弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 上告人が所論の如き主張の記載ある第三準備書面を原審第一三回口頭弁論期日に
陳述したことはその口頭弁論調書の記載により認められ、原判決が右主張を事実摘
示として記載しなかつたことも所論のとおりである。
 けれども、所論の点に関し原判決の確定判示した事実の要旨は、債権者たる被上
告銀行と債務者たる訴外D間の判示各条項の定めある約定書(甲二号証の一)に基
づき同訴外人が負担する一切の債務につき上告人は連帯保証人として元本極度額三
〇万円の限度において保証する旨の契約を締結したというのであつて、これによれ
ば、所論要素の錯誤の主張の要件事実たる、上告人が当初の取引元本極度額金三〇
万円のみの保証のつもりで本件保証契約をしたとの事実を否定していることが明ら
かである。されば、原判決が右主張を事実摘示として掲げなかつたことは違法たる
を免れないが、結局右違法も判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、論
旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決の所論判旨は「取引元本極度額を超えて貸し出してもその超過部分は本件
取引とは別個の貸付であり、右超過部分につき保証人においてその責任を負うもの
ではない。」との趣旨を示すことが明らかであるから、これを上告人の原審におけ
る主張を誤解した事実摘示であるとする論旨は理由がない。
 同第三点について。
 所論は、本件手形取引約定は与信の限度額の定めがあつても根保証により担保す
べき極度額の定めはなく、かかる場合は、右限度額の定めは同時に当該与信契約に
ついてなされた根保証契約の一内容をなすものであり、右限度額までの取引による
債権のみを保証の対象とする趣旨と解すべきであり、また限度額をこえた取引につ
いては保証の責に任ずべき旨の特約がない以上保証の対象となすべきではないのに、
原審がなんら理由を示すことなく、かかる場合の保証責任につき、右限度額を超え
た取引による債務についても特約のない限り保証人は右限度額の範囲内において保
証の責に任ずべきものと判示したのは、根保証契約の性質につき判断を誤つた違法
があるという。
 しかし、原審は、本件手形取引約定の取引元本極度額三〇万円をこえた超過貸付
部分についてこれを右約定とは別個の貸付とする旨の特別の留保がなされなかつた
ことを確定しているのであり、このような場合に超過貸付部分を含めた本件約束手
形三通を以てした合計金五〇万円の手形貸付債務全額が右約定に基づく債務である
というを妨げないのであり、上告人は取引元本極度額の定めのある本件手形取引約
定について保証をなしている以上、右約定に基づく貸付額が右極度額を超えるに至
つても、右超過額を含めた全額につき右極度額の範囲内で保証の責を負うことは明
らかである。のみならず原審の確定したところによれば、上告人が本件手形取引約
定に際してなした保証は訴外Dが被上告人に対して負担する一切の債務に及ぶ旨を
約しているというのであるから、本件手形取引約定に基づく債務につき、訴外Dの
被上告人に対する相互掛金契約の解約返戻金およびその余の弁済金を控除した本訴
請求金額につき前記極度額の範囲内において上告人にその全額の支払義務があると
した原判決は正当である。所論は結局、独自の見解に基づき原審の判断を非難する
に過ぎず、所論引用の判例は事案を異にし本件には適切ではない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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