弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴に基づき,原判決中被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び
被控訴人Dに関する部分をいずれも取り消す。
2被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dの請求をいずれも
棄却する。
3被控訴人Eの本件附帯控訴に基づき,原判決中被控訴人Eに関する部分
を次のとおり変更する。
(1)控訴人は,被控訴人Eに対し,150万円及びこれに対する平成1
5年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人Eのその余の請求を棄却する。
4控訴人の被控訴人Eに対する本件控訴並びに被控訴人A,被控訴人B,
被控訴人C及び被控訴人Dの本件各附帯控訴をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,第1,2審を通じて,控訴人と被控訴人A,被控訴人B,
被控訴人C及び被控訴人Dとの間においては,全部同被控訴人らの負担と
し,控訴人と被控訴人Eとの間においては,これを2分し,その1を控訴
人の負担とし,その余を同被控訴人の負担とする。
6この判決は第3項(1)に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨等
1本件控訴
(1)原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2本件附帯控訴
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)控訴人は,被控訴人A,被控訴人B及び被控訴人Cに対し,各300万
円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
(3)控訴人は,被控訴人D及び被控訴人Eに対し,各300万円及びこれに
対する平成15年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
(4)訴訟費用は第1,2審とも控訴人の負担とする。
(5)仮執行の宣言
第2事案の概要
1本件は,控訴人の従業員(以下「社員」ともいう。)であり,又は従業員で
あった被控訴人らが,控訴人の被控訴人らに対する配置転換(以下「配転」と
もいう。)命令は違法であるとして,不法行為に基づく損害賠償請求として,
配転命令によって生じた精神的苦痛に対する慰謝料各300万円及びこれに対
する不法行為の日の後である各控訴の趣旨記載の日(訴状送達の日の翌日)か
ら各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事
案である。
原審は,被控訴人らの請求を被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控
訴人Dにつき各50万円,被控訴人Eにつき100万円並びにこれに対する各
控訴の趣旨記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で
それぞれ認容し,その余をいずれも棄却したので,控訴人は本件控訴を提起し,
被控訴人らは本件附帯控訴を提起した。
2前提となる事実,争点及び主張は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「
事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(1)原判決4頁10行目の「乙3」を「乙2,3」に改める。
(2)同5頁10行目の「営業系会社」を「サービス系会社」に改め,同6頁
21行目の「給与加算によって」の次に「減額となる分の」を加える。
(3)同6頁末行から7頁1行目にかけての「当該OS会社」から同頁2行目
の「加算し」までを「平成14年4月30日の控訴人退職時における退職金
に一時金を加算して支給し,さらに当該OS会社退職時に退職金を支給する
ことにより」に改める。
(4)同頁7行目の「配置転換」を「配置換等」に改める。
(5)同8頁10行目の「平成15年4月1日付」を「平成15年4月1日付
け」に改める。
(6)同頁11行目の「原告A」を「被控訴人A」に,同頁17行目の「原告
B」を「被控訴人B」に,同頁22行目の「原告C」を「被控訴人C」に,
同9頁2行目の「原告D」を「被控訴人D」にそれぞれ改め,同頁7行目の
「(以下「原告E」という。)」を削り,同頁10行目から11行目にかけ
ての「法人営業本部サービスマネージメント部NWソリューションセンタ」
の次に「(以下「NWソリューションセンタ」という。)を,同頁12行目
の「東京支店営業企画部光IP販売プロジェクト」の次に「(以下「光IP
販売プロジェクト」という。)」をそれぞれ加える。
(7)同11頁20行目の「特定して募集されて」を「特定した募集により」
に,同頁22行目の「労働者」を「労使間」にそれぞれ改める。
(8)同15頁1行目の「平成12年9月7日」の次に「判決」を加え,同頁
2行目から3行目にかけての「就業規則不利益禁止法理」を「就業規則不利
益変更禁止法理」に改める。
(9)同17頁11行目の「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律
」を「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に改める。
(10)同19頁6行目の「みなされた」を「みなされて」に,同頁15行目か
ら16行目にかけての「異議申立てを取り合わず」を「異議申立てに取り合
わず」にそれぞれ改める。
(11)同頁20行目の「本件配転」を「本件配転命令」に改める。
(12)同23頁7行目の「ということで」を「を選ばせることにより」に改め
る。
(13)同24頁12行目の「確立した国際法規」を「確立された国際法規」に,
同25頁15行目の冒頭から同頁16行目の末尾までを次のとおりそれぞれ
改める。
「本件構造改革等により控訴人における業務の一部が外注委託され,被控訴
人らの従事していた業務がなくなり,被控訴人らを他の業務に配転せざるを
得ない状況が生じていたのであり,かつ,一方では,激変する通信環境に対
応して固定電話専業の装置産業からITブロードバンド社会に適応した提案
型営業を中心としたサービス産業として脱皮するべく事業の再構築を行い,
かつそのための人員配置を多数の従業員が新会社に移行した状況のもとで行
う必要に直面していたのであって,かような状況下において行われた本件各
異動にはそれぞれ業務上の必要性が認められることは明らかである。」
(14)同頁17行目の「不当な動機,目的の存在」を「不当な動機,目的の不
存在」に,同26頁20行目の「免除する」を「免除される」にそれぞれ改
める。
(15)同27頁10行目の「札幌の異動」を「札幌への異動」に,同頁11行
目の「札幌となっていた」を「札幌に限定されていた」にそれぞれ改め,同
頁22行目の「SO業務」の次に「(SOとはサービスオーダーの略称。顧
客から依頼された注文に対して電話回線の状況や各種サービスの利用状況を
社内システムであるCUSTOMを利用して確認し,顧客の申込みに応じる
ことができるかなどの調査を行った後,顧客から受け付けたサービスや商品
の注文等の内容をCUSTOMに入力するなどして工事部門へ工事の手配等
を行う業務)」を加え,同28頁4行目の「職場であった」を「職場であっ
たといえる」に,同頁5行目の「苫小牧」を「苫小牧営業支店」に,同頁1
1行目の「介護認定の申請をして2級となり」を「要介護認定の申請をして
要介護2級となり」にそれぞれ改める。
(16)同30頁10行目から11行目にかけての「アカウントマネージャー」
の次に「の略称」を加え,同頁19行目の「同支店」を「苫小牧営業支店」
に,同31頁4行目の「本件配転」を「本件配転命令」に,同頁8行目の「
同支店」を「苫小牧営業支店」に,同頁22行目の「苫小牧」を「苫小牧営
業支店」にそれぞれ改める。
(17)同32頁20行目の「Lモード」の次に「(専用の電話機又はファクシ
ミリ等から文字や簡易な画像を中心とした情報の検索や電子メールの送受信
が利用できるサービス)」を,同34頁14行目の「バックヤード業務」の
次に「(割引サービスの料金シミュレーションやマイラインの申込みに関す
る事務処理等)」をそれぞれ加える。
(18)同35頁14行目の冒頭に「被控訴人Cが見習社員として雇用された」
を,同36頁4行目の「SE」の次に「(システムエンジニアの略称。AM
に対して技術面におけるアドバイス及び提案等を行う者)」をそれぞれ加え,
同頁23行目の「活かしてきたの技術」を「活かしてきた技術」に改める。
(19)同37頁16行目の「MCP」の次に「(マイクロソフト認定技術資格
)」を,同行の「CCNA」の次に「(シスコ技術者認定資格)」をそれぞ
れ加える。
(20)同38頁15行目の「札幌管内に変更された。」を「札幌管内に変更さ
れ,同管内に限定された。」に,同39頁7行目の「家族のコミュニケーシ
ョンがなくなり」を「家族とのコミュニケーションがなくなり」にそれぞれ
改め,同頁9行目の「大幅に超える」の次に「出費を余儀なくされる」を加
える。
(21)同41頁8行目の「苫小牧116センタ」を「北海道支店お客様サービ
ス部苫小牧116センタ(以下「苫小牧116センタ」という。)」に,同
頁22行目の「SO担当」を「NWソリューションセンタSO推進担当」に,
同頁末行から同42頁1行目にかけて,同頁2行目の各「光IPプロジェク
ト」をいずれも「光IP販売プロジェクト」に,同頁20行目から21行目
にかけての「現在は老人保健施設に入所している」を「その後に老人保健施
設に入所した」にそれぞれ改める。
(22)同43頁25行目から末行にかけての「サービスマネージメント部」を
削り,同44頁15行目,同頁19行目から20行目にかけて,同頁末行の
各「IP販売プロジェクト」をいずれも「光IP販売プロジェクト」に改め
る。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件配転命令の無効)について
次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に
対する判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決46頁6行目の「193,」の次に「291,」を加える。
(2)同47頁1行目の「外注委託化する」を「外注委託する」に改める。
(3)同頁9行目から10行目にかけての「被告を退職して」の次に「同年5
月1日に」を加える。
(4)同頁11行目の「激変緩和措置として,」の次に「OS会社定年退職後
の再雇用による契約社員期間における」を加え,同頁12行目の「被告の退
職金に一時金が加算される」を「控訴人の退職金に一時金が加算され,OS
会社における退職金も支給される」に改め,同頁18行目の末尾に「ただし,
この場合は,前示のような激変緩和措置は行わない。」を加え,同頁22行
目の「考えられた」から同48頁1行目の「とはしないこととした。」まで
を以下のとおり改める。
「考えられたことによる。そして,50歳以上の従業員を雇用形態選択の対
象とすることによりOS会社に再雇用される従業員の大多数が50歳以上に
なるため,50歳未満の従業員については雇用形態選択の対象としないで当
面はOS会社において従前の業務に従事させることによって,OS会社にお
ける年齢上のバランスを考慮するとともに,あわせて事業の継続性の維持も
企図したものである。また,控訴人は,満了型を選択した50歳以上の従業
員をOS会社への在籍出向の対象としなかったが,それは,OS会社に在籍
する50歳以上の従業員の大部分が控訴人を退職してOS会社に再雇用され
所定内給与が従前に比べて減額となる繰延型又は一時金型を選択した者であ
るから,満了型を選択した50歳以上の従業員をOS会社に在籍出向させる
ことは,OS会社で再雇用された従業員の不公平感をあおり,その勤労意欲
を削ぐことにもなりかねないので,これらの点に配慮したことによるもので
ある。」
(5)同49頁15行目から16行目にかけての「と書かれていた。」の次に
「被控訴人らの雇用通知書にも同様の記載がされていた。」を加え,同50
頁8行目の「配転」を「転用又は配置換」に,同頁15行目から16行目に
かけての「配転に伴い家族を帯同して赴任することを希望する者に対しては,
」を「業務上の必要がある場合には,独身・単身赴任の従業員以外の従業員
に対し,」に,同頁23行目の「原則」を「原則として」に,同頁24行目
の「介護の休職」を「介護休職」にそれぞれ改める。
(6)同52頁12行目の末尾に改行して以下のとおり加え,同頁18行目の
「上記認定」を「前示(1)ア(ウ)」に改める。
「かえって,前記認定の固定電話事業の減退,電気通信事業の自由競争化
に伴うシェアの低下等を通じて,控訴人の財務状況が悪化し,これにより
従業員の雇用確保も危ぶまれるという事態が懸念されたことからすると,
控訴人の事業構造を電話中心から情報流通へ転換するとともに法人営業を
中心としたIT機能の強化等による収益を獲得することなどを目的とした
本件構造改革にはその必要性が認められるというべきであり,かかる本件
構造改革を達成するために作成及び実施された本件計画についても相応の
合理性が認められるといわなければならない。」
(7)同53頁4行目の「事情とはならない」の次に以下のとおり加える。
「(被控訴人らは,控訴人が平成14年以降も安定して多額の利益を計上し
続けていたことからすると,控訴人の事業の存立自体が早晩危機に瀕する
状況にあったという控訴人の主張が虚構であったことが明らかになったの
であり,本件構造改革の必要性はなかった旨主張する。確かに,証拠(乙
47,54ないし56,401,402)によれば,控訴人の平成11年
度(控訴人が設立された平成11年7月1日から平成12年3月31日ま
で)の営業収益は2兆1547億円,経常利益は567億円,平成12年
度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)の営業収益は2
兆7945億円,経常利益は141億円,平成13年度(平成13年4月
1日から平成14年3月31日まで)の営業収益は2兆5736億円,経
常利益は75億円,平成14年度(平成14年4月1日から平成15年3
月31日まで)の営業収益は2兆3522億円,経常利益は633億円,
平成15年度(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで)の営
業収益は2兆2671億円,経常利益は978億円,平成16年度(平成
16年4月1日から平成17年3月31日まで)の営業収益は2兆180
9億円,経常利益は976億円,平成17年度(平成17年4月1日から
平成18年3月31日まで)の営業収益は2兆1253億円,経常利益は
842億円,平成18年度(平成18年4月1日から平成19年3月31
日まで)の営業収益は2兆0613億円,経常利益は903億円であるこ
とが認められ,控訴人の平成14年度以降の経常利益は数百億円に上る黒
字であったことが認められるけれども,控訴人の平成11年度ないし平成
13年度の経常利益はいずれも黒字であったものの,減少を続けており,
特に平成11年度はその対象期間が9か月間であったにもかかわらず56
7億円の経常利益があったのに対し,平成12年度の経常利益は141億
円,平成13年度の経常利益は75億円と著しく減少しているのであり,
このことは控訴人の業績が悪化しつつあったことを示しているところ,本
件構造改革がされた後の平成14年度以降の経常利益は上記のとおり数百
億円に上る黒字となっているのであり,本件に顕れた控訴人の経営状況か
らみる限り,控訴人の業績が改善されたのが本件構造改革がされたことに
よるものであろうことは否定できないのであって,本件構造改革がなくて
も一層の業績悪化から脱却することができたはずであるとすべき十分な根
拠があるとは考え難い。したがって,控訴人の平成14年度以降の経常利
益が黒字であったからといって,本件構造改革の必要性がなかったとはい
えないというべきであって,被控訴人らの主張は採用できない。)」
(8)同頁4行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人らは,NTTの宮津社長が控訴人の従業員を本件構造改革の前に
立ちはだかる障害物である「大きな石」にたとえ,この「大きな石」を排除
しなければ本件構造改革は完遂しないと考えていたことなどから,本件構造
改革は従業員のリストラを図るための目的のみで行われたものであり,本件
構造改革の必要性はなかった旨主張する。確かに,証拠(甲39,40)に
よれば,NTTの宮津社長は,平成14年4月29日付け通信興業新聞にお
いて,「進路に横たわっている大きな石,すなわち『人の問題』を構造改革
によって退けたわけである。まともな経営をやる上での大きな課題が,何ん
とか解決されたといっていい。」などと,「日経ビジネス」2002年(平
成14年)5月27日号において,「赤字が増えるばかりの構造に陥った。
でっかい石が横たわっていてその先に一歩も進めなくなってしまった。」「
いらない人間を『いらない』と言えること,『これだけの事業をやるために
何人必要』ではなく『今の人数で儲かることだけをやる』という発想に切り
替えること。この2つが,NTTが独占者ではなく競争者になるということ
の意味だ。」などとそれぞれ述べていたことが認められるけれども,これら
の発言は,上記新聞及び雑誌の記事全体の論調に照らすと,NTTの経営課
題について触れる中で,控訴人及び西日本電信電話株式会社の財務が苦しく
なり,希望退職だけでは対応できず,本件構造改革が必要になったことにつ
いて述べる中などにおいてされたものであり,NTTの競争力を維持するた
めに本件構造改革が必要であることを強調しているものと認められるのであ
って,控訴人の従業員を石にたとえたことについては措辞が適切を欠く面が
ないではないが,この発言が本件構造改革が従業員のリストラを図るための
目的のみで行われたものであることを示すものとは認められず,本件構造改
革の必要性がなかったとまでは認められない。したがって,被控訴人らの主
張は採用できない。」
(9)同54頁23行目の「主張」を「被控訴人らの主張」に改める。
(10)同55頁24行目の「選択を強いられたとまでいうことはできない」の
次に以下のとおり加える。
「(被控訴人らは,証拠(甲335の1・2)によれば,株式会社エヌ・テ
ィ・ティエムイー四国愛媛支店のF課長が同支店の従業員であるGに対
して退職・再雇用に応じるよう威迫していたことが認められるのであり,
控訴人の従業員が雇用形態の選択を強いられていたことは明らかである旨
主張する。しかしながら,上記課長と従業員との間のやり取りは,控訴人
とは別の会社で行われていたものであり,この会社において上記課長と従
業員との間で上記証拠により認められるやり取りがされていたからといっ
て,そのことから直ちに控訴人においても同様のやり取りがされていた事
実を推認するのは困難であり,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,
控訴人の従業員が雇用形態の選択を強いられていたとの被控訴人らの主張
は採用することができない。)」
(11)同頁24行目の末尾に以下のとおり加える。
「しかも,後記のとおり,被控訴人らは,いずれも本件選択通知書を提出せ
ず,繰延型,一時金型又は満了型の雇用形態を選択することなく,控訴人と
の間で従前の内容の雇用契約が継続されることになったのであるから,年齢
差別の主張をする前提に欠けるというべきである。」
(12)同56頁2行目の「いうことはできず」の次に以下のとおり加える。
「(被控訴人らは,本件選択通知書を提出しなかったために満了型を選択し
たものとみなされたが,その結果,被控訴人らは,控訴人との間で従前の内
容の雇用契約が継続されることになったのであるから,これをもって被控訴
人らについて整理解雇又は就業規則の変更があったといえないことは明らか
であり,被控訴人らについては,端的に配転命令の適否を論ずれば足りるも
のである。)」
(13)同頁8行目の「勧告」の次に「違反」を加える。
(14)同57頁10行目の冒頭から同58頁21行目の末尾までを以下のとお
り改める。
「(ア)上記のとおり,使用者と労働者との間に勤務地や職種の限定の合意
が認められないとしても,転勤,特に転居を伴う転勤は,一般に,労働
者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから,使用者の転
勤命令権は無制約に行使することができるものではなく,これを濫用す
ることの許されないことはいうまでもないところ,当該転勤命令につき
業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっ
ても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであ
るとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益
を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,
当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。そし
て,上記の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をも
っては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でな
く,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲
の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認めら
れる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁判所昭
和59年(オ)第1318号同61年7月14日第二小法廷判決・裁判集
民事148号281頁参照)。
これを本件に照らしてみるに,本件構造改革による業務の外注委託の
ような場合は,被控訴人らが従事していた業務を控訴人から失わせるも
のであるから(ただし,被控訴人EのNWソリューションセンタへの配
転については,後述するように事情を異にする。),業務の外注委託に
より,被控訴人らの担当業務が存在しなくなった場合に,その結果とし
て,被控訴人らが従前と異なる職種に従事しなければならなくなること
はやむを得ないところであるし,その際に,従前の勤務場所における職
種の変更が種々の事情により困難であるときには,被控訴人らが遠隔地
への配転を余儀なくされたとしても,そのことが直ちに不当とはいえな
いのであって,当該配転が控訴人の合理的運営に寄与する面があり,業
務上の必要性があるか否かを判断するに当たっては,この点を度外視す
ることはできない(労働者が従事していた業務が存続するものの個々の
事情に基づいて当該労働者を配転する場合と,労働者が従事していた業
務が存在しなくなった結果やむを得ず当該労働者を配転する場合とでは,
上記業務上の必要性の判断にも自ずから差異が生じてしかるべきである
(最高裁判所昭和63年(オ)第513号平成元年12月7日第一小法廷
判決・労働判例554号6頁参照)。)。この場合でも,配転対象者全
員を一斉に他の特定の勤務場所の同一の部署に配置換えするものでない
以上,本件各配転に伴う被控訴人らの業務上の必要性については個別に
その有無が判断されなければならない。
そして,業務上の必要性をめぐる事情は,被控訴人らごとに異なるも
のであるから,下記2ないし6(争点(2)ないし(6)に対する判断)にお
いて,被控訴人らの配転障害事由とあわせて,被控訴人らの個別事情を
検討することとする。
(イ)不当な動機,目的について
被控訴人らは,本件各配転は,控訴人の意向に従わなかった被控訴人
らに対する報復として行われ,被控訴人らが控訴人を退職してOS会社
に雇用されることに応じなければ控訴人により異職種や遠隔地への配転
が行われるという見せしめの意味をもっていたと主張する。しかしなが
ら,選択すべき雇用形態及び処遇体系のうち,満了型ではなく,繰延型
又は一時金型を選択させることこそが控訴人の意向であることを認める
に足りる証拠はなく,被控訴人らに対する本件各配転が被控訴人らに対
する報復として行われたとか,あるいは見せしめの意味をもっていたと
いうべき根拠は十分でないから,被控訴人らの主張を採用することはで
きない。
被控訴人らは,控訴人は,H労組との団体交渉において不誠実な団体
交渉に終始していることなどに照らし,H労組を嫌悪かつ敵視している
ことは明らかであり,H労組の組合員である被控訴人らを差別的に扱い,
被控訴人らをねらい打ちにして本件各配転を行ったものであり,これは,
H労組の弱体化ないし無力化を図ったものである旨主張する。しかしな
がら,雇用形態及び処遇体系の多様化は,労働者の所属組合のいかんに
よって実施されたものではないし,証拠(乙45)によれば,移行対象
業務に従事していた満了型選択者約300名のうち,I労働組合の組合
員が約160名,H労組の組合員が約140名であるところ,上記約3
00名のうちたとえば首都圏に異動となった者130名の内訳をみると,
I労働組合の組合員が約90名,H労組の組合員が約40名であったこ
とが認められるのであり,この事実に照らしても,控訴人がH労組の組
合員である被控訴人らを差別的に扱い,あるいは被控訴人らをねらい打
ちにして本件各配転を行ったものであるとは認められず,本件各配転が
H労組の弱体化ないし無力化を図ったものであることを認めるに足りる
証拠もない。したがって,被控訴人らの主張は採用できない。
被控訴人らは,H労組の組合員であるJについて「H労組,FNCの
文化を否定するような人物」と記載されている(甲140)ことからす
ると,控訴人はH労組に対して不当労働行為をする強い意思を有してい
たものと認められ,ひいては本件各配転については,控訴人の本社が各
配転先に対して満了型選択者を受け入れるよう指示しており,各配転先
は本社から満了型選択者を人選するよう指示されていたものであって,
各配転先が積極的に人員を要請していたのではないことが明らかであり,
本件各配転は不当な動機,目的に基づくことが推認される旨主張する。
しかしながら,証拠(甲140)によれば,平成14年6月12日付け
「60歳満了型選択者のFNC内の配置の基本的な考え方(案)」と題
する書面には,被控訴人らが主張するような記載があることが認められ
るけれども,同書面は,Jの上長であったKが当時のサービス開発部ブ
ロードバンド推進室フレッツネットワークサービスセンタ所長であるL
及び部長であるMに対してJほか4名を異動者とすることについての了
承を得るために作成し送付したものであり(乙396),確かに,Kが
Jの人物像をコメントするに当たって適切でない表現を使用したといえ
なくはないが,かかる個人が使用した表現をもって会社組織である控訴
人がH労組に対して不当労働行為をする意思を有していたと認めるのは
飛躍があるし,ましてや本件各配転について各配転先が人員を要請して
いなかったと推認すべき根拠として十分ではなく,かえって後記で検討
するとおり,本件各配転はいずれも各配転先における人員の要請に基づ
くものであって,控訴人において各配転先に被控訴人ら各人を配置する
具体的業務上の必要性があったとみるべきであるから,本件各配転が不
当な動機,目的に基づくものとは認められない。したがって,被控訴人
らの主張は採用できない。」
2争点(2)(被控訴人Aの個別事情)について
(1)被控訴人Aの職歴等,苫小牧営業支店における職務,被控訴人Aの家族
状況等は,次のとおり訂正するほかは,原判決58頁23行目の「証拠」か
ら同62頁3行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア原判決58頁23行目の「142,」の次に「306,」を,同頁24
行目の「146の1ないし5,」の次に「204の1,286,287,
291,314の1ないし5,315の1ないし6,316の1ないし6,
317の1ないし3,491ないし497,」をそれぞれ加える。
イ同59頁11行目の「全面委託化される」を「全面的に委託される」に
改める。
ウ同頁18行目の「商品の訪問販売等の業務を行った。」の次に「これに
より,被控訴人Aは,顧客に対して控訴人の商品や通信回線の各種サービ
ス等の提案及び折衝を行うなどの販売経験を有するようになった。」を加
える。
エ同頁24行目の「業務」を「SO業務」に改め,同行の「行っていた。
」の次に「被控訴人Aの具体的な業務は,CUSTOMを操作して顧客か
らの電話回線の申込等の注文内容を確認した上で工事部門へ工事の手配等
を行うものであった。」を加える。
オ同60頁2行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「なお,被控訴人Aが従事していた札幌116センタのフロント担当の業
務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行される
予定であり,北海道支店には被控訴人Aが従事していた業務は存在しなく
なることになった。」
カ同頁4行目の「部門への人事異動を受け」を「部門に異動となり」に改
め,同頁7行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「苫小牧営業支店では法人営業担当の秘書サポート業務が繁忙となってお
り,苫小牧営業支店は,北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請
し,その際,CUSTOMを使って顧客の電話回線の状態及び各種サービ
スの利用状況を確認し,工事手配及び社内事務処理をすることができる上,
AMや顧客の信頼を得ることができるような販売経験のある人材を要請し
た。これに対し,北海道支店においては北海道内で再配置を必要とする対
象者のうち被控訴人AのみがCUSTOMについての相当程度のスキル,
知識及び経験を有し,かつ,販売経験もあったことから,北海道支店は,
被控訴人Aを苫小牧営業支店に配属すると選定したものである。(乙13
4,142,204の1,287,291,証人N,同O)」
キ同頁9行目の「北海道支店営業企画部の法務担当」を「北海道支店営業
企画部法務担当」に改める。
(2)上記認定事実を踏まえ,被控訴人Aの個別事情について検討する。
ア業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Aが従事していた札幌116センタのフロ
ント担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社
に移行され,北海道支店には被控訴人Aが従事していた業務が存在しなく
なるのであるから,北海道支店は,被控訴人Aを他の業務に配置せざるを
得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認定のとおり,
被控訴人Aは,平成11年1月から滝川営業所営業担当に配属され,商品
の訪問販売等の業務を行っており,顧客に対して控訴人の商品や通信回線
の各種サービス等の提案及び折衝を行うなどの販売経験を有しており,平
成13年1月からは札幌116センタにおいてSO業務に従事し,CUS
TOMを操作して顧客からの電話回線の申込等の注文内容を確認した上で
工事の手配等を行うなどのスキルを有していたところ,苫小牧営業支店で
は法人営業担当の秘書サポート業務が繁忙となっており,苫小牧営業支店
は,北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請し,その際,CUS
TOMを使って顧客の電話回線状態及び各種サービスの利用状況を確認し,
工事手配及び社内事務処理をすることができる上,AMや顧客の信頼を得
ることができるような販売経験のある人材を要請し,北海道支店において
は北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人AのみがCUST
OMについての相当程度のスキル,知識及び経験を有し,かつ,販売経験
もあったことから,北海道支店は,被控訴人Aを苫小牧営業支店に配属す
ると選定したというのであるから,被控訴人Aが選定された経緯は合理性
がないとはいえない(被控訴人Aは,北海道支店が被控訴人Aを苫小牧営
業支店に配属すると選定するに当たって,被控訴人Aに販売経験があった
ことは格別重要視されていなかった旨主張する。しかし,苫小牧営業支店
が法人営業担当の秘書サポート業務に従事する人員としてCUSTOMに
ついてのスキルのほか,販売経験を有する人材を要請し,北海道支店が同
要請に適う人材として被控訴人Aを選定したことは前記のとおりであり,
このような被控訴人Aが選定された経緯に照らし,被控訴人Aに販売経験
があったことが格別重要視されていなかったとはいえないし,実際にも,
過去に販売経験のある従業員の方が単に接客の経験を有するにすぎない従
業員よりも秘書サポート業務を効率よくこなすことができると考えられる
のであって,秘書サポート業務に販売経験のある人材が求められたことに
ついて特段不自然な点は見当たらないというべきである。したがって,被
控訴人Aの主張は採用できない。)。そして,被控訴人Aが札幌116セ
ンタにおいて従事していたSO業務と苫小牧営業支店において従事してい
た秘書サポート業務とは,顧客から電話回線の申込等の注文を受けた際,
CUSTOMを操作して工事部門への工事手配等を行うなどの点で共通し
ていた(この点につき,被控訴人Aは,札幌116センタにおいてCUS
TOMを使用した業務は主に個人の顧客を対象としたものであり,苫小牧
営業支店においてCUSTOMを使用した業務は法人の顧客を対象とした
ものであって,上記各業務の内容には大きな違いがある旨主張するけれど
も,個人の顧客からの注文を処理する際のCUSTOMの操作方法と,法
人の顧客からの注文を処理する際のCUSTOMの操作方法とでは,回線
の本数の多寡によってCUSTOMを操作する回数等が異なるのみで,基
本的な操作方法は共通している(乙205の1ないし3)のであるから,
被控訴人Aの主張は採用できない。)上,被控訴人Aは,苫小牧営業支店
において,顧客からの通信回線の申込等の処理を行うなどして秘書サポー
ト業務を行っていたのであって,苫小牧営業支店における秘書サポート業
務が被控訴人Aにとって適性のないものであったということはできない。
以上によれば,被控訴人Aにつき,本件配転は,労働力の適正配置,業務
の能率増進及び業務運営の円滑化の観点から控訴人の合理的運営に寄与す
るものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものとい
うべきである。
イ配転障害事由について
被控訴人Aは,本件配転命令により,持病の喘息の発作が起きる可能性
があること,夜間や休日に両親の世話ができず,両親がともに自宅で療養
することができなくなったこと,肝がんで入院していた夫の見舞いなどが
できなったこと,世帯が2つとなり経済的負担が大きくなったこと,以上
の不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべ
き程度を著しく超える不利益を負わせたものである旨主張する。
しかし,持病の喘息に関しては,被控訴人Aが苫小牧に異動することに
よって具体的な支障を生じ,又は生ずるおそれがあったことを認めるに足
りる証拠はない。また,前記のとおり,被控訴人Aは,既に札幌116セ
ンタに勤務してから両親が居住する滝川を離れて単身又は長女と同居して
生活していたことからすれば,本件配転命令の時点では両親の介護に関し
本件配転命令によって大きな影響を受けたとは認められない。さらに,被
控訴人Aの夫が肝がんにより入院したのは平成15年12月のことである
ことは前記のとおりであり,被控訴人Aの夫の入院は本件配転命令後に生
じた事由であって,被控訴人Aに対し本件配転命令により通常甘受すべき
程度を著しく超える不利益を負わせたか否かを判断するに当たって,これ
を考慮するのは相当ではないというべきである。被控訴人Aが主張する経
済的負担についても,控訴人には,単身赴任手当,帰郷実費の支給の制度
があり,社宅の用意もあったことからすれば,被控訴人Aの経済的負担が
大きかったとまでは認められない。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Aに生じたという
各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認
められないといわざるを得ない。
(3)以上の検討結果によれば,被控訴人Aに対する本件配転命令は,業務上
の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Aに生じた不利益は,配
転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められない
から,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4)以上によれば,被控訴人Aの請求は,その余の点を判断するまでもなく,
理由がない。
3争点(3)(被控訴人Bの個別事情)について
(1)被控訴人Bの職歴等,室蘭営業支店における職務,被控訴人Bの家族状
況は,次のとおり訂正するほかは,原判決64頁6行目の「証拠」から同6
6頁5行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア原判決64頁6行目の「153,」の次に「305,」を,同行の「1
03,」の次に「134,」を,同頁7行目の「148の1ないし5,」
の次に「204の2,207,208の1・2,253ないし259,2
91ないし293,358,390ないし392,」を,同行の「証人」
の次に「N,同」をそれぞれ加える。
イ同頁25行目の末尾に以下のとおり加える。
「これにより,被控訴人Bは,顧客に対して控訴人の商品や通信回線の各
種サービス等の提案及び折衝を行うなどの販売業務に従事するようになっ
た。」
ウ同65頁7行目の冒頭から同頁8行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(キ)被控訴人Bは,平成13年1月1日から,北海道支店営業部エリ
ア営業部門営業担当に在籍して販売業務に従事した。
被控訴人Bは,留萌営業所営業担当及び北海道支店営業部エリア営
業部門営業担当における販売業務を通じて,控訴人の商品や通信回線
の各種サービス等に関する知識を備え,顧客のニーズを把握して顧客
に対して提案及び折衝を行うことができる営業スキルを有するように
なった。(乙143,293,証人P)」
エ同頁9行目の「原告Bは」から同頁10行目の「となったところ,」ま
でを「被控訴人Bが従事していた北海道支店営業部エリア営業部門営業担
当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に移行
され,北海道支店には被控訴人Bが従事していた業務が存在しなくなるこ
とになるところ,被控訴人Bは,」に改める。
オ同頁16行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「室蘭営業支店では,Lモードを中心とした販売成績が良く,その市場性
を見込んで更に販売を伸ばしたいという希望を持っており,販売を拡大す
るための企画及び立案をし,しかも,Lモードという新しい商品の担当を
してもらう人材を要請した。これに対し,北海道支店においては北海道内
で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人Bが市場調査,企画提案書の
作成及びバックヤード業務に適性があり,最も販売経験が長かったことか
ら,北海道支店は,被控訴人Bを室蘭営業支店に配属するよう選定したも
のである。(乙134,143,204の2,291,293,証人N,
同P)」
カ同頁22行目の冒頭から同頁末行の末尾までを以下のとおり改める。
「(イ)被控訴人Bは,室蘭営業支店において,当初は,Lモードの販売
促進の企画を担当し,Lモードの販売に関する調査として,Q協同組
合への企画及び提案等の担当を割り振られていたが,被控訴人Bに対
しては,Lモードの販売に関する調査について書面による指示はなく,
販売の拡大についてQ協同組合のほかに特に具体的な指示がされたこ
とはなかった。その後,被控訴人Bは,平成14年10月から,調達
物流の業務を行うようになったが,同業務は,AMが顧客から電話機
等の通信機器の申込みを受けた際,室蘭営業所に在庫がない物品につ
いて,端末等を操作して北海道支店に納品を要求するなどして物品を
管理するものであったところ,被控訴人Bは,それまでの販売経験等
により控訴人の商品及びその物品コードを把握していたことから室蘭
営業支店における物品要求が滞ることがなくなるなど,同支店におけ
る物品管理業務の状況を改善させる働きを見せていた。また,被控訴
人Bは,平成15年4月からは,通信機器業務支援システム(控訴人
が販売する電話機,ファクシミリ等の通信機器に関する業務を支援す
るコンピューターシステム)の登録及び確認等を担当するようになっ
た。(甲143,乙143,147の1・2,148の1ないし5,
293,358,証人P,被控訴人B本人)」
キ同66頁4行目の冒頭から同頁5行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(イ)被控訴人Bは,平成13年1月に留萌営業所営業担当から北海道
支店営業部エリア営業部門営業担当に異動した際,妻とともに札幌に
居住することとし,以後,増毛町の自宅に居住しなかった。
被控訴人Bは,平成14年7月から,室蘭において単身赴任生活を
始め,同生活は,平成16年3月まで続いた。(甲143,乙258,
259,被控訴人B本人)」
(2)上記認定事実を踏まえ,被控訴人Bの個別事情について検討する。
ア業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Bが従事していた北海道支店営業部エリア
営業部門営業担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日に
OS会社に移行され,北海道支店には被控訴人Bが従事していた業務が存
在しなくなるのであるから,北海道支店は,被控訴人Bを他の業務に配置
せざるを得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認定
のとおり,被控訴人Bは,平成7年2月から留萌営業所営業担当として顧
客に対して控訴人の商品や通信回線の各種サービス等の提案及び折衝を行
うなどの販売業務に従事しており,平成13年1月からは北海道支店営業
部エリア営業部門営業担当に在籍して販売業務に従事していたことから,
控訴人の商品や通信回線の各種サービス等に関する知識を備え,顧客のニ
ーズを把握して顧客に対して提案及び折衝を行うことができる営業スキル
を有していたところ,室蘭営業支店では,Lモードを中心とした販売成績
が良く,その市場性を見込んで更に販売を伸ばしたいという希望を持って
おり,販売を拡大するための企画及び立案をし,Lモードという新しい商
品の担当をしてもらう人材を要請し,北海道支店においては北海道内で再
配置を必要とする対象者のうち被控訴人Bが市場調査,企画提案書の作成
及びバックヤード業務に適性があり,最も販売経験が長かったことから,
北海道支店は,被控訴人Bを室蘭営業支店に配属すると選定したのであっ
て,被控訴人Bが選定された経緯は合理性がないとはいえない(なお,被
控訴人Bは,北海道内のLモードの販売目標数は8万件であるが,その8
0%弱の5万4000件の販売をパートナー(主に量販店)に割り付けて
おり,控訴人の販売目標数は3%にも満たない2200件にすぎない(甲
156,157)ことに照らすと,控訴人自身がLモードを販売すること
は全く予定されておらず,このことは室蘭営業支店でも同様であったと考
えられるから,室蘭営業支店においてLモードの商品の担当をしてもらう
人材を要請していたとは考え難い旨主張する。しかしながら,この点につ
き,控訴人は,控訴人にはLモードのほかBフレッツ等をはじめとして多
数の商品・サービスが存在するところ,これらの商品・サービスを顧客に
提案ないし販売するのは控訴人の社員による営業活動だけではなく,控訴
人において他の企業との間で代理店契約を締結したり,インターネットを
通じて販売したりするなどして様々な販路を活用しながら全体として売上
の向上を図っている旨の説明をしているところ,かかる説明が不合理なも
のであるとまではいえず,控訴人の社員の営業活動による販売目標数その
ものがパートナーによる販売目標数に比べて少なかったとしても,そのこ
とのみで控訴人がLモードを販売することを予定していなかったとはいえ
ないというべきである。したがって,被控訴人Bの主張は採用することが
できない。)。そして,被控訴人Bは,室蘭営業支店において,Lモード
の販売に関する調査として,Q協同組合への企画及び提案等の担当を割り
振られていたところ,被控訴人Bに対しては,Lモードの販売に関する調
査について書面による指示はなく,しかも,販売の拡大についてQ協同組
合のほかに特に具体的な指示がされたことはなかったとしても,Lモード
の新しい利用方法の調査及び企画というその業務の性質上,当該業務は既
存のノウハウをもとに細かい指示が与えられるようなものではなく,また,
必要に応じて上長や同僚に助言を仰ぐことも可能であると考えられるから,
被控訴人Bは,従前の販売経験を生かして顧客のニーズをくみ上げるべく
努力して業務を遂行することが可能であったといえる上,被控訴人Bは,
平成14年10月から調達物流の業務を行い,平成15年4月からは通信
機器業務支援システムの登録及び確認等を担当するようになったが,調達
物流の業務では,それまでの販売経験等により控訴人の商品及びその物品
コードを把握していたことから室蘭営業支店における物品の要求が滞るこ
とがなくなるなど,物品管理業務の状況を改善させる働きを見せていたの
であって,室蘭営業支店における営業総括担当の業務が被控訴人Bにとっ
て適性のないものであったとはいえない。以上によれば,被控訴人Bにつ
き,本件配転は,労働力の適正配置の観点から控訴人の合理的運営に寄与
するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるものと
いうべきである。
イ配転障害事由について
被控訴人Bは,本件配転命令により,妻とともに二女の子の世話をする
ことができなくなったこと,増毛町の自宅の管理をすることができなくな
ったこと,身内や知人のいない室蘭での生活を余儀なくされたことなどの
不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべき
程度を著しく超える不利益を負わせるものである旨主張する。
しかし,二女の子の世話については,そもそも二女の子の養育を二女自
身に代わって被控訴人Bが行うべき立場にあったというような事情はうか
がわれないし,被控訴人Bが室蘭に異動することによって二女による養育
が不可能又は著しく困難となったことを認めるに足りる証拠はない。また,
自宅の管理に関しては,転居を伴う異動によって自宅の管理が必要になる
ことは通常ないわけではなく,前記のとおり,被控訴人Bは,留萌営業所
営業担当から北海道支店営業部エリア営業部門営業担当に異動した際に札
幌に転居しており,増毛町の自宅には居住していなかったのであるから,
本件配転命令によって自宅の管理について新たに支障が生じたものとは認
められない。さらに,被控訴人Bが身内や知人のいない室蘭での生活を余
儀なくされたことについては,これにより被控訴人Bが寂しさや不便さを
感じたであろうことは推察されるものの,そのことのみでは単身赴任が不
当であるとはいい難いというべきである。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Bに生じたという
各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認
められないといわざるを得ない。
(3)以上の検討結果によれば,被控訴人Bに対する本件配転命令は,業務上
の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Bに生じた不利益は,配
転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められない
から,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4)以上によれば,被控訴人Bの請求は,その余の点を判断するまでもなく,
理由がない。
4争点(4)(被控訴人Cの個別事情)について
(1)被控訴人Cの職歴等,函館営業支店における職務,家族状況等及び関連
するその他の事情は,次のとおり訂正するほかは,原判決68頁2行目の「
証拠」から同70頁3行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを引用
する。
ア原判決68頁2行目の「甲125,144,」の次に「288,」を,
同行の「105,」の次に「134,」を,同頁3行目の「153の1な
いし6,」の次に「204の3,209,212,214,238,26
1ないし264,289ないし291,408ないし410,418,4
19,422,」をそれぞれ加える。
イ同頁14行目の冒頭から同頁16行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(ウ)被控訴人Cは,平成9年8月1日にTE北海道小樽ネットワーク
サービスセンタに在籍出向となり,平成11年7月1日にNTTから
控訴人に雇用関係が承継されたが,TE北海道小樽ネットワークサー
ビスセンタに在籍出向であることに変更はなかった。
TE北海道は,平成12年3月1日,ME北海道に商号変更した。
(乙264)
なお,被控訴人Cは,平成元年4月1日に小樽支店専用線サービス
担当に配属されて以降,専用線サービスの構築,保守及び運用管理を
する業務に従事し,ME北海道小樽ネットワークサービスセンタに在
籍出向していた際には,専用線サービス業務の一環として,ネットワ
ークに関する最新の通信技術であるWDM装置や10Gリング中継装
置の仕事をするなど,専用線業務に従事しながらネットワークの保守
運用についての知識,技能を身につけた。また,被控訴人Cは,ネッ
トワーク構築スキルに関連するコンピュータについての知識として,
平成11年7月にMCPの資格を,平成12年8月にはCCNAの資
格をそれぞれ取得した。(甲144,乙134,289,291,証
人N,被控訴人C本人)
(エ)被控訴人Cが従事していたME北海道小樽ネットワークサービス
センタの業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会
社に移行される予定であり,ME北海道には被控訴人Cが従事してい
た業務が存在しなくなることになった。」
ウ同頁17行目の「(エ)」を削る。
エ同頁21行目の「平成14年6月4日から同月5日ころにかけて」を「
平成14年6月6日」に改め,同頁23行目の「甲144」の次に「,乙
238」を加える。
オ同69頁5行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「函館営業支店ではSE担当の業務が繁忙となっており,函館営業支店は,
北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請し,その際,SE担当と
してネットワークの構築,維持及び管理の知識を持ち,かつ,これらにつ
いて高度のスキルを有している人材を要請した。これに対し,北海道支店
においては北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人CがMC
P及びCCNAの資格を有しており,ネットワークについて高度のスキル
を有していると認められたため,函館営業支店からSE担当の人材として
要請のあったニーズに合致する者として被控訴人Cを配置するのが適切で
あると判断したものである。(乙134,144,204の3,290,
291,証人N,同R)」
カ同頁15行目の「乙155,」の次に「証人R,」を加える。
キ同頁19行目の「原告Cは,」の次に「本件配転に当たって,」を加え
る。
(2)上記認定事実を踏まえ,被控訴人Cの個別事情について検討する。
ア業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Cが従事していたME北海道小樽ネットワ
ークサービスセンタの業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日
にOS会社に移行され,ME北海道には被控訴人Cが従事していた業務が
存在しなくなるのであるから,北海道支店は,被控訴人Cを他の業務に配
置せざるを得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認
定のとおり,被控訴人Cは,平成元年4月1日に小樽支店専用線サービス
担当に配属されて以降,専用線サービスの構築,保守及び運用管理をする
業務に従事し,ME北海道小樽ネットワークサービスセンタに在籍出向し
ていた際には,専用線サービス業務の一環として,ネットワークに関する
最新の通信技術であるWDM装置や10Gリング中継装置の仕事をするな
ど,専用線業務に従事しながらネットワークの保守運用についての知識,
技能を身につけており,ネットワーク構築スキルに関連するコンピュータ
についての知識として,MCP及びCCNAの資格を有していたところ,
函館営業支店ではSE担当の業務が繁忙となっており,函館営業支店は,
北海道支店に対し,同業務への人員の増員を要請し,その際,SE担当と
してネットワークの構築,維持及び管理の知識を持ち,かつ,これらにつ
いて高度のスキルを有している人材を要請し,北海道支店においては北海
道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人CがMCP及びCCNA
の資格を有しており,ネットワークについて高度のスキルを有していると
認められたため,函館営業支店からSE担当の人材として要請のあったニ
ーズに合致する者として被控訴人Cを配置するのが適切であると判断した
のであって,被控訴人Cが選定された経緯は合理性がないとはいえない。
そして,被控訴人Cは,函館営業支店において,コンピュータ等の更改に
伴うインターネット接続確認試験,控訴人が受託した保守業務委託におけ
る保守契約先からの故障受付,ベンダー手配等,IT講習会に関する契約
等の業務処理手続,受託工事に関する契約等事務処理手続等の業務を行っ
ていたのであって,函館営業支店におけるSE担当の業務が被控訴人Cに
とって適性のないものであったとはいえない。以上によれば,被控訴人C
につき,本件配転は,労働力の適正配置,業務の能率増進及び業務運営の
円滑化の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められ
るから,業務上の必要性が認められるものというべきである。
被控訴人Cは,本件調査票には「通労1名ほぼ不稼働」との記載がある
ところ,函館営業支店におけるH労組の加入者は被控訴人Cのみであった
ことに照らすと,被控訴人Cが函館営業支店において適当な業務が与えら
れていなかったことは明らかである旨主張する。しかしながら,前記認定
のとおり,本件調査票には,函館営業支店の状況につき「案件をわずかS
E6名(内1名「通労」でほぼ不稼働)で提案,設計,構築,保守サポー
トと奔走し」と記載されていたことが認められるけれども,この記載のみ
では,H労組に所属する1名のSEが稼働していない理由については詳ら
かではなく,これから直ちに上記SEに該当すると思われる被控訴人Cが
函館営業支店において適当な業務が与えられていなかったとすべき根拠と
することはできないというべきである。したがって,被控訴人Cの主張は
採用できない。
以上の事情に照らせば,控訴人が被控訴人Cを北海道支店函館営業支店
SE担当に配転したことには業務上の必要性が認められるというべきであ
る。
イ配転障害事由について
被控訴人Cは,本件配転命令により,単身赴任となり,今まで食事を作
ったことがなかったのに生活を新しくやり直すことになったこと,一人暮
らしとなった妻の生活サイクルが狂ったこと,被控訴人Cの腎臓の機能が
低下したことなどの不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働者に
対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである旨主
張する。
しかし,被控訴人C及びその妻の生活の変化については,これらは被控
訴人Cが単身赴任することによって生じた不利益というべきであり,これ
により被控訴人C及びその妻は従前とは異なる生活スタイルを送らざるを
得なくなったものであるとは推察されるけれども,控訴人は,被控訴人C
に単身での赴任を命じたわけではなく,また,家族帯同での赴任の場合の
社宅も用意していたのであって,被控訴人Cとしては,単身での赴任か,
あるいは家族帯同での赴任かのいずれかを選択する余地があったところ,
最終的に被控訴人Cは単身での赴任を選択したものであるから,上記のよ
うな不利益が生ずることもやむを得ないというべきであり,この不利益が
被控訴人Cの家庭や健康等に深刻な影響を及ぼすまでには至っていないこ
とを併せ考えれば,被控訴人Cの主張する事実は未だ配転に伴い労働者が
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはいい難い。また,被控訴人
Cの腎臓の機能の低下については,これが本件配転命令によってもたらさ
れたものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Cに生じたという
各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認
められないといわざるを得ない。
(3)以上の検討結果によれば,被控訴人Cに対する本件配転命令は,業務上
の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Cに生じた不利益は,配
転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められない
から,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4)以上によれば,被控訴人Cの請求は,その余の点を判断するまでもなく,
理由がない。
5争点(5)(被控訴人Dの個別事情)について
(1)被控訴人Dの職歴等,釧路営業支店における職務,家族状況等及び関連
するその他の事情は,次のとおり訂正するほかは,原判決71頁12行目の
「証拠」から同73頁18行目の末尾までに記載のとおりであるからこれを
引用する。
ア原判決71頁12行目の「274,」の次に「289,」を,同行の「
107,」の次に「134,」を,同行の「157,」の次に「204の
4,219,220,272ないし282,291,294,295,4
05,434,」を,同行から13行目にかけての「証人」の次に「N,
同」をそれぞれ加える。
イ同72頁7行目の冒頭から同頁8行目の末尾までを以下のとおり改める。
「(カ)被控訴人Dは,平成9年4月1日から北海道電報サービスセンタ
マーケティング担当に,平成10年6月1日からは同センタ営業推進
担当にそれぞれ在籍して電報の販売施策の企画及び立案,ユーザへの
提案訪問活動並びに販売代理店への指導及び支援業務に従事した。そ
の後,被控訴人Dは,平成11年4月1日から電報事業部北海道電報
営業支店営業推進担当に,同年7月1日から同営業支店マーケティン
グ担当に,平成13年1月1日からは同営業支店営業担当にそれぞれ
在籍して電報の販売企画業務やマーケティング業務に従事した。これ
らの業務を通じて,被控訴人Dは,特定ユーザ及び大口利用ユーザを
顧客化して個別の提案を実施するなど代理店への提案活動を行うとと
もに,顧客対応,接客並びに企画及び提案業務の経験を有するように
なった。(乙134,157,291,294,295,証人S)
この間である平成11年7月に被控訴人Dの雇用関係は控訴人に承
継されているが,被控訴人Dの勤務場所に変更はなかった。
(キ)被控訴人Dが従事していた電報事業部北海道電報営業支店営業担
当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にOS会社に
移行されることになり,同営業支店には被控訴人Dが従事していた業
務が存在しなくなることになった。」
ウ同頁9行目の「(キ)」を削る。
エ同頁20行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「なお,釧路営業支店では,販売企画業務,物品管理業務,顧客対応が必
要な事務局業務に従事する社員を補充する必要が生じており,顧客対応,
接客の経験を有するとともに,企画及び提案業務の経験も有する人材を要
請した。これに対し,北海道支店においては,釧路営業支店で補充が必要
な業務に適性のある社員が北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被
控訴人Dを含めて9名いたが,被控訴人Dを除いた社員はAM,SE,秘
書サポート業務により適性がある一方,被控訴人Dは釧路営業支店が人材
として要請する顧客対応,接客並びに企画及び提案業務の経験をひととお
り有していたことから,北海道支店は,被控訴人Dを釧路営業支店に配属
すると選定した。(乙134,157,204の4,291,295,証
人N,同S)」
オ同73頁8行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人Dは,釧路営業支店において,ユーザ協会関連業務として,情
報誌の発送業務,文化講演会の開催等の企画立案業務,電話応対コンクー
ルの企画,連絡及び実施業務,応対研修(新入社員研修,フォローアップ
研修,クレーム対応研修)の企画運営業務等を処理するとともに,物品管
理業務等として,秘書サポート担当やAMが記入した通信機器の要求伝票
に従って電話機,FAX及びモデム等の通信機器物品の払い出しを行う作
業に従事していた。(乙157,295,405,証人S)」
(2)上記認定事実を踏まえ,被控訴人Dの個別事情について検討する。
ア業務上の必要性等について
前記認定のとおり,被控訴人Dが従事していた電報事業部北海道電報営
業支店営業担当の業務は,本件構造改革により,平成14年5月1日にO
S会社に移行され,同営業支店には被控訴人Dが従事していた業務が存在
しなくなるのであるから,同営業支店は,被控訴人Dを他の業務に配置せ
ざるを得ない状況にあったといわなければならない。そして,前記認定の
とおり,被控訴人Dは,平成9年4月1日から北海道電報サービスセンタ
マーケティング担当に,平成10年6月1日からは同センタ営業推進担当
にそれぞれ在籍して電報の販売施策の企画及び立案,ユーザへの提案訪問
活動並びに販売代理店への指導及び支援業務に従事し,平成11年4月1
日から電報事業部北海道電報営業支店営業推進担当に,同年7月1日から
同営業支店マーケティング担当に,平成13年1月1日からは同営業支店
営業担当にそれぞれ在籍して電報の販売企画業務やマーケティング業務に
従事し,これらの業務を通じて,特定ユーザ及び大口利用ユーザを顧客化
して個別の提案を実施するなど代理店への提案活動を行うとともに,顧客
対応,接客並びに企画及び提案業務の経験を有していたところ,釧路営業
支店では,販売企画業務,物品管理業務,顧客対応が必要なユーザ協会の
事務局業務に従事する社員を補充する必要が生じており,顧客対応,接客
の経験を有するとともに,企画及び提案業務の経験も有する人材を要請し,
北海道支店においては,釧路営業支店で補充が必要な業務に適性のある社
員が北海道内で再配置を必要とする対象者のうち被控訴人Dを含めて9名
いたが,被控訴人Dを除いた社員はAM,SE,秘書サポート業務により
適性がある一方,被控訴人Dは釧路営業支店が人材として要請する顧客対
応,接客並びに企画及び提案業務の経験をひととおり有していたことから,
北海道支店は,被控訴人Dを釧路営業支店に配属すると選定したのであっ
て,被控訴人Dが選定された経緯は合理性がないとはいえない。そして,
被控訴人Dは,釧路営業支店において,ユーザ協会関連業務として,情報
誌の発送業務,文化講演会の開催等の企画立案業務,電話応対コンクール
の企画,連絡及び実施業務,応対研修(新入社員研修,フォローアップ研
修,クレーム対応研修)の企画運営業務等を処理するとともに,物品管理
業務等として,秘書サポート担当やAMが記入した通信機器の要求伝票に
従って電話機,FAX及びモデム等の通信機器物品の払い出しを行う作業
に従事していたのであって,釧路営業支店における業務が被控訴人Dにと
って適性のないものであったとはいえない。以上によれば,被控訴人Dに
つき,本件配転は,労働力の適正配置の観点から控訴人の合理的運営に寄
与するものであったと認められるから,業務上の必要性が認められるもの
というべきである。
被控訴人Dは,満了型を選択していたTは,平成14年7月に釧路営業
支店から北海道支店法人営業部へ異動し,同営業部でユーザ協会業務をし
ていたことからすれば,Tに被控訴人Dが釧路営業支店で行っていた仕事
を行わせることも可能であったと主張するが,既に説示したとおり,異動
における業務上の必要性は余人をもっては容易に替え難いといった高度の
必要性に限定されるものではないから,Tに被控訴人Dが行っていた仕事
を行わせることが可能であるというのみでは,業務上の必要性を否定する
根拠にはならないというべきであって,被控訴人Dの主張は採用できない。
また,被控訴人Dは,平成14年5月時点における釧路営業支店の営業
総括担当は4名,「その他」が2名とされている(甲274)ところ,被
控訴人Dは上記「その他」2名に含まれているものと考えられるから,被
控訴人Dが営業総括担当として事実上不必要な存在とされていた旨主張す
るけれども,被控訴人Dが上記2名に含まれるとする確たる根拠があると
は認められない上,そもそも上記2名に含まれるということから直ちに営
業総括担当として不必要な存在とされていた証左であるとはいえないとい
うべきであるから,被控訴人Dの主張は採用することができない。
以上の事情に照らせば,控訴人が被控訴人Dを北海道支店釧路営業支店
営業総括担当に配転したことには業務上の必要性が認められるというべき
である。
イ配転障害事由について
被控訴人Dは,本件配転命令により,軽度のうつ病に罹患していた妻を
釧路に呼び寄せたが,妻は家族とのコミュニケーションがなくなるなどし
たためにうつ病が悪化したこと,予定外の経済的負担を強いられ,生活環
境が一変したことなどの不利益を被ったところ,これらの不利益は,労働
者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである
旨主張する。
しかし,妻の病気については,仮に被控訴人Dの妻がうつ病の治療のた
めに通院を必要としたとしても,釧路の病院への通院によっては治療の効
果があがらないと認めるに足りる証拠はない。また,被控訴人Dが予定外
の経済的負担を強いられ,生活環境が一変したことについては,かかる不
利益は異動においては付随するものであり,このことのみをもって通常甘
受すべき程度を超える不利益を被ったとはいえない。
以上の事情に照らせば,本件配転命令により被控訴人Dに生じたという
各種の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認
められないといわざるを得ない。
(3)以上の検討結果によれば,被控訴人Dに対する本件配転命令は,業務上
の必要性が認められ,本件配転命令により被控訴人Dに配転に伴い労働者が
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じた特段の事情は認められな
いから,本件配転命令が権利の濫用になるとはいえない。
(4)以上によれば,被控訴人Dの請求は,その余の点を判断するまでもなく,
理由がない。
6争点(6)(被控訴人Eの個別事情)について
(1)被控訴人Eの職歴等,NWソリューションセンタ及び光IP販売プロジ
ェクトにおける職務,家族状況等及び関連する事情は,次のとおり訂正する
ほかは,原判決75頁13行目の「証拠」から同82頁7行目の末尾までに
記載のとおりであるからこれを引用する。
ア原判決75頁15行目の「213,」の次に「308,」を,同頁17
行目の「179,」の次に「187,」を,同行目の「189の1,2,
」の次に「224,237,291,296,308ないし312,45
8ないし462,」を,同行目の「同V,」の次に「同W,」をそれぞれ
加える。
イ同76頁9行目の「苫小牧から」を削る。
ウ同頁10行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人Eは,苫小牧支店お客様サービス部サービス営業担当116担
当及び札幌116センタにおいて,CUSTOM等の社内システムを利用
するなどしてSO業務を行い,同業務を通じて,控訴人の商品及びサービ
スの内容や仕組み,これらの商品等を顧客に提供する際に留意すべき事項
等についての知識を有するようになっていた。(乙134)」
エ同頁16行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「被控訴人Eは,上記研修において,光IP販売プロジェクトにおける主
力販売商品であるBフレッツ等の光・IPブロードバンド関連の商品に関
する知識を習得する機会を得た。(乙296)」
オ同頁18行目から19行目にかけての「法人営業本部サービスマネージ
メント部NWソリューションセンタ」の次に「(NWソリューションセン
タ)」を加え,同行目から20行目にかけての「SO担当」を「SO推進
担当」に改め,同頁22行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「なお,控訴人法人営業本部サービスマネージメント部においては,全国
に事業所を有する大規模な顧客からの多様な要望に応えてサービスの質を
向上させ,もってIP・ブロードバンド関連の商品及びサービスの提供を
図ることを目的として,平成14年7月にNWソリューションセンタを組
織することとした。そのため,法人営業本部では,SO業務等に従事した
経験を有する社員及び法人営業の知識ないし経験を有する社員の合計約5
0名を早急に配置する必要が生じたところ,そのうち約20名については
法人営業本部内で再配置することで確保することができたものの,残りの
約30名については,法人営業本部内で確保することができず,控訴人本
社に対して人員を要請していた。これに対し,控訴人は,被控訴人Eにつ
いて法人営業本部サービスマネージメント部が要請していた上記の経験及
びスキルを有する社員であると判断し,被控訴人EをNWソリューション
センタに配属すると選定した。(乙134,158,187,291,証
人N,同U)」
カ同頁23行目の「本件構造改革リファイン」から同頁24行目の「廃止
となった。」までを以下のとおり改める。
「被控訴人Eが従事していたNWソリューションセンタSO推進担当の業
務は,本件構造改革リファインにより,平成15年4月1日にOS会社に
移行され,NWソリューションセンタは同年3月31日をもって廃止され
ることになった。」
キ同77頁1行目から2行目にかけての「以下「IPプロジェクト」とい
う。」を「光IP販売プロジェクト」に改め,同頁3行目の末尾に改行し
て以下のとおり加える。
「東京支店では,IP・ブロードバンドビジネスの中心となる光ファイバ
ーを利用したサービスに関する顧客への提案ないし折衝をSOHO(小規
模な事業者や個人事業者)及びマスユーザ(戸建て住宅や小規模集合住宅
の顧客)を対象として喫緊にかつ重点的に行う必要があると認められたこ
とから,同支店営業企画部に光IP販売プロジェクトを設置することとし
た。そのため,東京支店では約150名の社員を光IP販売プロジェクト
に配置する必要が生じたが,東京支店だけではすべての社員を確保するこ
とができなかったため,東京支店は,控訴人本社に対し,控訴人の商品及
びサービスに関する知識を有し,又は実際に顧客と対応した経験を有し,
若しくは控訴人の通信回線及び通信機器に係る知識並びにこれらの設置等
にかかわった経験を有する人材を要請していた。これに対し,控訴人は,
被控訴人Eの有していた知識及び経験等にかんがみ,被控訴人Eを東京支
店に配属すると選定した。(乙158,159,224,296,証人U,
同V,同W)」
ク同頁11行目の冒頭から同頁24行目の末尾までを以下のとおり改める。
「ウNWソリューションセンタ及び光IP販売プロジェクトにおける職

(ア)被控訴人Eは,NWソリューションセンタにおいてSO推進担
当の業務に従事したが,同業務の内容は,AMが受注した顧客から
の商品及びサービスの新設や変更等の依頼をCUSTOM等の社内
システムを利用して顧客の利用状況等を確認し,当該工事を行うエ
リアの支店等に工事の依頼をするとともに,これらの仕事を処理す
るに当たって必要な控訴人の通信回線を調査するというものであっ
た。(乙158,証人U)
(イ)被控訴人Eは,光IP販売プロジェクトにおいては特販担当の
業務に従事したが,同業務の内容は,SOHO及びマスユーザ市場
に対するブロードバンドサービスの販売活動やアンケート調査等の
マーケティング情報収集であった。(乙159,証人V)
被控訴人Eが平成15年度に顧客を訪問した件数は,特販担当と
して配属された社員76名中33位であった。(乙237,296,
証人W)」
ケ同78頁2行目の「その後は別居していた。」の次に「被控訴人Eが両
親と別居していたのは,被控訴人Eの母と被控訴人Eの妻との折り合いが
良くなかったことなどによるものである。」を加える。
コ同頁11行目の「服用している」を「服用していた」に改める。
サ同頁19行目の「年間174万円程度である」を「年間174万円程度
であった」に改める。
シ同頁25行目から末行にかけての「加療中であり,」を「加療中であっ
た。」に改める。
ス同79頁5行目の「平日の1,2回」を「平日のうち一,二日」に改め
る。
セ同頁13行目の「Xによる」の次に「上記のような」を加え,同頁16
行目の「登別市在住」の次に「。以下「Y」という。」を,同行から17
行目にかけての「頸椎椎間板ヘルニアのため,」の次に「またY自身の家
庭の家事を行わなければならないために」をそれぞれ加える。
ソ同80頁3行目の「年休」を「年次休暇」に改める。
タ同81頁11行目の末尾に改行して以下のとおり加える。
「(e)被控訴人Eの父は,平成20年3月14日,特別養護老人ホーム
「a園」に入所したが,同年11月1日に死亡した。(弁論の全趣旨

被控訴人Eの母は,平成19年10月11日,介護施設「b園」に
入所した。(弁論の全趣旨)」
チ同頁17行目の「SO担当」を「SO推進担当」に改める。
ツ同82頁3行目の「申告した。」の次に以下のとおり加える。
「この時,被控訴人Eは,高齢で身体の不自由な両親の状態及びその介護
の状況等について述べた上,両親の介護の必要があるものの妻だけでは十
分に両親の介護ができないため遠隔地への配転には同意できない旨主張し
た。」
(2)上記認定事実を踏まえ,被控訴人Eの個別事情について検討する。
ア業務上の必要性等について
(ア)NWソリューションセンタへの配転について
前記認定のとおり,控訴人法人営業本部サービスマネージメント部に
おいては,全国に事業所を有する大規模な顧客からの多様な要望に応え
てサービスの質を向上させ,もってIP・ブロードバンド関連の商品及
びサービスの提供を図るため,平成14年7月にNWソリューションセ
ンタを組織することとし,SO業務等に従事した経験を有する社員及び
法人営業の知識ないし経験を有する社員の合計約50名を早急に配置す
る必要が生じたところ,そのうち約20名については法人営業本部内で
再配置することで確保することができたものの,残りの約30名につい
ては,法人営業本部内で確保することができず,控訴人本社に対して人
員を要請していたのであるから,控訴人は,東日本地域の中からSO業
務等に従事した経験を有する社員及び法人営業の知識ないし経験を有す
る社員を選定しなければならない状況にあった。そして,前記認定のと
おり,被控訴人Eは,平成9年8月に苫小牧支店お客様サービス部サー
ビス営業担当116担当に,平成13年1月に札幌116センタ加入権
担当にそれぞれ配属され,これらの部署において,CUSTOM等の社
内システムを利用するなどしてSO業務を行う経験を有していた上,控
訴人が実施している従業員のスキル把握システムにおいて,SO業務の
スキルレベルはB(独力で業務が遂行できるレベル)であったことから,
控訴人は,被控訴人Eについて法人営業本部サービスマネージメント部
が要請していた上記の経験及びスキルを有する社員であると判断し,被
控訴人EをNWソリューションセンタに配属すると選定したのであって,
被控訴人Eが選定された経緯は合理性がないとはいえない。しかも,前
記認定のとおり,被控訴人Eは,平成14年10月になされた面談にお
ける自己申告において,NWソリューションセンタでの仕事が自分に合
っている旨述べていたことに照らすと,NWソリューションセンタにお
けるSO推進担当の業務は被控訴人Eにとって適性のあるものであった
といえる。以上によれば,被控訴人EのNWソリューションセンタへの
配転は,労働力の適正配置,業務の能率増進及び業務運営の円滑化の観
点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認められるから,
業務上の必要性が認められるものというべきである(ただし,この業務
上の必要性は,被控訴人Eが従事していた札幌116センタ加入権担当
の業務が存在しなくなったために被控訴人Eを他の業務に配置せざるを
得ない状況になったものではなく,本件構造改革による雇用形態及び処
遇体系の選択をさせた結果生じたという側面を有する。)。
被控訴人Eは,NWソリューションセンタが平成15年3月31日を
もって廃止されたことなどに照らすと,被控訴人Eに対するNWソリュ
ーションセンタへの配転については業務上の必要性が認められない旨主
張するが,NWソリューションセンタが設置される経緯は前記で認定し
たとおりであり,NWソリューションセンタが必要性もないのに設置さ
れたことも,本件配転時には既に上記時期に廃止されることが予定され
ていたことも認めるに足りる証拠はないから,被控訴人Eの主張は採用
できない。
(イ)光IP販売プロジェクトへの配転について
前記認定のとおり,被控訴人Eが従事していたNWソリューションセ
ンタSO推進担当の業務は,本件構造改革リファインにより,平成15
年4月1日にOS会社に移行され,NWソリューションセンタは同年3
月31日をもって廃止される予定であり,被控訴人Eが従事していた業
務が存在しなくなることになるのであるから,控訴人は,被控訴人Eを
他の業務に配置せざるを得ない状況にあったといわなければならない。
前記認定のとおり,東京支店では,IP・ブロードバンドビジネスの中
心となる光ファイバーを利用したサービスに関する顧客への提案ないし
折衝をSOHO及びマスユーザを対象として喫緊にかつ重点的に行う必
要があると認められたことから,同支店営業企画部に光IP販売プロジ
ェクトを設置することとし,約150名の社員を配置する必要が生じた
が,東京支店だけではすべての社員を確保することができなかったため,
東京支店は,控訴人本社に対し,控訴人の商品及びサービスに関する知
識を有し,又は実際に顧客と対応した経験を有し,若しくは控訴人の通
信回線及び通信機器にかかる知識並びにこれらの設置等にかかわった経
験を有する人材を要請したところ,前記のとおり,被控訴人Eは,平成
9年8月以降,苫小牧支店お客様サービス部サービス営業担当116担
当及び札幌116センタにおいて,SO業務を行っていた経験を有して
おり,同業務を通じて,控訴人の商品及びサービスの内容や仕組み,こ
れらの商品等を顧客に提供する際に留意すべき事項等についての知識を
有するようになっていた上,平成14年4月及び同年5月に実施された
研修において,光IP販売プロジェクトにおける主力販売商品であるB
フレッツ等の光・IPブロードバンド関連の商品に関する知識を習得す
る機会があり,同年7月1日からNWソリューションセンタにおいて,
AMが受けた顧客の依頼を処理するSO業務及び控訴人の通信回線を調
査する業務に従事しており,控訴人の商品及びサービスの内容及びサー
ビスに関する知識を有するとともに,控訴人の通信回線にかかる知識を
有していたことから,控訴人は,被控訴人Eを東京支店に配属すると選
定したのであって,被控訴人Eが選定された経緯についての判断は合理
性がないとはいえない。そして,被控訴人Eは,光IP販売プロジェク
トにおいて,特販担当に配属され,SOHO及びマスユーザ市場に対す
るブロードバンドサービスの販売活動やアンケート調査等のマーケティ
ング情報収集を行っていたものであるところ,被控訴人Eは,従前,直
接顧客に接する業務に従事していなかったけれども,前記認定のとおり,
被控訴人Eが平成15年度に顧客を訪問した件数は,特販担当として配
属された社員76名中33位であって,他の社員に比べて劣るものでは
なかったのであるから,光IP販売プロジェクトにおける特販担当の業
務が被控訴人Eにとって適性のないものであったとまではいえない。以
上によれば,被控訴人Eの光IP販売プロジェクトへの配転は,労働力
の適正配置の観点から控訴人の合理的運営に寄与するものであったと認
められるから,業務上の必要性が認められるものというべきである。
被控訴人Eは,光IP販売プロジェクトにおける特販担当の業務は被
控訴人Eが有していたスキルとは関連がないから,被控訴人Eに対する
光IP販売プロジェクトへの配転は業務上の必要性が認められない旨主
張するが,前記のとおり,光IP販売プロジェクトにおける特販担当の
業務が被控訴人Eの有していた知識及びスキルと全く関連性がないとま
ではいえず,しかも,同業務が被控訴人Eにとって適性のないものであ
ったとまでもいえないのであるから,被控訴人Eの主張は採用すること
ができない。
(ウ)以上の事情に照らせば,控訴人が被控訴人EをNWソリューション
センタSO推進担当に,その後,光IP販売プロジェクトにそれぞれ配
転したことには業務上の必要性が認められるというべきである。
イ配転障害事由について
(ア)被控訴人Eが平成14年7月1日付けでNWソリューションセンタ
への配転を命じられた当時,被控訴人Eの父は,86歳で,緑内障によ
る視力障害により身体障害者等級1級に認定されていた上,要介護3(
中等度の介護を要する状態(排便,入浴等の全介助が必要))と認定さ
れており,被控訴人Eの母は,81歳で,変形性関節症による左膝関節
機能の全廃により身体障害者等級4級に認定されていたのであって,被
控訴人Eの両親,とりわけ父については介護の必要性が強かったものと
認められる。
そして,前記認定の事実によれば,被控訴人Eの両親は,苫小牧で二
人で暮らしていたところ,被控訴人Eは,平成11年ころから平成12
年ころまでにかけて,平日には,両親宅に頻繁に電話をかけて事故がな
いかどうかを確認し,土・日曜日の夜には,両親宅を訪れて様子をみた
り身の回りを片づけたりし,買い物や病院への通院の付添い等をして両
親の日常生活をサポートし,平成13年ころからは,札幌に遠距離通勤
をするかたわら,平日のうち一,二日について,退社後午後7時30分
ころに生活サポートのため両親宅を訪れるようにしていた上,土曜日に
も両親宅に出かけて様子をみるなどしていたこと,平成14年ころには,
被控訴人Eの母が体力的に被控訴人Eの父の面倒を毎日みることができ
なくなったことなどから,岩見沢に居住している被控訴人Eの妹である
Xが週1回泊まりがけで被控訴人Eの両親を介護したほか,平日には被
控訴人E及びその妻が両親宅に寄り,土・日曜日には被控訴人Eが両親
宅を訪れて両親の様子をみていたところ,その後,Xの家庭が忙しくな
ったため,同年3月半ば以降,Xによる両親の介護は週一,二回の割合
で日帰りのものになっていたこと,登別に居住している被控訴人Eのも
う一人の妹であるYは,頸椎椎間板ヘルニアの持病のため両親の介護が
困難であったことなどが認められる。被控訴人Eの母は,被控訴人Eの
父と二人で暮らしており,同人の介護を担当することが全く不可能であ
るというものではなかったと思われるけれども,被控訴人Eの母自身高
齢である上,身体的に不自由であり,しかも,排便,入浴等の全介助が
必要な状態にある被控訴人Eの父を毎日介護することは精神的にも,ま
た肉体的にも過酷であると考えられ,被控訴人Eの母に被控訴人Eの父
の介護を期待することは困難であるといわざるを得ない。被控訴人Eの
二人の妹については,いずれも独立した世帯をもっている上,両親が居
住する苫小牧からは相当程度遠距離の場所に居住し,Yに関しては頸椎
椎間板ヘルニアの持病を有していることなどにかんがみれば,被控訴人
Eの二人の妹に両親の介護の主要な部分をゆだねることも現実的ではな
いといわなければならない。他方で,原判決認定の家族状況等(訂正後
のもの)からは,被控訴人Eの両親の介護をホームヘルパーや社会福祉
施設等に委託することには困難が伴うことがうかがわれるばかりでなく,
そもそも第三者がこれらの社会福祉制度の利用を強いるべきことではな
い。そうすると,被控訴人Eの両親の介護を主に行うことができるのは,
同じ苫小牧に居住する被控訴人E及びその妻しかいないと認められると
ころ,被控訴人Eの両親と被控訴人Eの妻との親族関係,人間関係,被
控訴人Eの父の病状等に照らすと,被控訴人Eの妻が被控訴人Eの両親
の精神的な支えになるとは直ちにいえないばかりか,かえって被控訴人
Eの両親にストレスを感じさせるということがないではないのであって,
被控訴人Eの妻が一人で介護を行うことは困難であるといわざるを得ず,
被控訴人Eによる介護が必要不可欠であると認められる。
このような中で,被控訴人Eが東京にあるNWソリューションセンタ
に配転されることになれば,被控訴人Eが東京に単身赴任することにな
らざるを得ず(関係証拠からは,被控訴人Eがその両親を伴って東京に
赴任することはおよそ考え難い状況にあったと認められる。),その場
合には,被控訴人Eの両親の介護を被控訴人Eの妻及び妹らにまかせる
ことになるが,この場合には上記のとおり多くの解決困難な問題が懸念
されるのであって,被控訴人Eの妻及び妹のみによる介護には無理があ
ったというべきである。このことは,前記認定にかかる被控訴人Eが東
京に転勤した後のその父母の介護の状況に如実に顕れている(控訴人は,
被控訴人Eの両親に対する介護の内容は代替性がある旨主張するけれど
も,被控訴人Eの両親の介護の一部をホームヘルパーや社会福祉施設等
に委託するにしても,被控訴人Eの妻及び妹にまかせるにしても,上記
で説示した様々な問題点があり,被控訴人Eの両親に対する介護につい
て代替性があるとは認められないから,控訴人の主張は採用できない。
)。
このような状況下での被控訴人Eに対するNWソリューションセンタ
への配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受すべき程度を
著しく超える不利益を負わせるものであると認められる。さらに,被控
訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転命令が被控訴人Eな
いしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせ
るものであると認められる以上,同配転命令を前提として勤務地を東京
としたままで上記不利益が解消されないままされた光IP販売プロジェ
クトへの配転命令もまた,被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受す
べき程度を著しく超える不利益を負わせるものと認められる。
そして,前記のとおり,控訴人は,H労組が控訴人代表取締役社長に
提出した平成14年1月21日付け要求書において,当時苫小牧から札
幌へ遠距離通勤をしていた被控訴人Eが両親の介護の必要から苫小牧で
勤務したい旨記載していたことを認識していた上,同年6月21日に,
被控訴人Eから,高齢で身体の不自由な両親の状態及びその介護の状況
等について申告を受け,その際,被控訴人Eが両親の介護の必要がある
ものの妻だけでは十分に両親の介護ができないため遠隔地への配転には
同意できない旨主張していたことも認識していたのであり,上記のよう
な要求書の記載及び申告ないし主張の内容等に照らすと,控訴人は,被
控訴人Eに対するNWソリューションセンタへの配転命令が被控訴人E
ないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わ
せるものであることを認識していたか,又はこれを認識することができ
たというべきである。
(イ)これに対し,控訴人は,次のとおり,被控訴人Eに対するNWソリ
ューションセンタへの配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常
甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではないと主張す
るので,以下,順次検討する。
a控訴人は,被控訴人Eは,これまで平日は午前9時から午後5時3
0分までの間は札幌市で勤務しており,苫小牧にある自宅に帰宅する
のは早くとも午後7時30分ころであり,その後に両親宅を訪れると
しても限られた時間しか両親宅に在宅することができないこと,被控
訴人Eは,両親と別居していたこと,被控訴人Eの自宅は,両親宅か
ら約10キロメートル離れた場所にあり,自動車で移動したとしても
約20分を要することに照らすと,被控訴人Eが両親の介護をしてい
たとは認められない旨主張する。
しかし,被控訴人Eが,平成13年ころに,札幌へ遠距離通勤をす
るかたわら,平日のうち一,二日は午後7時30分ころに両親宅を訪
れ,土・日曜日には両親宅に出かけて様子をみるなどし,平成14年
ころには,平日に妻と分担してではあるが両親宅に寄り,土・日曜日
には両親宅を訪れて両親の様子をみていたことは前記認定のとおりで
あり,被控訴人Eは,限られた時間の範囲内であるとはいえ,自己の
時間の許す範囲で両親宅を訪れてその様子をみるなどしていたものと
いうべきである。近親者による高齢者の介護は,身体的な面において
生理的生活の維持及び継続を内容とする援助を行うというにとどまら
ず,心理的,社会的その他すべての面において精神的,情緒的安定を
支えることなどを内容とする一切の援助を行うことも含むものであり,
被控訴人Eが両親宅を訪れて身の回りの世話をすることはもちろんの
こと,居住状況などから危急の場合に速やかに駆けつけることのでき
る条件(被控訴人Eはこの条件を備えていたと認められる。)のもと
では,離れて居住する場合でも両親からの相談を受けるなどすること
も精神的援助として介護の一環としての意義を有するといえるもので
ある(現に,被控訴人Eの父の訪問介護を担当したホームヘルパー並
びに被控訴人Eの妹及び妻らにより,被控訴人Eの両親にとって被控
訴人Eの役割ないし存在は非常に大きいものであると評価されている
(甲175,182ないし184,186,187)。)。そうする
と,被控訴人Eがその勤務時間により限られた時間内でしか両親宅を
訪れることができず,また,被控訴人Eが両親と離れて別居していた
からといって,これらのことから直ちに被控訴人Eが両親の介護をし
ていたと認められないとはいえない(なお,前記認定のとおり,被控
訴人Eが両親と別居していたのは,被控訴人Eの母と被控訴人Eの妻
との人間関係上の問題等に基づくものであるし,被控訴人Eの自宅が
被控訴人Eの両親宅と離れていた(ただし,地理的関係に徴すれば,
上記のような介護が不可能なほど離れていたとは認められない。)の
は,被控訴人Eが両親宅の近くに手頃な価格の物件を購入することが
できなかったからにすぎないのであり,被控訴人Eが両親と離れて別
居していたことにはそれ相応の理由があるのであって,これらの事情
をもって,被控訴人Eが両親の介護をしていたと認められないという
ことはできない。)。
b控訴人は,被控訴人Eの平成13年1月における札幌116センタ
への異動に先だって,被控訴人Eから異動先の希望等を聞いたが,そ
の際,被控訴人Eは苫小牧を希望せず札幌を希望していたことからす
ると,被控訴人Eが両親の介護を必要としていたとは認められないと
主張する。
しかし,被控訴人Eが苫小牧を希望せず札幌を希望したのは,苫小
牧にいれば職種転換を余儀なくされることから,職種転換を求められ
るのを回避するために札幌を希望したものであって,このような被控
訴人Eの意向が不合理なものとはいえないし,その後,被控訴人Eが
札幌に転居しないで苫小牧から遠距離通勤をしていたことは前記認定
のとおりであり,被控訴人Eが苫小牧からの遠距離通勤を選択したの
は両親の介護のためであったことは前記認定のとおりであるから,上
記のとおり被控訴人Eが苫小牧を希望せず札幌を希望したことをもっ
て,被控訴人Eが両親の介護を必要としていなかったと決めつけるこ
とはできない。
c控訴人は,被控訴人Eが,NWソリューションセンタへの配転命令
に先だって,被控訴人Eが両親の介護をしているなどの事情を上長に
申述したことがなかったことに照らすと,被控訴人Eに両親の介護の
必要性はなかったと認められる旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,被控訴人Eは,苫小牧から札幌に遠距
離通勤をしていたころ,H労組が控訴人代表取締役に提出した平成1
4年1月21日付け要求書において,両親の介護の必要性等を理由に
勤務地を苫小牧に変更してほしい旨の希望を述べていたのであり,被
控訴人Eが過去に両親の介護の必要性を全く訴えていなかったもので
はないから,被控訴人EがNWソリューションセンタへの配転命令の
直前に両親の介護に関する事情を上長に申述していなかったからとい
って,それだけでは被控訴人Eに両親の介護の必要性がなかったこと
の根拠とすることはできない。
d控訴人は,被控訴人Eは,これまで看護休暇や介護休職を利用した
ことがなかったことに照らすと,被控訴人Eに両親の介護の必要性は
なかったと主張する。
しかし,たとえば両親の具合が突然悪化するといった不測の事態に
備えて休暇等を取得する余地を残しておくことは通常考えられること
であるし,看護休暇の期間中は給与が支給されず,介護休職について
も給与として保険料等の合計額のみが支給されるにすぎない(甲12,
乙1)のであり,看護休暇や介護休職の利用が被控訴人Eにとって必
ずしも満足できるものともいい難いことに照らせば,被控訴人Eがこ
れまで看護休暇や介護休職を利用しなかったことをもって,被控訴人
Eに両親の介護の必要性がなかったとすることはできない。
e控訴人は,被控訴人Eは,これまで控訴人の福利厚生プランの一つ
である介護支援サービス制度を利用したことがなかったが,このこと
からすると,被控訴人Eに両親の介護の必要性がなかったことがうか
がわれる旨主張する。
しかし,控訴人の福利厚生プランの一つである介護支援サービス制
度は,利用者も一定程度の経済的負担をしなければならない(乙34
)のであり,被控訴人Eにとって同制度が必ずしも利用のし易いもの
ではなかった可能性も否定できないから,被控訴人Eがこれまで介護
支援サービス制度を利用したことがなかったからといって,そのこと
をもって被控訴人Eに両親の介護の必要性がなかったことの根拠とな
るものではないというべきである。
f控訴人は,被控訴人Eは,介護休職を利用すれば,所定休日(土曜
日及び日曜日)等を利用し,又は有給休暇を取得することなどにより,
東京から苫小牧に帰郷して両親を介護することが可能であると主張す
る。しかし,前記で説示したとおり,両親の健康状態の悪化等の不測
の事態に備えて休暇等を取得できる余地を残しておくことは十分考え
られるところである。この点について,控訴人は,被控訴人Eが毎週
金曜日に有給休暇を定期的に取得し,あるいは介護休職を利用するな
どして毎週3日間について帰郷できるよう被控訴人Eの勤務割りを検
討している(甲200)というが,この検討結果は,休暇等の取得に
関する上記の考え方に沿うものではないし,被控訴人Eの帰郷に際し
ての肉体的負担等を考慮しない著しく非現実的なものといわざるを得
ない。
また,控訴人は,控訴人には「単身赴任者等に対する帰郷実費の取
扱いについて」(乙30)が制定されており,被控訴人Eに帰郷に際
して経済的な出捐があったとしても,それはかなりの程度補てんし得
ることから,被控訴人Eに対して著しい経済的負担を強いるものでは
ないと主張する。しかし,控訴人は被控訴人Eが毎週帰郷した場合の
経済的負担を試算している(甲201)ところ,同試算の過程で算出
されている帰郷に必要な交通費約290万円は,それ自体,被控訴人
Eにとって過大な経済的負担であると推認される上,上記試算におい
ては,被控訴人Eが帰郷に要する交通費から被控訴人Eに支給される
地域加算手当及び単身赴任手当を控除することによって,実質的な自
己負担額を算出しているのであるが,地域加算手当及び単身赴任手当
は,その性質上,帰郷のために必要な費用に充てられることのみを目
的として支給されるものではないから,帰郷に必要な交通費から上記
各手当の全額を控除する試算の過程も不合理なものであるといわざる
を得ない。
g控訴人は,被控訴人EがNWソリューションセンタへの配転に伴う
単身赴任について北海道労働局に相談したことから,同局から対応を
求められたが,その際,雇用形態・処遇体系の多様化の内容及び実施
に当たっての社員対応等について説明したところ,同局から,控訴人
は使用者として労働者の状況について把握しており当該配転命令に違
法性はない旨の回答を得たため,被控訴人Eに対するNWソリューシ
ョンセンタへの配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常甘受
すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではないと判断した
旨主張する。
しかし,北海道労働局の回答は,あくまでも一行政機関により得ら
れた限られた資料の中で述べられた見解にすぎず,その回答内容のい
かんによって,上記配転命令は被控訴人Eないしその親族に対し通常
甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるか否かが
決せられるものではないのであるから,控訴人が北海道労働局から上
記回答を得たからといって,控訴人が同配転命令について被控訴人E
ないしその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負
わせるものではないと判断したことが正当化されるものではないとい
うべきである。
hしたがって,控訴人の主張はいずれも採用できない。
(ウ)他方,被控訴人Eは,平成14年7月1日付けでNWソリューショ
ンセンタへの配転を命じられた当時,頸椎障害を負っており,上記配転
命令により,初めての単身赴任生活を強いられ,慣れない仕事を余儀な
くされたことによって,同障害が悪化し,ついには退職に追い込まれた
のであり,これらの不利益は,労働者に対し通常甘受すべき程度を著し
く超える不利益を負わせるものである旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,被控訴人Eは,NWソリューショ
ンセンタにおいて,特段の支障もなく業務を遂行していたものであり,
被控訴人Eが負っていた頸椎障害がNWソリューションセンタへの配転
命令により悪化したことを認めるに足りる的確な証拠はないから,被控
訴人Eの主張は採用することができない。
(3)以上の検討結果によれば,被控訴人Eに対するNWソリューションセン
タ及び光IP販売プロジェクトへの本件配転命令は,控訴人の合理的運営に
寄与するものであって,業務上の必要性が認められるものの,この必要性は
前記のようなものであって,その内容に徴すれば,被控訴人Eに生ずる不利
益の如何を問わず,東京への転居が必要となる配転が不可欠であったとまで
は認め難いのに対して,本件配転命令により被控訴人Eに生じた不利益は,
労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものであり,配転に伴い東京へ
の転居が必要となる限り避けることのできないものであったというべきであ
って,このような事態は,事業主に対して,労働者の就業場所の変更を伴う
配置の変更に当たり,当該労働者の家族の介護の状況に配慮しなければなら
ない旨定める育児介護休業法26条に悖るものといわざるを得ない。控訴人
が,この不利益を顧慮することなく(前示の経過によれば,控訴人はこの不
利益を認識することができたというべきである。),被控訴人Eに本件配転
命令を発したことは,権利濫用として違法であり,これにより被控訴人Eに
東京への赴任を余儀なくさせたことは,不法行為になるというべきである。
(4)本件配転命令に基づく被控訴人Eによる苫小牧から東京への赴任は,転
居を伴うもので,被控訴人Eの家族関係に影響を及ぼすものであったところ,
とりわけ被控訴人Eは,ともに高齢で身体に障害をもった両親の介護を十分
満足にすることができず,そのために被控訴人Eの妻及び妹において被控訴
人Eが介護を尽くせなかった部分を不十分なまま補うに止まることを余儀な
くされたのであって,本件配転命令が被控訴人Eの両親に対する介護に与え
た影響は大きかったものといわざるを得ず,被控訴人E本人のみならず,そ
の両親及び近親者に物心両面で多大な犠牲を強いたものというべきであり,
これらによって被控訴人Eが大きな精神的苦痛を受けたことは容易に推認す
ることができる。
その他,前記認定にかかる被控訴人Eの東京における生活の期間及び態様
等の諸事情を総合考慮すれば,本件配転命令によって被控訴人Eが受けた精
神的苦痛を慰謝するには150万円が相当であると認められる。
第4結論
以上によれば,被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dの請求
はいずれも理由がなく,被控訴人Eの請求は150万円及びこれに対する不法
行為の日の後である平成15年1月21日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,本件控訴に基づき,原判決中被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C
及び被控訴人Dに関する部分を取り消して,同被控訴人らの請求をいずれも棄
却し,被控訴人Eの本件附帯控訴に基づき,原判決中被控訴人Eに関する部分
を変更して,同被控訴人の請求を上記限度で認容し,その余を棄却し,控訴人
の被控訴人Eに対する本件控訴並びに被控訴人A,被控訴人B,被控訴人C及
び被控訴人Dの本件各附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
札幌高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官信濃孝一
裁判官中川博文
裁判官北澤晶は退官のため署名押印することができない。
裁判長裁判官信濃孝一

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