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平成30年3月5日判決言渡
平成29年(行ケ)第10089号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年1月29日
判決
原告ニプロ株式会社
同訴訟代理人弁護士岩坪哲
速見禎祥
被告株式会社ジェイ・エム・エス
同訴訟代理人弁護士白波瀬文夫
白波瀬文吾
同訴訟代理人弁理士池内寛幸
若月節子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2016-800107号事件について平成29年3月29日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴被告は,平成22年5月17日,発明の名称を「医療用軟質容器及びそれを
用いた栄養供給システム」とする特許出願(優先権主張:平成21年5月18日(日
本国),同年9月14日(日本国))をし(以下「本件出願」という。),平成2
5年12月2日,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の補正をし(以下「本
件補正」という。),平成26年12月12日,設定の登録(特許第566133
1号)を受けた(請求項の数13。以下,この特許を「本件特許」という。甲16,
17の1,35)。
⑵原告は,平成28年8月24日,本件特許のうち請求項1,3,5ないし7
及び11ないし13に係る部分について特許無効審判請求をし,無効2016-8
00107号事件として係属した(甲36)。
⑶特許庁は,平成29年3月29日,本件審判の請求は成り立たない旨の別紙
審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年
4月7日,原告に送達された。
(4)原告は,平成29年4月28日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2特許請求の範囲の記載
⑴本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載
本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(甲16)。な
お,「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。以下,本件出願の願書に最
初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(甲16)を「本件当初明細書等」
という。
【請求項1】少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることに
より形成され,開閉式の開口部と,液状物を収容するための収容部とを含み,少な
くとも一方の主面に液状物の量を示す目盛りが表示された,可撓性袋部材と,/前
記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,/前記可撓性袋部材の両主面の各々
に固定され,固定された前記軟質プラスチックシートとの間に,前記可撓性袋部材
の右側または左側から指を挿入するための貫通路を形成する1対の開閉操作部と,
を含むことを特徴とする医療用軟質容器。
(2)本件特許の特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲請求項1,3,5ないし7及び11ないし13の記載
は,次のとおりである(甲35)。以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」な
どといい,併せて「本件各発明」という。また,その明細書及び図面(甲35)を
「本件明細書」という。
【請求項1】少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることに
より形成され,開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するため
の収容部とを含み,少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示さ
れた可撓性袋部材と,/前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,/前記可
撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿
入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定された
シート状の1対の開閉操作部を含み,/前記開閉操作部に挿入した片手の指を各々
遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持できることを特徴とす
る医療用軟質容器。
【請求項3】前記開口部には,前記開口部を横切って開閉自在とするジップが備
えられている請求項1または2に記載の医療用軟質容器。
【請求項5】前記可撓性袋部材は,前記開口部よりも上方に配置され,吊り下げ
用穴が形成された吊り下げ部をさらに含む請求項1~4のいずれかの項に記載の医
療用軟質容器。
【請求項6】前記開閉操作部は,各々,前記開口部に固定されている請求項1~
5のいずれかの項に記載の医療用軟質容器。
【請求項7】一方の開閉操作部の上縁部が,前記吊り下げ部に固定されている請
求項5に記載の医療用軟質容器。
【請求項11】前記1対の開閉操作部の少なくとも一方の左右方向の幅が,下方
に向かって漸次狭くなっている請求項1~10の何れかの項に記載の医療用軟質容
器。
【請求項12】前記可撓性袋部材のうちの,前記1対の開閉操作部と上下方向同
位置の部分について,/各開閉操作部から,前記可撓性袋部材の一方の側縁までの
長さの方が,前記可撓性袋部材の他方の側縁までの長さよりも短い請求項1~11
の何れかの項に記載の医療用軟質容器。
【請求項13】請求項1~12のいずれかの項に記載の医療用軟質容器を含む栄
養供給システム。
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,①本件
補正は,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから,
本件発明1に係る本件特許は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たす本
件補正をした本件出願に対してされたものである,②本件発明1は,本件明細書の
発明の詳細な説明に記載されたものであるから,本件発明1に係る本件特許は,同
法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)に適合するも
のである,③本件各発明は,いずれも,ⅰ)下記アの引用例1に記載された発明(以
下「引用発明1」という。)に,下記イ,ウ及びオないしクの各文献から認められ
る周知技術(以下「周知技術A」という。)並びに下記ケないしサの各文献から認
められる周知技術(以下「周知技術B」という。)を適用することで,当業者が容
易に発明をすることができたものではない,ⅱ)下記イの引用例2に記載された発
明(以下「引用発明2」という。)に,周知技術Bを適用することで,当業者が容
易に発明をすることができたものではない,ⅲ)下記ウの引用例3に記載された発
明(以下「引用発明3」という。)に,周知技術Bを適用することで,当業者が容
易に発明をすることができたものではない,ⅳ)下記エの引用例4に記載された発
明(以下「引用発明4」という。)に,周知技術Bを適用することで,当業者が容
易に発明をすることができたものではないから,本件各発明に係る本件特許は,同
法29条2項の規定に違反しない,などというものである。
ア引用例1:中国実用新案第201128528号明細書(甲1。授権公告日:
平成20年)
イ引用例2:特開平11-285518号公報(甲2)
ウ引用例3:特開2009-66246号公報(甲3。公開日:平成21年4
月2日)
エ引用例4:米国特許第3331421号明細書(甲14。登録日:昭和42
年)
オ甲4文献:特開2007-319283号公報(甲4)
カ甲5文献:特開2007-314245号公報(甲5)
キ甲6文献:特開2009-40479号公報(甲6)
ク甲7文献:株式会社ジェフコーポレーション「静脈経腸栄養年鑑2008製
剤・器具一覧第6巻」(第1版第1刷。2008年5月30日)140-143頁
(甲7)
ケ甲8文献:国際公開第2007/077172号(甲8)
コ甲9文献:米国特許第6922852号明細書(甲9。登録日:平成17年)
サ甲10文献:米国特許第4204526号明細書(甲10。登録日:昭和5
5年)
⑵本件発明1と引用発明1との対比
本件審決は,引用発明1及び本件発明1と引用発明1との一致点・相違点を,以
下のとおり認定した。
ア引用発明1
周囲が密閉され,開閉式の袋口と,被包装用品を包装する袋体1内部とを含む袋
体1と,/前記袋体1の外表面の各々に前記袋体1の右側または左側から片手の指
を挿入するための,袋体1に固定された1対の環状の引き輪6を含み,/前記環状
の引き輪6に伸入した片手の指を両側に向けて力を入れることにより前記袋口を開
放できるチャック式密封袋。
イ本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点
(ア)一致点
密封形成され,開閉式の開口部と,収容部とを含む,可撓性袋部材と,/前記可
撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿
入するための,前記可撓性袋部材に固定された1対の開閉操作部を含み,/前記開
閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開
口状態を維持できる軟質容器。
(イ)相違点1
可撓性袋部材について,本件発明1は「少なくとも2枚の軟質プラスチックシー
トが貼りあわされることにより形成され」るが,引用発明1は「周囲が密閉され」
て形成されるものである点。
(ウ)相違点2
容器の収容物について,本件発明1は「経腸栄養法で使用される液状物」で「医
療用」であるが,引用発明1は明らかでない点。
(エ)相違点3
本件発明1は「可撓性袋部材に固定された排出用ポート」を有するが,引用発明
1は有しない点。
(オ)相違点4
本件発明1は「少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示され」
るが,引用発明1は目盛りを有しない点。
(カ)相違点5
開閉操作部について,本件発明1は「上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチ
ックシートに固定されたシート状の」ものであるが,引用発明1は「袋体1に固定
された環状の」ものである点。
(3)本件発明1と引用発明2との対比
本件審決は,引用発明2及び本件発明1と引用発明2との一致点・相違点を,以
下のとおり認定した。
ア引用発明2
2枚の合成樹脂シートの縁部を溶着して形成され,チャックシール3により開閉
自在な供給口5と,経腸栄養剤を収容するバッグの内部空間とを含むバッグ本体1
と,/前記バッグ本体1に固定された液体出口2と,/を有する液体収容バッグ。
イ本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点
(ア)一致点
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,
開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含
む可撓性袋部材と,/前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,/を有する
医療用軟質容器。
(イ)相違点6
本件発明1は「少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示され」
るが,引用発明2は目盛りを有しない点。
(ウ)相違点7
本件発明1は「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左
側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチック
シートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入し
た片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持でき
る」ものであるが,引用発明2は明らかでない点。
(4)本件発明1と引用発明3との対比
本件審決は,引用発明3及び本件発明1と引用発明3との一致点・相違点を,以
下のとおり認定した。
ア引用発明3
例えばポリアミドまたはナイロンと,低密度ポリエチレンと,リニアローデンポ
リエチレンと,シーラント層との4層構成のシート材1a・1bが接合されること
により形成され,開放操作用の開口部Sと,経管栄養法により栄養補給をする栄養
剤を収容するための収容室10とを含み,一方の主面に栄養剤の容量や残量を表す
目盛8が表示されたバッグ本体1と,/前記バッグ本体1に固定された出口栓体2
と,/前記バッグ本体1の開閉は,開閉操作可能なチャックシール等の閉鎖手段4
により行われる/栄養剤バッグ。
イ本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点
(ア)一致点
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートが貼りあわされることにより形成され,
開閉式の開口部と,経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含
み,少なくとも一方の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部
材と,/前記可撓性袋部材に固定された排出用ポートと,/を有する医療用軟質容
器。
(イ)相違点8
本件発明1は「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左
側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチック
シートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操作部に挿入し
た片手の指を各々遠ざけるように開くことにより前記開口部の開口状態を維持でき
る」ものであるが,引用発明3は「開閉は,開閉操作可能なチャックシール等の閉
鎖手段4により行われる」ものである点。
(5)本件発明1と引用発明4との対比
本件審決は,引用発明4及び本件発明1と引用発明4との一致点・相違点を,以
下のとおり認定した。
ア引用発明4
対向する壁14及び16からなるポリエチレンなどのプラスチック材料により形
成され,開口部53と,胃の供給等様々な目的のための液体を蓄積させる可撓性の
チューブ状の袋12とを含み,可撓性の袋12の主面に袋内に収容される液体の量
を示す目盛り62が表示された可撓性の袋12と,/前記可撓性の袋12に固定さ
れた放出用プラグ18と,/前記可撓性の袋12に固定され,可撓性の袋12の口
を開口位置と閉口位置に移動される湾曲可能なワイヤ素子48とを含み,/ワイヤ
素子48は固定された開口位置へと移動し,開口位置で留まり続ける,/液体容器
10。
イ本件発明1と引用発明4との一致点及び相違点
(ア)一致点
少なくとも2枚の軟質プラスチックシートにより形成され,開閉式の開口部と,
経腸栄養法で使用される液状物を収容するための収容部とを含み,少なくとも一方
の主面に前記液状物の量を示す目盛りが表示された可撓性袋部材と,/前記可撓性
袋部材に固定された排出用ポートと,/前記可撓性袋部材の両主面の前記軟質プラ
スチックシートに固定された開閉操作部を含み,/前記開口部の開口状態を維持で
きる医療用軟質容器。
(イ)相違点9
可撓性袋部材について,本件発明1は「少なくとも2枚の」「シートが貼りあわ
されることにより形成され」るが,引用発明4は「チューブ状の袋12」である点。
(ウ)相違点10
開閉操作部について,本件発明1は「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性
袋部材の右側または左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々
前記軟質プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前
記開閉操作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開く」ものであるが,引用
発明4は「可撓性の袋12の口を開口位置と閉口位置に移動される湾曲可能なワイ
ヤ素子48」である点。
4取消事由
(1)新規事項の追加に係る判断の誤り(取消事由1)
(2)サポート要件に係る判断の誤り(取消事由2)
(3)引用発明1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3)
(4)引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由4)
(5)引用発明3に基づく進歩性判断の誤り(取消事由5)
(6)引用発明4に基づく進歩性判断の誤り(取消事由6)
第3当事者の主張
1取消事由1(新規事項の追加に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)「右側または左側から『指を挿入するための貫通路を形成する』1対の開閉
操作部」という発明特定事項を,「右側または左側から『片手の指を挿入するため
の』…1対の開閉操作部」という発明特定事項に補正する本件補正は,開閉操作部
が,貫通路でなくてもよく,片側のみが空いていてもよいとするものであるから,
本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
(2)すなわち,本件当初明細書等には,あらゆる実施例,従来例を含め,右側又
は左側から指を挿入可能な貫通路からなる開閉操作部しか開示されていない。【0
024】には「貫通路7a,7bを形成していると好ましい」との記載があるが,
これは,貫通路7a,7bであることを前提に,開閉操作部の固定位置に言及した
記載にすぎない。本件当初明細書等において解決手段として開示された技術事項は,
貫通路を有する開閉操作部を設けるという技術的思想だけである。また,【図21】
は,貫通路を有するものの実施態様を示す図である。
(3)よって,本件補正は,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてし
たものではない。
〔被告の主張〕
(1)本件発明1の開閉操作部は,右側又は左側から親指と人差し指を挿入し,片
手で開閉操作されるものであり,その機能・作用などを考慮すれば,開閉操作部が
「貫通路」である必然性はない。
(2)すなわち,本件発明1の技術的意義は,可撓性袋部材の開閉操作部に片手の
指を挿入して開口部の開閉操作をできるようにするものであり,開閉操作部を貫通
路にして左右双方から指を挿入できるような構成に限定する必要はない。本件当初
明細書等の特許請求の範囲にも「右側または左側」と,右又は左のどちらかから挿
入できれば足りることが明記されている。本件当初明細書等の【0041】の実施
形態においては,作業者の利き手に応じて片方からのみ指を挿入する1対の開閉操
作が開示されている。本件当初明細書等の【図23A】【図23C】には,もっぱ
ら開口部片側の幅が狭くなっている部分から指を挿入する構成が開示されている。
本件当初明細書等の【図21】から,貫通路が効果及び機能に実質的に影響しない
ことが理解でき,開閉操作部の構成を貫通路とするか,一方を閉じたポケット状と
するかは,当業者が実施に際して容易に選択し得るものである。
(3)よって,「貫通路」の文言を削除した本件補正は,新たな技術的事項を導入
するものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたもので
ある。
2取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
「右側または左側から『片手の指を挿入するための』…1対の開閉操作部」とい
う発明特定事項を備えた発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていな
い。本件明細書には,右側又は左側から指を挿入可能な貫通路からなる開閉操作部
しか開示されていない。
よって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではな
い。
〔被告の主張〕
「右側または左側から指を挿入するため」の「開閉操作部」が本件明細書に記載
されていることは明らかである。本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に
記載されたものである。
3取消事由3(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)相違点2ないし4
ア周知技術A
引用例2,引用例3及び甲4文献ないし甲7文献から,「経腸栄養法で使用され
る液状物を袋に入れ,当該袋が排出用ポートを有し,主面に前記液状物の量を示す
目盛りが表示されていること」との周知技術Aが認められる。
イ周知技術Aの適用
(ア)技術分野の共通性,機能作用の共通性
引用例1は,引用発明1がチャック式袋において広く利用できる技術であること
を明示しているから,当業者は,引用例1の明示に沿って,様々なチャック式袋へ
の技術転用を試みる。
そして,周知技術Aを構成する引用例2,引用例3及び甲4文献ないし甲6文献
は,全てチャック式の経腸栄養袋に関するものであり,チャック開放操作は引用発
明1の袋と同一である。引用発明1は,片手でチャックを開放可能とした発明であ
り,片手でチャックを開放することができるという効果はチャック式袋であれば,
いずれの袋にとっても有用な効果であることは明らかである。さらに,引用例1に
は課題に「袋内物品及び手の指の双方向の汚染が容易に引き起こされる」と記載さ
れており,内容物汚染が気にされるチャック式の栄養袋に特に好適な技術であるこ
とが示唆されている。
したがって,チャック式袋全般を取り扱う当業者は,チャック式袋という機能作
用の共通性がある周知技術Aを引用発明1に適用することを容易に想到し得る。
(イ)用途の周知慣用性
汎用的なチャック式袋を取り扱う当業者(大日本印刷,凸版印刷,東洋製罐)は,
チャック式経腸栄養袋も取り扱っているから,汎用的なチャック式袋を取り扱う者
にとって,チャック式袋を経腸栄養用途に用いることは,周知の互換的用途の適用
でしかない。
経腸栄養袋は,袋の下方に排出用ポートが固定され,袋に目盛りが備えられてい
るが,これらの構成は,チャックの開放とは無関係の構成であり,チャック式経腸
栄養袋におけるチャック開放が汎用チャック式袋と異なると認識されるものではな
い。経腸栄養法に用いる液状物を収容する袋において,排出口が存在する実施形態
及び存在しない実施形態に想到する当業者も存する(甲11,53)。当業者は,
一般的な袋を出発点として,排出用ポートを設けることも設けないことも任意に選
択的に実施していたものである。
(ウ)また,経腸栄養袋が排出用ポート(相違点3)及び目盛り(相違点4)を
備えることは,経腸栄養袋における当然有すべき周知の構成である。
(エ)したがって,当業者は,引用発明1に,周知技術Aを適用(付加)するこ
とにより,相違点2ないし4に係る本件発明1の構成を採用することを,容易に想
到し得る。
ウ用途発明
本件発明1は,チャック式袋を経腸栄養剤供給のための医療用軟質容器の用途に
限定した用途発明というべきものである。少なくとも,相違点2は,引用発明1の
軟質容器を,経腸栄養法で使用される液状物の収容用途に限定するものである。
そして,容器を経腸栄養剤供給に用いるという用途は既知のものである。
したがって,引用発明1と本件発明1との相違点2は,実質的な相違点とはいえ
ず,少なくとも,周知技術Aに基づき当業者が容易に想到できた事項である。
また,相違点3(ポート)及び相違点4(目盛り)は,経腸栄養袋が当然備える
構成である。
エよって,相違点2ないし4は,当業者が容易に想到できたものである。
(2)相違点5
「シート状の」開閉操作部によるチャック開放技術は,高い汎用性を有する技術
であったものであり(甲8文献~甲10文献),当業者が,引用例1の技術思想を
具体化すれば,自然と「シート状の」開閉操作部という構成に至る。
また,引用発明1に開示された開閉操作部である環状の引き輪を,シート状部材
とすることは,技術思想が同一であって,「シート状の」開閉操作部が周知技術で
あること(甲8文献~甲10文献)から,均等物の置換又は技術の具体的適用に伴
う設計事項である。
よって,引用発明1の「環状の」引き輪を,「上縁部及び下縁部が各々前記軟質
プラスチックシートに固定されたシート状の」1対の開閉操作部にすることは,設
計事項にすぎない。
(3)小括
以上のとおり,相違点2ないし5は,当業者が容易に想到できたものである。ま
た,相違点1は,本件審決が判断したとおり,容易に想到できる。したがって,本
件発明1は,引用発明1に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。
〔被告の主張〕
(1)引用発明1と本件発明1の相違
ア引用発明1は,本件発明1と大きくかけ離れたものであり,引用発明1に基
づいて本件発明1の構成は容易に想到し得ない。
イすなわち,引用発明1の袋は,排出口等の開示がないことから,袋内容物の
取出しが,袋口から行われることは明白であり,技術分野は異なる。また,引用発
明1の袋において,経腸栄養剤等の液体のように重いものを持ちつつ袋口を開放す
ることは困難である。引用発明1の袋には,液状物等の注入中に目盛りを見やすく
するという課題の開示もない。
このように,引用発明1は,本件発明1と技術分野及び課題が異なるから,引用
発明1の袋を,液状物を収容する容器であると認定したり,経腸栄養法の液状物を
収容する容器と結び付けたりすることは困難である。
ウまた,引用発明1では,引き手6を環状に設計することで片手のみで袋口を
開放できており,これで発明は完成しているから,引用発明1には,指を挿入する
ためのシート状の開閉操作部を設けようとする動機付けはない。
エさらに,引用発明1は,中国の実用新案明細書であり,本件発明1と関連付
けることはできない。
(2)相違点2ないし4
周知技術Aが認められることは争わない。しかし,引用発明1は,一般的な袋で
あり,周知技術Aとは,技術分野も機能作用も用途も全く異なるから,適用できな
い。
(3)相違点5
甲8文献ないし甲10文献からは,一般的な袋の分野でも,経腸栄養法で使用さ
れる液状物用の袋の分野でもなく,せいぜい「人体から取り出したものを収容する
可撓性袋部材からなる容器」という特殊な分野における技術事項しか認定できない。
(4)小括
したがって,本件発明1は,引用発明1に基づき当業者が容易に発明をすること
ができたものではない。
4取消事由4(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)相違点7
ア周知技術B
甲8文献ないし甲10文献から,「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋
部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々軟質
プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操
作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより開口部の開口状態を
維持できるようにした可撓性部材」との周知技術Bが認められる。
イ周知技術Bの適用
(ア)引用発明2の課題
a引用発明2は,チャックシール(閉鎖手段3)で開口部の開け閉めを行うも
のである。そして,開口部にチャックを用いるチャック式袋において,チャックシ
ールは,その弾性復帰によって開口部が自然と閉じてしまうという課題を有するこ
とは技術常識であった(甲25,26,32,54,55)。甲25には,「シー
ルファスナが設けられている袋口であればシールファスナを開けても,シールファ
スナは自身の弾性による閉じぐせを持っているために,袋口を扁平な閉じ状態に保
とうとする働きをする」と記載され,甲26には,「ファスナー113の弾性作用
により開口部116が閉じる方向に作用する」と記載されている。甲54,55に
は,経腸栄養法で用いるチャック式袋における閉じぐせの問題が記載されている。
チャック式袋のチャック部が袋部より剛性の大きい樹脂成型品であることは一般的
な技術常識であり,当該剛性によりチャックの閉じ方向(復帰方向)に力が働くこ
とも自明である。
したがって,引用例2に接した当業者は,チャックの自閉問題を当然認識し,こ
れを解消すべくチャック式袋における開口維持技術の転用を試行する。
b引用発明2のような開閉操作部を持たないチャック式経腸栄養袋には,開口
部を開口する際に,手や収容物に汚染を引き起こす開口操作になってしまうことは
明らかであった(甲56,57)。他方,開口部の左右辺から開口部を保持する開
口操作をするならば開口部を小さく変更せざるを得ず,ある程度開口部を大きく取
りたい要請に合わない自由度の制限された開口しかできない(甲11)。このよう
に,引用発明2には,チャック式袋を開口させる際に,汚染,開口の自由度などの
諸問題が生じることが自明であった。したがって,引用例2に接した当業者は,開
口操作に関する課題を認識し,同じチャック式袋からの技術転用を試行する。
(イ)周知技術Bの組合せ
a甲8文献ないし甲10文献には,軟質容器の開口部において「片手で袋体を
開口維持する」という目的,作用,構成が開示されており,これらの文献に開示さ
れた開閉操作部とは,いずれも,チャックの弾性復帰(閉じぐせ)に抗して開口維
持することに適した開口維持手段であることは当業者にとって明白である。
したがって,引用発明2のチャック式袋が有するチャックの弾性による自閉とい
う課題を解決するために,当業者は,チャック式袋の開口維持技術である周知技術
Bの転用を試みるというべきである。
bまた,周知技術Bは,開口操作を容易にすることができる開閉操作部を開示
するものであるから,引用発明2のチャック式袋が有するチャックの開口時におけ
る汚染防止等の課題を解決するために,当業者は,周知技術Bの転用を試みるとい
うべきである。
cこれに対し,引用発明2に周知技術Bを適用するに当たり,開閉操作部とは
無関係な内容物の相違,容量の細かな相違,ポートと目盛りの有無,使用態様など
を考慮する必要性はない。
すなわち,甲8文献ないし甲10文献は,食料品,雑貨から検体,糞尿,移植片
といった固体・液体,汚物・無菌物,日常用・医療用を問わず幅広い内容物を開口
部から袋内部に収容できることを開示しているから,これらの文献における開口維
持技術を備えた袋は,汎用性のある幅広い内容物を想定した袋である。また,おお
よそ液体を受け入れる容器の技術分野において,保管袋に用いるか,経腸栄養法で
使用される液状物を収容する容器で使用するかは,任意に互換でき,収容される物
が技術分野を画するものではない(引用例4)。さらに,チャック式袋を製造,販
売する当業者にとって,チャック式袋の内容物の具体例が何であれ,それがチャッ
ク式袋であることに変わりはなく,内容物によって開口維持技術の互換性が失われ
るものではない。
また,チャック式袋の容量は様々なものがあり,容量の違いは周知技術Bの適用
を困難にするものではない。
さらに,目盛りを見つつ注入を行うことは,何ら新規な機能ではない。引用発明
2は排出用ポートを備えるから,周知技術Bの適用に当たり,排出用ポートの有無
は問題とはならず,また,引用発明2の袋は,開閉操作時には排出用ポートは閉鎖
されるから,甲8文献ないし甲10文献の袋と変わらず,そもそも,排出用ポート
には開口部に何らかの作用を生じさせる機能はないから,開口に関する課題を解決
するに当たり,その有無を考慮する必要はない。
加えて,引用発明2は吊り下げて使用するものに限定されず,そもそも,吊り下
げて使用するか否かは,開閉操作部の適用とは無関係である。
(ウ)阻害要因
引用発明2に周知技術Bを適用しても,引用発明2は,その目的を喪失したり,
機能しなくなったりするものではない。
(エ)したがって,当業者は,引用発明2に,周知技術Bを適用(付加)するこ
とにより,相違点7に係る本件発明1の構成を採用することを,容易に想到し得る。
(2)小括
以上のとおり,相違点7は,当業者が容易に想到できたものである。また,相違
点6は,本件審決が判断したとおり,容易に想到できる。したがって,本件発明1
は,引用発明2に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
〔被告の主張〕
(1)引用発明2と本件発明1の相違
本件発明1の経腸栄養剤袋は,空袋であり,病院などの現場で経腸栄養剤を注入
するタイプの袋である。これに対して,引用発明2は,人体に供給される栄養成分
の総量はあらかじめ容器に収容されており,必要に応じて水あるいは温湯等の希釈
液を添加するタイプの経腸栄養剤袋である。
そして,引用例2には,開閉操作部も目盛りも記載されていない。引用発明2の
袋を点滴スタンドに吊り下げた状態にすれば,一人で注入作業が行えるから,開閉
操作部の必要性は乏しい。また,人体に供給される栄養成分の総量はあらかじめ容
器に収容されており,希釈液の添加によりその濃度が多少変化することは許容され
ているから,目盛りの必要性も低い。
したがって,引用発明2には,開閉操作部と目盛りを設けようとする動機付けが
ない。
(2)周知技術Bの適用
ア周知技術Bが認められることは争わない。しかし,容器においては,形態,
内容量,使用態様等,内容物に応じた構成が採用されるところ,引用発明2の容器
と甲8文献ないし甲10文献の容器とは,内容物が異なるほか,ポートと目盛りの
有無,内容量,使用態様が異なるから,引用発明2に,容器の開口部の構造につい
ての周知技術Bを適用することは想定し難い。
甲8文献の袋は「生理用品等の汚れた物品の廃棄」を課題としており,「食料品,
ナットとボルト,小間物物品」も廃棄用であるから,「人体から取り出したもの」
ないしは廃棄用物品を収容するという特殊な分野における袋である。甲9文献の袋
は「屎尿容器」であり,「人体から取り出したもの」を収容するという特殊な分野
における袋である。甲10文献の袋は動脈グラフトの血液を入れる袋であり,「人
体から取り出したもの」を収容するという特殊な分野における袋である。したがっ
て,周知技術Bの袋は,人体から取り出したものを収容するという特殊な分野にお
けるものである。
イ課題
(ア)引用例2にも,甲8文献ないし甲10文献にも,本件明細書にも,チャッ
クの閉じぐせの問題があることは記載されておらず,課題の共通性はない。
そして,チャック式袋において,ファスナーの断面積が大きく剛性が高い場合は,
ファスナーは閉じる方向に作用するが,ファスナーの断面積が小さく剛性が弱い場
合は,ファスナーは開いたままの状態となるから,甲25,26の開示をもって,
これらとは明らかに異なる経腸栄養剤を入れる袋のファスナーも閉じる方向に作用
するとはいえない。甲32にはチャックの閉じぐせの問題があることは記載されて
おらず,甲54,55にはチャックの閉じぐせの問題があることは記載されている
が,別の手段で解決している。チャックに閉じぐせが出るのは,チャックやチャッ
クの基材シートの腰の強さの問題であり,閉じぐせを改善するにはチャックやチャ
ックの基材シート自体の改良で済む問題である。シート状開閉操作部を持ち出すの
は,後知恵である。
(イ)また,引用例2には,開口部の汚染問題は記載されていない。汚染問題を
提起するのも,後知恵である。
ウ阻害要因
引用発明2に,液体注入口をチャックシールのみで構成した袋を適用することに
は,阻害要因がある。甲8文献ないし甲10文献は,引用発明2では問題があるな
どとされる「入口をチャックシールのみで構成したタイプの袋」であり,引用例2
において明確に排除されている(【0002】)。
(3)小括
したがって,本件発明1は,引用発明2に基づき当業者が容易に発明をすること
ができたものではない。
5取消事由5(引用発明3に基づく進歩性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)相違点8(周知技術Bの適用)
ア引用発明3の課題
引用発明3はチャックシールを有し,弾性による開口状態維持の課題が内在する。
なお,引用発明3の栄養剤バッグに設けられた吊下穴は袋が床に落下しないように
支える構成であって開口維持手段ではない。
イ周知技術Bの組合せ
甲8文献ないし甲10文献に開示された開閉操作部は,いずれも,チャック式袋
の開口部の開口状態を片手で容易に維持するのに適した,開口維持手段である。
したがって,当業者は,チャック式袋であって,開口を維持する手段としては用
いることができない,引用発明3の「チャックシール等の閉鎖手段4」を置換して,
あるいはこれに付加して,同じチャック式袋における開口部の開口状態維持を片手
で行うことを目的とした周知技術Bの適用を試みるというべきである。
これに対し,引用発明3に周知技術Bを適用するに当たり,開閉操作部とは無関
係な内容物の相違,容量の細かな相違,ポートと目盛りの有無,使用態様などを考
慮する必要性はない。また,引用発明3に周知技術Bを適用しても,引用発明3は,
その目的を喪失したり,機能しなくなったりするものではない。
ウしたがって,当業者は,引用発明3に,周知技術Bを適用(付加,置換)す
ることにより,相違点8に係る本件発明1の構成を採用することを,容易に想到し
得る。
(2)小括
以上のとおり,相違点8は,当業者が容易に想到できたものである。したがって,
本件発明1は,引用発明3に基づき当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。
〔被告の主張〕
(1)引用発明3と本件発明1の相違
引用発明3は,支持スタンド等に栄養剤バッグを吊り下げ保持させた状態で,開
口部Sを形成しているのであるから,そもそも指を入れて開口部の開口状態を維持
する開閉操作部を設けようとする動機付けがない。
(2)周知技術Bの適用
引用発明3の容器と甲8文献ないし甲10文献の容器とは,内容物が異なるほか,
ポートと目盛りの有無,内容量,使用態様が異なるから,引用発明3に,容器の開
口部の構造についての周知技術Bを適用することは想定し難い。また,引用発明3
と周知技術Bの間に,課題の共通性はない。
さらに,引用発明3に,液体注入口をチャックシールのみで構成した袋を適用す
ることには,阻害要因がある。甲8文献ないし甲10文献は,引用発明3では問題
があるなどとされる「閉鎖手段がチャックシールのみであるタイプの袋」であり,
引用例3において明確に排除されている(【0005】【0008】)。
(3)小括
したがって,本件発明1は,引用発明3に基づき当業者が容易に発明をすること
ができたものではない。
6取消事由6(引用発明4に基づく進歩性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)相違点10(周知技術Bの適用)
ア周知技術Bと引用発明4における「ワイヤ素子48」とは,技術分野,課題,
機能作用が一致するから,引用発明4の「ワイヤ素子48」を,周知技術Bの開閉
操作部に置換する動機付けがある。
すなわち,引用例4には,周知技術Bの技術を受け入れる契機となる,技術分野
の共通性が明記されており,引用発明4の「液体を受け入れる容器10」は,「女
性用の衛生用の袋,胃の供給装置,経尿道の準備,静脈内の供給装置,袋状の洗浄
装置,蓄尿袋」への適用が想定されている。
また,引用例4には,課題として開口状態を維持することが挙げられている。一
方,甲8文献ないし甲10文献においても,同様の課題が挙げられている。引用発
明4と周知技術Bとは,片手で袋を取り扱う軟質容器分野において,袋体の開口を
確実に維持するという課題において共通する。
さらに,引用発明4においては,開口部の中央を広げて維持する機能が要求され
ており,当該機能を担う「ワイヤ素子48」は,周知技術Bに開示される開閉操作
部材と機能作用が同じである。
イこれに対し,引用発明4において「ワイヤ素子48によっても開口維持は可
能」という理由だけで,容易想到性は否定されない。袋内に収容物を入れる操作中
において,開口状態を維持するという作用効果を得ようとする場合,それを実現す
る課題解決手段が複数公知であれば,当該課題及び作用機能の共通性を根拠に置換・
転用の動機付けが得られる。
また,引用発明4の「ワイヤ素子48」は,開口状態の維持を目的として設けら
れたものであり,閉口状態の維持を目的として設けられたものではない。引用例4
において,給液操作前後における袋の閉口状態の維持は,ワイヤ素子48ではなく,
一方向弁(狭められた首部)が担う旨開示されている。本件審決には事実誤認があ
る。
ウしたがって,当業者は,引用発明4に,周知技術Bを適用(置換)すること
により,相違点10に係る本件発明1の構成を採用することを,容易に想到し得る。
(2)小括
以上のとおり,相違点10は,当業者が容易に想到できたものである。また,相
違点9は,本件審決が判断したとおり,容易に想到できる。したがって,本件発明
1は,引用発明4に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
〔被告の主張〕
(1)周知技術Bの適用
引用発明4は,ワイヤ素子の湾曲により開口を保持でき,ワイヤ素子48に対し
て有効な圧力を及ぼして,これを閉口位置へと戻すこともできるから,そもそも指
を入れて開口部の開口状態を維持する開閉操作部を設けようとする動機付けがない。
また,引用発明4と周知技術Bの間に,課題の共通性はない。
なお,ワイヤ素子48に対して有効な圧力を及ぼして,これらを閉口位置へと戻
した後は,ワイヤ素子48は閉口位置で動かない状態になるから,ワイヤ素子48
は,閉口状態維持機能も有する。
(2)小括
したがって,本件発明1は,引用発明4に基づき当業者が容易に発明をすること
ができたものではない。
第4当裁判所の判断
1本件発明1について
本件発明1に係る特許請求の範囲は,前記第2の2(2)【請求項1】のとおりであ
るところ,本件明細書(甲35)によれば,本件発明1の特徴は,以下のとおりで
ある。なお,本件明細書には,別紙1本件明細書図面目録のとおり,図面が記載さ
れている。
(1)本件発明1は,経腸栄養法を行う際に使用する医療用軟質容器に関するもの
である。(【請求項1】【0001】)
(2)経腸栄養法を行う際には,患者に投与する液状物を空の医療用軟質容器に予
め注入する作業が必要である。従来の医療用軟質容器への液状物の注入作業は,片
手で医療用軟質容器の開口部を把持しつつ,開口部の一端を把持した親指と,開口
部の他端を把持したその余の指とを互いに近づけることで,開口部を開口し,他方
の手で,液状物が入った容器等を持ち,これを傾けることにより,液状物を医療用
軟質容器に注入していた。(【0003】【0006】【図27】【図28】)
しかし,従来の医療用軟質容器への液状物の注入作業は,片手で開口部を把持し,
かつ,開口状態を保持しなければならず,非常に不安定な状態で液状物の注入を行
うから,医療用軟質容器を落としてしまったり,開口部の開口状態が保持できなく
て液状物をこぼしてしまったりするおそれがある。また,片手で開口部を把持した
状態では,医療用軟質容器のシートに表示された目盛りを見ながら,液状物を注入
しにくい。(【0008】【0009】)
(3)本件発明1は,液状物の注入が行いやすく,しかも液状物の注入中に目盛り
が見やすい,医療用軟質容器を提供することを目的とし,本件発明1の構成を採用
したものである。(【0010】【0011】【図1】)
(4)本件発明1の医療用軟質容器においては,両主面の各々に片手の指を挿入す
るための開閉操作部を有し,開閉操作部に挿入した指を開くことにより開口部の開
口状態を維持できるから,医療用軟質容器への液状物の注入が行いやすく,しかも
液状物の注入中に目盛りが見やすい。(【0013】【図5】)
2取消事由1(新規事項の追加に係る判断の誤り)について
(1)原告は,「右側または左側から『指を挿入するための貫通路を形成する』1
対の開閉操作部」という発明特定事項を,「右側または左側から『片手の指を挿入
するための』…1対の開閉操作部」という発明特定事項に補正することは,新たな
技術的事項を導入するものであると主張する。
(2)しかし,本件当初明細書等には,開閉操作部の左右方向の幅について,片手
による開閉操作部の操作が可能であれば特に制限はないとされ(【0026】),
開閉操作部の幅が広く,挿入された指が開閉操作部の他端から突出しない構成も開
示されているということができる。そして,かかる開示によれば,当業者は,開閉
操作部の片方の端部のみが開放されている構成を容易に認識できる。
また,本件当初明細書等には,本件出願に係る発明の課題として,「空の医療用
軟質容器への液状物の注入が行い易く,しかも液状物の注入の最中に目盛りが見や
すい,医療用軟質容器を提供する」と記載され(【0010】),その解決手段と
して,液状物を収容する可撓性袋部材の右側又は左側から指を挿入するための「貫
通路を形成する」1対の開閉操作部を,同部材の両主面の各々に固定するという構
成などを採用した旨記載されている(【0011】)。そして,本件当初明細書等
には,開閉操作部の作用機能として,開閉操作部に片手の指を挿入し,各々の指を
遠ざけることで,開口状態を安定かつ容易に維持できること(【0023】),液
状物の注入の際には,医療用軟質容器の正面が作業者に面し,同容器を保持する手
と液状物が入った容器を持つ手とが対向するから,目盛りが見やすくなること(【0
035】)が記載されている。このような,課題解決手段として採用された開閉操
作部の作用機能に関する本件当初明細書等の記載によれば,当業者は,開閉操作部
は片方の端部のみが開放されていれば,本件出願に係る発明の課題解決手段として
十分であることを容易に理解できる。
さらに,本件当初明細書等に記載された貫通路は,右側「または」左側から指が
「挿入」される旨説明されるにとどまり(【請求項1】【請求項2】【0011】
【0013】【0022】【0024】),右側及び左側から指が挿入される必要
があることや,挿入された指が他端から突出する必要があることを説明する記載は
ない。
(3)このように,本件当初明細書等の記載から,当業者は,開閉操作部の片方の
端部のみが開放されている構成を容易に認識でき,このような構成でも,本件出願
に係る発明の課題解決手段として十分であることを容易に理解でき,さらに,開閉
操作部の双方の端部が開放された構成に限定されていないことも理解できる。
したがって,本件当初明細書等において,開閉操作部について貫通路と表現され,
開閉操作部が貫通している実施例しか記載されていないとしても,当業者であれば,
本件当初明細書等の記載から,片方の端部が閉じられた開閉操作部を有する医療用
軟質容器の構成も認識できるというべきである。
(4)小括
以上によれば,「右側または左側から『指を挿入するための貫通路を形成する』
1対の開閉操作部」という発明特定事項を,「右側または左側から『片手の指を挿
入するための』…1対の開閉操作部」という発明特定事項に補正することは,当業
者によって,本件当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項と
の関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるから,本件当初明細書
等に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。
よって,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1)原告は,「右側または左側から『片手の指を挿入するための』…1対の開閉
操作部」という発明特定事項を備えた発明は,本件明細書に記載されていないから,
本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張す
る。
(2)しかし,本件明細書には,本件発明1の課題解決手段として,「前記可撓性
袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋部材の右側または左側から片手の指を挿入す
るための,上縁部及び下縁部が各々前記軟質プラスチックシートに固定されたシー
ト状の1対の開閉操作部を含み」と記載されており(【0011】),「右側また
は左側から『片手の指を挿入するための』…1対の開閉操作部」という発明特定事
項を備えた本件発明1が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていることは明
らかである。
また,本件発明1の課題は,液状物の注入が行いやすく,しかも液状物の注入中
に目盛りが見やすい,医療用軟質容器を提供するというものである(【0010】)。
そして,本件明細書には「右側または左側から『片手の指を挿入するための』…1
対の開閉操作部」を含む医療用軟質容器においては,開閉操作部に挿入した指を開
くことにより開口部の開口状態を維持できるから,医療用軟質容器への液状物の注
入が行いやすく,しかも液状物の注入中に目盛りが見やすくなる旨記載されている
(【0013】【図5】)。したがって,当業者は,「右側または左側から『片手
の指を挿入するための』…1対の開閉操作部」を含む医療用軟質容器によって,上
記課題を解決できると認識できる。
さらに,本件明細書において,本件発明1の実施形態につき「貫通路」を有する
ものと説明され,図面において「貫通路」であると表現されているとしても,前記
2(2)の説示と同様に,当業者は,開閉操作部が貫通路を有することは,本件発明1
の課題解決手段として必須ではないことを容易に理解できるものである。
(3)小括
以上によれば,「右側または左側から『片手の指を挿入するための』…1対の開
閉操作部」という発明特定事項を備えた本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な
説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明1の課
題を解決できると認識できる範囲のものであるから,本件発明1の特許請求の範囲
の記載は,サポート要件に適合する。
よって,取消事由2は理由がない。
4取消事由3(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について
(1)引用発明1
引用例1(甲1)に,前記第2の3(2)アの引用発明1が記載されていることは,
当事者間に争いがない。そして,引用例1には,別紙2引用例等図面目録引用例1
のとおり,図面が記載されるとともに,引用発明1に関し,以下の点が開示されて
いるものと認められる(摘示箇所は訳文による。)。
ア引用発明1は,包装用品技術分野に属する袋であって,開放が便利なチャッ
ク式密封袋に関するものである。(3頁4~5行)
イ従来のチャック式密封袋は,袋口の内側に密封チャックが設置されていると
ころ,開放時に比較的力が必要であり,かつ,片手で操作することができず,また,
開放時には手の指を袋口の内側に伸入させる必要があるから,袋内物品及び手の指
の双方の汚染が容易に引き起こされるという課題があった。(3頁7~12行)
ウ引用発明1は,構造が簡単で,密封効果が良好である,開放が便利なチャッ
ク式密封袋を提供することを目的とする。(3頁15~16行)
エ引用発明1のチャック式密閉袋は,袋体1の外表面の各々に袋体1の右側又
は左側から片手の指を挿入するための,袋体1に固定された1対の環状の引き輪6
を含み,片手の親指と人差し指とをそれぞれ両側の引き輪6に伸入させ両側に向け
て力を入れるだけで,すなわち片手のみで,袋口を開放することができる。これに
より,従来のチャック式密封袋の開放が困難で,容易に汚染を招くなどの問題を解
決することができる。(3頁22~27行,37~46行,【図1】)
(2)本件発明1と引用発明1との対比
本件発明1と引用発明1との相違点は,前記第2の3(2)イの相違点1ないし5の
とおりであることは,当事者間に争いがない。
(3)相違点2ないし4の容易想到性
ア周知技術A
引用例2,引用例3及び甲4文献ないし甲7文献から,「経腸栄養法で使用され
る液状物を袋に入れ,当該袋が排出用ポートを有し,主面に前記液状物の量を示す
目盛りが表示されていること」との周知技術Aが認められることは,当事者間に争
いがない。
イ周知技術Aの適用
(ア)引用発明1に,周知技術Aを適用することにより,相違点2ないし4に係
る本件発明1の構成を,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
(イ)引用発明1は,袋口の内側に密封チャックが設置されたチャック式密封袋
に関するものであるところ,引用例1に,引用発明1のチャック式密封袋の用途や
機能に関する記載は認められない。そうすると,当業者は,引用発明1に接したと
しても,それをどのような用途に用いるか,どのような機能を追加するかについて,
何ら示唆されるところがなく,引用発明1に別の用途や機能に係る構成を組み合わ
せようとすることはないというべきである。
なお,引用例1には,引用発明1について「良好な応用の前途を有している」と
の記載はある(3頁26~27行)。しかし,「良好な応用の前途を有している」
との記載をもって,当業者は引用発明1が様々な分野において応用可能であると理
解できたとしても,どのような分野に応用するかについての動機付けがなければ,
引用発明1に別の構成を組み合わせようとするとはいえない。そして,引用例1に
は,引用発明1のチャック式密封袋の用途や機能を更に特定する記載はなく,本件
発明1に到達するための課題は何ら示唆されていない。
(ウ)引用発明1は,包装用品技術分野に属する袋であって,開放が便利なチャ
ック式密封袋に関するものである。これに対し,周知技術Aは,予め液体の収容さ
れた液体収容バックに関し,特に「経腸栄養剤を収容する経腸栄養バッグ」に好適
なもの(引用例2【0001】),「経管栄養法により栄養補給をする場合などに
用いる栄養剤バッグ」に関するもの(引用例3【0001】),「点滴,栄養剤等
の薬液を供給するために用いられる医療用バッグ」に関するもの(甲4文献【00
01】),注出口付きパウチ,特に「栄養剤や流動食などの液状の内容物を…患者
等に投与することができ」る「注出口付きパウチ」に関するもの(甲5文献【00
01】),「流動食や経腸栄養剤等…を充填する容器のように,注出口部材を有す
る…パウチ容器」に関するもの(甲6文献【0001】),「栄養剤用バック」に
関するもの(甲7文献142頁の表の上から3欄目),すなわち,経腸栄養剤等の
液状物を収容し,これを患者に投与するための医療用袋に関するものである。この
ように,引用発明1は,チャック式密封袋という広範な技術分野に関する袋である
のに対し,周知技術Aは,収容した液状物を患者に投与するという医療の技術分野
に限定された袋に関するものであって,技術分野の関連性が強いとはいえない。
さらに,引用発明1のチャック式密封袋において,収容物は上部に設けられた袋
口を介して取り出される(引用例1の3頁37行~43行)。これに対し,周知技
術Aの袋において,液状物は排出用ポートから取り出されることは,周知技術Aの
構成から明らかである。このように,引用発明1と周知技術Aは,作用機能が全く
異なるものである。
そうすると,当業者は,課題の示唆がない引用発明1に,技術分野の関連性が強
いとはいえず,作用機能も全く異なる周知技術Aを組み合わせようとする動機付け
はない。
(エ)したがって,引用発明1に接した当業者は,そもそも,引用発明1に別の
用途や構成に係る構成を組み合わせようとする動機付けはなく,また,引用発明1
に周知技術Aを組み合わせようとする動機付けもないから,引用発明1に,周知技
術Aを適用することにより,相違点2ないし4に係る本件発明1の構成を,当業者
が容易に想到し得たということはできない。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,汎用的なチャック式袋を取り扱う者にとって,チャック式袋を経
腸栄養用途に用いることは,周知の互換的用途の適用でしかないと主張する。
しかし,汎用的なチャック式袋を取り扱う者が,チャック式経腸栄養袋を取り扱
っているとしても,汎用的なチャック式袋とチャック式経腸栄養袋とは用途も機能
も異なるから,前者と後者に互換性があると考えるものではない。引用発明1のチ
ャック式密封袋を経腸栄養用途に用いようとするには,何らかの動機付けが必要で
あり,それを不要とする原告の主張は,採用できない。
(イ)原告は,引用例1には,「袋内物品及び手の指の双方の汚染が容易に引き
起こされる」という課題が記載されていると主張する。
しかし,周知技術Aは,上記課題を解決するようなものではない。また,袋内物
品及び手の指の双方の汚染が容易に引き起こされるという課題を解決した引用発明
1に,開口時に内容物汚染の問題が生じ得る周知技術Aを組み合わせることを,当
業者は考えるものではない。引用例1に上記課題が記載されていることは,相違点
2ないし4の容易想到性の判断を左右するものではない。
(ウ)原告は,周知技術Aは全てチャック式の経腸栄養袋に関するものであり,
チャック開放操作は引用発明1のチャック式密封袋と同一である,経腸栄養袋にお
いて袋の下方に排出用ポートが固定されている構成などは,チャックの開放とは無
関係の構成である,などと主張する。
しかし,周知技術Aは,経腸栄養剤等の液状物を収容し,これを患者に投与する
ための医療用袋に関するものである。周知技術Aの医療用袋が,その上部の開口部
をチャック式で開閉するものであったとしても,周知技術Aの医療用袋において,
そのチャック開放操作に着目する理由はない。チャック開放操作をもって,引用発
明1と周知技術Aの共通性などを指摘する原告の主張は,本件発明1を前提とする
ものであって,採用できない。
(エ)原告は,本件発明1は,チャック式袋(引用発明1)を経腸栄養剤供給の
ための医療用軟質容器の用途に限定したものであって,容器を経腸栄養剤供給のた
めに用いることは既知のものであると主張する。
しかし,本件発明1と引用発明1とは物としての構成が異なるから,引用発明1
は本件発明1の用途を限定したものとはいえず,原告の主張は失当である。
(4)小括
以上のとおり,相違点2ないし4を容易に想到できないから,その余の点につい
て判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明1に基づき,当業者が容易に発明
をすることができたものということはできない。また,本件発明3,5ないし7及
び11ないし13は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付
加したものであるから,当業者が引用発明1に基づいて容易に発明をすることがで
きたということはできない。
よって,取消事由3は理由がない。
5取消事由4(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について
(1)引用発明2
引用例2(甲2)に,前記第2の3(3)アの引用発明2が記載されていることは,
当事者間に争いがない。そして,引用例2には,別紙2引用例等図面目録引用例2
のとおり,図面が記載されるとともに,引用発明2に関し,以下の点が開示されて
いるものと認められる。
ア引用発明2は,液体を他の容器で調整した後に移し替えるものではなく,あ
らかじめ液体の収容された液体収容バッグに関するものであって,特に濃縮液状の
経腸栄養剤を収容する経腸栄養バッグに好適なものである。(【0001】【00
02】)
イ従来,バッグに収容された濃縮液状の経腸栄養剤等に水や温湯を加えて,バ
ッグ内で経腸栄養剤を直接調製する経腸栄養バックとして,液体注入口をチャック
シールのみで構成したものがあるが,密封性が悪く収容した経腸栄養剤の品質に影
響を及ぼすおそれがあり,またバージンプルーフが困難であった。一方,チャック
シールの外側に更に熱シールしたシール部を設けた構成のものは,ハサミを使用す
る等作業効率が悪かった。(【0002】)
ウ引用発明2は,内部に収容された液体を変質することなく長期間保存でき,
水等の供給時の作業効率の改善された,特に経腸栄養バッグとして好適な液体収容
バッグを提供することを目的とする。(【0003】)
エ引用発明2に係る液体収容バックは,袋状に形成したバッグ本体1と,バッ
グ本体1の下部に設けられた液体出口2と,バッグ本体1の上部に設けられた開閉
自在な閉鎖手段(チャックシール)3からなり,バッグ本体1の内部空間は,チャ
ックシール3の下部側に設けられた剥離可能な隔壁4により上下に区画されている。
そして,バッグ本体1の上部は,予め収容されている濃縮液状の経腸栄養剤等をう
すめる水や温湯等を供給するための供給口5になっており,供給口5はチャックシ
ール3で閉鎖されている。(【0005】【0006】【0008】【図1】)
引用発明2に係る液体収容バックを使用するに際しては,濃縮経腸栄養剤等を収
容した室を外部から加圧して,隔壁4を剥離した後,チャックシール3を開放して,
水や温湯を供給し,チャックシール3を閉鎖して混合する。必要であればバッグ本
体1の上端部に吊り下げ穴11を設けてもよく,これによりバッグを点滴スタンド
から吊り下げて使用することができる。(【0006】【0010】)
オ引用発明2に係る液体収容バッグによって,内部に収容された経腸栄養剤等
を品質劣化させることなく長期間保存できるとともに,水等を供給する際の手間が
省ける。また,容易に剥離可能な隔壁によりバージンプルーフ機能を備えているこ
とから,安全性のチェックもできる。(【0004】【0011】)
(2)本件発明1と引用発明2との対比
本件発明1と引用発明2との相違点は,前記第2の3(3)イの相違点6及び7のと
おりであることは,当事者間に争いがない。
(3)相違点7の容易想到性
ア周知技術B
甲8文献ないし甲10文献から,「可撓性袋部材の両主面の各々に前記可撓性袋
部材の右側又は左側から片手の指を挿入するための,上縁部及び下縁部が各々軟質
プラスチックシートに固定されたシート状の1対の開閉操作部を含み,前記開閉操
作部に挿入した片手の指を各々遠ざけるように開くことにより開口部の開口状態を
維持できるようにした可撓性部材」との周知技術Bが認められることは,当事者間
に争いがない。
イ周知技術Bの適用
(ア)引用発明2に,周知技術Bを適用することにより,相違点7に係る本件発
明1の構成を,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
(イ)引用発明2は,バッグ本体1の内部に,チャックシール3とその下部側に
隔壁4を設け,隔壁4によって収容物を変質させることなく長期間保存するととも
に,使用時に,隔壁4を外部からの加圧により剥離し,チャックシール3を開放す
ることで,水等の供給作業を効率的に行うものである。そして,引用例2には,チ
ャックシール3に関して,水や温湯を供給するために必要に応じて開閉するもので
あるとの記載があるにとどまり(【0008】【0010】),チャックシール3
の開閉操作について解決すべき課題が存在することは何ら示唆されていない。そう
すると,当業者は,引用発明2に接したとしても,引用発明2のチャックシール3
に別の構成を組み合わせようとすることはないというべきである。
(ウ)引用発明2の液体収容バッグは,あらかじめ液体が収容されたもの,特に
濃縮液状の経腸栄養剤が収容された経腸栄養バッグに関するものであって,後に水
や湯温を加えて収容物を調整するものである。
これに対し,周知技術Bは,タンポン,生理用ナプキン,医療物品又はコンドー
ムなどの汚れた物品,DNA情報などを含む材料,食料品,ナットとボルト,小間
物物品などの多量の物品を収容し,これらを包装・保管するもの(甲8文献の訳文
1頁44行~2頁12行,別紙2引用例等図面目録甲8文献の図面),排泄物を密
閉状態で保持する屎尿容器に関するもの(甲9文献の訳文1頁7行~10行,同目
録甲9文献の図面),動脈グラフトの準備のために,動脈グラフトとして用いる多
孔質基材を収容した上で,血液を導入し,同基材を被覆するという包装体に関する
もの(甲10文献の訳文2頁23行~45行,同目録甲10文献の図面)である。
このように,引用発明2の液体収容バッグは,あらかじめ経腸栄養剤を収容し,
これに水等を加えて収容物を調整するものであるのに対し,周知技術Bの可撓性部
材は,収容物を包装・保管するものであって,作用機能が全く異なるものである。
なお,甲10文献に記載された可撓性部材も,収容物の分量を調整するために血液
が導入されるものではない。また,引用発明2の液体収容バッグにおいて,収容物
は下部の液体出口から取り出されるのに対し(引用例2の【図1】),周知技術B
の可撓性部材は収容物を包装・保管するものであるから,収容物は取り出されるこ
とを想定されない,又は上部の開口部から取り出される点においても,作用機能が
全く異なる。
さらに,引用発明2の液体収容バッグは,収容した液状物を患者に投与するとい
う医療の技術分野に関する袋であるのに対し,周知技術Bの可撓性部材は,収容物
を包装・保管する広範な技術分野に関する袋であって,技術分野の関連性が強いと
はいえない。なお,甲10文献に記載された技術事項のみを抽出すれば,医療の技
術分野という限度で技術分野の関連性はあるが,引用発明2の液体収容バッグは収
容物の投与時にそのまま利用されるのに対し,甲10文献の包装体は収容物の使用
時,すなわち動脈グラフトの使用時までの保管に利用されるにとどまり,利用され
る局面が異なるから,やはり技術分野の関連性が強いとはいえない。
そうすると,当業者は,引用発明2に,作用機能が全く異なり,技術分野の関連
性も強いとはいえない周知技術Bを組み合わせようと考えるものではない。
(エ)したがって,引用発明2に接した当業者は,そもそも,引用発明2のチャ
ックシール3に別の構成を組み合せようとする動機付けはなく,また,引用発明2
に周知技術Bを組み合わせようとする動機付けもないから,引用発明2に,周知技
術Bを適用することにより,相違点7に係る本件発明1の構成を,当業者が容易に
想到し得たということはできない。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,引用例2に接した当業者は,引用発明2の液体収容バッグにおけ
る,チャックの自閉問題を当然に認識する,また,汚染,開口の自由度などの開口
操作に関する課題を当然に認識するから,開口状態の維持や開口操作に関する技術
を転用しようとする旨主張する。
しかし,チャック式袋において,チャックシールの弾性復帰によって開口部が自
然に閉じるという問題の存することが,当業者にとって自明であったとしても,そ
の自閉の程度はチャックシールや袋の形状,大きさ,材質等によって異なるもので
ある。したがって,引用発明2の液体収容バッグにおいて,チャックシール3が水
や温湯の供給の妨げになる程度に自閉するものであると認めることはできない。そ
うすると,チャックシール3の自閉に関する記載のない引用例2に接した当業者が,
引用発明2にはチャックが自閉するという開口状態の維持に関する課題が存するこ
とを当然に認識できるものではない。
また,チャック式袋においては,指を開口部内に挿入する開口操作により手や収
容物に汚染を引き起こし,それを防ぐために開口部の左右辺から開口部を保持する
には開口部を小さくしなければならないという問題の存することが,当業者にとっ
て自明であったとしても,開口操作により手や収容物に汚染が生じるか否かは,開
口操作の方法に左右されるものである。また,引用例2には,バックを点滴スタン
ドから吊り下げて利用することもできることが記載されているところ(【0006】),
吊り下げた液体収容バッグを開口する際には,手や収容物に汚染が生じるおそれを
減少させることができる。そうすると,チャックシール3の開放操作に関する記載
のない引用例2に接した当業者が,引用発明2には,汚染や開口の自由度の制限な
どの開口操作に関する課題が存することを当然に認識できるものとはいえない。
このように,当業者は,引用例2にチャックシール3の開口状態の維持や開放操
作に関する記載がないにもかかわらず,引用発明2の液体収容バッグに開口状態の
維持や開口操作に関する課題が存在することを認識することはできないから,これ
に反する原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,引用発明2に周知技術Bを適用するに当たり,開閉操作部とは無
関係な内容物の相違,容量の細かな相違,ポートと目盛りの有無,使用態様などを
考慮する必要性はないと主張する。
しかし,周知技術Bは,可撓性部材の開閉操作部に関する技術的事項であったと
しても,周知技術Bの可撓性部材が用いられる袋の技術分野や作用機能を捨象して
容易想到性を論じることはできない。引用例4において,液体を入れる容器10は
様々な目的のために用いることができる旨記載されているとしても(引用例4の訳
文5頁19行~22行),引用例4に記載された容器10の具体的形状を捨象して,
チャック式袋から,開閉操作に係る技術のみを抽出できるものではない。そして,
引用発明2の液体収容バッグと周知技術Bの可撓性部材が用いられる袋の作用機能
が異なり,技術分野の関連性が強いとはいえないことは,前記イ(ウ)のとおりであ
る。引用発明2に周知技術Bを適用するに当たり,開閉操作部とは無関係な構成等
を考慮する必要性はないとの原告の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり,相違点7を容易に想到できないから,本件発明1は,引用発明2
に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。本
件発明3,5ないし7及び11ないし13についても同様である。
よって,取消事由4は理由がない。
6取消事由5(引用発明3に基づく進歩性判断の誤り)について
(1)引用発明3
引用例3(甲3)に,前記第2の3(4)アの引用発明3が記載されていることは,
当事者間に争いがない。そして,引用例3には,別紙2引用例等図面目録引用例3
のとおり,図面が記載されるとともに,引用発明3に関し,以下の点が開示されて
いるものと認められる。
ア引用発明3は,経管栄養法により栄養補給をする場合などに用いる栄養剤バ
ッグに関するものである。(【0001】)
イ従来広く使用されている栄養剤バッグは,チャックシール等の閉鎖部分の上
部の機密性や無菌性は必ずしも保証されていないという問題があった。(【000
8】)
ウ引用発明3は,必要時に,例えばバッグに栄養剤等を注入するまで,開口部
の無菌状態を維持し,かつ,容易に製造することができる栄養剤バッグを提供する
ことを目的とする。(【0010】)
エ引用発明3に係る栄養剤バッグは,バッグ本体1の上部にバッグ本体1を吊
り下げるための吊り下げ部(例えば吊り下げ穴3)を設けるとともに,収容室10
の上部にチャックシール等の閉鎖手段4を設け,その閉鎖手段4と吊り下げ部との
間に,閉鎖手段の開放操作用の開口部を形成するための開封手段5(オープンピー
ル機構)を設けたことを特徴とする。(【0011】【0016】【図1】)
開封手段5は,例えば,前側のシート材1aの背面側に上下一対のハーフカット
溝51・51を形成し,その両ハーフカット溝51・51間の帯状部分50を上記
ハーフカット溝51・51に沿って切除することによって,閉鎖手段4の上方の前
側のシート材1aにスリット状の開口部Sが形成されるように構成されている。そ
して,経管栄養法により患者等に栄養剤を供給するに当たっては,支持スタンド等
に栄養剤バッグを吊り下げ保持させた状態で,開封手段5により閉鎖手段4の上部
に開放操作用の開口部Sを形成し,その開口部Sから閉鎖手段4を開放し,開口部
Sから追加の栄養剤や水や温湯を注入する。(【0022】~【0024】【00
31】【0033】~【0035】【図1】【図2】)
オ引用発明3に係る栄養剤バッグは,開封手段5により閉鎖手段4の上部に開
口部Sを形成するまでは,閉鎖手段4の下側はもとより,上側も外気とはほぼ完全
に密閉した状態に保持されるから,閉鎖手段4を開く際に閉鎖手段4からバッグ本
体1の収容室10内に塵埃や細菌等が進入するのを未然に防止することができる。
(【0012】【0050】)
(2)本件発明1と引用発明3との対比
本件発明1と引用発明3との相違点は,前記第2の3(4)イの相違点8のとおりで
あることは,当事者間に争いがない。
(3)相違点8の容易想到性
ア周知技術Bの適用
(ア)引用発明3に,周知技術Bを適用することにより,相違点8に係る本件発
明1の構成を,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
(イ)引用発明3は,収容室10の上部にチャックシール等の閉鎖手段4を設け,
さらにその上部に開口部を形成するための開封手段5(オープンピール機構)を設
けることにより,開封時まで,閉鎖手段4の上部の無菌状態を維持するものである。
そして,引用例3には,閉鎖手段4に関して,その開閉操作の方法について説明が
されるにとどまり(【0022】~【0023】【0033】~【0036】),
閉鎖手段4の開閉操作そのものに解決すべき課題が存在することは何ら示唆されて
いない。そうすると,当業者は,引用発明3に接したとしても,引用発明3の閉鎖
手段4に別の構成を組み合わせたり,別の構成に置き換えたりしようとすることは
ないというべきである。
(ウ)引用発明3の栄養剤バッグは,経管栄養法により栄養補給をする場合など
に用いるものであるところ,前記5(3)イ(ウ)で説示したとおり,周知技術Bの可撓
性部材は,収容物を包装・保管するものであって,作用機能が全く異なるほか,収
容物を取り出すに当たっての作用機能も全く異なり,さらに,引用発明3の栄養剤
バッグと周知技術Bの可撓性部材とは,技術分野の関連性が強いとはいえない。
(エ)したがって,引用発明3に接した当業者は,そもそも,引用発明3の閉鎖
手段4に別の構成を付加・置換しようとすることはなく,また,引用発明3の閉鎖
手段4に周知技術Bを付加することも,引用発明3の閉鎖手段4を周知技術Bへと
置換することも考えるものではないから,引用発明3に,周知技術Bを適用するこ
とにより,相違点8に係る本件発明1の構成を,当業者が容易に想到し得たという
ことはできない。
イ原告の主張について
(ア)原告は,引用発明3の栄養剤バッグはチャックシールを有するから,引用
発明3には弾性による開口状態の維持に関する課題が内在する旨主張する。
しかし,チャック式袋において,チャックシールの弾性復帰によって開口部が自
然に閉じるという問題の存することが,当業者にとって自明であったとしても,そ
の自閉の程度はチャックシールや袋の形状,大きさ,材質等によって異なるもので
ある。また,引用例3には,引用発明3の栄養剤バッグは,支持スタンド等に吊り
下げ保持させた状態で,開口部Sを形成し,その開口部Sから閉鎖手段4を開放し,
追加の栄養剤等を注入するものであり,このような使用態様においては,チャック
シール等の閉鎖手段4が,その弾性復帰により自閉するか否かも明らかではない。
そうすると,チャックシール等の閉鎖手段4の自閉に関する記載のない引用例3に
接した当業者が,引用発明3には閉鎖手段4が自閉するという課題が存することを
当然に認識できるものではない。
したがって,当業者は,引用発明3には開口状態の維持に関する課題が存するこ
とを認識する旨の原告の主張は採用できない。
(イ)原告は,引用発明3に周知技術Bを適用するに当たり,開閉操作部とは無
関係な内容物の相違,容量の細かな相違,ポートと目盛りの有無,使用態様などを
考慮する必要性はないと主張する。しかし,前記5(3)ウ(イ)の説示と同様に,引用
発明3に周知技術Bを適用するに当たり,開閉操作部とは無関係な構成等を考慮す
る必要性はないとの原告の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり,相違点8を容易に想到できないから,本件発明1は,引用発明3
に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。本
件発明3,5ないし7及び11ないし13についても同様である。
よって,取消事由5は理由がない。
7取消事由6(引用発明4に基づく進歩性判断の誤り)について
(1)引用発明4
引用例4(甲14)に,前記第2の3(5)アの引用発明4が記載されていることは,
当事者間に争いがない。そして,引用例4には,別紙2引用例等図面目録引用例4
のとおり,図面が記載されるとともに,引用発明4に関し,以下の点が開示されて
いるものと認められる(摘示箇所は訳文による。)。
ア引用発明4は,液体を内部に蓄積させる可撓性の袋を有する,使い捨て型の
液体容器に関するものである。(1頁12行~15行)
イ従来の使い捨て型の液体容器は,容器内に液体が限界まで給液されたときの
液体の逆流の問題があった。(3頁19行~23行)
ウ引用発明4に係る液体容器10は,液体を内部に蓄積させる可撓性の袋12
と,袋12の上方端部に固定され,袋12の中に向かう液体の流入を制御するため
の一方向弁を画定する内側部材32とを含んでいる。(1頁12行~15行,3頁
23行~25行,【図1】)
液体容器10の袋12の下方端部又は底は,容器内の液体の放出を行えるように
放出用プラグ18を備えている。また,液体容器10において,袋12と内側部材
32を形成する材料は可撓性のプラスチックであり,液体容器10内に液体を導入
する際にこれらの口が倒れるのを防ぐために,袋12の口の近くに湾曲可能なワイ
ヤ素子48が固定されている。ワイヤ素子48は,弾性特性を有さない材料から形
成されており,圧力が取除かれた後も開口位置に留まる。そのため,利用者は袋の
上方端部を離間させる際に手で保持する必要がない。袋12の口と内側部材32を
閉口位置に移動するときは,ワイヤ素子48に対して有効な圧力を及ぼして,これ
らを閉口位置へと戻すようにする。(2頁49行~3頁1行,3頁45行~4頁1
5行,【図1】)
引用発明4にかかる液体容器10は,様々な目的のために用いることができ,例
えば,浣腸用の袋,バリウム投与装置,女性用の衛生用の袋,経胃栄養装置,経尿
道の準備,静脈内の供給装置,袋状の洗浄装置,蓄尿袋,液体保管袋及び他の同様
の装置を想定することができる。(5頁19行~22行)
(2)本件発明1と引用発明4との対比
本件発明1と引用発明4との相違点は,前記第2の3(5)イの相違点9及び10の
とおりであることは,当事者間に争いがない。
(3)相違点10の容易想到性
ア周知技術Bの適用
(ア)引用発明4に,周知技術Bを適用することにより,相違点10に係る本件
発明1の構成を,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
(イ)引用例4には,引用発明4の液体容器10においては,液体を導入する際
に,可撓性のプラスチックで形成された袋12及び内側部材32の口が倒れるとい
う課題があること,これを防ぐために,袋12の口の近くに,湾曲可能で弾性特性
を有さないワイヤ素子48を固定したこと,ワイヤ素子48は,圧力が取除かれた
後も開口位置に留まるから,開口状態を維持するために手で保持する必要がないこ
とがそれぞれ記載されている。
一方,周知技術Bの可撓性部材は,開口部の開口状態を維持できるようにするも
のであるが,開口状態を維持するためには開閉操作部に挿入した片手の指を開き続
けなければならないものである。
そうすると,当業者は,引用発明4の液体容器10には開口状態の維持に関する
課題があることを認識しても,かかる課題は,袋12の口の近くにワイヤ素子48
を固定することによって解決されているものと理解する。そして,一旦圧力を加え
て開口状態を作出すれば,その後圧力を取り除いても開口状態を維持できる引用発
明4のワイヤ素子48に換えて,開口状態を維持するために圧力を加え続けなけれ
ばならない周知技術Bの可撓性部材を適用することを考えないというべきである。
(ウ)したがって,引用発明4に接した当業者は,引用発明4のワイヤ素子48
を周知技術Bへと置換することを考えるものではないから,引用発明4に,周知技
術Bを適用することにより,相違点10に係る本件発明1の構成を,当業者が容易
に想到し得たということはできない。
イ原告の主張について
原告は,周知技術Bと引用発明4における「ワイヤ素子48」とは,技術分野,
課題及び機能作用が一致する旨主張する。
しかし,引用発明4のワイヤ素子48と周知技術Bとは,技術分野や課題,容易
に開口状態を作出できるという限度で機能作用が一致したとしても,前記ア(イ)の
とおり,前者を後者に置換することは,圧力を加え続けなくても開口状態を維持で
きるというワイヤ素子48が有する技術的意義を損なうものになる。原告の上記主
張は,相違点10に係る容易想到性の判断を左右するものにはならない。なお,原
告は,引用発明4のワイヤ素子48は閉口状態の維持を目的として設けられたもの
ではないと主張するが,ワイヤ素子48を周知技術Bに置換したときに損なわれる
のは,圧力を加え続けなくても開口状態を維持できるというワイヤ素子48の機能
作用であり,これは閉口状態の維持とは関係がないから,ワイヤ素子48が閉口状
態を維持する機能作用を有するか否かは結論に影響を及ぼすものではない。
(4)小括
以上のとおり,相違点10を容易に想到できないから,本件発明1は,引用発明
4に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
本件発明3,5ないし7及び11ないし13についても同様である。
よって,取消事由6は理由がない。
8結論
以上のとおり,取消事由はいずれも理由がない。原告の請求は棄却されるべきも
のである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官山門優
裁判官片瀬亮
別紙1
本件明細書図面目録
【図1】【図5】
【図27】【図28】
別紙2
引用例等図面目録
引用例1引用例2
【図1】【図1】
引用例3
【図1】【図2】
引用例4
【図1】
甲8文献甲9文献甲10文献
【図2】【図3】【図1】

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仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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