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平成22年(受)第1280号所有権移転登記抹消登記手続等,賃料債権取立
請求事件
平成24年9月4日第三小法廷判決
主文
1原判決主文第2項(1)のうち上告人に対し2380
万円を超えて金員の支払を命じた部分及び同項(2)
の部分を破棄する。
2前項の各部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し
戻す。
3上告人のその余の上告を棄却する。
4前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人向田誠宏ほかの上告受理申立て理由第2について
1本件は,被上告人が,Aに対する金銭債権を表示した債務名義による強制執
行として,Aの上告人に対する賃料債権を差し押さえたと主張し,上告人に対し,
平成20年8月分から平成22年9月分までの月額140万円の賃料及び同年10
月分の賃料のうち76万0642円の合計3716万0642円の支払を求める取
立訴訟である。
2原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)Aは,平成16年10月20日,A及びその代表取締役が全株式を保有
し,同人が当時代表取締役を務めていた上告人との間で,Aが所有する第1審判決
別紙物件目録記載5の建物(以下「本件建物」という。)を,期間を同年11月1
日から平成36年3月31日まで,賃料を当分の間月額200万円と定めて賃貸す
る旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,上告人に本件建物を引
き渡した。
Aと上告人は,平成20年5月23日,本件賃貸借契約に基づく同年6月分以降
の賃料を月額140万円とする旨合意し,同月初め頃,当月分の賃料を毎月7日に
支払う旨合意した。
(2)被上告人は,Aに対し,3583万4564円及びこれに対する遅延損害
金の支払を命ずる執行力ある判決正本を債務名義として,本件賃貸借契約に基づく
賃料債権(ただし,平成19年4月1日以降支払期の到来するものから3716万
0642円に満つるまで)の差押えを申し立て,これを認容する債権差押命令(以
下「本件差押命令」という。)が,上告人に対しては平成20年10月10日に,
Aに対しては同月17日に,それぞれ送達された。
(3)上告人は,Aとの間で,平成21年12月25日までに,本件建物を含む
複数のA所有の不動産を買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を
締結し,その所有権移転登記を受け,売買代金3億7250万円をAに支払った。
(4)上告人は,上告人がAに対して本件売買契約に基づく売買代金を支払った
平成21年12月25日,本件賃貸借契約に基づく賃料債権は混同により消滅した
などと主張している。
3原審は,上告人が本件売買契約により本件建物の所有権の移転を受ける前に
本件差押命令が発せられており,本件賃貸借契約に基づく賃料債権は第三者の権利
の目的となっているから,民法520条ただし書の規定により,平成22年1月分
以降の賃料債権が混同によって消滅することはなく,被上告人は上告人からこれを
取り立てることができるなどと判断して,上告人に対し,原審口頭弁論終結時にお
いて支払期の到来していた平成20年8月分から平成22年1月分までの賃料合計
2520万円の支払並びに同年2月から同年9月まで本件賃貸借契約の約定支払期
である毎月7日限り各140万円及び同年10月7日限り76万0642円の各支
払を命じた。
4しかしながら,原審の判断のうち,被上告人が上告人から本件賃貸借契約に
基づく平成22年1月分以降の賃料債権を取り立てることができるとした部分は,
是認することができない。その理由は,次のとおりである。
賃料債権の差押えを受けた債務者は,当該賃料債権の処分を禁止されるが,その
発生の基礎となる賃貸借契約が終了したときは,差押えの対象となる賃料債権は以
後発生しないこととなる。したがって,賃貸人が賃借人に賃貸借契約の目的である
建物を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した以上は,その終了が賃料債権の差
押えの効力発生後であっても,賃貸人と賃借人との人的関係,当該建物を譲渡する
に至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして,賃借人において賃料債権が
発生しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情がない限
り,差押債権者は,第三債務者である賃借人から,当該譲渡後に支払期の到来する
賃料債権を取り立てることができないというべきである。
そうすると,本件においては,平成21年12月25日までにAが上告人に本件
建物を譲渡したことにより本件賃貸借契約が終了しているのであるから,上記特段
の事情について審理判断することなく,被上告人が上告人から本件賃貸借契約に基
づく平成22年1月分以降の賃料債権を取り立てることができるとした原審の判断
には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,以上の趣旨
をいうものとして理由があり,原判決のうち,上告人に対し平成20年8月分から
平成21年12月分までの賃料合計2380万円を超えて金員の支払を命じた部分
は破棄を免れない。そして,上記特段の事情の有無につき更に審理を尽くさせるた
め,上記の部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
なお,その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において
排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官寺田逸郎裁判官田原睦夫裁判官岡部喜代子裁判官
大谷剛彦裁判官大橋正春)

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