弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの連帯負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら、
 「原判決中、差止および廃棄請求に関する部分を除くその余の部分を取り消す。
被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ、金四、三〇六万二、九〇〇円およびこれ
に対する昭和三八年一〇月二一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金
員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
との判決
二 被控訴人、
 主文第一項同旨および「控訴費用は控訴人の負担とする。」
との判決
第二 当事者の主張
 当事者双方の事実および法律上の陳述は、つぎに掲げるもののほか、原判決の事
実欄中「第二原告らの主張」および「第三被告の主張」(ただし、いずれもその二
項および八項を除く。)に記載されたところと同一(ただし、「第二原告らの主
張」九項(三)に「金四千三百六万二千八百円」とあるのを「金四千三百六万二千
九百円」と訂正する。)であるから、これを引用する。
一 控訴人らの主張
(一) 原判決は、本件特許発明の要旨を、特許明細書記載の一実施例に基づいて
特殊な意義に解釈し、これと被控訴人製品との対比を行なつたうえ、被控訴人製品
が本件特許発明の技術的範囲に属しないとの結論を導いている。
 そこで、本件特許発明の技術内容を再説すれば、本件特許発明の目的とするとこ
ろは、
 「常時絞りを全開せしめて像を明瞭ならしめシヤツターの作働に際しまたは焦点
深度観察をなさんとする等の必要時のみ自動的に予め定めたる絞り度に絞らんとす
るにある。」
そして、この発明の目的を達するための必要欠くべからざる技術的構造として、本
件特許発明はつぎの各要素を採用する。
(イ) 絞り度調整環に止子を設けること
(ロ) 絞り羽根開閉板(以下開閉板という。)を該止子に衝合するようにするこ

(ハ) 開閉板にシヤツターの起動杆に関連せる作動環を係合し、常時絞りを全開
状態に保たせること
(ニ) シヤツターの作動に際し、シヤツターが開き始めない期間中に作動環を押
進し、開閉板が止子に衝合するまでこれを共に回動させること
 右の構造を前記発明の目的と関連させて説明すれば、つぎのとおりである。すな
わち、シヤツターの起動杆が作動しないうちは開閉板が全開状態の位置を保持する
ように、シヤツターの起動杆と関連して作動すべくした作動環を右開閉板と係合さ
せ、開閉板を常時は全開の状態に保たせる。
 そして、必要時シヤツター釦を押すと、シヤツターの起動杆に関連する作動環が
作動してこれと係合している開閉板を共に回動させて絞り込むのであるが、プリセ
ツトされた絞り度調整環に止子が設けられており前記開閉板はこの止子に衝合する
ようになつているので、開閉板は予定絞り度の個所において止子に行き当り、それ
以上は絞り運動を停止し、予定絞りを完了するのである。
 そして、前記作動環はシヤツターが開き始めない期間中に押進され、しかも、こ
れと係合している開閉板を回動し絞り込みを完了した後シヤツター幕が開き始める
ようになつているので、絞り込みを完了しないうちにシヤツターが開かれることは
ない。
 なお、かようなシヤツターの作動とは関連なく随時焦点深度を観察しようとする
ときには、開閉板は作動環に結合あるいは固定されておらず「係合」されているに
止まるので、開閉板のみを作動環と切り離して、手をもつて直接に、または特設の
釦、槓杆等で回動させて予定絞りを得ることができるわけである。
 このように、本件特許発明は前記各構成要素全体を必要かつ十分なものとして発
明の目的を達しているものである。
 なお、被控訴人は、本件特許発明について先行技術を挙げて主張するところがあ
るが、本件特許は、前記各構成要素全体を一体不可分なものとして発明の目的・効
果を達成するものであるから、たとえ右構成要素の一部が公知であつたとしても、
その部分を必要不可欠の要素ではないとして発明の構成から取り除くことはできな
い。
 さもないと、発明を構成する各要素間の有機的関連が失なわれてしまうからであ
る。
 本件発明の構成要素を不可分的全体において理解するならば、本件特許発明の目
的を達成するうえにおいて、その請求範囲は必要かつ十分に記載されており、これ
に特殊な意味を付与して解釈する必要をまつたく生じない。
(二) 本件におけるもつとも重要な争点は、開閉板と作動環との係合が原判決お
よび被控訴人がいうように「開閉板が止子に衝合するまでは両者が一体的に回動
し、その後は作動環だけが回動しうるような特殊の結合関係」のみを意味するもの
であるかどうか、そしてまた、この点に関連して、被控訴人がいうように右係合が
摩擦的係合に限られるかどうか、という点にある。
 本件特許請求の範囲では、右係合につき何ら限定を附していないから、これを原
判決および被控訴人がいうように特殊な意味に理解すべきものとするには、何らか
の積極的な理由が示されなければならない。しかるに、原判決においては、何ら理
由とみるべきものは示されていない。
 開閉板と作動環とを固定ではなく係合に止めているのは、開閉板が止子に衝合す
るまでは両者一体に回動するが、その後は開閉板を残して作動環のみがその行程端
まで回動するように構成するためであるというが、何故本件発明において係合をそ
のような技術目的のために採用されたものと考えるべきかという肝腎な点について
は何も述べていない。
 本件特許明細書に本発明の一例として記載されている機構のものにおいて、開閉
板が止子に衝合したのち、さらに作動環のみがその行程端まで回動するようになつ
ているのは、作動環自体は、少くとも最小絞りの位置まで開閉板を回動させる行程
を保有していなければならないからにすぎない。したがつて、明細書記載の実施例
においても、最小絞り度の場合を想定すれば作動環は、開閉板とともに回動し、し
かも、それとともにその位置に止まり、余分に回動することはないのである。
 本件特許において、作動環と開閉板を固着することなく、係合するに止めたの
は、焦点深度を観察する等の必要時に、開閉板のみを独立して操作できるようにし
たためであつて、被控訴人製品における係合もまつたく同一の技術的意味を有して
いるのである。
 以上のような本件特許の要件からみて、作動環と開閉板との結合の具体的機構と
しては、何も右のような機構のみに限定されなければならない理由はなく、中途絞
りの場合においても、開閉板が止子に衝合したときは作動環もともに回動を停止す
るような機構を採用することも差し支えないわけであつて、被控訴人製品はまさに
この種のものにほかならない。要するに、作動環と開閉板を係合させるのは、原判
決のいう技術的理由によるものではない。本件特許によつて提案された右の両者の
関係は、開閉板が止子に衝合するまでこれとともに作動環が回動するという機構に
ほかならない。
 さればこそ、発明者は開閉板が止子に衝合したのち、作動環がさらに回動するか
どうかについては、これを発明の要件として取り上げることなく、意識的に特許請
求の範囲から除外したのである。さらに原判決は、両者が固定されていれば、ある
ときは、両者が一体的に回動し、あるときはその一方のみが回動するということが
不可能になるという。その限りではまさにそうである。しかし、それだからといつ
て、一方のみが回動することを可能にする「係合」は、「開閉板が止子に衝合する
までは作動環と一緒に回動し、衝合した後は開閉板を残して作動環だけが回動する
ような係合」に限られることにはならないのである。あるときは両者一体に運動
し、かつ、一体となつて停止するが、またあるときは作動環は全然動くことなく開
閉板のみが動くようにした係合もありうる。
 本件特許明細書の記載中、焦点深度観察のため開閉板のみを動かす場合が、まさ
にこの係合状態である。
 結局、原判決は、本件特許明細書に記載された一実施例のイメージが終始頭から
離れず、普遍的な推考を施すことに失敗し、予め設定した結論を急ぐのあまり、飛
躍した論断を理由といれ違えているのである。
 被控訴人が、本件特許発明における「係合」が特殊な係合であるとする理由とし
て主張するところを要約すると、
(イ) 本件特許明細書の実施例によれば開閉板と作動環とは摩擦板を介した摩擦
係合であつて、作動環は開閉板よりも大なる行程―つまり開閉板を最小絞りまで持
つて行きうる行程―を常に回動するようになつている。
(ロ) 開閉板と作動環とは右(イ)のような係合でなければ発明の目的を達成す
ることができず実施不能である。
(ハ) 作動環がその行程端まで行きつくことによつて始めてシヤツター開放部材
を押すことになつているので、作動環のみは常に最終行程端まで行きつく必要があ
る。
(ニ) 右以外の「係合」の実施例は示されていない。
という四つの理由に尽きる。
 しかし、右(イ)についていえば、実施例はあくまでも発明の一実施態様にすぎ
ないのであつて、そこに示された具体的な設計それ自体が発明の必須的要素となつ
ているわけではない。したがつて、本件特許明細書に説明されている実施例におい
て、開閉板と作動環とが摩擦板を介した摩擦係合であつて、作動環は常に開閉板を
残して最終行程端まで回動を続けるような設計が示されていたとしても、本件特許
発明における両者の「係合」が、右のような特殊な係合に限定されなければならな
いという理由は、それだけでは何ら生じないものといわなければならない。
 また、(ロ)についていえば、両者の係合は(イ)のような特殊係合でなければ
発明の目的を達しえられないというけれども、要するに、開閉板と作動環とが固定
的な関係ではなく必要時別々に運動しうるような関係的結合の状態にありさえすれ
ば、冒頭において述べたように、本件発明の目的は十分に達成しうるのであるか
ら、右(ロ)のような実施不能論もまつたく当つていない。数ある係合の仕方のう
ちで、何故にそのいうような特殊係合でなければ実施不可能であるのかということ
については何ら積極的理由を述べることをしない。ただ、本件実施例によれば開閉
板と作動環とは環状摩擦板を介した摩擦的係合であり、そのような構造にあるか
ら、開閉板が止子に衝合した後も作動環だけは開閉板を最小絞りの位置まで持つて
いくだけの行程を保有し、毎回その行程端まで回動するようなものでなければ実施
不能である、というように、いつまでも実施例の枠の中で堂々めぐりの議論をして
いるだけである。
 もし、本件特許明細書において、環状摩擦的係合でない別の実施例が採用されて
いたらどうなのか。
それでもなお両者は原判決がいうような「特殊な係合」でなければ実施ができない
というのであろうか。被控訴人は摩擦係合を離れた場合の係合については敢えて論
じようとしない。それは、摩擦係合以外の係合においては、もはやいわゆる特殊な
係合に限定されるということはいえなくなるからであろう。被控訴人は、実施のた
めのバネや環状摩擦板がなければ発明の目的が達せられず実施不可能であるという
が、例えば、環状摩擦板は本件特許発明における必須要件ではなく、これがなくと
も発明の目的は達せられるので、控訴人は、これを特許請求の範囲から意識的に除
外しているのである。
 つぎに、右(ハ)の理由は、その前提において本件発明に示されてない機構を空
想した根拠のない推定である。本件特許明細書においては、シヤツター開放部材が
作動する時期(それは絞りを完了した後である)についての記載はあるが、開放部
材がどのようにして作動せしめられるかという構造についてはまつたく触れるとこ
ろがないから、作動環が最終行程端迄行きつくことによつてシヤツターの開放部材
を押すようになつているとの認識は、まつたくの想像にすぎない。
 最後に、(ニ)の理由についていえば、右以外の「係合」の実施例は示されてい
ないということは、実施例に示されていないものは発明の内容に含まれないという
意味なのか、そうであるとすれば、敢えてとりあげて反駁する必要もないが、他の
例は考えられないというのであれば、それはまつたく認識不足である。
 「係合」という語は、特許実務上古くから慣用された語であつて、二つの物体の
結合関係を示す場合に、消極的には「固定」と区別され、積極的には二つの物体が
必要時一体的に、他の時には別々に運動または作用をするような場合に用いられて
いる。したがつてその具体的設計においては、例えば嵌合、嵌合圧接、咬合、衝
合、摩擦、連結、接合、挟持等さまざまな態様があるのである。本件における開閉
板と作動環との係合も、右のようにあらゆる実施態様における係合を予定している
のであつて、本件発明の実施上これを原判決あるいは被控訴人がいうような特殊な
係合、あるいは、摩擦的係合に限定すべき理由はまつたく見出すことができないの
である。
 これを要するに、原判決は、何故本件発明において作動環と開閉板とは固定され
ることなく係合に止められているのかという技術目的から係合の意味内容を見定め
んとしたもので、その限りにおいて着眼の仕方は正しかつたのであるが、結局本件
発明の目的からみた係合の技術的意味内容の認識を誤つたがため、それは絞り羽根
開閉板を止子との衝合位置に残して作動環のみが行程端まで回動する必要からであ
るとの誤つた結論に到達したものである。そして、被控訴人は、この誤つた判決の
結論に便乗してこれを支持する理由づけを行ない、ひたすら実施例の記載のみを頼
りに狭い視野においてこの議論を正当化しようと試みた。
 しかしながら、冒頭において述べたように、本件特許発明の目的に関連して、何
故開閉板と作動環とが固定ではなく係合とされているかを考えるならば、それはシ
ヤツターの作動とは関連なく随時焦点深度を観察せんとするとき開閉板のみを作動
環と離して動かす必要からであることを明白に知るのである(本件特許明細書一頁
右欄下から九行目以下)。
 開閉板のみを随時作動環と離して動かしうるような両者の係合でありさえすれば
よいのであつて、その他に作動環のみが行程端まで行きつくような設計であろう
と、作動環も開閉板と共に進行を停止するような設計であろうと、はたまた両者が
摩擦的な係合であろうと、その他の機械的な係合であろうと(係合の仕方にはいろ
いろな態様があることは前述した)、右発明の目的を達するためには何ら選ぶとこ
ろがないのである。
 かように、「係合」の技術的意味を本件発明の目的に照して正しく認識するとき
は、原判決の示したところの結論は根底から崩れ去るのであり、これを実施例の記
載を頼りにひたすら正当化しようとしてきた被控訴人の議論もまつたく空しいもの
とならざるをえないのである。
(三)最後に、被控訴人製品はレバーを用いた伝導機構であつて、極力摩擦による
抵抗を排除し、したがつて、小なる運動量で作動しうる点が本件特許発明よりすぐ
れている点を被控訴人は力説する。
 しかしながら、本件特許発明において、与えられた力がシヤツターの起動杆から
作動環、開閉板を経て絞り羽根の開閉運動に及ぼされるまでの一連の伝導手段につ
いては、さまざまな具体的設計を採用することが可能なのであつて、勿論好適な実
施例の一としてレバーによる伝導機構を採用することも可能である。被控訴人製品
においては、その名称こそ異なれ、構造、作用的には作動環と同一である弓状レバ
ーと、開閉板と同一である中介レバーとを係合させ(シヤツターと関連して作動さ
せるときは両者一体となつて動くが、随時焦点深度を観察せんとするときは手をも
つて中介レバーのみを動かすことができるような関係的結合)、絞り羽根の開閉運
動に伝導する機構であるから、本件発明の必要的要素と異なるところはなく、他の
構成要素もことごとく具備するものであるから、右製品は本件特許発明の技術的範
囲に当然含まれるものといわなければならない。
 摩擦による抵抗を極力排除したというが、本件特許発明の技術思想の中には、摩
擦抵抗というような要素はまつたく含まれていないのであるから(前述のように、
本件特許請求の範囲は、環状摩擦板の観念を除外している。)、これと比較して摩
擦抵抗が多い少いを論ずること自体およそ意味のないことである。レバー伝導機構
のもたらすすぐれた効果をいかに強調しようと、それはそれだけのことであつて、
本件特許発明を比較の対象とするわけにはいかないのである。
 以上の通り、被控訴人製品がレバー伝導機構を採用しているとの一事をもつて
は、それが本件特許発明の技術思想と異なることにはならない。
二 被控訴人の主張
(一)控訴人らは、開閉板と作動環との「係合」の関係について、最小絞り度の場
合を想定すれば、作動環は開閉板とともに回動し、かつそれとともにその位置に止
まる旨主張するが、絞り度は最大から最小までの間において撮影条件による任意点
の選択が可能でなければならず、このように絞り度に変化を与えうることがそもそ
もカメラの必要要件であり、この絞り度を任意に変更することができないときは、
一眼レフレツクスカメラにおける自動絞り装置自体がまつたく無意味になるのであ
るから、常に最小絞り点を想定せよという控訴人らの主張は自己矛盾である。
 また、中途絞りの場合においても、開閉板が止子に衝合したときは、行動環もと
もに回動を停止するような機構を採用することは少しも差し支えない旨の主張があ
るが、本件特許発明の出願当時、発明者がその点まで意識したかどうかは不明であ
り、このような点にまで発明は存在しない。しかも、本件特許明細書の記載による
と、「作動環12はバネ15に抗して回動」するようにしてあり、その行程端まで
回動したとき始めてシヤツターが開かれ、この時「このバネ15により作動環12
……は常態に復する」のであるから、このバネに抗して作動環12を回動させる力
は一定でなければならず、したがつて作動環は、つねに、「その行程端まで回動」
することが必要であつて、開閉板とともにその回動を停止することはその機構上許
されないのである。
 また、係合という言葉の意味は、その特許明細の全体を通じて、当該請求範囲に
使用された係合の意味に解釈すべきであつて、明細書を離れて所与的に決まつてい
るものではなく、決めるべきものでもない。本件特許明細書によると、係合とは、
原判決および被控訴人主張のとおりの意味に用いられており、別の意味の係合は予
想もしていない。しかも他の実施例の記載はまつたくない。したがつて、控訴人ら
の主張する嵌合その他の例示した関係は、「係合」には当らない。
 控訴人らは、被控訴人が原判決および被控訴人において主張している以外の係合
を論じようとしていないと主張するが、控訴人らにおいて右以外の係合関係または
実施例を具体的に主張および立証すべきであつて、「特許請求の範囲」のとおりで
あり、請求の範囲には、そのような特殊な係合に限定されるという記載がないとい
うだけでは論争にもならない。なお、係合の言葉的意味ではなく、被控訴人が主張
する係合以外の係合によつて、本件発明の目的を達する機構または実施例を主張す
べきである。
(二)のみならず、本件特許請求の範囲の記載によれば、「作動環」、あるいは、
これを「回動せしめて」という文言があるように、本件特許発明の必須要件である
開閉板に係合されるべき不可欠の部材である作動環は、円形のものであること、こ
の円形の作動環を押進する作用によつて、これとともに止子に衝合するまで動く開
閉板の運動は、「回動せしめ」られる関係から見て、必ず円運動である。したがつ
て、作動環と開閉板とが円運動をするものであることを限定的要件としているので
あり、右の要件のもとでは、係合は、原判決および被控訴人が主張するように解釈
しなければならず、他の機構によつては実施不能である。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 当裁判所も、被控訴人の製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断す
るもので、その理由は、つぎのとおり附加するほかは、原判決の理由中、第二の二
ないし四の部分と同一であるから、その記載をここに引用する(但し、原判決二〇
枚目表一行目「甲第三号証」を「甲第二号証」と、同二四枚目表九行目「押動ピン
12」を「押動ピン7」とそれぞれ訂正する。)。
二 成立に争いのない乙第一号証の三(大正一三年九月一六日特許局図書館受入れ
の米国特許第七二〇、五八六号明細書)によれば、一眼レフレツクスカメラにおい
て、本件発明と同一の目的、すなわち、「常時絞りを全開せしめて像を明瞭ならし
め、撮影時シヤツターの作動にさいし、自動的に予め定めた絞り度に絞る」目的
(本件発明がこの目的をもつことは、成立に争いのない甲第二号証(本件発明の明
細書)の記載に徴し、明らかである。)をもつて、
 絞り度調整部材(腕24)に止子(階段26)を設け、絞り羽根開閉部材(リン
グ7)(の腕27)を該止子に衝合するようにし、開閉部材にシヤツターの起動杆
(レバー23)に関連する作動部材(コード9)を係合し、常時絞りを全開状態に
保たしめ、シヤツターの作動にさいし、シヤツターが開き始めざる期間中に作動部
材を駆動し、開閉部材(の腕)が止子に衝合するまでこれをともに回動せしめて予
め定めた絞り度に絞るようにした絞り作動装置
の技術思想が、本件特許出願以前から公知であつたことが明らかである。
 したがつて、本件発明が、右公知技術が存在するにかかわらず新規性ありとして
特許されたゆえんのものは、本件発明が右公知技術と同一の技術思想を有する点に
あるのでないことは、特許制度の建前上当然のことであつて、本件発明は、公知技
術と同一の目的を、公知技術にはみられない新規な構成により達成した点に、特許
性を認められたものと解するほかはない。
 そして、本件発明の構成をその「特許請求の範囲」の記載にもとづいて考察する
ならば、本件発明は、基本的には前記公知技術の採用する技術思想を用いながら、
その具体的構造において、各部材の形状および部材相互の関係に一定の限定を加え
たものであることが理解される。すなわち、本件発明は、前記公知の技術思想にお
ける絞り度調整部材として「絞り度調整環」を、絞り羽根開閉部材として「絞り羽
根開閉板」を、また、作動部材として「作動環」をそれぞれ採択し、作動部材の駆
動方法として、シヤツターの起動杆による「押進」の方法を採用した点に特徴を有
する。詳言すれば、本件特許発明は、絞り度調整環および作動環を、いずれもカメ
ラ鏡胴の周囲において鏡胴と同心的に回動する環状体とし、したがつて、この作動
環と係合して共に回動し絞り度調整環の止子に衝合する開閉板も同様に鏡胴と同心
的に回動する環状の板体とし、かつ、シヤツターの起動杆と作動環との「関連」の
具体的手段として、シヤツターの作動にさいし起動杆が作動環を「押進」するとい
う最も単純かつ合理的な機構に特定することによつて、右各部材からなる自動絞り
装置をカメラ鏡胴部にコンパクトに纒めたものであつて、前掲乙第一号証の三によ
つて認められるように、前記公知技術が、当時一般的であつた大型の蛇腹式または
ボツクス式カメラに適用される装置であつたのに対し、本件発明は、その出願当時
におけるカメラの小型軽量化の一般的傾向(このことは周知の事実である。)を前
提として、そのようなカメラにも適合しうるコンパクトな自動絞り装置として発明
され特許されたものと認めるのが相当である(このような、小型軽量のカメラに適
した絞り装置の構造としての本件発明の作用効果については、明細書に格別の記載
はないが、前記公知技術の公開当時と比較した場合の本件特許出願当時におけるカ
メラの小型軽量化という当業者の技術常識を前提として明細書を読むならば、本件
発明が右のような作用効果をもつものであることは、当業者にとり十分理解し感得
しうるところというべきである。)。
 したがつて、右のような特定の構造の部材を持たない絞り作動装置は、たとえ基
本的な技術思想において本件特許発明と共通するものがあつても(そのような基本
的な技術思想自体は、すでに公知技術に開示されたところであつて)、本件発明の
技術的範囲に属するものではない。
 ところで、被控訴人の製品において、本件特許発明の作動環に相当する部材は弓
状レバーであり、開閉板に相当する部材は中介レバーであり、また、起動杆に相当
する部材は進退レバーであると解されるが、弓状レバーおよび中介レバーが、いず
れも鏡胴の周囲に鏡胴と同心的に回動する環状体でないことは明らかであり、ま
た、シヤツターの作動にさいし進退レバーが弓状レバーを押進するものでないこと
も明らかであるから、被控訴人の製品は、すでにこの点において本件発明の必須の
要件たる構造を欠くのである。また、本件発明の起動杆がシヤツターの作動にさい
し作動環を「押進」するものであるから、「シヤツターの作動にさいしシヤツター
が開き始めざる期間中に作動環を押進し、開閉板が止子に衝合するまでこれをとも
に回動せしめて予め定めた絞り度に絞」つたのち、なお起動杆を所定の位置まで押
動してシヤツターを開放せしめるためには、起動杆により押進せしめられる作動環
も、起動杆がシヤツターを開放せしめるに足る行程端まで起動杆とともに移動する
ことが必要になるのであつて、この意味で、本件「特許請求の範囲」における「係
合」は、「押進」との関係において原判決の説示するとおりの限定的な意味に解釈
せざるをえないのである(起動杆が作動環を押進し、開閉板が止子に衝合して停止
したのちは、この押進関係が解除されるような構造も考えられないわけではない
が、そのような特殊な構造を採用することにより格別の利点が生ずるものとは思わ
れず、また、明細書中にそのような特殊の構造の採用を示唆する記載は何もないか
ら、かかる構造は本件発明の解釈上考慮する必要はない。)。そして、被控訴人の
製品が、右のような意味における「係合」の構造を有しないことは、原判決の説示
するとおりである。
三 よつて、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却
し、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文のとお
り判決する。
(裁判官 杉山克彦 土肥原光圀 楠 賢二)

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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