弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山本栄則、同近藤説男、同西村寿男、同渡瀬正員、上告復代理人飯田
秀郷の上告理由第一点について
 所論の点についての原審の認定判断は、原判決挙示の証拠及び説示に照らし、正
当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。それゆえ、論旨は採用
することができない。
 同第二点について
 原審は、(一)東京都世田谷区ab丁目c番d及びc番eの土地を含む付近一帯の
土地は、昭和一二年ごろからD耕地整理組合によつて耕地整理事業が進められ、測
量のうえ確定図が作成され、それに基づき各土地の境界点に御影石の境界石が埋め
られるなどして、昭和一八年ごろ、右事業は完成したが、右c番d及びc番eの両
土地は、相隣接するものとなつた、(二)被上告補助参加人は、昭和二八年一〇月二
一日、右c番dの土地を所有者Eから買い受け、同年一一月三日その引渡しを受け
たが、その際同補助参加人は、耕地整理事業の確定図、登記簿、公図等土地の境界、
範囲、面積を示すものを閲覧しなかつたものの、右買受け土地が第一審判決添付図
面(一)記載の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ハ)の各点を順次直線で結んだ
線で囲まれる部分の土地(以下「本件土地」という。)をも含み、その隣地c番e
との境界は同図面(ホ)、(ヘ)の各点を直線で結んだ線である旨を現地でEから
指示されてその引渡しを受けたものであり、同補助参加人はその後同年一二月ごろ、
右隣地との境界線に沿つて四目垣を設け、次いで昭和二九年一〇月ごろ、右c番d
の土地上に温室を建設した、(三)被上告人Bは昭和三五年三、四月ごろ、同補助参
加人からc番dの土地を買い受けその引渡しを受けたが、同被上告人もこの買い受
けた土地には本件土地が含まれているものと信じて自主占有を始め、昭和三七年三
月には本件土地上に第一審判決別紙第二物件目録記載(二)の建物を建築し、また、
前記c番eの土地との境界線に沿つて同目録(五)記載のブロツク塀を設置した、(
四)c番eの土地は上告人先代Fの所有であつたが、昭和三六年一月七日、同人の
死亡による相続により上告人がその所有権を承継した、(五)同補助参加人は、前記
のように、本件土地を含むc番dの土地を買い受けてその占有を開始した後これを
被上告人Bに売り渡すまでの六年余の間、隣地であるc番eの土地の所有者Fから
何ら異議の申出を受けることもなく、同人も同被上告人主張の前記(ホ)、(ヘ)
の各点を直線で結んだ線が両地の境界線であることを前提として、右隣地の耕作を
し両者間に別段の紛争はなかつた、との事実を認定したうえ、他に同補助参加人及
び同被上告人の過失を認めるべき特別の事情のない本件においては、同補助参加人
及び同被上告人が右のように本件土地の占有を順次開始するにあたり、同土地がc
番dの土地に含まれるものとして、その所有権を取得したと信ずるにつきいずれも
過失はなかつたと判断したのである。原審の右認定判断中同補助参加人の無過失に
関する点はともかく、被上告人Bの無過失に関する点は、原判決挙示の証拠関係に
照らし、正当として是認することができる。所論は、(イ)本件土地の時効取得を
主張するためには、時効援用者である被上告人側に、占有開始時期における無過失
を主張、立証する責任があるのにかかわらず、原審が反対に、相手方である上告人
側に過失の立証責任を負わせているのは、所論の法令及び判例に違反するものであ
るというけれども、原審は、証拠に基づいて被上告人Bの無過失を積極的に認定し
たものであつて、上告人に過失の立証責任を負わせたものでないことは、原判文上
明らかであるから、所論は採用の限りでない。また、(ロ)所論は、不動産の取引
において買主が登記簿を調査することは当然の社会常識であるのにかかわらず、こ
れを怠つた被上告人Bに過失がないとした原審の認定判断には、所論の違法及び判
例違反があるというけれども、右に述べたように、同被上告人が昭和三五年三、四
月ごろ、本件土地を含むc番dの土地を買い受けその占有を始めるに先だち、同被
上告人の前主である同補助参加人は、六年余にわたつて同土地の所有者としてこれ
を占有し、その間、隣地c番eの所有者との間に境界に関する紛争もないままに経
過していたのであつて、このような状況の下で同被上告人が同土地を買い受けその
自主占有を取得したものである以上、たとえ同被上告人において右買受けに際し登
記簿等につき調査することがなかつたとしても、同被上告人が自主占有を開始する
にあたつて過失はなかつたとする原審の判断に所論の違法はなく、また、所論引用
の判例は事案を異にし、本件に適切ではないから、この点の所論もまた理由がない。
そうすると、昭和三五年四月ごろから一〇年を経過したおそくとも昭和四五年四月
末日には被上告人Bにつき本件土地の取得時効が完成したものというべく、その結
果、たとえ本件土地がもともとc番eの土地の一部であつて、c番dの土地に含ま
れるものではなかつたとしても、同被上告人は本件土地の所有権を時効により取得
し、上告人は、同土地の所有権を失つたものということができ、これと結論におい
て同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。それゆえ、論旨はいず
れも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官岸盛一の反対意見があ
るほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官岸盛一の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由第二点について、多数意見と見解を異にし、論旨は、理由があり、
原判決は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるために本件を原審に差し戻すべきも
のと考える。以下その理由を述べることとする。
 土地の売買において、買主がその対象となつた土地の範囲、境界、面積について
登記簿、公図等を閲覧し、それに基づいて実地に調査をすれば、係争地が買受地に
含まれていないことを容易に知ることができたのにもかかわらず、右調査をしなか
つたため、係争地が買受地に含まれ、自己の所有に属すると信じて占有を始めたと
きは、特段の事情のない限り、買主は、右占有の始めにおいて無過失ではないと解
するのが相当である(最高裁判所昭和四二年(オ)第五九七号同四三年三月一日第
二小法廷判決・民集二二巻三号四九一頁、同裁判所同四九年(オ)第五二八号同五
〇年四月二二日第三小法廷判決・民集二九巻四号四三三頁参照)。そして、右の場
合には、買主が売買に当たつて売主から現地で境界石を指示され、縄延びのある土
地である旨の説明を受けたとか、買主が若年でその土地の事情に不案内であつたと
か、売主がいわゆる土地の有力者であつたとか、係争地についての前主の占有が数
年間継続し、その間、係争地の所有者から異議の申出もなかつたとかの事情は、右
の特段の事情に当たらないものといわなければならない。
 これを本件についてみると、原審の確定した事実関係は、多数意見の理由中に記
載するとおりであるというのである。原審は、右事実関係のもとにおいて、補助参
加人に占有の始めにおいて過失はなかつたとして同人から占有を承継した被上告人
は、昭和二八年一一月三日から一〇年の経過とともに本件土地の所有権を時効によ
り取得したと判断しているのである。しかしながら、補助参加人が前示のような経
緯でEからc番dの土地を買い受けるとともに本件土地をc番dの土地の一部であ
ると信じたとしても、右買受けに当たつて耕地整理確定図、登記簿、公図等に基づ
いて実地に調査すれば、c番dと同番eとの土地の境界が前記図面に記載の(ホ)
点と(ヘ)点を結んだ線ではなく、したがつて、本件土地がc番dの土地には含ま
れないことを容易に知り得たことが窺えるのである。そうすると補助参加人がc番
dの土地を買い受けるに当たり本件土地がそれに含まれるものと信じたことについ
ては、他に特段の事情のない限り、無過失であるとはいえないと解するのが相当で
ある。その土地の事情に不案内で若年であつた補助参加人がいわゆる土地の有力者
であるEから現地で境界石を指示され縄延びのある土地である旨の説明を受けたと
の事情は、右特段の事情に当たらない。また、被上告人Bが本件土地を占有するに
至つた事情についての原審の確定した事実関係も、多数意見の理由中に記載すると
おりであるが、多数意見は、右事実関係のもとにおいては、他に同被上告人の過失
を認めるべき特段の事情のない本件では、同被上告人が本件土地の占有を開始する
に当たり、同土地がc番dの土地に含まれるものとしてその所有権を取得したもの
と信ずるにつき過失はなかつたとした原審の判断を正当とする。しかし、同被上告
人がc番dの土地を買い受けるに当たり、耕地整理確定図、登記簿、公図等に基づ
き実地に調査をすれば、本件土地がc番dの土地に含まれていないことが容易に判
明したであろうことは、補助参加人が買い受けたときと何ら異なるものではなく、
補助参加人が六年余の間、平穏公然に占有を継続し、その間、他から異議の申出を
受けなかつたという事情は、同被上告人の無過失を推定すべき特段の事情とはなり
得ないものと考える。したがつて、原審が確定した事実関係のもとにおいては、同
被上告人が本件土地の占有を開始するに当たり、自己のものであると信ずるについ
て無過失であつたとすることはできない。
 このように、原判決が補助参加人及び被上告人Bがその占有を開始するに当たり
本件土地がc番dの土地に含まれるものであつて、自己のものであると信ずるにつ
いて無過失であつたとしているのは、民法一六二条二項の規定の解釈適用を誤り、
ひいては審理不尽、理由不備の違法をおかしたものというべきであつて破棄を免れ
ず、更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのが相当であると考える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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