弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 被告人の弁護人中川鼎及び合路義樹の控訴の趣旨は末尾添附の各控訴趣意書記載
のとおりである。
 弁護人中川鼎の控訴の趣意第一点について。
 原判決は被告人はAに対しウイスキーを七十八本位販売したと認定したに拘らず
その証拠に供したAに対する検察事務官の第一回供述調書に依れば、Aが買受けた
数量は六十本位に過ぎないのであるからこれを七十八本と認定したのは違法である
こと所論のとおりであるが、右の違法は犯罪の成否には勿論刑の量定にも影響を及
ぼさないので、破棄の理由とするに足らない。又原判示挙示の証拠を綜合すればA
が買主であると認定することができるので、事実の誤認はない。
 又ウイスキー六十三本位を氏名不詳者に販売したとの点については、原判決の証
拠説明に依れば原審公判廷における破告人の供述証人B並Cの各証言及びDに対す
る検察事務官の第一回供述調書の記載を綜合して認め得る被告人が他に転売する目
的でB、D等から判示ウイスキー百五十五本位を買受け、そのうちAに対し六十本
位を販売した事実及び本件発覚当時被告人はウイスキー十九本を所持していたに過
ぎずしかも他に自己の用途に費消した形跡の認め難い事実と被告人の原審公判廷に
おける自白とを綜合して右氏名不詳者に判示数量のウイスキーを販売した事実を認
定したことを窺い知ることができるので、被告人の自白のみで氏名不詳者に対する
販売の事実を認定したとの非難は当らない。論旨は理由がない。
 同上第二点について。
 政府の免許を受けないで酒類の販売業をなした場合に酒税法第十七条違反を構成
するのであるから、その構成要件の性質上同種の行為の反覆を予想しているので、
政府の免許を受けないで数回酒類の販売をしたとしても、その数個の行為は包括し
て一個の犯罪として処断すべきもので所論の如く併合罪として処断すべきものでは
ない。したがつて原判決が被告人は政府の免許を受けないで昭和二十三年十一月下
旬頃から昭和二十四年一月二十一日頃迄の間十四回位に亘り、被告人の自宅におい
てA等に対しウイスキー合計百四十一本位を業として販売した旨を判示したのは相
当でおつて、所論の如く各回の販売関係を判文に明示することは必ずしも必要でな
い。論旨は理由がない。
 弁護人合路義樹の控訴趣意について。原判決挙示の各証拠を綜合すれば、判示ウ
ィスキーは原審相被告人Eの密造に係り酒精度三十四度ウィスキー乙類に該当する
とと明らかであるから、原審が被告人が判示数量のウィスキーを判示回数に亘つて
販売した所為に対し酒税法第十七条第六十四条を適用して処断したのは正当<要旨>
である。もつとも被告人の原審公判廷における供述に依れば被告人は判示ウィスキ
ーを推駐軍の品であると信じてこれを買受けたものでおることは認められる
が、進駐軍製の酒類でおつてもこれを我が国において業として販売しようとする者
には等しく酒税法第十七条の適用があるものと解すべきものであるから、被告人が
本件ウィキーを進駐軍の品と信じていたかどうかの主観につき原審が審理をしなく
ても、所論のようた審理不尽や事実誤認はない所論は要するに、右と異る独自の見
解に立つて原判決を非難するものであつて採用の限りでない論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条に則り本件控訴を棄却し、訴訟費
用は全部被告人をしてこれを負担させることとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 三瀬忠俊 判事 和田邦康 判事 小竹正)

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