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平成17年(行ケ)第10037号 審決取消請求事件(平成17年6月13日口
頭弁論終結)
          判決
原告       株式会社東海建商
訴訟代理人弁護士加藤洪太郎
同森田茂
同野田葉子
同夏目武志
同     弁理士渡邊功二
被告        株式会社エヌ・エス・ピー
訴訟代理人弁理士廣江武典
同宇野健一
同武川隆宣
同高荒新一
同 中村繁元
          主文
      原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2004-80054号事件について平成16年11月2日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いがない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  (1) 原告は,発明の名称を「型枠保持金具」とする特許第3515102号
〔平成15年2月19日出願(以下「本件出願」という。),優先権主張日・平成
14年3月7日(以下「本件優先日」という。),平成16年1月23日設定登
録。以下「本件特許」という。〕の特許権者である。
  (2) 被告は,平成16年5月21日,原告を被請求人として,本件特許を無効
とすることを求めて審判の請求をした。
    特許庁は,上記請求を無効2004-80054号事件として審理した
上,同年11月2日,「特許第3515102号の請求項1に係る発明についての
特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は同月11日に原告に送達された。
2 本件特許の出願の願書に添付した明細書(甲2。以下,願書に添付した図面
を併せて,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発
明(以下「本件発明」という。)の要旨
【請求項1】 長尺状の基部と,該基部の少なくとも一端及び該一端に対向す
る位置にて該基部に対して垂直に一体で立設されて互いに対向する少なくとも一対
の係止片を有し,該一対の係止片間に嵌合配置される型枠を保持し,該型枠によっ
てコンクリート基礎が形成される普通鋼板製の型枠保持金具において,該普通鋼板
の表面に,アルミニウム6重量%,マグネシウム3重量%,残部が亜鉛及び不可避
的不純物からなる溶融Zn-Al-Mgメッキ層が形成されており,さらに,前記
型枠を用いて形成されたコンクリート基礎から外部に突出する前記基部又は係止片
の突出部分を切断可能にする折曲げ溝を該基部又は係止片に設けたことを特徴とす
る型枠保持金具。
 3 審決の理由
  (1) 審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおりであり,その要旨は,本件
発明は,平成13年1月日新製鋼株式会社2版発行,パンフレット「新溶融めっき
鋼板ZAM」(審判甲2・本訴甲4。以下「甲4刊行物」という。),特公平5-
49789号公報(審判甲3・本訴甲5。以下「甲5刊行物」という。)及び特開
平6-280390号公報(審判甲5・本訴甲6。以下「甲6刊行物」という。)
に記載された発明(以下,甲4刊行物に記載された発明を「甲4発明」と,甲6刊
行物に記載された発明を「甲6発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明を
することができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反し
てなされたものであり,同法123条1項2号(注,平成14年法律第24号によ
る改正前の特許法123条1項2号の趣旨であると解される。)に該当し,無効と
すべきである,というものである。
(2) なお,審決が認定した,本件発明と甲6発明との一致点及び相違点は,そ
れぞれ次のとおりである。
ア 一致点(審決謄本5頁第2段落)
     「『長尺状の基部と,該基部の少なくとも一端及び該一端に対向する位
置にて該基部に対して垂直に一体で立設されて互いに対向する少なくとも一対の係
止片を有し,該一対の係止片間に嵌合配置される型枠を保持し,該型枠によってコ
ンクリート基礎が形成される鉄製の型枠保持金具において,前記型枠を用いて形成
されたコンクリート基礎から外部に突出する前記基部を切断可能にする折曲げ溝を
該基部に設けた型枠保持金具。』である点」
イ 相違点(同5頁第3,第4段落)
    (ア) 相違点1
 「本件発明が『普通鋼板製』であるのに対し,甲第5号証(注,甲6
刊行物)記載の発明は『軟鉄等よりなる』点」
    (イ) 相違点2
      「本件発明が『普通鋼板の表面に,アルミニウム6重量%,マグネシ
ウム3重量%,残部が亜鉛及び不可避的不純物からなる溶融Zn-Al-Mgメッ
キ層が形成』されているのに対し,甲第5号証(注,甲6刊行物)には『軟鉄等よ
りなる』ことは記載されているがメッキ層については記載のない点」
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,本件発明と甲6発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),ま
た,本件発明と甲6発明との相違点2についての判断を誤った(取消事由2)もの
であり,それらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法
として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は,甲6発明の「外側位置規制片5,6」は,本件発明の「係止片」に
相当するとした上,本件発明と甲6発明とは,「長尺状の基部と,該基部の少なく
とも一端及び該一端に対向する位置にて該基部に対して垂直に一体で立設されて互
いに対向する少なくとも一対の係止片を有し,該一対の係止片間に嵌合配置される
型枠を保持し,該型枠によってコンクリート基礎が形成される鉄製の型枠保持金
具」(審決謄本5頁第2段落)である点で一致すると認定したが,この認定は誤り
である。
すなわち,甲6刊行物の図1の場合は,型枠Kは外側位置規制片5の側と,
外側位置規制片6の側にそれぞれ規制片に単に接触した状態で立設されているにす
ぎず,型枠は外側位置規制片5,6間に嵌合されて保持されるものではない。ま
た,甲6刊行物の図8,図11,図13の場合は,型枠は外側位置規制片5とそれ
に対向して設けた内側位置規制片9との間,及び外側位置規制片6と内側位置規制
片10との間にそれぞれ嵌合配置されて保持されるものであり,型枠が外側位置規
制片5,6間に嵌合されて保持されるものではない。
したがって,甲6発明の「外側位置規制片5,6」が本件発明の「係止片」
に相当するものでないことは明らかであり,本件発明と甲6発明とが,「該基部の
少なくとも一端及び該一端に対向する位置にて該基部に対して垂直に一体で立設さ
れて互いに対向する少なくとも一対の係止片を有し,該一対の係止片間に嵌合配置
される型枠を保持」する点で一致するということはできない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
(1) 動機付けの欠如(1)(技術分野の相違)
   ア 甲4発明のZAM(商品名)の適用分野として,甲4刊行物に記載され
た建築金物類の技術分野は,甲6発明のコンクリート型枠の間隔保持具(型枠保持
金具)が属する仮設部材の技術分野とは相違しており,仮設部材の業界において
は,金具に生じるさびの問題は意識しないのが技術常識であるから,甲4発明にお
いて,ZAM(商品名)の型枠保持金具への適用は予定されていないものである。
  すなわち,甲6発明のコンクリート型枠の間隔保持具(型枠保持金具)
は,建築金物類の一種と位置づけられるものではない(甲12)。建築金物類は,
直接建築物の構成要素となるものであり,建築金物類の業界においては,従前から
素材自体の耐久性,耐食性が強く求められていたものである。一方,型枠保持金具
は,建築金物類とは異なる仮設部材という分類に属するものであって,建築物の構
成要素そのものとなることが予定されておらず,部位によっては,使い捨てとなる
し,そうでなくても,土やコンクリートの内部に残り,さらに,そのコンクリート
の表面もモルタルで覆われるので,ユーザーの目にもほとんど触れることはないも
のである。そのため,型枠保持金具が属する仮設部材の業界においては,素材自体
の耐久性,耐食性といったことは問題とされてこなかったものであり,さびの問題
は意識しないのが技術常識であった。
   イ したがって,審決が,甲6発明のコンクリート型枠の間隔保持具(型枠
保持金具)は建築金物類の一種であると認定した上で,甲4発明を甲6発明に適用
して,相違点2に係る本件発明の構成を採用することは,当業者であれば容易に想
到し得たことである旨判断したのは,誤りである。
  (2) 動機付けの欠如(2)(課題の相違)
    甲6刊行物には,型枠保持金具のうちコンクリート布基礎から突出した部
分について,さび易く美観が損なわれること,工事の邪魔になること等の理由によ
りこれを切断することが記載されているが,型枠保持金具の突出部の切断断面のさ
びの防止については開示がなく,まして,その切断断面のさびが内部に浸透すると
コンクリート布基礎の強度が劣化するという問題についての示唆などは全くない。
そもそも,仮設部材の業界では,素材のさび防止など問題にならないというのが技
術常識であり,さび防止のために余分なコストをかけるなどということは考えられ
なかったのである。また,甲4刊行物には,甲4発明のZAM(商品名)の適用に
関して,①鋼製の建築用材料,部材で特に耐食性が要求されるような部位,すなわ
ち,素材自体の,耐久性,耐食性が強く求められ,さびの発生を防止する必要があ
るものへの適用を予定していること,②鋼製の建築材料,部材について,その製造
工程での鋼材露出箇所(切断面)のさび防止の効果を発揮させることを念頭に置
き,加工工場内での工程を合理化するなどのメリットを意図したものであることが
記載されているにとどまる。
    これに対し,本件発明は,型枠保持金具のコンクリート基礎との境界の切
断箇所に現れるさびが長期にわたってコンクリート内に広がることにより,住宅の
コンクリート基礎の強度を損なうおそれがあることに着目し,この課題を解決する
ため,甲4発明のZAM(商品名)を,①これまで,耐食性が課題とされていない
型枠保持具へ,②現場での切断面にさび防止の効果を及ぼすことを企図して,使用
することとしたものである。
    上記のとおり,本件発明と甲6発明及び甲4発明との間には課題の共通性
がないから,本件優先日当時,当業者が,甲6発明と甲4発明とを結び付けること
には,これを妨げる技術的困難性が存在したというべきである。
  (3) 顕著に有利な効果及び商業的成功の看過
   ア 本件発明は,コンクリート打設後,型枠保持金具のうちコンクリート布
基礎から突出した部分を切断した後に露出する切断面でのさびの発生を防止し,こ
れにより,さびの進行による腐食を原因とするコンクリート基礎の強度低下を防止
し,コンクリート基礎の強度を長期にわたって維持できるという,甲6発明のコン
クリート型枠の間隔保持具(型枠保持金具)が有していない効果を奏するものであ
り,また,甲4発明のZAM(商品名)が想定するさび防止の効果以上の効果を奏
するものである。
イ 本件発明の奏する上記の効果は,単なる型枠保持金具である,甲6発明
にはない効果であることはもちろん,甲4発明のZAM(商品名)が想定していた
効果と比較しても,本件優先日当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著に
有利な効果というべきである。
     すなわち,本件発明の効果は,さび防止という抽象的な観点で比較すれ
ば,甲4発明のZAM(商品名)の効果と同様である。しかしながら,前述のとお
り,ZAM(商品名)が想定している効果は,①鋼製の建築用材料,部材で特に耐
食性を要求されるようなものについて,②これらの製造工程での鋼材露出箇所への
作用効果を念頭に置き,また,その工程の合理化等を意図したものである。
     これに対して,本件発明は,型枠保持金具のうちコンクリート布基礎か
ら突出した部分を切断した後に露出する切断面でのさびの発生を防止するという効
果を奏するものであり,製造工程での鋼材露出箇所への作用効果や,加工工場内で
の工程を合理化するメリットとは全く異なる新しい効果をもたらしたものである。
また,本件発明は,もともと素材自体のさび止めが必要とされていなかった仮設部
材にまで,さび防止の効果を及ぼすことによって,コンクリート内に残存する部材
へさびが進行し,その腐食によってコンクリート基礎の強度が低下することを防止
し,コンクリート基礎の強度を長期にわたって維持するという効果を有しており,
これは従来にはなかった新しい効果である。その結果,住宅の基礎の耐久性が長期
にわたって確保され,地震等に対する住宅の信頼性が高められるという従来の型枠
保持金具では得られない非常に大きな効果が得られ,社会にも多大な貢献をもたら
したのである。
  加えて,本件発明には大きな経済的効果もある。型枠保持金具のうちコ
ンクリート面から突出した部分を切断した切断面にさびが発生すると,コンクリー
トが膨張し,建築物の表面のモルタルが割れてくるという不都合が生じていた。特
に住宅の場合,モルタルが割れてくると外観を大きく損なうため,補修が必要にな
り,建物の基礎の部分にモルタルを塗り直す作業が必要となる。この作業には丸1
日を要することもあり,7万円ないし10万円もの費用がかかることもある。本件
発明によって,こうした住宅のモルタル割れの補修作業が不要になったが,その経
済的な効用は非常に大きなものである。
ウ本件発明の型枠保持金具は,その優秀さを,大手住宅建築会社から高く
評価され,その需要が急速に伸びている。従来のメッキなしのものに対して少し高
価になるにもかかわらず,このように需要が伸びているのは,前述のような本件発
明の奏する顕著に有利な効果に起因するものであり,それ以外の要因は存在しな
い。
エ 上記のような本件発明の奏する顕著に有利な効果及び本件発明の商業的
成功を考慮すれば,本件発明には進歩性が認められるべきである。しかるに,審決
は,この点を考慮せず,本件発明の進歩性を否定したものであって,その判断は誤
りである。
第4 被告の反論
審決の一致点の認定,相違点2についての判断はいずれも相当であって,審
決に原告主張の取消事由はない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
甲6発明の「外側位置規制片5,6」は,本件発明の「係止片」に相当する
ものである。すなわち,本件発明の「係止片」は,本件明細書(甲2)の図1に記
載された符号13で示す部分であり,この符号13に関して,本件明細書(甲2)
の段落【0002】に,「その長手方向両端に立設された一対の係止片13と,」
との記載があることからすれば,甲6発明の「外側位置規制片5,6」と本件発明
の「係止片13」とが本質的に異なるものではないことは明らかである。
   仮に,審決の一致点の認定に一部言葉足らずの部分があったとしても,本件
発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすものではない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1)動機付けの欠如(2)(課題の相違)について
原告は,甲6発明及び甲4発明においては,本件発明の発明者が認識した
課題について全く考慮がされていないので,これらの発明と本件発明とは,課題の
共通性がない旨主張するが,この主張は失当である。
 甲4刊行物には,ZAM(商品名)の適用分野として,建築金物類が記載
されている。また,甲4刊行物には,「平坦部の耐食性」,「曲げ加工部の耐食
性」,「ZAMの防食機構」,「切断端面部の耐食性」,「切断端面部の防食機
構」について詳細に記載されている。
    甲4発明と本件発明とに課題の共通性がないとする原告の主張は,甲4刊
行物の記載に照らして,到底是認できないものであり,また,本件明細書(甲2)
の段落【0006】及び【0007】の記載とも矛盾するものである。
(2) 顕著に有利な効果及び商業的成功の看過について
   ア 原告は,本件発明は,従来の型枠保持金具では得られない非常に大きな
効果を奏するものであり,社会への貢献も非常に大きいものであるところ,このよ
うな効果については,甲4刊行物及び甲6刊行物のいずれにも開示されていない旨
主張する。
     しかしながら,本件発明の奏する効果は,甲4発明に係るZAM(商品
名)の奏する効果と何ら変わるものではなく,それを超えるような顕著な効果とは
到底いえない。原告の上記主張は失当である。
イ 原告は,本件発明の型枠保持金具の需要は伸びており,本件発明は,商
業的に成功していると主張するが,その根拠となるべき証拠を何ら提出していな
い。したがって,原告の上記主張は失当である。また,仮に,本件発明が商業的に
成功しているとしても,それは,本件発明に起因する成功ではなく,甲4発明のZ
AM(商品名)が奏する効果に起因するものであるから,本件発明の進歩性の判断
に当たって,全く参酌するに値しないものである。
     確かに,新規性,進歩性の要件を具備しない発明であっても,商業的に
成功しているものはある。しかし,それらの発明に特許を付与したとすれば,本
来,だれにでも実施できた発明が実施できないということになり,産業を荒廃させ
ることになる。このようなことは,特許法1条が規定する同法の目的に反するもの
である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
原告は,本件発明と甲6発明との一致点についての審決の認定には誤りがあ
ると主張するので,以下検討する。
(1) 本件発明の「係止片」について
   ア 本件明細書の請求項1には,「長尺状の基部と,該基部の少なくとも一
端及び該一端に対向する位置にて該基部に対して垂直に一体で立設されて互いに対
向する少なくとも一対の係止片を有し,該一対の係止片間に嵌合配置される型枠を
保持し,該型枠によってコンクリート基礎が形成される普通鋼板製の型枠保持金
具」と記載されているところ,「嵌合配置」の複合語は,「嵌合」の語の通常の用
語法に照らせば,形状が合ったもの同士をはめ合わせることにより,一方を他方の
所定位置に固定することを意味するものと解される。
   イ 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
    (ア) 「【従来の技術】この種の型枠保持金具の一例である型枠間隔保持
金具11は,図1に示すように,長尺板状の基部12と,その長手方向両端に立設
された一対の係止片13と,基部12にて係止片13と所定間隔を隔てて互いに対
向して立設された係止片である一対の位置決め凸部14とを有しており,普通鋼板
にプレス加工,パンチング加工等を施すことにより形成される。そして,例えば図
2に示すように,基部12に設けた取付孔12aに釘を打ち込んでベースG上に固
定された型枠間隔保持金具11の係止片13と位置決め凸部14の間にそれぞれ基
礎型枠16が嵌合配置され,互いに対向して垂直に立設される。さらに,係止片1
3の折曲げ溝13aを内側に折り曲げて基礎型枠16を固定することにより,型枠
間隔保持金具11が各基礎型枠16を所定間隔で保持できるようになっている。」
(段落【0002】)
 (イ) 「【発明の実施の形態】以下,本発明の一実施の形態について図面
を用いて説明する。図1は,型枠支持治具の一例である上記型枠間隔支持金具
(注,「型枠間隔保持金具」の誤記と認める。)11を斜視図により示したもので
ある。型枠間隔保持金具11は,その構造については上述した通りであり,表面全
面に組成比率がアルミニウム6重量%,マグネシウム3重量%,残部が亜鉛及び不
可避的不純物からなる上記溶融Zn-Al-Mgメッキ層が形成された鋼板にプレ
ス加工及びパンチング加工等を施すことにより形成されたものである。そして,図
2に示すように,型枠間隔保持金具11の両側に基礎型枠16が立設された状態
で,型枠間にコンクリートが打設され,乾燥後に型枠が取り外され,コンクリート
基礎Kが形成される。その後,コンクリート基礎Kの外側に突出する基部12及び
係止片13が折曲げ溝12bで折り曲げることにより切断除去され,基部12の切
断面に鋼素材が露出する。また,型枠間隔保持金具11は,普通鋼板にプレス加
工,パンチング加工等を施して形成されるものであり,加工後の切断箇所にも鋼素
地が露出している。」(段落【0011】)
   ウ 上記のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明に係る型
枠保持金具の一例である型枠間隔保持金具11は,基部12の一端に設けた係止片
13と所定間隔を隔てて互いに対向して立設された係止片である一対の位置決め凸
部14とを有していること,基礎型枠は,型枠間隔保持金具11の係止片13と位
置決め凸部14の間に嵌合配置されること,型枠間隔保持金具11の両側に基礎型
枠16が立設された状態で,型枠間にコンクリートが打設されることが記載されて
いる。そして,この記載によれば,一対の係止片間に嵌合配置されるのは一つの基
礎型枠16であり,一対の基礎型枠16の配置については,型枠間隔保持金具11
の両側に互いに対向して「立設」されると記載され,係止片13間に嵌合配置され
るとは表現していないことが明らかである。
エ 「嵌合配置」の語の通常の意味に加え,本件明細書の発明の詳細な説明
における上記記載を参酌してみれば,本件発明の型枠保持金具においては,型枠
は,基部12の一端に設けた係止片13と所定間隔を隔てて互いに対向して立設さ
れた係止片である一対の位置決め凸部14との間に嵌合配置されるものであり,本
件明細書の請求項1にいう「一対の係止片」とは,基部12の一端に設けた係止片
13と所定間隔を隔てて互いに対向して立設された係止片である一対の位置決め凸
部14をいうものと解するのが相当である。
(2)甲6発明の「外側位置規制5,6」について
   ア 甲6刊行物には,以下の記載がある。
    (ア) 「【実施例】以下,請求項1記載の発明を具体化した第1実施例を
図1及び図2に基づいて説明する。・・・図1に示すように間隔保持具本体1は例
えば軟鉄等よりなる平板状の板材をプレス等により横断面が下向き凹状となるよう
に湾曲形成されている。この保持具本体1は上側水平部2と,該水平部2の両側に
下方へ折り曲げ形成した左側壁部3及び右側壁部4とから構成されている。・・・
間隔保持具本体1の両端部は上方にそれぞれ湾曲され,一対の外側位置規制片5,
6が形成されている。この外側位置規制片5,6によりコンクリート型枠K,Kの
下端外側面の位置規制を行う。・・・前記間隔保持具本体1の中間部の側壁部3,
4には前記コンクリート型枠K,Kの内側面と対応する位置に切欠部7,8が形成
されている。このため本体1は両切欠部7,8の間に位置する上側水平部2のみで
連結され,この部分がコンクリート打設後に両外側位置規制片5,6を本体1の中
間部から切り離すための分離部2a,2bとなる。この分離部2a,2bでの上下
方向への折り曲げ強度は他の本体1部分と比較して格段に小さく,外側位置規制片
5,6を把持して折り曲げ可能である。・・・次に,上記のように構成した間隔保
持具について,その作用を説明する。図1,2に示す布基礎コンクリート型枠K,
K内に生コンクリートを充填して,ベースコンクリートCBの上面に布基礎コンク
リートCを打設する。コンクリートCの硬化後に型枠K,Kを除去すると,図2に
示すようにコンクリートCの最下部に保持具本体1の中央部は埋め込まれ,本体1
の両端部及び外側位置規制片5,6が露出する。その後,外側位置規制片5,6を
把持して分離部2a,2bを中心に上方に折り曲げる作業及び復元する作業を数回
行うことにより,分離部2a,2bの金属疲労により外側位置規制片5,6を本体
1の中間部から分離することができる。このため,ベタ基礎コンクリート上に布基
礎コンクリートを打設する場合は,布基礎コンクリート打設後にその型枠を外して
露出している外側位置規制片5,6を分離することができるので,作業上安全であ
り,又,美観上もよい。」(段落【0020】~【0024】)
    (イ) 「次に,請求項2記載の発明を具体化した第2実施例を図8及び図
9により説明する。この実施例では両側壁部3,4に形成された切欠部7,8を三
角形状に形成し,その内部に位置する三角状の側壁部を上縁を中心に上方へ180
度反転して,コンクリート型枠K,Kの内側面の位置を規制する内側位置規制片
9,10としている。布基礎コンクリートCの打設後,図9に示すように内側位置
規制片9,10はコンクリートC内に埋め込まれるが,その近傍の分離部2a,2
bを中心に外側位置規制片5,6を往復回動すると,分離部2a,2bから外側位
置規制片5,6を切り離すことができる。・・・この実施例では両切欠部7,8を
形成する三角形状の側壁部を上方へ湾曲して内側位置規制片9,10とした。この
ため,図10に示すように上側水平部2に内側位置規制片を切り起こし形成するの
と比較して,上側水平部2の強度を低下することなく,かつ切欠部7,8を利用し
て容易に内側位置規制片9,10を形成することができる。」(段落【0026】
~【0027】)と記載されている。
 イ 上記認定の甲6刊行物の記載並びに図1,図2,図8及び図9の図示か
らすると,甲6発明には,コンクリート型枠の間隔保持具について,①間隔保持具
本体1の両端部において,上方にそれぞれ湾曲して形成された,一対の外側位置規
制片5,6が,コンクリート型枠K,Kの下端外側面の位置規制を行うことによ
り,コンクリート型枠K,Kを一定の位置に保持する構成のものと,②外側位置規
制片5と内側位置規制片9,外側位置規制片6と内側位置規制片10とが,コンク
リート型枠K,Kのそれぞれの下端外側面と下端内側面との規制を行うことによ
り,コンクリート型枠K,Kを一定の位置に保持する構成のものとの両方が開示さ
れていると認められる。
 ウ そうすると,甲6発明の上記イ①の構成の間隔保持具(型枠保持金具)
においては,型枠K,Kは,外側位置規制片5の側と,外側位置規制片6の側にそ
れぞれ規制片に単に接触した状態で立設されているにすぎず,また,上記イ②の構
成の間隔保持具(型枠保持金具)においては,型枠K,Kは,外側位置規制片5と
それに対向して設けた内側位置規制片9との間,及び外側位置規制片6と内側位置
規制片10との間にそれぞれ嵌合配置されて保持されていることが明らかであり,
上記①,②のいずれの構成のものにおいても,型枠K,Kは,外側位置規制片5,
6間に嵌合配置されて保持されるものではないとみるべきである。
     したがって,審決が,甲6刊行物には,「該間隔保持具本体1の少なく
とも一端及び該一端に対向する位置にて該間隔保持具本体1に対して垂直に一体で
立設されて互いに対向する少なくとも一対の外側位置規制片5,6を有し,該一対
の外側位置規制片5,6間に嵌合配置される型枠を保持し,該型枠によって布基礎
コンクリートCが形成される軟鉄等よりなるコンクリート型枠の間隔保持具」(審
決謄本4頁最終段落)が記載されていると認定したのは,誤りというほかない。
  (3) 審決の一致点の認定について
ア 上記(1)及び(2)の検討結果からすれば,甲6発明の「一対の外側位置規
制片5,6」が,本件発明の「一対の係止片」に相当するとした審決の認定判断は
誤りであるから,その認定判断を前提とする審決の一致点の認定も,その限りにお
いては誤りであるといわざるを得ない。
イ しかしながら,甲6刊行物に,外側位置規制片5,6のほかに,内側位
置規制片9,10を設け,それぞれの外側位置規制片と内側位置規制片との間に,
一対の型枠のうち一方の型枠を保持する構成のコンクリート型枠の間隔保持具(型
枠保持金具)が開示されていることは,前記(2)に認定したとおりである。そして,
上記の外側位置規制片と内側位置規制片とが,本件発明の「一対の係止片」に相当
することは,前記(1)に説示したところから明らかであるから,本件発明と甲6発明
とは,「長尺状の基部と,該基部の少なくとも一端及び該一端に対向する位置にて
該基部に対して垂直に一体で立設されて互いに対向する少なくとも一対の係止片を
有し,該一対の係止片間に嵌合配置される型枠を保持し,該型枠によってコンクリ
ート基礎が形成される鉄製の型枠保持金具」である点で一致しているというべきで
ある。
     そうすると,審決の一致点の認定は,結論において是認することがで
き,審決の上記認定判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではないという
べであるから,原告の取消事由1の主張は採用することができない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
原告は,相違点2に係る本件発明の構成は,当業者において容易に想到し得
たものであるとした審決の判断は誤りである旨主張するので,以下判断する。
(1) 動機付けの欠如(1)(技術分野の相違)について
   ア 原告は,審決が,甲6発明のコンクリート型枠の間隔保持具(型枠保持
金具)は建築金物類の一種であると認定した上で,本件優先日当時,甲4発明を甲
6発明に適用して,相違点2に係る本件発明の構成を採用することは,当業者であ
れば容易に想到し得ることである旨判断したのは,誤りである旨主張し,その理由
として,直接建築物の構成要素となる建築金物類と型枠保持金具が属する仮設部材
とでは技術分野が相違しており,甲4発明においては,ZAM(商品名)の適用分
野として,建築金物類は予定されていても,仮設部材である型枠保持金具は予定さ
れていない点を挙げている。
   イ そこで,検討するに,「建築」とは,「家屋・ビルなどの建造物を造る
こと」,「金物」とは,「①金属製の器具,②器物,建具などに取り付ける金具,
金具まわり」を意味する語(広辞苑第5版)であり,この意味合いからすると,
「建築金物」という複合語が,建築物の構成要素に用いられる金物のみを指すと限
定的に解すべき根拠はない。また,甲4刊行物には,適用分野として,「建築金物
類」と記載されており,「建築金物」及びこれに類するものが含まれるとされてい
る。これらのことを考慮すれば,甲4刊行物にいう「建築金物類」とは,建築物の
構成要素として用いられる金物だけではなく,建築一般に用いられる金具全般を指
していると解するのが相当である。
  確かに,型枠保持金具は,コンクリート基礎を形成するための部材であ
って,コンクリート打設前には,型枠の保持機能を有しているものの,コンクリー
ト打設後,その保持機能は全く意味をなさなくなるから,それは,建物の構成要素
にならない仮設部材に属するものである。しかしながら,建築金物類が,建築一般
に用いられる金具全般を指していると解されることは上記説示のとおりであり,型
枠保持金具が,建築工事に用いられる金具であることは明らかであるから,型枠保
持金具も建築金物類の一種であるというべきである。
  そして,甲4刊行物には,ZAM(商品名)が,型枠保持金具に適用さ
れ得るとの明示的な記載は見当たらないが,上記のとおり,甲6発明の型枠保持金
具は,建築金物類の一種であり,甲4発明と甲6発明の技術分野は共通するという
べきであるから,当業者において,甲6発明に,甲4発明のZAM(商品名)を適
用する動機付けは十分にあるというべきである。
ウ また,仮に,甲6発明のコンクリート型枠の間隔保持具(型枠保持金
具)が,建築金物類の一種ではないとしても,以下に説示するとおり,甲4刊行物
には,ZAM(商品名)が型枠保持金具にも適用できることを示唆する記載がある
というべきである。
     すなわち,甲4刊行物には,「新溶融めっき鋼板 ZAM」(表紙),
「1.概要・・・本鋼板はめっき層の組成がZn-Al(6%)-Mg(3%)か
らなる・・・高耐食性溶融めっき鋼板です。」(1頁1行目ないし6行目),
「2.特長 1)耐食性が溶融亜鉛めっき鋼板・・・に比べ10~20倍・・・優
れています。」(2頁1行目~3行目),「3.ZAMの適用分野 1)既存プレ
めっき代替 溶融亜鉛めっき・・・からの切替え 建築用構造材,建築金物類,ガ
ードレール,ガードポスト,仮設ハウス,農ビパイプ等」(2頁12行目ないし1
7行目)と記載されている。
     これらの記載からすると,甲4発明のZAM(商品名)は,溶融亜鉛め
っき鋼板(プレめっき)よりも耐食性に優れ,建築用構造材,建築金物類のほか,
多くの技術分野において,溶融亜鉛めっき鋼板(プレめっき)の代替品として,適
用可能とされていることが認められる。
     そして,本件明細書(甲2)には,「錆びを防止するために,表面に安
価な亜鉛メッキ等が施された鋼板を使用して型枠保持金具を形成することが行われ
ている。」(段落【0004】)と,甲5刊行物には,「支持治具8(注,型枠保
持金具)は亜鉛メッキ鋼板を折り曲げ加工して形成されたものである。」(2頁3
欄20行目~22行目)と記載されており,この記載からすれば,型枠保持金具を
さび防止用であることが明らかな亜鉛メッキを施した亜鉛メッキ鋼板から折曲げ加
工して形成することは,本件優先日当時,当業者には周知の事項であったと認めら
れる。
     したがって,甲4刊行物の上記記載は,ZAM(商品名)の「型枠保持
金具」への適用可能性を,直接的に示しているわけではないものの,甲4刊行物に
記載されたZAM(商品名)の適用分野の広範さからすると,甲4刊行物に接した
当業者において,型枠保持金具の形成に用いる亜鉛メッキ等が施された鋼板に代え
て,ZAM(商品名)を用いることは容易に想到できることであると考えられる。
   エ なお,原告は,型枠保持金具が属する仮設部材の業界においては,さび
の問題は意識しないのが技術常識であった旨主張する。
     しかしながら,型枠保持金具をさび防止用であることが明らかな亜鉛メ
ッキを施した亜鉛メッキ鋼板から折曲げ加工して形成することは,本件優先日当
時,当業者には周知の事項であったことは,上記ウに認定したとおりであり,ま
た,甲6刊行物には,「上記従来の型枠間隔保持具においては,ベタ基礎コンクリ
ート上に布基礎コンクリートを打設した後,その型枠を取り外すと,布基礎コンク
リートの下部両側に外側位置規制片が露出する。このため,錆が発生したり,邪魔
であったり,さらに作業者の足元の安全上に問題が生じた。・・・本発明(注,甲
6発明)の第1の目的は,布基礎コンクリート打設後にコンクリート型枠を取り外
した状態で,溝状の補強構造を有する間隔保持具本体から外側位置規制片を容易に
切り離すことができるコンクリート型枠の間隔保持具を提供することにある。」
(段落【0003】,【0004】)と記載されている。これらのことを考慮すれ
ば,本件優先日当時,型枠保持金具が属する技術分野において,さびの問題が意識
されていなかったということはできない。
     もっとも,甲6刊行物には,型枠保持金具の切断面からのさびの進行,
さびによる腐蝕がコンクリート内まで浸透することによる基礎コンクリートの不安
定化についてまで,言及した記載があるわけではない。しかしながら,甲6刊行物
には,上記のとおり,コンクリート打設後,間隔保持具の端部が,コンクリート布
基礎から突出し,この突出部は,さびやすく,工事の邪魔になる等の理由により切
断される旨が記載されており,この記載からすると,そもそも,上記端部(突出
部)は,さびやすいのであるし,外側位置規制片を切り離した後,間隔保持具に切
断面が現れるのであるから,切断部分において腐食によるさびが発生することは,
当業者ならば容易に予測できることである。また,コンクリート内部で鉄筋などの
鋼材が腐食によりさびが発生すると,コンクリートにひび割れが生じ,これによる
障害が起こることは,技術常識であるから,本件優先日当時,型枠保持金具が属す
る仮設部材の業界においても,さびの発生は当然に意識されていたとみるのが相当
である。
オ 以上によれば,甲6発明と甲4発明とは技術分野を共通にしており,甲
6発明に甲4発明を適用して,相違点2の本件発明に係る構成を想到することは,
当業者であれば容易になし得たことであるというべきであり,技術分野の相違を理
由に動機付けの欠如をいう原告の主張は採用することができない。
(2) 動機付けの欠如(2)(課題の共通性の欠如)について
   ア 原告は,甲6発明は,外側位置規制片の切断断面のさびについて考慮し
ておらず,そのさびが内部に浸透することによるコンクリート布基礎の強度の劣化
についても全く開示するところがないこと,また,甲4発明は,鋼製の建築材料等
で特に耐食性が要求されるような部位について,その製造工程での鋼材露出箇所の
さび防止の効果を念頭に置いたものであり,金具を使用する現場で新たに切断が行
われて切断面のみが露出し,他の部分がコンクリート内に埋設されるような極めて
特殊な金具まで対象として予定されていないことから,本件発明と甲6発明及び甲
4発明とでの間には課題の共通性がなく,甲6発明に甲4発明を適用して,相違点
2に係る本件発明の構成を想到することには,技術的困難性が存在したというべき
である旨主張する。
イ しかしながら,甲6発明において,外側位置規制片の切断部分の断面に
さびが生じること,このさびによりコンクリートのひび割れが生じることは,上
記(1)に説示したとおり,当業者が容易に予測できることである。
     ところで,甲4刊行物には,「5.5 切断端面部の防食機構 ・図3
に,ZAMの端面防食機構を示します。・・・雨,結露等により切断端面の鋼素地
露出部が酸化(初期赤錆発生)[暴露初期(~数週間)]→さらに雨や結露により
ぬれる→めっき層から溶け出した亜鉛,アルミニウム,マグネシウムにより緻密な
マグネシウム含有亜鉛系保護被膜が端面部を覆う[暴露中期(数週間~数年)]→
徐々に灰色~灰黒色に変化  1)マグネシウム含有亜鉛系
保護被膜の鋼素地保護作用 2)端面近傍のめっき層による犠牲防食作用[暴露長
期]→高耐食めっき層により上記防食作用が長時間持続」(10頁)と記載されて
おり,この記載からすると,ZAM(商品名)が切断端面の防食に威力を発揮する
ものであることは容易に理解される。
     そうであれば,切断面がさびることが明らかな,甲6発明のコンクリー
ト型枠の間隔保持具(型枠保持金具)においても,ZAM(商品名)が,その効果
を発揮することは,当業者ならば容易に予測できることである。
  なお,原告は,甲4発明は,金具製造工程での鋼材露出箇所のさび防止
を問題としており,ZAM(商品名)の適用については,金具を使用する現場で新
たに切断が行われ,他の部分がコンクリート内に埋設されるような極めて特殊な金
具である型枠保持金具を対象としていない旨主張する。
     しかしながら,切断場所が相違しようと,他の部分がコンクリート内に
埋設されようと,切断面が露出するのに変わりはないのであるから,甲4発明のZ
AM(商品名)の適用を妨げる事情は何ら存在しないというべきであり,甲4発明
が,型枠保持金具を適用対象としていないということはできない。
ウ 以上のとおり,甲6発明及び甲4発明には,型枠保持金具の突出部を施
工現場で切断する際に露出する切断面にさび止めを施すという,本件発明の課題が
開示されておらず,本件発明と甲6発明及び甲4発明との間に課題の共通性がある
とはいえないが,甲6刊行物及び甲4刊行物の記載内容及び技術常識に照らしてみ
れば,両発明を結び付け,相違点2に係る本件発明の構成を想到することに,技術
的困難性が存在し,そのために動機付けが欠如しているということはできない。し
たがって,これと異なる原告の主張は,採用することができない。
(3) 顕著に有利な効果及び商業的成功の看過について
   ア 原告は,本件発明の効果は,コンクリート打設後に,型枠保持金具のう
ちコンクリート面からの突出部分を切断した後に露出した切断面でのさびの発生を
防止するというものであり,甲4発明のZAM(商品名)がもたらす,製造工程で
の鋼材露出箇所への作用効果や,加工工場内での工程を合理化するメリットとは全
く異なる新しい効果をもたらしたものである旨主張する。
     しかしながら,甲6発明のコンクリート型枠の間隔保持具(型枠保持金
具)の突出部分の切断面のさび防止のために,甲4発明を適用することが容易想到
であることは,前記(2)に説示したとおりであるところ,甲4発明の適用により,突
出部分を切断した後に露出した切断面でのさびの発生を防止できることは,甲4発
明のZAM(商品名)が鋼材等の切断端面のさび防止に威力を発揮することから,
当業者が容易に予測できる範囲内のことである。
イ また,原告は,本件発明は,もともと素材自体のさび防止が必要とされ
ていなかった仮設部材にまでさび防止の効果を及ぼすことによって,コンクリート
内に残存する部材へさびが進行し,腐食によってコンクリート基礎の強度が低下す
ることを防止し,コンクリート基礎の強度を長期にわたって維持するという効果を
有しており,これは従来にはなかった新しい効果である旨主張する。
     しかしながら,型枠保持金具においてさび防止が必要とされていたこ
と,また,コンクリート中の鋼材が腐食によりさびが発生すると,コンクリートの
ひび割れの要因となることが技術常識であるであることは,上記(1)に説示したとお
りである。
  甲4発明のZAM(商品名)の適用により,型枠保持金具の突出部の切
断面のさびの発生が防止されることは上記のとおりであり,さびの発生がなけれ
ば,基礎コンクリートの強度の低下に至らないことは当業者が容易に予測できるこ
とである。また,モルタル割れの補修作業が不要になったことによる経済的効用に
ついても,ZAM(商品名)がもたらすさび防止の効果から十分に予測できる範囲
のことにすぎない。
ウ原告は,本件発明の型枠保持金具は,従来のめっきなしのものに対して
少し高価になるにもかかわらず,需要が伸びており,商業的成功を収めているとも
主張する。
     しかしながら,相違2に係る本件発明の構成が当業者において容易に想
到できるものであること,本件発明の奏する効果が,甲6発明及び甲4発明から当
業者が容易に予測できる範囲内のものであることは,既に説示したとおりであるか
ら,本件発明の実施品の需要が伸び,その製造販売が商業的成功を収めているとし
ても,それが本件発明の進歩性を裏付けるに足りないことは明らかである。
(4) 以上検討したところによれば,相違点2に係る本件発明の構成は,甲6発
明及び甲4発明に基づき当業者が容易に想到できることというべきであり,この点
に関する審決の認定判断に誤りはない。
 3 以上の次第で,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
  よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
  知的財産高等裁判所第1部
  裁判長裁判官   篠  原  勝  美
 裁判官     青  栁     馨
       裁判官  宍  戸     充

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