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平成13年(行ケ)第484号 審決取消請求事件
平成16年1月29日口頭弁論終結
判    決
原   告        株式会社オーレック
訴訟代理人弁理士     梶 原 克 彦
被   告        株式会社筑水キャニコム
訴訟代理人弁理士     綾 田 正 道
同            朝 倉   悟
主    文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が無効2000-35097号事件について平成13年9月26日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「乗用型草刈機のカッターの制動方法」とする特許第
2796956号の特許(平成4年12月29日出願の実願平4-93619号の
一部を新たな出願とし,これを更に特許出願に変更して,平成7年12月21日に
出願したもの(以下「本件出願」という。)。平成10年7月3日に特許権設定登
録。以下「本件特許」という。請求項の数は1である。)の特許権者である。
被告は,本件特許を無効にすることについて審判の請求をし,特許庁は,こ
れを,無効2000-35097号として審理した。原告はこの審理の過程で,本
件出願の願書に添付した明細書について,訂正を請求した(以下「本件訂正」とい
い,本件訂正に係る明細書を願書に添付した図面と併せて「本件明細書」とい
う。)。特許庁は,審理の結果,平成13年9月26日に,「訂正を認める。特許
第2796956号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審
決をし,同年10月9日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの。下線部が訂正部分である。
AないしJの符号は,審決が付したのに合わせて判決において付した。以下「本件
発明」という。)
A 車体側に設けてあり,水平方向に回転する駆動プーリと,
B 昇降する刈取部側に設けてあり,水平方向に回転する従動プーリと,
C 上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと,
D 上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し,上記車体下
方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と,
E 該刈取部を昇降させる昇降操作手段と,
F 上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と,
G ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める
制動手段と,
を有し,
H 刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カ
ッターの制動方法であって,
I 上記昇降操作手段を操作することにより,上記刈取部を垂直方向に上昇さ
せて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に,上記クラッチ
機構により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を「断」する作
動が行われ,かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して
該カッターの回転制動作動も行われるようにしたことを特徴とする,
J 乗用型草刈機のカッターの制動方法。
3 審決の理由
別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,その出願前
に頒布された米国特許第4934130号明細書(甲第5号証の1。同号証の2と
して提出されているのは,その訳文である。以下,審決と同じく「刊行物」とい
う。)に記載された発明(以下「刊行物発明」という。)であるから,特許法29
条1項3号に該当し,特許を受けることができない,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本件発明と刊行物発明との一致点及
び一応の相違点は,次のとおりである。
(一致点)
上記2のAないしFの点及び下記相違点を除くGないしJの点
(相違点)
(1) 上記2のG,Iのうち,本件発明の「制動手段」はブレーキシューが動
くことにより従動プーリ周面を押圧するのに対し,刊行物発明の「制動手段」は機
体に固定されたラバーブロックで従動プーリ側面を押圧している点(以下,審決と
同じく「相違点1」という。)
(2) 上記2のH,Jのうち,本件発明が,乗用型草刈機のカッターの制動方
法であるのに対し,刊行物発明は,方法ではない点(以下,審決と同じく「相違点
2」という。)
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件発明と刊行物発明との相違点を看過し,自らが一応のものとし
てであれ認定した,本件発明と刊行物発明との相違点についての判断を誤ったもの
であり,これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違
法として取り消されるべきである。
1 本件発明と刊行物発明との相違点の看過
審決は,「刊行物の「プーリ66」が本件発明の「従動プーリ」に,「ドロ
ー・バー38,三腕フォロア39,軸40,ヨーク41,パイプ42,43,アングルリンクア
ーム46,ドロー・バー47,レバー49」が「昇降手段」に,「カッタ・アタッチメン
ト11」が「刈取部」に,「バー又はハンドル19」が「昇降操作手段」に,「テンシ
ョンローラ56」が「クラッチ機構」に,「制動ラバー・ブロック67」が「制動手
段」に,それぞれ相当」(審決書10頁12行~18行)すると認定し,この認定
に基づき,本件発明と刊行物発明との一致点を認定した。しかし,審決が一致点認
定の基礎とした上記認定は誤りである。審決は,この誤りの結果,本件発明と刊行
物発明との次の相違点を看過した。
(1) 相違点の看過-1(配置位置の相違)
刊行物発明の「プーリ66」,「ドロー・バー38,三腕フォロア39,軸40,
ヨーク41,パイプ42,43,アングルリンクアーム46,ドロー・バー47,レバー
49」,「カッタ・アタッチメント11」及び「制動ラバー・ブロック67」は,いずれ
も車体の前方側に配置されているのに対し,本件発明の「従動プーリ」,「昇降操
作手段」,「刈取部」,「制動手段」は,いずれも車体の下方,すなわち前輪と後
輪との間に配置されている。両者は,配置された位置が異なる。
 本件発明の特許請求の範囲にいう,「車体下方に」とは,車体の前方や後
方とは異なり,車体の下方,即ち前輪と後輪との間である。このことは,本件明細
書の記載から明らかである。
本件発明は,上記の構成を有することにより,乗用草刈機をトラックの荷
台に立てかけられた傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上端部
で刈取部が接触し一人では載せることができない,という課題を解決するものであ
る。
 (2) 相違点の看過-2(本件発明の「刈取部」と刊行物発明の「カッタ・アタ
ッチメント11」との相違)
本件発明の「刈取部」は,カッター,ブレーキシューが動くことにより周
面を押圧される従動プーリ,及び,動くことによって従動プーリ周面を押圧するブ
レーキシューを有する。
これに対し,刊行物発明の「カッタ・アタッチメント11」には,ブレーキ
シューが動くことにより周面を押圧される従動プーリ,及び,動くことによって従
動プーリ周面を押圧するブレーキシューがない。
本件発明における「刈取部」は,制動手段を有している点において,刊行
物発明の「カッタ・アタッチメント11」と,相違する。
本件発明の「刈取部」が,制動手段を含んでいることは,本件明細書の記
載から明らかである。
(3) 相違点の看過-3(本件発明の「制動手段」と刊行物発明の「制動ラバー
ブロック67」との相違)
本件発明における「制動手段」は,ブレーキシューで従動プーリ周面を押
圧してカッターの回転を止めるものである。
これに対し,刊行物には,刊行物発明の「制動ラバーブロック67」につい
て,プーリ66に係合し,モア(mower,草刈機)が駆動されるときのがたつきと騒音
とが回避される,との記載があるにとどまり,「制動ラバーブロック67」が,係合
によって制動手段として作用する,との記載はない。刊行物発明の「制動ラバーブ
ロック67」は,「制動手段」には当たらない。
 (4) 相違点の看過-4(本件発明の「昇降操作手段」と刊行物発明の「バー又
はハンドル19」との相違)
本件発明の「昇降操作手段」は,単に「刈取部」を昇降させるだけのもの
ではない。その操作によって,「クラッチ機構」によるベルトの緊張力の緩和によ
りカッターへの駆動力を「断」にするとともにブレーキシューをも動かすための引
き金又は原因とすることもできるものである。
これに対し,刊行物発明の「バー又はハンドル19」は,その操作によっ
て,テンションローラによるカッターへの駆動力を「断」としたり,ブレーキシュ
ーを動かしたりするための,引き金又は原因とすることのできるようなものではな
い。刊行物には,テンションローラによってベルトにテンションを付与するカッタ
アタッチメントの作動に関する記載があるだけであり,テンションを付与しないこ
との記載も,カッターの制動に関する記載もない。
刊行物発明の「バー又はハンドル19」は,本件発明の「昇降操作手段」に
は当たらない。
 2 本件発明と刊行物発明との相違点についての判断の誤り
(1) 相違点1についての判断の誤り
審決は,本件発明と刊行物発明との相違点の一つ(本件発明の「制動手
段」はブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧するのに対し,刊行
物発明の「制動手段」は機体に固定されたラバーブロックで従動プーリ側面を押圧
している点。相違点1)について,実願昭61-100416号(実開昭63-9
823号)のマイクロフィルム(審判甲第2号証。本訴甲第7号証。以下,審決と
同じく「周知例1」という。)及び実願昭54-117373号(実開昭56-35
432号)のマイクロフィルム(本訴甲第8号証。以下,審決と同じく「周知例2」
という。)を根拠に,「移動農機において,「制動手段」がブレーキシューの動き
により従動プーリ周面を押圧するものは,周知慣用の技術にすぎない。・・・した
がって,(相違点1)に関し,本件発明は,刊行物発明において,制動手段を単に
周知慣用技術に転換したにすぎない。」と認定判断した(審決書10頁29行~1
1頁16行参照)。しかし,この認定判断は誤りである。
ア 周知例1には,「ブレーキパッド(27)はクラッチレバーの操作によって
作動するもの」が,周知例2には,「制動具(3)はテンションプーリーの操作と共有
する操作レバーによって行われるもの」がそれぞれ記載されているにすぎない。周
知例1,2中には,本件発明のように「ブレーキシューは昇降操作手段を操作する
ことによって作動する」ことについての記載はない。本件発明のブレーキシュー
は,昇降操作手段を操作することによって作動するものであるのに対して,周知例
1,2に記載されているブレーキパッド又は制動具は,いずれも,昇降操作手段を
操作することによって作動するものではない。昇降操作手段を操作することを引き
金又は原因としてブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して回転を止める制動手
段が作動するもの,すなわち,昇降操作手段と従動プーリ制動手段とを連動させた
ものが,周知慣用技術でないことは明らかである。相違点1に係る本件発明の構成
を,刊行物発明の制動手段を単に周知慣用技術に転換したものにすぎない,とした
審決の認定,判断は誤りである。
イ 刊行物には,ベルトがプーリから脱落するのを防止するとの作用効果の
記載はない。刊行物発明の制動手段を上記周知慣用技術に転換しても,本件発明の
構成は得られない。「本件発明は,刊行物記載の発明において,制動手段を単に周
知慣用技術に転換したにすぎない。」(審決書12頁23行~24行)との審決の
判断は,この点でも誤りである。
(2) 相違点2についての判断の誤り
審決は,本件発明と刊行物発明との相違点の一つ(本件発明が乗用型草刈
機のカッターの制動方法であるのに対し,刊行物発明は方法ではない点。相違点
2)について,「刊行物記載の発明は制動手段の具体的構成を除いて,本件発明と
同一の構成を有するのであるから,この点は,単なるカテゴリーの相違にすぎな
い。したがって,(相違点2)に関し,本件発明は刊行物記載の発明と実質的に異な
らない。」(審決書11頁19行~23行)と判断した。
しかしながら,本件発明と刊行物発明とが,同一構成を有するものではな
いことは,1(1)ないし(4)で述べたとおりである。刊行物には,テンションローラ
の「入り」の作動の記載があるのみで,クラッチ機構の「断」の作動とカッターの
回転制動についての記載は全くない。相違点2についての審決の上記判断が誤りで
あることは明らかである。
第4 被告の反論の要点
原告の主張は争う。
審決には,本件発明と刊行物発明との相違点の看過も,相違点についての判
断の誤りもない。審決が本件発明の新規性を否定したことは正当である。
第5 当裁判所の判断
 1 原告の主張1(相違点の看過)について
(1) 相違点の看過-1(配置位置の相違)について
原告は,本件発明の特許請求の範囲の「車体下方に」との記載は,車体の
前方や後方とは異なり,車体の下方における前輪と後輪との間を意味する,と主張
する。
しかしながら,特許請求の範囲に用いられている表現である,「車体下方
に」自体は,車体との間の高さの関係を特定するにとどまるものであって,車体の
前後方向,すなわち車体の進行方向との関係における位置関係を特定するものでな
いことが,明らかである。
原告は,本件明細書の記載(図面を含む。)を参酌するならば,「車体下
方に」は車体の下方における前輪と後輪との間を意味すると解すべきである,と主
張する。そこで,本件発明において,本件明細書の記載を参酌すべき事情が存在す
るか否かについてみる。
原告は,その主張の根拠として,本件発明が,その構成により,トラック
の荷台に立て掛けられた傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上
端部で刈取部が接触し一人では載せられない,という課題を解決するものであるこ
と,を挙げる。
本件明細書には,「【従来の技術とその課題】芝や草を刈るために乗用型
の草刈機が使用されている。従来の乗用型草刈機は刈取部が昇降できないか,昇降
できても昇降のストロークが少なかった。このためトラックの荷台に立てかけられ
た傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上端部で刈取部が接触し
一人では載せられない課題があった。」(甲第3号証の2・段落【0002】)と
して,原告主張のとおりの本件発明の課題が記載されている。
しかしながら,本件発明に上記課題があるからといって,そのことから,
直ちに,本件発明の特許請求の範囲の「車体下方に」は車体の下方における前輪と
後輪との間を意味する,との解釈を導くことはできない。上記課題は,「従動プー
リ」,「昇降操作手段」,「刈取部」,「制動手段」を車体の下方における前輪と
後輪との間に置く以外に解決できないことが,自明であった,と認めることはでき
ないからである。上記のような解釈を導くためには,本件明細書中にそのことが課
題を解決する手段であることを示す記載のあることが必要である。
本件明細書には,「この課題は刈取部の昇降ストロークを大きくすること
によって解決できる。」(甲第3号証の2・段落【0002】),「刈取部の上昇
時,つまり草刈機の移動時は危険防止や刃の破損を防止する為にカッターの回転を
制動する必要がある。その場合に刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動とカ
ッターの制動とを行うことができれば便利であるばかりでなく上記したようにベル
トがプーリから外れるのを防止することができる。」(同・段落【0005】),
「【発明の目的】そこで本発明の目的は,昇降操作手段を操作することにより,刈
取部を垂直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた
後に,クラッチ機構によりベルトの緊張力を緩和してカッターへの駆動力を「断」
する作動が行われ,かつ制動手段によりカッターの回転制動作動も行われるように
することにある。」(同・段落【0006】)との記載がある。
上に認定した記載の範囲でみる限り,本件明細書には,本件発明におい
て,原告主張の上記課題を解決する手段として,刈取部の昇降ストロークを大きく
すること,が記載されているにすぎず,刈取部を車体下方の前輪と後輪の間に配置
する,との解決手段は記載されていない。
本件明細書中には,実施例について,「フレーム1の中間部下側には刈取
部2が配設してある。」(甲第3号証の2・段落【0013】)との記載があり,
同記載と図1とによれば,本件発明の実施例として,「刈取部を車体下方の前輪と
後輪の間」とすることが示されているということができる。しかし,本件明細書中
には,本件発明が上記実施例に限られると解すべき根拠となる記載はない。
他にも,本件明細書中に,本件発明の特許請求の範囲にいう「車体下方
に」を,「車体下方の前輪と後輪の間」と限定して解すべき根拠となる記載は見当
たらない。
原告の主張は,採用することができない。
(2) 相違点の看過-2(本件発明の「刈取部」と刊行物発明の「カッタ・アタ
ッチメント11」との相違)について
原告は,本件発明の「刈取部」は,制動手段を含んでいる点において,刊
行物発明の「カッタ・アタッチメント」と相違する,と主張する。
本件発明の特許請求の範囲には,「刈取部」の構成について,「昇降する
刈取部に設けてあり,水平方向に回転する従動プーリと」,「上記従動プーリによ
って駆動されて回転するカッターを有し,上記車体下方に昇降手段を介して垂直方
向に昇降可能に設けてある刈取部と」との記載が,「制動手段」の構成について,
「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める制動手
段」との記載がそれぞれあるのみで,「刈取部」に「制動手段」が備えられてい
る,と限定して解し得る記載は存在しない。
原告は,本件明細書の記載を参酌するならば,本件発明の「刈取部」に制
動手段が含まれていると認めることができる,と主張する。
本件明細書には,図4に係る実施例として,カッターCが取付けられた垂
直軸50はカバー20と一体とされており,当該カバー20の上に設けられた支軸171周り
にブレーキシュー17が回動自在に備えられており,当該ブレーキシュー17が従動プ
ーリ51周面を押圧してブレーキを掛ける,という装置が記載されている(甲第3号
証の2,第4号証。)。この装置においては,刈取部に制動手段が含まれていると
いうことができる。
しかしながら,本件明細書中には,本件発明が上記実施例に限られると解
すべき根拠となる記載はない。上記の図4に示された刈取部に制動手段を含む構成
は,あくまで実施例における一形態にすぎないというべきである。
そうである以上,本件発明の「刈取部」と刊行物発明の「カッタ・アタッ
チメント」との間に,制動手段を含むか否かという相違がある,とすることはでき
ない。
原告の主張は,採用することができない。
(3) 相違点の看過-3(本件発明の「制動手段」と刊行物発明の「制動ラバー
ブロック67」との相違)
原告は,刊行物発明の「制動ラバーブロック67」は,制動手段として作用
するものではない,と主張する。
しかしながら,刊行物(甲第5号証の1)において,部材67は,「制動ラ
バーブロック(brakingrubberblocks)」と記載されているのであるから(下線は
判決の付したものである),制動手段として作用するものであることは明らかであ
る。
原告は,刊行物には,部材67につき,それがプーリに「係合す
る(engage)」との記載があるだけで,「制動する」との記載はない,と主張す
る。
しかしながら,刊行物発明の部材67が制動ラバーブロック(braking
rubberblocks)として記載されていることは前記のとおりである。同発明におい
て,部材67は,プーリと係合することによって制動する,と解するのが合理的であ
る。
刊行物中には,刊行物発明の「制動ラバーブロック67」について,プーリ
66に係合し,モアが駆動されるときのがたつきと騒音とが回避されるとの記載があ
る。しかしながら,「制動ラバーブロック67」ががたつきと騒音を防止する作用を
有することは,これが係合によって制動手段として作用することを妨げるものでは
ないことが明らかである。上記記載は,制動ラバーブロック(brakingrubber
blocks)67には,制動(braking)の作用があることを当然の前提にして,それ以
外にも上記の作用があることを述べたものと理解するのが合理的である。
他に,上記解釈と反対の解釈を採るべき事情は,本件全資料を検討しても
見いだせない。
原告の主張は採用することができない。
(4) 相違点の看過-4(本件発明の「昇降操作手段」と刊行物発明の「バー又
はハンドル19」との相違)について
原告は,刊行物には,テンションローラによってベルトにテンションを付
与するカッタアタッチメントの作動に関する記載があるだけであり,テンションを
付与しないことの記載も,カッターの制動に関する記載もない,刊行物には,バー
又はハンドル19が,その操作によって,テンションローラによるカッターへの駆動
力を「断」としたり,ブレーキシューを動かしたりする引き金又は原因となるとの
記載は全くない,と主張する。
しかしながら,刊行物(甲第5号証の1)には,「前記バー(判決注・バ
ー19)は,ドロー・バー38により,シャーシに回動可能に固定された軸40に接続さ
れた三腕フォロア39に連結されている。」(訳文(甲第5号証の2)3頁22行~
23行),「前記フォロアの第3アーム54は,前記駆動ユニットと前記カッタ・
アタッチメントとの間で移動するベルト(詳細には図示せず)に作用するべく,ド
ローバー55を介してテンションローラ56(図1)に接続されている。」(同4頁9
行~12行),「非作動位置に於いて,前記バー19は,ほぼ垂直であり,前記フッ
ク21はプレート25の歯23に係合している。・・・。前記バーが係合解除する時,カ
ッタ・アタッチメントの重量により前方に下がり,これによって,前記ドローバー
38は前記フォロアを図2に於いて時計回り(判決注・原文は「反時計回り」(co
unter-clockwise))方向に回動する。この移動により,前記レバ
ー49が外れ,図に於いて下方に移動可能となる。これにより,その前部が前記レバ
ー49のフォーク51上に載置された初期位置にある前記ヨーク41が,前記ローラ44が
地面に係合するまで,前記軸40回りで回動する。このバー19の更に前方への移動に
よって,前記レバー49とこれに固定されたカッタ・アタッチメントとが,前記フォ
ーク51が前記パイプ42の縦部分に沿って移動するのと同時に,前記リンクアーム
46,ドローバー47及びフォロア39の作用によって図中まっすぐ下方に移動される。
次に,このバーの下方移動は,前述したような方法で前記フック22によって停止さ
れる。もちろん,前記ヨーク41に直接に接続された前記ガード57は,上述した移動
に追従する。同時に,前記ドローバー55に接続されたテンションローラによってエ
ンジンとカッタ・アタッチメントとの間の前記ベルトにテンションが付与されてい
ることにより,カッタ・アタッチメントのベルト駆動装置(図示せず)が係合され
る。」(同5頁5行~31行)として,バー19がドロー・バー38,三腕フォロア
39,ドロー・バー55を介してテンションローラと接続関係にあること,昇降装置で
あるバーによりカッタ・アタッチメントを下降させる際に,ドローバーを介して接
続されたテンションローラが連動してベルトにテンションを付与して,カッターに
駆動力を付与すること,が記載されている。
確かに,刊行物には,昇降装置を上昇操作するときのテンションローラの
作動の内容について明示の記載はない。しかしながら,刊行物に,上記のとおり,
昇降装置によりカッタ・アタッチメントが下降する操作の際における昇降装置とテ
ンションローラとの連動が記載されている以上,明示の記載がなくとも,昇降装置
によりカッタ・アタッチメントを上昇させる操作の際には,逆の作動,すなわち,
昇降装置と連動したテンションローラの作動によって,ベルトにテンションを付与
しない状態を作出して,カッターへの駆動力の伝達を断とする作動が得られるもの
と理解するのが,合理的な解釈である(仮に,カッタ・アタッチメントを上昇させ
るための昇降装置の操作における連動状況が下降させるための操作におけるものか
ら通常予測されるところと異なる場合には,当然に,その異なることの記載,又
は,これを示唆する記載があるはずである。)。
上に述べたところによれば,刊行物発明は,昇降操作手段を操作すること
を引き金又は原因として,クラッチ機構と制動手段とが連動する構成を有すると認
められる。
原告は,刊行物発明は,昇降装置の操作によってブレーキシューを動かす
ものではない,とも主張する。しかしながら,原告の主張は,刊行物発明の制動ラ
バーブロックが本件発明における「制動手段」に相当しない,との前提に立つもの
である。この前提が誤りであることは,前記(3)で述べたところから明らかである。
原告の主張は,採用することができない。
2 原告の主張2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 相違点1についての判断の誤り,について
原告は,審決が本件発明と刊行物発明との相違点の一つ(本件発明の「制
動手段」はブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧するのに対し,
刊行物発明の「制動手段」は機体に固定されたラバーブロックで従動プーリ側面を
押圧している点。相違点1)について,周知例1及び周知例2を根拠に,相違点1
に関する本件発明の構成は,刊行物発明において,制動手段を単に周知慣用技術に
転換したにすぎない,と認定判断した(審決書10頁29行~11頁16行参照)
のは誤りである,と主張する。
ア 原告は,上記主張の根拠として,クラッチ機構とブレーキシューで従動
プーリ周面を押圧して回転を止める制動手段とが,昇降操作手段を操作することを
引き金又は原因として連動するものは,周知慣用技術ではない,と主張する。
しかしながら,審決は,クラッチ機構と制動手段とが昇降操作手段を操
作することを引き金又は原因として連動する構成を,本件発明と刊行物発明の一致
点として認定した上で(この一致点の認定に誤りのないことは,前記1(4)で説示し
たとおりである。),これを前提に,制動手段の具体的構成の相違を抽出し,この
相違点(相違点1)について判断するに当たり,ブレーキシューが動くことにより
従動プーリ周面を押圧する構成は,従動プーリ周面を押圧する制動手段の具体的構
成として周知慣用の技術であるとしたものであることが,審決の記載から明らかで
ある。
原告の主張は,審決の正しい理解に基づかないものであり,採用するこ
とができない。
イ 原告は,刊行物に,ベルトがプーリから脱落するのを防止するとの作用
効果の記載がないことを根拠として,刊行物発明において,制動手段を上記周知慣
用技術に転換しても,本件発明の構成は得られない,と主張する。
しかしながら,刊行物発明が,クラッチ機構と制動手段とが,昇降操作
手段の操作を引き金又は原因として,連動した構成を有することは,前記1(4)で説
示したとおりである。刊行物発明において,制動手段の具体的構成を本件発明の構
成とすることが周知慣用技術の転用にすぎず,刊行物発明と本件発明とは構成にお
いて実質的に同一であると解すべきことは,上記アで述べたところから明らかであ
る。刊行物発明の構成が本件発明の構成と同一である以上,刊行物に,刊行物発明
がベルトがプーリから脱落するのを防止するとの作用効果を有することが記載され
ているか否かは,本件の審理に関係のないことである。
原告の主張は採用することができない。
 (2) 相違点2についての判断の誤り,の主張について
原告は,審決が本件発明と刊行物発明との相違点の一つ(本件発明が乗用型
草刈機のカッターの制動方法であるのに対し,刊行物発明が方法ではない点。相違
点2)について,「刊行物記載の発明は制動手段の具体的構成を除いて,本件発明
と同一の構成を有するのであるから,この点は単なるカテゴリーの相違にすぎな
い。したがって,(相違点2)に関し,本件発明は刊行物記載の発明と実質的に異
ならない。」(審決書11頁19行~23行)と判断したのは,誤りである,と主
張する。
しかしながら,原告の上記主張は,本件発明と刊行物発明とが構成において
相違する,との主張を前提とするものである。この前提が誤りであることは前記1
で述べたとおりである。
原告の主張は,採用することができない。
第6 結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,
その他,審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請
求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法6
1条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官  山  下  和  明
裁判官  阿  部  正  幸
裁判官  高  瀬  順  久
 

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