弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原判決中控訴人公共企業体等労働委員会敗訴の部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用(参加によつて生じた費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人の負担
とする。
       事   実
一 控訴人公共企業体等労働委員会(以下「控訴人委員会」という。)代理人は、
「原判決中控訴人委員会敗訴部分のうち「新宿郵便局庶務課長Aらが昭和四〇年六
月一〇日被控訴人新宿支部の組合掲示板を撤去した行為」に係る部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とす
る。」との判決を求め、控訴人国代理人は、「原判決中控訴人委員会敗訴部分を取
り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担
とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、「本件各控訴を棄却する。」との
判決を求めた。
 当事者双方の事実上及び法律上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次の
二以下に掲げるほかは、原判決事実摘示(そのうち第四の二控訴人国の「命令書記
載事実の認否」(判決書一二丁裏四行目ないし一〇行目を除く。)のとおりである
から、これを引用する。
二 控訴人国代理人は、被控訴人主張事実(原判決別紙命令書中理由第2二記載事
項を認めて援用した事実を含む。)に対する認否として次の1のとおり陳述し、庁
舎管理権につき次の2のとおり付加陳述した。
1 五月一三日貯金募集打合せ会における発言については、B局長が「新生会は善
良な人がやつたことで間違いではない。あなたたちも善良な人たちだから、今やつ
ている組合の行動はよく分かるだろう。極力組合の方には行かないように。」と述
べたことを否認する。五月一六日局長自宅における発言等については、B局長が
「全逓の闘争主義者たちは三代かからなければできないことを破壊する。」と発言
したこと、C課長代理が郵政労加入届をD・E両名に配り、他の臨時補充員の郵政
労加入勧誘を要請したこと、Dが右加入届にサインし、Eの問いに対しB局長が
「これは郵政省の正規の組合だ。」などと応答したこと、C課長代理の右加入届配
布にB局長がF第一郵便課長とともに共謀していたこと、及び帰りの車中における
C課長代理の発言を否認する。四月二〇日局長室における発言については、B局長
が「組合に入りましたか。一度組合に入るとなかなか出られなくなるから、入るん
だつたらよく考えて入りなさい。」「職場を明るくする会というものがある。そう
いう人たちはいいですね。」と述べたことを否認する。五月一〇日職場集会につい
ては、G書記長のけがの原因に関する被控訴人の主張を争う。六月七日・一一日職
場集会については、A庶務課長らの解散通告等により集会の運営が影響を受けたこ
と、及び同課長らが集会における発言内容をメモしたことを否認する。なお、五月
一〇日の職場集会においてH次長が携帯マイクを使つて解散を命じたのは、A庶務
課長らの管理者に対し、集会を中断して集団抗議を行つていたからであり、また、
六月七日・一一日の職場集会においては、A庶務課長らがメモを取つていたことは
あるが、これは、監視のためではなく、集会の解散を見届け勤務時間中の職員が参
加していないかを確認するためであつたのである。以上のほか、被控訴人が原判決
別紙命令書中理由第2二の記載事項を認めて援用した事実は、すべて認める。
2 新宿郵便局においては、従来から(遅くとも昭和三九年三月五日以降は)、庁
舎使用許可伺簿によつて庁舎使用許可事務が処理され、およそ庁舎の使用について
は、その使用場所の別なくすべて使用許可願が提出されていた。そして、無許可集
会に対してはその都度解散通告をするとともに、許可願を提出するよう説示してい
たものである。
 庁舎管理権は、庁舎における人的・物的状態のすべての秩序を維持し(物的状態
の維持保存のみに限られるものではない。)、庁舎の公用に支障がないようにする
ことも含まれるものであるから、第三者によつて無断使用される場合には、その障
害を除去するため解散権限を有するものと解される。このことは、休憩室あるいは
年賀区分室が利用されるときも同様であり、使用するのが職員であつても組合員と
して組合活動のためにするときもまた同様である(ちなみに、五月一〇日の集配課
休憩室における集会には、被控訴人新宿支部組合員でない地区本部執行委員も参加
している。)。そして、企業主体が、組合活動のために企業施設を組合に利用させ
るのは、飽くまでも便宜供与にすぎない。
 なお、本件における各集会は、管理者からの解散通告を予想して開かれたもので
あるから、解散通告を受けても集会の運営に影響ないものと判断されていたことに
なり、そこでの自由な発言等が阻害されたことにはならない。
三 控訴人委員会代理人は、組合掲示物の撤去に対する救済命令の要否について、
次のとおり付加陳述した。
1 控訴人委員会は、本件命令において、A庶務課長らの組合掲示物の撤去につ
き、不当労働行為に該当するものであるが、「その後、郵政省は、この取扱いを、
組合に掲示板の設置を許可した以上、個々の掲示物については許可は必要でないと
いう取扱いに改め、全逓もこの措置を了承し、今日に至つている。したがつて、こ
れは解決している問題であつて救済命令を発する必要はない。」(原判決別紙命令
書理由第3三3)との判断を示した。控訴人委員会がこの判断をするに至つた背景
としては、郵政省と被控訴人との間に次のごとき交渉経過等に関する事情が存在す
る。すなわち、控訴人委員会は、昭和四〇年三月八日、いわゆる延岡郵便局事件
(申立人・被控訴人宮崎県北部支部、被申立人・延岡郵便局長)につき、許可なく
して掲示された組合掲示板のビラ等を撤去することは不当労働行為に該当するとし
て、陳謝文の交付を命ずる旨の一部救済命令を発した。ところで、郵政省と被控訴
人との間においては、昭和三九年年末闘争の際の交渉経過を足場に、この「掲示板
問題」を巡つて交渉が進められてきたが、控訴人委員会の右一部救済命令が主たる
契機となつて、この問題に関する労使の交渉は著しく進展した。そして、まず、郵
政省において、同年八月二〇日、従前は掲示ごとの許可に係らしめていたのを改め
て、許可条件を定め一括的に許可することとし、「掲示申出ごとの許可に代え、掲
示許可願を提出させ、ビラ・ポスター類の掲示をあらかじめ一般的に許可して差し
つかえない。」旨通達改正を行つた。この改正通達を巡つて再度交渉が持たれた
が、結局話合いがまとまり、被控訴人においても、昭和四一年三月二〇日、組合掲
示物については、あらかじめ一括的に許可を取り、「以後は当局側の承認印を必要
としないが、指定された場所に対する掲示物はすべて組合責任者の認印を得て掲示
することとする。」旨の指導文書を発した。これらの措置により、郵政省・被控訴
人間では、組合掲示物に関するその都度の事前許可制から一括許可制に改めるにつ
き労使の了解が成立し、事前許可の要否を巡る紛争は、ここに解決を見た。そし
て、同月二六日には控訴人委員会広島地方調停委員会に係属していた掲示板使用に
関する斡旋申請事件が、同年六月二〇日には控訴人委員会に係属していた不当労働
行為申立事件のうち無許可掲示物の撤去に関する部分が、それぞれ取り下げられ
た。また、一部救済命令を発した延岡郵便局事件については、控訴人委員会は、郵
政省から、当事者間で円満に解決した旨の報告を受けたが、その解決内容は、掲示
物の掲示について一括許可制に改められたことにより命令の趣旨が実行されたの
で、特に陳謝文の交付は行わないということにつき両当事者間が合意に達したとい
うものであつた。ちなみに、控訴人国は、右延岡郵便局事件につき提起していた不
当労働行為救済命令取消請求のうちビラ等の撤去に関する部分の訴えを取り下げ
た。
2 ところで、不当労働行為については、制度の目的に照らし、労働委員会は、不
当労働行為に該当する事実があると認めた場合においても、事案の具体的事情によ
り、救済命令を発しないとすることもできるものと解すべきである。そもそも労働
委員会による不当労働行為の救済制度は、単に過去の不当労働行為の成否を判断す
るのみならず、将来にわたる公正な労使関係の確立に資することを目的とするもの
である。また、救済命令を発するには、救済命令によつて回復されるべき状態の存
すること、すなわち被救済利益の存在が必要である。かかる被救済利益の有無の判
断は、結局は、個々の具体的な労使関係の現状をどのように認識するかという問題
に帰着する。具体的には、従来からの控訴人委員会及び同種の機関たる中央労働委
員会の命令等から見て、近い将来同種の不当労働行為が反覆して行われるおそれが
現に存すると認められるか否かが、その判断の重要な要素となる。そして、かかる
具体的労使関係の実情をどのように認識し判断するかについては、専門機関たる労
働委員会の裁量判断が尊重されるべきである。
 これを本件について見るに、控訴人委員会の審査終了時には、既に右1の事実関
係が明らかになつていたのであるから、これらの諸事情を考慮すれば、本件の救済
命令として、掲示物の撤去を禁じ、又は「今後この種の行為を行わない旨の文書の
掲示等」を命ずることが不必要ないし無意味であることは明らかであり、単に陳謝
を命ずることもその必要性に乏しいものであつたというべきである。そうすると、
控訴人委員会が救済命令を発する必要がないと判断したことは、本件の具体的事情
を考慮した適切かつ妥当な措置であり、裁量を誤り違法であるとは到底考えられな
い。
 なお、いわゆる掲示板問題については、現在でもストライキ宣言文等の撤去を巡
つて郵政省と被控訴人との間に紛争があるけれども、これは一括許可制に改められ
た際に付された許可条件に関するものであつて、掲示ごとの事前許可の要否が問題
となつている本件とは無関係である。
四 被控訴代理人は、付加陳述に係る右二2の控訴人国の主張に対して次の1のと
おり、同じく右三の控訴人委員会の主張に対して次の2のとおり陳述した。
1 控訴人国の主張事実は、すべて否認する。新宿郵便局においては、各課休憩室
を集会のため利用するについては、従来はほとんど局側から何の苦情も出されず、
自由に使うことができた。ところが、B局長着任後は庁舎管理が厳しくなり、休憩
室使用でも許可を受けるよう強要され、被控訴人新宿支部が従来の慣行として応じ
ないでいると、集会の現場に管理者を赴かせ、解散通告の連発、集会状況のメモ録
取等をさせるようになり、集会の目的を達し得ない状態がしばしば生じたため、同
支部においては、妨害を是非とも回避したい場合には、やむを得ず許可を求めたこ
とがあるにすぎない。
 庁舎管理権とは、庁舎の使用目的を損わないようにこれを物的に管理する権限に
すぎず、そのため必要とされる限度において発動されるにとどまるものであり、庁
舎使用の許可も、庁舎の通常の使用形態を著しくはみ出す場合に限り許可を受けさ
せるものというべきである(庁舎管理規程中の関係条項の趣旨も、このように解す
べきである。)。休憩室は、庁舎の物的な管理の上では格別問題のない場所であ
り、そこでの集会は、休憩室の使用形態としては、要するに複数の職員による話合
いにほかならず、庁舎管理上特に支障を生ずるものではない。休憩室で休憩時間中
に交される親睦的な雑談でも、時に多人数・長時間にわたることもあるが、いちい
ち許可を求める必要はないであろう。そうすると、許可を求める要否が問題とな
り、これには当局側の判断が入つてくることになるが、当局側は、他の目的であれ
ば業務外のためであつても自由な使用を認めている場合でも、こと組合活動となる
と、庁舎管理権を盾に規制を試みるのである。これは、組合活動を他と区別し、殊
更に厳しく規制するものであつて、不当労働行為に該当する。我が国のように、労
働組合が企業内組合の形態をとり、職場を舞台として活動を展開せざるを得ない実
情にかんがみると、庁舎管理権は、労働者の団結権・団体行動権との関係で一定の
制約を免れないところである。
 被控訴人は、右の観点に立脚して庁舎内における組合活動の権利を主張し、殊に
休憩室における組合集会の妨害に対しては、一貫して、自由に使つてよい室である
ことを主張し集会を続けるという厳しい態度で臨んできたのであつて、当局側の監
視の下にあつても集会の妨害にならないというわけではない。当局側において単に
解散を命ずるのみならず、集会の続行を困難にさせるような措置を執ることは、集
会の妨害になること当然である。
 なお、年賀区分室のごとき予備室における集会についても、右休憩室におけると
基本的には何ら異なるところはない。
2 控訴人委員会の1の主張事実は、すべて認める。
 同控訴人の2の主張は争う。同控訴人の主張のように、不当労働行為制度が「将
来にわたる公正な労使関係の確立」を目指すものであるとしても、それは究極の目
的を説明したにすぎず、法は、不当労働行為に対しては制裁措置を伴う救済命令に
よつて原状回復を図ることとし、このことによつて「公正な労使関係」の形成とい
う法の究極目的を達成しようとしているのである。したがつて、不当労働行為と認
められる事実がある場合には、救済命令を出すことこそが法の目的に添うゆえんで
ある。「将来にわたる公正な労使関係」の形成が期待される場合には救済命令を出
さなくてもよいという同控訴人の主張は、法の趣旨にもとり、自らの責務の一部を
放棄するに等しく、到底認めることができない。同控訴人は、救済命令を発するに
は、「救済命令によつて回復されるべき状態の存すること、すなわち被救済利益の
存在が必要である。」と主張し、これに対しては、被控訴人も、一般論としては異
論がない。問題はその具体的内容であり、とりわけ「被救済利益」がないと判断す
るについては、極めて慎重でなければならない。何となれば、もともと労働組合法
七条各号が不当労働行為として掲げる行為は、労働基本権を侵害する行為のうち特
に救済を必要とする典型的なものを類型化したものであるから、これら各号の不当
労働行為が存在することは、同時に救済されるべき利益の存在することをも意味す
るからである。したがつて、同控訴人の主張するように「結局は、個々の具体的な
労使関係の現状をどのように認識するかという問題に帰着する」という観点から被
救済利益の有無を判断することは、不当労働行為があれば必然的に生ずる不利益以
上に「救済に値する利益」といつたものを要求しているのではないかとの疑念を生
じ、到底肯認することができない。同様に「近い将来同種の不当労働行為が反覆し
て行われるおそれが現に存すると認められる」ことという同控訴人の主張も、不当
労働行為救済命令の要件を違法不当に厳格にするものといわざるを得ない。これら
同控訴人の主張に従えば、不当労働行為救済命令の発せられる事例は、極めて特異
なものに限られることになるであろう。労働者又は労働組合は、被救済利益がある
からこそ救済命令の申立てをするのであり、被救済利益が失われてまで申立てを維
持することは考えられないことに留意すべきである。
 本件において何よりも問題であるのは、新宿郵便局当局側が組合掲示物を撤去し
たことに対する原状回復措置が一切されていないことであり、被控訴人が他の同種
案件を取り下げたとしても、本件とは別個の事件であるから、このことによつて本
件につき救済措置が執られなくてもよいということにはならない。現実に新宿郵便
局において発生した掲示物撤去によつて被控訴人が被つた影響又は不利益(情報宣
伝活動の上で被つた不利益はもちろんのこと、組合員の被つた無力感・挫折感もあ
る。)は、いまだに解消・治癒されていないのである。
 更に、掲示ごとの許可制から一括許可制に改められた現在においても、一括許可
につき付した許可条件に違反するとして、掲示物を一方的に撤去するという当局側
の行為がいまなお繰り返し行われているが、これらの発生を防止するためにも、本
件の掲示物撤去につきしかるべき救済命令の出ることが役立つものと期待される。
五 証拠(省略)
       理   由
一 被控訴人は、郵政大臣及び新宿郵便局長を被申立人として、原判決別紙命令書
中理由第1所掲の各事項(1ないし3)を不当労働行為として、控訴人委員会に対
し、(1)速やかに原状回復の措置を執ること、(2)今後一切この種の不当労働
行為を行わない旨の誓約及び右不当労働行為に対する陳謝の意を掲載することの救
済命令の申立てをしたところ、同控訴人は、昭和四二年二月一三日右申立てを棄却
する旨の本件命令を発し、この命令書の写しは、同月一五日被控訴人に交付された
こと、並びに、右申立棄却の理由は、当審における審判の対象たる原判決主文第一
項所掲の各事項についていうと、そのうち(1)ないし(6)の点はいずれも不当
労働行為を構成しないとし、同じく(7)の点は救済命令を発する必要がないとす
るものであること、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 控訴人委員会の本件命令中右(1)ないし(7)の諸点に関する適法・違法の
審査に入る前に、被控訴人の救済命令申立てに至るまでの背景的な事実関係につき
検討するに、成立に争いのない甲第四号証並びに乙第七ないし第九号証、第一四な
いし第一七号証、第二九、第三〇号証、第三四号証の二、三、第三五号証の二、第
三六号証の二、三、第三八、第三九号証の各二、第四〇号証の三及び第四一号証の
二並びに原審証人G、I、B及びHの各証言を総合すると、
1 新宿郵便局においては、既に昭和三八年の年末闘争のころから、被控訴人新宿
支部の組合活動の在り方に批判的な勢力が同支部組合員の中に芽生えていたが、昭
和三九年の年末闘争を経て翌四〇年四月の春闘のころに至ると、新宿郵便局の職場
を明かるくすることを標榜する一部有志の呼掛けにより、同支部の活動に対する批
判的勢力が新生会というグループを結集し、最近における同支部の運営と行動には
常軌を逸し看過し得ないものがあるとして、メンバーのほとんどが被控訴人から脱
退した上郵政労に加入し、同年六月一日には郵政労新宿支部を結成したこと。
2 これらグループの主張は、要するに被控訴人新宿支部の闘争は、独走する組合
幹部が指導する非民主的なもので、いたずらに闘争を事とし、業務の運営を阻害し
て能率の低下を目指すものであつて、かくては公衆に迷惑を及ぼし、世論の支持も
得られないし、また、労使の対立を激化させて、陰惨な職場を作り出すものである
から、このような方針には断固反対するというものであること。
3 当時の新宿郵便局長Bが着任した昭和三九年七月ごろ、同郵便局には郵便物が
相当滞留していたので、同局長は、職場規律を確立し、郵便業務の正常化を図るこ
とが必要であると考え、職員に対し、勤務時間の厳守、服務の厳正などを命じた
が、職場秩序の乱れは容易に改まらず、B局長の業務命令も必ずしも素直に従われ
ないような状態であつたため、同局長は、これらの改善に腐心していたこと。
 以上の事実及びこれらの詳細は原判決別紙命令書中理由第2一記載のとおりであ
ることを認めることができる。被控訴人は、B局長の講じた諸施策は、被控訴人新
宿支部を弱体化させ、活動家を排除することを目的とするものであつたと主張する
けれども、これを認めるに足りる確証はない。
 そこで、右認定の事実関係を背景に、原判決主文第一項所掲の(1)ないし
(7)の諸点につき、順次判断を進めることとする。
三 五月一三日B局長が貯金募集打合せ会でした発言について
 B局長が、昭和四〇年五月一三日の貯金募集打合せ会の席上、「新生会の会員の
家庭を訪問して、新生会から抜け出さなければ宿舎に入れないようにするとか、脅
迫めいたことが行われているらしいが、お互いに行き過ぎのないようにしなさ
い。」と話したこと、その他五月一〇日の職場集会会場における被控訴人新宿支部
G書記長のけがに触れて、「このけがは、組合はH次長の暴行によるものであると
言つているが、実は自分で郵袋につまずいて倒れたのであつて、決して次長が暴行
を働いたものではない。」と話したことは、当事者間に争いがない。
 被控訴人は、B局長は、右発言のほかに、「新生会は善良な人がやつたことで間
違いではない。あなたたちも善良な人たちだから、今やつている組合の行動はよく
分かるだろう。極力組合の方には行かないように。」と述べたものであると主張
し、成立に争いのない乙第三二号証の二、三並びに原審証人Jの証言中には、被控
訴人の右主張に添う趣旨の記載ないし供述部分があり、しかも、それは、年度目標
達成への激励と貯金勧誘についての知人のアドバイスの紹介という専ら貯金募集に
関する話の後、いきなり右の新生会の話に入つたというのである。しかしながら、
右記載ないし供述部分は、前掲乙第四〇号証の三及び第四一号証の二並びに証人B
の証言に照らして考えると、当日のB局長の具体的な発言をそのまま再現したもの
としては直ちに採用することができないのみならず、新生会のメンバーが家庭訪問
を受け脅迫めいたことまでされていることの続きとして、右メンバーも善良な人た
ちであるという話に及んだのであればともかく、このような前後の脈絡もなくいき
なり新生会の話に入つたという右の記載ないし供述部分には不自然なところがある
から、これをたやすく採用することは困難というほかはない。
 もつとも、B局長の話は右争いのない短い発言のみで終つたとは考えられないか
ら、これに関連する他の発言もあつたものと認められるところ、その中には、あた
かも被控訴人新宿支部と新生会との対立していた時期であるゆえ、聞く人によつて
は、あるいは被控訴人のためにならない発言と受け取られるようなふしもあつたの
ではないかとの憶測も不可能ではない。そうすると、乙第三二号証の二、三及び証
人Jの証言中の右の記載ないし供述部分も、このような内容の何らかの発言があつ
たという証拠としてであれば、評価し得る余地がないでもない。しかしながら、何
らかの発言というのでは具体性に乏しく、前記二の背景的事情を参酌して考えて
も、所詮憶測の域を出るものではない。
 ところで、右に掲げた各証拠を総合すると、
1 当日の貯金募集打合せ会は年度初回のもので、年度計画等に関する課長説明に
引き続き、B局長が挨拶に立ち、前年度は目標達成にいま一歩という惜しいところ
であつたが、新年度はしつかり頼むという激励に始まり、柏木居住の知人の貯金勧
誘に関するアドバイスを紹介し、次いで最近の二つの出来事に言及して、職員の間
に行き過ぎや誤解のないようにという右当事者間に争いのない発言をしたこと。
2 B局長が右の発言をした趣旨は、部下の者から、新生会のメンバーに対する家
庭訪問に際し脅迫めいたことが行われている旨及び被控訴人新宿支部G書記長のけ
がの原因につき同支部が間違つたことを言つている旨の報告を受けたので、これら
の点につき職員の間で行き違ぎや誤解のないよう注意しておく必要がありと判断
し、貯金募集打合せ会の席を借りて、取りあえず貯金課の職員に対し、局長とし
て、注意喚起のため右発言に及んだものであること。
を認めることができる。
 局長発言の趣旨がおよそ右2のとおりである以上、その内容も、結局においては
前に当事者間に争いないものとして掲げたところに尽きるものと認定するのが相当
であり、B局長が右2の趣旨においてかかる発言をしたことは、郵便局長の立場と
して許されてしかるべきである。なお、その中には、新生会のメンバーに対する行
き過ぎた家庭訪問のことを注意し、G書記長のけがの原因につき被控訴人新宿支部
の言つていることを批判する事項が含まれているけれども、これは、全逓脱退・新
生会加入をしようとしたことにはならない。したがつて、右局長発言をもつて、組
合の運営に対する支配介入とし、不当労働行為を構成するものとすることはできな
い。
四 五月一六日B局長が自宅においてした郵政労への加入のしようようについて
 新宿郵便局第一郵便課C課長代理は、昭和四〇年五月一六日(日曜日)昼ごろ、
同課臨時補充員K及びDから「局長に遊びに来ないかと言われているので一緒に案
内してくれないか。」と言われ、F第一郵便課長に相談したところ、「K・Dと同
じく大学卒の新規採用者のEも誘つてはどうか。」と勧められたので、右Eも誘つ
た上、同日午後七時半過ぎ「若い者を二、三名連れていく。」とB局長自宅に電話
をし、午後八時半ごろ品川区<以下略>の同局長宅に着いたところ、既に、集配課
のL課長代理(郵政労組合員)、M、N、O及びPの四名の統括責任者(Pは全逓
組合員。他の三名は、全逓新宿支部に脱退届を出していた。)が先客として来てお
り、六畳の部屋で酒食を並べて歓談していたこと、B局長はC課長代理らを同席さ
せ、同課長代理が「ここに集まつた者は同じ考えの者で、私と同じ第一郵便課に勤
務している者です。」と紹介し、同局長は、すぐに一同に酒を勧め、席上「郵便事
業は三代しなければ一つの仕事を達成できないと私は考えている。」旨発言したこ
と、なお、L課長代理ら五名の集配課職員は午後九時過ぎ局長宅を辞去し、また、
C課長代理ら四名は、午後一一時ごろ辞去し、B局長の息子の運転する私用車で新
宿駅まで送つてもらつたこと、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
 そして、前掲乙第三四号証及び第三九号証の各二、第四〇号証の三並びに第四一
号証の二並びに証人Bの証言、成立に争いのない乙第三六号証の四並びに原審証人
E及び当審証人Kの各証言を総合すると、
1 B局長は、C課長代理らが席に加わるや、まず「今日は局長と思わないで飲ん
でくれ。広島から届いた特級酒もある。」と言つて気分をほぐした上、世間話や各
人の郷里の話をしたり、じつくり腰を据えて仕事をするようになどと先輩としての
忠告や激励も交えながらもてなしたが、このような仕事に関する心構えの話の中
で、「郵便事業は三代云々」という発言があり、続いて「全逓の闘争主義者たちは
三代かからなければできないことを破壊する。」と発言したこと。
2 そうしているうちに、C課長代理は、郵政労への加入届用紙をポケツトから出
してD・E両名に配り、「君たち三名で臨時補充員を郵政労へ入れてくれ。」と要
請したところ、Dはその場でサインしたが、Eは「これはどういうことですか。」
と尋ね、B局長は「これは郵政省の正規の組合だ。」と発言し、Eが「しばらく研
究させて下さい。」と言つたのに対し、同局長は「ええ」とうなずいたこと。
3 なお、C課長代理は、帰りの車中「新生会のバツクが分かつたろう。」と述べ
たこと。
等の事実を認めることができる。
 被控訴人は、右認定2のC課長代理の加入届用紙配布につき、B局長は、F課長
とともにこれに共謀していたものであり、少なくとも事前に了解を与えていた旨主
張するけれども、これを認めるべき直接の証拠はない。もつとも、同局長宅で郵政
労への加入届用紙を配布するという一歩誤れば局長に累を及ぼしかねない同課長代
理の行動それ自体から、同局長がこれを了解していたことを逆に推認すべきである
との見解も考えられる。しかしながら、個人の内心の問題という非定型的な事実に
ついては、このような逆の推認をすることは一般に困難である。そうすると、右争
いのない事実及び右認定の事実、更には前記二の背景的事情等をも総合して、同局
長の了解という内心の事実を認定するほかはないが、そのためにはいまだ証拠不十
分といわざるを得ない。けだし、これらの事実関係の下においても、C課長代理の
右行動は同局長にとつて思いもかけないとつさの出来事であつたと認められる可能
性も十分にあり、本件の全証拠によつても、かかる可能性が排斥されていないから
である。
 このように、C課長代理の加入届用紙配布という行動につきB局長が共謀し又は
了解していたことは証拠上認められないのであるから、同課長代理が、いずれの組
合にも属していないEら(この点は、右認定に供した各証拠により認められる。)
に対するオルグ活動を行うにつき局長宅の酒食の席を利用したことは、局長に迷惑
のかかつてくる軽率な行為であつたというほかなく、その際局長がこれを制止しな
かつたこと、あるいは郵政労は正規の組合である旨発言したことをもつて、同組合
への加入をしようようし、又は被控訴人組合の運営に支配介入したものとすること
は、いまだ早計である。なお、郵便事業は三代かかる・全逓の闘争主義者たちはこ
れを破壊しようとする旨の局長の発言、殊に「全逓の闘争主義者」という言葉は、
できれば避けるのが最善であつたには違いないが、右認定1の事実関係に右に掲げ
た各証拠を総合すると、局長の発言の趣旨は、訪ねてきた若い新入職員たちと膝を
交えて歓談しながら、先輩の一人として、じつくり腰を据えて仕事をするようにと
忠告し激励しようとしたものと認められるから、右の語句のみをとらえて被控訴人
組合の運営に対する支配介入とするのは当を得ない。
 ほかには、B局長の当夜の自宅における発言等については、前記二の背景的事情
を考慮に入れても、これを郵政労加入のしようようないしは被控訴人組合に対する
支配介入と目すべき点は見いだし難いから、結局、同局長の当夜の発言等は、不当
労働行為を構成するものではない。
五 四月二〇日B局長が局長室において臨時補充員Qらにした発言について
 B局長が、昭和四〇年四月二〇日午前九時ごろから二、三十分間、集配課の臨時
補充員Q、R、S、T、U及びVを局長室に呼んで話をしたこと、この際、B局長
は、「仕事に慣れたか。」と切り出し、自己の少年時代の苦労話をした後、「職場
でも休憩室でも暗くなつてしまうほどビラがはつてある。職場の中でもゴタゴタし
ている。」という趣旨の話をしたことは、当事者間に争いがない。
 そして、前掲乙第四〇号証の三及び成立に争いのない乙第三二号証の四、五を総
合すると、同局長は、その際、右六名ともまだ組合に入つていないということであ
つたので、組合に入るのは自由であるが、いつたん入るとなかなか出られないから
よく考えて入るようにという程度の話をしたことは認められるけれども、これが被
控訴人組合に加入しないようにとの意味を込めて言つたものとまで断定するには、
右乙号各証のみでは不十分である。被控訴人は、なお、B局長が右のほか「職場を
明るくする会というものがある。そういう人たちはいいですね。」と述べたと主張
し、右乙第三二号証の四にはこれに添う記載部分があるけれども、これはその他の
右乙号各証に照らしたやすく採用することができず、ほかには右主張事実を認める
に足りる証拠はない。
 B局長の当日の発言は右に見たとおりであるところ、右に掲げた乙号各証に前掲
乙第四一号証の二及び証人Bの証言を総合すると、同局長が右六名を呼んで話をし
た趣旨は、入つたばかりの臨時補充員をねぎらい激励するためのものであり、また
ビラがいつぱいはつてあるというのもこれに気後れしないようにとの意味であつた
と認められる。そうすると、右に見た同局長の発言は、何ら被控訴人組合を誹謗し
たことにはならないから、不当労働行為を構成するものとすることができない。
六 五月一〇日の被控訴人新宿支部の職場集会に対する妨害について
 昭和四〇年五月一〇日午後〇時三五分ごろから、集配課休憩室において、休憩時
間中の被控訴人組合員約七、八十名が職場集会を開いたこと、この集会は、休憩室
利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、同集会場にH次長、A庶
務課長、W集配課長らが赴き、再三携帯マイク又は大声で解散するよう通告したこ
と、この集会は午後一時ごろまで続行されたことは、当事者間に争いがない。
 そして、前掲乙第三八号証の二並びに証人G及びHの各証言、被控訴人主張の写
真であることに争いのない甲第七号証、成立に争いのない甲第八号証の一、二、乙
第二二号証及び第三七号証の二並びに丙第三、第四号証及び第七、第八号証、その
方式及び趣旨により真正な公文書と推定すべき乙第二四号証及び第二八号証並びに
当審証人X及びYの各証言(以上のうち、証人G及びXの各証言は、後記信用しな
い部分を除く。)に本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、
1 右集会において携帯マイクを使つて解散するよう通告したのはH次長であり、
それは、A・W両課長がこの集会は許可していないから解散するようにと命じたの
に対し、「休憩室で休憩中の者が何をしようと自由ではないか。」などと言つて取
り囲み、集会を中断して集団抗議を行つていたからであること。
2 郵政省就業規則及びその運用通達は、国有財産の使用に関する取扱いにつき、
「組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可
願を提出させ、業務に支障のない限り、必要最小限度において認めてさしつかえな
いこと。」と定めており、新宿郵便局においても、休憩室の使用を含めて、このと
おり行われてきたところ、昭和三九年一二月ごろから、被控訴人新宿支部は、休憩
室については自由に使つてよい室であるとして、庁舎使用許可願を提出しないで集
会するようになり、右五月一〇日の集会も同様許可願の提出がなかつたものである
が、同支部のかかる方針については、許可願の提出を命ずる当局との間に、しばし
ば対立が見られたこと。
等の事実を認めることができる。右に掲げた証人G及びXの各証言中には、この認
定に一部抵触する部分があるけれども、これは、右の他の証拠に照らして信用し難
く、ほかには、右認定を動かすに足りる証拠はない。
 思うに、企業施設は、本来企業活動を行うために管理運営されるべきものであ
り、この点において、企業主体が国のような行政主体である場合と、また私人であ
る場合とで異なるものではない。そして、企業主体は、職場環境を適正良好に保持
し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設の使用については許可
を受けなければならない旨を一般的に定め、又は具体的に指示命令することがで
き、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当
該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示命令を発し、又は所定の
手続に従い制裁として懲戒処分を行うことができるものと解するのが相当である。
 ところで、企業に雇用されている労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利
用をあらかじめ許容されている場合が少なくない。しかしながら、この許容が、特
段の合意があるのでない限り、雇用契約の趣旨に従つて労務を提供するために必要
な範囲において(休憩室、食堂等にあつては、休養をし食事をする等その設置の趣
旨に従つた範囲において)、かつ、定められた企業秩序に服する態様において利用
するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり、したが
つて、当該労働者に対し右の範囲を超え又は右と異なる態様においてそれを利用し
得る権限を付与するものということはできない。また、労働組合が当然に当該企業
の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由は何ら存しないから、
労働組合又はその組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに右物的施設を利
用する権限を持つているということはできない。もつとも、当該企業に雇用される
労働者のみをもつて組織されるいわゆる企業内組合の場合にあつては、当該企業の
物的施設内をその活動の主要な場とすることが極めて便宜であるのが実情であるか
ら、その活動につき右物的施設を利用する必要性の大きいことは否定し得ないとこ
ろではあるが、利用の必要性が大きいことの故に、労働組合又はその組合員におい
て企業の物的施設を組合活動のために当然に利用し得る権限を有し、また、使用者
において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を
当然に受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。したがつて、労働
組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を
利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該
施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある
場合を除いては、当該施設を管理運営する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すも
のであり、正当な組合活動に当たらない。
 以上については、最高裁判所昭和五四年一〇月三〇日第三小法廷判決(裁判所時
報七七七号一ページ)がほぼ同旨の判断を示すところであるが、本件においては、
特に、被控訴人が休憩室を組合の職場集会のため使用するにつき、庁舎管理権者の
許可を受けなければならないかどうかが争点となつている。そして、休憩室の使用
については、右にいささか言及したところであるが、休憩室が職員の自由使用にゆ
だねられているといつても、それは、休憩時間における休養等その設置の趣旨に添
う通常の休憩の態様において使用する場合に限られるものである。本件五月一〇日
職場集会のように、明らかに他の目的をもつて集配課休憩室を使用することは、休
養のための休憩室の自由使用とは著しくその態様を異にし、集会を行うこと自体休
憩室設置の趣旨には到底添い難く、したがつて、一般の庁舎の目的外使用の場合と
全く同様に、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、該集会のために休憩室
を使用することはできないものというほかはない。被控訴人は、休憩時間中に休憩
室で交される親睦的な雑談でも時に多人数・長時間にわたることがあり、一方、職
場集会といつても複数の職員の話合いにほかならないと主張するけれども、かかる
事由をもつて右の判断を左右することはできない。また、本件の全証拠によつて
も、休憩室の使用につき郵政省と被控訴人との間に特段の合意が成立していたこ
と、及び許可願の提出がないことを理由に被控訴人新宿支部の本件集配課休憩室の
使用を許さなかつたことが当局の権利濫用と目すべき特段の事情は、これを認める
ことができない。
 このように見てくると、A庶務課長及びW集配課長が、本件五月一〇日職場集会
の現場である集配課休憩室に赴き、この集会は許可していないから解散するように
と命じたことは、何ら被控訴人新宿支部の組合集会を不当に妨害したこととはなり
得ない。そもそも右職場集会は正当な組合活動に当たらないものというべきであ
り、特に、携帯マイクによるH次長の解散通告があつた時には、集会を中断して右
両課長を取り囲んで集団抗議をしていたのであるから、右解散通告が組合集会を不
当に妨害したことにならないことはいうまでもない。したがつて、五月一〇日職場
集会に対する解散通告は、不当労働行為を構成するものではない。
七 六月七日・一一日の被控訴人新宿支部の各職場集会に対する監視について
 昭和四〇年六月七日午後五時ごろから、四階年賀区分室付近において、被控訴人
組合員約八〇名が職場集会を開いたが、この集会は、年賀区分室利用について郵便
局管理者の許可を得ていなかつたので、午後五時一五分ごろ同集会場にA庶務課長
及びY労務担当主事らが赴き解散するよう通告したけれども、この集会は午後五時
四五分ごろまで続行されたこと、その際、A庶務課長らは、組合員が解散するか、
勤務時間中の者がいないかを見極めるため同集会場にとどまつたこと、次いで、同
月一一日正午ごろから、四階年賀区分室付近において、被控訴人組合員約一二〇名
が組合掲示物撤去に対する抗議集会を開いたが、この集会は、年賀区分室利用につ
いて郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、午後〇時二〇分ごろ同集会場にA
庶務課長らが赴き解散するよう通告したけれども、この集会は午後〇時五五分ごろ
まで続行されたこと、その際、A庶務課長らは、組合員が解散するか、勤務時間中
の者がいないかを見極めるため同集会場にとどまつたこと、以上の各事実は、当事
者間に争いがない。
 そして、前掲乙第三七号証の二並びに証人G、H、X及びYの各証言並びに成立
に争いのない丙第九号証を総合すると、
1 右各集会は、いずれも庁舎使用許可願の提出がなかつたものであり、また、右
各集会現場においてA庶務課長とともに組合員が解散するかどうか等を見極めてい
たY労務担当主事は、集会の模様(開始・終了の時刻、解散命令を発したか・これ
に応じたか等)のメモを取つていたこと。
2 右各集会が開かれた四階年賀区分室付近という所は、会議室と呼ばれており、
年賀郵便を区分するために年末年始にかけて使われるのが本来の目的であり、その
時期を除いては、職員が平常執務する場所ではなく、いわば予備室的なものである
こと。
等の事実を認めることができる。
 被控訴人は、右のごとき年賀区分室付近は、組合集会のため使用するにつき許可
願を提出する必要がないと主張するけれども、右六において休憩室の使用につき詳
細に説示したところと同じ理由により、右主張は採用することができない。もつと
も、年賀区分室付近は、右認定2のように年末年始以外は平常使われていないとい
う点において、休憩室の場合といささか異なるところがあるけれども、これを組合
集会のために使用することは、年賀区分室設置の本来の趣旨目的とは遠く隔るもの
であり、使用の態様も本来のそれと大いに異なるのであるから、結局においては、
休憩室の場合と同様に、平常は使われていない年賀区分室付近といえども、許可願
を提出して承認を受けた上でなければ、組合集会のためにこれを使用することはで
きないものというべきである。
 そうすると、右のように許可願を提出しないで開いた四階年賀区分室付近におけ
る右各集会は、正当な組合活動に当たるものではなく、したがつて、A庶務課長ら
が各集会現場に赴き解散するよう通告するとともに、現場にとどまつて組合員が解
散するかどうか等を見極めていたことは、組合集会を不当に妨害し監視したことと
はなり得ない。また、右六において指摘したように、右解散通告の指示命令に従わ
ないことは、懲戒事由にも該当するのであるから、これを現認したA庶務課長らは
上司に報告する義務があり、したがつて、Y労務担当主事がその模様(開始・終了
の時刻、解散命令を発したか・これに応じたか等)をメモに録取することは、正当
な職務の遂行であり、何ら組合集会に対する不当な妨害・監視となるものでもな
い。
 右のとおりであるから、本件六月七日・一一日の各職場集会におけるA庶務課長
らの行為は、不当労働行為を構成するものではない。
八 六月一〇日A庶務課長らが組合掲示物を撤去した行為について
 昭和四〇年六月七日ごろ、一階通用口付近にある被控訴人新宿支部の掲示板に、
当局の許可を得ないで同支部の掲示物が貼布されていたところ、同月八日、A庶務
課長は、Z同支部支部長に対し、許可を得ていないという理由でこれを撤去するよ
う申し入れ、更に同月九日、同課長は、組合が応じなければ局側で撤去する旨口頭
で通告したが、同支部がこれにも応じなかつたので、翌一〇日、A庶務課長及びY
労務担当主事が掲示物を撤去したこと、控訴人委員会は、本件命令において、右組
合掲示物撤去につき、不当労働行為に該当するものであるけれども、郵政省では被
控訴人に掲示板設置を許可した以上個々の掲示物については許可を要しないという
取扱いに改め、被控訴人も了承して既に解決されている問題であつて救済命令を発
する必要はない旨の判断を示したこと、そして、同控訴人が右判断をするに至つた
背景としては、その付加陳述に係る主張1所掲の事情、これを要約すると、(1)
同控訴人が本件不当労働行為の審査を終了した時点においては、組合掲示物の掲示
ごとの許可制が一括許可制に改められ、郵政省ではその旨の通達改正を行い、被控
訴人においても右趣旨に添う指導文書を発しており、しかも、これは延岡郵便局事
件における同控訴人の一部救済命令が主たる契機となり、数次にわたる労使の交渉
によつて相互の了解が成立したものであること、(2)この結果、同種案件につい
ての同控訴人に対する他の救済申立て等が取り下げられ、延岡郵便局事件命令中の
組合掲示物撤去に係る救済命令の履行についても、双方の間で陳謝文の交付を行う
こともなく円満に解決し、右命令に対する取消請求訴訟もその部分は取り下げられ
たこと、という事情が存在すること、以上の各事実は、当事者間に争いがない。
 思うに、控訴人委員会は(一般の労働委員会も同様であるが)、不当労働行為の
存在が認められるときでも、救済命令を発する必要がなければ、その申立てを棄却
するという措置を執ることができるものと解するのを相当とし、かかる申立棄却の
措置は、例外的ではあるが許されてしかるべきである。もつとも、このような例外
的措置が軽々に執られることは慎まなければならないところ、右当事者間に争いの
ない事情の下においては、慎重に事を考えても、控訴人委員会が判断したごとく、
本件における組合掲示物撤去については、既に解決済みの問題として救済命令を発
する必要はないものということができる。すなわち、同控訴人の延岡郵便局事件の
命令が契機となり、数次にわたる労使の交渉の結果、郵政省においては、個々の掲
示物については掲示ごとの許可は必要でないという取扱いに改め、被控訴人もこの
措置を了承しているのであり、このように上部機関同士の数次の交渉により相互の
了解が成立している以上、掲示ごとの許可を受けていないという理由による掲示板
撤去に関する問題は、係争中の案件をも含めて、当該案件に格別の特殊事情のない
限り、すべて解決されたものと見るべきであり、このようにすべて解決されたがゆ
えに、同種の他の案件も取り下げられ、延岡郵便局事件も陳謝文交付を実現させる
ことなく処理されたものと認めるのが相当である。上部機関同士の間で回を重ねて
協議を成立させながら、係属中の個々の案件の処理は別問題であるというのでは、
右協議成立の意味がほとんど失われることにもなる。そして、本件掲示物撤去につ
いては、同種の他の案件及び延岡郵便局事件とはその扱いを異にし、これをなお未
解決のものとしておくべき格別の特殊事情を認めるに足りる証拠はないから、あえ
て救済命令を発する必要はないものというべきである。なお、他の同種案件等とは
異なり、本件ではいまだ救済申立てを取り下げていないこと自体が、救済命令を必
要とすべき事情を意味するとの考え方もあり得るが、これは、一種の循環論法に属
し、到底賛同することができない。
 ところで、本件掲示物撤去につき被控訴人のため何らかの救済命令を与えるとす
れば、まず、相手方に対し、「掲示物を一方的に撤去してはならない」旨の不作為
命令を発し、又は「今後この種の行為を行わない旨の文書の掲示等」を命ずること
が考えられる。しかしながら、郵政省の取扱いが改められ、その後は、個別に許可
を受けていないという理由によつて一方的に撤去されるという事態は解消し、これ
もほかならぬ控訴人委員会の延岡郵便局事件における命令が主たる契機となり、労
使間の協議の結果確かめられたものであり、しかも通達改正という一種の制度的な
裏付けを伴つている以上、改めて不作為命令等の形でかかる事態の発生を無くすた
めの救済命令は、これを発する必要性を見いだし難い。次に考えられる救済命令
は、延岡郵便局事件におけるがごとく陳謝文の交付を命ずることであり、ないし
は、これに類する措置を命ずることである。そして、これは、A庶務課長らの撤去
行為それ自体、及びこれによつて被控訴人が現実に被つた不利益(情報宣伝活動上
の不利益、組合員の無力感・挫折感)という過去の事柄を問題とするものである。
しかしながら、上部機関同士の交渉による協議成立の結果係属中の個々の案件もす
べて解決されたと見るべきことは、右に説示したとおりであるところ、この解決済
みの事項の中には、当然に過去の問題も含まれていなければならず、したがつて、
本件において右の過去の問題に触れて、陳謝文の交付ないしはこれに類する措置を
命ずることは、無意味であり不必要というほかはない。また、延岡郵便局事件にお
いては結局陳謝文の交付を実現させることなく解決しておきながら、同様の案件た
る本件において、格別の特殊事情もないのに飽くまでも陳謝文の交付ないしはこれ
に類する措置を要求するというのでは、救済命令を発する必要性を肯定するにいま
だ不十分としなければならない。
 以上に対し、被控訴人は、不当労働行為と認められる事実がある場合には、救済
命令を発することこそが法の目的に添うゆえんであり、不当労働行為が存在するこ
とは、同時に救済されるべき利益の存在することを意味すると主張する。しかしな
がら、右主張が一般論を述べているのであれば、当裁判所の以上の判断も、かかる
一般論を原則としつつその例外を検討したものであるから、右判断を妨げるべき事
由とはなり得ない。また、被控訴人の右主張の趣旨が、不当労働行為の存在を認定
したときは必ず救済命令を発すべきであり、例外は一切認められないというのであ
れば、独自の見解であるから採用することはできない。被控訴人は、更に、本件に
おいては、組合掲示物撤去に対する原状回復措置が一切されていないことが問題で
あり、A庶務課長らの撤去行為によつて被つた被控訴人の情報宣伝活動上の不利益
はもとより、組合員の無力感・挫折感はいまだに解消・治癒されていないと主張す
る。しかしながら、これは過去の事柄を問題とするものであるところ、上部機関同
士の協議成立により解決済みとすべき事項の中には過去の問題も当然に含まれるこ
とは、右に説示したとおりであるから、被控訴人の右主張も採用の限りでない。な
お、被控訴人は、一括許可制に改められた現在でも、一括許可に付した許可条件に
違反するとして掲示物を一方的に撤去するという当局側の行為が繰り返されている
こととの関連において、本件における救済命令の必要性を主張するもののごとくで
あるが、本件掲示物撤去とは問題の性質を異にするから、右主張は採用しない。
九 当裁判所の判断は、以上一ないし八に示したとおりであり、原判決主文第一項
所掲の各事項中、(1)ないし(6)の点は、前記三ないし七説示の理由によりい
ずれも不当労働行為を構成しないし、同じく(7)の点は、右八説示の理由により
救済命令を発する必要がないものというべきである。したがつて、控訴人委員会が
右と同旨の判断の下に被控訴人の救済命令申立てのうち右(1)ないし(7)の点
に関する部分を棄却した本件命令中の該当部分は適法であるから、被控訴人の本訴
請求中その取消しを求める部分は、失当として棄却すべきである。
 よつて、原判決中右部分の請求を認容した部分(主文第一項)は不当であるか
ら、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八六条・九六条・八九条・九四条に従い、
主文のとおり判決する。
(裁判官 岡松行雄 賀集唱 並木茂)

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