弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山田嘉穂、同平塚貫一の上告理由第一、二点について。
 論旨は、本件手形には「依頼返還」の符箋がついて、受入銀行から持出銀行に返
還されたのであるから、支払拒絶があつたわけでなく、又呈示は撤回したものとい
わなければならないと主張するが、本件手形については、満期日にD手形交換所に
おける呈示により支払を求めたが、これが支払を得られなかつたこと(手形法七七
条三八条二項四三条)は原判決の認定するところである、又所論の「依頼返還」は
振出人の懇請により持出銀行が、受入銀行に依頼して、呈示后返還を受けたもので
あるが、右措置は専ら持出人に対する取引停止処分免脱のための便宜に出でたもの
であることも原判決の認定するところである、そして右認定事実に基いて一旦生じ
た支払のための呈示並に支払拒絶の効力を滅却させるものでないとの趣旨に帰する
原判決の判断は、これを首肯することができる、論旨は採用できない。
 同第三点について。
 受働債権につき譲渡または転付がなされた後債務者が相殺をもつて譲受または転
付債権者に対抗しうるためには、譲渡の通知または転付命令の送達当時その自働債
権が弁済期にあることを要するはもちろん、受働債権もまたひとしく弁済期にある
かまたは少くとも債務者において期限の利益を放棄しうる場合でなければならない
ということは、大審院判例の繰り返し判示するところであることは所論のとおりで
ある。しかし債務者が債権者に対し債権の譲渡または転付前に弁済期の到来してい
る反対債権を有するような場合には、債務者は自己の債務につき弁済期の到来する
を待ちこれと反対債権とをその対当額において相殺すべきことを期待するのが通常
でありまた相殺をなしうべき利益を有するものであつて、かかる債務者の期待及び
利益を債務者の関係せざる事由によつて剥奪することは、公平の理念に反し妥当と
はいい難い。それ故に、債権の譲渡または転付当時債務者が債権者に対して反対債
権を有し、しかもその弁済期がすでに到来しているような場合には、少くとも債務
者は自己の債務につき譲渡または転付の存するにかかわらず、なおこれと右反対債
権との相殺をもつて譲受または転付債権者に対抗しうるものと解するを相当とする。
以上の見解に反する前示大審院の判例は採用しない。ところで原審確定の事実によ
れば、上告人は訴外E食品株式会社に対する債務名義に基き、同会社の被上告人に
対して有する、昭和二七年五月一日を満期とするホームラン定期預金債権につき債
権差押並に転付命令を受け、右命令は同年二月二二日被上告人に送達されたが、こ
れより先被上告人は右訴外会社に対し、昭和二六年二月二五日金六〇万円、また昭
和二七年一月二六日金三五万円の各手形上の償還請求権を取得しており、被上告人
は上告人の右転付金請求にかかる本訴第一審の昭和二七年一〇月二七日の口頭弁論
期日において、これと前示各償還請求権とを対当額において相殺する旨の意思表示
をしたというのであつて、被上告人の訴外会社に対する前示償還請求債権の弁済期
が本件債権転付命令の送達前であることは明白であるから、右両債権につきなされ
た被上告人の相殺の意思表示は、前段の説明に徴し少くともこれを有効と認めなけ
ればならない。しからばこれと同趣旨に出た原判決は正当であつて、論旨はこれを
採るをえない。
 同第四点について。
 論旨は、乙二号証ノ二によると、二号証の手形がF中央銀行G支店から、被上告
銀行H支店に返還された事実を認めることができないから、違法であると主張する
が、右乙二号証ノ二を、判示に対照すれば一見して明らかなように、原判決は「F
中央銀行G支店」の次に「及びI銀行J支店」と記載すべきものを書き落したに過
ぎないのであつて、これをとらえて、証拠の解釈に関する経験則違反ないし理由不
備の違法があるという所論は、採るを得ない。
 同第五点について。
 民法五〇六条一項に所謂相手方とは、相殺の意思表示を為す債務者が、自己の債
務を履行すべき相手方たる債権者(受働債権の債権者)を指すものと解すべきであ
る。又民法四六八条二項において、債務者が「譲渡人に対して生じたる事由を以て
譲受人に対抗することを得」とは、その事由が相殺の場合においては、譲受人に対
し相殺の意思表示を為すことを認めたものと解すべきであるから、此の点に関する
原判決の判断は正当である。従つて被上告人の相殺の意思表示は訴外E食品株式会
社に対し為すべきであるとの所論は、採用できない。
 同第六点について。
 所論は、原審が証人として取調べていない、Kの証言を証拠としているのは、虚
無の証拠によつて事実を認定した違法があると主張するが、右判示記載は明白な誤
記であつて、しかも判示において、延期の抗弁を排斥したのは、第一審判決の説示
をそのまゝ採用したのであるから、所論の誤記は判決の結果に影響のないものとい
うべく、論旨は理由がない。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決す
る。
 この判決は、論旨第三点に関し裁判官河村大助の補足意見があるほか全裁判官一
致の意見によるものである。
 論旨第三点に関する裁判官河村大助の補足意見。
 私の意見は多数意見と結論を同じくするものであるが、その理由は次のとおりで
ある。
 相殺は、二人互に同種の目的を有する債務を負担すること、並に両債務がいずれ
も弁済期にあることを要するは、民法五〇五条の規定するところであるが、他面債
務者の関与しない債権譲渡によつて、債務者が従来債権者に対して主張することが
できた利益を奪い、債務者の有する地位を不利益ならしめる結果を防がんとする民
法四六八条二項の法意に鑑みるときは、債権譲渡の結果二人互に債務を負担してい
た対立関係がなくなつた場合に於ても、もし債権譲渡がなかつたなら、債務者は相
殺適状を生じたときに、自己の債権を以て相殺をなし得ることが、通常期待される
場合においては、債権譲渡のため右期待利益を害することのないように、債務者の
地位を保護する必要があるものというべく、即ち、たとえ債権譲渡の通知当時は、
相殺適状になくても、他日相殺適状を生じたときに、債務者は債権譲受人に対し相
殺を以て対抗し得るものと解することが衡平の原則にも合致するものと考える。
 ところで、債権譲渡の通知当時は、まだ相殺適状になく、しかも、債務者の有す
る反対債権(自働債権)の弁済期が、その債務者の負担する債務(受働債権)の弁
済期より後に到来するものについては、債務者は、受働債権の弁済期到来により直
ちに弁済する義務を生じ、債権譲受人もまた、無条件にこれを請求し得べきもので
あるから、債務者は自働債権の弁済期到来をまつて、これと相殺する自由をもたな
いものである、即ち此の場合は債務者が自己の有する債権を以て相殺をなし得るこ
とが通常期待される場合に当らないから、債務者は相殺を以て債権譲受人に対抗す
ることはできないものと解すべきである。
 右の場合と異つて、債権譲渡の通知当時相殺の原因が存在し、しかも自働債権の
弁済期が受働債権の弁済期以前に到来するものについては、右自働債権の弁済期が
譲渡通知の前後いずれにあるを問わず、債務者はやがて、弁済期の到来すべき自己
の債務(受働債権)を自己の有する債権(自働債権)によつて、相殺することが通
常期待され、その利益を有するものであるから、右の場合においては、後日相殺適
状を生じたとき、債務者は債権譲受人に対し相殺をなし得るものと解すべきである。
しかして、転付命令による債権の移転には、民法四六八条二項の規定が準用され、
転付命令の送達は、同条の譲渡の通知と解すべきものであることは、多く説明を要
しないところである。
 よつて叙上の債権譲渡と相殺の対抗に関する法理は、本件の転付命令による債権
移転と相殺の対抗につき、そのまゝ適用されるものであるところ、本件においては、
転付命令の送達前既に相殺原因存在し、かつ自働債権の弁済期が受働債権の弁済期
よりも前にあつたのであるから被上告人の相殺の意思表示を有効と認めた原判決は
正当であつて所論の違法はない。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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