弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1群馬県知事が平成26年7月22日付けでした原告の公園施設
の設置期間の更新申請に対する不許可処分(群馬県指令都第aa
aaa-a号)を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1主文第1項に同旨
2群馬県知事は,原告が平成25年12月18日付けでした公園施設(県立公
園群馬の森における「記憶反省そして友好」の追悼碑)の設置期間の更新
申請に対し,これを許可せよ。
第2事案の概要
1本件は,戦時中に労務動員され,群馬県内で亡くなった朝鮮人(大韓民国及
び朝鮮民主主義人民共和国の人々を指す。以下,本判決において同じ。)労働
者を追悼する追悼碑(以下「本件追悼碑」という。)の被告が管理する県立公
園における設置許可を受けた団体から本件追悼碑に関する権利義務を承継した
と主張している権利能力なき社団である原告が,上記設置許可の期間満了に当
たり,群馬県知事に対し,都市公園法(以下「法」という。)5条1項に基づ
き,平成25年12月18日付けの本件追悼碑の設置期間の更新申請(以下「本
件更新申請」という。)をしたところ,同知事から平成26年7月22日付け
で設置期間の更新不許可処分(以下「本件更新不許可処分」という。)を受け
たため,本件更新不許可処分の取消し(以下「本件取消しの訴え」という。)
とともに,群馬県知事に対する本件更新申請の許可の義務付けを求めた(以下
「本件義務付けの訴え」という。)事案である。
2本件に関連する法令の規定
法の定め
(目的)
1条この法律は,都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて,都市
公園の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的
とする。
(定義)
2条
1項この法律において「都市公園」とは,次に掲げる公園又は緑地で,
その設置者である地方公共団体又は国が当該公園又は緑地に設ける公
園施設を含むものとする。
1号都市計画施設(都市計画法(中略)第4条第6項に規定する都市
計画施設をいう。(中略))である公園又は緑地で地方公共団体が
設置するもの(後略)
(2号略)
2項この法律において「公園施設」とは,都市公園の効用を全うするた
め当該都市公園に設けられる次に掲げる施設をいう。
(1号ないし5号略)
6号植物園,動物園,野外劇場その他の教養施設で政令で定めるもの
(7号以下略)
(3項略)
(都市公園の管理)
2条の3都市公園の管理は,地方公共団体の設置に係る都市公園にあって
は当該地方公共団体が(中略)行う。
(公園管理者以外の者の公園施設の設置等)
5条
1項第2条の3の規定により都市公園を管理する者(以下「公園管理者」
という。)以外の者は,都市公園に公園施設を設け,又は公園施設を
管理しようとするときは,条例(中略)で定める事項を記載した申請
書を公園管理者に提出してその許可を受けなければならない。許可を
受けた事項を変更しようとするときも,同様とする。
2項公園管理者は,公園管理者以外の者が設ける公園施設が次の各号の
いずれかに該当する場合に限り,前項の許可をすることができる。
1号当該公園管理者が自ら設け,又は管理することが不適当又は困難
であると認められるもの
2号当該公園管理者以外の者が設け,又は管理することが当該都市公
園の機能の増進に資すると認められるもの
3項公園管理者以外の者が公園施設を設け,又は管理する期間は,10
年をこえることができない。これを更新するときの期間についても,
同様とする
(4項略)
(許可の条件)
8条公園管理者は,第5条第1項(中略)の許可に都市公園の管理のため
必要な範囲内で条件を付することができる。
法施行令の定め
(地方公共団体が設置する都市公園の配置及び規模の基準)
2条
1項地方公共団体が次に掲げる都市公園を設置する場合においては,そ
れぞれその特質に応じて当該市町村又は都道府県における都市公園の
分布の均衡を図り,かつ,防火,避難等災害の防止に資するよう考慮
するほか,次に掲げるところによりその配置及び規模を定めるものと
する。
(1号ないし3号略)
4号主として一の市町村の区域内に居住する者の休息,観賞,散歩,
遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする都市公園,主
として運動の用に供することを目的とする都市公園及び一の市町村
の区域を超える広域の利用に供することを目的とする都市公園で,
休息,観賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供されるものは,
容易に利用することができるように配置し,それぞれその利用目的
に応じて都市公園としての機能を十分発揮することができるように
その敷地面積を定めること。
(2項略)
(公園施設の種類)
5条
(1項ないし4項略)
5項法第2条第2項第6号の政令で定める教養施設は,次に掲げるもの
とする。
1号植物園,温室,分区園,動物園,動物舎,水族館,自然生態園,
野鳥観察所,動植物の保護繁殖施設,野外劇場,野外音楽堂,図書
館,陳列館,天体又は気象観測施設,体験学習施設,記念碑その他
これらに類するもの
(2号及び3号略)
3前提事実(証拠を掲げた部分以外は,当事者間に争いがない。)
当事者
ア原告は,本件追悼碑の維持・管理を目的とする権利能力なき社団である
(甲3)。

を管理する地方公共団体である。
本件公園について
ア本件公園の設置目的等
本件公園(敷地面積26.2ヘクタール)は,被告が昭和49年10月
に群馬県高崎市に設置した「都市計画施設としての都市公園」(法2条1
項1号)であり,主として一つの市町村の区域内に居住する者の休息,鑑
賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする都市公園
(いわゆる総合公園(法施行令2条1項4号))に該当する。
本件公園の設置目的は,都市における良好な景観の形成,緑とオープン
スペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進
をはかることとされ,また,本件公園は,かつて日本陸軍の火薬製造所で
あった甲の跡地に設置されたものであり,敷地内には県立近代美術館や県
立歴史博物館が設置されているなど,群馬の歴史,文化を広く県民に伝え
る機能を有し,歴史と文化を基調としている。
イ本件公園の利用状況
本件公園は,県立近代美術館,県立歴史博物館はもとより,約4ヘクター
ルと広大な大芝生広場,日本庭園,わんぱくの丘などを有し,また平野部
における貴重な緑である平地林をはじめ数多くの樹木に囲まれている。
このため,本件公園は,地元高崎市民はもとより,多くの県民が,憩い
の場として利用しており,例えば平日は小学校や幼稚園等の遠足の場とし
て,休日は家族連れが大芝生広場で遊び,弁当を食べるという家族団らん
の場として利用されている。また,多くの県民が安全で手軽にウォーキン
グなどの軽スポーツができる場所として健康づくりのために日々利用して
いる。
本件公園の年間利用者数は,平成22年度が54万2871人,平成2
3年度が55万5278人,平成24年度は54万2586人,平成25
年度は50万4236人とされており,このうち平成25年度の利用者数
が減少した理由は台風と雪の影響によるものであると指摘されている(甲
5)。
本件追悼碑の設置許可
アA会(以下「建てる会」という。)は,平成16年2月25日,群馬県
知事に対し,わが国と近隣諸国,特に日韓,日朝との過去の歴史的関係を
想起し,相互の理解と信頼を深め,友好を推進するために有意義であり,
歴史と文化を基調とする本件公園にふさわしい公園施設であることなどを
理由として,本件公園に「記憶反省そして友好」の追悼碑と名称する
本件追悼碑を設置することを目的とし,設置期間を設置許可の日より10
年間とする公園施設の設置許可を申請した(甲13)。
イ群馬県知事は,同年3月4日,建てる会に対し,法5条2項に基づき,
設置期間を平成16年3月4日から平成26年1月31日までとして,本
件追悼碑の設置を許可(以下「本件設置許可処分」という。)した。同許
可には,法8条に基づき,「設置許可施設については,宗教的・政治的行
事及び管理を行わないものとする。」との公園施設設置許可に関する細部
事項としての条件(以下「本件許可条件」という。)が付された(甲13,
14)。
本件更新不許可処分に至る経緯
ア原告は,平成25年12月18日,群馬県知事に対し,法5条1項に基
づき,本件追悼碑建立の目的を維持し,継続することを理由として,本件
追悼碑の設置期間を平成26年2月1日から平成36年1月31日まで更
新する旨の本件更新申請をした(甲20)。
イ群馬県知事は,平成26年7月22日,要旨以下の理由で本件更新申請
を許可しない旨の本件更新不許可処分をした(甲31)。
建てる会の運営委員は,平成16年4月24日に本件公園内で開催さ
れた本件追悼碑の除幕式において,「碑文に謝罪の言葉がない。今後も
活動を続けていこう」と発言(以下「本件発言1」という。)した。
原告の事務局長は,平成17年4月23日に本件公園内で開催された
追悼式において,「強制連行の事実を全国に訴え,正しい歴史認識を持
てるようにしたい」と発言(以下「本件発言2」という。)するなどし
た。
原告の共同代表は,平成18年4月22日に本件公園内で開催された
追悼式において,「戦争中に強制的に連れてこられた朝鮮人がいた事実
を刻むことは大事,アジアに侵略した日本が今もアジアで孤立してい
る」,「このような運動を「群馬の森」から始め広めていこう」と発言
(以下「本件発言3」という。)した。
また,B群馬県本部委員長は,同日,「朝・日国交正常化の早期実現,
朝鮮の自主的平和統一,東北アジアの平和のために共に手を携えて力強
く前進していく」と発言(以下「本件発言4」という。)した。
B群馬県本部委員長は,平成24年4月21日に本件公園内で開催さ
れた追悼式において,「日本政府は戦後67年が経とうとする今日にお
いても,強制連行の真相究明に誠実に取り組んでおらず,民族差別だけ
が引き継がれ,朝鮮学校だけを「高校無償化」制度から除外するなど,
国際的にも例のない不当で非常な差別を続け民族教育を抹殺しようとし
ている」,「日本政府の謝罪と賠償,朝・日国交正常化の一日も早い実
現」と発言(以下,「本件発言5」といい,本件発言1ないし本件発言
5を併せて「本件各発言」という。)した。
本件各発言は,いずれも政治的発言であり,除幕式及び追悼式の一部
内容を政治的行事とするもので,「政治的行事及び管理」を禁止した本
件許可条件に反する行為である。このような違反行為が繰り返し行われ
た結果,本件追悼碑の設置目的は,日韓,日朝の友好の推進という当初
の目的から外れてきたと判断せざるを得ない。さらに,本件追悼碑は,
存在自体が論争の対象となり,街宣活動,抗議活動などの紛争の原因に
なっており,都市公園にあるべき施設としてふさわしくないと判断せざ
るを得ない。
以上により,本件追悼碑は,都市公園の効用を全うする機能を喪失し
ており,法2条2項の公園施設に該当しない。また,本件追悼碑は,法
5条2項1号の公園施設には該当せず,都市公園の機能の増進に資する
施設とは認められないから,同項2号の公園施設にも該当しない。
原告は,平成26年11月13日,本件訴訟を提起した。
4争点
原告が「法人でない社団」(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法29条)に
該当するか。
(原告の主張)
「C会」(以下「旧建てる会」という。)は,平成10年9月6日の結
成以後,本件追悼碑建立のために被告との協議を行っていたが,被告は,
平成14年11月18日,旧建てる会に対し,団体名から「強制連行」の
文言を削除してもらいたい旨要請した。旧建てる会は,被告の上記要請を
受け入れることとし,平成15年11月15日開催の第4回総会において,
建てる会と原告の2つの団体を結成することとした。その後,本件設置許
可処分を受けた建てる会は,本件追悼碑が完成した平成16年4月24日,
その権利義務を包括的に原告に承継させた上で解散した。
原告は,①団体としての組織を備え,②多数決の原則が行われ,③構成
員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,④代表選出の方法,総会
の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているのである
から,「法人でない社団」(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法29条)に
該当し,本件訴訟を提起する当事者能力がある。
(被告の主張)
原告の主張によれば,旧建てる会の議決により意思決定をして原告を結
成したことになるが,団体の結成がこのような手続をもってなされること
があるのか甚だ疑問である。
原告提出に係る原告の会則(甲3)は,原告が平成26年1月6日に被
告に対して提出した原告の会則(乙17)と記載内容が一致しておらず,
原告は有効な会則を定めていなかったと考えざるを得ない。そうすると,
原告は,代表選出の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主
要な点が確定しているとはいえないから,「法人でない社団」(行政事件
訴訟法7条,民事訴訟法29条)に該当せず,本件訴訟を提起する当事者
能力はない。
本件更新不許可処分の違法性
ア被告は,本件追悼碑について,特段の事情のない限り更新を許可すべき
義務があるか。
(原告の主張)
記念碑や追悼碑等の公園施設の設置許可を受けた者は,そこに思想・
表現上の利益や財産的利益を取得するから,当該設置許可を受けた者が
公園施設の設置期間の更新を欲するときは,処分行政庁は,新たな設置
許可申請の場合とは異なり,都市公園の管理上あるいは公益上の必要が
ある場合など特段の事由のない限り,公園施設の設置期間の更新を許可
すべき義務を負う。
原告は,建てる会からその権利義務を承継したのであるから,建てる
会が本件設置許可処分により本件追悼碑について取得した財産上及び思
想,表現上の利益を承継している上,本件追悼碑は,ある物事を記念し,
後世に伝えるという記念碑,モニュメントとしての性質を有するもので
あるから,被告が半永久的な更新を予定して本件設置許可処分をしたこ
とは明らかである。そして,本件更新申請の許否を判断するに当たり,
本件公園の管理上あるいは公益上の必要があるなどの特段の事情はない
から,被告は,本件更新申請を許可すべき義務を負っていたのであり,
同義務に反してなされた本件更新不許可処分は被告の裁量権を逸脱又は
濫用したものとして違法である。
(被告の主張)
法5条3項は,公園管理者以外の者が公園施設を設け,又は管理する
期間は10年を超えることができない旨を規定しており,同条項の趣旨
は,同一の者が何らの手続もせずに長期にわたって公園施設を設置又は
管理することは,当該都市公園における当該公園施設の役割や許可の前
提となった事実関係が変化することなどが想定されることから適当では
なく,このような変化等に応じ許可の必要性を定期的に検討することが
できるようにするという点にある。また,原告が本件設置許可処分の条
件に違反した場合には,被告は許可を取り消すことができる旨の条件が
付されていること,原告は,被告の指導に応じた原状回復のために必要
な資金として50万円を定期預金として積み立てているなど,設置期間
が更新されないことを前提とした措置が講じられていることを考慮すれ
ば,被告が更新を許可すべき義務を負うとはいえない。
仮に,被告が,本件更新申請に対し特段の事由のない限り,許可すべ
き義務を負うとしても,①本件追悼碑前で政治的発言が繰り返され,除
幕式及び追悼式の一部内容は政治的行事となり,原告が本件追悼碑を政
治的に利用した結果,本件追悼碑自体が,当初の設置目的から外れ,政
治的な性質を帯び,政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用され,
特定の主義主張を伝達するための施設に該当するに至ったと判断される
こと,②本件追悼碑は,存在自体が論争の対象となり,街宣活動,抗議
活動などの紛争の原因になっており,県民憩いの場として,心身を休め
たり,自由な時間を楽しめるようにするという本件公園にあるべき施設
としてふさわしくないと判断されることからすれば,被告が,更新を許
可すべき義務を負わない特段の事情がある。
イ本件許可条件が,原告の表現の自由を侵害し,憲法21条1項に違反し,
無効か。
(原告の主張)
本件公園は,伝統的パブリックフォーラムに該当する施設であり,本
件公園において,多様な表現活動や思想伝達の手段となる公園施設は,
本来的な都市公園の効用を増進させるものとして広く許容されていると
解すべきであるところ,本件追悼碑について,政治的行事及び管理を行
わないものとすると定める本件許可条件は,本件公園のパブリック
フォーラムとしての意義を没却し,本件公園内での原告の表現の自由を
著しく制約するものであるから,憲法21条1項及び法の趣旨に反し,
無効である。
また,本件各発言は,憲法21条1項により保障される表現行為であ
るから,本件各発言を規制する本件許可条件は,明確でなければならず,
規制の範囲が過度に広範なものであってはならない。
被告は,「政治的行事」とは,政治上の主義若しくは施策を推進し,
支持し,若しくはこれに反対し,又は公職の候補者,特定の政党その他
の政治団体,特定の内閣等を推薦し,支持し,若しくはこれに反対する
ような目的のために行う行事をいい,「本件追悼碑に係る政治的発言」
とは,本件追悼碑を利用して,碑文に謳われている主旨や内容と違う独
自の主義主張を訴え,広めていこうとする一連の行動をいうなどと主張
するが,本件許可条件から被告主張の解釈ないし基準を読み取ることは
できない。よって,本件許可条件は,それ自体不明確であり,規制範囲
は漠然としているというほかない。加えて,上記被告の解釈を前提とす
ると,本件追悼碑に係る政治的発言により追悼式は全て政治的行事にな
り,原告ではコントロールできない来賓の発言までもが規制の対象と
なっていることになり,過度に広範な規制といわざるを得ない。
したがって,本件許可条件は,原告の表現の自由を侵害し,憲法21
条1項に違反し,無効である。
なお,本件許可条件が合憲限定解釈により有効となる余地も一概に否
定できないが,表現の自由を最大限保障する観点からすれば,本件許可
条件が規制する「政治的行事」は「公園の管理が具体的に阻害されるよ
うな態様の政治的行事」に限定されるべきである。被告が問題視する除
幕式及び各追悼式は,いずれも平穏のうちに開催されて終了しており,
公園の管理や都市公園の機能を具体的に阻害する態様のものではなかっ
たのであるから,本件許可条件違反の事実は認められない。
(被告の主張)
本件許可条件によって禁止されるのは,原告が本件追悼碑を宗教的・
政治的に利用することであって,本件公園内であっても,原告が本件追
悼碑と関係なく集会や表現を行うことは何ら禁止されないから,本件許
可条件は原告の表現の自由を制約するものではない。そもそも,法の沿
革や目的,都市公園が一般公衆の自由な利用に供する目的をもって設置
される公共施設であること並びに関係法令において都市公園を住民の思
想伝達の場として機能させることに着目した規定が見当たらないことを
踏まえれば,政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用される記念
碑は,一般に,都市公園の効用を全うしないと考えられるから,本件公
園に設置される追悼碑の思想伝達の機能などというものは考慮すべきで
はない。
また,本件許可条件は,被告が一方的に定めたものではなく,原告と
被告の合意により定めたものであるから,この点からも本件許可条件が
無効となる余地はない。
被告は,本件追悼碑が戦争中に群馬県内で亡くなった朝鮮人を追悼し,
過去の歴史の事実を記すものであれば,その追悼碑は,日韓,日朝の友
好推進に有意義なものであり,歴史と文化を基調とする本件公園の効用
を全うすると考えていた。しかし,政府見解として認めていない「強制
連行」という表現が本件追悼碑の設置団体の名称に含まれたり,碑文に
記載されたりすれば,本件追悼碑が,戦争中に群馬県内で亡くなった朝
鮮人を追悼し,過去の歴史の事実を記すという意味合いを超え,政治上
の目的又は宗教上の目的等のために利用され,特定の主義主張を伝達す
るための施設に該当してしまい,本件公園の効用を全うしないと考えら
れたことから,被告は,旧建てる会に対し,多くの方々の賛同を得られ
るものとするという基本方針の下,「強制連行」という言葉が使用され
た旧建てる会の団体名や碑文の内容について見直すよう助言した。上記
本件許可条件が付された経緯を踏まえれば,原告は,本件追悼碑前で行
われた発言に,碑文に謳われている主旨や内容と異なる独自の主義主張
が含まれれば,当該発言は政治的発言に該当し,除幕式及び追悼式の一
部内容が本件許可条件に違反する政治的行事に当たることを認識し又は
十分認識可能であったというべきである。したがって,本件許可条件が
漠然で不明確であるとか,過度に広範であるなどということはできない。
本件追悼碑とその利用に対しては,上記のとおり憲法上の保障が及ば
ない以上,合憲限定解釈の必要はないが,上記のとおり「記念碑」(法
2条2項6号,法施行令5条5項1号)は,たとえ平穏な態様であって
も,政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用されるものであって
はならないと解されるから,「政治的行事」は公園の管理が具体的に阻
害されるような態様の政治的行事に限定されるとの原告の主張は妥当で
ない。また,政治的発言をする者が原告の構成員である場合と来賓であ
る場合とで差異はないから,来賓の発言も本件許可条件により制約を受
けるというべきである。
ウ本件更新不許可処分が,原告の表現の自由を侵害し,憲法21条1項に
違反し,無効か。
(原告の主張)
本件追悼碑は,伝統的パブリックフォーラムに該当する本件公園にお
いて,思想伝達の機能を営むものであるから,本件追悼碑を設置する行
為自体が憲法21条1項により保障される表現行為であるということが
できる。よって,本件更新不許可処分は,除幕式,追悼式での発言を規
制するだけでなく,原告から本件追悼碑による原告の表現の場を奪うも
のとして,原告の表現の自由を制約するものであり,その違憲性が問題
となる。
表現の自由の価値及び本件公園が伝統的パブリックフォーラムに該当
することからすれば,本件更新不許可処分の合憲性は,規制目的にやむ
にやまれぬ正当性があり,規制手段が必要最小限度であるかという観点
から厳格に判断されるべきであり,さらに,反対勢力や集会に敵意をも
つ観衆の存在によって治安妨害が発生するおそれのある場合について
は,正当な権利の行使を法律上弾圧すべきでないという原則(敵意ある
聴衆の法理)からすれば,本件更新不許可処分は,警察の警備等でも混
乱を防止することができないような明らかな差し迫った危険が具体的に
予見されることを要するというべきである。
①本件各発言は,都市公園の健全な発達や公共の福祉の増進,公序良
俗を阻害するものとはいえないこと,②仮に,本件追悼碑が,政治的行
事に利用されたとしても,日韓,日朝の友好の推進に有意義であるとい
う本件追悼碑の設置意義が失われるわけではないこと,③論争や紛争の
原因となっている本件追悼碑の碑文の内容は,本件更新不許可処分の理
由とはならず,他方で,本件追悼碑を撤去したからといって論争や紛争
の根本的解決にもならないこと,④公開討論の場でもある都市公園に論
争や紛争はつきものであり,過激な論争や紛争のおそれは,公園の管理
規則,監視体制の強化又は警察の警備等の他の手段で対応すべきもので
あることからすれば,本件更新不許可処分は,規制手段が必要最小限度
ということはできない。よって,本件更新不許可処分は,原告の表現の
自由を侵害し,憲法21条に違反し,無効である。
(被告の主張)
前記のとおり「記念碑」(法2条2項6号,法施行令5条5項1号)
は,政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用されるものではない
ものに限定されるというべきであり,本件公園に設置される追悼碑の思
想伝達の機能というものは考慮すべきではない。また,都市公園内に追
悼碑を設置する行為は,都市公園という公共の場所を継続的に占拠する
態様の行為であって,表現方法として一般的とはいえず,本件追悼碑を
設置する行為は憲法21条1項により保障されるものではないから,本
件更新不許可処分は,原告の表現の自由を制約するものとはいえない。
仮に,本件更新不許可処分が原告の表現の自由を制約するものである
としても,本件許可条件は,本件設置許可処分の前提として不可欠の許
可条件であり,原告としてもその重要性を十分に認識していたものであ
るから,このような重要な許可条件に対する重大な違反行為に対して,
重い処分を行ったからといって,均衡を失することにはならない。さら
に,本件公園を利用する県民の安全,安心を確保し,県民の自由な利用
に供するという目的を踏まえれば,本件更新不許可処分以外の手段を選
択する余地はなかったのであり,本件更新不許可処分は,規制手段とし
て,過剰なものではない。
よって,本件更新不許可処分は,原告の表現の自由を侵害しない。
エ本件更新不許可処分が,憲法31条に違反し,無効か。
(原告の主張)
本件更新不許可処分は,原告の表現の自由を制約するものであり,し
かも,本件追悼碑による表現行為を完全に奪うものであり,原告に対す
る制約の程度は甚大である。一方,本件更新不許可処分によって得られ
る憩いの場としての都市公園の効用は,憲法上,特段重要な利益とまで
はいい難い上,毀損された効用の回復は本件追悼碑の撤去以外の方法で
も達し得るし,現状でも実際に支障をほとんど生じていないから,撤去
という方法をとる緊急性もない。したがって,本件追悼碑の設置期間の
更新手続には,憲法31条の定める適正手続の保障が及ぶ。
しかるに,群馬県知事は,原告に対し,ただ本件追悼碑の撤去を求め
るばかりであり,原告の群馬県知事との会談の申入れにも何ら回答する
ことなく,本件更新不許可処分を行っており,原告に弁解や防御の機会
が十分に与えられたとは到底いい難いから,本件更新不許可処分は,憲
法31条に違反し,無効である。
(被告の主張)
前記のとおり,本件更新不許可処分は,原告の表現の自由を制約する
ものとはいえないから,原告の主張は本件更新不許可処分が原告の表現
の自由を制約することを前提としている点で前提を欠いている。
本件更新不許可処分は,条例に則って行われており,何ら手続的瑕疵
はない。本件更新不許可処分に当たっては,群馬県知事に代わり,D副
知事(当時。以下「D副知事」という。)が,少なくとも4回の意見交
換をしており,原告に対しては,弁解や防御の機会が十分に付与されて
いたといえる。
オ原告が,「宗教的・政治的行事及び管理」を行ったか。
(被告の主張)
本件各発言は,いずれも碑文に謳われた主旨や内容と異なる独自の主
義主張が含まれており,政治的発言に該当し,除幕式及び追悼式の一部
内容は,本件許可条件に違反する政治的行事である。
原告は,被告からの照会に対して,「一部来賓の挨拶に,不適切な発
言があったことは認めざるを得ない」,「日本人の感覚からは,一部違
和感を抱く部分もありました。」と回答して,本件許可条件に抵触する
行為を行ったことを認めていること,原告は,来賓であったB(以下「B」
という。)群馬県本部委員長が政治的発言を行った後も,同委員長を追
悼式に出席させていること,原告が,平成26年7月11日,被告に対
して,本件許可条件違反の事実を争うことはせず,本件追悼碑に係る敷
地の払下げ,又は,許可期間を短縮し,本件追悼碑の前では集会は行わ
ない等の条件付きで設置期間の更新許可処分をするなどの提案を行って
いることからすれば,原告が本件許可条件違反となる政治的行事を行っ
た事実があることは明らかである。
原告は,被告が,平成27年4月30日付け被告準備書面において,
「被告が,本件追悼碑の管理状況について調査したところ,本件追悼碑
前において,①「碑文に謝罪の言葉がない。今後も活動を続けていこう。」
(中略)との各発言がなされたことが確認された。」,「各発言が政治
的発言に該当すると判断し(た)」と主張したのに対し,同年12月9
日付け原告第3準備書面において,「認める」と認否しており,E運営
委員(以下「E運営委員」という。)の本件発言1が,除幕式において
本件追悼碑前でなされたことを認めていたのであるから,自白が成立し
ている。
原告が提出する除幕式の動画(甲61),除幕式の式次第(甲59)
及び除幕式後に行われた追悼碑建立記念の集いの動画(甲64)は,E
運営委員が,除幕式において本件発言1をしたことの反真実性を立証す
るための証拠としては不十分であり,したがって,原告の自白が錯誤に
基づくものであるということもできないから,自白の撤回は許されない。
仮に,原告の自白について反真実性を認める余地があったとしても,
原告は,本件訴訟の提起時から,E運営委員の本件発言1が除幕式でな
されたものではないことを主張することが十分に可能であったにもかか
わらず,本件訴訟提起後約2年もの間,E運営委員の本件発言1が除幕
式においてなされたことを前提として訴訟活動を行っていた。そうする
と,原告は,故意又は重過失により自白を繰り返していたというべきで
あって,錯誤を否定すべき特段の事情があるから,自白の撤回は許され
ないというべきであるし,また,原告の自白の撤回の主張は,時機に後
れた攻撃又は防御方法として許されないというべきである。
(原告の主張)
被告は,E運営委員が平成16年4月24日開催の除幕式において,
「碑文に謝罪の言葉がない。今後も活動を続けていこう。」との本件発
言1をしたことを本件更新不許可処分の理由とするようであるが,E運
営委員は,除幕式において本件発言1をしておらず,本件更新不許可処
分は,処分の前提に重大な事実誤認があったことが明らかである。
原告が,被告の「本件追悼碑前において,①「碑文に謝罪の言葉がな
い。今後も活動を続けていこう。」(中略)との各発言がなされたこと
が確認された。」,「各発言が政治的発言に該当すると判断し(た)」
という主張に対し,「認める」と認否したのは,被告が,本件追悼碑の
管理状況等について調査を開始し,調査の過程で除幕式においてE運営
委員による本件発言1がなされたことを確認したという事実経過(各発
言を認識した経過)に対して認否したにすぎず,実際に除幕式において
E運営委員が本件発言1をした事実についてまで認めたものではないか
ら,E運営委員が本件発言1をした事実については,自白は成立してい
ない。
仮に,E運営委員が本件発言1をしたことについて,自白が成立して
いるとしても,上記事実が真実でなく,原告の自白は錯誤に基づいてな
されたものであることは明らかであるから,原告は自白を撤回する。
仮に,被告の主張する「政治的行事」の定義を前提としても,本件発
言1ないし本件発言3は,いずれも碑文に謳われている主旨や内容と異
なる独自の主義主張ではなく,朝鮮に対する植民地支配や労務動員に対
する謝罪の意を示した平成7年8月15日の村山内閣総理大臣(当時)
の「戦後50周年の終戦記念日にあたって」の談話(いわゆる村山談話)
や平成14年9月17日の小泉内閣総理大臣と金正日委員長(いずれも
当時)による日朝平壌宣言とも合致するものである。また,本件発言2
及び本件発言3中の「強制連行」という言葉は,確立した歴史学上の用
語として一般的に使用されている上,過去の歴史的事実を表現する意味
合いを超えるものではないから,「強制連行」という言葉が含まれるこ
とをもって,碑文に謳われている主旨や内容と違う独自の主義主張とい
うこともできない。したがって,本件発言1ないし本件発言3は,いず
れも本件追悼碑に係る政治的発言と評価することはできない。
本件各発言のうち,本件発言4及び本件発言5は,追悼式に参加した
来賓の発言であるが,そもそも来賓は,自らの立場で発言するものであっ
て,式の主催者が事前に来賓の発言内容をチェックし,その内容をコン
トロールすることなどしないし,来賓の発言内容に関して,事後的に抗
議することなど極めて礼節を欠く行為であるから,原告が本件発言4及
び本件発言5に対して,抗議しなかったことをもって,各発言を利用し
たと評価することはできず,本件追悼碑を政治的に利用したと評価する
こともできない。
仮に,除幕式及び追悼式において,本件各発言がなされた事実があり,
「追悼碑に係る政治的発言」と評価されたとしても,本件各発言はあく
まで発言であり,行事ではないし,除幕式及び追悼式を分断してその一
部分のみを「政治的行事」と評価することはできないから,本件各発言
が「政治的行事」になることはなく,除幕式及び追悼式の一部内容が「政
治的行事」になることもない。また,除幕式や追悼式は,労務動員の結
果,群馬県内において亡くなった朝鮮人を悼む目的で行われるものであ
り,式に参加した関係者から社会情勢や政治に関する単発的な発言が
あったとしても,除幕式や追悼式自体の目的が政治的な目的に変化する
ものではないから,本件追悼碑に係る政治的発言がなされたことをもっ
て,除幕式及び追悼式を「政治的行事」と評価することもできない。
よって,原告が政治的行事を行ったということはできず,本件許可条
件違反の事実はない。
カ原告が本件許可条件に違反したことにより,本件追悼碑が都市公園の効
用を全うする機能を喪失し,「公園施設」(法2条2項)に該当しなくなっ
たということができるか。
(被告の主張)
上記のとおり,本件追悼碑前では,政治的発言が繰り返され,一部内
容が本件許可条件に違反する政治的行事である除幕式及び追悼式が行わ
れていたことから,本件追悼碑は,日朝,日韓の友好推進に有意義なも
のであるという当初の設置目的から外れ,それ自体が政治的な性質を帯
び,政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用され,特定の主義主
張を伝達するための施設に該当するに至ったというべきである。また,
本件追悼碑は,存在自体が論争の対象となり,街宣活動,抗議活動など
紛争の原因となっており,県民の憩いの場として,心身を休めたり,自
由な時間を楽しむという本件公園にあるべき施設としてはふさわしくな
くなっていた。
本来,公園施設の設置期間の更新許可処分を行うに当たっては,当該
公園施設が,都市公園の効用を全うする機能を有しているかを再検討す
ることになるが,許可条件違反行為があったか否かは,1つの考慮要素
にすぎず,許可条件違反がなくても当該施設が都市公園の効用を全うす
る機能を喪失したと判断されることがあり得るし,反対に許可条件違反
行為があったとしても,当該施設が都市公園の効用を全うする機能を有
していると判断されることもあり得る。しかし,本件では,①記念碑が
都市公園の効用を全うするといえるためには,政治上の目的又は宗教上
の目的等のために利用されるものであってはならないこと,②本件許可
条件を付さなければ,本件追悼碑は都市公園の効用を全うするものとは
認められなかったこと,③本件許可条件が原告との合意により設けられ
たものであることからすれば,本件許可条件違反の事実が認められた場
合には,例外なく,本件追悼碑は都市公園の効用を全うする機能を喪失
したものと考えるべきである。
以上により,本件追悼碑は,都市公園の効用を全うする機能を喪失し,
「公園施設」(法2条2項)に該当しなくなったというべきである。
(原告の主張)
原告は,平成16年に除幕式を開催し,その後毎年,追悼式を開催し
てきたが,平成24年まで被告から本件許可条件違反を指摘されたこと
はなく,被告は,同年5月には原告の追悼式に関する朝鮮新報の記事を
確認していたにもかかわらず,平成25年12月まで原告に対する照会
等を行っていないこと,本件追悼碑の撤去を求める団体(以下「抗議団
体」という。)等から被告に寄せられた苦情や意見の内容は,いずれも
本件追悼碑の碑文の内容を問題とするものであることからすれば,仮に,
本件追悼碑が論争の対象となったとしても,それは抗議団体等による抗
議活動を原因とするものであり,本件追悼碑前で政治的発言がなされた
ことを原因とするものではないというべきである。また,本件追悼碑前
で政治的発言がなされたとしても,本件追悼碑に日朝・日韓の友好推進
に有意義な価値があることや群馬における過去の歴史を県民に伝えてい
くという価値があることに何ら変わりがないから,本件追悼碑の設置目
的が変化することはないし,依然として,本件追悼碑は本件公園の都市
公園としての効用を増加させるものである。さらに,被告が政治的発言
として問題視する本件各発言がなされた後も,本件公園の利用者数及び
利用形態に特段の変化はないし,未だ公園利用者に危害が生じるような
おそれのある事態が生じたことはないから,本件追悼碑が県民憩いの場
としての本件公園にふさわしくなくなったということもできない。
以上によれば,本件追悼碑が本件公園の都市公園としての効用を全う
する機能を喪失し,「公園施設」(法2条2項)に該当しなくなったと
いうことはできない。
キ被告が,原告の期間更新に対する合理的な期待や利益を不当に害するこ
とがないように配慮する義務に違反したか。
(原告の主張)
原告は,本件設置許可処分当時,本件許可条件である「政治的行事」
の意味について,被告から何らかの説明や指導を受けたことはなく,除
幕式及び追悼式の出席者の挨拶が,内容によっては「政治的行事」に当
たり,本件許可条件違反となったり,強制連行との言葉を使ってはなら
ないとの認識は全くなかったのであるから,原告には,本件追悼碑の設
置期間の更新に対する合理的な期待や利益があったというべきである。
そうすると,群馬県知事は,本件設置許可処分による本件追悼碑の設
置期間の満了に当たり,本件各発言を理由として更新不許可処分をする
ことは許されず,原告に対して,本件各発言が,本件許可条件違反に当
たる旨を指摘するとともに将来に向けて指導を行った上,一定期間につ
いて更新を認めるなどの配慮をすべき義務があったというべきである。
群馬県知事は,上記配慮義務を懈怠して,本件設置許可処分の更新時
期を間近に控えた平成26年1月に突然,本件追悼碑前で「政治的発言」
がなされ,「政治的行事」がなされたことを理由に本件更新不許可処分
を行ったのであるから,本件更新不許可処分は違法である。
(被告の主張)
行政庁に配慮義務が課されるためには,少なくとも処分が目的を達成
するための手段として過剰であることが必要であるというべきであり,
その上で処分に至る経緯等から行政庁に配慮義務を課すことが相当であ
るといえるような事情があることが必要である。
本件更新不許可処分は,本件公園を訪れる一般市民の安全・安心を確
保することのみならず,一般公衆の自由な利用に供するために設置され
る公共施設という性質を維持することや本件公園の健全な発達を図るこ
とをも目的としているところ,本件更新不許可処分は,上記目的を達成
するための手段として過剰であるということはできないし,群馬県知事
に配慮義務を課すことが相当であるといえるような事情も存在しないこ
とから,群馬県知事が原告に対する配慮義務を負っていたということは
できず,本件更新不許可処分に配慮義務違反の違法はない。
ク本件更新不許可処分は比例原則に違反するか。
(原告の主張)
本件許可条件の目的は,公園利用者の安全,安心をしっかり確保し,
県民が健やかに利用できるようにすることにあると解されるところ,確
かに,本件追悼碑前で政治集会が開催されれば,現場で政治的な意見を
異にする者との間で騒動が起き,その場に居合わせた公園利用者の安全
等が害されるおそれは否定できないが,そのような危険は,本件追悼碑
前で政治集会が開催されなければ生じないものであるから,あえて本件
追悼碑を撤去する必要性はない。本件追悼碑をめぐる紛争の原因は,本
件追悼碑それ自体にあるのではなく,仮に,紛争が生じた原因があると
すれば,世論の趨勢ないし社会情勢である。
したがって,公園利用者の安全,安心を守るという本件許可条件の目
的を達成するためには,原告に対し,本件追悼碑前での追悼式を行わな
いように指導すれば足り,本件追悼碑自体を撤去する必要性はないので
あるから,本件更新不許可処分は,本件許可条件の目的を達成するため
の手段として必要な限度を超えており,比例原則に反し,違法である。
(被告の主張)
本件更新不許可処分は,公園利用者の安全,安心を確保する必要があ
ることのみを理由としてなされたものではなく,本件追悼碑自体が,政
治的な性質を帯び,政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用され,
特定の主義主張を伝達するための施設に該当するに至ったと判断された
ためになされたものである。
上記のとおり,本件許可条件は,極めて重要な本件追悼碑設置の前提
として不可欠の許可条件であったのであり,原告としても本件許可条件
の重要性を十分に認識していたのであるから,本件許可条件に違反した
事実が認められた場合には,本件追悼碑は例外なく本件公園の効用を全
うする機能を喪失し,更新不許可処分以外を選択することは不可能とい
うべきであり,まして原告は少なくとも本件許可条件に違反する行為を
4回も繰り返していたのであるから,本件更新不許可処分が比例原則に
違反するということはできない。
群馬県知事が,本件更新申請に対する許可処分をしないことが,裁量権の
逸脱又は濫用となるか。
(原告の主張)
上記のとおり,本件更新不許可処分には取り消されるべき違法がある。
また,①群馬県知事は,本件追悼碑の設置期間を更新すべき義務を負うこ
と,②原告が本件許可条件に違反した事実はなく,本件許可条件違反があ
ることを理由とする本件更新不許可処分はその前提を欠くこと,③本件
追悼碑が未だ本件公園の効用を全うする機能を喪失した事実はなく,本件
追悼碑が「公園施設」(法2条2項)に該当しないことを理由とする本
件更新不許可処分はその前提を欠くことからすれば,群馬県知事は,本
件更新申請を許可すべき義務を負う。
(被告の主張)
上記のとおり,本件更新不許可処分は適法かつ妥当な処分であり,群馬
県知事は,本件更新申請を許可すべき義務を負わない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実,証拠(甲2,3,8,9,13,14,16,18~29,
31,47~48の12,甲52,53,56,58~63,乙1~4,11,
18,19,証人F(以下「証人F」という。),証人G(以下「証人G」と
いう。),証人D副知事)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
本件設置許可処分に至る経緯等
ア旧建てる会は,平成11年12月10日頃,群馬県知事宛てに,B群馬
県本部及びH(以下「H」という。)群馬県地方本部との連名による同日
付「群馬県朝鮮人・韓国人強制連行犠牲者追悼碑を建てる運動へのご支
援のお願い」と題する書面を提出して,「群馬県内の強制連行先で無念の
死を遂げた朝鮮人を追悼し,その碑を建立するとともに,労働現場となっ
た県内十余か所の各遺跡に,その実態を示す銘板を建立し,戦争遺跡とし
て保存を図るなどの運動」を行うための支援を要請し,また,平成12年
3月22日,上記追悼碑を建立する第1希望地として,戦時中の甲の跡地
である本件公園を希望する旨の要望書を提出した。
イ旧建てる会の共同代表であったIらは,平成13年2月14日,群馬県
議会議長宛てに,労務動員朝鮮人労働犠牲者追悼碑建立のため,県有地を
貸与してもらいたい旨の請願書を提出し,同請願は,同年6月12日,群
馬県議会において趣旨採択された。
ウ被告国保援護課及び都市施設課は,同年10月25日,旧建てる会に対
して「戦時中における労務動員朝鮮人労働犠牲者の追悼碑」の本件公園へ
の設置に関しては,「宗教的・政治的行事及び管理は一切行わない」こと
を含む11項目の条件について合意した後に占有手続等を行うこととする
旨を提案した。これに対し,旧建てる会は,同年12月11日,被告国保
援護課長及び都市施設課長宛てに,上記11項目の合意条件は全て合意で
きる旨の確認書を提出した。
エ原告は,平成14年4月頃,群馬県知事宛てに,碑文の案を提出した。
上記碑文案は,「強制連行」という言葉を使用し,政府が朝鮮人の強制的
動員を開始し,さらに国民徴用令による徴用を行ったことや群馬県内の軍
需工場等にも数千人の朝鮮人強制連行労働者が投入され,多数の犠牲者を
生んだことを訴える内容が含まれていた。
これに対して,被告国保援護課及び都市施設課は,平成14年11月1
8日頃,①追悼碑設置を申請する団体の名称は「群馬県労務動員朝鮮人労
働犠牲者追悼碑を建てる会」とすること,②碑名は「朝鮮人追悼碑」など
単純,明快なものとすること,③上記旧建てる会から提出された碑文案か
ら,政府が朝鮮人の強制的動員を開始し,さらに国民徴用令による徴用を
行ったことや群馬県内の軍需工場等にも数千人の朝鮮人強制連行労働者が
投入され,多数の犠牲者を生んだことを訴える部分を削除し,「強制連行」
の文言を「労務動員」に改めた被告修正案のとおり見直すよう助言した。
オ旧建てる会の内部では,申請団体名の名前や碑文から「強制連行」の文
言を削除することについて様々な議論がなされたが,本件公園に追悼碑を
建立することが大きな目的であり,強制連行の概念も労務動員の概念の中
に含まれるため妥協できるとの考えから,申請団体名の名前や碑文から「強
制連行」の文言を削除することとした。
旧建てる会は,平成15年11月15日開催の第4回総会において,県
有地の借用申請及び追悼碑の建立を行う団体として建てる会を結成し,追
悼碑の維持管理団体として原告を設立することを決議し,旧建てる会の構
成員らは,同日頃,建てる会及び原告を結成した。
カ建てる会は,平成16年2月25日,群馬県知事に対し,わが国と近隣
諸国,特に日韓,日朝との過去の歴史的関係を想起し,相互の理解と信頼
を深め,友好を増進し,歴史と文化を基調とする本件公園にふさわしい公
園施設であることなどを理由として,本件公園に「記憶反省そして友
好」の追悼碑と名称する本件追悼碑を設置することを目的とし,設置期間
を設置許可の日より10年間とする公園施設の設置許可を申請した。
キ群馬県知事は,同年3月4日,建てる会に対し,公園施設設置許可に関
する細部事項として「設置許可施設については,宗教的・政治的行事及び
管理を行わないものとする。」との本件許可条件を付した上で,設置期間
を平成16年3月4日から平成26年1月31日までとして,本件設置許
可処分をした。
ク本件追悼碑は,建てる会のJを発注者,K建築設計事務所を設計・監理
者,L株式会社及びM株式会社を施工業者として,合計570万円をかけ
て建設され,平成16年4月17日に完成した。
ケ原告は,同日頃,建てる会から,本件追悼碑の所有権及び本件設置許可
処分による権利義務を包括的に承継した。
原告の組織等
ア原告は,会の趣旨に賛同する個人である個人会員と,組織として会の趣
旨に賛同する団体である団体会員とで構成され,総会で選出される役員と
して代表委員,事務局長,事務局次長,運営委員,会計,会計監査が置か
れ,会の機構として総会と運営員会が設置されている。
総会は,年1回開催され,上記役員の選出のほか,活動報告・会計報告・
会計監査報告を審議し,次年度の活動計画・予算を審議決定するものとさ
れ,運営委員会は,適宜開催され,総会の決定に基づき,会の活動を具体
的に推進するとともに,本件追悼碑の設置許可の更新に関する事務を処理
するものとされている。
イ平成15年11月15日開催の旧建てる
会の第4回総会において,本件追悼碑の維持管理団体として設立すること
が決議され,旧建てる会の構成員らによって結成された後,役員等を変更
しつつ,現在まで活動を継続しており,原告の財産は,原告名義の預金口
座によって管理されている。
本件追悼碑及びその周辺の状況等
ア本件追悼碑は,鉄筋コンクリート造及び鉄骨造のモニュメントの外観を
もつ追悼碑である。本件追悼碑は,直径7.2mの円形の台座の上に設置
された高さ1.95m,幅4.5mの碑文壁,最高高さ3.98mの塔及
び同台座の外周に沿う形で設置された複数の円柱形の構造物によって構成
されている。
イ碑文壁の正面(西側)には,日本語,韓国語及び英語で「記憶反省そ
して友好」と記載された文字盤とレリーフ(絵)が取り付けられており,
碑文壁の裏面(東側)には,日本語及び韓国語で以下のとおり記載された
碑文が取り付けられている。
「追悼碑建立にあたって
20世紀の一時期,わが国は朝鮮を植民地として支配した。また,先の
大戦のさなか,政府の労務動員計画により,多くの朝鮮人が全国の鉱山や
軍需工場などに動員され,この群馬の地においても,事故や過労などで尊
い命を失った人も少なくなかった。
21世紀を迎えたいま,私たちは,かつてわが国が朝鮮人に対し,多大
の損害と苦痛を与えた歴史の事実を深く記憶にとどめ,心から反省し,二
度と過ちを繰り返さない決意を表明する。過去を忘れることなく,未来を
見つめ,新しい相互の理解と友好を含めていきたいと考え,ここに労務動
員による朝鮮人犠牲者を心から追悼するためにこの碑を建立する。この碑
に込められた私たちのおもいを次の世代に引き継ぎ,さらなるアジアの平
和と友好の発展を願うものである。
2004年4月24日
「記憶反省そして友好」の追悼碑を建てる会
碑文中「朝鮮」及び「朝鮮人」という呼称は,動員された当時の呼称を
そのまま使用したもので,現在の大韓民国,朝鮮民主主義人民共和国,及
び両国の人達に対する呼称である。」
ウ本件追悼碑が設置されている本件公園の北側西寄りの場所一帯は,樹木
が生い茂る散歩道であり,正面入口からは距離があるため,正面入口付近
に比べて,公園利用者の姿は少ない。
除幕式及び追悼式の状況
ア原告は,平成16年4月24日,本件追悼碑前で除幕式を開催した。除
幕式には,群馬県知事の代理人として被告の職員,H群馬県地方本部団長
及びB群馬県本部委員長らが出席して追悼の言葉を述べたほか,H中央本
部及びB中央本部の代表者らによる献花,朝鮮学校生徒らによる追悼歌の
合唱等が行われた。
また,原告は,除幕式の閉会後,本件公園の群馬県歴史博物館の視聴覚
室において,追悼碑建立記念の集いを開催した。同集いでは,E運営委員
が本件追悼碑設計の基本理念,レリーフ(絵)の説明をしたほか,これま
での活動の経過報告や今後の運動の提案等が行われた。
イ原告は,平成17年4月23日,本件追悼碑前で追悼式を開催した。原
告のJ事務局長(当時。以下「J事務局長」という。)は,同追悼式にお
いて,「強制連行の事実を訴え,正しい歴史認識を持てるようにしたい。」
との本件発言2をした。
ウ原告は,平成18年4月22日,本件追悼碑前で追悼式を開催した。原
告のN共同代表(以下「N共同代表」という。)は,同追悼式において,
「戦争中に強制的に連れてこられた朝鮮人がいた事実を刻むことは大事」,
「アジアに侵略した日本が今もアジアで孤立している。」,「このような
運動を「群馬の森」から始め広めていこう。」との本件発言3をした。
また,B群馬県本部のO委員長(当時。以下「O委員長」という。)は,
同追悼式において追悼の言葉を述べ,朝・日国交正常化の早期実現,朝鮮
の自主的平和統一,東北アジアの平和のために「共に手を携えて力強く前
進していく」旨の本件発言4をした。
エ原告は,平成19年から平成23年にも毎年1回,本件追悼碑前で追悼
式を開催した。
オ原告は,平成24年4月21日,本件追悼碑前で追悼式を開催した。B
群馬県本部のP委員長(当時。以下「P委員長」という。)は,同追悼式
において追悼の辞を述べ,「日本政府は戦後67年が経とうとする今日に
おいても,強制連行の真相究明に誠実に取り組んでおらず,民族差別だけ
が引き継がれ,朝鮮学校だけを「高校無償化」制度から除外するなど,国
際的にも例のない不当で非常な差別を続け民族教育を抹殺しようとしてい
る」,「日本政府の謝罪と賠償,朝・日国交正常化の一日も早い実現」の
ために活動していく旨の本件発言5をした。
本件更新不許可処分に至る経緯
ア平成16年5月8日付けの朝鮮新報WEB版は,同年4月24日開催の
本件追悼碑の除幕式に関する記事を掲載し,同記事において,E運営委員
が,「碑文に謝罪の言葉がない。今後も活動を続けていこう。」との本件
発言1をしたことが記載されている。
また,平成17年5月14日付けの朝鮮新報は,同年4月23日開催の
追悼式におけるJ事務局長の本件発言2に関する記事を,平成18年4月
25日付けの朝鮮新報は,同月22日開催の追悼式におけるN共同代表の
本件発言3及びO委員長の本件発言4に関する記事を,平成24年5月1
5日付けの朝鮮新報は,同年4月21日開催の追悼式におけるP委員長の
本件発言5に関する記事を,それぞれ掲載した。
イ被告都市計画課長であった証人Fは,同月頃,県民からの情報提供を受
けて,上記同月15日付けの朝鮮新報の記事を確認した。もっとも,証人
Fを含む被告の職員は,原告に対し,同記事の内容について,事実確認を
することはなかった。
ウ被告に対しては,同月以降,本件追悼碑の碑文の内容が事実でない,本
件追悼碑は即刻撤去すべきであるなどの抗議や意見の電話やメールが相次
いで寄せられるようになり,また,抗議団体の構成員らが被告国保援護課
に来庁し,本件追悼碑の碑文の内容について抗議したが,同課職員は,碑
文の内容は問題ない旨を回答した。
エ同年11月4日,抗議団体の構成員らが,群馬県高崎駅前で本件追悼碑
の撤去を求める街宣活動を行い,その後,本件公園に来園して園内にプラ
カードを持ち込むなどしたため,公園職員との間で小競り合いとなり,警
察が駆けつける騒ぎが発生した。また,抗議団体の構成員らは,平成26
年4月19日にも,本件公園の正面入口付近で本件追悼碑の撤去を求める
街宣活動を行った。
オD副知事は,平成25年3月頃,原告に対し,本件追悼碑をめぐって様々
な抗議や意見が集中しており,同年の追悼式を本件追悼碑前で開催した場
合に公園利用者の安全を確保できないおそれがあるため,同年の追悼式は
延期してもらいたい旨を要請した。
カ原告は,上記要請を受けて,同年の追悼式を群馬県高崎市所在の労使会
館で開催することとし,同年4月13日,同会館で追悼式を開催した。な
お,追悼式には,毎年,B群馬県本部の委員長も出席していた。
キ平成25年9月20日,群馬県内在住の男性から,「本件追悼碑の碑文
の内容が事実と異なり,これにより県民財産である県立公園の利用に関し
県民の利益が阻害されているだけでなく,虚偽の内容により県民の名誉感
情が大きく侵害されて」いるなどとして,本件設置許可処分を取り消し,
原状回復のための必要な措置を講ずべきことを求める住民監査請求がなさ
れたが,監査委員は,同年12月2日,同請求を却下した。
ク証人Fは,同年10月頃,前記ア記載の平成17年5月14日付けの朝
鮮新報,平成18年4月25日付けの朝鮮新報,平成24年5月15日付
けの朝鮮新報の記事をそれぞれ確認した。
ケ原告は,平成25年12月18日,群馬県知事に対し,法5条1項に基
づき,本件追悼碑建立の目的を維持し,継続することを理由として,本件
追悼碑の設置期間を平成26年2月1日から平成36年1月31日まで更
新する旨の本件更新申請を行った。
コ群馬県知事は,平成25年12月24日頃,原告に対し,上記アの各朝
鮮新報記載の記事が,事実と相違ないか否かについて報告を求めたところ,
原告は,平成26年1月6日,群馬県知事に対し,報告書を提出し,上記
アの各朝鮮新報記載の記事はいずれも事実と「相違ない」と回答し,平成
24年4月21日開催の追悼式におけるB群馬県本部のP委員長の本件発
言5について「在日朝鮮人の立場から行われたもので,表現の激越さなど,
日本人の私達から見ると違和感を覚えるものがある。」,平成16年5月
8日付けの朝鮮新報WEB版の記事の中には「取材した記者の主観が表出
し,極論ととられるおそれのある記述」がある旨を回答した。
群馬県知事は,平成26年1月10日,原告に対し,さらに上記アの各
朝鮮新報に記載された本件発言1ないし本件発言5が,政治的発言と考え
るか,また,平成24年4月21日開催の追悼式におけるP委員長の本件
発言5について発言の停止や抗議を行ったかなどについて報告を求め,平
成26年3月18日にも上記事項についての報告を求めた。
原告は,同月28日,被告に対し,群馬県知事の上記平成26年1月1
0日付け及び同年3月18日付けでなされた報告書の提出の求めは,「こ
れを素直に受け入れて回答することを躊躇させるもの」であり,本件更新
については,できるだけ早い許可を決断してもらいたい旨を求める回答書
を提出した。これに対して,群馬県知事は,同年5月8日,原告に対し,
上記同年3月28日になされた回答の内容には不十分な部分があるとし
て,再度の回答を求めた。
原告は,同年5月9日,被告に対し,「追悼集会のなかで,一部来賓の
挨拶に,不適切な発言があったことは認めざるを得ないと思いますし,私
たち,日本人の感覚からは,一部違和感を抱く部分もありました。」とし
つつ,あらためて本件更新については,できるだけ早い許可を決断しても
らいたい旨を求める回答書を提出した。
サ被告は,原告から本件更新申請に関する意見交換の場を設けてもらいた
い旨の要望を受けたため,同年1月27日及び同月31日,原告との間で
意見交換会を開催した。上記各意見交換会において,D副知事は,原告に
対し,上記ア記載の朝鮮新報の内容について,事実確認をした。
シ平成26年3月20日,「Q会」と称する団体の代表者らから群馬県議
会議長宛てに本件設置許可処分の取消しを求める旨の請願書が提出され,
また,同日には群馬県内在住の男性から,同年5月13日には「R会」,
「S会」と称する団体の代表者から,それぞれ本件設置許可処分の更新を
不許可とすることを求める旨の請願書が提出され,上記各請願は,いずれ
も同年6月16日,群馬県議会において採択された。
ス被告は,同年7月11日,原告との間で意見交換会を開催し,D副知事
は,原告に対し,本件更新を許可することは困難であることを伝え,本件
追悼碑を自主的に本件公園外に移転することを提案した。これに対し,原
告は,同提案を拒否し,被告に対し,①原告が本件追悼碑の敷地部分を買
い取ること,②被告が本件追悼碑の更新期間を1年ないし2年に短縮して
更新許可処分をすること,③被告は原告の10年の本件更新期間の更新申
請を許可する代わりに,原告は当分の間,本件追悼碑前での追悼式の開催
を自粛することを内容とする3つの代替案を提示した。
セD副知事は,同月22日開催の原告との意見交換において,原告の上記
代替案はいずれも受け入れることはできない旨を回答し,再度本件追悼碑
を自主的に本件公園外に移転することを提案したが,原告は,これを拒否
した。
原告は,同日,被告に対し,群馬県知事との意見交換会の開催を申し入
れたが,被告は,これを受け入れず,群馬県知事は,同日,本件更新不許
可処分をした。
2原告が「法人でない社団」(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法29
条)に該当するか。)について
「法人でない社団」(民事訴訟法29条)といい得るためには,団体として
の組織をそなえ,そこには多数決の原則が行なわれ,構成員の変更にもかかわ
らず団体そのものが存続し,その組織によって代表の方法,総会の運営,財産
の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない
(最高裁判所昭和39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号167
1頁)。
前記認定のとおり,原告は,会の趣旨に賛同する個人である個人会員と,組
織として会の趣旨に賛同する団体である団体会員とで構成されており,団体と
しての組織をそなえているといえる。証拠(甲53,54)によれば,原告は,
総会では役員の選出のほか,活動報告・会計報告・会計監査報告を審議してい
ること,次年度の活動計画・予算を審議決定していることが認められ,これら
の事実に照らすと,多数決原則によって意思決定がなされていたことが推認で
きる。また,原告は,平成15年11月15日開催の旧建てる会の第4回総会
において,本件追悼碑の維持管理団体として設立することが決議され,旧建て
る会の構成員らによって結成された団体であり,その後,役員等の変更はあっ
たものの現在まで団体として存続しており,代表機関として代表委員が定めら
れ,原告名義の預金口座によって原告の財産が管理されているのであるから,
団体としての主要な点が確定しているということができる。
被告は,原告提出に係る原告の会則(甲3)と原告が平成26年1月6日に
被告に対して提出した原告の会則(乙17)の記載内容が一致しておらず,原
告は有効な会則を定めていなかったと考えざるを得ないと主張する。
しかし,原告提出に係る原告の会則(甲3)では,第8条(付則)として,
「この会則は2003年11月15日から実施する。」と記載されているのに
対し,原告が被告に対して提出した原告の会則(乙17)では,第8条(付則)
として「この会則は2003年◯月◯日から実施する。」との不動文字で記載
されていたのを手書きで「11月15日」と訂正されていることからして,原
告が被告に対して提出した原告の会則(乙17)は,平成15年(2003年)
11月15日の設立以前に作成されたものであることがうかがわれ,単なる会
則案にすぎず,その後,修正を経て記載内容の異なる有効な会則(甲3)が作
成されたと合理的に推認することができるので,被告の上記主張は採用できな
い。
以上によれば,原告は,「法人でない社団」(民事訴訟法29条)に当たり,
本件訴訟の当事者能力が認められる。
3ア(被告は,本件追悼碑について,特段の事情のない限り更新を許可
すべき義務があるか。)について
原告は,処分行政庁は,記念碑や追悼碑等の公園施設の設置許可を受けた者
が当該公園施設の設置期間の更新を欲するときは,都市公園の管理上あるいは
公益上の必要がある場合など特段の事由がない限り,公園施設の設置期間の更
新を許可すべき義務を負うと主張する。
しかし,法5条3項は,公園管理者以外の者が公園施設を設け,又は管理す
る期間は,10年をこえることができないとし,更新するときの期間について
も同様である旨規定している。同項の趣旨は,同一の私人に途中で何らの手続
もさせずにあまりにも長期にわたって公園施設を設けさせたり管理させたり
すると,その関係が不明確になったり,当該私人がいつの間にか私物化してし
まうといった諸種の弊害を生ずることが予想されて好ましくないので,いかに
長くとも10年ごとに,公園管理者に更に同一私人に公園施設の設置又は管理
を継続させるべきか否かを検討させる機会と,その関係を改めて明確にする機
会を与えることによって都市公園の管理の適正を期する点にあると解される。
そして,公園管理者に公園管理者以外の者が継続して公園施設の設置又は管理
を継続させるか否かを検討させ,その法律関係を明確にする必要があること
は,当該公園施設が記念碑や追悼碑等の場合であっても異ならないというべき
である。
なるほど一旦公園施設の設置許可を受けた者が更新申請を行う場合には,従
前の設置により当該更新申請者が有するに至った経済的利益その他の利益に
配慮して更新の拒否を判断する必要があり,処分行政庁が,更新申請を拒否す
るためには,当該更新申請者に継続して公園施設の設置又は管理を行わせるべ
きでない特別の理由が必要であるというべきであるが,上記のとおり,法が,
設置期間を更新する場合には,新たな設置許可の場合と異なり原則として更新
を予定しているとまではいうことはできず,それ以上に一般的な義務として,
処分行政庁の更新義務を認めることはできない。原告が主張の根拠として挙げ
る裁判例は,いずれも本件とは事案を異にするものであって,原告の上記主張
は採用できない。
4争点(本件許可条件が,原告の表現の自由を侵害し,憲法21条1項に
違反し,無効か。)について
原告は,本件許可条件は,本件公園のパブリックフォーラムとしての意義
を没却し,本件公園内での原告の表現の自由を著しく制約するものであるか
ら,憲法21条及び法の趣旨に反し,無効であると主張する。
前記本件に関連する法令の規定のとおり,法は,5条において,公園管理
者以外の者が,公園管理者の許可を受けて,一定の公園施設を設けることが
できる旨を規定する一方で,8条において,公園管理者は,上記許可に都市
公園の管理のために必要な範囲内で条件を付することができる旨規定してい
る。そして,前提事実記載のとおり,本件公園は,都市住民全般の休息,
鑑賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする総合公園
であり,都市における良好な景観の形成,緑とオープンスペースの確保を通
じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進をはかることが設置目
的とされている。
このような法令の規定及び本件公園の設置目的を踏まえれば,都市公園の
効用を全うするために設けられる「公園施設」(法2条2項各号)も一般公
衆の多種多様で自由な利用に供する目的をもって設置されるべきであり,公
園管理者は,公園管理者以外の者に対して公園施設の設置を許可するに当た
り,法8条に基づいて,当該公園施設が一般公衆の多種多様で自由な利用に
供されるために必要な条件を付することもできるというべきである。
本件許可条件は,本件設置許可処分の公園施設設置許可に関する細部事項
として「設置許可施設については,宗教的・政治的行事及び管理を行わない
ものとする」ことを内容とするものである。公園施設が政治又は宗教上の目
的に利用された場合には,当該政治又は宗教上の意見,考え方と異なる意見,
考え方をもつ者が安心して心身を休めたり,自由な時間を楽しむことができ
なくなったり,ときには紛争の原因となるなどして,当該公園施設を一般公
衆の多種多様で自由な利用に供することが困難ないし不可能となることも想
定されることからすれば,本件許可条件は本件追悼碑が一般公衆の多種多様
で自由な利用に供されるための条件としての合理性が認められる。
そして,表現の自由といえども絶対無制約のものではなく,都市公園にお
ける公園施設の設置及び利用が何らの制限を受けないというものではないこ
と,本件許可条件によっても,原告が本件追悼碑に関わらない宗教的・政治
的集会及び表現活動を行うことは何ら規制されるものではなく,本件追悼碑
に関する集会及び表現活動であっても,宗教的・政治的行事及び管理に当た
るものでなければ,何ら規制されるものではないことからすれば,本件許可
条件が憲法21条及び法の趣旨に反するということはできず,原告の上記主
張は採用できない。
また,原告は,本件許可条件は,それ自体不明確であり,規制範囲は漠然
としているというほかなく,過度に広範な規制といわざるを得ないから,原
告の表現の自由を侵害し,憲法21条1項に違反し,無効であると主張する。
しかし,「宗教的・政治的行事及び管理」との文言がそれ自体直ちに不明
確であるということはできない。加えて,①旧建てる会は,平成13年12
月11日,被告国保援護課長及び都市施設課長宛てに,「戦時中における労
務動員朝鮮人労働犠牲者の追悼碑」の本件公園への設置に関しては,「宗教
的・政治的行事及び管理は一切行わない」ことを含む11項目の条件につい
て全て合意できる旨の確認書を提出していること,②Iらが同年2月14日
に行い,同年6月12日,群馬県議会において趣旨採択された請願は,「労
務動員」という言葉を用いて,労務動員朝鮮人労働犠牲者追悼碑建立のため,
県有地を貸与してもらいたい旨の請願であったこと,③これに対し,平成1
4年4月に,旧建てる会が,当時の群馬県知事宛てに提出した碑文の案では,
「強制連行」という言葉が用いられ,政府が朝鮮人の強制的動員を開始し,
さらに国民徴用令による徴用を行ったことにより,群馬県内の軍需工場等に
も数千人の朝鮮人強制連行労働者が投入されたことを訴える内容が含まれ
ていたこと,④被告国保援護課及び都市施設課は,同年11月18日頃,旧
建てる会に対し,上記訴えに係る部分を削除した上で,追悼碑設置を申請す
る団体名や碑文の案から,「強制連行」の文言を「労務動員」に改めること
などを助言したこと,⑤旧建てる会の内部では,申請団体名の名前や碑文か
ら「強制連行」の文言を削除することについて様々な議論がなされたが,本
件公園に追悼碑を建立することが大きな目的であり,強制連行の概念も労務
動員の概念に含まれるため妥協できるとの考えから,申請団体名や碑文の文
面から「強制連行」の文言を削除して本件追悼碑の設置の許可の申請を行っ
たことは,前記認定のとおりである。
「宗教的・政治的行事及び管理」との文言自体直ちに不明確とはいえない
だけでなく,上記の本件追悼碑の設置許可申請に至る経緯によれば,被告は,
本件設置許可処分に当たり,「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関
する主義主張を訴える行為をすべきではないとの考えの下で本件許可条件
を付したことが認められ,歴史認識に関する問題が国内外の政治問題にまで
発展することもあり得ることであるから,本件許可条件にいう「政治的行事」
には,少なくとも本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して,歴史
認識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事を含むものと解され,
かつ,そのことを原告も認識していたというべきである。
したがって,本件許可条件は,具体的場合に当該行事が本件許可条件違反
となる「政治的行事」か否かを判断することが十分に可能であり,その適用
を受ける原告の立場からみて,「強制連行」の文言を使用して歴史認識に関
する主義主張を訴えることを目的とする行事が「政治的行事」に当たること
は明らかであったということができるから,本件許可条件が不明確であり,
規制範囲が漠然としているということはできないし,「政治的行事」の意味
が上記のとおり解される限り,過度に広範な規制ということもできないか
ら,原告の上記主張は採用できない。
5争点(本件更新不許可処分が,原告の表現の自由を侵害し,憲法21条
1項に違反し,無効か。)について
原告は,本件更新不許可処分は,原告から本件追悼碑による原告の表現の場
を奪うものとして,原告の表現の自由を侵害し,無効であると主張する。
しかし,いかに碑の設置行為が表現行為の一態様であるとしても,特定の表
現手段による表現の制限が,表現者の表現の自由を侵害するものというために
は,表現者が,法的に当該表現手段の利用権を有することが必要と解されると
ころ,前記本件に関する法令の規定のとおり,法は,公園管理者以外の者に公
園施設を設置させ又は管理させるかを公園管理者の許可に委ねているので
あって,原告が,法律上,本件追悼碑を設置し,利用する権利を有していると
いうことはできない。したがって,本件更新不許可処分が原告の表現の場を奪
うものとして,原告の表現の自由を侵害する旨の原告の主張は,前提を欠き,
採用できない。
6争点(本件更新不許可処分が,憲法31条に違反し,無効か。)につい

原告は,本件追悼碑の設置期間の更新手続には憲法31条の定める適正手続
の保障が及ぶところ,本件更新不許可処分に当たって原告に弁解や防御の機会
が十分に与えられたものとは到底いい難いから,憲法31条に反し,本件更新
不許可処分は無効であると主張する。
憲法31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであ
るが,行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのす
べてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。そ
して,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,
行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分に
より達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定される
べきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするもので
はないと解するのが相当である(最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決・民
集46巻5号437頁参照)。
これを本件についてみると,原告は,本件更新不許可処分により本件公園に
おける本件追悼碑の設置を継続することができなくなるものであるが,本件更
新不許可処分が原告の表現の自由を侵害するものではなく,直ちに本件更新不
許可処分により制限を受ける原告の利益が重大であるということはできない
こと,申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該
申請をした者を名宛人としてされる処分については,不利益処分ではなく,告
知聴聞の機会の付与は処分の手続的要件とされていないこと(行政手続法2条
4号ロ,13条参照)などからすれば,本件追悼碑の設置期間の更新手続には
憲法31条の定める適正手続の保障が及ぶということはできない。
また,仮に,本件追悼碑の設置期間の更新手続に憲法31条の定める適正手
続の保障が及ぶとしても,前記認定のとおり,被告は,平成25年12月25
日以降,原告に対し,朝鮮新報記載の記事が,事実と相違ないか否かについて
報告を求めるなどした上で,原告からの要望を受けて,平成26年1月27日,
同月31日,同年7月11日及び同月22日の4回にわたって,原告との意見
交換会を開催して,その中で朝鮮新報記載の記事の内容に関する事実確認や本
件追悼碑を自主的に本件公園外に移転することの提案をし,また,原告から代
替案の提示を受けるなどしているのであって,直ちに原告の防御の機会が不十
分であったということはできない。よって,原告の上記主張は採用できない。
7争点(原告が,「宗教的・政治的行事及び管理」を行ったか。)につい

前提事実記載のとおり,本件更新不許可処分は,本件各発言がいずれも
政治的発言であり,除幕式及び追悼式の一部内容を政治的行事とするもので
あって,本件許可条件に違反する行為が繰り返し行われた結果,本件追悼碑
は,都市公園の効用を全うする機能を喪失し,法2条2項の公園施設に該当
せず,また,本件追悼碑は,法5条2項1号の公園施設には該当せず,都市
公園の機能の増進に資する施設とは認められないから,同項2号の公園施設
にも該当しないことを理由とするものである。
ここで,前記本件に関連する法令の規定のほか,公園管理者は,法の規定
による許可に付した条件に違反している場合等においては,法の規定によっ
てした許可の取消し等をすることができるとされていること(法27条1項)
などにも鑑みると,公園管理者以外の者に公園施設の設置又管理を許可する
か否かは,法5条2項所定の要件の存する範囲内で,公園管理上の政策的,
技術的な観点から,当該第三者の人格,識見,経験,技術,手腕,財力など
を勘案した公園管理者の合理的な裁量判断に委ねられているものと解され
る。もっとも,公園管理者に,公園管理者以外の者に公園施設の設置又管理
を許可するか否かについての裁量が認められるといっても,そこには一定の
限界が存するのであって,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある
ことなどにより判断が全く事実の基礎を欠く場合や,事実に対する評価が明
白に合理性を欠くことなどにより判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠
き裁量権の範囲を超えていると認められる場合又は不当な目的のために裁量
権を恣意的に行使するなど裁量権の濫用に当たると認められる場合には,当
該処分は違法というべきである。
ところで,本件訴訟において,被告は,平成27年4月30日付け被告準
備書面において,「被告が,本件追悼碑の管理状況について調査したとこ
ろ,本件追悼碑前において,①「碑文に謝罪の言葉がない。今後も活動を続
けていこう。」(中略)との各発言がなされたことが確認された。」,「各
発言が政治的発言に該当すると判断し(た)」と主張したのに対し,原告は,
同年12月9日付け原告第3準備書面において,「認める」と認否した(当
裁判所に顕著な事実)。
原告の上記認否は,被告が主張立証責任を負う本件更新不許可処分の適法
性を基礎付ける具体的事実である本件許可条件の違反行為として,E運営委
員が平成16年4月24日開催の除幕式において本件追悼碑前で本件発言
1をした事実を主張したところ,原告が認めたものであるから,上記事実が
存在することについて自白が成立している。
これに対し,原告は,原告の上記認否は,被告が,本件追悼碑の管理状況
等について調査を開始し,調査の過程で除幕式においてE運営委員による本
件発言1がなされたことを確認したという事実経過(各発言を認識した経過)
に対して認否したにすぎず,実際に除幕式においてE運営委員が本件発言1
をした事実についてまで認めたものではないと主張する。
しかし,原告が,自らが経験しているわけではない被告の調査,確認の経
過のみを認めることは不自然といわざるを得ず,原告は,被告が調査した結
果,確認した事実,すなわち,除幕式においてE運営委員による本件発言1
がなされたことも含めて認否したと理解するのが相当であり,他に原告の自
白の成立を妨げる事情はない。
そこで進んで,原告において,上記自白が真実でなく,かつ,錯誤に基づ
く自白であるとして,撤回することができるか否かを検討すると,証拠(甲
59~61)によれば,同人は,除幕式において何ら追悼の言葉を述べたり,
献花をしたりするなどの行為を行っていないことが推認される。
確かに,原告が提出する除幕式の動画(甲61)は,一部映像が途切れて
いる部分があり,また,上記動画には,除幕式の式次第(甲59)には予定
されていない黙祷の時間や手紙ないし詩の朗読の時間が設けられているな
ど,一部,上記式次第と整合しない部分はある。しかし,動画の撮影者にお
いて,スピーチとスピーチとの間に間があったりした場合に一時的に撮影を
停止させることはあり得ることであるし,上記動画と上記式次第は,大部分
において合致していることからすれば,直ちに上記動画及び式次第の記載が
信用性を欠くということはできない。また,前記認定のとおり,E運営委員
は,除幕式の後,本件公園の群馬歴史博物館内で開催された追悼碑建立の集
いにおいて,本件追悼碑の基本理念,レリーフ(絵)の説明をしているので
あるから,さらに,除幕式において,式次第にも記載がない挨拶をするとは
考え難いことからすれば,同人が除幕式において本件追悼碑前で本件発言1
をした事実はないと認めることができる。
そうすると,原告の上記自白は真実に反するものであり,かつ,原告が上
記自白が真実に反するものであることを知りながら自白をしたことをうか
がわせるような事情はなく,上記自白は錯誤に基づくものであったというこ
とができるから,原告は,上記自白を撤回することができるというべきであ
る。なお,原告には上記自白をしたことについて過失があることは否定でき
ないが,自白の撤回が許されるためには,錯誤につき無過失であることまで
は必要ではないと解すべきであるから,上記事情があることをもって,自白
の撤回が許されないということはできない。
また,被告は,原告の自白の撤回の主張は,時機に後れた攻撃又は防御方
法として許されないと主張する。しかし,原告の自白の撤回は,平成28年
11月16日の第10回口頭弁論期日でされたものであるが,未だ争点の整
理を終える前の段階でされたものであるし,上記自白の撤回の後も平成29
年5月17日の第13回口頭弁論期日には争点の整理を終えて,原告及び被
告が申し出た証人の採否の裁判がなされていることからすれば,未だ時機に
後れた攻撃又は防御方法に当たるものとはいえない。
以上によれば,本件更新不許可処分は,E運営委員が除幕式において本件
追悼碑前で本件発言1をしたとの事実がなかったにもかかわらず,これが
あったものとしてなされたことになる。
この点について,原告は,本件更新不許可処分は,処分の前提に重大な事
実誤認があったことが明らかであると主張する。
確かに,E運営委員が除幕式において本件追悼碑前で本件発言1をしたと
の事実は,原告が「宗教的・政治的行事及び管理」を行ったことを基礎付け
る重要な事実であるということができるから,本件更新不許可処分は「宗教
的・政治的行事及び管理」の存在を基礎付ける重要な事実に誤認があったと
いわざるを得ない。
しかしながら,一般に,取消訴訟においては,行政庁は,原則として当該
処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張すること
が許されると解される(最高裁判所昭和53年9月19日第三小法廷判決・
集民125号69頁参照)。したがって,被告が政治的発言に当たると主張
する本件発言2ないし本件発言5が,政治的発言であると評価され,追悼式
の一部内容を政治的行事とするもので,「政治的行事及び管理」を禁止した
本件許可条件に反する行為であると評価される場合には,E運営委員が除幕
式において本件追悼碑前で本件発言1をしたとの事実がなかったとしても直
ちに本件更新不許可処分が全く事実の基礎を欠くということはできない。
そこで,以下,本件発言2ないし本件発言5が,政治的発言に該当し,追
悼式の一部内容を政治的行事とするもので,「政治的行事及び管理」を禁止
した本件許可条件に反する行為であるということができるかについて検討す
る。
ア既に説示したとおり,本件追悼碑の設置許可申請に至る経緯によれば,
少なくとも,本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して,歴史認
識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事は,「政治的行事」に
含まれ,かつ,そのことを原告も認識していたというべきであるから,「政
治的発言」には,本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して,歴
史認識に関する主義主張を訴える発言が含まれると解するのが相当であ
る。
そうすると,平成17年4月23日開催の追悼式におけるJ事務局長の
本件発言2のうち「強制連行の事実を訴え,正しい歴史認識を持てるよう
にしたい。」との部分,平成18年4月22日開催の追悼式におけるN共
同代表の本件発言3のうち「戦争中に強制的に連れてこられた朝鮮人がい
た事実を刻むことは大事」との部分,平成24年4月21日開催の追悼式
におけるP委員長の本件発言5のうち「日本政府は戦後67年が経とうと
する今日においても,強制連行の真相究明に誠実に取り組んでおらず」と
の部分は,いずれも「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関する主
義主張を訴える行為であるといえるから,政治的発言に該当するものとい
うべきである。これに対し,平成18年4月22日開催の追悼式における
O委員長の本件発言4は,朝・日国交正常化の早期実現,朝鮮の自主的平
和統一,東北アジアの平和のために「共に手を携えて力強く前進していく」
旨の発言であり,「強制連行」の文言は使用しておらず,歴史認識に関す
る主義主張を訴える行為であるということもできないし,その他,政治的
発言に該当するということはできない。
そして,上記各政治的発言は,いずれも追悼式における原告の事務局長,
共同代表又は来賓としての立場からなされたものであり,当該発言に含ま
れる歴史認識に関する主義主張を推進する効果を持つものであるから,上
記各政治的発言がなされた結果,追悼式自体が死者を悼む目的を超えて,
政治性を帯びることは否定できないというべきであり,平成17年4月2
3日開催の追悼式,平成18年4月22日開催の追悼式及び平成24年4
月21日開催の追悼式は,いずれも「政治的行事」に該当するというべき
である。
イ上記認定に対し,原告は,本件発言2,本件発言3及び本件発言5にお
ける「強制連行」という言葉は,確立した歴史学上の用語として一般的に
使用されている上,過去の歴史的事実を表現する意味合いを超えるもので
はないから,「強制連行」という言葉が含まれることをもって,「政治的
発言」と評価することはできない旨主張する。
しかし,申請団体名や碑文の文面から,あえて「強制連行」の文言を削
除した経緯からすれば,少なくとも原告と被告との間では,「強制連行」
の文言を使用して,歴史認識に関する主義主張を訴える行為が,本件追悼
碑の内容とは異なる主義主張を訴える行為に当たることについて,共通の
認識となっていたというべきである。その意味では「強制連行」という言
葉が,歴史学上の用語としていかなる意味で用いられ,いかなる歴史的事
実を指すものであるかに重要性があるとはいえない。
また,原告は,本件発言5は,追悼式に参加した来賓の発言であって,
原告が本件発言5に対して,抗議しなかったことをもって,各発言を利用
したと評価することはできず,本件追悼碑を政治的に利用したと評価する
こともできないと主張する。
しかし,証拠(甲15)によれば,B群馬県本部は,「本件追悼碑除幕
式の報告」において「関係団体」とされていることが認められ,平成16
年の除幕式以後,B群馬県本部の委員長は,何度も追悼式に出席して挨拶
をし,本件発言5がなされた後に開催された平成25年の追悼式にも出席
していること(前記認定事実),証人Gは,証人尋問において,追悼式
で来賓のうち誰に挨拶をしてもらうのかについては,主催者である原告が
決定して依頼していたと供述していることからすれば,B群馬県本部委員
長の挨拶は,原告の事務局長及び共同代表が行う挨拶と同様に,毎年の追
悼式の通例となっていたことがうかがわれる。その上,原告が,P委員長
が本件発言5を行った際に,何らの抗議もしていないことを併せて考えれ
ば,本件発言5が来賓の発言であるからといって,追悼式自体が政治性を
帯びることを否定することはできないというべきであり,原告の上記主張
は採用できない。
さらに,原告は,追悼式に参加した関係者から社会情勢や政治に関する
単発的な発言があったとしても,追悼式自体の目的が政治的な目的に変化
するものではないから,本件追悼碑に係る政治的発言がなされたことを
もって,追悼式を「政治的行事」と評価することもできないとも主張する。
しかし,上記のとおり,追悼式において政治的発言がなされた結果,追
悼式自体が当該発言に含まれる歴史認識に関する主義主張を推進する集会
としての性質を帯び,死者を悼む目的を超えて,政治性を帯びることは否
定できないというべきであるから,原告の上記主張は採用できない。
ウ以上によれば,本件各発言のうち本件発言2,本件発言3及び本件発言
5は,いずれも政治的発言に該当し,平成17年4月23日開催の追悼式,
平成18年4月22日開催の追悼式及び平成24年4月21日開催の追悼
式は,いずれも「政治的行事」に該当するものであるから,これらの追悼
式を開催した原告は本件許可条件に違反したものといわざるを得ない。
8争点カ(原告が本件許可条件に違反したことにより,本件追悼碑が都市公
園の効用を全うする機能を喪失し,「公園施設」(法2条2項)に該当しなく
なったということができるか。)について
ある施設が都市公園の効用を全うするか否かは,個々の公園の特殊性に応
じて,具体的に決すべきであると解される。そして,前提事実及び記載
のとおり,本件公園は,都市住民全般の休息,鑑賞,散歩,遊戯,運動等総
合的な利用に供することを目的とする総合公園であり,都市における良好な
景観の形成,緑とオープンスペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都
市住民の公共の福祉増進をはかることを設置目的としており,本件追悼碑
は,わが国と近隣諸国,特に,日韓,日朝との過去の歴史的関係を想起し,
相互の理解と信頼を深め,友好を推進するために有意義であり,歴史と文化
を基調とする本件公園の効用を全うするものとして設置されたものである。
前記認定のとおり,原告は,平成16年以降,毎年追悼式を開催し,平成
17年及び平成18年の追悼式では,前記のとおり政治的発言に該当する本
件発言2及び本件発言3がなされていたにもかかわらず,平成24年5月1
5日付けの朝鮮新報が同年4月21日開催の追悼式に関する記事を掲載す
るまでは,被告に対しても本件追悼碑に関する抗議や意見の電話及びメール
が寄せられたことはなかったのであり,原告が追悼式を開催及び運営するに
当たって支障や混乱が生じたことを認めるに足りる証拠はないから,本件許
可条件違反の事実,すなわち,原告が,本件追悼式について政治的行事を行っ
た事実があることをもって,直ちに本件公園の効用を全うする機能を喪失し
ていたということはできない。
これに対し,被告は,本件許可条件違反の事実が認められた場合には,例
外なく,本件追悼碑は都市公園の効用を全うする機能を喪失したものと考え
るべきであると主張する。
しかし,仮に,被告が本件許可条件違反の事実が認められた場合には直ち
に本件追悼碑は都市公園の効用を全うする機能を喪失するとの認識を有し
ていたのであれば,本件許可条件違反をうかがわせる事実を認識した時点
で,事実関係の調査や原告に対する事実確認を行うなどの対応をとるのが自
然であるにもかかわらず,証人Fが,平成24年5月頃には,既に同月15
日付けの朝鮮新報の記事を確認していたのに,被告は,平成25年10月頃
に平成17年5月14日付けの朝鮮新報,平成18年4月25日付けの朝鮮
新報及び平成24年5月15日付けの朝鮮新報の記事を確認するまで何ら
の調査も行わず,平成25年12月24日頃に,上記各朝鮮新報の記事が事
実と相違ないかについての報告を求めるまで原告に対する事実確認を行っ
ていない。証人Fは,証人尋問において,平成24年5月頃に朝鮮新報の記
事を確認した後,約1年半もの間,調査及び事実確認を行わなかった理由に
ついて,本件更新申請がなされた段階で処理すればよいと考えていた旨を供
述しており,上記供述によれば,証人Fは,仮に,平成24年5月15日付
けの朝鮮新報の記事内容が真実であるとしても,直ちに本件許可条件違反を
理由として本件設置許可処分を取り消すなどの対応を取ることは全く想定
していなかったというべきである。そうすると,被告自身,本件許可条件違
反の事実が認められた場合には直ちに本件追悼碑は都市公園の効用を全う
する機能を喪失するとは考えていなかったというべきであり,被告の上記主
張は採用できない。
なお,仮に,本件追悼碑について政治的行事が行われたことにより,本件
追悼碑が歴史認識に関する主義主張を伝達するための施設に該当するに至っ
たと評価される場合であっても,その後,本件追悼碑について政治的行事が
行われることなく,時間が経過するなどの事情により,本件追悼碑の歴史認
識に関する主義主張を伝達するための施設としての性質が消失し,日韓,日
朝の友好推進という本件追悼碑本来の機能を回復することもあり得るという
べきである。
しかしながら,被告は,①原告が本件追悼碑の敷地部分を買い取ること,
②被告が本件追悼碑の更新期間を1年ないし2年に短縮して更新許可処分を
すること,③被告は原告の10年の本件更新期間の更新申請を許可する代わ
りに,原告は当分の間,本件追悼碑前での追悼式の開催を自粛することを内
容とする3つの代替案をいずれも拒否しており,被告が,上記3つの代替案
を受け入れることができるか否かについて,具体的に検討したことを認める
に足りる証拠はないことからすれば,群馬県知事は,本件追悼碑が本件公園
の効用を全うする機能を喪失したと判断するにつき,当然考慮すべき事項を
十分考慮しておらず,本件更新不許可処分は,この点においても,その裁量
権行使の判断要素の選択に合理性を欠いているといわざるを得ない。
以上によれば,本件更新不許可処分は,原告の本件許可条件違反の事実に
よっては,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失していたとい
うことができないにもかかわらずなされたものであり,本件許可条件違反と
の事実に対する評価が明白に合理性を欠いており,その結果,社会通念に照
らし著しく妥当性を欠くものと認められるから,裁量権を逸脱した違法があ
るといわざるを得ない。
なお,①被告に対しては,平成24年5月以降,本件追悼碑の内容が真実
でない,本件追悼碑は即刻撤去すべきであるなどの抗議や意見の電話及び
メールが相次いで寄せられるようになり,また,抗議団体の構成員らが被告
国保援護課に来庁して,本件追悼碑の碑文の文面の内容について抗議したこ
と,②同年11月4日には,抗議団体の構成員らが,群馬県高崎駅前で本件
追悼碑の撤去を求める街宣活動を行い,その後,本件公園に来園して園内に
プラカードを持ち込むなどしたため,公園職員との間で小競り合いとなり,
警察が駆けつける騒ぎが発生したこと,③同団体の構成員らは,平成26年
4月21日にも,本件公園の正面入口付近で本件追悼碑の撤去を求める街宣
活動を行ったことは前記認定のとおりである。
上記事情は,原告の本件追悼碑の利用又は管理とは直接的には関係するも
のではないが,本件追悼碑をめぐる抗議活動や街宣活動が活発化していたこ
とを示すものである。そして,被告において,抗議団体による抗議活動や街
宣活動の結果,本件公園周辺で都市公園としてふさわしくない混乱が生じる
などの具体的な支障が生じ,日韓,日朝の友好推進という本件追悼碑本来の
機能を十分に考慮してもなお,都市住民全般の休息,鑑賞,散歩,遊戯,運
動等総合的な利用により,都市における良好な景観の形成,緑とオープンス
ペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進をは
かるという本件公園の効用が阻害されるに至っていると判断されるような場
合には,群馬県知事が本件追悼碑の設置期間の更新を認めないとの処分をす
ることも,公園管理者の合理的な裁量の範囲内の行為として許される可能性
は考えられなくもない。
しかしながら,上記のとおり,抗議団体の抗議活動や街宣活動の内容は,
主として,本件追悼碑の碑文の内容が真実でないため,本件追悼碑は即刻撤
去すべきであることを求めるものであったのであるところ,①群馬県知事は,
本件設置許可処分にあたって,原告に対し,本件追悼碑の碑文の内容の修正
を求め,修正後の碑文の内容は相当であることを認めた上で本件設置許可処
分を行ったものであるし,②現に,被告国保援護課の担当職員は,抗議団体
の構成員らが被告国保援護課に来庁した際にも,本件追悼碑の碑文の内容に
は問題ない旨を回答している。そうすると,被告自身,本件追悼碑の碑文の
内容は相当であると認めているのであるから,被告としては,本件追悼碑の
碑文の内容に関する抗議活動や街宣活動を行う抗議団体に対しても,本件追
悼碑の碑文の内容を説明し,抗議団体が碑文の内容を誤解していると認めら
れるような事情があれば,その点を指摘して本件追悼碑の碑文の内容は相当
であることの理解を求めるのが望ましいということができるのであり,抗議
団体による抗議活動や街宣活動の内容が正当であることが判明し,考え方を
改めたといった事情もないにもかかわらず,直ちに本件公園の効用が阻害さ
れるに至ったと判断することはできないというべきである。
そして,抗議団体の構成員らが,平成24年11月4日に群馬県高崎駅前
で本件追悼碑の撤去を求める街宣活動を行い,その後,本件公園に来園して
園内にプラカードを持ち込むなどしたため,公園職員との間で小競り合いと
なり,警察が駆けつける騒ぎが発生したことは上記のとおりであるが,証人
Fは,証人尋問において,上記小競り合いの詳しい状況の報告を受けたのか
との質問に対して,警察も出動した旨を述べるにとどまり,具体的にいかな
る小競り合いが生じ,本件公園の利用にいかなる影響が生じたのかについて
何ら供述していないのであって,被告がこの点について,何らかの調査を行っ
たことを認めるに足りる証拠はない。さらに,本件公園の年間利用者は,平
成22年度が54万2871人,平成23年度が55万5278人,平成2
4年度は54万2586人,平成25年度は50万4236人とされており,
このうち平成25年度の利用者数が減少した理由は台風と雪の影響によるも
のであると指摘されていること,本件追悼碑が設置されている本件公園の北
側西寄りの場所一帯は,樹木が生い茂る散歩道であり,正面入口からは距離
があるため,正面入口付近に比べて,公園利用者の姿が少ないことは前提事
実のとおりであって,本件追悼碑をめぐる抗議活動や街宣活
動によって本件公園の利用者数が減少したということもできない。そうする
と,そもそも抗議団体による抗議活動や街宣活動の結果,本件公園周辺で都
市公園としてふさわしくない混乱が生じるなどの具体的支障が生じていたと
認めることもできない。
以上によれば,本件訴訟に現れた証拠による限りは,抗議団体による抗議
活動や街宣活動の結果,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失
したということはできない。
9以上説示したところによれば,本件更新不許可処分は違法な処分であるから,
その他の取消事由を検討するまでもなく,取り消されるべきである。
10争点(群馬県知事が,本件更新申請に対する許可処分をしないことが,
裁量権の逸脱又は濫用となるか。)について
本件義務付けの訴えは,いわゆる申請型の義務付けの訴え(行政事件訴訟法
3条6項2号)であるから,本件取消しの訴えに係る請求に理由があると認め
られ,かつ,群馬県知事が,本件更新申請を許可すべきであることがその処分
の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又はその処分をしない
ことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときに
認容される(行政事件訴訟法37条の3第3項)。
既に説示したとおり,本件更新不許可処分は,本件追悼碑が本件公園の効
用を全うする機能を喪失したということはできないにもかかわらずなされた
点で,裁量権の逸脱があったものと認められ,違法であるから,本件取消し
の訴えに係る請求には理由があるものと認められる。
原告が平成25年12月18日,群馬県知事に対し,本件追悼碑の設置期
間を平成26年2月1日から平成36年1月31日まで更新する旨の本件更
新申請をしたところ,群馬県知事は,平成26年7月22日,原告に対し,
本件更新不許可処分をしたことは,前提事実記載のとおりである。
上記のとおり,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失したと
いうことはできないところ,本件更新不許可処分後の事情に関しては原告及
び被告ともに特段の主張立証がなく,現時点において,本件追悼碑が,本件
公園の効用を全うする機能を有しないということはできないから法2条2項
の要件に適合しないということはできない。また,本件追悼碑を原告により
設置又は管理することが本件公園の機能の増進に資するものと認められない
ともいえないから法5条2項2号の要件に適合しないということもできな
い。
もっとも,公園管理者以外の者が公園施設を設置又は管理する期間につい
ては,法は,5条3項において10年を超えることはできないと規定するほ
かは,何らの規定を設けていないから,更新申請者に対し,具体的にいかな
る期間の更新を許可すべきか否かは,公園管理者の合理的な裁量に委ねられ
ていると解するのが相当である。
そうすると,本件追悼碑が,法2条2項及び5条2項2号の要件を満たす
としても,いかなる期間及び条件のもとで本件追悼碑の更新を許可すべきか
については,なお,群馬県知事の裁量判断に委ねられているというべきであ
り,群馬県知事が,更新期間を平成26年2月1日から平成36年1月31
日までの10年間とする本件更新申請を許可しないことが,法令の規定に反
することが明らかであり,又は,その裁量権の範囲を超え若しくはその濫用
となるということまではできない。
したがって,本件更新申請の許可の義務付けを求める原告の本件義務付け
の訴えに係る請求は,理由がない。
11結論
よって,原告の本件取消しの訴えに係る請求は理由があるから認容し,原告
のその余の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
前橋地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官塩田直也
裁判官高橋浩美
裁判官佐藤秀海

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