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平成10年(行ケ)第276号審決取消請求事件(平成11年11月10日口頭弁
論終結)
            判     決
原      告    株式会社エース電研
代表者代表取締役    【A】
訴訟代理人弁理士    【B】
同           【C】
被      告    有限会社ユア開発
代表者代表取締役    【D】
訴訟代理人弁護士    岡田春夫
同           小池眞一
同    弁理士    【E】
            主     文
特許庁が、平成9年審判第20419号事件について、平成10年7月14日にし
た審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、昭和59年5月24日出願の実用新案登録出願(実願昭59-7684
8号)を特許出願に変更したもの(特願昭63-223955号)の一部を、平成
4年5月1日に分割して出願した、名称を「遊技設備」とする特許第200604
5号発明(平成8年1月11日設定登録。以下「本件特許発明」という。)の特許
権者である。
 原告は、平成9年11月28日、本件特許発明につき、その特許を無効とする旨
の審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を平成9年審判第20419号事件として審理した上、平成1
0年7月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本
は、同年8月12日、原告に送達された。
2 本件特許発明の特許請求の範囲請求項1に記載された発明(以下「本件発明」
という。)の要旨
 複数の遊技台(A)を横方向に並設してある遊技台列に、紙幣(a)をその紙面
が上下方向に沿う姿勢で当該遊技台列前面側から受け入れて識別し、かつ、識別し
た紙幣(a)をその紙面が上下方向に沿う姿勢で当該遊技台列背面側に送り出し可
能な複数の紙幣投入機(B)が当該遊技台列に沿う方向で設けられているととも
に、前記遊技台列に設けた前記紙幣投入機(B)の各々から送り出される紙幣
(a)をその紙面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って特定位置
まで合流搬送する搬送装置(2)と、前記紙幣投入機(B)の各々から送り出され
る紙幣(a)を屈曲させてその紙面が上下方向に沿う姿勢で前記搬送装置(2)の
搬送路に案内する案内手段(3)とが設けられている遊技設備であって、紙幣
(a)の搬送状態を検出する検出手段(S1 ,S2 ,S)と、前記検出手段
(S1 ,S2 ,S)による検出結果に基づいて紙幣(a)の詰まり発生の有無
を判別する判別手段(23)と、前記判別手段(23)による判別結果に基づいて
詰まり発生を表示する表示手段(24)とが備えられている遊技設備。
3 審決の理由
 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明が、実公昭56-30943号
公報(審決甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)、特開昭5
6-95079号公報(審決甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用例2」とい
う。)、特開昭53-3399号公報(審決甲第3号証、本訴甲第5号証、以下
「引用例3」という。)、実公昭58-6823号公報(審決甲第4号証、本訴甲
第6号証、以下「引用例4」という。)、特開昭55-30726号公報(審決甲
第5号証、本訴甲第7号証、以下「引用例5」という。)、特開昭55-3571
3号公報(審決甲第6号証、本訴甲第8号証、以下「引用例6」という。)、特開
昭54-8362号公報(審決甲第7号証、本訴甲第9号証、以下「引用例7」と
いう。)及び実公昭51-12840号公報(審決甲第8号証、本訴甲第10号
証、以下「引用例8」という。)に記載された発明(以下これらに記載された発明
を、それぞれ「引用例発明1」~「引用例発明8」という。)に基づいて、容易に
発明をすることができたものであるとする請求人(本訴原告)の主張について、本
件発明が、引用例発明1~8に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた
ものということはできないから、請求人の主張する理由及び提出された証拠方法に
よっては、本件特許発明の特許を無効にすることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決の理由中、本件発明の要旨の認定、請求人(本訴原告)の主張の認定、引用
例1~8の記載事項の認定(審決書6頁9~10行「自動玉貸機内に設置した」を
除く。)、本件発明と引用例発明1~8との対比の一部(同8頁15行~10頁8
行、10頁15~19行、11頁7~10行、11頁18行~12頁8行、12頁
16~18行、13頁6~9行)はいずれも認める。
 審決は、本件発明と引用例発明2との相違点についての判断を誤り(取消事由
1)、本件発明の奏する効果を誤認した(取消事由2)ものであるから、違法とし
て取り消されなければならない。
1 相違点についての判断誤り(取消事由1)
1 引用例発明2について
 審決が、引用例発明2について、「ここに記載された装置を紙幣の場合に適用す
ると、遊技台列の背面側に送出された紙幣は水平な載置面を有するベルトコンベア
上に落下されて載置され搬送されることになる」(審決書10頁19行~11頁2
行)、「本件特許明細書において、本件発明の課題に関して従来例として記載され
ているものに相当し、前述のとおりの遊技設備の特性からして、紙幣投入機が紙幣
を紙面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列の前面側から受け入れて、その姿勢で遊技
台列の背面側に送出し、紙幣をさらにガイド部材により屈曲させて挟持搬送装置に
合流させ搬送するとともに、その間紙面を上下方向に沿う姿勢とするという本件発
明の事項を備えておらず、また示唆するものでもない」(同11頁8~17行)と
認定したことは誤りである。
 すなわち、引用例2(甲第4号証)には、「上述においては賞ボール貸機22と
して硬貨を使用する場合について述べたが、これに代え又はこれと共に紙幣を使用
し得るようにしても良い」と記載され、紙幣を使用した場合を開示しているのであ
って、この場合、硬貨投入口48は、紙幣投入口となり、ここから紙幣を受け入れ
て選別機47により識別される。そして、識別された紙幣は、取込樋49を滑り落
ちるか又は何らかの送り出し手段により送り出されることにより、上下方向に沿う
姿勢でパチンコ機1列の背面側(賞ボール貸機22の背面側)に送出され、案内さ
れて、水平な載置面を有するベルトコンベア56上に載置される形態で、搬送装置
50によりパチンコ機1列の並設方向に沿って、特定位置に設けられたキャッシュ
ボックス57まで合流搬送されることになる。
2 本件発明と引用例発明2との対比
 そして、引用例発明2の「パチンコ機」、「賞ボール貸機」は、本件発明の「遊
技台」、「紙幣投入機」にそれぞれ相当する(審決書8頁15行~9頁4行)か
ら、両発明は、「複数の遊技台を横方向に並設して構成される遊技台列に、紙幣を
その紙面が上下方向に沿う姿勢で当該遊技台列前面側から受け入れて識別し、か
つ、識別した紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で当該遊技台列背面側に送り出
し可能な複数の紙幣投入機が当該遊技台列に沿う方向で設けられているとともに、
前記遊技台列に設けた前記紙幣投入機の各々から送り出される紙幣を前記遊技台列
に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置が前記遊技台列の背面側に設けられ、
前記紙幣投入機から送り出される紙幣を前記搬送装置の搬送路に案内する案内手段
が設けられている遊技設備」の点で一致し、下記の点で相違することとなる。
① 相違点1
 本件発明は、紙幣投入機から送り出される紙幣を、その紙面が上下方向に沿う姿
勢で挟持し遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置と、この搬送装置
に、前記送り出される紙幣を屈曲させてその紙面が上下方向に沿う姿勢で搬送装置
の搬送路に案内する案内手段とが設けられているのに対し、引用例発明2は、紙幣
投入機から送り出される紙幣を、遊技台列に沿って合流搬送する搬送装置と、前記
送り出される紙幣を搬送装置の搬送路に案内する案内手段とが設けられている点。
② 相違点2
 本件発明は、紙幣の搬送状態を検出する検出手段と、前記検出手段による検出結
果に基づいて紙幣の詰まり発生の有無を判別する判別手段と、前記判別手段による
判別結果に基づいて詰まり発生を表示する表示手段とが設けられているのに対し、
引用例発明2には、これらの手段の設置について具体的な開示がない点。
3 相違点1について
ア 審決が、本件発明と引用例発明2との相違点の判断において、引用例発明4に
ついて、「紙幣を受け入れてそれを送り出し搬送するものでなく、まして、紙幣を
紙面が上下方向に沿う姿勢で前面側から受入れて、その姿勢で背面側へ送出し、屈
曲させて挟持搬送装置に合流させ搬送するとともに、その間紙面を上下方向に沿う
姿勢とすることを示唆することもない。」(審決書12頁9~15行)と判断した
ことは誤りである。
 すなわち、引用例4(甲第6号証)には、審決認定の事項に加えて、「送出しロ
ーラーから1枚ずつくり出される紙幣を次の搬送体に受渡す構造の搬送装置を改良
したもの」と記載されており、引用例発明4の構成は、紙幣払出機に限らず、紙幣
を案内しつつ搬送する搬送装置一般に適用可能である。そして、引用例発明4の
「搬送体B1,B2」、「ガイドG,G」は、本件発明の「紙幣を挟持する搬送装
置」、「搬送路に案内する案内手段」にそれぞれ相当するから、引用例発明4に
は、送り出しローラA1,A2により送り出された紙幣を挟持してその紙面が送り
出し方向に沿う姿勢で、前記紙幣送出部1a,1b,1c,1d列に沿って特定位
置まで合流搬送する搬送装置と、この搬送装置に、前記送り出しローラにより送り
出される紙幣を、その紙面を横方向(搬送方向)に屈曲させて(送り出し方向から
搬送方向に曲げることを意味する。)、前記搬送装置の搬送路に案内する案内手段
が開示されており、複数の紙幣送出部は、搬送体B1,B2に向けて紙幣を背面側
に送り出す紙幣送出し手段を構成するものといえる。
 ただし、本件発明では、送り出された紙幣を、その紙面が上下方向に沿う姿勢で
搬送路に案内し、かつ、搬送するのに対して、引用例発明4では、その紙面が上下
方向に沿う姿勢ではない点において、両者は一応相違する。
 しかし、引用例5(甲第7号証)には、審決認定のとおり、その第1図に示され
るように、現金払出機1から紙面が上下方向に沿う姿勢で送り出された(払い出さ
れた)紙幣を、出金ベルト31と個別ベルト32,33,34との間に何らかの案
内手段により案内して、この出金ベルトと個別ベルトにより挟んで、紙幣をその紙
面が上下方向に沿う姿勢で搬送することが開示されており、送り出された紙幣をそ
の紙面が上下方向に沿う姿勢で搬送部に案内し、かつ、搬送することは、本件発明
の出願前に周知の技術手段であったものである。したがって、引用例発明4の紙幣
送出部1a,1b,1c,1dを、水平に(横方向に)並設した場合には、送り出
された紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で搬送路に案内し、かつ、搬送するこ
とになるから、前記の相違は上下搬送方式から水平搬送方式への単なる設計変更に
すぎない。
 そうすると、引用例発明2の紙幣をパチンコ機の背面側に送り出し方向に沿った
姿勢で送り出す手段として、引用例発明4の紙幣をその紙面が送り出し方向に沿う
姿勢で送り出す手段を採用すること、引用例発明2のパチンコ機の背面側に送り出
される紙幣をパチンコ機列の背面側に設けられている搬送装置の搬送路に案内する
手段として、引用例発明4の送り出される紙幣を横方向に屈曲させて搬送装置の搬
送路に案内する案内手段を採用すること、引用例発明2の各賞ボール貸機から送り
出される紙幣をパチンコ機列に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置として、
引用例発明4の送り出される紙幣をその紙面が送り出し方向に沿う姿勢で挟持し、
特定位置まで合流搬送する搬送装置を採用することは、当業者が容易になし得たこ
とである。
イ また、審決が、引用例発明1及び3について、「遊技設備の特性からして、紙
幣投入機が紙幣を紙面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列の前面側から受け入れて、
その姿勢で遊技台列の背面側に送出し、紙幣をさらにガイド部材により屈曲させて
挟持搬送装置に合流させ搬送するとともに、その間紙面を上下方向に沿う姿勢とす
るという本件発明の事項を備えておらず、また示唆するものでもない。」(審決書
11頁10~17行)と判断したことも誤りである。
 すなわち、上記の「遊技設備の特性からして、紙幣投入機が紙幣を紙面が上下方
向に沿う姿勢で遊技台列の前面側から受け入れ」る点は、前示のとおり、引用例発
明2で紙幣を用いた場合に相当するが、さらに、引用例発明3に、パチンコ島1に
おいてパチンコ台2の相互間に自動玉貸機3が配置され、自動玉貸機3が、紙幣を
その紙面が上下方向に沿う姿勢で前面側から受け入れる点が開示されている以上、
従来周知の事項にすぎない。
 また、引用例発明1には、貸出し媒体としての硬貨を遊技台列前面側から受け入
れてその貸出し媒体面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列の背面側に送り出し、該硬
貨を更に案内手段により搬送装置の搬送路に案内して合流させ搬送するとともに、
その間硬貨の面を上下方向に沿う姿勢に維持することが開示されており、かつ、遊
技設備においては、紙幣であろうと硬貨であろうと遊技媒体の貸出しを受ける媒体
であることに変わりはなく、遊技店側から見ればこの貸出し媒体は効率よく回収す
る対象物であるから、紙幣と硬貨との間に実質的な相違はない。そうすると、引用
例発明2の遊技台列の背面側に送り出した紙幣の紙面の姿勢維持形態として、背面
側の搬送装置により特定位置に至るまで紙幣の紙面を上下方向に沿う姿勢に維持す
る程度のことは、貸出し媒体をその受入れから回収部に至る間、上下方向に沿う姿
勢とした引用例発明1の技術事項を単に適用したにすぎない。
 以上のことからすると、審決が「甲第1~3号証(注、本訴甲第3~第5号証)
刊行物に記載された事項と甲第4,5号証(注、本訴甲第6、第7号証)刊行物に
記載された紙幣の搬送に関する事項とを組み合わせたとしても、・・・『紙幣を紙
面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列の前面側から受け入れて、その姿勢で遊技台列
の背面側に送出し、さらに案内手段により屈曲させて挟持搬送装置に合流させ搬送
するとともに、その間紙面を上下方向に沿う姿勢とする』ことについては予測され
るものでない。」(審決書13頁15行~14頁4行)と判断したことも誤りとい
える。
4 相違点2について
 引用例発明2には、前記相違点2に係る各手段の設置が具体的に開示されていな
いが、引用例発明6~8には、審決認定(審決書7頁8行~8頁11行)のよう
に、紙幣又はシート状体の搬送状態を検出する検出手段と、前記検出手段による検
出結果に基づいて紙幣の詰まり発生の有無を判別する判別手段と、前記判別手段に
よる判別結果に基づいて詰まり発生を表示する表示手段とが開示されており、この
ような手段を設けることは、紙幣又はシート状体の搬送を取り扱う分野において周
知の事項である。
 特に、引用例発明6の紙幣払出し装置におけるジャム(紙幣の詰まり)検出装置
は、引用例発明4と同一の紙幣払出機等を対象とするものであり、紙幣が各検出器
を通過するのに要する時間及び検出器間を通過する時間を測定し、これらの時間が
所定時間を超えた場合に、検出器上又は検出器間に詰まりが発生していると判断す
る判断手段は、本件発明の判別手段に相当し、この判断手段による判断結果に基づ
いて詰まり発生を表示する表示手段は、本件発明の表示手段に相当する。
 したがって、引用例発明2に対し、引用例発明6~8の紙幣の検出手段、判別手
段及び表示手段を備える構成を組み込むことに、何らの困難性も認められない。
2 本件発明が格別な効果を奏するとの判断の誤り(取消事由2)
 審決は、「本件発明は、・・・本件特許明細書に記載されたとおりの、『①遊技
台列に設けた紙幣投入機に投入された紙幣を遊技者の邪魔にならず、能率良く回収
できる。②広い据え付けスペースを必要とせず、多くの遊技台を設置し易い。③狭
いスペースでも、円滑に搬送して効率良く確実に回収できる。④搬送紙幣の詰まり
が発生した際には、その詰まり解消等の必要な処置を迅速かつ簡単に行える。』と
いう格別の効果を奏するものである」(審決書14頁5~15行)と判断するが、
以下のとおり、このような作用効果には格別なものはないのであるから、上記の判
断は誤りである。
1上記①について
 引用例発明2のパチンコ機の管理制御装置において、紙幣を用いる場合、遊技台
列の背面側における搬送装置により特定位置に紙幣を回収するものであるから、直
ちに予測できる効果である。
2上記②について
 引用例発明2において、硬貨に代えて紙幣を用いる場合には、当然に紙幣をその
紙面が上下方向に沿う姿勢とし、賞ボール貸機を薄型のままで使用することを示唆
するものであるから、直ちに予測できる効果である。
3上記③について
 引用例2には、搬送した紙幣を特定位置において回収することが記載され、引用
例1には、遊技設備の貸出し媒体として見れば紙幣と相違がない硬貨について、上
下方向に沿う姿勢で送り出された硬貨を搬送装置の合流部に上下方向に沿う姿勢で
案内し、上下方向に沿う姿勢で搬送装置により搬送することが記載され、詰まりを
生じさせることなく搬送装置の搬送路に案内する案内手段が開示されていると認め
られ、また、紙幣の搬送に当たり紙幣を挟持し合流搬送することは引用例4に記載
されている以上、上記の作用効果は、一連の上下方向(送り出し方向)に沿う姿勢
に維持する引用例発明1を前提として、引用例発明2の紙幣をパチンコ機列に沿っ
て合流搬送する搬送装置において、引用例発明4の送り出される紙幣の紙面を送り
出し方向に沿う姿勢で挟持して特定位置まで合流搬送する搬送装置を採用する際
に、予想できる作用効果である。
4上記④について
 引用例発明3及び引用例発明6による周知の事項から、予想できる効果である。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がな
い。
1 取消事由1について
1 引用例発明2について
 引用例発明2に、複数のパチンコ機を横方向に並設して構成されるパチンコ機列
に、紙幣をパチンコ機列の前面側の紙幣投入口から受け入れて識別する複数の賞ボ
ール貸機がパチンコ機列に沿う方向に設けられている事項、賞ボール貸機が紙幣を
パチンコ機列背面側に送り出す事項、送り出された紙幣が水平な載置面を有するベ
ルトコンベア上に落下されて載置され搬送される事項が開示されていることは認め
る。
 しかし、原告が、引用例2に、賞ボール貸機が紙面を上下方向に沿う姿勢でパチ
ンコ機列背面側に送り出し可能との事項が開示されていると主張する点、合流搬送
する搬送装置が水平な載置面を有するベルトコンベアであるとの事項を捨象して、
単なる「合流搬送する搬送装置」とし、送り出される紙幣を水平な載置面を有する
ベルトコンベアへ落下させてベルトコンベア上に載置させる事項を、「合流搬送に
案内する手段」として、特別の構成があるかのように主張する点は、いずれも誤り
である。 すなわち、遊技台列背面側への送出しにおける紙幣の姿勢を、紙面が上
下方向に沿うものとすることに関して、引用例2の第1図に、硬貨投入口48が
「縦長」に図示されていることをもって、縦長の紙幣投入口が開示されていると原
告は主張するが、これは図面解釈における技術常識に反している。仮に紙幣を遊技
台列背面側へ送出す事項が記載されているとしても、引用例2に、硬貨回収システ
ムに固有の手段として記載されている具体的要素まで、そのままの形状で紙幣を使
用する場合に適用されると解することはできない。例えば、同第1図に見られる硬
貨投入口48が縦長であっても、同第2図が開示する、紙幣の受入れ後の賞ボール
貸機内部に設けられた「取込樋49」は、硬貨を転動させ落下させるに適した手段
であるから、紙幣の取込みを想定することが困難なものであり、また、その取込桶
の終端が急激に折曲されている形状から、仮に紙幣が縦姿勢を保ったまま遊技台列
背面側に送出されるとしても、その内部で紙幣詰まりが発生することは明らかであ
り、該取込桶は硬貨に固有の要素であって、引用例2が紙幣を使用する場合も図示
していると解することは不可能である。
 また、引用例発明2は、原告も認めるように、水平な載置面を有するベルトコン
ベア上に載置される形態で、合流搬送する搬送装置を開示するものであるから、原
告主張の「合流搬送に案内する手段」の正確な技術的内容は、「水平な載置面に紙
面が沿った姿勢となって合流するように案内する手段」であることになる。そし
て、紙幣を横方向へ搬送する手段に複数箇所から送り出される紙幣を合流搬送させ
る従来技術としては、引用例発明5に見られる、紙面を水平方向に沿う姿勢で合流
搬送するよう案内する手段しか存在しないのであって、重力の影響によって搬送姿
勢が乱れやすい縦姿勢による紙幣の合流搬送を記載した公知技術は一例も存在して
いない。それゆえ、引用例発明2の「合流搬送への案内手段」に関しては、重力を
利用した搬送姿勢を維持する水平な載置面を有する搬送手段に、紙幣を合流搬送さ
せるため、紙面を水平方向に沿う姿勢で合流搬送するよう案内する手段、と解する
べきであって、これを抽象化して単に「合流搬送への案内手段」として本件発明と
の対比を行うことは、本件発明の技術的意義を見誤るものであって誤りである。
 したがって、この点に関する審決の認定(審決書11頁7~17行)に誤りはな
い。
2 本件発明と引用例発明2との対比
 以上のことからして、原告が主張する本件発明と引用例発明2の一致点の内、
「その紙面が上下方向に沿う姿勢で」の部分は、相違点として把握されるべき事項
であり、原告が主張する前記相違点1は、「引用例発明2は、・・・遊技台列に沿
って合流搬送する、紙幣を載置する水平な載置面を有する搬送装置と、・・・紙幣
を搬送装置の水平な載置面に載置させるよう紙面が水平方向に沿う姿勢として案内
する手段とが設けられている点」と改められるべきものである。
3 相違点1について
ア 原告は、引用例発明2に転用する技術的要素として、引用例4に示される
「(上下の)ガイドG,G」のみを採り上げて主張するが、引用例4の実用新案登
録請求の範囲には「前段の送出しローラーA1,A2の周速度を後段の搬送体B1,
B2の搬送速度よりも速くなるように」するとともに、「送出しローラーA1,A
2と後段の搬送体B1,B2との受渡し間隔内には、終端部上面が・・・搬送体B
2の下部と接触して紙幣を挟持搬送する中段の搬送体B3を設ける」と記載されて
おり、これらの記載から見て、紙幣を上下方向下側から載置搬送する部分を予定し
た中段の搬送体B3の存在があるものであり、ガイドに関しても、「搬送体B3の
上面搬送側が突出するように(中略)上下のガイドG,Gを設け」と記載されてい
るように、上下のガイドは、中段の搬送体と組み合って設置されるものであり、上
下方向の位置指定に従い設置されることが予定された技術的要素である。
 したがって、引用例発明4が、紙幣払出機等における上方向への紙幣の合流搬送
を可能とする技術的手段を一貫して開示するものであるにもかかわらず、原告が、
「ガイド」という用語のみに着目し、「上下」との位置関係に関する制約を排除し
た「ガイドG,G」との「紙幣の受渡し構造」が開示されていると解して、他の技
術的分野での紙幣搬送に転用可能であると主張することは、引用例4の第1図に図
示の縦置式紙幣払出機を横方向に倒せばよいという極めて乱暴な議論でしかなく、
その記載内容を不正確に把握した上で積み重ねられた空論にすぎない。
 仮に、引用例発明4の紙幣払出機の中に、引用例発明2に転用し得る技術的要素
が開示されているとしても、引用例発明4には、パチンコホール等の遊技設備(パ
チンコ島)における紙幣の搬送に関する課題の解決手段の示唆がない以上、銀行の
業務用として窓口近くに設置される引用例発明4の縦置式紙幣払出機の搬送装置
を、パチンコホール等の遊技設備において本件発明が解決した遊技設備特有の課題
に適用することは、技術的分野が異なるだけでなく(紙幣払出機にあっては、利用
者のプライヴァシー保護のため、横方向での設置間隔を十分なものとする必要があ
る。)、起因となる動機づけがないから、両者の組合せに困難性がないという原告
主張は誤りである。
 さらに、原告が引用する引用例発明5の第1図が図示する「出金ベルト31」及
び「個別ベルト32,33,34」は、銀行窓口業務のうち、分配用搬送システム
として現金払出機1から各窓口に分配する現金出金用の搬送装置を開示するもので
あって、複数の紙幣受入口から送り出されてくる紙幣を、複数の箇所で受け入れる
という「紙幣の合流搬送装置」を開示するものではない。また、同図は、上記の現
金出金用の搬送装置の手前側に、複数の紙幣挿入口より送出される紙幣を合流搬送
する技術的手段を図示するが、各挿入口(91,92,93)より挿入された紙幣
は、全体が捻られた「通路71,72,73」を通じて姿勢を水平にされ、水平な
載置面を有する入金ベルト60上に載置された上で、横方向に合流搬送されるもの
である。
したがって、紙幣を横方向に同一搬送路に合流搬送させる場合、硬貨に比べ可撓性
に富み、大型で薄い紙幣の搬送姿勢を安定させるためには、上下方向に働く重力を
利用し水平方向に載置面を有する搬送装置に紙面を沿わせる姿勢で合流搬送させる
手法のみが、本件発明の出願の際に公知技術であったものであり、こうした事情
は、搬送姿勢が乱れ易い紙幣を縦姿勢に維持して挟持搬送する際に、挟持搬送路の
途中から紙幣を縦姿勢で合流搬送させるとの構成を採用することが、当業者の認識
において新規な事項であったことを示すものである。
イ 原告は「遊技設備の特性からして、紙幣投入機が紙幣を紙面が上下方向に沿う
姿勢で遊技台列の前面側から受け入れ」る点は、引用例発明3に開示されていると
主張する。
 しかし、審決は、単に紙幣投入機が紙幣を縦姿勢で受け入れるとの技術的要素に
のみ着目したのではなく、本件発明の課題として「紙幣を、・・・遊技台列の背面
のわずかなスペースを用いて、特定位置へ合流搬送して円滑に回収すること」(審
決書9頁10~13行)と認定し、引用例発明3は、自動玉貸機に受入れられた紙
幣を、遊技台列の背面側に送出すことなく、内部の金庫に収納するものであるか
ら、「本件特許明細書において、本件発明の課題に関して従来例として記載されて
いるものに相当」(同11頁7~10行)するとしたのであり、この認定判断に誤
りはない。
 また、原告は、引用例発明1に関して、遊技設備において紙幣と硬貨との間に実
質的な相違はないと主張する。
 しかし、引用例発明1が開示する集合路6、導出樋5からなる硬貨回収システム
は、硬貨の転動を利用する硬貨の特性に固有のものであり、硬貨を縦姿勢に保ち、
硬貨の転動しようとする力で、側壁に設けた彎曲面を姿勢を斜め方向にしながら滑
り落ちて転動姿勢を連続的に倒していく方法により、転動方向を変えるという構成
を採用したものであって、紙幣の回収システムに転用できるものでないことは明ら
かである。
 したがって、この点に関する審決の認定(審決書10頁5~14行)に誤りはな
い。
4 相違点2について
 原告は、相違点2に関して、引用例発明2と引用例発明6~8に開示された手段
との組合せを主張するところ、引用例発明6が、紙幣の搬送詰まり検出手段、詰ま
り判別手段、詰まり表示手段を開示し、これらの手段が、銀行業務用の縦置式紙幣
払出機又は両替機の内部に組み込まれて使用されることは認める。
 しかし、これらの発明と、引用例発明2の賞ボール貸機との組合せを示唆する技
術的思想の開示は皆無であり、組合せの動機づけがない。
2 取消事由2について
 本件発明が格別の効果を有することについての審決の認定(審決書14頁5~1
5行)には、以下のとおり、誤りはない。
1審決認定の本件発明の効果①について
 原告主張を争わない。
2同②について
 引用例発明2は、紙幣を使用する場合の賞ボール貸機が薄型であることを示すも
のではなく、また、審決が認定した上記②の効果は、紙幣投入機の形状により生じ
るのではなく、紙幣の受入れから合流搬送による特定箇所への搬送まで、一貫して
紙幣の姿勢を縦姿勢に保つという遊技設備における本件発明の全体構成をなすこと
により奏するものであるから、原告の主張は的外れである。
3同③の点について
同③の効果も、引用例発明2が単独で奏するものではなく、遊技設備における本
件発明の全体構成をなすことにより奏するものであるから、原告の主張は誤りであ
る。
4同④の点について
引用例6に、遊技設備における紙幣搬送との組合せを示唆する事項がない以上、
原告の主張は誤った前提に基づくものであり、また、引用例3に、紙幣搬送におけ
る紙詰まりという事項が開示されていると解することはできないから、引用例発明
3が当該効果を奏するものと見ることもできない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の判断誤り)について
 審決の理由中、本件発明の要旨の認定、請求人(本訴原告)の主張の認定、引用
例1~8の記載事項の認定(審決書6頁9~10行「自動玉貸機内に設置した」を
除く。)、
本件発明と引用例発明1~8との対比の一部(同8頁15行~10頁8行、10頁
15~19行、11頁7~10行、11頁18行~12頁8行、12頁16~18
行、13頁6~9行)は、当事者間に争いがない。
1 引用例発明2について
 引用例発明2が、賞ボール貸機として硬貨を使用し、これを受け入れて搬送する
ことを開示するものであること、同発明に、複数のパチンコ機を横方向に並設して
構成されるパチンコ機列に、紙幣をパチンコ機列の前面側の紙幣投入口から受け入
れて識別する複数の賞ボール貸機がパチンコ機列に沿う方向に設けられている事
項、賞ボール貸機が紙幣をパチンコ機列背面側に送り出す事項、送り出された紙幣
が水平な載置面を有するベルトコンベア上に落下されて載置され搬送される事項が
開示されていることは、いずれも当事者間に争いがない。
 また、引用例2(甲第4号証)には、「第1図及び第2図において、1は1台の
パチンコ機を示し、複数台が一列に連設されていわゆるパチンコ機列を形成し、こ
のパチンコ機列が多数遊技場内に配設されている。」(同号証2頁右上欄3~6
行)、「賞ボール貸機22は硬貨選別機47を有し、硬貨投入口48に投入された
硬貨が正規の硬貨のとき取込樋49を通じて硬貨搬送装置50に取込む。これに対
して正規な硬貨ではないときは硬貨返却口51に返却する。取込樋49には通過検
出器構成の硬貨検出器52が設けられ、その検出出力によって制御装置20を介し
て賞ボール排出装置37のパルスモータ38に投入硬貨の金額に相当する個数(例
えば1個)のパルスを与えることにより、供給皿14に1個の賞ボールを供給す
る。硬貨搬送装置50はパチンコ機列の背面にその配列に沿って延長し、モータ5
5によって駆動されるベルトコンベア56を有し、各パチンコ機1ごとに設けられ
た賞ボール貸機22に投入された正規の硬貨をキャッシュボックス57に集めるよ
うになされている。」(同3頁左下欄3~19行)、「賞ボール貸機22として硬
貨を使用する場合について述べたが、これに代え又はこれと共に紙幣を使用し得る
ようにしても良い。」(同5頁右上欄17~20行)と記載されている。
 これらの記載及び前示争いのない事実によれば、引用例発明2には、複数のパチ
ンコ機を横方向に並設して構成されるパチンコ機列において、パチンコ機列の前面
側の硬貨投入口から硬貨を上下方向に沿う姿勢で受け入れて識別する複数の賞ボー
ル貸機が、パチンコ機列に沿う方向に設けられており、この賞ボール貸機が識別し
た貨幣をパチンコ機列背面側に送り出し、送り出された貨幣を当該パチンコ機列に
沿って特定位置であるキャッシュボックスまで合流搬送するための、水平な載置面
を有するベルトコンベアによる搬送装置が開示されているとともに、この硬貨に代
えて紙幣を使用できることも開示されており、その場合には、複数の賞ボール貸機
が、紙幣投入口から紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れて、これをパ
チンコ機列背面側に送り出すものと認められる。
 被告は、遊技台列背面側への送出しにおける紙幣の姿勢を、紙面が上下方向に
沿うものとすることに関して、引用例2の第1図に、硬貨投入口48が「縦長」に
図示されていることをもって、縦長の紙幣投入口が開示されていると認定すること
は、図面解釈における技術常識に反しており、同第1図に見られる硬貨投入口48
が縦長であっても、同第2図が開示する、紙幣の受入れ後の賞ボール貸機内部に設
けられた「取込樋49」は、硬貨を転動させ落下させるに適した手段であるから、
紙幣の取込みを想定することが困難なものであり、また、その取込桶の終端が急激
に折曲されている形状から、仮に紙幣が縦姿勢を保ったまま遊技台列背面側に送り
出されるとしても、その内部で紙幣詰まりが発生することは明らかであり、該取込
桶は硬貨に固有の要素であって、引用例2が紙幣を使用する場合も図示していると
解することは不可能であると主張する。
 確かに、引用例発明2の実施例に示された硬貨投入口から硬貨搬送装置に至る取
込樋の形状、硬貨選別機から硬貨返却口に至る樋の形状から見て、当該樋は硬貨の
転動と落下を利用して搬送するものであって、そのままの形状では紙幣に適用する
ことが困難なものと認められる。
しかし、引用例発明2には、前示のとおり、硬貨に代えて紙幣を使用できることが
明示されており、硬貨も紙幣もともに扁平な形態であって、受け入れた際に識別を
必要とする通貨である点で共通するものであるから、紙幣を使用する場合に縦長の
硬貨投入口の大きさを紙幣に適合させ、紙面が上下方向に沿う姿勢によりこれを受
け入れて、これを送り出すように変更することは、当業者にとって設計的事項にす
ぎないと認められる。しかも、本件発明と同様の遊戯設備に関する引用例発明3
が、「パチンコ島1において、パチンコ台の相互間に自動玉貸機が配置され、自動
玉貸機は、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で前面側から受け入れて検定」
(審決書6頁6~9行)するものであることは、当事者間に争いがなく、このよう
な公知技術をも勘案すれば、紙幣がその紙面を上下方向に沿う姿勢で受け入れられ
て識別されることは、当業者にとって自明なことといわなければならない。
 そして、引用例発明2の搬送装置は、パチンコ機列前面側から受け入れられた硬
貨又は紙幣を、パチンコ機の背面側において特定位置まで自動搬送することを目的
とするものであるから、硬貨の場合と同様に、紙幣をパチンコ機背面側に送り出し
て搬送することも当業者に自明なものと理解され、その場合に、ベルトコンベアを
含む搬送装置までの取込樋等の形状を適宜変更することも、当業者にとって容易な
設計的事項であると認められる。 したがって、被告の上記主張を採用する余地は
ない。
2 本件発明と引用例発明2との対比
 本件発明と引用例発明2とを対比すると、引用例発明2の「パチンコ機」、「賞
ボール貸機」及び「ベルトコンベアを含む搬送装置」は、本件発明の「遊技台」、
「紙幣投入機」及び「搬送装置」にそれぞれ相当する(審決書8頁15行~9頁4
行)から、両者は、「複数の遊技台を横方向に並設してある遊技台列に、紙幣をそ
の紙面が上下方向に沿う姿勢で当該遊技台列前面側から受け入れて識別し、かつ、
識別した紙幣を当該遊技台列背面側に送り出し可能な複数の紙幣投入機が当該遊技
台列に沿う方向で設けられているとともに、前記遊技台列に設けた前記紙幣投入機
の各々から送り出される紙幣を前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する搬
送装置が設けられている遊技設備」の点で一致し、下記の点で相違する。
① 相違点1
 本件発明は、紙幣投入機から送り出される紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢
で送り出し、その紙面が上下方向に沿う姿勢で挟持して合流搬送する挟持搬送装置
と、この挟持搬送装置に、前記送り出される紙幣を屈曲させて、その紙面が上下方
向に沿う姿勢で当該挟持搬送装置の搬送路に案内する案内手段とが設けられている
のに対し、引用例発明2では、紙幣投入機から送り出される紙幣を遊技台列に沿っ
て合流搬送する搬送装置は設けられているものの、(a)当該搬送装置が挟持搬送
装置ではないこと、(b)紙幣投入機からベルトコンベアを含む搬送装置の搬送路
に案内する案内手段に関して、具体的な構成の開示がないこと、(c)紙幣投入機
から送り出され、案内され、特定位置まで合流搬送される紙幣の紙面が、上下方向
に沿う姿勢であることの開示がないこと。
② 相違点2
 本件発明は、紙幣の搬送状態を検出する検出手段と、前記検出手段による検出結
果に基づいて紙幣の詰まり発生の有無を判別する判別手段と、前記判別手段による
判別結果に基づいて詰まり発生を表示する表示手段とを備えているのに対し、引用
例発明2は、これらの手段を備えていないこと。
3 相違点1について
(a)搬送手段が挟持搬送装置でないことについて
 引用例発明4に、「①紙幣払出し機等に使用される搬送装置において、ケース2
に装入され弾圧板5で弾圧さ れた紙幣は、吸着頭6により紙幣の方向を変えた上
で(第1図を参照)、送出しローラーA1,A2間に送給され、さらにガイドG,
G間に送入されて搬送体B3により、搬送体B2とB3の接触部に送り込まれ、ベ
ルト形式の搬送体B1,B2の間に弾性的に挟まれて合流し、上方に搬送され払出
台8上に送出されること。②搬送体B1,B2への合流部へ、紙幣は屈曲されて案
内されること。」(審決書6頁12行~7頁2行)が開示されており、したがっ
て、同発明が、「紙幣を案内手段に相当するものにより屈曲させて搬送装置に合流
させ搬送装置により挟持して搬送する点では、本件発明と一致している。」(同1
2頁2~5行)ことは、当事者間に争いがない。
 また、引用例4(甲第6号証)には、「本考案は紙幣の搬送装置に関する。すな
わち、送出しローラーから1枚ずつくり出される紙幣を次の搬送体に受渡す構造の
搬送装置を改良したものであって、例えば紙幣払出機等の紙幣の搬送部等に用いて
効果がある搬送装置を提供しようとするものである。」(同号証1頁2欄2~7
行)と記載されており、この記載及び前示争いのない事実によれば、引用例発明4
は、紙幣の搬送装置に関するものであって、本件発明と同様の、紙幣を案内手段に
相当するものにより屈曲させて搬送装置に合流させ、搬送装置により挟持して搬送
する手段を開示しており、この挟持搬送装置は、引用例4の実施例に示された紙幣
払出機に限定されず、紙幣を案内する必要のあるその他の装置一般に広く適用でき
るものであると認められる。
 また、引用例発明5に、「銀行業務の現金一括処理システムにおいて、払い出さ
れた紙幣は、出金ベルト31と個別ベルト32,33,34に挟まれて上下方向に
沿う姿勢で所望の窓口に送られること。」(審決書7頁4~7行)が開示されてお
り、したがって、同発明が、「紙幣を支払い場所に送るために搬送装置で上下方向
に沿う姿勢で挟持することを開示している」(同12頁16~18行)ことは、当
事者間に争いがなく、引用例発明5にも、本件発明と同様の、紙幣を搬送するため
の挟持搬送装置が開示されているものと認められる。
 そうすると、本件発明における上記相違点1の(a)に係る構成、すなわち、紙
幣の搬送装置として挟持搬送装置を用いることは、引用例発明4及び5に開示され
た周知の技術手段を適用したにすぎないものであることが明らかである。
 被告は、引用例発明4に、パチンコホール等の遊技設備における紙幣の搬送に関
する課題の解決手段の示唆がない以上、銀行の業務用として窓口近くに設置される
引用例発明4の縦置式紙幣払出機の搬送装置を、パチンコホール等の遊技設備特有
の課題に適用することは、技術的分野が異なるだけでなく、起因となる動機づけが
ないから、両者の組合せに困難性がないとはいえないと主張する。
 しかし、引用例発明4は、前示のとおり、紙幣の搬送装置一般に関するものであ
って、銀行等における紙幣払出機に限定されるものでないから、被告の主張は、そ
の前提において誤りがあり失当といわざるを得ない。しかも、パチンコホール等の
遊技設備と銀行等の紙幣払出機は、ともに紙幣を含む現金を取り扱うことで共通
し、紙幣の搬送する間の機能・作用としては同様のことが要請されるから、この観
点から、引用例発明4に開示された紙幣搬送装置を引用例発明2に採用することに
困難性があるとは到底認められず、被告の主張を採用することはできない。
(b)紙幣投入機からベルトコンベアを含む搬送装置の搬送路に案内する案内手段
に関して、具体的な構成の開示がないことについて
 引用例発明4には、前示のとおり、本件発明と同様の紙幣の挟持搬送手段が具体
的に開示されており(審決書6頁12行~7頁2行)、しかも、引用例4(甲第6
号証)の第1図に紙幣を払出台まで搬送する装置が図示され、同第2図にその要部
と矢印によるローラーの回転方向が図示されていること等を勘案すると、引用例発
明4は、紙幣の搬送技術として、各ケースから送出しローラーA1,A2で紙幣の
両面を挟持して送り出し、送り出された紙幣を、次第にその間隔が狭くなるV字状
のガイドG,Gの前記ローラー側端部に案内し、搬送体B3により搬送体B2とB
3との接触部に送り込み、搬送体B2とB3との間に挟持して搬送し、更に紙幣を
屈曲して搬送体B1,B2との合流部へ案内し、その搬送体の間に挟持して特定位
置まで合流搬送する挟持搬送装置を具体的に開示しているものと認められる。
 そして、この引用例発明4に開示された搬送装置は、紙幣が落下しないよう搬送
体により紙幣の両面を挟持して搬送するものであるから、実施例として記載された
ように上方向に搬送する場合に代えて、水平方向に搬送する場合でも、これを困難
とするような技術的理由は認められず、本件発明のように、紙幣をその紙面が上下
方向に沿う姿勢で搬送する場合にも適用可能であると認められる。
 被告は、引用例発明4に、紙幣を上下方向下側から載置搬送する部分を予定した
中段の搬送体B3があり、上下のガイドG,Gは、この中段の搬送体と組み合って
設置されるものであって、これらは上下方向の位置指定に従い設置されることが予
定された技術的要素であるから、同発明は、紙幣払出機等における上方向への紙幣
の合流搬送を可能とする技術的手段を一貫して開示するものであり、原告が、「ガ
イド」という用語のみに着目し、「上下」との位置関係に関する制約を排除した
「ガイドG,G」との「紙幣の受渡し構造」が開示されていると解して、他の技術
的分野での紙幣搬送に転用可能であると主張することは、縦置式紙幣払出機を横方
向に倒せばよいという乱暴な議論であると主張する。
 しかし、前示のとおり、引用例発明4は、本件発明及び引用例発明2と技術的分
野を異にするものではなく、また、引用例発明4に開示された挟持搬送装置は、紙
幣が落下しないよう搬送体により紙幣の両面を挟持して搬送するものであるから、
上方向へ搬送する場合に限定されず、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で水平
方向に搬送する場合にも適用可能であることが明らかである。
 しかも、次第にその間隔が狭くなるV字状のガイドG,Gは、その形状からみ
て、上下方向あるいは水平方向のいずれにおいても、それ自体が挟持搬送装置まで
の紙幣搬送機能を有することが明らかであり、また、中段の搬送体B3は、この紙
幣搬送機能をより確実にするものであって、本件発明の実施例における受継搬送ベ
ルト8,8’に相当するものと認められるから、引用例発明4の前記ガイド及び搬
送体が、本件発明の前示発明の要旨に開示された案内手段に相当するものであるこ
とが明らかであり、これらを技術的要素として採択できることは当然である。した
がって、被告の主張を採用する余地はない。
(c)紙幣投入機から送り出され、案内され、特定位置まで合流搬送される紙幣の
紙面が、上下方向に沿う姿勢であることの開示がないことについて
 引用例発明2が、前示のとおり、遊技台列前面側の縦長の投入口において、紙幣
をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れ、これを遊技台列背面側に送り出すこ
とを実質的に開示するものであり、また、引用例発明4の紙幣の挟持搬送装置が、
前示のとおり、紙幣の上方向への搬送に限定されず水平方向にも適用できるもので
ある以上、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れた後、水平方向に転回
させることなく、更にそのままの姿勢で挟持搬送することは、極めて自然な技術事
項であると認められる。しかも、前示のとおり、引用例発明5には、紙幣を搬送す
るための搬送装置において、上下方向に沿う姿勢で紙幣を挟持搬送することが開示
されているのであり、このような公知技術をも勘案すれば、引用例発明2におい
て、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れて識別した後、紙幣投入口か
ら当該搬送装置に至る搬送手段及び当該搬送装置の搬送路に案内する案内手段とし
て、引用例発明4に開示された、紙幣の両面を挟持して送り出し、送り出される紙
幣をガイドと搬送体で受け取って搬送体の間に挟持し、特定位置まで合流搬送する
挟持搬送装置を適用し、その間、上下方向に沿う姿勢で紙幣を挟持搬送すること
は、当業者にとって容易に想到できる事項であるといわなければならない。
4 相違点2について
 引用例発明6が、紙幣の搬送詰まり検出手段、詰まり判別手段、詰まり表示手段
を開示し、これらの手段が、銀行業務用の縦置式紙幣払出機又は両替機の内部に組
み込まれて使用されることに関して、当事者間に争いはない。
 被告は、引用例発明6と、引用例発明2の賞ボール貸機との組合せを示唆する技
術的思想の開示は皆無であり、組合せの動機づけがないと主張する。
 しかし、引用例発明6の銀行業務用等の紙幣払出機と、引用例発明2の賞ボール
貸機において紙幣を使用する場合とは、紙幣を搬送するという技術事項において共
通するものであり、搬送する際の紙幣の詰まりが問題となることも明らかであるか
ら、引用例発明6に明示された紙幣の搬送詰まり防止という観点から、引用例発明
6の当該手段を、引用例発明2の遊技設備の搬送手段に適用することは、当業者で
あれば格別の困難性なく推考できたものと認められ、被告の主張を採用する余地は
ない。
2 以上のとおりであるから、審決が「甲第1~3号証刊行物に記載された事項と
甲第4,5号証刊行物に記載された紙幣の搬送に関する事項とを組み合わせたとし
ても、・・・本件発明の課題を解決する上での構成事項である『紙幣を紙面が上下
方向に沿う姿勢で遊技台列の前面側から受け入れて、その姿勢で遊技台列の背面側
に送出し、さらに案内手段により屈曲させて挟持搬送装置に合流させ搬送するとと
もに、その間紙面を上下方向に沿う姿勢とする』ことについては予測されるもので
ない。」(審決書13頁15行~14頁4行)と判断したことは誤りであって、こ
の誤りが、審決の結論に影響を及ぼすこと明らかである。
 したがって、審決は、その余の原告主張について検討するまでもなく、取り消し
を免れない。
 よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用
の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり
判決する。
   東京高等裁判所第13民事部
     裁判長裁判官  田中康久
        裁判官  石原直樹
        裁判官  清水 節

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