弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中70日を本刑に算入する。
理由
弁護人藤原輝夫の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反,量刑不当の主張であ
って,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
1原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
(1)被告人(当時64歳)は,本件当日,第1審判示「Aプラザ」の屋外喫煙
所の外階段下で喫煙し,屋内に戻ろうとしたところ,甲(当時76歳)が,その知
人である乙及び丙と一緒におり,甲は,「ちょっと待て。話がある。」と被告人に
呼び掛けた。被告人は,以前にも甲から因縁を付けられて暴行を加えられたことが
あり,今回も因縁を付けられて殴られるのではないかと考えたものの,同人の呼び
掛けに応じて,共に上記屋外喫煙所の外階段西側へ移動した。
(2)被告人は,同所において,甲からいきなり殴り掛かられ,これをかわした
ものの,腰付近を持たれて付近のフェンスまで押し込まれた。甲は,更に被告人を
自己の体とフェンスとの間に挟むようにして両手でフェンスをつかみ,被告人をフ
ェンスに押し付けながら,ひざや足で数回けったため,被告人も甲の体を抱えなが
ら足を絡めたり,けり返したりした。そのころ,二人がもみ合っている現場に乙及
び丙が近付くなどしたため,被告人は,1対3の関係にならないように,乙らに対
し「おれはやくざだ。」などと述べて威嚇した。そして,被告人をフェンスに押さ
え付けていた甲を離すようにしながら,その顔面を1回殴打した。
(3)すると,甲は,その場にあったアルミ製灰皿(直径19㎝,高さ60㎝の
円柱形をしたもの)を持ち上げ,被告人に向けて投げ付けた。被告人は,投げ付け
られた同灰皿を避けながら,同灰皿を投げ付けた反動で体勢を崩した甲の顔面を右
手で殴打すると,甲は,頭部から落ちるように転倒して,後頭部をタイルの敷き詰
められた地面に打ち付け,仰向けに倒れたまま意識を失ったように動かなくなった
(以下,ここまでの被告人の甲に対する暴行を「第1暴行」という。。)
(4)被告人は,憤激の余り,意識を失ったように動かなくなって仰向けに倒れ
ている甲に対し,その状況を十分に認識しながら,「おれを甘く見ているな。おれ
に勝てるつもりでいるのか。」などと言い,その腹部等を足げにしたり,足で踏み
付けたりし,さらに,腹部にひざをぶつける(右ひざを曲げて,ひざ頭を落とすと
いう態様であった。)などの暴行を加えた(以下,この段階の被告人の甲に対する
暴行を「第2暴行」という。)が,甲は,第2暴行により,肋骨骨折,脾臓挫滅,
腸間膜挫滅等の傷害を負った。
(5)甲は,Aプラザから付近の病院へ救急車で搬送されたものの,6時間余り
後に,頭部打撲による頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血によって死亡したが,この死
因となる傷害は第1暴行によって生じたものであった。
2第1審判決は,被告人は,自己の身体を防衛するため,防衛の意思をもっ
て,防衛の程度を超え,甲に対し第1暴行と第2暴行を加え,同人に頭蓋骨骨折,
腸間膜挫滅等の傷害を負わせ,搬送先の病院で同傷害に基づく外傷性クモ膜下出血
により同人を死亡させたものであり,過剰防衛による傷害致死罪が成立するとし,
被告人に対し懲役3年6月の刑を言い渡した。
これに対し,被告人が控訴を申し立てたところ,原判決は,被告人の第1暴行に
ついては正当防衛が成立するが,第2暴行については,甲の侵害は明らかに終了し
ている上,防衛の意思も認められず,正当防衛ないし過剰防衛が成立する余地はな
いから,被告人は第2暴行によって生じた傷害の限度で責任を負うべきであるとし
て,第1審判決を事実誤認及び法令適用の誤りにより破棄し,被告人は,被告人の
正当防衛行為により転倒して後頭部を地面に打ち付け,動かなくなった甲に対し,
その腹部等を足げにしたり,足で踏み付けたりし,さらに,腹部にひざをぶつける
などの暴行を加えて,肋骨骨折,脾臓挫滅,腸間膜挫滅等の傷害を負わせたもので
あり,傷害罪が成立するとし,被告人に対し懲役2年6月の刑を言い渡した。
3所論は,第1暴行と第2暴行は,分断せず一体のものとして評価すべきであ
って,前者について正当防衛が成立する以上,全体につき正当防衛を認めて無罪と
すべきであるなどと主張する。
しかしながら,前記1の事実関係の下では,第1暴行により転倒した甲が,被告
人に対し更なる侵害行為に出る可能性はなかったのであり,被告人は,そのことを
認識した上で,専ら攻撃の意思に基づいて第2暴行に及んでいるのであるから,第
2暴行が正当防衛の要件を満たさないことは明らかである。そして,両暴行は,時
間的,場所的には連続しているものの,甲による侵害の継続性及び被告人の防衛の
意思の有無という点で,明らかに性質を異にし,被告人が前記発言をした上で抵抗
不能の状態にある甲に対して相当に激しい態様の第2暴行に及んでいることにもか
んがみると,その間には断絶があるというべきであって,急迫不正の侵害に対して
反撃を継続するうちに,その反撃が量的に過剰になったものとは認められない。そ
うすると,両暴行を全体的に考察して,1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当で
なく,正当防衛に当たる第1暴行については,罪に問うことはできないが,第2暴
行については,正当防衛はもとより過剰防衛を論ずる余地もないのであって,これ
により甲に負わせた傷害につき,被告人は傷害罪の責任を負うというべきである。
以上と同旨の原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21
条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官泉徳治裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官
才口千晴裁判官涌井紀夫)

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