弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人宇田川好敏の上告趣意第一点は、刑訴三九〇条をもつて憲法三一条に違反
するものとなし、刑訴三九〇条に従い被告人を出頭せしめることなく公判期日を開
いて審理を行い判決を言い渡したことをもつて違憲であると主張するのである。し
かし、最高裁判所の裁判権については、違憲審査を必要とする刑事、民事、行政事
件が終審としてその事物管轄に属すべきことは憲法上要請されているが、その他の
刑事、民事、行政事件の裁判権及び審級制度については、憲法は法律の適当に定め
るところに一任したものと解すべきことは大法廷判決の判示しているところである
(判例集二巻七号九二二頁)。また裁判所の組織・権限等については、すべて法律
において諸般の事情を勘案して決定すべき立法政策の問題であることも大法廷判決
の判示するところである(判例集四巻二号八八頁)。そして現行刑訴法の下におい
ては、控訴審は事後審であつて覆審ではない。控訴審の公判期日における審理は、
刑訴三八八条、三八九条の弁論に限られるのが原則であるから、被告人が公判期日
に出頭することは無用な場合が多いのである。それで刑訴三九〇条は、控訴審にお
いては、被告人の公判期日における出頭がその権利保護上重要と認められる場合以
外は、その出頭を被告人の義務としなかつたのである。しかし、公判期日の指定は
被告人に通知せられるのであり、被告人の出頭の権利は失われるわけではない。同
条が憲法三一条に違反するものでないことは、前記大法廷判決及び昭和三一年七月
一八日大法廷判決(判例集一〇巻七号一一四七頁)の趣旨に徴し明らかであるとい
うことができる。それ故、論旨は採ることをえない。
 同第二点は大審院判例違反をいうが、所論引用の大正一三年一一月二八日の大審
院判決は、その後昭和七年四月二八日の大審院判決によつて改められ、上告裁判所
は上告を棄却する場合においても、上告審における未決勾留日数を本刑に算入する
言渡をなしうるものとした(集一一巻五三〇頁)。当裁判所もこれを踏襲している
(判例集二巻四号三三六頁)。それ故、論旨は適法な上告理由に当らない。
 被告人の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、単なる訴訟法違反、事実誤認、量
刑不当の主張を出でないものであつて、適法な上告理由に当らない。
 よつて刑訴四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
  昭和三二年三月二八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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