弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,魚介類の養殖・販売業等を目的とする甲株式会社(以下「甲」とい
う。)及び宝石・貴金属類の加工・販売業等を目的とする株式会社乙(以下「乙」
という。)の代表取締役として両会社の業務全般を統括掌理していたものであるが,
第1分離前相被告人A及び別表「共犯者」欄記載の者らと共謀の上,いずれも法
定の除外事由がないのに,同表記載のとおり,平成17年1月21日ころから
同年7月26日ころまでの間,36回にわたり,分離前相被告人Bらが管理す
る甲府市内所在のa銀行b支店に開設された有限会社丙(以下「丙」とい
う。)名義の普通預金口座ほか2口座に振込みを受ける方法により,不特定か
つ多数の相手方であるCほか21名から,現金合計7020万円を,同表「支
払期限」欄記載の期限までに同表「支払約束額」欄記載の元利金を支払うこと
を約して受け取り,もって業として預り金をした
第2預り金名下に金員を詐取しようと企て,
1平成17年8月上旬ころ,宮城県内所在の美容室cにおいて,Dに対し,真
実は,真珠養殖事業に係る事業収益が乏しい上,他の事業での利益を得る確実
な見込みがなく,受け入れた元本を確実に返済し,利息を確実に支払う意思も
能力もないのに,これがあるように装い,かつ,受け入れた金員を従前の預り
金や借入金に対する利息の支払,元本の返済等として費消する意図であるのに,
その情を秘し,情を知らないEをして,「第1ステージがもう8月一杯で終わ
りになる。9月からは第2ステージになる。今までごほうびでくれてた真珠も
8月一杯で終わる。欲しい真珠を買ってもらう形になる。9月からは1年半で
22万を付けて全額戻ってくるというのも,3年で戻るというふうに変わる。
前のシステムでやるなら今のうちにやっておいた方が良い。」などと申し向け
させ,Dをして,1口当たり105万円を被告人らに預ければ,約束の期限ま
でに確実に127万円が被告人らから支払われる旨誤信させ,よって,同年9
月5日ころ,宮城県内所在のd銀行e支店から同支店に開設された,乙の北海
道・東北地区本部長である分離前相被告人Fが管理する真珠の会香僚代表F名
義の普通預金口座に振込送金させて,現金315万円の交付を受け,もって人
を欺いて金員の交付を受けた
2平成17年8月上旬ころ,前記美容室c駐車場において,Gに対し,前同様
に装い,かつ,前同様に情を秘し,情を知らないDをして,「Eから聞いた話
で,今度投資の変更がある。真珠がもらえなくなって,購入しなければいけな
いし,これまでの約束だと19か月で配当が支払われるということだったのが,
3年に延びる。仕組みは9月から変わる。もし今後投資する予定があれば,8
月中の方がいい。」などと申し向けさせ,Gをして,前同様に誤信させ,よっ
て,同年8月29日ころ,前記d銀行e支店から前記F名義の普通預金口座に
振込送金させて,現金315万円の交付を受け,もって人を欺いて金員の交付
を受けた
3平成17年8月31日ころ,宮城県内所在のFが使用する事務所において,
Hに対し,前同様に装い,かつ,前同様に情を秘し,被告人が,「今クレジッ
ト関係の方でトラブルが起きていて遅れているが,そっちの方もだんだん片付
いてきているので,落ち着いたらちゃんと配当を入れる。真珠養殖は順調に行
っているし,第2ステージだということで,セラミックの事業に着手して今研
究をしている。第2ステージの方がうまくいけば,前の方にも還元できる。前
と同じやり方で期間だけ3年でやりましょう。1回目が3万8000円で,2
回目からが3万5200円ずつになって3年で127万返す。」などと申し向
け,Hをして,前同様に誤信させ,よって,同年9月2日ころ,仙台市内所在
のd銀行f支店から前記F名義の普通預金口座に現金200万円を,さらに,
同月5日ころ,上記d銀行f支店から上記F名義の普通預金口座に現金10万
円をそれぞれ振込送金させて,そのころその各交付を受け,もって人を欺いて
金員の交付を受けた
4平成17年9月12日ころ,宮城県内所在のラウンジgにおいて,Iに対し,
前同様に装い,かつ,前同様に情を秘し,情を知らないJをして,「乙は真珠
養殖への投資を募っている。乙の社長が被告人である。投資の仕組みは,1口
105万円で1回目の振込みは3万8000円,2回目から36回目までは3
万5200円で合わせて127万円になり,真珠ももらえる。確実にもらえ
る。」などと申し向けさせ,Iをして,前同様に誤信させ,よって,同日ころ,
宮城県内所在のd銀行h支店から前記F名義の普通預金口座に振込送金させて,
現金105万円の交付を受け,もって人を欺いて金員の交付を受けた
ものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1争点
弁護人は,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下
「出資法」という。)違反事件について,(A)判示第1別表「預託者」欄記載
の者から受け取った金員は,真珠の売買代金であって,被告人らは,真珠の購
入者に対し,月々の支払を続けていたが,これは真珠養殖事業の利益還元とし
て行っていたもので,そもそも購入代金を返還する法的義務はない旨,詐欺事
件について,(B)Dらから受け取った金員も,上記(A)と同様に被告人に返還義
務はない,(C)仮に返還義務があったとしても,被告人は,Dらから金員を受
け取った当時,これを返還することは可能であり,かつ返還しようと考えてい
た,(D)Dらは,返還されないかもしれないリスクを了解した上で,金員を出
捐しており,被告人らに欺罔行為はない旨述べ,被告人もこれに沿う供述をす
るので,以下,順に検討する。
第2出資法違反事件−争点(A)について
1証拠上明らかに認められる事実
(1)被告人は,乙及び甲の代表取締役として両社を統括する立場にあり,Aは,
被告人の内妻で,乙の商品の仕入れ及び管理,資金の出納等の業務を担当し
ていた。
(2)Bは,乙の総括本部長,Fは,北海道・東北地区本部長の肩書で,平成1
7年以前から,Bの地元である山梨県や,Fの地元である宮城県等において,
顧客に対し,乙会等への入会を勧誘することに従事していた。
(3)Bらによる勧誘から入会に至る流れは次のようなものであった。
①山梨県や宮城県等のレストランで食事会を開催し,食事会に来た顧客に
対し,真珠の現物を展示したり,真珠商品のカタログを見せるなどして勧
誘を行う。
②入会方法としては,現金を出す場合と,信販会社を利用したクレジット
契約による場合の2種類があったが,現金による場合は,口数(1口10
5万円で,一度に何口でも可能)及び希望する真珠の種類を選び,申込書
(「乙会会員申込書」)に氏名等を記入の上,Bが管理する丙名義の預
貯金口座に金員を振り込む。
③Bは,振込みを確認後,1口につき40万円を手元に残し,残りの65
万円を乙や被告人個人の口座に振り込むとともに,その顧客の名前と顧客
が希望する真珠の種類を茨城県笠間市にある乙事務所に伝える。
④乙事務所からBに対し,真珠商品が送られる。
⑤Bは,真珠商品及び売買契約書(買主欄を空欄にしたもの),納品書等
を顧客に発送し,顧客は,売買契約書の買主欄に自らの名前を記載してB
に返送する。
⑥Bは,手元に残した金員(1口につき40万円)を,自らや顧客の勧誘
に関わった者らで分配する。なお,この分配金は「お手間代」と呼ばれ,
実質的には紹介手数料の支払に当たるものである。
⑦顧客が上記手続を経て会員となると,自らを直接勧誘した者(紹介者)
の傘下に入り,その親戚や知人ら周囲の者に対し,食事会への参加を呼び
掛けたり,自ら入会を勧誘するなどして新たな会員の獲得を目指す。
(4)Bらが顧客に渡す真珠商品は,いずれも被告人の指示を受けてAが業者か
ら買い付けたものであり,その仕入価額は10万円前後であった。
(5)出資法違反に係る起訴のうち,別表番号5,6を除く「預託者」欄記載の
Cら20名は,いずれもB傘下の「共犯者」欄最下段記載の者が紹介者とな
り,「預り年月日」欄記載の日時に,「預り場所」欄記載の口座に「預り金
額」欄記載の金額を振り込んだ。
(6)Cらに対して,乙が資金不足に陥り,郵便貯金口座を振込指定口座にして
いた者らに対する支払が停止した平成17年7月末ころまでは,振込みの翌
月に1口当たり3万円,2か月目以降は1口当たり2万5000円が乙から
支払われた。
(7)K(別表番号5)及びL(別表番号6)は,Bらとは別に,愛媛県内で勧
誘活動をしていたMから勧誘され,平成17年3月中にそれぞれ200万,
100万円を乙の口座に振り込んだ。Kらについても,B傘下の者への勧誘
と同様に,真珠商品が送られ,売買契約書が交わされた。
(8)Kらに対しては,平成17年12月末ころまで,振込みの翌月に1口当た
り3万9200円,2か月目以降は3万5900円が乙から支払われた。
(9)被告人は,勧誘に先立ち,会員に対する月々の支払額及び支払時期をあら
かじめ決めてBらに伝えており,会員が入会した後は,Aに指示するなどし
てその支払を行った。
(10)また,被告人は,Bらが開催する食事会にもしばしば参加して,乙の事
業について説明したり,会員を甲の真珠養殖場に招待したりして,更なる入
会を促していた。
(11)平成17年7月末ころ,乙から,郵便貯金口座を振込指定口座とする会
員に対する同月分以降の支払が滞り,会員から強いクレームが出たことから,
被告人は,会員に対する説明会を開催したり,弁護士を通じて文書を会員宛
てに送付するなどして,会員に理解を求めた。
2売買契約とみることの不自然性
上記のとおり,乙会に入会する際に,乙に対し一定額の金員を振り込み,こ
れに対して,真珠商品が乙から送付され,乙と会員の間で売買契約書が交わさ
れている。これを形式的にみると,両者の間で真珠商品の売買契約が成立して
いるようにも見えるが,真珠商品自体の価値(仕入価額10万円前後)が振込
金額(105万円)に比べて著しく低額であること,一度に何口もの入会をし
たり,繰り返し入会している者や,知人や親戚の名前を借りてまで入会する者
が相当数いること,入会後の月々の支払が滞った際に,会員から強いクレーム
が出て,被告人がこれに対応するための説明会を開催したり,弁護士名義の書
面を送付したりしていることなどからすると,これを単純な売買契約であると
みるのは余りに不自然である。
3勧誘トーク
そこで,入会の際の勧誘トークについて検討するに,その中心人物であった
Bは,捜査官に対し,自らが勧誘する際,あるいは会員やその知人を招いた食
事会の席上で,「乙の真珠養殖事業に1口105万円を投資して事業参加して
いただくと,乙の会員になることができます。投資した後は,1か月目は3万
円,2か月目から18か月目までは,毎月2万5000円ずつ,19か月目は
81万5000円が間違いなく支払われて,合計で127万円が返ってきます。
しかも,投資して事業参加していただければ,ただ(無料)で真珠を差し上げ
ます。現金でもクレジットでも事業参加できます。乙の会員になった後,知り
合いを勧誘すれば,紹介手数料ももらえます。」などと説明していたと述べて
いる(乙65。なお,Bが民事事件で作成した陳述書にはこれと異なる趣旨の
記載もあるが,Bが被告人として公判廷において,「お客様が乙の真珠を10
5万円で購入し,乙の会又は真珠の会に入ると,その105万円が19か月後
には127万円になるということを乙が決めており,そのようにお客様には説
明していたため,それが投資ということになると思います。」と述べ,自らの
罪を認めたことに照らしても,上記陳述書の内容は信用できない。)。そして,
本件において実際に勧誘に当たった者も,勧誘を受けた者も,Bが食事会の席
上で同様の発言をしていたことや,自らが勧誘する際,あるいは勧誘される際
にBの上記説明に沿った内容を説明していた,あるいは受けていたと述べてい
る。
また,Mも,KやLを勧誘する際,乙に投資すると,元本保証で,多額の配
当も約束され,おまけとして真珠も付いてくるなどと説明したと述べ,KやL
も,Mからそのような説明を受けたと述べている。
このように,関係者は一致して入会の際に支払う金が,将来配当付きで返還
されることを当然の前提としていたと述べており,その内容は,上記認定の事
実関係にもよく符合しており,高い信用性を認めることができる。
4弁護人の主張
これに対し,弁護人は,ア真珠商品の原価からすると,代金として妥当な
金額設定であり,真珠の売買とみて不自然ではない,イ現に商品を返品した
りした者がいないことからみても,真珠商品にそれなりの価値があり,かつ,
代金と商品のバランスが取れていることの証左である,ウ契約書には金員の
返還に関する文言は全くない,エ会員への月々の支払は,あくまでも乙の顧
客に対するサービスで行った「利益還元」である,などと主張する。
しかしながら,アについては,見解の相違というほかなく(なお,裁判所も
仕入価額と振込代金の不均衡の一事をもって売買契約ではないと断定している
のではなく,売買契約と認める上での疑問点の一事情として挙げているに過ぎ
ないのであって,宝石販売の実情が弁護人の述べるとおりであったとしても,
裁判所の推認過程は影響されない。),イについては,会員は,真珠について
は入会の際の特典的なものとして理解していたからこそ,返品やクレームがな
かったと理解することが可能で,かつ素直な見方であり,返品がなかったこと
と当該真珠商品と代金が釣り合っていることを結び付けるのは論理に飛躍があ
る,ウについては,売買契約であることを仮装していた(少なくともクレジッ
ト契約を利用する場合はそのような体裁を整えることが必要となる。)とみれ
ば何ら不自然ではなく,現に,勧誘する側の者も,される側の者も,契約書が
形式上必要なものであるとの説明が行われていたことを述べており,エについ
ては,勧誘の際にも,支払が滞った後の送付文書による説明等でも,返還が不
確実であることを前提に説明がされた形跡はない。
5預り金であること
以上からすると,CやKらが出捐した金員の性格は,別表記載の支払期限ま
でに配当を上乗せして確実に返還するとの約定の下でなされた出資法上の「預
り金」であると認められる。
6正犯性
被告人は,乙の代表取締役として,その業務全般を統括し,会員への月々の
支払額等を決定し,その支払の振込みを指示していた立場にある。そして,会
員らが入会後は,Bが開く食事会にも度々参加していたのであるから,Bらが
会員の勧誘をする際に,上記のような勧誘トークを用いていたことは当然理解
していたと認められる。そして,B及びMは,会員への月々の支払が確実であ
ることは,被告人自身が明言し,自分たちもこれを信じて勧誘活動を行ってい
た旨述べているところ,同供述に疑いを挟む事情は見当たらない。以上からす
ると,被告人が出資法違反(預り金の禁止)の共同正犯としての責を負うこと
は明らかである。
第3詐欺事件
1検討の視座
本件検察官の起訴は,乙が郵便貯金口座を振込指定口座とする会員に対する
支払が滞った平成17年7月末ころ(具体的には7月27日)を境に,それ以
前の金員の受入れを出資法違反(預り金を業としたもの),それ以降の金員の
受入れを詐欺(預り金名下の騙取)とするものである。弁護人は,金員の性質
が変わらないのになぜ突然適用される犯罪が変わるのか理解できず,不合理で
あると論難するが,検察官が,被告人が金員を預かる段階で,将来的にこれを
返還できないことが確実であると判断される時期を証拠上特定し,その前後で
上記のような事件処理をすること自体,公訴提起に関する裁量権の行使として
一定の合理性を有するものであり,各犯罪が成立するか否かは,その要件が充
足されているかを,関係各証拠に照らして検討されるべき問題である。
2争点(B)について
(1)前記第2において検討したとおり,平成17年1月から7月までの間に,
入会した会員から受け入れた金員は,配当を上乗せして確実に返還する約定
の下でなされたものであり,真珠商品の売買代金とは認められない。そして,
判示第2の1ないし4のとおりのDらからの金員の受入れ(同事実は証拠上
明らかに認められる。)は,いずれも平成17年8月以降になされたもので
ある。そして,入会に当たっての手続の流れをみると,Bが離脱し,入会の
際に金員を振り込む口座がBが管理する預貯金口座からFが管理する預金口
座になったこと以外は概ね変化はない。
(2)そして,関係者の各供述を総合すると,各入会の際の具体的状況は,以下
のとおりであったと認められる。
①Dは,Eから勧誘されて平成16年5月に初めて入会し,本件以前に合
計19口分入会した。同年8月上旬ころ,Eから,判示第2の1のとおり
勧誘され,9月になると第2ステージが始まって月々の支払の終了期限が
従来よりも延びるので,それ以前に入会する決断をした。ところが,8月
下旬ころ,以前の入会分に対する月々の支払が予定額どおりではなかった
ので,Dは,Eに対し,これまでの分が振り込まれないと新たな振込みは
できない旨伝えた。Eからは,会社の手違いであるとの説明があり,9月
2日に遅れていた分の支払があったので,Dは,同月5日,3口分315
万円を振り込んで入会した。なお,入会が9月になったが,Dの要望によ
り,8月入会と同じ期限(1年7か月)の扱いになった。
②Gは,Dから勧誘されて平成17年4月に2口分入会した。Dは,上記
①のとおりEから聞いた日に,Gに連絡し,判示第2の2のとおり伝えて
勧誘した。Gは,これを聞き,8月中に追加で入会した方が良いと考える
ようになった。そして,8月下旬ころ,予定されていた乙からの月々の支
払がなかったので,Dに確認したら,会社の手違いだと説明された。8月
29日に支払が確認されたので,Gは,入会するなら今月中が良いと考え,
8月29日に3口分315万円を振り込んだ。
③Hは,Jから勧誘されて平成17年6月22日に3口分入会した。とこ
ろが,乙からの8月の最初の支払が,勧誘時に受けた説明より遅れ,額も
少なかったことから,この点をJに問いただすと,Jは,被告人がFの事
務所に来るので一緒に話を聞こうとHを誘った。Hは,夫やJ夫婦ととも
に,同年8月31日にFの事務所を訪れ,その際,被告人から,判示第2
の3のとおり説明され,新たな入会を勧誘された。それまでに上記8月分
の支払がなされていたこともあり,Hは,被告人の話を信用して9月2日
に200万円,同月5日に10万円の合計2口分210万円を振り込んだ。
④Iは,それまで入会したことはなかったが,平成17年9月12日,宮
城県内のホテルで,Jから,判示第2の4のとおり説明を受けて勧誘され,
その話を信用し,1口分105万円を振り込んだ。
(3)以上のとおり,入会の手続には平成17年7月以降とそれ以前とで基本的
に変更がないこと,Dらに対し,被告人が自ら(対H),あるいはE(対
D),D(対G),J(対I)を介して行った勧誘行為では,9月以降の入
会は月々の支払の終了期限が3年後になること以外は,基本的に従来と同じ
内容を告げて勧誘していることからすると,上記各金員についても,それま
でと同様,1口105万円を127万円に増やして返す旨の約束が交わされ
たものと認められる。
3争点(C)について
(1)関係各証拠からすると,以下の事実が認められる。
①乙の経営状況
乙では,会員が新たに現金で入会すると,1口当たり105万円の金員
が乙に入ったが,その性質は上記認定のとおり預り金であって,結局,将
来的に配当を上乗せして返還しなければならず,会員が新たに入会すれば
するほど負債が増えるという関係にあった。郵便貯金口座利用者への支払
が停止した平成17年7月27日当時,乙が会員に対し支払うべき元利合
計額は47億7406万5798円,月々の支払合計額は7000万円か
ら8000万円に達していた。これに対し,被告人が管理していた乙関連
口座の残高は,合計1億6306万9515円にすぎなかった。
②甲の経営状況
甲においては,真珠の養殖・販売事業を行っていたが,平成14年度か
ら17年度における真珠商品の年間売上げは1000万円以下であり,年
間事業収益はいずれの年度も損失を計上しており,その後も真珠の生産販
売による売上げが大幅に伸びるなどして黒字に転換することは,当分の間
期待できない状態にあった。なお,平成16年12月から19年4月にか
けて捜査機関が把握できた甲の売上げは,合計1530万9846円であ
った。
③真珠商品の展示販売
平成17年7月27日当時,被告人の下には,販売価額合計9389万
3200円分の真珠の在庫があった。平成17年7月までの真珠販売によ
る売上げはわずかであり,それ以降も,被告人の供述を前提としても,販
売による利益は,合計で1000万円程度にとどまっていた。
④国債の償還話
被告人は,知人のNから,同人がOに対して行っていた資金援助への協
力を依頼された。その資金援助は,Oが,国債の元金償還を得るためのも
ので,被告人は,資金援助への協力をすることで,国債の元金償還がなさ
れた暁に,Nの取り分から200億円を受け取ることをNとの間で約束し,
少なくとも9000万円以上をNに提供した。その後,Oの家内を名乗る
女性から,Nに対し,Oが平成17年6月1日に病死したとの連絡があっ
た。Nは,遅くとも,同年7月中旬ころまでに,関係者に接触するなどし
て調査したところ,Oから聞かされていた国債の償還話が存在しないこと
が判明したと被告人に報告し,Oの死亡に関する除籍謄本を送付するなど
した。
⑤セラミック事業について
被告人は,平成17年7月ころ,Pから真珠養殖で用いるアコヤ貝の貝
殻でセラミックを製造できるという話を聞いて関心を持ち,同年9月ころ,
産業技術総合研究所に所属するQに会い,その研究を依頼した。Qは,被
告人に対して,研究開発に3年かかる旨伝え,研究を始めたが,その後,
被告人に対し,経常利益が黒字になるのは3期先(平成20年2月1日か
ら平成21年1月31日までの期間)であるという内容の報告書を提出し
ていた。
⑥Dらから集めた金員の使途
Dらから受け入れた合計945万円の金員については,将来の事業への
投資等に回されることなく,他の会員への月々の元利金の支払や,借金の
返済等に費消された。
(2)被告人は,乙や甲の代表者として,上記客観的状況はすべて把握していた。
なお,被告人は,上記④につき,国債の償還話は,平成17年10月中旬こ
ろになってあきらめ始めたのであり,今も最終的にはあきらめたわけではな
い,上記⑤につき,Pから話を聞いた時期,Qと会った時期はもう少し早く,
平成17年7月末ころの時点では,セラミック事業については,資金繰りが
上手くいけば何とかなる段階までこぎ着けていたと供述する。
しかし,国債の点については,Nから関係資料を送られるなどしてその詳
細な報告を受けており,Nの話を全面的に信用しないとしても,少なくとも
国債の償還により多額の利益を得ることが非常に困難な事態になっていたこ
とは当然に認識しており,それでも国債の償還金が早晩手に入ると信じ続け
ていたというのは,結局のところ,願望を述べているに過ぎない。
セラミック事業についても,被告人がPと話をした時期,Qと初めて会っ
た時期については,上記⑤に認定したとおりにP及びQが明確に述べていて,
これに疑いを挟む事情は見当たらない。加えて,平成18年春ころ,被告人
が弁護士に依頼して作成させた債務整理開始通知書においても,同事業が
「今日,明日にも直ちにという段階には至っていない」との記載があること
からも,少なくとも平成17年7月末ころの時点では,収益の見込まれる事
業としての目処が立つ段階になかったことは明らかである。
(3)以上述べたような平成17年7月末ころの乙や甲の赤字経営の状況,真珠
販売の低迷,国債償還話の頓挫,セラミック事業が早期に軌道に乗る可能性
の乏しさ等に照らすと,被告人が,上記時点で新たに受け入れた金員に配当
を上乗せして返還することは極めて困難な状況にあり,被告人もそのことを
十分に認識していたと認められる。しかるに,被告人は,その認識の下,自
ら,あるいは第三者を介し,その確実な支払ができるように装うとともに,
預り金を他の会員への支払や借財の返済に用いることを伏せ,判示のとおり
Dらに自ら申し向け,あるいは第三者に申し向けさせたのである。そうする
と,被告人には,受け入れた金員を約定どおり支払う意思も能力もなかった
ものと認められる。
(4)これに対し,弁護人は,(a)Dらに対して平成17年10月から平成18
年6月ないし7月まで,月々の「利益還元」(支払)を続けており,少なく
とも契約をした時点では,当然に支払意思はあった,(b)Dらから受け取っ
た金額は,合計945万円程度であり,これに集中すれば返済が可能な範囲
であるから,被告人には支払能力はあった,と主張する。
(a)については,確かに,被告人は,Dらから金員を受け入れた後,1年
近くは約定どおりの月々の支払を続けていた。しかしながら,被告人がDら
と交わした約定は,1年7か月間又は3年間支払を続け,最終的には1口1
05万円を127万円にして返すというものである。そして,その支払意思
を認めるには,上記約定に係る支払金捻出の裏付けがなければならないとこ
ろ,当時そのようなものはなかったことは前記のとおりであり,被告人もそ
のことを認識していたのであるから,やはり,支払意思はなかったというべ
きである。
(b)については,被告人は,説明会で更なる勧誘を促した際に,特段募集
人数を限定したわけでもなく,現にDら以外にも入会者はおり,これらに対
する支払もDらと同様に行われており,更なる入会者があれば,これらにつ
いても同様に扱われていたと予想されることからすると,実態に合わない主
張であって,採用できないといわざるを得ない。
以上のとおり,弁護人の主張を勘案しても,被告人の支払能力や支払意思
を肯定することはできない。
4争点(D)について
(1)被告人は,平成17年7月末以降に開いた説明会で,当時の客観的事情や
「利益還元」の不確実性をきちんと説明しており,Dらはこれを理解し,リ
スクを承知した上で入会しているはずであるなどと述べる。この点,F,E,
Jらの供述によると,被告人は,当初,郵便貯金口座関係の月々の支払が停
止したことを単なる事務的なミスであると説明し,その後,これを訂正し,
国債が入る見込みがあったが入らなくなったことやクレジット関係のトラブ
ルがあったことが原因であるなどと説明しているが,それらも間もなく解決
に向かうこと,真珠養殖事業が順調であること,セラミック事業も手がけて
いて将来性があることなど,当時の客観的状況から離れた楽観的な説明を行
い,乙や自らへの信頼を強調して更なる入会の勧誘を促している。その説明
は,リスクを正確に伝えるというよりも,支払停止に動揺する会員を安心さ
せ,資金集めのため更なる入会者を増やすことを目的として行っていたもの
と認められる。
(2)前記のとおり,Dら4名は,いずれも証人尋問において,勧誘を受けた際
に,確実に配当を上乗せした額の支払が受けられると思って入会した,支払
停止の事実は聞いていないなどと述べているところ,D,G,Hは,平成1
7年7月以前に入会していたとはいえ,被告人による説明会には一度も出て
おらず,Iは,今回が初めての入会であることからすると,支払停止等の事
実を知らなかったとしても不自然ではない。そして,被告人も,自ら勧誘し
たHはもとより,D,G,Iについても,Eらの直接勧誘に当たった者が,
支払停止の事実等を相手に告げずに勧誘することは当然に予想しており,か
つ,これを容認していたものと認められる(被告人がこれを容認していたこ
とは,被告人が,説明会の会場で,「会員以外は支払が止まっているのは知
らないんだから,新しく勧誘してくればいいじゃないか。」と言ったのを聞
いたとするRの証言からも裏付けられる。)。
(3)以上からすると,Dらは,いずれも被告人あるいは情を知らないEらの言
を信じ,錯誤に陥った結果,判示第2記載の各金員を出捐したものと認めら
れる。
5結語
以上のとおり,被告人は乙等の経営状況を認識しながら,受け入れた金員は
確実に利息も付けて返せると,述べたり述べさせたりしており,そうした欺罔
行為によって,錯誤に陥った被害者から金員を取得したものと認められ,被告
人には,詐欺罪が成立する。
第4結論
以上により,弁護人の主張はいずれも採用できず,被告人は判示各罪の責を
負う。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は包括して刑法60条,平成18年法律第115号附則
31条1項により同法による改正前の出資法8条2項1号,出資法2条1項に,判
示第2の各所為はいずれも刑法246条1項(判示第2の3は包括して)にそれぞ
れ該当するところ,判示第1の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上の各罪は
同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の
最も重い判示第2の1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4
年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中400日をその刑に算入し,訴訟
費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させな
いこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,共犯者らと共謀し,平成17年1月から7月にかけて,元本
及び配当を保証して,22名から36回にわたり合計7020万円を受け入れ,も
って業として預り金をした出資法違反及び同年8月から9月の間に,預り金名下に
4名から合計945万円をだまし取った詐欺の各事案である。
まず,出資法違反についてみると,乙の真珠養殖事業に投資して会員となれば,
1口105万円が1年7か月後に127万円になる(別表番号1ないし4,7ない
し36),あるいは1口100万円が3年後に120万円ないし129万5700
円になる(別表番号5,6)などと,短期間での高額配当を保証するものである。
とりわけ,Bのグループでは,各地で食事会を開き,その人脈により資産運用に関
心のある者等を集め,その席上で,Bらが言葉巧みに,被告人が資産家で,すばら
しい実業家であることを強調し,その真珠養殖事業が順調に進んでいることを訴え,
会員となった者には真珠商品を無料で提供する,他の人を新たに勧誘した会員には
紹介料がその懐に入るなどとして,投資への意欲をかきたてるなど,その手口は非
常に組織的かつ巧妙である。
こうした勧誘により,起訴に係る分だけでも22名から合計7020万円が集め
られ,結局,その大半に当たる約6000万円が預託者に返還されておらず,多大
な損害も生じている。預託者の中には,老後の生活資金をつぎこんだ者や,自らの
親族や知人を積極的に勧誘して入会させたことで,その間の人間関係にも悪影響が
出るなどした者もおり,被害回復がなされないこともあいまって,被害感情はいず
れも厳しいものがある。
被告人は,乙や甲の代表取締役であり,業務全般を統括掌理していた者として,
上記犯行に積極的に関わっており,その責任は,共犯者間で最も重大である。
次に,詐欺についてみるに,被告人は,乙の会員に対する月々の振込金の支払が
滞り,新たな会員を募っても,約定どおり支払を続ける見込みがないにもかかわら
ず,自ら,あるいは情を知らない勧誘者を介するなどして,確実な支払を受けられ
るものと誤信させ,4名から合計945万円をだまし取ったもので,その態様は,
狡猾かつ悪質である。上記被害のうち,約630万円が被害者に返還されておらず,
各被害者は,被告人に対する厳しい処罰を求めている。
これに対し,被告人は,いずれの事実についても不合理な弁解に終始して自らの
責任を回避しようとしており,自己が犯した犯罪についての反省の態度は見られな
い。
以上からすると,被告人の刑事責任は重大である。
そうすると,被告人は前科前歴がなくこれまで過ごしてきていること,出資法違
反に関し,少なくとも,平成17年中ごろまでは,国債の償還に関する話が現実化
すれば,預託者への返済は可能であると考えていたことがうかがわれること,詐欺
に関し,被害者に対し,平成18年6月又は7月まで約定どおりの元利相当額の支
払を継続していたことなどの諸事情を考慮しても,被告人には主文掲記の刑をもっ
てその罪を償わせるのが相当である。
(求刑・懲役6年)
平成21年2月5日
松山地方裁判所刑事部
村越一浩裁判長裁判官
西前征志裁判官
杉本敏彦裁判官
(別表省略)

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