弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     原審における未決勾留日数中四〇日を右本刑に算入する。
     原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、記録に綴つてある被告人本人及び弁護人堀耕作作成名義の各
控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 被告人本人の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意第一点について。
 所論は、いずれも原判決の事実誤認を主張し、被告人は、原判示の日時原判示の
A方居室に侵入したこともないし、また、同人に対して暴行を加えた事実もないと
いうのである。
 よつて、記録を精査して検討するに、被告人は終始本件犯行を否認しているので
あるが、しかし、原判決挙示の各証拠を綜合すると、原審証人Aは原審第二回公判
廷において原判示事実に照応する被害顛末の供述をしていること、並びに同人は、
原判示の日午前一〇時頃同人方近所のB方庭先で同人の娘Cに対し、頭髪を乱し、
泣きながら、「Dに家に来られいためられて困つた。もうDは許せない。警察に届
けて来る。」と言いながら同所を立去り、その足で居村の巡査駐在所まで赴き被害
事実の届出をしていることがそれぞれ認められるのであつて、右各事実に徴する
と、被告人が原判示の各所為に及んだことを優に肯定できるのである。記録を精査
しても、右認定を覆えすに足る何等の資料なく、また、Aが論旨の指摘するように
虚構の供述をしているとは到底認められない。論旨は理由がない。
 次に、職権をもつて調査するに、原判決は、被告人がAに暴行を加える目的で同
女方居室内に侵入した上同所において同女に対し暴行を加えた旨認定しながら、右
住居侵入と暴行とは刑法第四五条前段の併合罪であるとして同法第四七条第一〇条
を適用して重い住居侵入罪の刑に併合罪加重をした刑期範囲内で被告人を量<要旨>
刑処断していることが原判示に徴して明らかである。しかし、住居侵入をした上暴
行の所為に及んだ場合、右二個の所為は通常手段結果の関係にあるから、刑
法第五四条第一項後段(牽連犯)を適用して科刑上一罪として扱わなければならな
い筋合である(住居侵入と殺人についての明治四三年六月一七日の大審院判決及び
昭和二九年五月二七日の最高裁第一小法廷決定並びに住居侵入と傷害についての明
治四四年一一月一六日の大審院判決参照)。してみると、原判決は、法令の解釈を
誤つて適用した違法があり、右過誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから到
底破棄を免れない。
 よつて、弁護人の控訴趣意第二点(量刑不当)に対する判断を省略し、刑事訴訟
法第三九七条第一項第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により
当裁判所において直ちに判決する。
 原判決の確定した事実(累犯加重の原因となる前科事実を含む)に法律を適用す
ると、被告人の原判示所為中住居侵入の点は刑法第一三〇条罰金等臨時措置法第二
条第一項第三条第一項第一号に該当し、暴行の点は刑法第二〇八条罰金等臨時措置
法第二条第三条第一項第一号にそれぞれ該当するところ、右各所為は犯罪の手段も
しくは結果たる行為で他の罪名に触れる場合であるから刑法第五四条第一項後段第
一〇条を適用して重い住居侵入罪の刑に従つて処断すべく、所定刑中懲役刑を選択
し、被告人には前示前科があるので刑法第五六条第五七条を適用して再犯加重をし
た刑期範囲内で被告人を懲役六月に処すべく(本件犯行の動機、態様、被告人の前
科の点等に徴すると、弁護人が論旨で指摘する各事情を参酌しても、原審の量刑は
重きに失することはない)、刑法第二一条を適用して原審における未決勾留日数中
四〇日を右本刑に算入し、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従い原審及び当審に
おける訴訟費用は全部被告人に負担させることとする。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 木原繁季 裁判官 雑賀飛龍)

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