弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士渋谷又二の上告理由について。
 公職選挙法八九条においては、「……地方公共団体の公務員は在職中、公職の候
補者となることができない。……」と定めている。これは公務員が在職中公職の候
補者となつて選挙運動をする弊害を防止せんとしたものである。また、同九〇条に
おいては、「前条の規定により公職の候補者となることができない公務員が、公職
の候補者となろうとする目的をもつて公務員たることを辞する旨の申出をした場合
において、その申出の日から五日以内に公務員たることを辞することができないと
きは、当該公務員の退職に関する法令の規定にかかわらず、その申出の日以後五日
に相当する日に公務員たることを辞したものとみなす」と規定している。これは、
一方において民主主義の下に公務員が退職不承認のために公職の候補者となる自由
を奪われることのないことを定めると共に、他方において公務員の退職申出により
即時に退職することによつて生ずる行政上の不便を除かんとする趣旨に出でたもの
である。そして、本件においては法文字句の不完全の故に、「その申出の日から五
日以内に」とある字句と「その申出の日以後五日に相当する日に」とある字句の解
釈が、主たる論争の的となつている。同九〇条は、公務員が公職の候補者となろう
とする目的をもつて公務員たることを辞する旨の申出をした場合において、「その
申出の日から五日以内」すなわち申出の日の翌日を起算日として五日以内に退職の
承認がないときは、その退職の承認がないと確定したときに、公務員を辞したもの
とみなす趣旨の規定であると解するを相当とする。同条に「申出の日以後五日に相
当する日」とあるは、申出の日の翌日を起算日としてその後五日に相当する日の終
末すなわち前述のごとく退職の承認がないと確定したときと解すべきものである。
若し、申出の当日をも含めこれを起算日として五日に相当する日の終末と解するに
おいては、退職の承認の有無が確定する一日前に辞職したものとみなされる不合理
なこととなり、従つて立候補して選挙運動を開始した後に退職が承認される事態も
発生する不都合な結果を生ずるに至るであろう。それ故、同条全体の合理的な解釈
としては到底これを認めることはできない。
 そこで、本件についてみるに、地方公共団体の公務員たる村助役の訴外Dが村長
選挙に立候補のため村助役退職の申出をしたのは四月十四日であり、同人は四月十
九日立候補届出をした。そして本件選挙において立候補届出のできる最終の日は四
月十九日てあつた。それ故、本件においては前記のごとく退職の承認がないと確定
したときすなわち四月十九日の終末には、同日なされた訴外Dの立候補届出は効力
を発生したものと見るを得べく、そして本選挙の立候補届出の最終時は四月十九日
の終末である。従つて、当選人訴外Dの立候補は、公務員の立候補の制限に違反す
ることなく、同人の立候補を有効であると判断して上告人の請求を棄却した原判決
は、結局正当であり、論旨は採ることを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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