉支店にAMが十分配置され
ていたことを理由とするものではなかったことが認められるのであっ
て、これらの事実に照らせば、P17他4名が東京支店等に配転された
からといって、埼玉支店のAMが不足していなかったことが裏付けられ
るというものではない。
(イ)原告らは、平成14年7月1日付けで新会社であるサービス群馬か
ら12名の社員が群馬支店に復帰し、法人営業部に配属されたことを捉
え、群馬支店は人員余剰の状態ではなかったと主張する。しかし、証拠
(乙432、証人P13)によれば、サービス群馬からの12名の社員
の復帰は、群馬支店におけるAMが不足していたために行われたもので
はなく、本件構造改革後、サービス群馬における人員が余剰となるため
にやむを得ず行われたものにすぎなかったと認められるのであるから、
原告らの主張には理由がない。
(ウ)また、原告らは、P18が、平成14年7月1日付けで長野支店法
人営業部から群馬支店法人営業部に配転されていることも問題視する
が群馬支店におけるP18の担当業務はソリューション業務であり甲、(
101の1、これに原告P1が適しているとも解されないことからす)
れば(この点は、後記の原告P2についても同様である、P18の。)
配転と原告P1の配転を関連づけることは相当でない。また、長野支店
の人員に余剰が生じ、埼玉支店に人員不足が生じている場合に、長野支
店の社員を埼玉支店に異動させるという選択もあるけれども、長野支店
の社員を群馬支店に異動させ、群馬支店の社員を埼玉支店に異動させる
という選択も、被告会社の人事権の行使としてあり得るというべきであ
る(前者を選択すると、異動に伴い住居移転が必要となるが、後者にす
れば住居移転は不要となるという面がある。後者の異動を選択した。)
ことが、直ちに人事権の裁量の逸脱・濫用になるとは認められない。
(エ)原告らは、あえて遠隔地から原告P1を配転するまでもなく、首都
圏エリアには、緊急通報システムを担当するのにより適した社員が多数
いたはずであると主張するが、仮に、緊急通報システムを担当するのに
適した社員が首都圏エリアに存在したとしても、緊急通報システムを担
当するのに適した社員のうちいかなる社員を配置するかは、被告会社の
裁量に属する問題であるし、前記のとおり、原告P1については、従前
従事していた業務が新会社に移行したことにより、新たに担当業務を探
さなければならない状態にあったのであるから、そのような社員の活用
方法として、原告P1を埼玉支店への配転の対象としたことが、労働力
の適正配置の観点から不合理であるとも解されない。
オ以上によれば、被告会社が原告P1を埼玉支店法人営業部エリアAM部
門埼玉中央西営業担当として配転したことには、業務上の必要性が認めら
れる。
()原告P2の配転の必要性について5
ア前提事実に証拠(甲193、乙21、22、432、435、438、
440、451、452、454、455、462、証人P13、同P1
9、原告P2本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認めら
れる。
(ア)原告P2は、昭和43年10月1日、電電公社に見習社員として雇
用されて以降、約20年間電話交換業務に従事し、その後、約8年にわ
たり116センタや太田営業支店等で、顧客からの問い合わせ等に対応
する業務や営業業務に従事した。
原告P2が従事していた116センタ等における業務は、電話による
顧客からの商品・ネットワークサービスに関する問い合わせに対する説
明や注文受付等、担当ユーザに対する訪問活動(商品・ネットワークサ
ービス等に関する提案、折衝、工事日程の調整等、顧客からの注文内)
容等の精査等であった。
(イ)群馬支店における経営状態と本件構造改革
()(原告P1の配転の必要性)ア(イ)と同じ。4
(ウ)原告P2は、平成13年6月及び同年12月の社員説明会に出席し
たが、上長が指示した個別面談には応じなかった。原告P2は、雇用形
態選択通知書は受領していたが、これを提出期限とされた平成14年1
月18日までに提出せず、独自に作成した「雇用形態選択通知書』に『
ついての通知書」と題する書面を提出しようとしたが、上長は指示に反
する文書であるためこれを受領しなかった。その後、上長は、所定様式
に沿った雇用形態選択通知書を提出するよう求めたが、原告P2はこれ
に応じなかったため、被告会社は、原告P2が満了型を選択したものと
みなした。
群馬支店では、満了型選択者は合計5名であり、そのうち3名が移行
対象業務従事者であった。
(エ)原告P2は、平成14年6月12日、上長あてに「NTT東日本、
の構造改革によるNTT本体と雇用継続中の通信労組群馬支部組合員の
最終配置についての要請書」を提出し、同月20日に埼玉支店への配転
を内示された際にも、C型肝炎のキャリアであるため遠距離通勤はでき
ないとの申し出をしたが、被告会社はこれに応ぜず、同月24日、埼玉
支店への配転を発令した。
これに対し、原告P2は「配転命令には異議があります、埼玉支、。」
店への配転命令は「私が「一時金型」ないし「繰延型」を選択しなかっ
たことに対する報復的不利益措置としか考えられません、埼玉支店。」
への配転により「異職種で遠隔地配転のために多大な職業上・生活上の
不利益を被ります」などと記載された異議申立書を群馬支店長あてに。
提出した。
(オ)原告P2が担当していた東京パートナ受付センタにおける業務は、
新会社に外注委託されたため、原告P2については、新たに従事する職
務を探す必要が生じた。被告会社は、本件構造改革後、労働力をIP・
ブロードバンドビジネスに集中させる方針であったため、原告P2につ
き、IP・ブロードバンドビジネスに関する業務に従事させることを企
図し、同人を、平成14年4月24日付けで、群馬支店(営業部システ
ムソリューション部門システムサービス担当、同年5月1日付けで同)
支店(法人営業部法人総括担当)に配転し、同年6月30日までの間、
同人に対する集合研修等を実施した。
被告会社が実施した集合研修の内容は、被告会社の商品・サービスに
関する知識、顧客に対する提案・折衝の方法やインターネットやフレッ
ツサービスを始めとしたIP・ブロードバンドに関する基礎知識等に関
する座学研修や群馬支店法人営業部における実務研修等であった。
(カ)埼玉支店の状況
()(原告P1の配転の必要性)ア(カ)と同じ。4
(キ)群馬支店におけるAM適任者2名の選定
()(原告P1の配転の必要性)ア(キ)と同じ。4
(ク)原告P2は、同年7月1日付けで埼玉支店法人営業部エリアAM部
門埼玉南営業担当に配転された。
埼玉支店法人営業部エリアAM部門埼玉南営業担当は、埼玉県内の各
自治体が、政府の「e−Japan構想」に基づき、ITによる便益を
十分に生かせる環境整備を進めていたこと、管轄エリアがさいたま市の
近隣に位置しており、IP・ブロードバンド系サービスの需要が大きく
なることが見込まれたこと、埼玉南営業担当のAMは1人当たり40か
ら50の顧客を担当しており、十分な訪問営業活動ができていない状況
にあったこと等から、AMの増強を必要としていた。
原告P2には、116受付業務に従事し、顧客に対し、被告会社の商
品・サービスの提案を行った経験もあることや、担当ユーザに対する訪
問活動の経験もあったことから、埼玉支店法人営業部は、原告P2をエ
リアAM部門埼玉南営業担当として配置した。
イアの認定事実を前提に原告P2の本件配転の必要性を判断する。
原告P2を含む移行対象業務に従事していた満了型選択者の新たな職務
として、群馬支店以外への配置を考慮したことがおよそ不当といい得ない
ことは、既に説示のとおりである。
そして、埼玉支店法人営業部からの人員要請を受けた本社が、群馬支店
に対し、埼玉支店におけるAM適任者を選定するよう指示したことが、労
働力の適正配置の観点から、業務上の必要性が認められるものであったこ
とも既に説示のとおりである。
、、、原告P2の適性についてみても116受付業務に従事し顧客に対し
被告会社の商品・サービスの提案を行った経験や、訪問活動を行った経験
があるという原告P2の経歴(ア(ア))に照らし、訪問販売等を通じて、
主に既存商品の提案・販売を行うエリアAM部門のAM(ア(カ))として
の適性がおよそないとも考えられないこと、これが原告P2の能力開発の
きっかけともなり得るものであったとも解されること、被告会社が、配転
に先立ち、研修を行うなど、相応の配慮を行ったこと(ア(オ))も、原告
P1と同様である。
ウこれに対し、原告らは、被告会社は、埼玉支店への配転後、長期間にわ
たって担当顧客を与えないという扱いをしており、原告P2の配転に業務
上の必要性がなかったことは明らかであると主張する。
しかし、証拠(甲193、乙462、証人P19、原告P2本人)によ
れば、原告P2には配転後約2か月間特定の顧客の担当が割り当てられな
かったものの、これはAMの育成過程において珍しいことではなかったこ
とや、平成14年9月に法人顧客6社の担当業務が割り当てられて以降、
担当が増やされ、同年11月ころ以降は29社程度の担当が割り当てられ
るようになり、単独で訪問活動等をするようにもなっていることが認めら
れるのであるから、原告P2がいわゆる窓際族のように、何の業務もなく
放置されていたのではない。原告P2は、担当顧客毎に戦略指示や業務内
容の指示がされなかったため、挨拶回り程度しかできなかったと主張する
が、仮にそのような指示がなかったとしても、原告P2には担当する顧客
が決められていたのであり、同人には、法人営業のAMとしての経験がな
かったとしても、群馬支店において担当ユーザに対する訪問活動(商品・
ネットワークサービス等に関する提案、折衝、工事日程の調整等)の経験
もあったのであるから、原告P2が、従前の経験を生かし、又は上司や同
僚の助言を仰ぐ等して業務を遂行することは十分可能であったと考えられ
るのであって、被告会社も同人にそのような期待をしていたものと解され
る。
証拠(甲199ないし203)によれば、本件配転後の原告P2の受注
状況は、個人別目標達成率でみると、1.7パーセント(平成15年2月
20日累計、1パーセント(平成16年9月末日累計、2パーセント))
(平成16年12月末日累計、3パーセント(平成17年2月末日累計)
及び同年3月18日累計)となっており、他の社員と比較して相当に低い
ことが認められ、原告P2の稼働状況が、被告会社の上記のような期待に
、、沿ったものでないことは明らかであるが前記の同人の経歴等に照らせば
これが、原告P2のAMとしての適性の欠如に起因するものとも理解でき
ない。
エ以上によれば、被告会社が原告P2を埼玉支店法人営業部エリアAM部
、。門埼玉南営業担当として配転したことには業務上の必要性が認められる
()原告P8の配転の必要性6
ア証拠(甲166、170、171、乙21、22、52、355ないし
359、364ないし368、370の1ないし3、382、383、証
人P20、同P21、原告P8本人)及び前提事実によれば、以下の事実
が認められる。
(ア)原告P8は、昭和39年4月1日、電電公社に見習社員として雇用
されて以降、約38年間、主に料金業務に従事した。
、、原告P8が従事していた料金業務は時期により多少の相違はあるが
大別して、顧客に定期又は随時に料金を請求するとともに請求する料金
を売掛金として管理する「審査業務、電話料金の支払がない顧客に支」
払の依頼をする「回収業務、顧客から電話で料金に関する問い合わせ」
があった場合に対応する「電話問い合わせ業務」であった。
原告P8は、長年料金業務に従事していたため、被告会社内で平成6
年に導入された顧客管理や料金業務等のためのシステムであるCUST
OMを日常的に操作していたほか、売掛金管理や減算不能の管理、過払
い、誤納の返還管理等に使用するシステムであるMEISTER、大口
ユーザを対象とした料金関係のシステムであるPRIMEについても使
用経験があった。
(イ)新潟支店は、全国的にみると、人口規模、事業所数とも、中規模の
市場性があるものの、平成13年当時、支店としての収支率(収入に対
する経費の割合)が115.4パーセントと全社平均の97.4パーセ
ントを大きく下回っていた(数値が高いほど収支率が悪い)ほか、社。
員1人あたりの売上高も支店平均5900万円に対し4250万円と1
7支店中13位であるなど、その経費削減や生産性向上は必須の課題で
あった。そのため、新潟支店は、本件構造改革以前から、事業構造の転
換を目的とした効率的な業務運営と人件費の大幅な削減により同支店の
生産性を向上させ収益を確保することを柱とし、平成11年度末時点に
在籍した約2000名の社員を平成12年度末に約1730名に削減
し、販売拠点も統廃合したが、新潟支店は更に人員削減をする等、経営
状態を改善すべき方策を模索していた。
そのような中、本件構造改革が実施されることとなり、業務の外注委
託や雇用形態・処遇体系の多様化等が現実化することとなったため、新
潟支店では、平成13年6月及び7月に、全社員を対象とした社員説明
会を開催し、本件構造改革の枠組み、各手当制度、配転等人員流動関連
制度等を説明した。
新潟支店は、同年10月、中間面談を実施し、各社員から、雇用形態
・処遇体系の多様化実施の際、満了型、繰延型、一時金型のいずれを選
択するかの意向を確認した。
また、新潟支店は、平成13年12月4日から同月12日にかけて、
全社員を対象に、職場毎に、上長等を通じて「NTT東日本の構造改革
に向けた取り組みについて」を配布するとともに、本件構造改革の枠組
み、新潟支店及び新会社の業務内容、新会社における労働条件等の概要
等について説明をした。
同月12日以降には、51歳以上となる社員について、各上長が個人
面談を実施し、①満了型を選択すると、被告会社に残存する業務のうち
、、法人営業業務や企画等の業務に従事することや全国転勤が前提となり
成果主義が徹底されること、②雇用形態選択通知書を提出しないなどい
ずれの雇用形態も選択する意思を示さない場合には、満了型を選択した
、。とみなされることを説明し雇用形態選択通知書が全社員に手交された
(ウ)原告P8は、団体交渉の場で個別の事情を説明しようと考えていた
ため、平成13年12月21日に実施された上長との面談の際、具体的
な個別事情の相談や要望等は行わなかった(なお、被告会社は、原告P
8が個人面談に応じなかったと主張するようでもあるが、他方で、被告
会社は、準備書面()(89頁、最終準備書面書面()(223頁)に31)
おいては、原告P8が個別面談に応じたと主張している。このような被
告会社の主張の経過に照らせば、被告会社は、原告P8が個別面談に応
じたことを前提として、その意思を明らかにしなかったと主張している
にすぎないと解される。原告P8は、雇用形態選択通知書は受領し。)
ていたが、これを提出期限とされた平成14年1月18日までに提出せ
ず、独自に作成した「雇用形態選択通知書』についての通知書」と題『
する書面を提出しようとしたが、上長は指示に反する文書であるためこ
れを受領しなかった。その後、上長は、所定様式に沿った雇用形態選択
通知書を提出するよう求めたが、原告P8はこれに応じなかったため、
被告会社は、原告P8が満了型を選択したものとみなした。
新潟支店では、51歳以上の雇用形態選択の対象となる社員は679
名在籍していたが、内605名が繰延型又は一時金型を選択し、内64
名が希望退職者募集に応じて退職し、残りの10名中6名が満了型を選
択し、4名が雇用形態選択通知書を提出せず、満了型を選択したとみな
された。
(エ)原告P8は、平成14年5月20日、上長あてに「NTT東日本の
発令に関する新潟支部の要求書」を提出し「子供2人が外国留学中で、
経済的に切迫している「義母が寝たきりで介護が必要「通信労組」、」、
首都圏ブロック交渉委員等の任務に就いている」と申し出た。また、原
告P8は、同年6月6日にも上長あてに同趣旨の文書を提出し、同月1
0日には「5歳年下の弟が癌である「子供2人に非常にお金がかか、」、
る「田圃もやっており大変」と申し出たが、被告会社はこれに応ぜ」、
ず、同月19日、法人営業本部への配転を伝えた。原告P8からは、再
度、上記と同趣旨の申し出がされたが、被告会社はこれらを配転障害事
由とは考えなかったため、同月21日、原告P8へ配転の内示をした。
これに対し、原告P8は「配転命令には異議があります、法人営、。」
業本部への配転命令は「私が「一時金型」ないし「繰延型」を選択しな
かったことに対する報復的不利益措置としか考えられません、法人。」
営業本部への配転により「異職種で遠隔地配転のために多大な職業上・
生活上の不利益を被ります」などと記載された異議申立書を新潟支店。
長あてに提出した。
、、(オ)原告P8が担当していた料金業務は新会社に外注委託されたため
原告P8については、新たに従事する職務を探す必要が生じた。被告会
社は、本件構造改革後、労働力をIP・ブロードバンドビジネスに集中
させる方針であったため、原告P8につき、IP・ブロードバンドビジ
ネスに関する業務に従事させることを企図し、同人を、平成14年4月
24日付けで、新潟支店営業部第一営業部門法人営業担当、同年5月1
、、日付けで同支店営業部法人営業担当に配転し同年6月30日までの間
同人に対する集合研修等を実施した。
被告会社が原告P8に対して実施した集合研修の内容は、AM・SE
担当の主な業務内容と法人営業部で使用しているシステムやISO90
01等についての概要、ソリューションビジネス研修、法人営業部の業
務内容、教材を使用したビジネスマナー・応対マナー研修、商品受注後
のSO投入のための指示書の処理方法、ソリューション営業のための経
営データの見方、著作権・商標に関する法知識、イントラネットの技術
入門、LANの基礎知識、見積書の作成方法、作成時の注意事項、AD
SLの概要、法人営業業務に必要な情報収集の方法等に関する座学研修
や新潟支店法人営業部における実務研修等であった。
(カ)法人営業本部は、被告会社が行う他の法人営業部門とは異なり、平
成14年時点においては、回線を50回線以上有する顧客(年商概ね5
、、00億円以上の上場企業や同1000億円以上の非上場企業中央省庁
主要団体等)を担当する部であり、担当する顧客数も、平成14年に約
1050社、平成15年に約1190社、平成16年に約1650社と
増加していた。これらの顧客は、地方圏の顧客と比べて、電子商取引、
電子決済、電子入札等の先進的な技術を要求することが多く、また、そ
の取引額も多大なため、法人営業本部は、被告会社にとって、特に重要
な組織であった。
法人営業本部は、AMの業務のうち、SO処理等の間接稼働業務を集
約し、AMに営業活動に集中させ、生産性向上(ソリューション業務へ
の専念、回線(NW)デリバリ機能の一元実施体制による効率的な業)
務運営・オーダミス撲滅による業務効率化及びサービス品質の向上等を
目的として、SOの受付・処理等を行う担当や、顧客の設備状況の調査
・コンサルティング・回線開通工事調整を一括して行う組織を新たに設
置することとし、平成14年7月1日、法人営業本部サービスマネジメ
ント部内に、新たに「ネットワークソリューションセンタ」を立ち上げ
た。
同センタに配置された社員のうち、SO推進担当は、SOアシストか
ら手配された主にアナログ回線やISDN回線、低速専用線といった商
品・サービスの新設や変更等のSO処理及び回線調査等の業務を各支店
等の関連部門と連携しながら行うこととされており、約30名の社員が
SO推進担当に充てられることとなった。
そのため、法人営業本部は、本社に対し、SO推進担当として、社内
システムを活用するなどしてSO業務等の経験を有する社員、法人営業
、、業務の知識・経験を有する社員30名の人員要請をしたところ本社は
新潟支店に対し、SO推進担当適任者1名の選定要請をした。
(キ)新潟支店における満了型選択者10名のうち、原告P8を始めとし
て5名が、新会社への移行対象業務に従事していたため、新潟支店は、
その5名の中から法人営業本部におけるSO推進担当適任者1名を選定
することとした。
5名のうち、SO業務において使用頻度が高いCUSTOM等を使用
してSO業務に従事した経験があるのは原告P8を含む4名であり、そ
の中でも、原告P8と当時59歳であった社員P22とがCUSTOM
の使用頻度が高かった。社員P22は、販売パートナ担当に所属し、家
電量販店等の販売代理店が商品の申込みを受けた後、その情報をもとに
後日顧客に対し注文内容の確認や工事等の設定を行い、CUSTOMへ
の投入ができるよう注文票の作成を行うなどしていたため、SO推進担
当に適していたが、年齢が59歳であり、配転から半年後に定年退職と
なる予定であるため、新潟支店は、同人は配転には適していないと判断
した。また、原告P8は、被告会社が業務のエキスパート育成、社員個
々人の人材育成を目的として実施していたスキル把握において、SO業
務の1つである料金回収のスキルが「SA」と最高の評価であった(評
価は「SA「A「B「C」の順に行われる。前記5名のうち、、」、」、」、
原告P8を除く社員はスキル把握が「B「C、あるいはスキル把握」、」
を拒否していた)ため、新潟支店は、原告P8が本社からの要請基準。
を満たすものと判断した。
(ク)原告P8は、同年7月1日付けで法人営業本部サービスマネジメン
ト部ネットワークソリューションセンタSO推進担当に配転された。
なお、原告P8を含めSO推進担当となった社員に対しては、同日か
、、、ら同月12日までの間業務内容説明SO推進担当に関する業務研修
ネットワーク商品説明といった研修が実施された。
イ以上のとおり、新潟支店においては、移行対象業務に従事していた満了
型選択者が5名存在していたのであるから、新潟支店は、これらの者につ
いては、新たに従事する職務を探す必要があったものである。そして、新
潟支店においては、従前から経費削減が問題となっており、余剰人員を抱
える余裕もなかった一方で首都圏の法人営業に労働力を集中させる必要が
あったことからすれば、労働力の適正配置の観点から、これらの社員につ
き、新潟支店以外への配置を視野に入れて配転先を考慮することがおよそ
不当といえるものではない。
他方で、法人営業部は、被告会社の枢要な部署であり、人員配置の必要
性も高く、AMを営業活動に集中させるべく、SO業務を集約して行う部
署を設置するため、人員が必要であったというのであるから(ア(カ)、)
人員要請を受けた本社が、新会社への移行対象業務に従事していた満了型
選択者が5名存在していた新潟支店に対し、法人営業部におけるSO推進
担当の適任者を1名選定するよう指示したことは、労働力の適正配置の観
点から、業務上の必要性が認められることは明らかである。
そして、原告P8の適性をみると、同人は、長年SO業務の一部である
料金業務に従事し、必須のシステムであるCUSTOMの使用頻度も高か
ったというのであるから、顧客の設備状況の調査・コンサルティング・回
線開通工事調整を一括して行うことを目的として設立される組織であり、
SO業務に関する知識、経験を有する社員が求められるネットワークソリ
ューションセンタのSO推進担当としての適性がおよそなかったとも解さ
。、、、、れないこのことに被告会社が原告P8に対しア(オ)の研修のほか
SO推進担当としての基礎知識に係るア(ク)のような研修も実施するな
ど、相応の配慮もしていたことも併せて考慮すれば、原告P8に対する本
件配転が、業務上の必要性もなく行われた不当な人事であったとは認め難
い。
ウ(ア)これに対し、原告らは、法人営業本部のネットワークソリューショ
ンセンタが設置されたNTTκビル1階は、配転日の平成14年7月1
日には内装工事や諸設備の新設工事のため使用できる状態ではなく、原
告P8を含む職員が実際に出社を開始した同月15日になっても、パソ
コンや事務用品がなかったのであり、また、同日以降まともな業務は与
えられず、同部署は同年9月12日に廃止方針が検討開始されたのであ
るから、同部署を設立する業務上の必要性はなかったと主張する。
確かに、証拠(甲169、170、232、235、原告P8本人)
によれば、①平成14年7月1日付けでネットワークソリューションセ
ンタに配属された社員は、同日から同月12日までは研修のため、NT
Tκビルには出勤しておらず、その間、NTTκビルでは内装工事や諸
設備の新設工事が実施されていたこと、②同センタに配置された職員の
うち管理職を除く31名中30名が満了型選択者であったこと、③配属
された社員の初勤務日である同月15日は、所長挨拶や各自のパソコン
設定等が業務として予定されていたこと、④ネットワークソリューショ
ンセンタの事務室には、初勤務日になっても必要な事務機器等が完全に
備えられていなかったこと、⑤被告会社は、同年9月12日付けで、N
TT労働組合に対する提案事項として「法人営業本部のバックヤード、
業務のOS化」を挙げており、平成15年2月には、同センタの廃止・
業務移管を正式に決定したこと、以上の各事実が認められる。
しかし、発令後、必要な研修が行われる間に(ネットワークソリュー
ションセンタが新設部署であった以上、必要と考えられる研修を発令後
に実施したとしても、何ら不自然なことではない、事務室の内装工。)
事等を進めたとしても、同部署が不要であることの証とはいえないし、
、()、、「」また証拠乙401によれば同年7月17日以降INS64
の復活案件が処理されたのを最初として、同月中には13件(1万27
73回線)の案件が処理され、9件の案件が受け付けられていると認め
られるのであるから、同センタの業務が同年7月中には開始されていた
ことも明らかである。また、同センタに配置された社員31名(管理職
を除く)中30名が満了型選択者であったとの点についても、被告会社
には、移行対象業務に従事していた満了型選択者が約300名おり(前
提事実()ウ、これらの者については早急に従事する職務を探す必要6)
があったことに照らせば、これらの者のうち、その適性が比較的高い者
を中心に、被告会社の枢要な部署である法人営業部において稼働するA
Mの業務のうち間接業務を集約することとして設立された新設部署であ
る同センタに配置したことが、労働力の適正配置の観点から不当なもの
であったとも解されない。
もっとも、被告会社が同センタの新会社への外注委託を、同センタ設
立後約2か月後に検討し始めたことは上記認定のとおりであるが、同セ
ンタの廃止・業務移管が正式に決定したのは平成15年2月のことであ
るし、同センタの業務が移管され、同センタが廃止されるまでの間、同
センタの業務を行う部署が被告会社内に必要となることは明らかである
ことからすれば、上記事実も、同センタ設立の必要性がおよそなかった
ことの根拠となり得るものではない。確かに、そのような部署に広域配
転を行ってまで人員配置を行う必要があったかについて、原告P8が疑
問を抱くことは理解できるところであるが、前記のとおり、本件構造改
革に伴い、全国各地に生じた移行対象業務に従事する満了型選択者約3
00名については、早急に配転先を探す必要があったことからすれば、
これらの者の中から同センタに配転される者が生じたとしても、そのこ
と自体やむを得ないことというほかない。
(イ)また、原告らは、原告P8は、SO業務に従事した経験はなく、C
USTOMについても操作に習熟していたとはいえないとか、原告P8
が習熟していた顧客対応はネットワークソリューションセンタのSO推
進担当として求められる技術ではなく、原告P8の人選は不合理なもの
であったとも主張する。
証拠(甲170、証人P20、原告P8本人)によれば、原告P8は
CUSTOMを日常的に使用していたものの、原告P8が使用していた
のはその機能の全てではなかったこと、原告P8にはSO業務のうち指
示書作成等のSOセンタ業務の経験はほとんどなかったこと、以上の事
実が認められる。
しかし、これらの事実は、原告P8がSO推進担当としての即戦力で
はなかったことを推認させる事情となり得るとしても、CUSTOMの
作業に従事した経験があり、広範な内容の業務であるSO業務の一部と
はいえ、SO業務である料金業務に従事した経験がある同人に、およそ
SO推進担当としての適性がなかったことを推認させるものではない。
また、配転の対象となった候補者中、原告P8より適任であったと解さ
れた社員P22については、定年退職を間近に控えており、配転には適
任ではないと判断されたというのであるから、その選定の過程にも不当
な点は認められないし、そうである以上、SO業務の一部である料金業
務について経験があり、また、日常的にCUSTOMを使用していた原
告P8を選定したことにおよそ合理性がなかったということはできな
い。
、、、(ウ)原告らは新潟県内には原告P8に適した業務を行う部署として
従前料金サービスセンタ長岡担当が行っていた業務を外注委託されたN
TTサービス新潟株式会社、NTT−MEサービス新潟株式会社が存在
すると主張するが、原告P8をこれらの会社に在籍出向させず、配転の
対象としたことが経営判断として合理的なものと解されることは、既に
説示のとおりである。
また、新潟支店の長岡営業支店には法人営業部門が存在するとしても
(甲171、これらの部門に満了型選択者を充てるか(充てるとして)
どの社員を充てるか、他の社員を充てるかは被告会社の裁量に属する)
問題であって、長岡営業支店に配置する社員として原告P8以外に適任
者が存在しないのであれば格別、本件においてそのような事情を認める
に足りる証拠もないのであるから、被告会社が原告P8を長岡営業支店
ではなく、法人営業本部のSO推進担当として配転したことが被告会社
の裁量権を逸脱した措置であったとも解されない。
エ以上によれば、被告会社が原告P8を法人営業本部ネットワークソリュ
ーションセンタSO推進担当として配転したことには、業務上の必要性が
認められる。
()原告P3の配転の必要性7
ア前提事実に証拠(甲142、乙21、22、55の1・2、235、2
36、262、289ないし291、298、570、証人P23、同P
24、原告P3本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認め
られる。
(ア)原告P3は、昭和40年4月1日、電電公社に見習社員として雇用
されて以降、約37年間、主に無線に関する業務に従事していた。
原告P3が従事していた無線に関する業務は、無線設備の故障修理や
定期試験などを行う維持管理、無線の信頼性向上を目的とした設備保守
工事の実施等各種無線に関する業務であり、原告P3は、無線の概要、
仕組み、電波伝搬、周波数帯域、電波出力等に関する知識や経験を有し
ていた。また、原告P3は、他の社員と一緒に業務を行う際には、サブ
作業主任や作業主任の立場で作業や作業指示を行うこともあった。
原告P3は、従事していた業務が平成9年にME東北に移管されたこ
とに伴い、ME東北に在籍出向したものであり、従前と同様の業務に従
事していた。
(イ)ME東北は、被告会社等からの電気通信設備等の管理業務受託及び
保守業務受託、情報通信用端末機器販売、情報通信システムの企画・開
発・販売・設計・建設・保守及びコンサルティング等の事業を営むこと
を目的とする企業であり、ほとんどの社員が被告会社からの出向者であ
った。ME東北は、固定電話収入の減少に伴い、被告会社からの受託費
が大幅に減少したため、経常利益は、平成9年度の9億4000万円を
ピークとして、平成10年度に7億4000万円、平成11年度は90
00万円、平成12年度は1億2000万円と、その経営状態は徐々に
悪化していた。
そのため、ME東北は、収入の軸足を被告会社等からの受託収入から
IP・ブロードバンドビジネスを中心とした一般市場に移行させるとと
もに、コストの抑制を図るため、各支店の廃止、従前の業務の外注委託
を実施することとした。その結果、原告P3が所属していた仙台支店ノ
ードサービス部の業務全般が新会社に外注委託されることとなった。
ME東北の社員の大部分は、被告会社からの出向社員であり、被告会
社の実施した雇用形態・処遇体系の多様化の適用対象であったため、M
E東北は、平成13年6月18日から同月22日にかけ、全社員を対象
に、社員説明会を開催し、本件構造改革の必要性、ME東北の現状が厳
しいものとなること、光・ブロードバンド市場へ人的資源等を注入して
いくこと等を説明し、同年7月10日から同月16日にかけてME東北
の構造改革の背景、必要性、施策概要等を全社員に説明した。
ME東北は、同年10月には、中間面談を実施し、各社員から、雇用
形態・処遇体系の多様化実施の際、満了型、繰延型、一時金型のいずれ
を選択するかの意向を確認した。
ME東北は、同年12月10日から同月20日にかけて、ME東北に
おける構造改革の概要、新会社の会社・業務概要、雇用形態・処遇体系
の多様化の趣旨及び概要、新会社における労働条件等について説明会を
開催した。
また、同月10日以降には、51歳以上となる社員について、各上長
が個別面談を実施し、①満了型を選択すると、被告会社に残存する業務
のうち法人営業業務や企画等の業務に従事することや、全国転勤が前提
となり、成果主義が徹底されること、②雇用形態選択通知書を提出しな
いなどいずれの雇用形態も選択する意思を示さない場合には、満了型を
選択したとみなされることを説明し、雇用形態選択通知書が全社員に手
交された。
(ウ)原告P3は、上記の社員説明会にはいずれも出席していたが、組織
として面談を拒否するよう指示されているとして、上長から退職再雇用
の説明を聞いたものの、自らの希望を述べることはなかった。原告P3
は、雇用形態選択通知書は受領していたが、これを提出期限とされた平
成14年1月18日までに提出せず、その後の上長の指示にも応じなか
ったため、被告会社は、原告P3が満了型を選択したものとみなした。
ME東北に出向していた被告会社社員のうち、51歳以上の雇用形態
選択の対象となる社員は1752名在籍していたが、内1718名が繰
延型又は一時金型を選択し、残りの34名中24名が満了型を選択し、
10名が雇用形態選択通知書を提出せず、満了型を選択したとみなされ
た。
(エ)原告P3が担当していたノードサービス部の業務全般は、新会社に
外注委託されたため、原告P3については、新たに従事する職務を探す
必要が生じた。被告会社は、本件構造改革後、労働力をIP・ブロード
バンドビジネスに集中させる方針であったため、原告P3につき、IP
・ブロードバンドビジネスに関する業務に従事させることを企図し、M
E東北は、原告P3を、平成14年5月1日付けで、経営企画部総務担
当に配転し、同年6月30日までの間、集合研修等を実施した。
被告会社及びME東北が原告P3に対して実施した集合研修の内容
は、被告会社の商品・サービスに関する知識、顧客に対する提案・折衝
の方法やインターネットやフレッツサービスを始めとしたIP・ブロー
ドバンドに関する基礎知識等に関する座学研修やME東北における実務
研修等であった。
(オ)原告P3は、平成14年6月17日、神奈川支店への配転が伝えら
れた際、上長に対し、家庭事情、組合活動を理由に配転には応じられな
いと申し出たが、被告会社はこれに応じなかった。
これに対し、原告P3は「配転命令には異議があります、神奈川、。」
支店への配転命令は「私が「一時金型」ないし「繰延型」を選択しなか
ったことに対する報復的不利益措置としか考えられません、神奈川。」
支店への配転により「異職種で遠隔地配転のために多大な職業上・生活
上の不利益を被ります」などと記載された異議申立書をME東北の代。
表取締役社長あてに提出した。
(カ)神奈川県は、平成13年当時の事業所数約31万事業所(全国4
位、人口約850万人、世帯数約350万世帯と、東京・大阪に次ぐ)
全国3位の市場性を有する地域であった。神奈川支店は、被告会社の収
入基盤確立のために大きく貢献することが期待されている支店であり、
特に近年IP・ブロードバンド市場の収益拡大に向けた取組みを積極的
に行う重要な支店とされていた。
神奈川支店の営業組織は、平成14年5月当時、法人営業部と3つの
各地域法人営業部とに分かれていた。そのうち、法人営業部は、顧客規
模が大きく、SIソリューションでは受託商品を扱う等、システムの構
築等の専門的な知識、経験が必要となる部門である。各地域法人営業部
は、各地域の自治体や企業のうち電話回線を15回線以上保有する大口
ユーザ等に対する営業活動を行う部門であるが、顧客規模、販売額は大
きくなく、AMの役割としては、窓口として顧客の通信に関わる課題や
要望を聞き、顧客に、主に既存商品を利用した提案・販売を行うことが
求められる部門であった。
神奈川西法人営業部は、総回線数15回線以上を有する企業に対し、
訪問活動を行い、顧客の通信に関わる現状・課題を聴取し、顧客の問題
点を改善するため、既存の定型化された商品を用いて情報システムを提
案する等の営業活動を行うことを業務内容としていた。
、、神奈川西法人営業部が担当する厚木地区では住宅戸数の増加に伴い
有線又は無線によるインターネット接続や無線LAN等の設備を新築マ
ンションに予め設置するマンション営業の市場が拡大傾向にあったた
、、、めこれら商品の集中的な提案やユーザカバレッジの向上を図るべく
AMの増員を必要としていた。
そのため、神奈川支店神奈川西法人営業部は、本社に対し、総回線数
15回線以上を有する大口ユーザに対してシステムやネットワーク構築
等の提案・折衝を行うAMの適任者(できれば、顧客に商品・サービス
を提案し折衝した経験を有する者、無線に関する知識・経験、電気通信
に関する資格を有する者が望ましい)の人員要請をした。。
(キ)これを受け、本社は、ME東北に対し、大口ユーザへの法人営業の
AMの適任者1名の選定要請をした。
(ク)ME東北に出向していた被告会社社員で満了型を選択し、あるいは
選択したとみなされた34名の社員のうち、原告P3を含む30名が、
新会社への移行対象業務に従事していたため、ME東北は、その30名
の中から神奈川支店におけるAM適任者1名を選定することとした。
ME東北は、上記30名中、3名は、定年退職まで間もないため、こ
れを配転候補者から外すこととした。ME東北は、残りの27名中に法
人営業等のAM経験がある者を探したが、その経験を有する者はいなか
った。そのため、ME東北は、無線に関する知識・経験の有無について
検討したところ、無線経験を10年以上有しており、かつ、直近10年
間に無線業務に従事していた社員は原告P3及び社員P25の2名であ
った。ME東北は、原告P3と社員P25のいずれも適任と考えたが、
社員P25については、同時にNTTコムウェアから要請があった配転
候補者として適任であったため、原告P3が本社からの要請基準を満た
すものと判断した。
(ケ)原告P3は、同年7月1日付けで神奈川支店神奈川西法人営業部に
配転された。
イ以上のとおり、ME東北において、満了型選択者のうち、移行対象業務
に従事していた社員については、他部署へ配置し直す必要があったもので
ある。そして、出向先で従事する職務がなくなった社員について、出向先
のME東北で配転先を探すか、出向を解除して被告会社において配転先を
探すかの問題は、会社の合理的な裁量に委ねられる問題であると解される
ところ、本件において、原告P3について、ME東北内ではなく、被告会
社において配転先を探すこととした判断が合理性を欠くものであったこと
を窺わせる事情はない。
また、神奈川支店神奈川西営業所における市場動向はア(カ)のとおりで
あり、同営業所にはAMの増員をする必要があったというのであるから、
人員要請を受けた本社が、新会社への移行対象業務に従事していた満了型
選択者が30名いたME東北に対し、神奈川支店神奈川西営業所における
AM適任者を選定するよう指示したことには、労働力の適正配置の観点か
ら、業務上の必要性が認められるものである。
ME東北において、配転候補者となった30名の中から、原告P3を選
定した経緯はア(ク)のとおりであり、最終的には、原告P3の無線に関す
る知識・経験が原告P3を選定した決定的な理由とされている。これは、
神奈川支店神奈川西営業所からの、顧客に商品・サービスを提案し折衝し
た経験を有する者、無線に関する知識・経験、電気通信に関する資格を有
する者との要請を受けてのものである。このうち、顧客に商品・サービス
を提案し折衝した経験を有するものであれば、AMの適任者であることは
容易に推測できるところであるが、無線に関する知識・経験については、
これがマンション営業の市場が拡大傾向にあるという神奈川西営業所にお
いて必須の専門的知識・経験であるとまでは考え難いところである。もっ
とも、証拠(証人P24、原告P3本人)によれば、無線に関する専門的
知識・経験をマンション営業に生かす余地もあると認められることからす
れば、無線に関する知識・経験は、AMとして、あれば足しとなる知識・
経験であることも、また否定し難いところである。その意味において、神
奈川西営業所が、本社に、無線に関する知識・経験があることを条件の1
つとして挙げたことにおよそ合理性、必要性がないとも解されない。
ME東北において、他に、顧客に商品・サービスを提案し折衝した経験
を有する者がいたにもかかわらず、あえて無線に関する知識・経験がある
者を優先して候補者としたのであれば、その選定には強い疑問が残るとこ
ろであるが、本件においては、ア(ク)のとおり、候補者中に顧客に商品・
サービスを提案し折衝した経験を有する社員はいなかったのであるから、
ME東北が次善の策として、無線に関する知識・経験の有無を基準に原告
P3を選定したことはやむを得ないことというほかない。
ウ確かに、原告P3は技術系の職員であり、それまでの経歴に照らして、
(、同人の営業職への適性が高いとも解されないことからすれば被告会社は
原告P3には、友人や知人に対して被告会社等の通信機器やネットワーク
商品を販売する全社員販売の経験があったと主張するが、そのような経験
が法人営業への適性の高さを裏付けるものとも解されない、何ら合理。)
、。的な理由もなくこれを法人営業に配置することは許されないことである
、、しかし原告P3が従前担当していた無線業務は新会社に外注委託され
その結果、出向先のME東北や被告会社には原告P3が従事すべき職務は
なくなっていたのである。そして、被告会社に残存していた業務は、主に
経営・設備・開発・サービスに関わる戦略を担う企画型業務と、大口顧客
に対して会社の商品やサービスを販売することなどを行う法人営業業務で
あったところ、原告P3の経歴に照らして、同人に企画型業務が適任であ
るとは考えられないことからすれば、原告P3について、従前とは必要と
される知識・技術が異なる営業職への配転が検討されたことも、やむを得
ないことというほかない。
そして、原告P3が配転された神奈川支店神奈川西営業所におけるAM
の職務は、各地域の自治体や企業のうち電話回線を15回線以上保有する
大口ユーザ等に対する営業活動を行う部門であり、顧客規模、販売額も大
きくなく、AMの役割としては、窓口として顧客の通信に関わる課題や要
望を聞き、顧客に、主に既存商品を利用した提案・販売を行うことを内容
、、、、とするものであり特に専門的な知識経験を要するものとも解されず
これまで営業経験がない技術系の職員にとっても、これを遂行することが
およそ不可能な職務とも解されない。このことは、証拠(乙262、30
4、原告P3本人)によれば、原告P3は、平成15年度には、他の社員
と協力してλ団地及びマンションへのBフレッツ販売業務に従事し、ポス
ティング活動や受付業務を行うなどした結果、Bフレッツにつき123契
約を獲得し、約1400万円の販売額を達成し、担当者28名中14位の
成績を上げていると認められることからも推認できるところである。
このことに、原告P3に対しても、被告会社の商品・サービスに関する
知識、顧客に対する提案・折衝の方法やインターネットやフレッツサービ
スを始めとしたIP・ブロードバンドに関して、法人営業としての基礎知
識に関する研修が行われており、相応の配慮がされていたこと(ア(エ))
も併せて考慮すれば、その配転が技術系の職員である原告P3に行われた
ものであることを考慮しても、なお、その配転は労働力の適正配置の観点
からの必要性が認められるものであったというほかない。
エ原告らは、原告P3に吃音障害があることや東北訛りがあることから、
原告P3はAMとして適任ではないと主張するが、原告P3の吃音障害や
東北訛りが顧客との意思疎通を困難とするようなものではないことは、当
法廷における同人の供述態度からも明らかであるし、同人はメールによっ
ても顧客との意思疎通を図り得ていた(乙306の1ないし3)のである
から、原告P3の吃音障害や東北訛りがAMとして不適格であることの事
情となるとは解されない。
オ以上によれば、被告会社が原告P3を神奈川支店神奈川西法人営業部A
M担当に配転したことには、業務上の必要性が認められる。
()原告P4の配転の必要性8
ア前提事実に証拠(甲175、184、乙21、22、57、386、3
88ないし391、395、402、証人P26、同P27、原告P4本
人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア)原告P4は、昭和40年4月1日、電電公社に見習社員として雇用
されて以降、約30年間、線路宅内業務に従事し、それ以降は、小規模
の法人ユーザ等に対する営業業務に従事していた。
原告P4が従事していた線路宅内業務は、電話局から電気通信サービ
ス利用ユーザの入居する家・ビル等の建物や同建物内に敷設される電話
ケーブル及び電気通信サービス利用ユーザの使用する電話機等の加入者
設備及び加入者伝送設備に関わる工事、保守、管理等の業務であった。
また、原告P4は、平成10年12月以降、旭川支店営業推進部等にお
いて、営業販売業務に従事し、小規模の法人ユーザ等に対する被告会社
の商品・ネットワークサービス等の営業販売や通信機器等商品の発注・
管理業務等といった販売担当者に対する支援業務、顧客を訪問し、被告
会社の商品やネットワークサービス等に関する提案や折衝を行い、受注
に至った場合は契約書を作成し、商品の設置等の工事を行う場合は顧客
の通信設備等の状況を現地調査して、その調整等を行う業務等に従事し
た。
(イ)北海道支店は、社員1人当たりの事業者数、固定電話加入者数が少
ないなど、市場性が低い地域を管轄する支店であり、昭和61年以降数
百億円規模の赤字を計上している支店であった。そのため、北海道支店
は、希望退職の実施等により、平成11年度末に約4700名いた社員
数を平成12年度末に約3900名に減少させ、販売業務の拠点等を大
幅に統廃合するなどし、経営状態を改善すべき方策を模索していた。
そのような中、本件構造改革が実施されることとなり、業務の外注委
託や雇用形態・処遇体系の多様化が現実化することとなったため、北海
道支店は、平成13年6月及び同年12月に、社員説明会を開き、また
上長を通じ、全社員に対し、本件構造改革の枠組み、構造改革後の北海
道支店や新会社の業務内容、新会社における労働条件等を説明した。
、、同月10日から同月28日までの間51歳以上となる社員について
各上長が個別面談を実施し、①満了型を選択すると、被告会社に残存す
る業務のうち法人営業業務や企画等の業務に従事することや、全国転勤
が前提となり、成果主義が徹底されること、②雇用形態選択通知書を提
出しないなどいずれの雇用形態も選択する意思を示さない場合には、満
了型を選択したとみなされることを説明し、雇用形態選択通知書が全社
員に手交された。
(ウ)原告P4は、上記の社員説明会にはいずれも出席した。また、原告
P4は平成13年12月19日に上長との個別面談にも応じたが雇、、「
用形態についてはまだ決めていない。決めていないというより選びよう
がないといってもよい。組合に方針を委ねている」と述べるにとどま。
った。また、原告P4は、雇用形態選択通知書は受領していたが、これ
を提出期限とされた平成14年1月18日までに提出せず、その後の上
長の指示にも応じず、同月21日付けで「構造改革に向けた業務運営「
形態等の見直し等」の実施に対する要求書」を提出し、雇用形態選択の
実施方法に異議を述べ、強制的な配転に反対するとの意見等を申し出る
のみであったため、被告会社は、原告P4が満了型を選択したものとみ
なした。
北海道支店では、51歳以上の雇用形態選択の対象となる社員は13
26名在籍していたが、内1289名が繰延型又は一時金型を選択し、
残りの37名中25名が満了型を選択し、12名が雇用形態選択通知書
を提出せず、満了型を選択したとみなされた(いずれも出向社員を除
く。。)
なお、北海道支店では、本件構造改革後に北海道支店に残る業務に従
事する配置人員を約900名と試算していたが、平成14年5月時点の
在籍者は、満了型選択者を含め約920名であった。
(エ)原告P4が担当していた小規模の法人ユーザ等に対する営業販売業
務は、新会社に外注委託されたため、原告P4については、新たに従事
する職務を探す必要が生じた。被告会社は、本件構造改革後、労働力を
IP・ブロードバンドビジネスに集中させる方針であったため、原告P
4につき、IP・ブロードバンドビジネスに関する業務に従事させるこ
とを企図し、被告会社は、原告P4を、平成14年4月24日付けで旭
川営業支店(法人営業担当)に配転し、同年6月30日までの間、集合
研修等を実施した。
被告会社が原告P4に対して実施した集合研修の内容は、被告会社の
商品・サービスに関する知識、顧客に対する提案・折衝の方法やインタ
ーネットやフレッツサービスを始めとしたIP・ブロードバンドに関す
る基礎知識等に関する座学研修や北海道支店における実務研修等であっ
た。
(オ)原告P4は、上記研修中の平成14年6月5日に実施された折り返
し面談において、旭川の勤務を希望する、広域配転だといろいろ考える
と申し出た。また、原告P4は、同月11日には「配転に関する要求、
書」を提出し、同居の娘が精神的に不安定であること、自身の健康にも
、、、腰痛があり不安があること組合活動の必要性を訴えたが被告会社は
これらを配転障害事由となり得ないと判断したため同月20日、原告P
4に東京支店への配転を内示した。
これに対し、原告P4は、同月21日に、上長へ配転に対する不満を
述べるとともに、同月24日付けで「配転命令には異議があります、。」
東京支店への配転命令は「私が「一時金型」ないし「繰延型」を選択し
なかったことに対する報復的不利益措置としか考えられません、東。」
京支店への配転により「異職種で遠隔地配転のために多大な職業上・生
活上の不利益を被ります」などと記載された異議申立書を北海道支店。
長あてに提出した。
(カ)東京は、国の重要機関が集中するといったエリア特性に加え、企業
の本社が集中し、事業者数においても全国20パーセント強を占めるな
ど、秀でた市場性を有しているため、東京支店は、被告会社にとって最
重要拠点である。
東京支店の営業組織は、平成14年4月当時、法人営業本部と5つの
、、、営業支店法人営業部があったが同年5月本件構造改革の実施に伴い
法人営業本部が第一法人営業本部に、5つの営業支店法人営業部が第二
法人営業本部となった。
(キ)このうち、第一法人営業本部は、主に東京支店エリアに存在する事
、、業所のうち各々の事業所で電話回線を15回線以上保有するユーザで
かつ、複数のエリアにまたがって事業を展開しているユーザに対するア
カウント営業(あるユーザを特定のAMが担当して一元的に営業活動を
すること)を行っており、そのうち、第1営業部門は行政・教育・医療
・福祉関連ユーザを担当していた。同部門は、実際にアカウントするユ
ーザを受け持つ営業担当AMの技術的支援を行うSE担当MIメ、、(「
ンテナンスインテグレーション」の略称であり、顧客へのシステム構築
・導入後において、被告会社がそのシステムのメンテナンス契約を顧客
と結び、システム保守・管理等を請け負うことをいう・インフラ設。)
備提案支援を行うカスタマサービス担当、部門内の事業計画策定等を行
う営業推進担当に分かれていた。
そのうち、営業担当は、AM及びサポート担当で構成されており、具
体的には、①行政・教育・医療・福祉関連ユーザに対するコンサルティ
ング活動業務、②AMのコンサルティング活動のマネジメント業務、③
AMによる商品、サービス受注後の事務処理等サポート業務を行うこと
となっていた。
(ク)被告会社は、AMの配置について、本社が配置基準を定め、事業所
の回線規模により受持ち事業所数を決めていたが、東京支店では、本社
、、配置基準では十分なコンサルティング活動ができないと判断したため
4ユーザにAM1名を配置することとしていた。第1営業部門第2公共
担当においては、平成14年3月時点で東京支店が定めた基準を満たす
AMが配置されていたが、同年4月末に自己都合退職等により6名のA
Mが転出したため、同部門は、その補充を求めていたけれども、同年5
月中に2名の補充がされたのみで、同担当は更なる人員補充を要請して
いた。ところが、同担当として理想である法人営業AMの担当者は、ど
この支店も離したがらないという事情があったため、同部門は、少しで
も早くAMを補充するために法人営業AMの従事者とは限定せず、営業
業務に従事した経験を有する者の人員要請をしたところ、本社は、北海
道支店に対し、東京支店第一法人営業本部への配転候補者として、実際
に顧客を訪問し被告会社の商品やサービスを提案・折衝するなどしてい
た経験等を有する者1名の選定を指示した。
(ケ)北海道支店で満了型選択者となった37名のうち、原告P4を含む
29名が新会社に移行することとなった業務に従事していたため(移行
対象業務従事者は当初32名であったが、このうち2名が平成14年5
月1日付けでグループ会社に出向し、1名が休職中であった、北海。)
道支店は、その29名の中から東京支店第一法人営業本部におけるAM
適任者を選定することとした。
上記29名中、営業販売業務(中小企業営業及びマス営業)に従事し
た経験を有する社員は6名であったため、その段階で、北海道支店が本
社に条件を確認したところ、固定電話に関する知識・経験を有する者が
望ましいとの回答があった。原告P4は、長年線路宅内業務に従事して
おり、電気通信設備の保守、故障修理、予防保全、設備新増設工事に従
事した経験があったため、北海道支店は、原告P4は加入者設備の構成
に関する知識を有しており、本社からの要請基準を満たしていると判断
した。
(コ)原告P4は、同年7月1日付けで、東京支店第一法人営業本部第1
営業部門営業担当第2公共担当に配転された。
イ以上のとおり、北海道支店において、満了型選択者のうち、移行対象業
務に従事していた社員については、他部署へ配置し直す必要があったもの
である。そして、北海道支店の市場性は低く、昭和61年以降大規模な赤
字を生じさせていたことや、平成14年5月時点での北海道支店の在籍者
数が事前の見込みより約20名多かったことからすれば、労働力の適正配
置の観点から、これらの社員につき、北海道支店以外の部署への配置を検
討したことには業務上の必要性が認められる。
そして、東京支店第一法人営業本部第1営業部門第2公共担当では、A
Mが退職等により欠員となっており、その補充が急務であったにもかかわ
らず、これが十分に補充されず、その理由も、本来前記担当として適任で
ある法人営業経験のあるAMはどの支店も配転させたがらないという事情
によっていたことに照らせば、同担当が次善の策として、法人営業の経験
がなくとも営業業務に従事した経験がある者の人員要請をしたことには合
理的な理由があったと解されるし、これを受けた本社が、満了型選択者で
、、、ありかつ移行対象業務従事者が29名存在していた北海道支店に対し
候補者を1名選定するよう指示したことも、合理的な判断であったと解さ
れる。
北海道支店は、営業業務従事者が上記29名中に6名いたため、他の条
件を本社に確認したところ、本社は、固定電話に関する知識・経験を有す
る者が望ましいと回答しているが、ユーザ宅・ビル内等の電話配線等の加
入者設備の構成を理解していれば、ユーザに対するコンサルティング活動
がしやすくなることは比較的容易に推認できることからすれば、これも、
人選基準として何ら不合理なものであったとは解されない。
そして、原告P4の適性についてみても、同人には小規模とはいえ法人
ユーザ等に対する営業業務に従事した経験があるばかりか、加入者設備・
、、加入者伝送設備に関わる業務にも長年従事していたのであるから同人に
行政・教育・医療・福祉関連ユーザに対するコンサルティング等を主たる
業務とする法人営業に対する適性がおよそなかったとも考えられない。
ウ(ア)これに対し、原告らは、原告P4の線路宅内の知識・経験は、第2
公共担当のAMとして役に立たないものであると主張するが、証拠(証
人P27)によれば、多くのユーザが使用しているPBX、ビジネスホ
ン、ファックス等の通信機器に関し、ユーザの配線、配管等の設備状況
を理解することは、これらの更改、導入に係る業務を円滑に行うことを
可能とすると認められるのであるから、原告P4の線路宅内での知識・
経験が、第2公共担当のAMとして全く活用し得ないものであるとは解
されない。
また、原告らは、原告P4には、1回線から2回線を利用するユーザ
の営業しか担当した経験がなく、法人営業には向いていなかったと主張
する。第2公共担当のAMとして法人営業を経験した者が最適であるこ
とは証人P27も認めているところであり、原告P4の経歴は第2公共
担当として最適であったとはいい難いものである。しかし、次善の策と
して、営業業務に従事した経験を要求した判断が合理的なものと解され
ることは前記イのとおりであるし、証拠(証人P26)によれば、顧客
の大小により顧客層や対象商品が異なるとしても、営業の本質は、顧客
のニーズを捉えて、サービスを提案するという点にあって、その点につ
いては、顧客の大小により異なるものではないと認められるのであるか
ら、営業業務に従事した経験を有する原告P4に、法人営業の適性が全
くなかったとも解されない。
証拠(乙413)によれば、原告P4に対しては、上司から「なかな
か商品知識も豊富にならない」ことが業績が上がらない原因として言及
されていると認められるように、原告P4に第2公共担当として必要と
される商品知識が不足していたことは明らかであるが、これらの知識に
ついては、日常の業務や研修等を通じ補うことが可能であると解される
ことからすれば、原告P4にこれらの商品知識が欠如していたことが、
同人の第2公共担当としての適性の欠如をあらわすものであるともいえ
ない。
(イ)原告らは、原告P4の東京支店への配転と同時に札幌支店から旭川
営業支店に社員が1人配転されていることを問題視するが、証拠(原告
P4本人)によれば、札幌支店から配転された社員は、原告P4が従事
したことがないSO業務に従事する社員であると認められるのであるか
ら、同事実は、前記判断を左右し得るものではない。
エ以上によれば、被告会社が原告P4を東京支店第一法人営業本部第1営
業部門第2公共担当に配転したことには、業務上の必要性が認められる。
()原告P5の配転の必要性9
ア前提事実に証拠(甲185、乙386、388ないし390、394、
、、、、、、)395398414415証人P26同P28原告P5本人
及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア)原告P5は、昭和41年5月1日、電電公社に見習社員として雇用
されて以降、約33年間、線路宅内業務に従事し、それ以降は、札幌支
店設備部サービス推進部等において、顧客からの電気通信サービスの利
用申込みや日常生活に支障を来す申告があった際に電柱や電話ケーブル
の新設・移設工事の関連会社への発注、工事に伴う電気電信設備の増減
管理を書類で行い、書類による電気通信設備の受渡しや設備の確認等の
業務に従事していた。
原告P5が従事していた線路宅内業務は、電話局から電気通信サービ
ス利用ユーザの入居する家・ビル等の建物や同建物内に敷設される電話
ケーブル及び電気通信サービス利用ユーザの使用する電話機等の加入者
設備及び加入者伝送設備に関わる工事、保守、管理等の業務であった。
原告P5は、これらの業務を通じて、所外設備に関する電柱や電話ケー
ブルの新設・移設工事の発注、電気通信設備の受渡しや設備の確認等と
いった業務、加入者伝送設備(所外設備)の現場業務、設計業務につい
て、知識・経験を有していた。
(イ)北海道支店における経営状況と本件構造改革
()(原告P4の配転の必要性)ア(イ)と同じ。8
(ウ)原告P5は、上記の社員説明会にはいずれも出席した。原告P5に
対しても個別面談は実施され、その際、原告P5からは、札幌で現在の
業務に従事し続けたいこと、実母に軽い痴ほう症があること等を申し出
たが、雇用形態の選択については、通信労組として統一的に回答すると
して、これを明らかにしなかった。また、原告P5は、雇用形態選択通
知書は受領していたが、これを提出期限とされた平成14年1月18日
までに提出せず、その後の上長の指示にも応じず「構造改革に向け、「
た業務運営形態等の見直し等」の実施に対する要求書」を提出し、雇用
形態選択の実施方法に異議を述べ、強制的な配転に反対するとの意見等
を申し出るのみであったため、被告会社は、原告P5が満了型を選択し
たものとみなした。
北海道支店における満了型選択者等の状況は()(原告P4の配転の8
必要性)ア(ウ)記載のとおりである。
(エ)原告P5が担当していた設備部サービス推進部の業務は、本件構造
改革により新会社に外注委託されたため、原告P5については、新たに
従事する職務を探す必要が生じた。被告会社は、本件構造改革後、労働
力をIP・ブロードバンドビジネスに集中させる方針であったため、原
告P5につき、IP・ブロードバンドビジネスに関する業務に従事させ
ることを企図し、被告会社は、原告P5を、平成14年4月24日付け
で北海道支店法人営業部企画部門に配転し、同年6月30日までの間、
集合研修等を実施した。
被告会社が原告P5に対して実施した集合研修の内容は、被告会社の
商品・サービスに関する知識、顧客に対する提案・折衝の方法やインタ
ーネットやフレッツサービスを始めとしたIP・ブロードバンドに関す
る基礎知識等に関する座学研修や北海道支店における実務研修等であっ
た。
また、原告P5の配転は同年8月1日付けとなったため、原告P5に
対しては、同年7月中、北海道専用サービスセンタにおいて、専用線に
関わる業務のOJT研修が行われた。
(オ)原告P5は、上記研修中の平成14年6月11日に「配転に関す、
る要求書」を提出し、夫婦共働きであり、躁うつ病の実母の介護が必要
であることや組合活動の必要があると訴えたが、被告会社は、これらを
配転障害事由となり得ないと判断したため、同月22日、原告P5に専
用サービスセンタへの配転となる予定である旨伝えた。
これに対し、原告P5は、同月25日付けで「配転命令には異議があ
ります、専用サービスセンタへの配転命令は「私が「一時金型」な。」
いし「繰延型」を選択しなかったことに対する報復的不利益措置としか
考えられません、専用サービスセンタへの配転により「異職種で遠。」
隔地配転のために多大な職業上・生活上の不利益を被ります」などと。
記載された異議申立書を北海道支店長あてに提出した。
(カ)専用サービスとは、顧客の指定区間を直接回線で結び、顧客が専用
して回線を使用するサービスである。専用サービスセンタは、各支社等
で実施していた専用サービスの受付・回線設計等の専用サービス業務、
総合工事発注等のエンジニアリング業務、トラヒック監視・制御等のネ
ットワーク運営業務等について業務集約による効率化を図るべく、平成
11年1月に発足した組織である。同センタの業務は、当時、支社の法
人営業本部等で実施していた専用サービスの受付・契約・SOデータ投
入等の営業関連バックヤード業務、回線設計・開通試験・故障受付等の
サービス運行管理業務、ISDNの一部大口ユーザに関わる故障受付業
務とされていた。
平成14年8月当時、専用サービスセンタは、首都圏に所在している
4つの部門(企画部門、第一ビジネスサービス部門、第二ビジネスサー
ビス部門、カスタマサービス部門)と、3つの地域専用サービスセンタ
(信越、東北、北海道各専用サービスセンタ)に分かれていた。首都圏
の4部門のうち、第一ビジネスサービス部門は、大口ユーザ25社を担
当し、これらのユーザからの専用サービスの申込み受付から工事指示書
発注までの一連の業務を行う部門であった。第一ビジネスサービス部門
のSO推進担当の業務は、①SOフロント担当、②SOコントロール担
当、③回線設計担当、④SO推進担当に分けられており、そのうちSO
推進担当は、顧客の要望する納期に専用サービスを提供し得るかどうか
を確認し、納期回答を行う回線設計担当の業務の支援業務を行うことと
されていた。具体的には、SO支援担当は、納期回答を行うために、所
管する関連部署に連絡・問い合わせを行い、所内設備や所外設備等が具
備しているかどうかを確認した上で、直ちに社内システムに設備の有無
を投入(入力)することにより、回線設計担当が行う納期回答をサポー
トしたり、回線設計担当等が開通希望日に専用サービスが提供できない
と回答した場合に、社内システム等を使用しながら、専用サービスの所
内設備・所外設備の早期構築に向けた依頼、折衝を行う役割を果たして
いた。
専用サービス部門の業務のうち、第一ビジネスサービス部門では、今
後収益の基盤となるIP・ブロードバンドビジネスの主力サービスであ
る光サービスの需要が伸張することが予想されたため、被告会社に多大
な収益をもたらす大口ユーザの囲い込みに万全を期す必要があった。ま
た、被告会社の顧客満足度は、納期回答の観点から他社に劣っていると
されていたため、第一ビジネスサービス部門では、納期回答を早めるこ
と、担当する大口ユーザを25社から50数社に増やすこと等を目標と
して、早急にSO推進担当(SO支援担当)を増員する必要があると判
断した。
、、、そのため第一ビジネスサービス部門SO推進担当は本社に対して
専用線に関する設備等の電気通信設備に関する知識・経験等を有する社
員の人員要求をしたところ、本社は、北海道支店に対し、専用サービス
センタにおける適任者2名の選定要請をした。
(キ)()(原告P4の配転の必要性)ア(ケ)記載のとおり、北海道支店8
、、では29名について新たに従事する業務を探す必要があったことから
北海道支店は、その29名の中から専用サービスセンタにおける適任者
2名を選定することとした。
北海道支店は、専用サービスセンタは、専用サービスに関わる設備運
営を行う組織であることから、直近の被告会社の設備業務における仕事
の流れを把握している社員が望ましいと判断し、直近で設備運営業務に
従事していた社員を選定したところ、原告P5を含む3名の社員が候補
となった。そのため、その段階で、北海道支店が本社に条件を確認した
ところ、電話ケーブル・電柱などの加入者伝送設備(所外設備)の設計
・工事等の業務について理解している社員が望ましいとの回答があっ
た。原告P5は、入社以来一貫して線路宅内業務に従事し、特に、加入
者伝送設備に関する設計、工事、工事の監督業務、加入者伝送設備に関
、、するサービス総合工事の発注工事の進捗管理に従事していたのに対し
1名の社員は、電話ケーブル、電柱などについての知識、経験が全くな
かったことから、北海道支店は、原告P5が本社からの要請基準を満た
していると判断した。
(ク)原告P5は、同年8月1日付けで専用サービスセンタ第一ビジネス
サービス部門SO推進担当(SO支援担当)に配転された。
イ以上を前提に原告P5の配転の必要性を判断する。
北海道支店において、満了型選択者のうち、移行対象業務に従事してい
た社員について、北海道支店以外の部署への配置を視野に入れて配転先を
検討したことがおよそ不当といえないことは既に説示のとおりである。
そして、専用サービス部門のうち、第一ビジネスサービス部門において
SO推進担当(SO支援担当)を増員する必要があると判断した理由は、
同部門が、被告会社に多大な収益をもたらす大口ユーザの窓口となる部署
であり、その囲い込みに万全を期す必要があったからであるというのであ
るから、その判断が経営上、不合理な判断であったとは解されない。
これに対し、北海道支店には、新たに従事する職務を探す必要がある満
、、、了型選択者でありかつ移行対象業務従事者が29名いたのであるから
第一ビジネスサービス部門SO推進担当からの人員要請を受けた本社が、
北海道支店に配転候補者を2名選定するよう指示したことには、労働力の
適正配置の観点から業務上の必要性が認められるものである。
原告P5の選定過程についてみると、北海道支店に対しては、専用線に
関する設備等の電気通信設備に関する知識・経験がある者との要請がさ
れ、北海道支店では、被告会社の電気通信設備に関する知識・経験を有す
る者として、特に直近に設備運営業務に従事していたという点を重視した
、。というのであるからその選定過程に不合理な点があったとも解されない
そして、候補となった3名のうち、本社は、電話ケーブル・電柱などの加
入者伝送設備(所外設備)の設計・工事等の業務について理解している社
員を優先して選定するよう指示したというのであるが、これも、配属予定
先であるSO推進担当が、回線設計担当の業務の支援業務を行うことを業
務内容とする部署であり、SO支援担当も、業務として、所内設備や所外
設備等が具備しているかどうかを確認したり、専用サービスの所内設備・
所外設備の早期構築に向けた依頼、折衝を行う役割を担っていることから
すれば、不合理な人選要請であったとも解されない。
原告P5の適性についてみても、同人には、線路宅内業務に従事する過
程で、電柱や電話ケーブルの新設・移設工事の関連会社への発注、工事に
伴う電気電信設備の増減管理を書類で行い、書類による電気通信設備の受
渡しや設備の確認等を行ったり、所外設備に関する電柱や電話ケーブルの
新設・移設工事の発注、電気通信設備の受渡しや設備の確認等を行ってい
たというのであるから、同人に、前記ア(カ)のような業務を行うSO推進
担当としての適性がおよそなかったとも考えられない。
ウこれに対し、原告らは、原告P5には専用線に関する業務に従事した経
験はなく、専用サービスセンタのSO推進担当(SO支援担当)として適
性はなかったと主張する。原告P5が、従前、専用サービスに係る業務に
従事したことがないことは事実であるが、証拠(乙426、572、証人
P26、原告P5本人)によれば、原告P5には、専用線を収容する装置
等の知識はなく「専用回路設計・開通」のスキルレベルは「C」とされ、
ている(平成14年10月現在)ものの、原告P5は、専用線でも用いら
れる所外設備の構築、所外設備関連部門との調整能力といった、SO推進
担当(SO支援担当)に必要不可欠と解される分野に関しての知識、経験
は有していたと認められるのであるから、原告P5が、専用サービスセン
タのSO推進担当(SO支援担当)としておよそ不適格であったとは考え
られないし、証拠(乙427、証人P28)によれば、原告P5には、着
任後、約5か月もの間、OJTが施され、必要な配慮も受けていると認め
られるのであるから、その配転が、北海道支店内で担当する業務がなくな
、、った原告P5にとり労働力の適正配置や労働者の能力開発といった点で
特段、不合理なものであったとも解されない。
原告らは、北海道支店内で配転候補となった29名の中には、専用線業
務に従事した経験を有する社員(P29、P30)もおり、あえて原告P
5を専用サービスセンタに配転する必要はなかったとも主張するが、証拠
(証人P26)によれば、これらの社員には直近に設備運営業務に関与し
た経験がなく、その点で専用サービスセンタのSO推進担当(SO支援担
当)として適任ではないと判断したと認められるところ、配転候補者中、
いかなる者をいかなる基準で選定するかは、会社の合理的判断に委ねられ
るべき問題であると解されること(なお、P29、P30は、北海道支店
(札幌市)から東京営業本部、函館営業支店にそれぞれ配転されている。
甲414)や、原告P5を選定した基準やその過程が特段不合理であった
とも解されないことは既に述べたとおりであるから、原告らの主張は理由
がない。
また、原告らは、専用サービスセンタは、平成14年4月の時点で外注
委託されることが決定されており、そのような部署に、原告P5を広域配
転する必要はなかったとも主張する。証拠(甲137)によれば、被告会
社は、平成14年4月「構造改革実施時における人材確保等について」、
において、専用サービスセンタについて「構造改革後も適宜検証を行い、
つつ、必要に応じリファインを行っていく」と記載していたと認められ。
るが、同文書に、専用サービスセンタの廃止について直接的に言及する部
分は認められないのであるし、仮に、被告会社が、当時、業務の外注委託
を含めた施策を検討していたとしても、これが現実化するまでの間、同セ
ンタの業務を行う必要があることは自明であり、また、その間、収益向上
等に向けた経営努力を放置すべき理由もないのであるから、上記事実も、
原告P5の配転の必要性がおよそなかったことを根拠付けるものではな
い。
エ以上によれば、被告会社が原告P5を専用サービスセンタ第一ビジネス
サービス部門SO推進担当(SO支援担当)に配転したことには、業務上
の必要性が認められる。
()原告P6の配転の必要性10
ア前提事実に証拠(甲128、134、135、141、乙21、22、
61、203ないし205、211、262、321、573、証人P3
1、同P24、原告P6本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事
実が認められる。
(ア)原告P6は、昭和42年3月13日、電電公社に見習社員として雇
用されて以降、無人中継所の設備保守、自動車電話の基地局の設計・建
設、無人局の鉄鋼塗装の設計・積算及び監督業務等に従事した後、平成
9年9月以降、山形支店及び同支店酒田営業所等において、法人営業の
業務に従事した。
原告P6が、平成9年9月以降、山形支店において従事した業務は、
法人営業(15回線以上の電話回線を保有するユーザへの営業)業務で
あり、原告P6は、行政機関を対象とした大口ユーザに対して訪問営業
を行い、システム構築の提案を始め、固定電話の割引サービスの提案・
折衝、電話の移転といった業務に関し、顧客や関連部署との折衝・調整
等を行っていた。
平成11年2月以降、原告P6が山形支店営業部ソリューション営業
部門庄内地域担当において従事した業務は、顧客に対し通信機器やネッ
トワークサービス等の提案・折衝を行う業務であり小規模な事業者中、(
小企業)や個人事業者(自営業)を主に担当し、直接訪問等による営業
活動やユーザ囲い込み営業を担当した。当時、原告P6は15回線以上
の電話回線を保有する大口ユーザ、主に3回線から14回線の電話回線
を保有する中堅ユーザのうち中規模のユーザ、2回線以下のマスユーザ
を担当しており、合計約100ユーザを担当していたが、そのうち、3
回線から14回線のユーザ及び2回線以下のユーザが約98件であっ
た。
(イ)山形県は、人口数、県民1人当たりの所得において全国で下位に属
しており、他の支店等と比べると、山形支店の市場性・生産性は低い状
態にあった。平成12年当時の山形支店の総収益は約410億円である
のに対し、総費用は約530億円であり、約120億円の収支差が生じ
ており、平成13年当時の山形支店の全収益額は全支店17店中15位
(社員1人当たりの収益額は14位)であった。山形支店は、希望退職
の実施等により、平成11年度末に約1100名いた社員数を平成13
年度末に約800名に減少させ、販売業務の拠点等を大幅に統廃合する
などしたほか、首都圏へのパワーシフトを実施するなど、その経営状態
を改善すべき方策を模索していた。
そのような中、本件構造改革が実施されることとなり、業務の外注委
託や雇用形態の多様化が現実化することとなったため、山形支店は、平
成13年6月及び同年12月に、社員説明会を開き、また上長を通じ、
全社員に対し、本件構造改革の枠組み、構造改革後の山形支店や新会社
の業務内容、新会社における労働条件等を説明した。
同年12月7日から同月21日までの間、51歳以上となる社員につ
いて、各上長が個別面談を実施し、①満了型を選択すると、被告会社に
残存する業務のうち法人営業業務や企画等の業務に従事することや、全
国転勤が前提となり、成果主義が徹底されること、②雇用形態選択通知
書を提出しないなどいずれの雇用形態も選択する意思を示さない場合に
は、満了型を選択したとみなされることを説明し、雇用形態選択通知書
が全社員に手交された。
(ウ)原告P6は、上記の社員説明会にはいずれも出席したが、面談は組
、。織として拒否するよう指示されているとして個別面談に応じなかった
原告P6は、雇用形態選択通知書は受領していたが、これを提出期限
とされた平成14年1月18日までに提出せず、その後の上長の指示に
も応じなかったため、被告会社は、原告P6が満了型を選択したものと
みなした。
山形支店では、51歳以上の雇用形態選択の対象となる社員は345
名在籍していたが、内339名が繰延型又は一時金型を選択し、残りの
、。6名が雇用形態選択通知書を提出せず満了型を選択したとみなされた
(エ)山形支店営業部ソリューション営業部門庄内地域担当の法人営業の
社員は15回線以上のユーザと3回線から14回線のユーザの双方を受
け持っていたが、15回線以上のユーザ以外の業務は新会社に外注委託
されることとなったため、山形支店は、主にいずれのユーザを担当して
いるかによって、その社員が移行対象業務に従事しているか否かを区別
することとした。原告P6は、(ア)のとおり、主に3回線から14回線
のユーザ及び2回線以下のユーザを担当していたため、山形支店は、原
。、、告P6を移行対象業務従事者と判別した被告会社は本件構造改革後
労働力をIP・ブロードバンドビジネスに集中させる方針であったた
め、原告P6につき、IP・ブロードバンドビジネスに関する業務に従
事させることを企図し、被告会社は、原告P6を、平成14年4月24
日付けで山形支店法人営業部庄内地域担当に配転し、同年6月30日ま
での間、集合研修等を実施した。
被告会社が原告P6に対して実施した集合研修の内容は、被告会社の
商品・サービスに関する知識、顧客に対する提案・折衝の方法やインタ
ーネットやフレッツサービスを始めとしたIP・ブロードバンドに関す
る基礎知識等に関する座学研修や山形支店における実務研修等であっ
た。
(オ)原告P6は、平成14年4月15日「雇用に関する『私の意向通、
知」を提出し、本件構造改革に異議があることや、広域配転には応じ』
られないこと等を申し出た。被告会社は、同年6月19日、原告P6に
対し、神奈川支店神奈川西法人営業部に配転予定であることを通知した
ところ、原告P6は、同月24日付けで「配転命令には異議がありま
す、神奈川支店への配転命令は「私が「一時金型」ないし「繰延型」。」
を選択しなかったことに対する報復的不利益措置としか考えられませ
ん、神奈川支店への配転により「異職種で遠隔地配転のために多大。」
な職業上・生活上の不利益を被ります」などと記載された異議申立書。
を山形支店長あてに提出した。
(カ)神奈川支店の状況
()(原告P3の配転の必要性)ア(カ)と同じ。7
(キ)これを受け、本社は、山形支店に対し、大口ユーザへの法人営業の
AMの適任者1名の選定要請をした。
(ク)山形支店で満了型選択者となった6名は、原告P6を含む全員が新
会社に移行することとなった業務に従事していたため、山形支店は、そ
の6名の中から神奈川支店における法人営業のAM適任者を選定するこ
ととした。
上記6名中、法人営業、中小企業営業及びマス営業をした経験がある
社員は原告P6を含めて5名いたが、原告P6は、ユーザへの提案・折
衝を行う営業経験が一番長かったこと、大口ユーザを担当する業務との
関連性が強い法人営業AMの経験もあったこと、実際に訪問活動を行っ
、。、た経験もあることから原告P6を候補者として検討した原告P6は
販売実績も前年比で伸びており、訪問活動、訪問時間も他の社員と遜色
なく行っており、法人営業業務の「スキル把握」の結果が「指導を受け
ながら独力で業務を遂行できるレベル(C)以上のレベルであると判」
定されていたことに加え、原告P6には無線中継所勤務の経験があり、
、、、無線業務の経験・知識も有していたことから山形支店は原告P6は
本社からの要請基準を満たしていると判断した。
(ケ)原告P6は、同年7月1日付けで神奈川支店神奈川西法人営業部A
M担当に配転された。
イ以上のとおり、山形支店において、満了型選択者のうち、移行対象業務
に従事していた社員6名については、他部署へ配置し直す必要があったも
のである。そして、山形支店は、従前から人員削減や業務改革に取り組ん
でおり、その経営状態も芳しくなかったことからすれば、山形支店が、こ
れらの者につき、山形支店以外への配置を視野に入れて配転先を検討する
ことがおよそ不当といい得るものではない。
また、神奈川支店神奈川西営業所がAMの増員を要請することに合理的
な理由があったことは既に説示のとおりであることからすれば、同営業所
からの人員要請を受けた本社が、山形支店に対し、同AMの人員の適任者
を選定するよう指示したことには、労働力の適正配置の観点から、業務上
の必要性が認められるものである。
なお、山形支店は、原告P6には法人営業の経験があったことや、本社
から要請があった無線に関する知識・経験があったことを踏まえ、原告P
6を選定したものであるが、その選定基準や選定過程に、特段不当な点は
見受けられない(無線に関する知識・経験が条件の1つとされたことに合
理性、必要性がなかったといえないことは既に説示のとおりである。。)
原告P6の適性についてみても、同人には、中小規模の顧客が大多数を
占めていたとはいえ、法人営業のAMとして稼働した経験があったのであ
るから、同人に、神奈川支店神奈川西営業所のAMとしての適性がおよそ
なかったといえないことは明らかである。
ウ(ア)原告らは、原告P6が配置された厚木ロケーションのAMは、平成
14年5月時点の9名から、同年7月に14名に増員されたが、平成1
、、6年4月には7名に平成17年4月には6名に減員されているように
厚木ロケーションにおける人員配置の必要性はなかったと主張するが、
原告P6の配転から約2年後に厚木ロケーションのAMの人員が減少さ
れたからといって、直ちに、配転当時に、増員の必要性がなかったとい
い得るものではない。
原告らは、平成14年7月1日付けで神奈川支店神奈川西営業所に配
転された社員全員が満了型選択者であったことを問題視するようでもあ
るが、本件構造改革により、満了型選択者となり、かつ、移行対象業務
に従事した者が被告会社内で約300名生じており(前提事実()ウ、6)
被告会社がその配置先を優先して探さなければならない状態にあり、こ
れらの社員については、概ね平成14年7月1日付けで配転が実施され
たことからすれば、神奈川支店神奈川西営業所に、平成14年7月1日
付けで配転された社員が全員満了型選択者であったことが不当な人選結
果によるものといい得るものでもない。神奈川支店神奈川西営業所に人
員増の必要がなかったのであれば格別、その増員に業務上の必要性が認
められることは既に説示のとおりである。
原告らは、神奈川支店神奈川西営業所には、近隣都県から人員の配置
が可能であったとか、原告P6を山形県内の新会社に在籍出向させるべ
きであったとも主張するが、既に説示のとおり、被告会社は約300名
の社員について配転先を探す必要があったのであるから、これらの者の
うち、法人営業に適性がある社員を優先して首都圏への配転の対象とす
ることが何ら不当とは解されないし、原告P6を新会社に在籍出向させ
なかったことに合理的な理由があることも既に説示のとおりである。
(イ)原告らは、原告P6が15回線以上の大口ユーザの担当もしていた
、、ことから同人の担当業務が移行対象業務とはいえないとも主張するが
原告P6が担当していた15回線以上のユーザは、同人の担当ユーザの
ごく一部にすぎず、その業務の大部分が新会社に外注委託される対象と
なっていたことからすれば、山形支店が原告P6を移行対象業務に従事
している社員であると判断したことは合理的である。
(ウ)原告らは、山形支店法人営業部は、原告P6の配転後、退職・再雇
用を選択し、新会社で雇用された社員5名を新会社から「逆出向」させ
ており、山形支店法人営業部は人員余剰の状態ではなかったとも主張す
る。
証拠(甲133、乙321)によれば、山形支店法人営業部には、平成
14年7月1日以降、退職・再雇用を選択し、新会社で雇用された社員
3名(他に2名が新会社で雇用されているものの、その勤務場所が山形
支店とされている)が、新会社から出向して在籍していたが、その理。
由は、いずれも、担当途中の大型案件があり、途中での離脱を避ける必
要があった、顧客から個別に案件について当該社員の担当を依頼された
といった事情によるものであったと認められるのであるから、原告ら主
張の事実は、山形支店で人員余剰の状態ではなかったことを裏付ける事
実ではない。
エ以上によれば、被告会社が原告P6を、神奈川支店神奈川西法人営業部
AM担当に配転したことには、業務上の必要性が認められる。
()原告P7の配転の必要性11
ア前提事実に証拠(甲143、乙21、22、289ないし291、29
3、296、315、565、証人P32、同P23、原告P7本人)及
び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア)原告P7は、昭和41年10月1日、電電公社に見習社員として雇
用されて以降、専用サービス部門やノードメンテナンスサービス部等に
おいて約16年間専用線の管理・保守及び故障が生じた場合の修理等の
業務に従事し、専用線の業務フォロー、専用線の伝送路構成、専用線サ
ービスの種類等に関する知識・経験を有していた。
また、原告P7は、それ以前の電報電話局勤務等の経験を通じ、交換
機やPBXの保守点検、電話の故障受付、電話加入者からの電話の問い
合わせやこれに対する対応業務も行ったことがあった。
(イ)ME東北における経営状態と本件構造改革
()(原告P3の配転の必要性)ア(イ)と同じ。7
(ウ)原告P7は、上記の社員説明会にいずれも出席したが、面談は必要
ないとして、個別面談には応じなかった。また、原告P7は、雇用形態
選択通知書は受領していたが、これを提出期限とされた平成14年1月
18日までに提出せず、その後の上長の指示にも応じなかったため、被
告会社は、原告P7が満了型を選択したものとみなした。
ME東北における満了型選択者等の状況は、()(原告P3の配転の7
必要性)ア(ウ)記載のとおりである。
(エ)原告P7が担当していたノードサービス部の業務全般は、新会社に
外注委託されたため、原告P7については、新たに従事する職務を探す
必要が生じた。被告会社は、本件構造改革後、労働力をIP・ブロード
バンドビジネスに集中させる方針であったため、原告P7につき、IP
・ブロードバンドビジネスに関する業務に従事させることを企図し、M
E東北は、原告P7を、平成14年5月1日付けで、経営企画部総務担
当に配転し、同年6月30日までの間、集合研修等を実施した。
被告会社及びME東北が原告P7に対して実施した集合研修の内容
は、被告会社の商品・サービスに関する知識、顧客に対する提案・折衝
の方法やインターネットやフレッツサービスを始めとしたIP・ブロー
ドバンドに関する基礎知識等に関する座学研修やME東北における実務
研修等であった。
(オ)原告P7は、平成14年6月19日、東京支店法人営業部への配転
が伝えられた際、上長に対し、健康状態から配慮を願いたいと申し出た
が、被告会社はこれに応じなかった。
これに対し、原告P7は「配転命令には異議があります、東京支、。」
店への配転命令は「私が「一時金型」ないし「繰延型」を選択しなかっ
たことに対する報復的不利益措置としか考えられません、東京支店。」
への配転により「異職種で遠隔地配転のために多大な職業上・生活上の
不利益を被ります」などと記載された異議申立書をME東北の代表取。
締役社長あてに提出した。
(カ)東京支店の状況
()(原告P4の配転の必要性)ア(カ)と同じ。8
(キ)このうち、第二法人営業本部は、東京支店エリアを5つに分けたエ
リア毎(千代田、港、新宿、上野、多摩)に、各々の事業所で電話回線
、、を15回線以上保有するユーザに対しアカウント営業を行っていたが
第一法人営業本部と比較するとユーザの規模も契約額も小さかった1、(
受注当たり平均数百万円単位。また、第一営業法人本部が、情報シス)
テムの受託構築を受注販売していたのに対し、第二法人営業本部では、
電話回線、専用サービス、通話料金割引サービス、PBX、ビジネスホ
ン、その他通信機器といった、被告会社の既存商品を扱うことが多く、
そのAMには、電話回線を15回線以上保有する顧客に足繁く訪問活動
し、最適な商品・サービスを提案・提供することが期待されていた。
第二法人営業本部千代田第2営業部門SE担当は、AMの提案支援・
技術支援、受注案件の構築等を行う部署であった。同担当は、第1SE
担当と、第2SE担当とに分かれていたが、第2SE担当は、AMがユ
ーザにサービスの概要の提案を行った後の段階で、個々のユーザに合わ
、、、せた詳細な提案書作成見積書作成システム設計といった技術的支援
受注案件の構築等を行うことを主な業務としていた。
東京支店第一法人営業本部では、AM1名に対しSE1名を配置する
という基準を設けていたが、平成13年当時、第二法人営業本部では、
、、AM10名に対しSE7名配置とする基準とされていたため同部では
今後のユーザカバレッジ向上の観点からSE増員を必要と考えていた。
また、同部のSEは、平成14年4月末までに12名退職となり、その
後の補充を経ても、前記基準によっても、SEが6名不足するという事
態となっていた。更に、退職したSEの中には、専用線スキル、線路・
交換保守スキル、LANスキルを有する社員がいたが、同部は専用線ス
キル、LANスキルを有する社員を補充できないままでいた。
そのため、同部は、専用線に関わる知識・経験を有する社員、音声系
商品(ビジネスホン・PBX)に関わる知識・経験を有する社員、LA
Nに関わる知識・経験を有する社員の人員要請を行い、これを受けた本
社は、ME東北に対し、東京支店第二法人営業本部千代田第2営業部門
のSEの適任者1名を選定するよう指示した。ME東北が、必要とされ
る人材を確認したところ、本社は、光サービスの提供に不可欠となる専
用線に関する知識・経験を有するSEの適任者1名を候補者として人選
することをME東北に指示した。
(ク)ME東北に出向していた被告会社社員で満了型を選択し、あるいは
選択したとみなされた34名の社員のうち、原告P7を含む30名が、
移行対象業務に従事していたため、ME東北は、その30名の中から前
記SE適任者1名を選定することとした。
ME東北は、上記30名中、3名は、定年退職まで間もないため、こ
れを配転候補者から外すこととした。残りの27名中に、専用線業務を
10年以上経験している社員は原告P7を含め3名存在した。そこで、
ME東北は、更に、本社に必要な人材を確認したところ、本社は、専用
線の業務フローや伝送路構成が分かる者が望ましいと回答した。これを
受け、検討したところ、ME東北は、上記3名中、原告P7及び社員P
33がその要件を満たすものであると判断したが、社員P33は、NT
Tコムウェアに配転されることとなったため、ME東北は、原告P7を
候補者として選定した。
(ケ)原告P7は、同年7月1日付けで東京支店第二法人営業本部千代田
第2営業部門SE担当に配転された。
イME東北において移行対象業務に従事していた満了型選択者について
は、配転先を検討する必要があったところ、その配転先をME東北内で探
すのではなく、被告会社内で配置先を探したことが特段不当と解されない
ことは既に説示のとおりである。
また、東京支店第二法人営業本部では、SEの退職等の理由により、そ
の補充が必要とされていたのであるから、同部がSE適任者の増員要求を
することは自然なことであるし、人員要請を受けた本社が、移行対象業務
に従事する満了型選択者が30名存在していたME東北に、SE適任者を
1名選定するよう指示したことには、労働力の適正配置の観点から、業務
上の必要性が認められるものである。
原告らは、本社が挙げた条件である「専用線に関する知識・経験」は、
原告P7が配転されたSE担当に必要となる知識・経験ではないとして、
その根拠として、原告P7が配転後にSE担当として従事した業務の中で
は、専用線の知識・経験とは関係がないビジネスホンの案件が多かったこ
とを挙げる。しかし、東京支店第二法人営業本部千代田第2営業部門が、
専用線に関する知識・経験がある社員を必要としたのは、従前、その知識
を有していたSE担当が退職したからというのであるから、その補充を求
めることは何ら不自然ではないし、証拠(乙293、296、297、証
人P32、原告P7本人)によれば、専用線に知識があれば、仮想的な専
用線による専用サービスであるIP−VAN等の光サービスの構成や機能
等に対する理解も早くなること、顧客が専用線から光サービスへとサービ
、、スを更改する際にもそのメリットを説明しやすいことが認められるほか
現に、原告P7も本件配転後に専用線に係る案件を担当したことがあると
認められるのであるから、本社が「専用線に関する知識・経験」を有する
社員を要求したことに理由がなかったといえるものではない。
、、、、そして原告P7は専用線業務に長く従事し専用線の業務フローや
伝送路構成が分かる社員であったというのであるから、前記のような要請
を受けたME東北が、原告P7を適任者として選定したことには業務上の
必要性が認められる。
なお、東京支店第二法人営業部が、人選の条件として、実際に補充でき
ないでいた専用線に関わる知識・経験を有する社員、音声系商品(ビジネ
スホン・PBX)に関わる知識・経験を有する社員、LANに関わる知識
・経験を有する社員であることを挙げたのに対し、本社は、ME東北に対
して、光サービスの提供に不可欠となる専用線に関する知識・経験を有す
るSEの適任者1名の選定を指示しており、東京支店第二法人営業本部の
要請とは異なる指示をしている。原告らは、このように東京支店第二法人
営業本部からの要請と、本社から被告MEに対する選定指示の内容が齟齬
していることについて、被告らの主張が後から作られた虚偽の主張である
が故に生じた齟齬であると主張するが、前記のような齟齬も、本件構造改
革により配転が必要となった移行対象業務に従事する満了型選択者全員を
いずれかの職場に配置する経過の中で生じたものにすぎないとも考えられ
るのであって、これが、被告らの主張が虚偽であるが故に生じた矛盾であ
るとはにわかに考えにくい。
ウこれに対し、原告らは、東京支店第二法人営業本部千代田第2営業部門
が即戦力となるSEを求めていながら、SE経験がない原告P7を選定し
たことには、およそ業務上の必要性が認められないと主張する。しかし、
被告会社が、約300人の社員につき配転先を探す必要があったことに照
らせば、配転先の要求と配転された人材の経歴等が完全に一致しなかった
としても、やむを得ない場合があるというほかない。原告P7について、
SEとしての適性が完全に欠如していたのであれば格別、約16年間専用
線の管理・保守及び故障が生じた場合の修理等の業務に従事し、専用線の
業務フォロー、専用線の伝送路構成、専用線サービスの種類等に関する知
識・経験のほか、電報電話局勤務等の経験を通じ、交換機やPBXの保守
点検、電話の故障受付、電話加入者からの電話の問い合わせやこれに対す
る対応業務にも従事した経験を有する原告P7に、被告会社の既存商品を
用いて個々のユーザに合わせた詳細な提案書作成、見積書作成、システム
設計といった技術的支援、受注案件の構築等を行うことを主な業務とする
SEとしての適性がなかったとも解されない(現に、証拠(証人P32)
、、「、」によれば原告P7のSEとしての業務成績は期待し要求する程度
である「C」とされていると認められる。。)
原告らは、東京支店第二法人営業本部千代田第2営業部門SE担当の年
齢構成が若かったことを問題とし、同業務には若手社員が向いているのだ
から原告P7を同SE担当として配転することには業務上の必要性は認め
られないと主張するようであるが、証拠(乙308、証人P32)によれ
ば、原告P7の配転の4か月前の平成14年3月1日時点における同部門
のSE担当の中には50歳以上の社員が35名中7名存在していたと認め
られ、このことからすれば、同部門のSE担当が若手社員のみに適した職
務であるといえないことは明らかである。また、原告P7の配転時に50
歳以上の社員が原告P7のみであったことからすれば、原告P7が職場の
雰囲気に馴染めない面があったであろうことは容易に推測できるものの、
そのことから、原告P7の配転に業務上の必要性がなかったといい得るも
のでもない(このことが原告P7に配転に伴い通常甘受すべき程度を超え
た著しい不利益を与えたといえるものでもない。。)
エ以上によれば、被告会社が原告P7を東京支店第二法人営業本部千代田
第2営業部門に配転したことには、業務上の必要性が認められる。
()原告P9の配転の必要性12
ア前提事実に証拠(甲144、146ないし151、165、乙22、2
、、、、、、、36364323325329の1・2330ないし332
証人P34、原告P9本人)及び前提事実によれば、以下の事実が認めら
れる。
(ア)原告P9は、昭和39年4月1日、電電公社に見習社員として雇用
されて以降、一貫して、電気通信設備である電話交換設備の保守等の業
務に従事していたが、平成9年10月、電話交換設備の保守等の業務が
旧NTTから被告MEに移行されたことに伴い、被告MEに出向となっ
た。
原告P9が従事していた電話交換設備の保守業務には、大別して、電
話交換設備の定期点検と故障修理があり、原告P9は、交換機等のメン
テナンスのスキルを有していた。
(イ)被告MEは、被告会社を始めとするNTTグループ会社から電気通
信設備の維持管理等の業務を受託していたが、被告会社の固定電話収入
の減少に伴い、被告MEの収益の大半を占める被告会社からの受託費も
大幅に減少し、経常利益も平成11年度の約48億円から平成12年度
に約9億円と大幅に減少した。
これを受け、被告MEは、業務運営の見直しや一般市場における事業
領域の拡大を推進するなどの施策を講じた。ところが、これら施策にか
かわらず、被告MEは平成13年度には約105億円の経常損失を計上
したため、被告MEも業務の外注委託等を内容とする本件構造改革を実
施することとなり、原告P9が従事していた電話交換設備の保守業務は
外注委託されることとなった。
被告MEの社員の大部分は、被告会社からの出向社員であり、被告会
社の実施した雇用形態・処遇体系の多様化の適用対象であったため、被
告MEは、平成13年7月から8月にかけ、また同年12月、社員説明
会を開き、また上長を通じ、本件構造改革の必要性、被告MEの経営状
態が悪化していること、被告MEにおける構造改革の概要、新会社の会
社・業務概要、雇用形態・処遇体系の多様化の趣旨及び概要、新会社に
おける労働条件等について説明した。
同月10日以降には、51歳以上となる社員について、各上長が個別
面談を実施し、①満了型を選択すると、被告会社に残存する業務のうち
、、法人営業業務や企画等の業務に従事することや全国転勤が前提となり
成果主義が徹底されること、②雇用形態選択通知書を提出しないなどい
ずれの雇用形態も選択する意思を示さない場合には、満了型を選択した
、。とみなされることを説明し雇用形態選択通知書が全社員に手交された
(ウ)原告P9は、上記の社員説明会にはいずれも出席していたが、組織
として面談を拒否するよう指示されているとして、上長から退職再雇用
の説明を聞いたものの、自らの希望を述べることはなかった。原告P9
は、雇用形態選択通知書は受領していたが、これを提出期限とされた平
成14年1月18日までに提出せず、その後の上長の指示にも応じなか
ったため、被告会社は、原告P9が満了型を選択したものとみなした。
被告MEに出向していた被告会社の社員のうち、51歳以上の雇用形
態選択の対象となる社員は7095名在籍していた(平成14年4月3
0日までに退職を申し出た278名を除く)が、内7012名が退職。
・再雇用を選択し、残りの83名中44名が満了型を選択し、39名が
雇用形態選択通知書を提出せず、満了型を選択したとみなされた。
(エ)原告P9が担当していた電話交換設備の保守業務は新会社に外注委
託されたため、原告P9については、新たに従事する職務を探す必要が
生じた。被告MEは、その再配置に際し、原告P9を始めとする出向社
員については、被告ME内で活用を検討する方針を決定した。
被告MEは、被告会社からの受託収入の減少は解消しない見込みであ
り、一般市場への事業転換の加速が急務となっていたため、満了型選択
者のうち、新会社への移行対象業務に従事していた社員について、基本
的に、一般市場の事業分野を担当する組織を再配置予定先とし、事前研
修及び集合研修を実施した上で、職場OJT等を通じて各社員の適性に
合った配置先を決定する方針を立てた。原告P9は、この方針に沿い、
平成14年4月24日付けで、被告ME東京西東京支店第3JunKa
nビジネス部に配転され、以後、同年6月30日まで、研修を受けた。
被告MEが原告P9に対して実施した事前研修及び集合研修の内容
は、Web学習によるITレベルの自己スキル把握、社内推奨資格取得
のための研修、配置が予定されている部署で扱うサービス等の概要、L
AN・WANの基礎技術の研修であった。
これらの研修の際、各社員には、配属先となり得る組織の研修を本人
に選択させるべく「OJT先希望調書」を提出することを指示したが、
原告P9はこれを提出しなかった。
そのため、被告MEは、後に新設される予定であったメンテナンスビ
ジネス推進部で担当する予定業務の業務シミュレーションを原告P9に
行わせることとした。
(オ)原告P9は、平成14年4月24日付けで、被告ME西東京支店第
3JunKan部IT営業本部第1ソリューション営業担当への配転を
命ぜられたが、同日付けで「異職種配転の本人の同意を求める申し入、
れ(支店長宛」を提出し、満了型選択者とされることに異議があるこ)
と、東京以外の広域配転は認められないこと、異職種配転は不当労働行
為であり認められないことなどを申し入れ、同月30日付けで「不当、
な配転に対する抗議の申し入れ(支店長宛」を提出し、通信労組役員)
として訓練及び研修には参加できないと申し入れた。
原告P9の研修への参加状況は、同人が組合休暇や年次休暇を頻繁に
取得していたため、事件研修15日中出勤6回(内半日出勤5回、就)
業研修8日中出勤5回(いずれも半日出勤、OJT研修43日中出勤)
21回(内半日出勤20回)というものであった。
(カ)被告MEは、平成14年5月当時、一般市場向けの事業として13
の組織を有していたが、メンテナンス推進部は、被告MEが一般市場向
けの新規事業を展開すべく同年7月1日付けで新設された組織であり、
その業務内容はOA器機メンテナンスサービス、総合ビルメンテナンス
サービス「M3」サービス(一般市場向けの、被告らの通信機器の定、
額保守サービス)拡大の実現に向けたメンテナンス商品の企画・開発と
なることが予定されていた。
被告MEは、構造改革後の一般市場の事業拡大予測を勘案して、満了
型選択者83名中、移行対象業務に従事していた社員58名(退職者、
)、病気休職者を除くをメンテナンス推進部を含めた14の組織の中から
「料金センタ(企画本部「ソリューションSE/SI(法人営業」)、」
本部「WAKWAK(Xephionビジネス本部「M3(メ)、」)、」
)、「」()、ンテナンス推進部XephionXephionビジネス本部
「インターネットマンション(サービスイノベーション本部)に配置」
することとした。
このうち「M3」は、メンテナンスビジネス商品を具体化するため、
に立ち上げる新組織の要員であるため、被告MEは、故障修理等のメン
テナンス、SO、ユーザとの折衝に関する知識・経験を有する社員を充
てることが望ましいと判断した。
(キ)被告MEは、原告P9が、研修の際の希望も述べず「M3」の研、
修にも異議を述べていなかったことや、原告P9には電話交換設備に関
する保守・設備管理の業務に長く従事しており、これらの知識・技術を
有することなどから、原告P9をメンテナンスビジネス推進グループへ
配置することを決定した。
(ク)原告P9は、同年8月1日付けで、被告MEJunKanビジネス
本部21メンテナンス推進グループに配転された。
イ以上のとおり、被告MEにおいて、満了型選択者のうち、移行対象業務
に従事していた社員については、他部署へ配置し直す必要があったもので
ある。そして、これらの社員については、出向元の被告会社で配置先を検
、、討するのではなく被告ME内で配置先を決定するとされたものであるが
出向先で従事する職務がなくなった社員について、出向先の被告MEで再
配置先を探すか、出向を解除して被告会社において再配置先を探すかの決
定権は、被告会社の合理的な裁量に委ねられる問題であると解されるとこ
ろ、本件において、原告P9について、被告会社内ではなく、被告MEに
おいて配置先を探すこととした判断が合理性を欠くものであったことを窺
わせる事情はない。
被告MEは、被告会社からの受託収入が減少傾向にあったため、一般市
場への事業転換を図るべく、一般市場向けの組織を強化することとしたと
、、いうのであるから新たに職務を与える必要があった満了型選択者につき
これらの組織のうち、研修や本人の希望等を通じて適正な配置先を探そう
とした判断やその手法も、経営判断として合理的なものである。
、、、これに対し原告P9は構造改革に反対するとの意見を述べるのみで
研修希望や配置先の希望も述べず、組合休暇や有給休暇取得のためとはい
え、研修へもほとんど参加せず、その従事する研修の内容にも特段異議を
述べていなかったのであるから、被告MEが「M3」の研修に参加して、
おり、被告らの通信機器の保守サービスを行う「M3」サービスの業務内
容に関連がある電話交換設備の保守業務への従事経験がある原告P9をメ
ンテナンス推進グループに配置したことには十分な合理性が認められる。
ウこれに対し、原告らは、メンテナンス推進グループには管理職を除く4
5名全員が満了型選択者であったことや、配転当時に仕事の手順も確立さ
れていなかったことを挙げ、同グループは設立の必要性がない組織であっ
たと主張する。
そして、証拠(甲12、153、原告P9本人)によれば、メンテナン
スビジネス推進グループの管理職を除く職員は、いずれも満了型選択者で
あったこと、被告MEが「M3」コースの研修の際に用いた資料には「新
たに設置された組織のため、仕事の手順等が確立していません」と記載。
されていたことが認められるものの、同グループの配属者が満了型選択者
で占められることは、前記認定の満了型選択者の配置の経緯に照らし、特
段不自然なことではないし、同グループの設立前の時点において、仕事の
手順等が確立されていないことが、同グループの設立の必要性を否定し得
る事情とも解されない。現に、証拠(証人P34)によれば、同グループ
は、平成14年9月から平成15年7月までの間に約9000件の市場調
査を実施し、Bフレッツ、簡易IMCSといった商品の販売実績もあった
と認められ、同グループは設立後、間もなく業務を開始しているのである
、。から同グループが設立の必要もない部署であったということはできない
証拠(証人P34)及び弁論の全趣旨によれば、同部の事業収支は極めて
悪く、立ち上げから約1年後に同部は廃止されたと認められるけれども、
新規事業の立ち上げに伴い必然的に収益が上がるとも解されないことや、
当初の見通しに反し、その収益状態が改善しなかった場合に、これを速や
かに廃止すると決定することは、経営判断として何ら不合理なことでもな
い。
原告らは「メンテ事業』の立上げに向けて」と題する平成15年4、『
月22日付け文書甲154中に同グループ内では新規事業の立()、、「『
上げ』は、どういうイメージで考えたらよいのか?」といった議論がされ
ており、その段階でも業務の具体的手順等が確立されていなかったかの記
載が多くあることを根拠に、同グループの業務内容は、その立上げ後9か
月が経過しても確立されていなかったと主張するが、同文書の作成者につ
いては、原告P9自身「μの推進本部の企画部「企画担当「企画本、」、」、
部」とその供述内容を変えているばかりか、証拠(乙551、原告P9本
人)によれば、前記書面には、その作成時点で「ME−S「ME営業」、
企画本部」との被告ME内には存在しない部署名が使用されていると認め
られることからすれば、上記文書の信用性は著しく低い。
エ以上によれば、被告会社が原告P9をJunKanビジネス本部21メ
ンテナンス推進グループに配転したことには、業務上の必要性が認められ
る。
()本件各配転の必要性(まとめ)13
以上のとおり、本件各配転には、いずれも業務上の必要性が認められる。
原告らの中には、原告P3のように、従前の職務とは必要とされる知識・
経験が異なる職務に従事することとなった者もいるし、従前の職務とは異な
る知識、経験が要求される部署に配転されたため、その能力を十分に生かし
ているといい難い原告もいるのであって、本件各配転が、余人をもって替え
。、、難い配転であったといえないことは明らかであるしかし本件構造改革は
被告会社にとって重要な施策であり、これを実施する必要性も高かったと認
められ、原告らの担当する職務が外注委託されたのも本件構造改革に伴うも
のであったことからすれば、原告らはそれまで従事していた職務が外注委託
により被告らになくなった以上、他の職務に就くほかなく、原告らが必ずし
もその適性が高いとまではいえない職場に配置されたとしてもやむを得な
い。前記認定のとおり、被告会社は、原告らの配転に際してはその適性につ
き必要と考えられる検討をしていること、その配転先がおよそ適性がない職
場であったとは認められないことも併せると、本件各配転についての業務上
の必要性を否定することはできない。
()不当な動機・目的について14
配転に業務上の必要性が存する場合でも、配転命令が他の不当な動機・目
的をもって行われたものであるときは、配転命令権の濫用であり、その配転
は無効である。
そこで、以下、本件各配転が、不当な動機・目的で行われたものでないか
どうかを検討する。
、、、ア前記のとおり本件構造改革には合理性必要性が認められるけれども
他方において、その中核である雇用形態の選択制度は、51歳以上の社員
を退職・再雇用による賃金減額に誘導する面を有するというべきである。
したがって、本件各配転は、各原告の個別的な事情をも考慮した上で各配
転の必要性が肯定されるとしても、原告らが雇用形態選択により退職・再
雇用を選択しなかった結果として実行されたという面を否定できない。そ
うすると、仮に、このような雇用形態の選択制度の内容・手法が不当であ
ると評価されるのであれば、退職・再雇用を選択しなかったことによって
実行されたということもできる本件各配転は、その目的において、不当と
みるべき余地がある。
そこで、本件構造改革による雇用形態の選択制度が、その内容、手法に
おいて、不当かどうかを検討する。
まず、雇用形態の選択において、退職・再雇用(繰延型、一時金型)を
選択せず、満了型を選択した場合、賃金は下がらないけれども、勤務場所
や職種が変わる可能性が生じる。とくに、原告らのような移行対象業務従
事者の場合には、職種は必然的に変更され、勤務場所も変更される可能性
が大きい。また、成果主義による職務遂行が求められることにもなる(前
提事実()ア。しかしながら、前記のとおり、被告らにおいては実態と3)
して勤務場所が長期間変更されなかったなどの事情があり、満了型を選択
、、した場合には事実上の不利益となることは否定できないものの制度上は
職種や勤務場所が本人の同意がない限り変更されないことになっていたわ
けではないから、この不利益はあくまでも事実上のものにとどまる。制度
上は、本件構造改革が行われる前と変化はなく、本件構造改革による勤務
形態の選択が行われなかったとしても、勤務場所や職種の変更可能性がな
かったとはいえない(この点で、原告らのように雇用形態選択通知書を提
出しなかった者が、満了型を選択したものとみなされたことについては、
違法・不当はない。成果主義による職務遂行が求められる点も、運用。)
上の変化であり、制度上の不利益ではない。
次に、退職・再雇用を選択した場合には、賃金が15パーセントから3
0パーセント減額されるという不利益が生じる。ただ、新会社における賃
金は、各都道県ごとに、類似業種の賃金水準を考慮し、被告会社における
賃金水準との比較も行って決定したものであり、被告会社の賃金に比較す
ると減額となるが、それぞれの地域の類似業種の賃金水準を超えるものと
なっている(乙153、証人P10。これに対して、勤務場所は、制度)
上限定され、各社員がこれまで勤務していた場所での勤務を退職時まで確
実に継続できることになる。このほか、繰延型を選択した場合には、65
歳まで契約社員として勤務を続けることができ、新会社から受け取る生涯
。、、賃金は満了型を選択した場合より多くなるさらに激変緩和措置として
繰延型を選択した場合には、被告会社の所定内賃金と新会社における所定
内賃金との差額の60パーセントを61歳以降の契約社員期間における賃
金加算分として受け取ることができ、一時金型を選択した場合には、同差
額の50パーセントを一時金として受け取ることができることになってい
(()、、る証拠乙153によれば仮に原告らが繰延型を選択したとすれば
満了型を選択した場合と比して生涯賃金が約300万円から約580万円
増加すると認められる(乙20、22。。))
雇用形態選択を実施した経過をみると、確かに、本件構造改革による雇
用形態の選択制度は、退職・再雇用に誘導する面を有するものであり、現
に多数の社員が繰延型又は一時金型を選択しているけれども、これは、繰
延型、一時金型と満了型の内容の差違から、退職・再雇用を選択する社員
が多くなるにすぎないものである。いかなる雇用形態・処遇形態を選択す
るかは、個々の社員の自由意思に委ねられているのであって、被告らが雇
用形態選択の対象となる社員に対して、繰延型又は一時金型の選択を強制
した事実は認められない。原告らは、被告らが個別面談において、満了型
選択の不利益を強調して社員に伝えるマニュアルを作成していたとも主張
する。しかし、本件でその対応が問題とされるべき原告らの多くが個別面
談に応じていない点は措くとしても、証拠(甲31)によれば、被告会社
が作成した「個別面談時における社員対応例」中には、移行対象業務従事
者が満了型を希望した場合には「現在の業務に従事することはできなく、
なります。具体的にはNTT東日本の企画戦略、顧客サービス管理、設備
構築、法人営業等の業務に従事することになり、引き続きNTT東日本の
就業規則により、勤務地を問わず全国の事業所やグループ会社等において
徹底した成果主義に基づいて業務遂行していただく」ことを説明すること
を定めているものの、前記書面中には、同時に、繰延型を希望する社員に
対しては賃金が減額となるといった不利益があることや、繰延型を希望す
る社員が非移行対象業務に従事する社員である場合には、従前の業務に従
事できなくなるといった不利益があることをそれぞれ説明することが定め
られ、社員にはこれらの不利益を勘案した上でいずれの型を選択するか最
終的な決断をするよう助言することを定めたものにすぎないと認められる
のであるから、被告らが、個別面談において移行対象業務に従事する社員
に繰延型を選択するよう強制する意図を有していたとも認め難い。現に、
原告らは、被告会社が、同マニュアルを使用して、繰延型を選択するよう
執拗に社員に迫ったと主張するのみで、その主張を認めるに足りる適格な
証拠も提出されていない。
以上のとおり、本件構造改革による雇用形態の選択において、満了型を
選択した場合の不利益は、これまで事実上勤務場所や職種に変更がなかっ
たものが変更の可能性が生じるというものであり制度的には変わりがな
く、他方、繰延型又は一時金型を選択した場合には、賃金は下がるけれど
も、勤務場所の限定や定年後の勤務継続が確保されるという有利な面があ
り、賃金の減額についても、減額された賃金も各地域の類似業種の賃金よ
りは高く、激変緩和措置もあるから、不利益が大きすぎるとまではいえな
い。雇用形態の選択は、あくまで社員の自由意思によるものである。そし
て、本件構造改革には、合理性、必要性が認められ、その必要も大きかっ
たと認められることは前記のとおりであり、このほか、本件構造改革につ
いては、被告らの社員の圧倒的多数が組織するNTT労働組合(組織率9
9パーセント以上である)が了承していること(甲56、61)も併せ。
て考えると、本件構造改革による雇用形態の選択制度は、その内容や手法
が不当であるとは認められない。
そうだとすると、本件各配転が本件構造改革に基づく業務の外注委託と
雇用選択制度を前提としているからといって、その目的・動機において、
不当であるとはいえない。
なお、この点に関連して、原告らは、被告らには、繰延型又は一時金型
を選択し安い賃金で再雇用された多くの社員に対する関係で、満了型選択
者に対しては広域配転という不利益を与える必要があり、本件各配転はそ
のために行われたものであったとして、これを不当な目的・動機であると
主張する。しかし、上記のとおり、本件構造改革による雇用形態選択制度
は退職・再雇用へ誘導するという面があるものの、その内容、手法は不当
ではないと認められるから、本件各配転が、繰延型又は一時金型を選択し
なかった結果として行われたという面があることは事実であっても、これ
をもって不当な目的・動機ということはできない。本件各配転が、およそ
配転の必要性がないにもかかわらず、退職・再雇用を選択しなかっただけ
の理由で行われたとすれば、不当な動機・目的があったことにもなりうる
が、新会社への移行対象業務に従事していた満了型選択者を今後需要が見
込まれる首都圏の法人営業を中心とした部署に配置することが経営上必要
であったと認められ、原告らの個別事情をみても配転の必要性はあったと
認められるのであるから、本件各配転が、満了型選択者に対する不利益付
与の目的で行われた不当な動機・目的のもとに行われたものとは認められ
ない。
イ原告らは、本件構造改革は、51歳以上の社員について、被告会社を退
職させた上で、賃金を大幅に切り下げて新会社で再雇用することを目的と
したものであって、就業規則の不利益変更や整理解雇の制限に関する法理
の潜脱を目的に行われたものであると主張する。
しかし、原告らは、繰延型又は一時金型を選択せず、満了型を選択した
とみなされたのであるから、繰延型又は一時金型を選択し退職・再雇用と
なった場合の不当性、違法性は、直接的には、本件各配転の無効とは結び
つかない(本件構造改革の内容、手法が不当かどうかは、本件各配転の動
機・目的の不当性に関連するけれども、本件構造改革による雇用選択制度
に不当性がないことは、前記のとおりである。。)
上記の点を措くとしても、まず、前記のとおり、いかなる雇用形態・処
遇体系を選択するかは、個々の社員の自由意思に委ねられ、繰延型又は一
時金型を選択しないことも可能であって、当然に退職・再雇用により賃金
。、が減額されることになるのではない雇用選択制度の運用の実態をみても
繰延型又は一時金型を強制した事実が認められないことは前記のとおりで
ある。したがって、個々の社員の同意の有無に関わりなく変更された就業
規則が適用されるかどうかが問題となる就業規則の不利益変更の法理が適
用される場合とは異なる。また、繰延型又は一時金型を選択した場合の労
働条件の内容は前記のとおりであって、合理性があると認められるのであ
るから、この点でも、就業規則の不利益変更の法理の潜脱とはいえない。
、、、なお原告らのように雇用形態・処遇体系の選択をしなかったならば
労働条件の変更はないのであるから、就業規則の不利益変更と同視できる
場合となる余地はない。新会社への移行対象業務に従事している満了型選
択者にとっては、本件構造改革の実施は、広域配転の可能性を高める結果
となった(約300名のうち約130名が首都圏に広域配転された)と。
いう点をみれば、就業規則のうち配転に関する条項がこれらの者に不利益
に適用される可能性が従前より高まったとはいい得るけれども、これも就
業規則の運用に関する可能性の問題であり、就業規則の不利益変更の問題
。、、ではない満了型選択者にはそれまでとは異なる職務が与えられた上で
成果主義が問われることとなる(前提事実()ア)という点についても、3
労働条件を不利益に変更したことと同視し得る性質のものではない。
整理解雇の法理の潜脱という点については、前記のとおり、退職・再雇
用を選択するかどうかは自由意思によるものであるうえ、そもそも、雇用
形態選択により退職・再雇用を選択した場合には、再雇用されることが確
保されているのだから、労働者としての地位を完全に失う整理解雇とは全
く状況が異なり、整理解雇の法理の潜脱を考える余地はない。なお、原告
らは、本件構造改革は、実質定年50歳制を企図するものであるとも主張
するが、前記のとおりいかなる雇用形態・処遇体系を選択するかは社員の
自由意思に委ねられているうえ、上記のとおり、繰延型又は一時金型を選
択しても、再雇用されることが確保されている以上、これが実質定年50
歳制と同視し得る制度であるともいえない。
ウ原告らは、本件各配転は、満了型選択者を中心に候補者を選択して行わ
れ、51歳以上の者に対する年齢差別、満了型選択者に対する不利益付与
を目的として行われたものであり、その動機・目的は公序良俗に反するも
のであったと主張する。
しかし、雇用形態の選択は、51歳以上の社員に繰延型、満了型、一時
金型を選択させるものであるとしても(50歳以下の社員も選択可能とさ
れていたこと(前提事実())や、どの社員もいずれ50歳になることは3
措く、その選択をいずれかにするよう強制するものではないことは前。)
記のとおりであるし、また、退職後の生活設計等について現実的に考慮し
始める年代として51歳となる社員に対し、被告会社における雇用形態や
処遇体系を任意に選択させることが、ことさらに年齢差別を行うものとし
、、。、て公の秩序や善良の風俗に反する施策であるとも考え難い被告らが
首都圏への法人営業強化のための人員の候補者を、新会社への移行対象業
、、務に従事する満了型選択者から多数選定したことは事実であるがこれも
本件構造改革によりこれらの者には従事すべき職務がなくなったことを契
機とするものであって、被告会社には、これらの者を配転候補者とするに
つき、業務上の必要性があったことからすれば、これが年齢差別や不利益
付与といった不当な動機・目的のために行われたものであるとは認めがた
い。
エ原告らは、本件各配転は、通信労組に所属しているが故に行われた不利
益取扱いであるとも主張する。
しかし、雇用形態・処遇体系の多様化は、所属組合のいかんをもって実
施されたものではないし、証拠(乙118)によれば、移行対象業務に従
事していた満了型選択者約300名中、NTT労働組合組合員が約160
名、通信労組組合員が約140名であり、首都圏に配置された社員数はN
TT労働組合組合員が約90名、通信労組組合員が約40名と認められる
のであるから、これが通信労組組合員に対する不利益取扱いであるといえ
ないことは明らかである。
オ以上によれば、本件各配転が、不当な動機・目的で行われたものである
とは認められない。
()原告らに対する不利益について15
原告P1、同P2、同P9を除く原告らは、いずれも、配転により単身赴
任を強いられており(原告P4は、後記のとおり、長女と同居後、長女自身
の選択により単身赴任となっている、原告P1、同P2及び同P9も、。)
長時間の遠距離通勤を強いられているものである。
どのような場合が配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度の不利益といえ
るかは、労働者の具体的な不利益の内容、程度、その不利益を軽減するため
に使用者側が採った措置に加え、労働者の不利益と配転についての業務上の
必要性との関係で定まるものと解されるが、単身赴任や遠距離通勤が、労働
者の家族関係に与える影響は少なくなく、特に単身赴任は、家族との共同生
活を維持し得なくさせるものであり、労働者に与える不利益の程度も大きい
、、ことからすれば使用者が労働者に単身赴任を伴う広域配転を命じる際には
慎重に検討を要することが求められることはいうまでもなく、業務上の必要
性についても、近隣地区への配転を行う際よりは高度のものが要求されて然
るべきであると解される。また、単身赴任が前記のような不利益を伴うこと
からすれば、そのような配転を行う企業の実情に応じ、可能な限り、単身赴
任の負担を軽減する措置が採られることが望ましいこともいうまでもない。
これを本件各配転についてみると、本件各配転が、余人をもって替え難い
配転ではなかったことは既に説示のとおりであるが、本件構造改革に基づく
一連の施策が被告会社の経営上、重要な施策と位置づけられ、これを実施す
る業務上の必要性も高かったと認められることや、既に従事する職務が外注
委託されていた満了型選択者すべてを、人員配置の余裕が少ない地方圏で再
配転することが、首都圏におけるIT・ブロードバンドビジネスの強化を図
ろうとしていた被告会社にとって現実的な選択肢であったとも解されないこ
とからすれば、これらの者の多くを首都圏に配転する必要性は高かったとい
うほかない。
また、被告会社は、単身赴任者に対する負担軽減策として、単身赴任手当
の支給(1か月3万円)や帰省費用の実費支給(6か月に7回分を限度とす
る)をしているほか、単身寮を確保している(乙46、弁論の全趣旨。。)
遠距離通勤者に対しては、条件を満たせば、新幹線等の利用料金を支給して
いる。
もっとも、以上の事情を前提としても、原告らに配転に応じ難い具体的事
情があるなど、配転による不利益が具体的な内容及び程度において著しいも
のであれば、そのような事情を有する者に対してされた配転命令は、配転命
令権を濫用したものとして無効とされることもありうる。そこで、以下、各
原告ごとの個別事情を検討し、本件各配転が通常労働者が甘受すべき程度を
著しく超えた不利益であったかどうかを検討する。
ア原告P1について
原告P1は、本件配転により、①片道約2時間の遠距離通勤を強いられ
ており、肉体的、精神的に多大な負担を強いられていること、②当時、高
校三年生であった二女や中学校一年生であった二男とのふれあいの時間が
奪われたこと、③当時、82歳であった実母の買い出しの手伝いに支障が
生じたこと、④夫との家事の分担を十分に行えなくなったこと、⑤従前、
培った料金業務の知識・経験を生かせない職場に配転されたこと、以上の
不利益を被っているところ、これらの不利益は、労働者にとり、通常甘受
すべき程度を著しく超える不利益であると主張する。
しかし、片道2時間の通勤は、これが肉体的、精神的に負担となるもの
であることは容易に理解することができるけれども、首都圏に勤務する会
社員にとって、これが希有な事象であるとも解されず、現に、被告会社に
おいても、片道2時間通勤をしている社員は少なくないと認められる(弁
論の全趣旨。また、原告P1が主張する家族とのふれあいについても、)
その二女や二男は、本件配転時に18歳、12歳と思春期にあったものの
(前提事実()ア(ア)、未成熟の児童とは異なり、その監護養育に手間7)
がかかる年代ではない。実母の買い出しの手伝いについても、原告P1の
主張によっても、2週間に1回程度買い出しを手伝うというものにすぎな
いことからすれば、本件配転が、その手伝いを困難にさせるものとは認め
られないし、家事が夫に集中したとの点についてみても、原告P1は、午
後7時50分ころには帰宅できていたというのであるから(甲189、原
告P1本人、本件配転により、原告P1が子の監護養育も含めた家事を)
分担することがおよそ不可能になったとも認められない。原告P1の帰宅
時間からみて、本件配転により集中したという、夫への家事の負担の程度
が、夫婦共働きの世帯において見受けられる負担の程度を大幅に超えたも
のであるとは解し難い。証拠(甲191の1ないし3)によれば、原告P
1は、インターネット上の「メンタルヘルス問診」の結果「精神的スト、
レス反応・身体的ストレス反応・疲労・抑うつ・仕事のストレッサー」の
すべてにおいて「産業医・保健師・看護師や専門家に相談してみてくださ
い」とされたと認められるが、上記判定も、専門医による問診の結果得ら
れたものではなく、その信用性自体に疑問が残るばかりか(そのような精
神状態が本件配転に起因するものと認めるに足りる証拠もない、その。)
判定も「専門家に相談してみてください」とするものにすぎず、原告P、
1が本件配転により精神的に過度の負担を強いられていることを立証し得
るものでもない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P1
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであった
といわざるを得ないし、原告P1がおよそ従前の知識・経験を生かし得な
い職場に配転されたとか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこ
ともできないことは既に説示のとおりである。
以上の事情に照らせば、本件配転により原告P1に生じたという各種の
不利益が、配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認めら
れない。
イ原告P2について
原告P2は、本件配転により、①片道約2時間の遠距離通勤を強いられ
ており、肉体的、精神的な負担が多大であること、②特にC型肝炎のキャ
リアである原告P2にとって、遠距離通勤が負担となること、③家族の団
らんが奪われ、二男が高校を中退するに至ったこと、④従前培った116
業務等における知識・経験が生かされない職場に配転されたこと、以上の
不利益を被っているところ、これらの不利益は、労働者にとり、通常甘受
すべき程度を著しく超える不利益であると主張する。
しかし、①が労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはい
えないことは前記のとおりであって、そのことに伴い、原告P2の朝食や
夕食が外食や弁当等となることが多くなったとしても(原告P2本人、)
これがおよそ労働者に甘受させるべきではない不利益であるとも解されな
い。原告P2は、家族との団らんの時間が減ったと主張するが、原告P2
は、朝6時50分に家を出て、午後7時40分ころには帰宅していたとい
うのであるし(甲193、同居の子も、本件配転時に長女22歳、長男)
20歳、二男16歳といずれも未成熟の児童ではないのであるから(前提
事実()イ(ア)、長距離通勤を強いられるようになったことが、ことさ7)
らに家族の団らんを奪うものであったとは認められないし、そのことが二
男の中退の直接的な原因になったとも認められない。また、原告P2の健
康状態についてみても、証拠(甲193、乙432、証人P13、原告P
2本人)によれば、原告P2はC型肝炎に罹患しているとはいえ、同人が
本件配転前に医師から治療を受けていたり、業務を軽減するように指導さ
れている事実はないし、被告会社産業医の見解によっても、肝機能の数値
であるGOT、GPTは正常値で病状は落ち着いており、労働負荷軽減を
する必要もない状態であったと認められるのであるから、これが配転に際
し、具体的な支障となり得るものとも認められない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P2
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P2がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
以上の事情に照らせば、本件配転により原告P2に生じたという各種の
不利益が、配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったと
は認められない。
ウ原告P8について
原告P8は、本件配転により、①単身赴任を強いられ、精神的に孤独な
状態となったこと、②原告P8の妻も単身での生活を強いられ、精神的に
追いつめられたこと、③農作業に従事することができなくなったこと、④
海外留学をする2人の子の仕送りに支障が生じること、⑤義母の介護に支
障が生じたこと、⑥従前培った料金業務での経験が生かされない職場に配
転されたこと、以上の不利益を被っているところ、これらの不利益は、労
、。働者にとり通常甘受すべき程度を著しく超える不利益であると主張する
①や②については、単身赴任に伴い生じる不利益であり、可能な限り避
けることが望ましい不利益であることは理解できるところであるが、我が
国の労働環境において単身赴任という事態はおよそ希有な事態ではないこ
とからすれば、単身赴任を強いられたという事実のみをもって、配転に伴
い労働者が甘受すべき程度を著しく超える不利益であるとはいい難い。単
身赴任に伴う不利益は、当該労働者の生活環境によっても異なるものであ
り、未成熟子や日常的な介護が必要な者が身近におり、これらの世話を代
替して行う家族等がいないといった労働者に対して単身赴任を強いるので
あれば、その不利益は具体的であり、かつ、その程度も大きいというべき
であるが、そのような事情がない者に対して単身赴任を強いる配転をした
からといって、そのことが、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益で
あるとはいえない。現に、原告P8が主張する不利益も①や②のように、
1人暮らしを強いられることによる原告P8や妻の寂しさといった抽象的
なものにとどまるものであるから、前記のような具体的な不利益と比較す
ると、その不利益の程度は低いというほかない。
原告P8が農作業に従事できなくなったとの点についても、主たる生計
を被告会社からの収入で立てている原告P8(弁論の全趣旨)にとって、
その維持が必要不可欠となるとは認められないことや、仮にその維持を図
るのが必要であるとしても、その面積は三反にすぎないというのであるか
ら(甲170、原告P8が新潟県長岡市周辺に在住しなければその維持)
を図り得ないものとも解されない。海外留学をする2人の子に対する仕送
りに支障が生じるとの点についてみても、満了型選択者である原告P8の
、()、賃金は減額されていないのであるし単身赴任手当毎月3万円のほか
6か月に7回を限度として帰郷の際に生じる実費が支給されていたのであ
、、、るからその出費が大幅に増加したとは認められないし本件配転の結果
2人の子に対する仕送りが実際に途絶えたとか、減額されたなどと認める
に足りる証拠もないのであるから、本件配転が子に対する仕送りについて
不利益を与えたとは解し難い。原告P8は、実母が高齢であることや、実
弟が病気であることも配転に伴う不利益として主張するようでもあるが、
原告P8の義母や実弟が、原告P8による介護が必要な状態であったと認
めるに足りる証拠はない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P8
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P8がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
、、以上によれば本件配転により原告P8に生じたという各種の不利益が
配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったとは認められ
ない。
エ原告P3について
原告P3は、本件配転により、①単身赴任を強いられ家族に対する責任
を果たせなくなったこと、②実母や実姉の介護に支障が生じたこと、③原
告P3の妻が精神的に不安定となったこと、④通信労組の組合員としての
活動や、通信労組宮城支部の組合活動に支障が生じたこと、⑤従前培った
無線に係る業務等での経験を生かせない職場に配転されたこと、以上の不
利益を被っているところ、これらの不利益は、労働者にとり、通常甘受す
べき程度を著しく超える不利益であると主張する。
しかし、証拠(乙262、289、原告P3本人)によれば、特別養護
老人ホームで生活する原告の実母の介護は、主に原告P3の兄が行ってお
り、原告P3は週に1回程度の手伝いをしていたことや、原告P3は、兄
と共に、実姉を病院に通院させていた事実が認められるものの、その程度
や態様に照らせば、原告P3の配転が、その実母や実姉の介護に具体的な
支障を与え得るものであったとは認められない(現に、原告P3が本件配
転の前後に被告会社就業規則上の介護休暇や介護休職を取得した事実もな
い(乙262、289、原告P3本人。なお、原告P3にも、単身赴)。)
任手当の支給、帰郷実費の支給がされている。
近隣で窃盗事件が生じて以降、原告P3の妻が精神的に不安定になった
、、とか原告P3が家事を分担することができなくなったとの点についても
原告P3の妻は成人した長女(本件配転当時28歳、長男(同24歳))
と同居しているというのであり(原告P3本人、単身での生活を強いら)
れているものではなく、家事の分担も親子間で分担し得ない程度のもので
あるとも解されないから、原告P3が主張する不利益の程度が大きいもの
とは解されない。
また、通信労組の組合員としての活動や、通信労組宮城支部の活動につ
いても、原告P3は、現在も、通信労組神奈川支部に所属する組合員とし
て活動を継続しているのであるし(原告P3本人、原告P3の配転後、)
通信労組宮城支部の組合活動に具体的な支障が生じたと認めるに足りる証
拠もない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P3
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P3がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
、、以上によれば本件配転により原告P3に生じたという各種の不利益が
配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったとは認められ
ない。
オ原告P4について
原告P4は、本件配転により、①単身赴任を強いられ、股関節に障害が
ある長女の生活に支障が生じたこと、②経済的な負担が著しく増加したこ
と、③変形性頚椎症、椎間板ヘルニア、変形すべり症の持病がある原告P
、、4に耐え難い苦痛が生じていること④通信労組の組合員としての活動や
通信労組北海道支部の組合活動に支障が生じたこと、⑤従前培った線路設
備部門での経験を生かせない職場に配転されたこと、以上の不利益を被っ
ているところ、これらの不利益は、労働者にとり、通常甘受すべき程度を
著しく超える不利益であると主張する。
しかし、証拠(乙392、原告P4本人)によれば、原告P4は、配転
に際し、長女(本件配転当時24歳、長男(本件配転当時22歳)と同)
居することを前提とした社宅入居申込みを行い、実際に長女とは同居する
に至ったと認められるのであるから、本件配転時に、原告P4の配転が、
同人の単身赴任を余儀なくさせるものであったとか、長女の生活に支障を
生じさせるものであったといえるものでないことは明らかである。
原告P4が主張する三世帯(原告P4、その長女、長男が別々の世帯と
なっている)を維持するための経済的不利益についても、証拠(甲18。
4、原告P4本人)によれば、長女は、本件配転後、原告P4と同居し、
近隣で職に就いたが、その後、旭川で生活することを自ら選択し、別居す
るに至ったと認められ、長男は、社宅入居申込書の記載と異なり、独立し
てアルバイトで生計を維持していたと認められるのであるから、仮に、長
男や長女への経済的援助を原告P4が行っていたとしても、これが本件配
転に伴い生じた経済的負担の増加であるとは解されない。原告P4は、長
女が旭川で貧困な生活を送っていることを強調して陳述等するが(甲18
4、原告P4本人、同人の陳述等によっても、長女には稼働歴が複数認)
められることからすれば、その稼働能力がないものとは考えられず、現在
の長女の生活が本件配転により生じた不利益とは認められない。原告P4
に対しても、単身赴任手当、帰郷実費の支払がされている。
原告P4の健康状態についてみると、証拠(乙402、原告P4本人)
によれば、原告P4は変形性頚椎症、椎間板ヘルニア、変形すべり症を持
病として有しており、医師からなるべく重い物を持たないようにと指示さ
れているものの、被告会社の健康管理規程に基づく指導区分認定の対象と
はされていないと認められるのであるし、その疾病も中高年の者に比較的
よく見受けられる疾病であって、通院先も日本全国に存在していることも
広く知られていることからすれば、本件配転が原告P4の健康状態に具体
的な不利益を与えるものとは認められない。
また、通信労組の組合員としての活動や、通信労組北海道支部の活動に
ついても、原告P4は、現在も、通信労組本部副委員長として活動を継続
しているのであるし(原告P4本人、原告P4の配転後、通信労組北海)
道支部の組合活動に具体的な支障が生じたと認めるに足りる証拠もない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P4
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P4がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
、、以上によれば本件配転により原告P4に生じたという各種の不利益が
配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったとは認められ
ない。
カ原告P5について
原告P5は、本件配転により、①単身赴任を強いられ、高齢でうつ病を
、、患っている実母の介護に支障が生じ妻が退職せざるを得なくなったこと
②高血圧の持病がある原告P5の健康状態に悪影響を与えかねないこと、
③従前培った線路設備部門での経験を生かせない職場に配転されたこと、
以上の不利益を被っているところ、これらの不利益は、労働者にとり、通
常甘受すべき程度を著しく超える不利益であると主張する。
証拠(甲185、原告P5本人)によれば、原告の実母は、平成2年こ
ろ、うつ病に罹患し3年間通院し、当時は薬を服用していたこと、実母に
軽い痴ほうの症状が出てきたことなどが理由で原告P5の妻は平成15年
4月に退職し、実母の介護にあたっていることが認められる。
しかし、原告P5の実母のうつ病は、その病気自体が一般的には介護を
必要とするものではないし、本件配転が実施された当時は、薬の服用をし
ていなかったことからすると、軽快していたとはいえないにしても、症状
が重かったとは認められない。また、原告P5は、平成13年12月に行
われた個別面談において、実母が軽度の痴ほう症であると申し出ているも
のの、平成14年6月11日付けで通信労組を通じて提出した「配転に関
する要求書」には、実母の躁うつ病には触れているだけで痴ほう症は記載
がないこと(()(原告P5の配転の必要性)ア(ウ)、(オ)、原告P59)
が本件配転の前後に被告会社就業規則上の介護休暇や介護休職を取得した
事実は認められないこと、本件配転当時に実母が要介護認定や要支援認定
、、を受けていたと認めるに足りる証拠がないことからすれば本件配転当時
実母に生じていた痴ほう症の程度が、日常的に介護を必要とするまでの状
態であったとは認め難い。なお、原告P5に対しても、単身赴任手当及び
帰郷実費の支払がされている。
原告P5の健康状態についてみると、証拠(乙56、原告P5本人)に
よれば、同人の高血圧の程度は、定期健康診断上「D:要治療・治療継続
疾病の存在が考えられます。早めに病院を受診してください。現在治療中
。」、の方は主治医の指示のもとに治療継続してくださいというものであり
被告会社健康管理規程上、指導区分とされるものではなかったと認められ
るのであるし、その疾病も中高年の者に比較的よく見受けられる疾病であ
って、通院先も日本全国に存在していることは広く知られており、本件配
転後、原告P5の高血圧症が悪化したと認めるに足りる証拠もないことか
らすれば、環境の変化等によるストレスが高血圧症に悪影響を与え得るも
のであることを考慮しても、なお、本件配転が原告P5の健康状態に、配
転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものであった
とは解されない。証拠(甲186)によれば、原告P5は平成16年5月
ころ、網膜静脈分枝閉鎖症を発症していると認められるけれども、その発
症時期に照らすと、本件配転と同疾病の発症との間に因果関係があるとは
考え難い。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P5
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P5がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
、、以上によれば本件配転により原告P5に生じたという各種の不利益が
配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったとは認められ
ない。
キ原告P6について
原告P6は、本件配転により、①単身赴任を強いられ、その両親の介護
に支障が生じたこと、②経済的負担が増加したこと、③通信労組の組合員
としての活動や、通信労組山形支部の組合活動に支障が生じたこと、④従
前培った無線通信部門等での経験を生かせない職場に配転されたこと、以
上の不利益を被っているところ、これらの不利益は、労働者にとり、通常
甘受すべき程度を著しく超える不利益であると主張する。
しかし、証拠(甲128)によれば、原告P6の実父は、脳梗塞で倒れ
たことがあると認められるものの、本件配転時には疾病を有しておらず、
その介護が必要な状態にあったとは認められない。また、証拠(原告P6
本人)によれば、実母は、平成14年中に、6回にわたり入院をしていた
ことや、原告P6は、本件配転前、週に1回程度、通院の際、実母を病院
に送り迎えしていたことが認められるものの、入院中に原告P6が付き添
いによる介護等を行ったことを認めるに足りる証拠はないし、病院への送
迎についても、その頻度からみて、これが原告P6でなければ果たし得な
い役割であったとも認められない(その妻や近隣に居住する子により代行
することも十分可能と解される。このことに、証拠(甲134、13。)
5)によれば、原告P6は、平成14年4月15日付け及び同年6月24
、、日付けで被告会社に提出した書面中で配転に対する異議を述べた際にも
「80歳を越え死期が迫っている両親の元を離れることはできません、。」
「生活上の不利益を被ります」とするのみで、その両親の介護が必要な状
況を具体的に被告会社に申し出なかったと認められることや、原告P6が
本件配転の前後に被告会社就業規則上の介護休暇や介護休職を取得した事
実も認められないことも併せて考慮すれば、原告P6の実母の介護が日常
的に必要であり、原告P6の配転により、その介護に重大な支障が生じる
状態であったとは認め難い。
原告P6は、年齢的に死期が近かった両親が存在すること自体が配転の
支障であるとも主張するが、その心情は理解し得るとしても、これが配転
の具体的支障となり得るものではない。
原告P6は、単身赴任をしたことにより経済的負担が増加したとも主張
するが、単身赴任手当や、6か月に7回を限度として帰郷の際に生じる実
費が支給されていたから、その出費が大幅に増加したとは認められない。
原告P6が毎週のように帰郷していたとすれば、交通費等がかさむことは
当然であるが、原告P6が実母の介護等のために毎週帰郷していたとも認
められないことは、前記認定の原告P6が行っていた介護の程度に照らし
ても明らかである。
また、通信労組の組合員としての活動や、通信労組山形支部の活動につ
いても、原告P6は、現在も、通信労組神奈川支部に所属する組合員とし
て活動を継続しているのであるし(弁論の全趣旨、原告P6の配転後、)
通信労組山形支部の組合活動に具体的な支障が生じたと認めるに足りる証
拠もない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P6
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P6がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
、、以上によれば本件配転により原告P6に生じたという各種の不利益が
配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったとは認められ
ない。
ク原告P7について
原告P7は、本件配転により、①単身赴任を強いられ、夫婦共々寂しい
生活を送っていること、②胃・十二指腸潰瘍を患っている原告P7の健康
、、状態に悪影響を及ぼしかねないこと③通信労組の組合員としての活動や
通信労組山形支部の組合活動に支障が生じたこと、④従前培った無線通信
部門等での経験を生かせない職場に配転されたこと、以上の不利益を被っ
ているところ、これらの不利益は、労働者にとり、通常甘受すべき程度を
著しく超える不利益であると主張する。
しかし、前記①が配転の具体的支障となり得る事由と解されないことは
ウで説示のとおりである。原告P7の健康状態についてみても、証拠(甲
143、162ないし164)によれば、原告P7は、平成11年6月実
施の健康診断で胃潰瘍と判明し、平成13年2月に胃・十二指腸潰瘍や自
律神経失調症と診断されて以降、継続的に治療を継続しており、平成17
年8月8日付けで胃潰瘍及び過敏性腸症候群と診断されていると認められ
るものの、証拠(甲162ないし164、原告P7本人)によれば、同人
は、現在も飲酒・喫煙を続けていることや、平成17年8月8日付け診断
書では自律神経失調症の診断はされておらず過敏性腸症候群も症状は比、「
較的安定している」と診断されていることが認められるのであるから、そ
の症状が配転の具体的支障となり得るものであったとは認め難い。原告P
7は、若年の労働者の中でこれまでとは異なる業務に従事するという緊張
を強いられており、本件配転が持病に悪影響を与えることは必至であると
も主張するが、原告P7の病状が本件配転後に悪化したと認められないこ
とは前記のとおりであるから、原告P7の主張は理由がない。
原告P7に対しても、単身赴任手当及び帰郷実費は支給されている。
また、通信労組の組合員としての活動や、通信労組山形支部の活動につ
いても、原告P7は、現在も、通信労組神奈川支部に所属する組合員とし
て活動を継続しているのであるし(弁論の全趣旨、原告P7の配転後、)
通信労組山形支部の組合活動に具体的な支障が生じたと認めるに足りる証
拠もない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P7
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P7がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
、、以上によれば本件配転により原告P7に生じたという各種の不利益が
配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったとは認められ
ない。
ケ原告P9について
原告P9は、本件配転により、①片道2時間の遠距離通勤を強いられて
いること、②通信労組中央本部書記長としての活動に支障が生じたこと、
③実母の介護に支障が生じたこと、④従前培った電話交換機の保守・管理
業務での経験を生かせない職場に配転されたこと、以上の不利益を被って
いるところ、これらの不利益は、労働者にとり、通常甘受すべき程度を著
しく超える不利益であると主張する。
しかし、①については、原告P9は以前の勤務先である立川までの通勤
時間は30ないし40分であったと主張しているから、本件配転後、μま
での通勤時間が2時間というのは疑問であるが、この点を措くとしても、
長時間通勤が首都圏で勤務する労働者に通常甘受すべき程度を著しく超え
る不利益を与えるものと解されないことは、ア及びイのとおりである。ま
た、証拠(原告P9本人)によれば、原告P9は、本件配転の前も後も、
組合休暇等を取得して週に3日から4日は東京都世田谷区<以下略>ν、(
駅の近所)にある組合事務室で組合活動をし続けていたというのであるか
ら、千代田区<以下略>への配転が、原告P9に通勤による不利益や組合
活動への不利益を与えたものとは解されない。むしろ、本件配転により勤
務場所と組合事務所は従前より近接した場所となったのであり、組合活動
の観点からすれば、本件配転は原告P9に利益を付与した結果となってい
る。
上記③の点についてみても、原告P9は、実母の介護の必要につき、そ
の必要は本件配転前の平成14年5月から生じていたと供述するが、同人
の陳述書(甲144)には「私が母が介護する必要は私の在職中にこそ、
現実化はしませんでした」と記載されているのであるから、前記供述はと
ても信用できるものではなく、他に、原告P9の実母が介護が必要な状態
であったと認めるに足りる証拠はない。
職業上の不利益についてみても、本件配転の経緯に照らせば、原告P9
が従前と同様の職務に従事できなくなることはやむを得ないことであっ
て、原告P9がおよそ従前の知識・経験を生かし得ない職場に配転された
とか、およそ適性のない職場に配転されたとかいうこともできないことは
既に説示のとおりである。
、、以上によれば本件配転により原告P9に生じたという各種の不利益が
配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであったとは認められ
ない。
コまとめ
以上のとおり、原告らは、いずれも、配転に具体的な支障を有していた
とはいい難いし、配転の結果、原告らに生じたという不利益も、主に原告
本人や家族の寂しさや日常生活上の不便をいうものにすぎず、証拠上、子
の監護養育や親の介護に具体的な支障を生じたとまで認められる原告はい
ない。もっとも、前記のような不利益であっても、単身赴任や遠距離通勤
を強いられたことによって生じた不利益であることは否定できないのであ
るから、これらの不利益は可能な限り避けることが望ましい不利益である
ことはいうまでもないところである。しかし、我が国の労働者の労働環境
に照らし、長期間雇用される間において、単身赴任や遠距離通勤を余儀な
くされる時期が生じたとしても、そのことのみで配転が不当とは解されな
いことからすれば、原告らに認められる不利益の程度が配転に伴い生じる
ことが想定される不利益の中でも大きなものであるとは解されない。
そして、原告らに対する配転は、余人をもって替え難い配転でなかった
としても、移行対象業務に従事していた原告らを配転する必要性は高く、
その配転先として、首都圏が候補とされたことにも業務上の必要性が認め
られることからすれば、原告らに生じた前記の程度の不利益は、配転に伴
い労働者が通常甘受すべき程度の不利益というほかなく、これらの不利益
を根拠として、具体的に行使された配転命令権を権利の濫用として無効と
するには足りないというほかない。
()本件各配転の手続について16
原告らは、本件各配転は、通信労組からの団体交渉の申入れや、原告らか
らの個別の異議申立てを無視して一方的に強行されたものであり、手続的に
も無効であると主張する。
配転命令権の行使は、使用者の権利の行使であり、その行使に先立ち団体
交渉の開催や、労働者の個別の異議を容れることが絶対的に必要であると解
することはできない。団体交渉の申入れを無視して、配転命令権が行使され
たとすれば、団体交渉拒否の不当労働行為の成否が問題となることはあると
しても、そのことが具体的に行使された配転命令を無効とする直接的な根拠
となるとは解されない。
この点を措くとしても、証拠(甲70ないし84、乙41)によれば、被
告会社と通信労組は、本件構造改革の実施について56回の団体交渉を開催
していると認められるのであるし、原告らに対しては、いずれも、平成13
年12月には、雇用形態・処遇体系の多様化の実施に先立ち、社員の個別の
意向や事情を聴取する個別面談の機会が与えられていたのであって、原告ら
は、原告P5が実母が軽度の痴ほう症であると申し出たのを除き、いずれも
これを拒否したか、応じても具体的な意思表示をしなかったにすぎないので
あるから、被告会社が原告らの意向を聞かずに一方的に配転を強行したとい
えるものではなく、本件構造改革及びこれによる原告らの雇用形態の選択に
際して手続上、不当な点があったとは認められない。
()以上によれば、本件各配転には、いずれも業務上の必要性が認められ、17
本件各配転が不当な動機・目的をもって行われたとも、原告らに対し通常甘
受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったとも認められな
いから、本件各配転が、配転命令権を濫用して行われたものとは認められな
い。
したがって、争点()に関する原告らの主張は理由がない。2
3争点()(本件各配転が法令や労働契約上の付随義務に違反するものか)3
()ILO156号条約及び同165号勧告違反の主張について1
原告らは、本件各配転はILO156号条約や同165号勧告に反するも
のであり、無効であると主張する。
しかし、条約の多くは、締約国相互間の権利・義務を定めたもの、又は条
約内容を各締約国の政策とし、あるいは、何らかの国内措置を採ることを義
務づけるにとどまるものであって、これを国内法として直接的に適用し得る
のは、条約が、私人間や私人・国家間の権利・義務を明白、確定的、完全か
つ詳細に定めており、国内法の制定を待つまでもなく、執行可能な状態とな
っている場合のみと解されるところ、ILO156号条約は3条が「省、(
略)…各加盟国は、家族的責任を有するものであって職業に従事しているも
の…(省略)…が、また、できる限り職業上の責任と家族的責任との間に抵
触が生ずることなく職業に従事する権利を行使することができるようにする
ことを国の政策の目的とする」と定めるのみであり、その内容が我が国の政
策の目的とされるべきことを加盟国の政府に義務づけるものにすぎないか
ら、ILO156号条約に違反することを理由として本件各配転を無効とす
る余地はない。
、、「」、またILO勧告は憲法98条2項の確立された国際法規ではなく
その内容に違反した行為が、ILO勧告を法源として無効とされる余地もな
い。
したがって、この点に関する原告らの主張には理由がない。
()育児介護休業法26条違反の主張について2
原告らは、本件各配転は、労働者の育児又は介護の状況に配慮すべきこと
を義務づけた育児介護休業法26条に違反するものであると主張する。
しかし、同条は「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の、
場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更
により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となること
となる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に
配慮しなければならない」と定めるのみで、同条所定の事情がある労働者。
の転居を伴う配転を直接的に制限するものではないから、同条を根拠に個別
の配転を無効と解することはできないというほかない。
また、この点を措くとしても、原告P8、同P3、同P4、同P5、同P
6、同P7には、そもそも養育が必要な子は存在しないし、家族の介護につ
いても、その家族には介護が必要でないか、必要としてもその程度は低いも
のにすぎないことは前記認定のとおりである。また、原告P1、同P2及び
同P9の子もその年齢や同人らには同居の夫や妻がいることに照らし、遠距
離通勤を強いられることにより養育に困難な状態が生じる状態であったとも
解されない。これらの事情からすれば、具体的な配転命令権の行使が権利濫
用か否か判断する際に、育児介護休業法26条の趣旨を考慮するのが相当で
あるとしても、本件各配転につき、育児介護休業法26条違反の問題は生じ
ない。
()その他の法令違反の主張について3
原告らは、本件各配転は、51歳以上の者を狙い打ちして行われ、労働者
の人間性・尊厳や労使対等の原則を踏みにじり、労働組合に対する団体交渉
拒否を行いながら強行されている点で、憲法14条、労働基準法3条、労働
組合法1条、民法90条に違反すると主張する。
しかし、本件各配転が51歳以上の者を年齢差別する目的で行われたもの
でないことは既に説示のとおりであるし、仮に団体交渉拒否の事実があった
としても、本件各配転を無効とするものとも解されないことも既に説示のと
おりであるから、原告らの主張は理由がない。原告らは、本件構造改革は実
質定年50歳制を意図したものであり高年齢者雇用安定法に違反するもので
あるとも主張するが、本件構造改革が51歳以上の社員に繰延型の選択を強
いるものでないことは既に認定のとおりであるから、原告らの主張は理由が
ない。
原告らは、本件各配転が、労働安全衛生法や労働契約承継法に反して行わ
れたものであるとも主張する。
しかし、労働安全衛生法62条は、中高年齢者の労働災害の防止上の観点
から、適正な配置をするよう努力することを使用者に義務づける法律にすぎ
、、、ないのであるからこれを根拠に配転の無効を導くことはできないし仮に
その趣旨を各配転の権利濫用性を検討するにあたり考慮すべきであるとして
も、原告らについては、その健康上、配転の障害となり得るような事情があ
る者もいないことは既に説示のとおりであるから、本件各配転につき、同法
違反の問題が生じる余地はない。また、原告らは、いずれも、本件各配転後
も被告会社に在籍し続けていた者であり、原告らについては労働条件の引き
下げは行われていないのであるから、原告らとの関係で労働契約承継法違反
の有無につき論じる余地はない。
()労働契約上の付随義務違反の主張について4
原告らは、労働契約上の付随義務として、使用者は、配転の際に、生活に
重大な不利益が生じることがないように配慮する義務、職務変更の際、労働
者の職務上の能力やキャリアを傷つける配転をしないよう配慮する義務、労
働者の人間性を配慮する義務を負うところ、本件各配転は、これらの労働契
約上の義務に違反するものであったと主張する。
しかし、原告らが主張する内容は、高度に抽象的であり、一義性に欠け、
これを、労働契約上の付随義務として理解することは困難というほかない。
これらの内容は、配転命令権の行使が権利濫用といえるかどうかの問題とし
て検討されるべき事項となり得るとしても、本件各配転がこれらの義務に違
反するものと考えられないことは、既に説示のところから明らかである。
()以上によれば、争点()に関する原告らの主張はいずれも理由がない。53
4争点()(本件各配転が、通信労組に対する不当労働行為といえるか)につ4
いて
原告らは、本件各配転は、原告らが通信労組に加入していることを理由とし
て行われたものであると主張するが、本件各配転が原告らが通信労組に加入し
ていることを理由として行われたものと認められないことは、既に説示のとお
りである(2()エ)から、原告らの主張は理由がない。14
5争点()(本件各配転は不法行為か等)について5
これまで説示したとおり、本件各配転は無効であるとは認められず、これが
不法行為であるとは認められない。
第4結論
以上によれば、本件各配転が無効であるとは認められないから、その余の点
について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官中西茂
裁判官本多幸嗣
裁判官齋藤巌

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