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裁判例


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○ 主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実及び理由
第一 原告らの請求の趣旨
被告が原告らの昭和六二年七月一六日の相続開始に係る相続税について、いずれも
平成元年四月二〇日付けで原告らに対してした、別表1の「課税の経緯」記載の各
更正(ただし、いずれも同表記載の国税不服審判所長の裁決及び被告の再更正によ
って取り消された部分を除く。以下「本件各更正」という。)のうち、課税価格及
び納付すべき税額について同表の「修正申告」欄記載の各金額を超える部分及び同
表記載の各過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも同表記載の国税不服審判所
長の裁決及び被告の変更決定によって取り消された部分を除く。以下「本件各決
定」という。)をいずれも取り消す。
第二 事案の概要
一 当事者間に争いのない事実
1 本件処分の経緯等
(一) Aは、昭和六二年七月一六日に死亡し、原告らがAを相続(以下「本件相
続」という。)した。
(二) 原告らの本件相続に係る相続税の申告とこれに対する更正等の経緯は、別
表1の「課税の経緯」記載のとおりである。
2 本件相続に係る相続税の課税価格の内訳等
(一) 被告は、本件相続により原告らが取得した財産、債務等の内容、取得割
合、価額が別表2の「相続財産の明細表」記載のとおりとなり、これを基に計算し
た原告らの相続税の課税価格、相続税額及び加算税額が、別表3の「各相続人の納
付すべき税額等の計算表」及び別表4の「過少申告加算税の計算表」の各記載のと
おりとなるものと主張している。
(二) この取得財産等の内容、取得割合、価額、税額等については、相続財産を
構成する別表2の番号44から51までの各土地(以下「本件土地」という。)の
価額に関する部分を除いては、いずれも当事者間に争いがない。
これを別表3の「各相続人の納付すべき税額等の計算表」に即していえば、同表の
番号(1)の欄の本件土地の価額を除く各相続財産の価額、すなわち番号(2)及
び(4)から(7)までの欄の各価額及び同表の番号(9)の欄の債務・葬式費用
計の額については、その総額及び各原告ごとの額についていずれも当事者間に争い
がなく、また、別表3及び同4の税額の各計算表についても、その計算方法自体に
ついては、いずれも当事者間に争いがないことになる。
3 本件土地の取得に関する経緯等
(一) Aは、昭和五六年ころから病臥し、同五七年一〇月に脳動脈硬化性痴呆症
で八王子市の永生病院に入院した後退院することなく、同六二年七月一六日に八六
歳で死亡した。
(二) Aは、いずれも原告Bを代理人として、右入院中の昭和六二年二月二四
日、株式会社千葉銀行から一八億二〇〇〇万円を借り入れ、同日、右借入金で本件
土地を代金一六億六一〇〇万円で買い入れた。
(三) Aの死亡後の昭和六三年六月一四日、原告らは、本件土地全部を一八億円
で他に売却し、その売却代金を前記千葉銀行からの借入金の返済に充当した。
二 本件の争点
1 課税実務上、相続財産の評価については、「相続財産評価に関する基本通達」
(昭和三九年四月二五日直資56・直審(資)17(例規)。ただし、平成三年一
二月一八日課評2-4課資1-6(例規)により題名が改められ、現在は「財産評
価基本通達」となっている。以下「評価基本通達」という。)の定めるところに従
った評価が広く行われている。
本件では、前記のとおり、本件土地の相続財産としての価額をいくらと評価すべき
か、具体的には、評価基本通達による評価額一億二一〇二万二四九八円とすべき
か、それとも評価基本通達にはよらず取得価額等から算定した客観的な市場価格で
ある一六億六一〇〇万円とすべきかが争われている。
なお、本件土地について評価基本通達に従って評価すると、その価額が右のとおり
一億二一〇二万二四九八円となることについては、当事者間に争いがない。
2 この点につき、被告は、本件土地については、その取得の経緯等からして、そ
の相続財産としての価額の評価を評価基本通達の定めによって行うべきものではな
く、その現実の取得額等から算定したその客観的に市場価格である一六億六一〇〇
万円をもってその価額とすべきであり、この評価方法によって本件相続による原告
らの相続税の課税価格、相続税額等は前記別表3及び同4に記載するとおりとなる
ものとし、その論拠として以下のとおり主張している。
(一) 相続税法(以下「法」という。)二二条は、相続税の課税価格となる相続
により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるものとして
おり、この時価とは、相続開始時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定
多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をい
うものと解されている。しかし、財産の客観的な交換価格を算定することは必ずし
も容易でないことから、評価基本通達は、課税の公平を期し、簡易迅速な処理を図
るために、財産評価の一般的な基準としていわゆる路線価方式等の評価方式を設
け、この基準によった評価を行うこととしている。
しかるに、評価基本通達は、一般的で通常の状態にある財産についての基本的な評
価方法を定めたものにすぎず、特殊な状況にある財産については、これに応じた合
理的な評価を予定している。このことは、たとえば使用貸借に係る土地等について
は評価基本通達とは別に個別通達でその取扱が定められ、また、評価基本通達自身
においても、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる
財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」(評価基本通達6)と定めら
れていることからも明らかである。
したがって、簡易な時価の算定方式である右の路線価方式等による評価額が不合理
であるとか、この方式によって評価をすることが課税の公平を害する結果となると
いう場合のように、評価基本通達に定められた評価方式によることが著しく不適当
と認められる特別な事情がある場合に、他に当該財産の客観的な交換価格を評価す
る方法があれば、評価基本通達の定める方法によらず、この客観的に交換価格を評
価する方法によって、財産の評価を行うべきである。
(二) ところで、土地の価額の高騰期において、被相続人が、評価基本通達に定
められた方法による相続財産評価額と現実の取引価額との間に開差を生じているこ
とを悪用して相続税の負担を免れるという状況を作り出しているような場合には、
その土地を評価基本通達の定める方法によって評価することは、富の再配分機能を
通じて経済的平等を図るという相続税の目的を阻害し、このような工作をするため
の多額の借入金の担保となる資産を有しない他の納税者との間で課税負担の公平を
大きく害することとなり、租税公平主義に反して著しく不適当である。
本件においては、Aは、評価基本通達による本件土地の評価額とその取引価格との
間にある開差を悪用して、相続開始直前に経済的合理性を無視した異常に高額な金
員の借入れを行って本件土地を取得し、本件相続の開始後原告らが本件土地を売却
して右借入金を返済することにより、本来の相続財産には何ら実質的に変動がない
にもかかわらず、右の本件土地の評価額の開差に相当する余剰債務を発生させて、
相続税の負担を軽減するという状況を作り出しているのである。したがって、本件
土地の相続財産としての評価額を評価基本通達によって評価することは、課税の不
公平を助長することとなって著しく不適当であり、その価額の評価は、その客観的
な交換価格によって行うべきである。
(三) そして、本件相続開始時における本件土地の客観的な市場価格は、本件土
地が前記のとおり相続開始後一八億円で売却されていることからみれば、その取得
価額である一六億六一〇〇万円を下回ることはないものということができる。
(四) なお、昭和六三年一二月の税制改正(同年法律第一〇九号)により立法的
手当てがされた租税特別措置法六九条の四の規定は、動機のいかんにかかわらず、
相続開始前三年以内に取得した土地・建物等について、相続税の課税標準に算入す
べき価格を、法二二条所定の時価によることなく、一律にその取得価額とすること
を制定したものであり、本件のような事例に対する迅速かつ適正な措置を実現する
ことを目的としたものであるから、同法立法前の適正な課税措置、すなわち、客観
的な市場価格による評価・課税を否定するものではない。
3 これに対し、原告らは、本件土地の相続財産としての価額は評価基本通達の定
めに従った評価額とすべきであり、また、そもそも被告は、本件審査段階までは本
件土地の評価について右のような主張をしていなかったにもかかわらず、本訴にお
いて初めてかような主張をすること自体、許されないものであるとし、その論拠と
して以下のとおりの主張している。
(一) 税法上の「時価」の概念は、各法律ごとに、それぞれの課税目的に沿って
個別的、相対的に解釈されるべきものであるところ、相続税は、人の死亡による偶
発的、包括的な財産の取得を課税原因として課される税であり、しかも土地の場合
はその正確な時価を把握することが容易でないことから、相続財産としての土地の
評価に当たっては、評価の安全性を見込んだ、比較的低い価額でその時価を評価せ
ざるを得ないことになる。評価基本通達による土地の評価手法は、このような事情
を基に規定されているものであるから、この評価基本通達による評価額が、まさに
法二二条にいう「時価」に他ならない。したがって、本件土地について、相続開始
時に近接する時点での取引価格等からその客観的な市場価格を明らかにできる場合
であっても、評価基本通達に定める方法以外の方法でその評価を行うことは法二二
条の法意に反し、その解釈適用を誤るものである。
(二) また、評価基本通達による評価の方法は、その制定以来長期にわたって不
特定多数の納税者に対して反復継続して適用されてきており、国民一般の間に一つ
の規範として定着するに至っている。すなわち、土地についてはその相続財産とし
ての価額を評価基本通達に定める方法によって評価するということは、既に慣習法
たる行政先例法として確立するに至っているものというべきであり、課税庁も右行
政先例法に拘束されるから、特定の土地についてのみ評価基本通達に定めるものと
は異なる方法によってその評価を行うことは許されない。
なお、このことは、昭和六三年の法改正によって租税特別措置法六九条の四の規定
が新設され、相続開始前三年以内に取得した土地等については、法二二条の規定に
かかわらず、取得価額を課税価格とするものと定められるに至ったことによっても
裏付けられているものと考えられる。というのは、この法改正は、不動産の実勢価
額と評価基本通達による評価額との間に開きがあることに着目して借入金によって
不動産を取得するという形で行われる租税回避行為に対する対抗措置として行われ
たものとされており、その実質は、評価基本通達に対する特別規定の制定に他なら
ない。すなわち、このような評価基本通達に対する特例を定めるのに法律の形式を
もって規定することとしたこと自体、評価基本通達が既に行政先例法として確立し
ていることを法律自体が認めたことになるからである。
(三) さらに、前記のとおり、相続財産たる土地の評価については、通常の取引
価格よりも低い水準の評価基本通達の定める方法による評価が一律に行われている
のであるから、本件土地についてのみ評価基本通達による水準より高い水準によっ
てその評価を行うことは、憲法一四条一項の定める平等原則あるいは租税平等原則
に反するものであって、許されない。
(四) また、評価基本通達は、課税庁自らが制定して公表し、長期間にわたって
反復継続して適用してきたため、国民の間にも定着し、その信頼を得るに至ってい
る。したがって、特定の土地についてのみ評価基本通達の定める方法によらず、別
の方法によってより高く評価するということは、禁反言の法理、信義則及び信頼保
護の原則に反するものとして、許されない。
(五) 同時に、評価方法の変更に関する前記のような被告の主張によれば、いか
なる場合に、被告の主張する評価基本通達による方法以外の方法によった評価が行
われるべきこととなるのかが全く不明確であり、法的安定性や納税者にとっての予
測可能性を害し、課税庁の恣意的課税を許すことになる。
また、右主張に従えば、そもそも純粋に客観的であるべき相続財産の評価について
当該不動産の取得の動機、目的等といった主観的要素を斟酌することとなるが、こ
のような不明確な要件のもとに相続財産の評価の方法の変更を認めることは、財産
評価に名を借りた懲罰課税を容認することとなり、租税法律主義の立場からして到
底許されない。
(六) また、本件のように相続財産の評価方法を変更することは当該財産の取得
行為を否認することにほかならず、法の個別規定がない場合は許されないものと解
される。昭和六三年の租税特別措置法六九条の四の規定の新設は法が否認規定を設
けたものであり、本件相続時には右の規定がなかった以上、評価方法を変更するこ
とはできないものというべきである。
(七) 被告は、本件更正時から審査段階までは、原告Bの無権代理行為又はAの
意思無能力を理由として本件土地及び本件債務は相続財産を構成しないと主張して
きたのに、本件訴訟の段階において初めて、本件更正の理由を前記の被告の主張に
差し替えた。このような更正理由の差し替えは不服審判制度を骨抜きにするもので
あり、許されるべきではない。
(八) なお、本件借入及び本件土地購入は、首都圏において地価が急騰していた
当時において、転売利益を図ることをも目的として行われた通常の取引行為であっ
て、経済的合理性を欠く異常な取引ということはできない。
第三 争点に対する判断
一 法二二条は、相続税の課税価格となる相続財産の価額は、特別に定める場合を
除き、当該財産の取得時における時価によるべき旨を規定しているところ、右の時
価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価格をいうものと解するのが相
当である。
しかし、財産の客観的な交換価格は必ずしも一義的に確定されるものではないこと
から、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定めら
れ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされて
いる。これは、相続財産の客観的な交換価格を個別に評価する方法を採ると、その
評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価価額が生じることを避け難
く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそ
れがあることなどからして、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に
評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみ
て合理的であるという理由に基づくものである。
そうすると、時に租税平等主義という観点からして、これが形式的にすべての納税
者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるか
ら、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価基本通達に定める方式
以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自
体としては相続税法二二条の定める時価として許容できる範囲内のものであったと
しても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、原則として許されないも
のというべきである。
しかし、他方、評価基本通達に定められた評価方式によるべきであるとする趣旨が
右のようなものであることからすれば、右の評価方式を画一的に適用するという形
式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現すると
いう相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが
明らかである等の特別な事情がある場合には、例外的に法二二条の「時価」を算定
する他の合理的な方式によることが許されるものと解すべきであり、このことは、
評価基本通達6において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と
認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定められている
ことからも明らかである。
二 1 ところで、本件土地は、前記のとおり、高齢で病気のため入院中であった
Aが、その死亡の直前の時期に、銀行から一八億二〇〇〇万円もの多額の資金を借
り入れて購入し、Aの死後間もなく、原告らがこれを他に売却し、その売却代金を
もって右銀行からの借入金債務を返済して相続に係る財産内容をほぼ原状に復した
というものである。
2 また、前記で認定した事実からすれば、Aが死亡する約五か月前の昭和六二年
二月に一六億六一〇〇万円で買い受け、原告らが翌昭和六三年六月に一八億円で他
に売却した本件土地の本件相続開始時における客観的な市場価格(時価)は、少な
くとも右Aの取得価額である一六億六一〇〇万円を下回ることはなかったものと考
えられるところである。
3 そして、原告らに対する相続税の課税に当たって、本件土地の価額を評価基本
通達に基づき一億二一〇二万二四九八円と評価してこれを相続財産に計上し、その
購入資金である本件借入金一八億二〇〇〇万円をそのまま相続債務として計上する
と、右借入金のうち本件土地の価額から控除しきれない余剰債務一六億九八九七万
七五〇二円が他の積極財産の価額から控除されることとなり、その結果として、本
件土地の価額を右の客観的な市場価格である一六億六一〇〇万円と評価した場合に
比べて、この価額と右の評価基本通達に基づく評価額との差額である一五億四〇〇
〇万円近くもの金額分だけ課税価格が圧縮されることとなる。これを税額について
いえば、本件土地を評価基本通達に定める方法によって評価すると相続税の総額は
原告らの修正申告のとおり五〇〇四万〇二〇〇円となるのに対して、本件土地を右
の客観的な市場価格で評価した場合の相続税の総額は、八億一五九五万八八〇〇円
となる。すなわち、本件土地を客観的な市場価格によらず評価基本通達に定める方
法によって評価した場合には、Aにより一八億二〇〇〇万円の借入れと本件土地の
購入という行為が行われたことによって、本件相続に係る相続税について、七億円
以上もの多額の負担が軽減されることとなる。
4 以上のような事実にかんがみると、本件においても画一的に評価基本通達に基
づいてその不動産の価額を評価すべきものとすると、当該不動産以外に多額の財産
を保有しているAについては、経済的合理性を無視した異常ともいうべき取引によ
ってその他の相続財産の課税価格が大幅に圧縮されることになるわけであるが、こ
のような事態は、他に多額の財産を保有していないため、右のような方法を採った
場合にも結果として他の相続財産の課税価格の大幅な圧縮による相続税負担の軽減
という効果を享受する余地のない納税者との間での実質的な租税負担の公平という
観点からして看過し難いものといわなければならず、また、租税制度全体を通じて
税負担の累進性を補完するとともに富の再分配機能を通じて経済的平等を実現する
という相続税法の立法趣旨からして著しく不相当なものというべきである。
もっとも、この点に関し、原告らは、Aの前記借入金による本件土地の取得は、転
売利益を図ることをも目的として行われた通常の経済取引行為であって、経済的合
理性を無視した異常な取引ではないと主張する(前記第二の二の3の(八))。し
かしながら、甲四〇号証によれば、本件借入金の利率は、当初年四・九パーセント
と定められていたことが認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、この借入れ
に伴う右の定めによる金利負担の年額八九一八万円は、Aの経常所得の二倍を超え
ることが認められ、また、甲五二号証及び同五三号証によれば、本件土地は、その
取得後、整地工事等を施した上で、昭和六二年四月三〇日に東京電力株式会社に駐
車場用地として賃貸されるに至っているが、その賃料は月額三九万六〇〇〇円(委
託管理費用を除いた実収入月額は三六万三〇〇〇円)であるため、本件土地から得
られる収入額は、右金利負担額の二〇分の一程度にすぎないことが認められる。さ
らに、乙一号証によれば、右Aの銀行からの資金の借入れに際しては、銀行との間
での折衝に当たった原告Bが、銀行の担当者に対し、右借入れの目的について、A
が多くの財産を所有しているため相続の際には税負担が重くなるので、A名義で資
金を借り入れて不動産を購入することにより、相続税の負担の軽減を図りたいとの
説明を行っていたこと、また、乙二号証によれば、本件相続税の申告書を作成した
C税理士が、申告に当たり、本件土地の取得時期と相続開始時期が近接している
上、借入金が本件土地の購入に充てられており、本件土地の現実の取得価額と評価
基本通達に定める路線価方式等による評価額との開差が著しいことなどを理由に、
本件土地をその取得価額の七〇パーセントで評価するように勧めたのに対し、原告
Bがこれを拒否したことがそれぞれ認められる。これらの諸事情を総合すれば、A
の前記借入金による本件土地の取得は、これを資産として運用しあるいは保有する
といった目的から行われたものではなく、経済的合理性を無視し、本件土地の評価
基本通達に定められた方法による評価額と現実の取引価額との間に生じている開差
を利用して相続税の負担の軽減を図るという目的で行われたものであることが優に
認められる。したがって、右の原告らの主張は採用できない。
5 以上によれば、本件においては評価基本通達によらないことが許される前記特
別の事情があるというべきところ、法二二条の「時価」として合理性を有すると考
えられる客観的な市場価格を算定する方式によって本件土地を評価するのが相当で
ある。
三 これに対し、原告らは、種々の観点から、本件土地についてのみ評価基本通達
に定める方法以外の方法によってその価額を評価することは許されないものである
と主張しているので、その当否について判断する。
1 まず、原告らは、相続税の特質にか人がみろと、評価基本通達による土地の評
価額自体がまさに法二二条にいう「時価」に他ならないものであると主張している
(前記第二の二の3の(一))。
しかし、法二二条にいう「時価」が、相続開始時における当該財産の客観的な交換
価格をいうものと解すべきことは前記のとおりであり、しかも、この財産の客観的
な交換価格が必ずしも一義的に確定され得るものではなく、当然に一定の幅をもっ
た概念として理解されるべきものであることはいうまでもないところである。そう
すると、評価基本通達による評価額というものも、右のような一定の幅をもった時
価の概念に含まれる一つの具体的な価額にとどまるものと考えられ、これ以外の方
法によって算足された具体的な価額が、法二二条にいう「時価」の概念から一切排
除されるあのと解すべき根拠は何ら存しないものというべきである。すなわち、右
評価通達による評価方法以外の方法によって算定された価額であっても、それが右
のような意味での「時価」の概念の範囲に含まれるものであるときには、それもま
た法二二条にいう「時価」に該当するものとすることに、法解釈上の支障はないも
のと考えられる。
したがって、この点に関する原告らの主張は、採用することができない。
2 次に、原告らは、評価基本通達による相続土地の評価方法は既に行政先例法と
して確立するに至っているものであるから、被告課税庁も、この方法以外の方法に
よって土地の評価を行うことは許されないと主張している(同(二))。
しかし、専ら法律の定めるところに従って課税が行われるべきであるとする租税法
律主義(憲法八四条)の支配する租税法の分野においては、たとえ納税者にとって
有利な内容のものであっても、法律の定める範囲より更にその内容が限定されてい
るという意味で法律の定めとは異なる内容の行政上の先例が、法律と同一の拘束力
を持った先例法として機能するという余地を認めることは困難である。
この点について、原告らは、昭和六三年の法改正によって新設された租税特別措置
法六九条の四の規定が評価基本通達に対する特別規定を定めたものと解されるとし
て、このことをもその主張の根拠として援用している。
しかし、同条の規定は、その文言からして、特定の相続不動産について、その相続
税の課税価格を法二二条の「時価」によるのではなく、一律にその取得価額とする
旨を定めたものであって、評価基本通達ではなく、法二二条の規定自体に対する特
別規定を定めたものであることは明らかなものというべきである。
したがって、この点に関する原告らの主張も、採用できない。
3 さらに、原告らは、本件土地についてのみ評価基本通達による評価の水準より
高い水準による評価を行うことが、平等原則(同(三))、禁反言の法理、信義則
及び信頼保護の原則(同(四))、課税要件が明確に定められていることを要求す
る租税法律主義の原則(同(五))並びに否認規定なき場合の租税回避行為の否認
禁止の原則(同(六))に違反すると主張する。
しかしながら、まず、憲法あるいは税法の要求する平等原則も、合理的な理由があ
るときに法律の許容する範囲内で課税上異なった取扱いをすることまでを一切禁止
したものとは解されないところである。本件においては、本件土地の評価を評価基
本通達の定める方法によらず、その客観的な市場価格によるものとすることについ
て、前記のとおり他の納税者との間での実質的な税負担の公平を図るという合理的
な理由が存在しており、しかも、その時価を市場価格によって評価するという評価
方法も法二二条の規定に違反するものとは考えられないところである。そうする
と、このような取扱いは、平等原則の観点からしても、是認されるものといわなけ
ればならない。
また、原告らは、相続財産の評価が評価基本通達の定める方法によって行われると
いうことに対する納税者側の信頼の保護の必要性(原告らの主張する禁反言の法理
及び信義則も同様の趣旨と解される。)を挙げるが、本件のような場合において右
の信頼によって保護される利益というのは、要するに他の納税者との対比において
実質的公平の観念に反するような形で税負担の軽減を享受し得る利益をいうにすぎ
ず、そのような利益は、それ自体法的な保護に価するものとは考えられない。そう
すると、このような利益が侵害されることを理由に、本件土地の評価が信頼の保護
の必要性に反するとする原告らの主張も、当を得ないものというべきである。
さらに、法二二条にいう「時価」が一定の幅を持った概念と解されるからといっ
て、このことから直ちに右法二二条の規定が租税法律主義の要請に反するとまです
ることは困難である。そうすると、本件土地を客観的な市場価格によって評価する
という評価方法が右法二二条にいう「時価」の評価方法として許容されるものであ
り、しかも本件においてこのような評価方法を採用することについて前記のような
合理的な理由が認められる以上、このような評価が租税法律主義の要請に反するも
のとして許されないとすることもできないものというべきである。
そして、取得価格による評価は法二二条の文言の解釈の問題であるから、右評価方
法を採用することが相続回避行為の否認であるとする原告らの主張は、それ自体失
当である。
結局、これらの点に関する原告らの主張は、いずれも採用することができない。
四 なお、原告らは本件土地の相続財産としての評価方法に関する被告の主張は、
被告の従前の主張を変更したものであり、このような主張の変更は国税不服審判制
度を骨抜きにするものであるから許されないと主張する。しかしながら、本件のよ
うな課税処分においては、専ら被告のした課税処分の客観的な適否がその審判の対
象となるのであり、右の課税処分において認定された課税標準及び税額がその総額
において租税実体法規に定められたところを上回っていればその処分は適法とされ
ることとなるものであるから、被告課税庁は、課税処分の客観的根拠について訴訟
の段階で随時新たな主張をすることができると解するのが相当である。したがっ
て、この点についても原告らの主張は採用できない。
五 そして前記二の2によれば、本件土地の客観的な市場価格は一六億六一〇〇万
円と認められるから、原告らの相続税の課税価格等の明細は、被告の主張する別表
3「各相続人の納付すべき税額等の計算表」記載のとおりとなり、被告のした本件
各更正及び本件各決定は、いずれも適法なものということになる。
(裁判官 秋山壽延 原 啓一郎 近田正晴)
別表三、四(省略)

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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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