弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人野村均一の上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一)論旨は、原判決が外国人たる被告人に対し過大な罰金を科したのは国際正
義もしくは国際情誼に反するものである、というのであるが、結局量刑不当の主張
にほかならず、上告の適法な理由にならない。
 (二)職権によつて調査すると、酒税法の罰則規定は何度も改正されているが、
本件犯行当時のものは昭和二三年法律第一〇七号によつて改正されたものであり、
それがその後昭和二四年法律第四三号によつて改正されたのであるが、右改正法に
は「改正法施行前になした行為に関する罰則の適用についてはなお従前の例による」
旨の規定があるから、本件原判決が行為時法なる右昭和二四年法律第四三号による
改正前の酒税法を適用したのは正当である。たゞ原判決は、酒類、醪ならびに容器、
器具を没収するにつき酒税法第六〇条第三項、第六四条第二項のほかに刑法第一九
条第二項を適用しているが、本件犯行当時の酒税法第六〇条第三項には「前二項ノ
場合ニ於テハ其ノ製造ニ係ル酒類並ニ其ノ機械器具及容器ハ之ヲ没収ス」とあり、
同法第六四条第二項も右と同一の表現をしているのであつて、右各条は刑法第一九
条に対する特別規定であり、刑法第一九条第二項の規定と異なり酒類器具等は犯人
以外の者に属すると否とにかかわらず没収する趣旨と思われる。すなわち本件犯行
当時の酒税法はその第一四条違反(無免許酒類製造)と同第一六条違反(無免許酒
母醪麹製造)とを別けて前者は第六〇条でまた後者は第六四条で処罰していたので
あるが、次の改正である昭和二四年法律第四三号により、酒造税法第一四条違反お
よび無免許酒母醪製造(第一六条違反の一部)をともに同第六〇条で処罰し、無免
許麹製造は新設の第六二条で処罰することとし、従前の第六四条第一項第一号およ
び第二項を削除したのであるが、改正された第六〇条第四項および新設の第六二条
第二項にはいずれも「……ハ何人ノ所有タルヲ問ハズ之ヲ没収ス」と規定してある。
これは前法を変更したものではなく、その解釈を明らかにしたものと思われる。と
もかくも本件の没収については、酒造税法第六〇条第三項および同第六四条第二項
だけを適用すればよかつたのであり、刑法第一九条第二項の引用は蛇足と言うべき
だが、本件の没収物件は「被告人以外の者に属しない」と原判決も判示している次
第であつて、刑法第一九条第二項の趣旨にも反せず、いずれにせよ原判決を破毀す
べきほどの法律適用の誤とは言えない。
 よつて、旧刑訴第四四六条に従い、主文の通り判決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二五年六月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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