弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人和田誠一郎の上告理由一の4について
 一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 Dは、平成二年六月二九日、すべての財産を上告人に包括して遺贈する旨遺
言した。
 2 Dは、平成二年七月七日死亡した。同人の法定相続人は、妻である被上告人
B1並びに子である被上告人B2、同B3、上告人及びEである。
 3 Dは、相続開始の時において、第一審判決別紙物件目録の本件不動産の項の
一ないし二九記載の不動産(以下「本件不動産一」などという。)及び同目録の売
却済み不動産の項の(一)、(二)記載の不動産(以下「売却済み不動産(一)」などと
いう。)を所有していた。
 4 被上告人らは、上告人に対し、平成三年一月二三日到達の書面をもって遺留
分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
 5 平成二年一二月一八日、本件不動産六ないし八につき、平成三年二月七日、
本件不動産二、五及び二八につき、それぞれ相続を登記原因として上告人に所有権
移転登記がされ、また、同日、本件不動産二九につき上告人を所有者とする所有権
保存登記がされた。
 6 上告人は、被上告人らから遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示を受け
た後、同人らの承諾を得ずに、売却済み不動産(一)を三億二七三二万〇四〇〇円で、
同(二)を七二三七万五〇〇〇円で、それぞれ第三者に売り渡し、その旨の所有権移
転登記を経由した。
 二 被上告人らの本件請求は、遺留分減殺請求により被上告人らが本件不動産一
ないし二九につき、本件の遺留分の割合である二分の一に各自の法定相続分のそれ
を乗じて得た割合の持分(被上告人B1は四分の一、同B2、同B3は各一六分の
一の割合の持分)を取得したと主張して、本件不動産一ないし二九につき右各持分
の確認を求め、かつ、本件不動産二、五ないし八、二八及び二九につき、遺留分減
殺を原因として、右各持分の割合による所有権一部移転登記手続を求めるものであ
る。なお、被上告人らからは、前記一3記載の不動産のほか普通預金債権、預託金
債権等の相続財産が存在する旨の主張がされており、上告人からも、第一審判決別
紙相続債務等目録記載の相続債務の存在等が主張されている。
 三 原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、被上告人らの請
求を認容した。
 1 上告人は、遺留分減殺の意思表示を受けた後、遺産を構成する売却済み不動
産(一)、(二)を第三者に合計三億九九六九万五四〇〇円で売却し、その旨の所有権
移転登記を経由したことにより、遺留分減殺請求により被上告人らに帰属した右各
不動産上の持分を喪失させたから、被上告人らは、上告人に対し、右持分の喪失に
よる損害賠償請求権を有する。
 2 被上告人らは、本訴において、右各損害賠償請求権と上告人が相続債務を弁
済したことにより被上告人らに対して有する各求償権とを対当額で相殺する旨意思
表示した。上告人が弁済したとする相続債務の額に被上告人B1は四分の一、同B
2、同B3は各一六分の一の割合を乗じて求償権の額を算定すると、その額が右各
損害賠償請求権の額を超えないことは明らかであるから、右求償権は相殺により消
滅したというべきである。
 3 そうすると、上告人主張の相続債務は、遺留分額を算定する上でこれを無視
することができ、したがって、負担すべき相続債務の有無、範囲並びに相続財産の
範囲及びその相続開始時の価額を確定するまでもなく、被上告人らは、遺留分減殺
請求権の行使により、本件不動産一ないし二九につき、本件の遺留分の割合である
二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分を取得したというべき
である。
 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵
害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然
に遺留分権利者に帰属するところ、遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権
利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対
象となる相続財産としての性質を有しないものであって(最高裁平成三年(オ)第
一七七二号同八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、前記事
実関係の下では、被上告人らは、上告人に対し、遺留分減殺請求権の行使により帰
属した持分の確認及び右持分に基づき所有権一部移転登記手続を求めることができ
る。
 2 被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇
二九条、一〇三〇条、一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた
財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除し
て遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の
割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相
続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価
額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した
遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除
し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。
被上告人らは、遺留分減殺請求権を行使したことにより、本件不動産一ないし二九
につき、右の方法により算定された遺留分の侵害額を減殺の対象であるDの全相続
財産の相続開始時の価額の総和で除して得た割合の持分を当然に取得したものであ
る。この遺留分算定の方法は、相続開始後に上告人が相続債務を単独で弁済し、こ
れを消滅させたとしても、また、これにより上告人が被上告人らに対して有するに
至った求償権と被上告人らが上告人に対して有する損害賠償請求権とを相殺した結
果、右求償権が全部消滅したとしても、変わるものではない。
 五 そうすると、本件では相続債務は遺留分額を算定する上で無視することがで
きるとし、負担すべき相続債務の有無、範囲並びに相続財産の範囲及びその相続開
始時の価額を確定することなく、被上告人らは本件各不動産につき本件の遺留分の
割合である二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分を取得した
とした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論
に影響を及ぼすことは明らかである。その趣旨をいう論旨は理由があり、その余の
点を判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、右の点につき更に審
理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すことにする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    尾   崎   行   信

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